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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L
管理番号 1276683
審判番号 不服2011-3050  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-09 
確定日 2013-07-10 
事件の表示 特願2007-530065「熱処理食品中のアクリルアミド形成を低減する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年3月9日国際公開、WO2006/026280、平成20年4月17日国内公表、特表2008-511325〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、2005年8月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2004年8月30日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし31に係る発明は、平成21年12月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし31に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明は次のとおりのものである。

「遊離アスパラギンおよび単糖を含有する加工食品の熱処理によって生じるアクリルアミドの量を低減する方法であって、
a)熱処理食品のためのデンプンベースの生地に第1のアクリルアミド低減化剤を添加する工程と、
b)該デンプンベースの生地に第2のアクリルアミド低減化剤を添加する工程とからなり、
前記第1のアクリルアミド低減化剤と前記第2のアクリルアミド低減化剤の組み合わせは、
CaCl_(2)とリン酸、または
CaCl_(2)とクエン酸、
のいずれかの組み合わせであることを特徴とする工程と、
c)該食品の水分含量が該食品全体の2重量%未満となるように該食品を熱処理する工程とを含む方法。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、刊行物1(原査定の引用文献4)、刊行物2(原査定の引用文献3)及び刊行物3(原査定の引用文献7)には下記の事項がそれぞれ記載されている。下線は当審で付した。

(1)刊行物1:米国特許出願公開第2004/0058045号明細書の記載事項の日本語訳(訳文は対応する特表2006-513730号によるが、クレーム1は当審訳である。また、段落番号も併せて付した。)
(1a)5頁右欄?6頁左欄クレーム1、10
「1.澱粉系原料を含む生地から製造され、加熱処理される食品中で生成するアクリルアミドのレベルを低下させる方法であって、
a)2以上の価数を有するカチオンを、加熱処理される加工食品の澱粉原料の生地に添加する工程と、
b)澱粉原料の生地を熱処理する熱処理する工程からなり、
前記カチオンは、加熱処理食品中の最終的なアクリルアミドのレベルを、減少させるに十分な量で添加される方法。
・・・
10.カチオン添加工程a)は、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、燐酸カルシウム、酢酸カルシウム、EDTAカルシウムナトリウム、グリセロ燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、ラクトビオン酸カルシウム、酸化カルシウム、プロピオン酸カルシウム、炭酸カルシウム、およびステアリル乳酸カルシウムから選択される塩の成分としてカルシウムイオンを前記澱粉系生地に添加する請求項1に記載の方法。」

(1b)1頁[0002]?[0003]
「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理食品中のアクリルアミドの量を減少させる方法に関する。本発明によって、アクリルアミドのレベルが有意に減少された食品の製造が可能となる。本発明の方法は、カルシウム、マグネシウム、銅、鉄、亜鉛、またはアルミニウムの塩に見られるような2価または3価のカチオンを、食品の生地処方へ添加することによる。」

(1c)1頁[0007]
「【0004】
現在のところ、アミノ酸および還元糖の存在によってアクリルアミドが形成されると考えられている。例えば、揚げた食料品で検出されるアクリルアミドの大部分は、未加工の野菜類で一般に検出されるアミノ酸である遊離のアスパラギンと、遊離の還元糖との間の反応によると考えられている。検出される遊離アミノ酸全体に対してアスパラギンは、未加工のポテトでは約40%、高タンパク質のライ麦では約18%、および小麦では約14%を占める。」

(1d)1頁[0010]
「【0007】
メイラード反応には、多数の中間体を伴う一連の複雑な反応が含まれるが、一般的には3つのステップを含むものとして説明可能である。メイラード反応の第1のステップには、遊離のアミノ基(遊離アミノ酸、タンパク質、またはその両方から)と還元糖(グルコースなど)との化合による、アマドリ(Amadori)またはヘインズ(Heyns)転位生成物の形成が含まれる。・・・アクリルアミド形成の有り得る経路としてメイラード反応を用い、図1に、アスパラギンおよびグルコースから開始するアクリルアミド形成の推定経路を簡約化して示す。」

(1e)2頁[0014]?[0015]
「【0011】
本発明のプロセスでは、2価または3価のカチオン若しくはそのようなカチオンの組合せを調理工程前に加工食品に添加して、アクリルアミドの形成を減少させる。2価または3価のカチオンが食料品中の随所に存在するように、製粉、ドライミックス、ウェットミックス、または他の混合の間に、それらのカチオンを添加することが可能である。好適な実施態様では、添加するカチオンは、カルシウム、マグネシウム、およびアルミニウムの塩から成る群から選択可能であり、鉄、亜鉛、および銅の塩から選択することも可能である。カチオンは、最終製品におけるアクリルアミド形成を所望のレベルまで減少させるために充分な量で、生地に添加される。
【0012】
2価または3価のカチオンの添加によって、最終製品の品質および特性には極小の影響しか与えずに、加熱食品または熱処理食品の最終製品中に検出されるアクリルアミドの量が効果的に減少する。さらに、そのようなアクリルアミド減少方法は、一般に実施が容易であり、プロセス全体に追加のコストをほとんどまたは全く要しない。」

(1f)3頁[0036]?[0037]
「【0028】
実施例3:
上述のように、この試験は容器から水を損なうことなく圧力下で行った。2mLの原料バッファ溶液(15mmol/Lのアスパラギン、15mmol/Lのグルコース、500mmol/Lの燐酸塩または酢酸塩)および0.1mLの塩の溶液(1000mmol/L)の入ったバイアルを、20℃/分で40℃?150℃まで昇温および150℃で2分間保持とするようにプログラムしたGCオーブン内に配置した、パー社製のボンベ容器(Parr bomb)中で加熱した。ボンベ容器をオーブンから取除き、10分間、冷却した。内容物を水で抽出し、続いてGC-MS法でアクリルアミドを分析した。pHおよびバッファの各々の組合せに対して、3つの異なる塩を添加したものに加えて、塩を添加しない対照を試験した。以下の表3に再現試験の結果を平均化して要約する。
【0029】
【表3】


【0030】
用いた3つの塩を通じて、pH7の酢酸塩およびpH5.5の燐酸塩において、最大の減少が生じた。pH5.5の酢酸塩およびpH7の燐酸塩においては、わずかな減少が検出されたのみであった。」

(1g)4頁[0038]?[0043]
「【0031】
実施例4:
モデル系での結果に続いて、加熱前のポテトフレークに塩化カルシウムを添加した、小規模の研究室試験を行った。3mLの0.4%、2%、または10%塩化カルシウム溶液を、3gのポテトフレークに添加した。対照は、3mLの脱イオン化水と混合した3gのポテトフレークである。ポテトフレークを混合して比較的均一なペーストを形成し、続いて、密閉したガラス製バイアル中にて、120度で40分間、加熱した。加熱後にGC-MSでアクリルアミドを測定した。加熱前、対照のポテトフレークは46ppbのアクリルアミドを含有していた。試験結果を以下の表4に示す。
【0032】
【表4】


【0033】
上述の結果を受けて、加工スナック食品の処方、この場合には焼成加工ポテトチップの処方にカルシウム塩を添加した試験を実施した。焼成加工ポテトチップを製造するプロセスは、図3に示す工程から成る。生地調製工程31では、ポテトフレークを、水、カチオン/アニオン対(この場合には、塩化カルシウム)、および他の小成分と組合わせ、徹底的に混合して生地を作成する(ここでも、「ポテトフレーク」の語は本明細書では交換可能に用いられ、粒子のサイズにかかわらず、全ての乾燥フレーク、ポテトグラニュール、または粉体調製物を包含することが意図される)。伸展/切断工程32では、生地を伸展機に通すことによって、生地を平らに延ばし、続いて別々の断片に切断する。調理工程33では、形成した断片を指定の色調および水分量に達するまで調理する。得られたチップを続いて調味工程34にて調味し、包装工程35にて包装する。
【0034】
本発明の第1の実施態様は、上述の、焼成加工ポテトチップのプロセスを用いることによって実施される。この実施態様を説明するために、市販の焼成加工ポテトチップの生地処方およびプロセスを用いて、対照と試験バッチとの間の比較を行った。試験バッチおよび対照バッチの両方を、表5に挙げる処方に従って作成した。バッチ間の差は、試験バッチが塩化カルシウムを含有することのみであった。
【0035】
【表5】


【0036】
全てのバッチにおいて、乾燥成分を最初に混合してから、各乾燥ブレンドにオイルを添加し、混合した。塩化カルシウムは生地に添加する前に水に溶解した。伸展前の生地の湿分レベルは、重量で40%?45%であった。生地を伸展して、約0.508mm?約0.762mm(0.020?0.030インチ)の厚さとし、チップ・サイズの断片に切断し、焼成した。
【0037】
調理後、湿分、油分、およびハンターLAB表色系(Hunter L-A-B Scale)による色調の試験を行った。標本を試験して、最終製品におけるアクリルアミドのレベルを得た。以下の表6には、この分析の結果を示す。
【0038】
【表6】


【0039】
この結果が示すように、ポテトフレークに対する塩化カルシウムの比が重量で概ね1:125となるように塩化カルシウムを生地に添加することによって、最終製品に存在するアクリルアミドのレベルは有意に低下し、最終のアクリルアミドのレベルが1030ppbから160ppbまで低下した。加えて、最終の製品における油分および水の百分率は、塩化カルシウムの添加による影響を受けないように見える。しかしながら、CaCl_(2)を用いる量によっては、製品の味、食感、および色調に変化が生じ得る。」

(1h)5頁[0049]
「【0046】
1つ以上の実施態様を参照して本発明を詳細に示し説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、熱処理食品中のアクリルアミドの減少に対して種々のアプローチがなされ得ることは、当業者には理解されるであろう。例えば、ポテト製品に関するプロセスを本明細書で開示したが、コーン、大麦、小麦、ライ麦、米、オート麦、雑穀、および他の澱粉系の穀物から製造される食料品の処理においても、本発明のプロセスを用いることが可能である。加工ポテトチップに加えて、コーンチップおよび他の種類のスナックチップや、シリアル、クッキー、クラッカー、ハード・プレッツェル、パン類、およびパン粉を塗した食肉用のパン粉、並びにアスパラギンおよび還元糖を含有する他の食品の製造において、本発明を用いることが可能である。それらの食品の各々では、製品の製造に用いられる生地の混合中にカチオンを添加することが可能であり、カチオンは調理中に利用可能となって、アクリルアミドのレベルを減少させる。さらに、2価または3価のカチオンの添加はアクリルアミドを減少させる他の戦略と併用可能であり、個々の食品の味、色調、香味、または他の特性に不利な影響を与えることなく、許容可能なアクリルアミドのレベルを与える。」

(2)刊行物2:米国特許出願公開第2004/0166210号明細書の記載事項の日本語訳(訳文は対応する特表2006-515181号の記載により、段落番号も併せて付した。)
(2a)10頁右欄?11頁左欄クレーム1、14、17、21
「【請求項1】
熱処理食品におけるアクリルアミド形成を減少させる方法において、
a)調理工程前の湿分レベルが4重量%以上の食品を準備する食品準備工程と、
b)アクリルアミド濃度が減少され、かつ湿分レベルが3重量%未満である調理された食品を形成するように食品を調理する調理工程と、
調理工程は食品の湿分レベルが約3重量%未満である間に約120℃より低い温度で加熱する低温加熱工程を含むこととから成る方法。
・・・
【請求項14】
食品準備工程a)は食品を水溶液と接触させる水溶液接触工程をさらに含む請求項1に記載の方法。
・・・
【請求項17】
水溶液接触工程は塩化カルシウム水溶液を用いて実施される請求項14に記載の方法。
・・・
【請求項21】
調理工程b)は約1.4重量%の湿分含量に食品を完成させる食品完成工程をさらに含む請求項1に記載の方法。」

(2b)1頁[0002]
「【0001】
本発明は、熱処理食品中のアクリルアミドの量を減少させる方法に関する。本発明によって、アクリルアミドのレベルが有意に減少された食品の製造が可能となる。本発明の方法は、製品品質を保持すると同時に、完成した製品で検出されるアクリルアミドの量を調整するように、種々の単位操作のパラメータを変更することによる。」

(2c)2頁[0016]
「【0014】
本発明は、熱処理食料品中のアクリルアミドの量を減少させる方法に関する。一実施態様では、本発明の方法は、剥皮およびスライスした未加工ポテトを連続投入する工程と、未加工ポテトスライス中のアクリルアミド前駆体の量を減少させるため、連続投入した未加工ポテトスライスを約60℃(140°F)の水溶液と約5分間、接触させる工程とから成る。別の実施態様では、本発明の方法は、剥皮およびスライスした未加工ポテトを連続投入する工程と、湿分含量が重量で約3?10%に減少するまで、未加工ポテトスライスを約171℃?約182℃(340?360°F)で半揚げする工程と、続いて、さらに湿分含量が重量で約1?2%に減少するまで、半揚げしたポテトスライスを約120℃(250°F)未満でオーブン乾燥する工程とから成る。別の実施態様では、本発明の方法は、連続投入した未加工ポテトスライスを約60℃(140°F)の水溶液と接触させる工程に続いて、湿分含量が重量で約3?10%に減少するまで、接触させた未加工ポテトスライスを約171℃?約182℃(340?360°F)で半揚げする工程と、続いて、さらに湿分含量が重量で約1?2%に減少するまで、半揚げしたポテトスライスを約120℃(250°F)未満でオーブン乾燥する工程とから成る。他の実施態様には、連続投入される剥皮およびスライスしたポテトを接触させる工程および調理する工程や、種々の他の単位操作を調整するための、種々の方法の異なる組合せが含まれる。それらの単位操作を調整することによって、アクリルアミド形成に最適な条件を作り出すことを回避し、熱処理食料品におけるアクリルアミド形成を減少させることが可能である。」

(2d)5頁?6頁[0049]?[0050]
「【0035】
図5,6によって明らかとなるのは、典型的な揚げ器で調理したポテトチップのアクリルアミドレベルは、湿分レベルが重量で3%未満に低下すると非常に劇的に増大することであり、その点では、製品温度をアクリルアミド形成温度より低く保つために充分なだけの湿分が残されていないと思われる。例えば、図5では、調理単位操作中のチップの湿分レベルが重量で3%以上の場合、高温の調理環境への曝露にかかわらず、最終製品で検出されるアクリルアミドのレベルは比較的低いことが示される。図5,6では、湿分レベルが、最終製品におけるアクリルアミド形成を減少させるために調節可能な、単位操作における有用な追加のパラメータであることが示されている。
【0036】
残念なことに、完成したポテトチップの湿分レベルは、典型的には約2%未満であり、好適には約1.3?1.4%である。2%より高い場合や、時には1.4%より高い場合さえも、包装された製品における老化および微生物腐敗の問題や、例えば、味、食感など感覚器を刺激する結果を引起こし得る。しかしながら、最終製品の色調、味、および堅さ(consistency)における変化は、種々の手段によって調節可能である。さらに、より高い湿分含量で食料品を完成させるという結果は、揚げ器の覆い(hood)の拡張、包装機への運搬装置を覆うこと、工場設備環境の除湿など包装前の工程における種々の因子と、包装材料、フィルム、バッグ、および封など包装工程における種々の因子とを調節することによって、相殺することが可能な場合がある。したがって、本発明で開示の、熱処理食品におけるアクリルアミド形成を減少させる方法の別の実施態様によるさらなる単位操作には、一定の湿分含量、例えば、重量で約1.4%、重量で約1.6%、重量で約1.8%、および重量で約2%、または1.4%?2%の間の任意の重量湿分%で最終の調理工程から現れるように食料品を完成させる工程が含まれる。」

(2e)「図5



(2f)6頁[0053]
「【0039】
その結果、本発明の一要素には、調理単位操作(図2に示した第4の単位操作24)を2つ以上の別個の加熱工程に分けることが含まれる。第1の加熱工程は、湿分レベルを重量で約3%近傍但し約3%より高い点まで減少させるため、高い温度で行われる。続いて製品は、約120℃(250°F)未満の温度を有する低温調理工程によって、重量で約1?2%の所望の湿分レベル、好適には重量で約1.4%の湿分レベルに完成される。しかしながら、本明細書に記載のプロセス修正は、図2における開示などポテトスライスを調理する従来技術のプロセスに限定されない。それらの修正は、ポテト、コーン、小麦、ライ麦、米、オート麦、雑穀、および他の澱粉系穀物に由来の加工製品を製造するプロセスにも適用可能である。例えば、これらのプロセス修正は、少し例を挙げると、加工ポテトおよびコーン製品、シリアル、クッキー、クラッカー、ハード・プレッツェル、およびパン類などにおいて、アクリルアミド形成を減少させるために用いることが可能である。「修正調理工程(modified cooking step)」および「修正調理単位操作(modified cooking unit operation)」の語は、ポテトスライスを調理する図2の従来技術の方法のみを含むのではなく、アクリルアミド形成を減少させることが望まれる他の食料品を調製する従来技術の方法をも含む意味であることを述べておく。さらに、「ポテト系小片(potato-based pieces)」は、ポテト澱粉または生地に由来の未加工ポテトスライスおよび加工ポテト小片の両方を含む意味であることを述べておく。」

(2g)7頁[0056]?[0058]
「【0042】
図7aには、接触工程を含む修正洗浄工程の幾つかの異なる実施態様を、修正調理工程の特定の一実施態様と組合わせて製造し、得られたポテトチップのアクリルアミドのレベルを示す。図7aの修正調理工程は、第1の加熱工程において約1?3分間、約178℃(353°F)でポテトスライスを部分的に揚げる(「半揚げ」)工程と、続いて第2の加熱工程において、湿分含量が重量で約1.3%に減少するまで約120℃(250°F)でポテトスライスをオーブン乾燥する工程とから成る。半揚げ工程および続くオーブン乾燥工程の利点は、アクリルアミド形成に最適な低湿/高温条件を回避すると同時に、感覚器刺激では従来の揚げた製品と同様である最終製品を製造可能なことである。しかしながら、徹底的にオーブン乾燥すると製品に乾いた口当たりを与える場合があり、隠すことが困難な焦げを製品に生じる場合もある。
【0043】
図7aのグラフの垂直軸すなわちy軸にはアクリルアミド濃度をppbで示し、水平軸すなわちx軸には、ポテトスライスを水溶液と接触させる工程を含む修正洗浄工程の各々の実施態様のパラメータを示した。データ点毎に1対の縦棒を示した。左の棒は接触工程および半揚げ工程後のアクリルアミド濃度を示し、右の棒はオーブン乾燥工程後のアクリルアミド濃度を示す。左から右へ読むと、図7aの第1のデータ点71は、図3,4におけるのと同じように、2?3分間の雰囲気温度での水洗浄の後、続いて湿分が重量で約1.3%になるまで大気圧で揚げた標準サンプルを含む。第2のデータ点72は、湿分が約1.0%になるまで揚げた以外は第1のサンプルと同様である。第1および第2のサンプル71,72は、それぞれ約320ppb、約630ppbのアクリルアミドを形成したことを述べておく。第3のデータ点73は、同じく2?3分間の雰囲気温度の水洗浄を含むが、続いてサンプルを3%よりわずかに高い湿分まで半揚げし、約1.3%の湿分までオーブン乾燥した。左右の棒は、半揚げ工程終わりのアクリルアミド濃度が約65ppbと比較的低く、オーブン乾燥工程では15ppb未満しか増加しないことを示している。第4のデータ点74は、ポテトスライスを5分の接触時間の間、約60℃(140°F)で水を含む水溶液と接触させる接触工程に続き、半揚げ工程およびオーブン乾燥工程の修正調理単位操作を含む。半揚げ工程およびオーブン乾燥工程と組合せられた、この5分間、約60℃(140°F)の接触によって、最終のアクリルアミド濃度は、さらに40ppb未満にまで低下する。
【0044】
塩化カルシウム溶液と接触させたサンプル75,76,77では全て、5分間、約60℃(140°F)で純水と接触させたサンプル74で生成されるよりも高いレベルのアクリルアミドが生成された。しかしながら、そうしたサンプルの全てにおいて最終のアクリルアミドのレベルは依然として80ppb未満であり、これは標準サンプルの320ppbよりも有意に低い。」

(2h)「図7a



(2i)第10頁[0073]
「【0058】
本発明では、最終製品において所望のアミノ酸のレベルを達成するための種々の単位操作の調整に関する本明細書中の教示と、所望の最終製品特性とを組合わせることが企図される。本明細書の教示に準じ、当業者は、開始製品および所望の最終製品に応じて用いられる組合せを調節することが可能である。アクリルアミド形成に対するpHの効果を、本明細書の教示と共に考慮し組合わせてもよい。」

(2j)10頁[0075]
「【0060】
1つ以上の実施態様を参照して本発明を詳細に示し説明してきたが、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、熱処理食品中のアクリルアミドの減少に対して種々のアプローチがなされ得ることは、当業者には理解されるであろう。例えば、ポテト製品に関するプロセスを本明細書で開示したが、コーン、大麦、小麦、ライ麦、米、オート麦、雑穀、および他の澱粉系の穀物から製造される食料品の処理においても、本発明のプロセスを用いることが可能である。ポテトチップに加えて、コーンチップおよび他の種類のスナックチップや、シリアル、クッキー、クラッカー、ハード・プレッツェル、パン類、およびパン粉を塗した食肉用のパン粉において、本発明を用いることが可能である。それらの食品の各々では、1つ以上の単位操作を調整する本発明の方法は、アクリルアミドを減少させる他の戦略と併用可能であり、個々の食品の味、色調、香味、または他の特性に不利な影響を与えることなく、許容可能なアクリルアミドのレベルを与える。」

(3)刊行物3:国際公開第2004/060078号の記載事項の当審訳
(3a)フロントページ要約欄
「本発明は、求核性α-アミノ基(-NH_(2))をプロトン化し,非求核性アミン(-NH^(3+))に転換することよりなる、アクリルアミド形成の減少方法に関する。本発明方法は、pH低下剤の簡単な処理によりアクリルアミドの生成を多いに減少させるという効果を有する。特に、食品及び食品材料に適用したとき、本発明方法は、食品及び食品材料の香り及び色に影響することなくアクリルアミドの形成を多いに減少させるという効果がある。」

(3b)8頁1行?23行
「本発明で使用されるpH低下剤の例は、有機酸及びその塩、有機酸及びその塩を含有する緩衝液、無機酸及びその塩、無機酸及びその塩を含有する緩衝液、果汁及びこれらの混合物である。有機酸の例として、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸及びアジピン酸が挙げられる。望ましくは、本発明においてクエン酸が用いられる。無機酸の例として、リン酸、塩酸、硫酸及びピロリン酸が挙げられる。無機酸の塩の例として、リン酸一ナトリウム及びリン酸一カリウムが挙げられる。クエン酸-クエン酸ナトリウム緩衝液又はクエン酸-リン酸ナトリウム緩衝液が有機酸又はその塩を含有する緩衝液として使用され得る。リン酸ナトリウム又はリン酸カリウム緩衝液は、無機酸又はその塩を含有する緩衝液として使用され得る。果汁の例として、高い有機酸含量である、レモン-、プラム-、オレンジ-、アプリコット-,シトロン-及びライム汁が挙げられる。さらなる本発明で使用されるpH低下剤の例として、例えば、韓国食品医薬品局(KFDA)又は米国食品医薬品局(FDA)で食品添加物として使用される世界的に食品に関連して投与が認められている各種の有機酸、無機酸、それらの塩、及びそれらの酸又は塩を含有する緩衝液が挙げられる。
本発明の一態様は、500mlの0.1%又は0.2%クエン酸溶液を,コーンチップの原料としての挽き割りトウモロコシに添加し、挽き割りトウモロコシのpHを低下させた。」

3 対比・判断
刊行物1(上記(1g))には、2価以上のカチオンとして、塩化カルシウムを用いた実施例が記載されているから、刊行物1の記載事項(特に(1a)(1g))から、刊行物1には、
「澱粉系原料を含む生地から製造され、加熱処理される食品中で生成するアクリルアミドのレベルを低下させる方法であって、
a)2以上の価数を有するカチオンとして塩化カルシウムを、加熱処理される加工食品の澱粉原料の生地に添加する工程と、
b)澱粉原料の生地を熱処理する熱処理する工程からなり、
塩化カルシウムは、加熱処理食品中の最終的なアクリルアミドのレベルを、低下させるに十分な量で添加される方法」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「澱粉系原料を含む生地」は、本願発明の「デンプンベースの生地」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「澱粉系原料を含む生地から製造され、加熱処理される食品」は、刊行物1発明は、アクリルアミドのレベルを低下させる方法であり、刊行物1には、アクリルアミドは、遊離アスパラギンと還元糖(グルコース)との反応により生成されることが記載(上記(1c)(1d))されていることから、上記食品は、遊離アスパラギンとグルコース、つまり単糖を含有しているといえる。そして、本願発明の「遊離アスパラギンおよび単糖を含有する加工食品」は、「デンプンベースの生地」から製造されることは明らかであるから、刊行物1発明の「澱粉系原料を含む生地から製造され、加熱処理される食品」は、本願発明の「遊離アスパラギンおよび単糖を含有する加工食品」に相当する。
(ウ)刊行物1発明の「アクリルアミドのレベルを低下させる方法」は、本願発明の「アクリルアミドの量を低減する方法」に相当する。
(エ)刊行物1発明の「塩化カルシウム」は、前記食品のアクリルアミドの最終的なレベルを減少させるために添加するものであるから、アクリルアミド低減剤といえるものである。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
遊離アスパラギンおよび単糖を含有する加工食品の熱処理によって生じるアクリルアミドの量を低減する方法であって、熱処理食品のためのデンプンベースの生地にアクリルアミド低減化剤として、CaCl_(2)を添加する工程と、該食品を熱処理する工程とを含む方法である点。

(相違点1)
本願発明は、アクリルアミド低減化剤として、さらにリン酸またはクエン酸を添加する工程を有するのに対して、刊行物1発明は、リン酸またはクエン酸を添加しない点。

(相違点2)
食品の加熱処理が、本願発明では、水分含量が該食品全体の2重量%未満となるように行うのに対して、刊行物1発明では、加熱処理された食品の水分含有量を特定していない点。

そこで、上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
本願発明の「第1のアクリルアミド低減化剤を添加する工程」と「第2のアクリルアミド低減化剤を添加する工程」の前後関係について、「第1のアクリルアミド低減化剤と前記第2のアクリルアミド低減化剤の組み合わせは、CaCl_(2)とリン酸、またはCaCl_(2)とクエン酸」とされているものの、第1及び第2のアクリルアミド低減剤をそれぞれ特定しているともいえない。しかしながら、まずCaCl_(2)を添加し、続いてリン酸またはクエン酸を添加するというように、添加順を規定しているようにも解釈できるため、明細書の記載を参酌すると、添加順について特段の記載はなく、段落【0076】には、「酸の存在下での塩化カルシウムの添加について検討」、段落【0078】には、「ジャガイモ生地への添加剤として塩化カルシウムとリン酸を用い」と記載され、上記のような添加順を意図していないことから、上記2つの工程は、同時或いは順序を問わないものといえる。
そして、刊行物1(上記(1f))には、実験系であり生地ではないものの、アスパラギン、グルコース及び燐酸塩バッファ溶液と、塩化カルシウム等3種類の塩の水溶液を混合して加熱処理した結果、3種類の塩を通じて、pH5.5の燐酸塩において、アクリルアミドの最大の減少が生じたことが記載されている。
さらに、刊行物3には、クエン酸及びその塩、リン酸及びその塩等のpH低下剤の処理により、コーンチップ等のアクリルアミドの生成を減少させることが記載されており(上記(3a)(3b))、塩だけでなく遊離のリン酸やクエン酸もpH低下剤として用いることができることが記載されているから、刊行物1発明において、アクリルアミドをさらに低減させることを目指して、塩に限らず、遊離のリン酸またはクエン酸を添加することは、当業者が容易になし得たことといえる。
また、本願発明が、CaCl_(2)、リン酸の順に添加するとしても、加熱処理時にCaCl_(2)が含有され、pHが低下していれば効果があるといえるから、刊行物1発明において、リン酸またはクエン酸を添加する時期を、塩化カルシウムを添加した後とすることは、当業者が適宜になし得ることである。

(相違点2について)
刊行物2には、ポテトチップスのアクリルアミドレベルが、湿分が3重量%未満となると劇的に増大してしまうが、典型的なポテトチップスの湿分レベルは2%未満であることが記載されている(上記(2d))。そして、ポテトチップス等の食品の加熱調理工程前に、塩化カルシウム水溶液に接触させることで、加熱調理で食品の湿分含量を重量で約1?2%に減少させても、加熱処理食品のアクリルアミド形成を減少させることができることが記載されている(上記(2a)(2c)(2d)(2e)(2f)(2g)(2h))。さらに、アクリルアミドを低減させる他の戦略と併用できること(上記(2j)、pHの効果を考慮して組み合わせてもよいこと(上記(2i))が記載されている。
そうすると、ポテトチップス等の食品の生地に塩化カルシウムを添加して、アクリルアミドのレベルを低下させることができる刊行物1発明において、加熱処理後の食品、例えばポテトチップスに求められる水分含有量2%未満となるように加熱を行うことは、当業者が容易になし得たことといえる。

(本願発明の効果について)
水分含有量が食品全体の2重量%未満としても、アクリルアミドレベルを低下できるという本願明細書記載の効果は、刊行物1ないし3の記載事項から予測し得るものであり、格別顕著なものとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、刊行物1ないし3記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2013-02-05 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2007-530065(P2007-530065)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一引地 進  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 関 美祝
菅野 智子
発明の名称 熱処理食品中のアクリルアミド形成を低減する方法  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  
代理人 恩田 博宣  

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