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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10G
管理番号 1276720
審判番号 不服2011-304  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-01-06 
確定日 2013-07-08 
事件の表示 特願2006-530221「ガソリンの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成16年12月 9日国際公開、WO2004/106462、平成18年12月28日国内公表、特表2006-528992〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯
この出願は、2004年5月26日(パリ優先権による優先権主張:2003年5月27日 欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成17年11月16日に特許協力条約第34条に基づく補正書の翻訳文が提出され、平成22年2月16日付けの拒絶理由通知に対して同年7月23日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月13日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成23年1月6日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、同年3月9日に審判請求書の手続補正書が提出され、当審において平成24年5月10日付けで審尋がされ、同年12月5日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項3に係る発明は、平成23年1月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)であると認められる。

「コバルト触媒を用いてフィッシャー・トロプシュ反応を行って、フィッシャー・トロプシュ生成物中の炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比が少なくとも0.2であり、かつフィッシャー・トロプシュ生成物中の化合物の30重量%以上は炭素原子数30以上の化合物である該フィッシャー・トロプシュ生成物を生成し、該フィッシャー・トロプシュ生成物を、立上り管反応器中、酸性母材及び大細孔モレキュラーシーブを含有する触媒系と温度500?600℃の範囲及び接触時間2?10秒の範囲で接触させ、得られる流出流からガソリンフラクションを単離することによるガソリンの製造方法。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定は、「この出願については、平成22年2月16日付け拒絶理由通知書に記載した理由1によって、拒絶をすべきものです。」というものであるところ、その理由は、
「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」というものであり、また、引用文献1及び2として、次の文献が挙げられている。

1.米国特許第4684756号明細書(クラス585)
2.国際公開第02/070630号パンフレット

第4 当審の判断
当審は、原査定の上記理由の通り、本願発明は、特許を受けることができないものであると判断する。

1.刊行物及び刊行物に記載された事項
(1)刊行物
1.米国特許第4684756号明細書(原査定における「引用文献1」。以下、「刊行物1」という。)
2.国際公開第02/070630号(原査定における「引用文献2」。以下、「刊行物2」という。)
3.国際公開第99/34917号(審尋における「引用文献3」。以下、「刊行物3」という。)

(2)刊行物に記載された事項
(ア)刊行物1について
上記刊行物1には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。)

1a:「発明の概要
軽質ガスの生成量を最小化し、かつ液体燃料の生成量を最大化するために、フィッシャー・トロプシュ合成が、エタンとメタンの生成量が低く、リアクターワックスの生成量が高くなるように、スラリー液体相触媒リアクター・システムにおいて、H_(2)/COの比率が低い合成ガスを用いて行なわれる。
リアクターワックスは、高分子量の高度にパラフィン化された生成物であり、その後、プレミアムガソリン及び/又は軽質ガスの生成が最小化された留出燃料油を得るために、特別なクラッキングプロセス、水素化分解プロセスあるいは脱蝋プロセスによってアップグレードされる。そして、それにより全体的に製品の価値を向上させる。」(第2欄30?42行)
1b:「Fig.2に示される具体例では、プロセススキームは、ワックスがアップグレードされる方法においてFig.1と異なる。」(第7欄23?25行)
1c:「クラッキングが垂直立ち上がり管の中で行われる場合、フィッシャー・トロプシュ合成ワックスは非常に反応性なので、ワックスをクラックするFCCのユニットの最適なデザインには、低い反応滞留時間を与えるため、リアクターの長さを非常に短くすることが要求される。」(第7欄34?37行)
1d:「使用された触媒は周知の材料で、典型的には希土類交換ゼオライトXあるいはY、超安定ゼオライトY、酸性ゼオライトY(HY)あるいは他の天然ないし合成のフォージャサイトゼオライトのようなゼオライトを含む。」(第8欄11?15行)
1e:「ゼオライトは、アルミナ、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニア、ならびにシリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、マグネシアおよびシリカ-マグネシア-ジルコニアのような3成分系組成物、のような多孔性マトリックス材料と複合化されてもよい。・・・。無水物を基準とした、ゼオライト成分および無機酸化物ゲルマトリックスの相対的な割合は、ゼオライトの含有量が、10?99%の広い範囲で、より通常には25?80%(乾燥した合成物の重量による)で変動してもよい。マトリックス自身は、通常酸性で、触媒特性を有しうる。」(第8欄43?55行)
1f:「典型的なクラッキング条件は、圧力が10?60psig、温度が800?950°F、3?8の触媒/油比率、および触媒滞留時間が0.5?5秒である。」(第9欄19?21行)
1g:「高いリアクターワックスを生産する操作においては、生産されたワックスは、65?75重量%程度のC_(55+)炭化水素を含んでいてもよい。」(第4欄37?39行)
1h:「ゼオライトXおよびYのような大細孔のフォージャサイトゼオライトは、供給材料(ワックス)の主成分がその内部細孔に入り、転化されるので、この目的に従来から使用されている。」(第6欄5?10行)
1i:「低温での操作を検討することは、C_(1)とC_(2)の炭化水素の生成量の縮小、触媒上の炭素沈着の縮小、及び高パラフィン・高分子量のリアクターワックスを高生産するための操作の選択性の改善のために、特に望ましい。」(第3欄16?22行)
1j:「TABLE 10

」(第12欄56?第13欄10行)
1k:「TABLE 3-continued

」(第5欄1行?25行)

(イ)刊行物2について
上記刊行物2には、以下の事項が記載されている。(翻訳は刊行物2のパテントファミリーである特表2004-526831号公報に基づく。)

2a:「実施例1
WO-A-9934917の実施例IIIの触媒を水素化分解工程(工程(a))に用いて同刊行物の実施例VIIで得られたフィッシャー・トロプシュ生成物のC_(5)?C_(750)℃^(+)フラクションを連続的に供給することにより、ワックス状ラフィネート生成物を得た。この原料はC_(30)+生成物を約60重量%含有していた。C_(60)+/C_(30)+比は約0.55であった。このフラクションは、水素化分解工程においてEP-A-532118の実施例1の触媒と接触させた。」(第16頁13?21行)

(ウ)刊行物3について
上記刊行物3には、以下の事項が記載されている。(翻訳は刊行物3のパテントファミリーである特表2002-500095号公報に基づく。)

3a:「コバルト系フィッシャー-トロプシュ触媒」(第1頁「Title」)
3b:「以下、実施例により本発明を更に説明する。
・・・
実施例III
市販チタニア粉末(Degussa製品P25)143g、市販Co(OH)_(2)粉末66g、Mn(Ac)_(2)・4H_(2)O 10.3g及び水38gを含む混合物を調製した。混合物を15分間ニーディングした。Bonnot押出機を使用して混合物を成形した。押出物を120℃で16時間乾燥し、500℃で2時間か焼した。得られた押出物はCo20重量%とMn1重量%を含んでいた。

実施例IV
市販チタニア粉末(Degussa製品P25)175gを含む懸濁液を調製した。この懸濁液にCo(NO_(3))_(2)・6H_(2)O 250gとMn(NO_(3))_(2)・4H_(2)O 8gを水500mlに溶かした溶液を加えた。同時に、アンモニアを懸濁液に加え、懸濁液のpHを7?8に維持した。金属溶液をチタニア懸濁液に添加後、チタニア上に沈殿したCoとMnを濾過し、水洗した。フィルターケーキを120℃で乾燥した。
乾燥フィルターケーキと水とアンモニアを含む混合物を調製した。混合物を15分間ニーディングした。Bonnot押出機を使用して混合物を成形した。押出物を120℃で16時間乾燥し、500℃で2時間か焼した。得られた押出物はCo20重量%とMn0.8重量%を含んでいた。」(第13頁17行?第15頁3行)
3c:「実施例VII
触媒I、II、III及びIVを炭化水素製造法で試験した。固定床触媒粒子の形態である触媒押出物I、II、III及びIV各10mlを入れたマイクロフロー反応器を260℃の温度まで加熱し、2絶対バールの圧力まで窒素ガスの連続流で加圧した。触媒を窒素及び水素ガスの混合物で24時間in-situ還元した。還元中に混合物中の水素の相対量を0%から100%まで漸増させた。排ガス中の水濃度は3000ppmv未満に維持した。
還元後に圧力を26絶対バールまで上げた。反応はH_(2)/CO比1.1:1の水素と一酸化炭素の混合物を使用して実施した。GHSVは800Nl/l/hとした。反応温度は加重平均床温度(WABT)として℃で表す。1時間当たり触媒粒子(粒子間の空隙を含む)1リットル当たりの炭化水素生成物gとして表した時空収率(STY)と、総炭化水素生成物の重量百分率として表したC_(5)^(+)選択性を50時間運転後に各実験で測定した。結果を表Iに示す。」(第16頁7行?最下行)

2.刊行物1に記載された発明
刊行物1には、摘示1aの
「・・・フィッシャー・トロプシュ合成が、・・・リアクターワックスの生成量が高くなるように、・・・リアクター・システムにおいて、・・・合成ガスを用いて行なわれる。
リアクターワックスは、高分子量の高度にパラフィン化された生成物であり、その後、プレミアムガソリン・・・を得るために、特別なクラッキングプロセス・・・によってアップグレードされる。そして、それにより全体的に製品の価値を向上させる。」
との記載より、「『フィッシャー・トロプシュ合成』を行って、『高分子量の高度にパラフィン化された生成物』である『リアクターワックス』を生成し、『クラッキングプロセス』により、『プレミアムガソリン』を得る方法」が記載されていると認められる。
そして、刊行物1には、上記方法の具体的な例としてFig.1及びFig.2に示される例が開示され、Fig.2に示される例は、リアクターワックス生成後のアップグレード方法がFig.1の例と異なるものであり(摘示1bを参照)、そして、そのFig.2に示される例の詳細について、第7欄23行?第10欄37行に記載されている。
そしてその中に、Fig.2に示される例における「クラッキング」を行う手段について、以下の記載がある。
・「クラッキングが垂直立ち上がり管の中で行われる」との記載(摘示1c)。
・クラッキングの条件は、「・・・温度が800?950°F、・・・および触媒滞留時間が0.5?5秒である。」(摘示1f)との記載。
・クラッキングに用いられる触媒について、
「使用された触媒は周知の材料で、典型的には希土類交換ゼオライトXあるいはY、超安定ゼオライトY、酸性ゼオライトY(HY)あるいは他の天然ないし合成のフォージャサイトゼオライトのようなゼオライトを含む。」(摘示1d)との記載、及び、さらに、
「ゼオライトは、・・・のような多孔性マトリックス材料と複合化されてもよい。・・・ 無水物を基準とした、ゼオライト成分および無機酸化物ゲルマトリックスの相対的な割合は、ゼオライトの含有量が、・・・より通常には25?80%・・・で変動してもよい。マトリックス自身は、通常酸性で、触媒特性を有しうる。」(摘示1e)という、上記ゼオライトは、マトリックス材料と複合化されてもよく、また、マトリックスは通常酸性である旨の記載。

よって、刊行物1には、
「フィッシャー・トロプシュ合成を行って、高分子量の高度にパラフィン化された生成物であるリアクターワックスを生成し、垂直立ち上がり管の中で、希土類交換ゼオライトXあるいはY、超安定ゼオライトY、酸性ゼオライトY(HY)のようなゼオライトと酸性のマトリックス材料とからなる触媒と、温度800?950°Fおよび触媒滞留時間0.5?5秒で接触させるクラッキングプロセスにより、プレミアムガソリンを得る方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

3.対比
引用発明の「リアクターワックス」は、「フィッシャー・トロプシュ合成」によって得られているので、本願発明の「フィッシャー・トロプシュ生成物」に相当することは明らかである。
ここで、刊行物1の摘示1hには「ゼオライトXおよびYのような大細孔のフォージャサイトゼオライト」との記載があり、また、本願発明の詳細な説明段落【0018】においても「好適な大細孔モレキュラーシーブの例は、例えばゼオライトY、超安定ゼオライトY及びゼオライトXのようなホウジャサイト(FAU)型である。」と記載されていることからみて、「ゼオライトX」あるいは「ゼオライトY」のようなゼオライトは、通常「大細孔」を有する「モレキュラーシーブ」であるものと認められる。
よって、引用発明の「希土類交換ゼオライトXあるいはY、超安定ゼオライトY、酸性ゼオライトY(HY)のようなゼオライト」は、本願発明の「大細孔モレキュラーシーブ」に相当する。
また、引用発明の「酸性のマトリックス材料」は、「マトリックス材料」は通常「母材」とも称するので、本願発明の「酸性母材」に相当することも明らかである。
さらに、引用発明のクラッキングプロセス条件における「800?950°F」は、摂氏に換算すると「427?510℃」であるので、本願発明における触媒との接触温度である「500?600℃の範囲」と重複し、また、引用発明の「触媒滞留時間0.5?5秒」も、本願発明の「接触時間2?10秒の範囲」と重複する。
そして、クラッキング処理をされたものからガソリンを得るにあたり、単離工程を経ることは当然であるので、引用発明の「プレミアムガソリンを得る方法」は、本願発明の「得られる流出流からガソリンフラクションを単離することによるガソリンの製造方法」に相当することも明らかである。

よって、本願発明と引用発明とは、
「フィッシャー・トロプシュ反応を行って、フィッシャー・トロプシュ生成物を生成し、該フィッシャー・トロプシュ生成物を、立上り管反応器中、酸性母材及び大細孔モレキュラーシーブを含有する触媒系と温度500?600℃の範囲及び接触時間2?10秒の範囲で接触させ、得られる流出流からガソリンフラクションを単離することによるガソリンの製造方法。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1:フィッシャー・トロプシュ生成物が、本願発明は「炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比が少なくとも0.2であり、かつフィッシャー・トロプシュ生成物中の化合物の30重量%以上は炭素原子数30以上の化合物である」のに対し、引用発明は「高分子量の高度にパラフィン化された」ものである点

相違点2:フィッシャー・トロプシュ反応が、本願発明は「コバルト触媒を用いて」行うのに対し、引用発明はそのような特定がなされていない点

4.相違点の判断
(1)相違点1について
刊行物1の摘示1gには、リアクターワックスにおけるC_(55+)画分を「65?75重量%程度」とすることが記載されている。
そして、引用発明は、プレミアムガソリンを生産するために、フィッシャー・トロプシュ合成物である「リアクターワックス」を「高分子量の高度にパラフィン化された」ものとするものであるから(摘示1a及び摘示1iを参照)、高分子量のパラフィンを多く含むことが好ましいことは明らかである。
よって、引用発明において、「リアクターワックス」(本願発明の「フィッシャー・トロプシュ生成物」に相当)のC_(55+)よりやや分子量の大きいC_(60+)画分の含有量を65?75重量%程度とすることは当業者が容易に想到し得るものである。
また、上記のとおり「C_(60+)画分の含有量を65?75重量%程度」とすることは、C_(30+)画分(炭素原子数30以上の化合物)は、C_(60+)画分(炭素原子数60以上の化合物)を包含するので、炭素原子数60以上の化合物の範囲である65?75重量%以上、すなわち30重量%以上となることは明らかである。
さらに、C_(60+)画分の含有量を上記の範囲とすることは、
[C_(60+)画分の重量]/[全画分の重量]=0.65?0.75
とするものといえる。
そして、「C_(30+)画分の重量」の範囲は、「全画分の重量」(上限)?「C_(60+)画分の重量」(下限)までの範囲にあることは明らかなので、C_(60+)画分(炭素原子数60以上の化合物)とC_(30+)画分(炭素原子数30以上の化合物)との重量比である「[C_(60+)画分の重量]/[C_(30+)画分の重量]」の値の範囲は次のとおりのものであるといえ、
[C_(60+)画分の重量]/[全画分の重量]
≦[C_(60+)画分の重量]/[C_(30+)画分の重量]
≦[C_(60+)画分の重量]/[C_(60+)画分の重量]
すなわち、
0.65?0.75≦[C_(60+)画分の重量]/[C_(30+)画分の重量]≦1
と、常に0.2を超えるものとなると認められる。
すなわち、引用発明の「リアクターワックス」を、「C_(60+)画分の含有量を65?75重量%程度」とすることとし、その結果「炭素原子数60以上の化合物と炭素原子数30以上の化合物との重量比が少なくとも0.2であり、かつフィッシャー・トロプシュ生成物中の化合物の30重量%以上は炭素原子数30以上の化合物である」ものとすることは、当業者が容易になし得るものである。

(2)相違点2について
刊行物2の摘示2aには、「WO-A-9934917」(刊行物3)の「実施例VIIで得られたフィッシャー・トロプシュ生成物」が「C_(60)+/C_(30)+比は約0.55」であることが記載されている。
そして、WO-A-9934917に該当する刊行物3に記載の発明は、「コバルト系フィッシャー-トロプシュ触媒」(摘示3a)に係る発明であるところ、その実施例として記載されている実施例III及び実施例IV(摘示3b)には、「コバルト系フィッシャー-トロプシュ触媒」が記載されていると認められ、また、実施例VII(摘示3c)には、上記実施例のコバルト系触媒を用いて得られた「炭化水素生成物」が記載されている。
すなわち、刊行物2及び刊行物3の上記記載からみて、コバルト系触媒を用いてC_(60)+すなわち、炭素数60以上の炭化水素の含有量の高いフィッシャー・トロプシュ生成物を合成することは公知であると認められる。
よって、引用発明において「リアクターワックス」(本願発明の「フィッシャー・トロプシュ生成物」に相当)を製造するにあたり、コバルト触媒を用いることも当業者が容易になし得るものである。

(3)効果について
本願発明の効果は、本願発明の詳細な説明の段落【0006】の記載から見て、
「フィッシャー・トロプシュ生成物から受入可能なモーター法オクタン価のガソリンを高収量で得る方法を提供」できることである認められる。
そして、引用発明の効果は、摘示1aの、
「・・・液体燃料の生成量を最大化するために、フィッシャー・トロプシュ合成が、・・・行なわれる。
・・・プレミアムガソリン・・・を得るために・・・アップグレードされる。そして、それにより全体的に製品の価値を向上させる。」との記載からみて、「プレミアムガソリン」の「生産量」を「最大化」することであると認められる。
ここで、「石油用語解説集,1977年5月31日,第212?213頁」の「プレミアムガソリン」の項には、以下のとおり記載されている。
「プレミアムガソリン premium gasoline オクタン価の比較的高い特級自動車用ガソリンで,レギュラーガソリンを用いるとノッキングを起こしやすい高圧縮比エンジンを装備した自動車に用いられる.」
すなわち、プレミアムガソリンを得ることは、オクタン価の高いガソリンを得ることであると認められる。
よって、刊行物1には、引用発明により、オクタン価の高いガソリンの生産量を向上できることが開示されていると認められる。

また、例えば、刊行物1の「EXAMPLE 4」の「TABLE 10」(摘示1j)には、「TABLE 3」(摘示1k)に示される「Run 4」の「リアクターワックス」を分解して得られた成分の物性が示されていると認められるが、そのうち、オクタン価を意味する「Octane,R+O」の値を見ると「90」と高い結果が得られることも示されている。
よって、刊行物1の記載から、引用発明により「オクタン価のガソリンを高収量」で得るという効果は、当業者が予測しうるものである。
さらに、フィッシャー・トロプシュ合成において、コバルト触媒を用いることの効果については、審判請求人が回答書において、
「いわゆる当業者においては、コバルト(Co)系の触媒は、以下の理由で、フィッシャー・トロプシュ生成物を調製するためには、鉄(Fe)系の触媒に比べて高度に好適なものであることは周知である(引用文献1の表3のRun No.4)。重質フィッシャー・トロプシュ生成物を調製するに際して、コバルトは、活性点当たり鉄(Fe)の3倍である。このより高度のフィッシャー・トロプシュ活性に加えて、Coは、(I)より長い鎖の炭化水素に関してより高い選択率、(II)低いコークの形成、(III)低いオレフィン選択性、(IV)低いオキシゲナーゼ選択性、(V)低い水性ガス転化活性、および(VI)水による酸化に対する高い抵抗性によって、Feに優るのである。これらの優位性によって、より効率的なプロセス、より良好な生成物の品質、より長い触媒寿命、およびより容易い生成物処理を実現することができる。」
と主張するとおり、当業者に周知のものと認められる。

5.まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物1?3に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願は、その余につき検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-14 
結審通知日 2013-02-15 
審決日 2013-02-26 
出願番号 特願2006-530221(P2006-530221)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤村 茂実  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
小石 真弓
発明の名称 ガソリンの製造方法  
代理人 野口 勝彦  
代理人 星野 修  
代理人 奥村 義道  
代理人 寺地 拓己  
代理人 富田 博行  
代理人 沖本 一暁  
代理人 小野 新次郎  
代理人 田上 靖子  
代理人 小林 泰  

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