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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04L
管理番号 1276760
審判番号 不服2011-27896  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-26 
確定日 2013-07-10 
事件の表示 特願2001-576606「通信システムにおける信号の迅速な再送信のための方法および装置」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月25日国際公開、WO01/80477、平成15年11月 5日国内公表、特表2003-533078〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,2001年4月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2000年4月14日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成23年8月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月26日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされたものである。
その請求項1に係る発明は,明細書及び図面の記載からみて,平成23年12月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める(以下,「本願発明」という。)。
「【請求項1】
通信システムにおいて信号を再送信する方法であって,
意図した宛先の受信した信号ユニットの品質基準を決定し,
前記品質基準に従って前記信号ユニットの再送信を要求し,そして
前記品質基準に従う前記信号の前記再送信が失敗であると宣言された場合,前記信号ユニットのシーケンス番号に従い前記信号ユニットの再送信を要求する
ステップを含む方法。」


2.引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-46217号公報(以下,「引用例」という。)には,「無線パケット再送方法」として図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,無線データの通信に関するものであり,特に無線データ通信における無線パケット再送プロトコルに特徴を有する無線パケット再送方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】無線データ通信を行う場合,伝送路の信頼性が有線に比べて低い。このため,例えばTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)のように有線網をターゲットに開発されたプロトコルをそのまま無線伝送路に適用した場合,非常に転送効率が悪くなる問題がある。これを改善するため,これら既存のプロトコルの下位に,無線伝送路の特性を考慮した伝送プロトコルを設置するのが一般的である。例えば無線パケットでは米国のCDPD(Cellular Digital Packet Data)がTCP/IPの下位レイヤにMDLP(Mobile Data LinkProtocol)と呼ばれる無線リンク制御プロトコルを設定している。また回線交換によるデータ通信では,例えばPHS(Personal Handyphone System)のデータ通信でPIAFS(PHS Internet Access Forum Standard)と呼ばれる無線区間の誤りを保証するプロトコルが規定されている。これらの方式ではデータパケットをさらに短い再送単位に分割し,独自の再送方式によって無線区間でのパケットの伝送誤りを補償している。
【0003】一方でTCPにおいてもエンド・エンド間の正常なデータ転送を保証するための再送手順を持っている。具体的には送信したデータに対する送信先からの送達確認信号を認識しながらパケットの送信を行い,一定時間待っても送達確認信号が帰ってこない場合にパケットの再送を行う方法である。ここでTCPの対象としているインターネット環境では送達確認信号が帰って来るまでの時間が,経路上のトラヒックの変動に応じて変化するため,TCPではこれに合わせて再送タイマーの値を増減させている。
【0004】以上述べたように無線データ通信を行うシステムでは,既存の有線網及びアプリケーションに対応した再送プロトコルと,無線伝送路に対応した再送プロトコルの2層構造をとるのが一般的である。」(3頁3?4欄)

(2)「【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来技術のように再送プロトコルが2層構造となっている場合,無線パケットの再送を行っている間に上位の再送タイマーが満了し,現在再送を行っているパケットと同一のデータパケットが下位レイヤに転送される場合が想定される。この場合,実際の無線区間では同一のパケットが2回送信されることになり,無線リソースの観点から非効率的である。図17は無線局#l(15-1)から無線局#2(15-2)へのパケット転送例を示している。ここでシステム構成は図1に示すように,一対の無線局(1-1),(1-2)からなり,図2のように上位のデータパケット再送プロトコルTCP(2-5)と下位の無線パケット再送プロトコルLLC(Logical Link Control)(2-4)を持つものとした。TCP/IP(15-3)のデータパケットA(15-8)はLLCレイヤ(15-4)で複数の無線パケットA-1,A-2,A-3(15-9)に分割された後,無線区間で送信され,無線局#2のLLC(15-6)で受信・組立られた後(15-10),無線局#2のTCPレイヤ(15-7)に渡されている(15-11)。ところでデータパケットB(15-12)を転送する際,LLCでこれを分割して生成された無線パケットB-1,B-2,B-3(15-13)の内,B-3の転送が誤りにより再送となっている(15-14)。一方,無線局#1のTCP/IP(15-3)においてもデータパケットBが再送(15-15)されている。これにより最後のB-3の無線パケットが不必要に送信されることになり,無線リソースが無駄に使用されることになる(15-16,15-17,15-18)。」(3頁4欄?4頁5欄)

上記記載及び図面の記載並びに当該技術分野の技術常識を考慮すると,
ア.上記(1)の【0001】,【0004】,図17の記載によれば,引用例には「無線データ通信を行うシステムにおいてパケットを再送する方法」が記載されていると認められる。

イ.上記(1)の【0002】,【0004】,上記(2),図17の記載によれば,引用例には「無線区間での伝送誤りにより無線パケットの再送を行う」ことが記載されていると認められる。

ウ.上記(1)の【0003】,【0004】,上記(2),図17によれば,引用例には「一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこない場合にTCP/IPにおいてパケットの再送を行う」ことが記載されていると認められる。

したがって,引用例には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「無線データ通信を行うシステムにおいてパケットを再送する方法であって,
無線区間での伝送誤りにより無線パケットの再送を行い,そして
一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこない場合にTCP/IPにおいてパケットの再送を行う,方法。」


3.対比・判断
(1)引用発明の「無線データ通信を行うシステム」は「通信システム」といえる。また,本願明細書の発明の詳細な説明の【0002】の「パケットはプリアンブル(preamble),ペイロード(payload),および品質メトリック(quality metric)を含む信号のユニット(unit)である。」の記載に照らせば,引用発明の「パケット」は本願発明の「信号ユニット」に相当するから,引用発明の「パケットを再送する」ことは本願発明の「信号を再送信する」ことに相当する。

(2)引用発明は「無線区間での伝送誤りにより無線パケットの再送を行」うのであるから,無線パケットの「意図した宛先」である受信局(引用例の図1の無線局#2)において受信した無線パケットの信号が誤っているか否かの判断基準が予め決定されているのは当然であって,当該判断基準に従って受信した無線パケットが誤っていると判断された場合に無線パケットの再送信を(送信側の無線局#1に)要求するのであることは明らかである。
そして,本願明細書【0003】,【0004】,【0007】によれば,本願発明の「意図した宛先の受信した信号ユニットの品質基準を決定し,前記品質基準に従って前記信号ユニットの再送信を要求し」は迅速な再送信を目的としたものであるところ,引用発明の「無線区間での伝送誤りによ」る「無線パケットの再送」も,「一定時間待っても・・・場合」の「・・・パケットの再送」よりも迅速になされていることは明らかである。
したがって,本願発明と引用発明とは「意図した宛先の受信した信号ユニットの基準を決定し,前記基準に従って前記信号ユニットの再送信を要求」する点で一致している。

(3)引用発明の「一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこない場合」は,データパケット(信号ユニット)が当該データパケットの最初の送信から計量された所定の期間内に受信されない場合といえる。そして,本願発明の「前記品質基準に従う前記信号の前記再送信が失敗であると宣言された場合」は,「前記信号ユニットが前記信号ユニットの最初の送信から計量された所定の期間内で受信されない場合」を含むことは明らかである(【請求項16】,【0043】参照。)から,引用発明の「一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこない場合」は本願発明の「前記品質基準に従う前記信号の前記再送信が失敗であると宣言された場合」に対応している。
また,引用発明は「一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこない場合にTCP/IPにおいてパケットの再送を行う」ものであるから,一定時間待っても送信したデータに対する送達確認信号が帰ってこないことを検出する機能を有するものが,パケットの送信(再送信)を行う機能を有するものに対して,送達確認信号が帰ってこないデータについての再送を要求するのであることは明らかである。
したがって,本願発明と引用発明とは「前記基準に従う前記信号の前記再送信が失敗であると宣言された場合,前記信号ユニットの再送信を要求する」点で一致している。

したがって,本願発明と引用発明とを対比すると,両者は,以下の点で一致し,また,相違している。
(一致点)
「通信システムにおいて信号を再送信する方法であって,
意図した宛先の受信した信号ユニットの基準を決定し,
前記基準に従って前記信号ユニットの再送信を要求し,そして
前記基準に従う前記信号の前記再送信が失敗であると宣言された場合,前記信号ユニットの再送信を要求する,
方法。」

(相違点1)
「基準」に関し,本願発明は「品質基準」であるのに対し,引用発明は「基準」の内容を明らかにしていない点。

(相違点2)
「前記再送信が失敗であると宣言された場合,前記信号ユニットの再送信を要求する」の「信号ユニットの再送信」の「要求」に関し,本願発明は「前記信号ユニットのシーケンス番号に従い」前記信号ユニットの再送信を要求するものであるのに対し,引用発明は当該構成を明らかにしていない点。

以下,上記各相違点についての検討する。
(相違点1について)
本願発明の「品質基準」にはCRCが含まれ,「意図した宛先の受信した信号ユニットの品質基準を決定し」には自局宛の受信パケットのCRCを計算することが含まれる(【請求項3】,【請求項4】,【0024】参照。)ところ,伝送誤りをCRCの不一致により判断することは普通に行われているから(例えば,原審の拒絶の理由に引用された特開平10-84335号公報の【0053】,特開2000-40996号公報の【0028】,特開平11-331261号公報の【0003】,特開平11-205292号公報の【0002】?【0004】参照。),引用発明において伝送誤りを判断する基準として「品質基準」を採用することは当業者が容易になし得ることに過ぎない。

(相違点2について)
引用例には明記されてはいないが,TCP/IPによる再送処理は,受信パケットに含まれるシーケンス番号に基づいてなされるものであることは当業者における技術常識であり,引用例の図17を参照しても送達確認信号が帰ってこないデータBが特定されて再送が行われていることは明らかである。したがって,相違点2には実質的に相違はない,あるいは相違点2は引用発明において当業者が容易になし得ることに過ぎない。

そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲のものであり,格別なものではない。


4.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願2001-576606(P2001-576606)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 谷岡 佳彦  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 石井 研一
新川 圭二
発明の名称 通信システムにおける信号の迅速な再送信のための方法および装置  
代理人 堀内 美保子  
代理人 白根 俊郎  
代理人 河野 哲  
代理人 井関 守三  
代理人 蔵田 昌俊  
代理人 峰 隆司  
代理人 野河 信久  
代理人 高倉 成男  
代理人 竹内 将訓  
代理人 村松 貞男  
代理人 福原 淑弘  
代理人 岡田 貴志  
代理人 中村 誠  
代理人 河野 直樹  
代理人 砂川 克  
代理人 幸長 保次郎  
代理人 佐藤 立志  

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