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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B63H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B63H |
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管理番号 | 1276763 |
審判番号 | 不服2012-3263 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-02-20 |
確定日 | 2013-07-10 |
事件の表示 | 特願2006-520631号「複速度変速装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月27日国際公開、WO2005/007503、平成18年12月14日国内公表、特表2006-528100号〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成16年7月20日[パリ条約による【優先権主張番号】2003903771【優先日】2003年7月21日【優先権主張国】オーストラリア]を国際出願日とする出願であって、平成23年10月7日付けで平成23年5月9日付け手続補正書が却下されると共に拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年2月20日に拒絶査定に対する不服審判の請求がなされるとともに、平成24年2月20日付けで手続補正がなされたものである。 第2.平成24年2月20日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成24年2月20日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願補正発明について 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、 「海洋用船舶を駆動するために搭載される2速度変速装置システムであって、 前記海洋用船舶のエンジンの駆動シャフトと直接接続される入力シャフトと、 前記入力シャフトと同軸であり、前記海洋用船舶の動力伝達装置と直接接続される出力シャフトと、 低速で固定された第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、 巡航速度で固定された第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、 前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記低速の第1ギヤ比で駆動するよう係合される第1の摩擦クラッチと、 前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記第2ギヤ比で駆動するよう係合され前記第1の摩擦クラッチと同軸である第2の摩擦クラッチと、 を備え、 前記入力シャフトが、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、 前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いて係合解除され、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いて係合されるようになっており、 前記第2の摩擦クラッチが、直接的な1対1の駆動で前記出力シャフトを前記入力シャフトに係合するように作動可能であり、前記第1の摩擦クラッチが、前記第1ギヤ比を1対1以外とするように、副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続するよう作動可能である、2速度変速装置システム。」 と補正された。 上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「第1ギヤ比」について「低速で固定された」との限定を付加し、同じく「第2ギヤ比」について「巡航速度で固定された」との限定を付加し、同じく「第2の摩擦クラッチ」について、「直接的な1対1の駆動で前記出力シャフトを前記入力シャフトに係合するように作動可能であり」との限定を付加し、同じく「前記第1の摩擦クラッチ」について「前記第1ギヤ比を1対1以外とするように、副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続するよう作動可能である、」との限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の前記請求項に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 2.原査定の拒絶の理由に引用した文献等の記載 (1)本願の優先日前に頒布された刊行物1である英国特許出願公開第2367598号明細書(以下「引用例1」という)には、図面とともに次のア?ウの事項と参考事項エが記載されている。なお、下線部は当審において付したものである。 (ア)「In a conventional stern drive unit for a watercraft, there is provided between a drive shaft at the upper end of the stern drive and the output shaft for driving the propeller at the lower end of the stern drive, an intermediate unit providing a coupling between the drive shaft and the output shaft. The drive shaft and the output shaft are located in spaced relation on a common axis, and the purpose of the intermediate unit is normally to provide a direct coupling between the drive shaft and the output shaft. 《中略》 The benefits of multiple gear ratios depend on whether a speed reducing or speed increasing ratio is installed. With a reduction ratio, low speed manoeuvrability is enhanced and acceleration on to the plane is improved. With an overdrive ratio, top end speed can be increased or cruising speed can be obtained using less engine revolutions. Both options will reduce fuel consumption, wear emissions and noise.」〈第1頁7行ないし25行〉 上記下線部の当審における訳 (a)「船舶用船尾駆動システムで・・・入力シャフトと出力シャフトは、同軸に配置されている。」 (b)「複合ギヤ比の利点は、減速比を採用するか、増速比を採用するかができることである。」 (c)「少ないエンジン回転での使用が得られる。」 (イ)「A lay shaft 4 is rotatably mounted in bearings respectively provided in the housing 1 and the cover plate 2 and carries, fixed with respect thereto, a first lay gear 5 of larger diameter and a second lay gear 6 of smaller diameter.」〈第3頁21行ないし23行〉 上記下線部の当審における訳 (d)「副シャフト4は、関連する大径ギヤ5と小径ギヤ6と共に稼働する。」 (ウ)「 The external splines of the clutch drive shaft 8 also engage within a series of friction clutch plates 17 that are located within an axial recess of the input gear 9 and inter-engage with friction clutch plates 18 that respectively engage within an internal spline on the input gear 9 . Likewise, within the output gear 10 are located a further series of clutch plates 19 splined to the clutch shaft 8 and clutch plates 20 splined within the output gear 10 . It will thus be seen that upon axial movement of the clutch drive shaft 8 in the upward direction the clutch plates 17 and 18 are compressed between an upper face 21 of collar 15 and a lower face 22 of input gear 9 so that the clutch drive shaft 8 becomes fixed with respect to the gear 9 . The output gear 10 can then rotate freely, and thus a reduction drive is effected between the input gear 9 , the lay gears 5 and 6 and the output gear 10 . A low speed drive is thus provided between an input drive shaft 23 splined to the clutch drive shaft 8 and the output drive shaft 12 that is coupled to the gear 10 via the coupling shaft 14 . If, on the other hand, the clutch drive shaft 8 is moved axially downwards, the clutch plates 19 and 20 likewise become compressed between a lower face 24 of the collar 15 and an upper face 25 of the gear 10 whereby the clutch drive shaft 8 is directly coupled to the output gear 10 and the input drive shaft 23 is directly coupled to the output drive shaft 12 as in the conventional stern drive unit.The aforesaid axial movement of the clutch drive shaft 8 is provided by means of a hydraulic piston and cylinder unit 」〈第4頁21行ないし第5頁14行〉 上記下線部の当審における訳 (e)「摩擦クラッチ板17は、ギヤ9内に配置され、摩擦クラッチ板18は、ギヤ9とスプライン接続している。 同様に、摩擦クラッチ板19は、ギヤ10内に配置され、摩擦クラッチ板20は、ギヤ10とスプライン接続している。」 (f)「摩擦クラッチ板17と18は、カラー15の上面21とギア9の下面22間で圧迫され・・・その時、ギヤ10は自由に回転できる。これにより、減速駆動は、ギヤ9,大径ギヤ5,小径ギヤ6とギヤ10を介して得られることになる。低速駆動は、このように、クラッチドライブシャフト8にスプライン結合している入力シャフト23と出力シャフト12間に提供される。」 (g)「反対に、摩擦クラッチ板19と20は、カラー15の下面24とギア10の上面25間で圧迫され・・・入力シャフト23は出力シャフト12に直接接続し、巡航速度駆動となる。」 (h)「クラッチドライブシャフト8の軸方向運動は、流体ピストンとシリンダユニット手段による。」 (エ)「 It will be appreciated that various alterations and modifications may be made to the arrangement described above without departing from the scope of the invention. Thus, although the illustrated arrangement shows a clutch drive shaft 8 that is arranged to actuate each of two friction clutches by means of a double acting mechanism, it would be feasible to provide only a single acting mechanism with a single friction clutch for coupling the clutch drive shaft to the output gear 10 , the input gear 9 being fixed with respect to the clutch drive shaft 8 and a further clutch arrangement being provided in association with the lay shaft 4 . Such a construction might be desirable for the transmission of powers higher than that capable of being accommodated by the illustrated arrangement. 」〈第5頁29行ないし第6頁7行〉 上記下線部の当審における訳 (i)「以下の変化例、修正例もあり得る。・・・それは、二つの摩擦クラッチのそれぞれを、二つの作動メカニズムで、作動できるようにすることであって、 即ち、入力ギヤ9はクラッチドライブシャフト8に固定し、出力ギヤ10とクラッチドライブシャフト8との結合は単一の摩擦クラッチを持つ単一作動メカニズムにして、もう一つのクラッチは、副シャフト4との結合部分に配置される。」 (2)本願の優先日前に頒布された刊行物2である特開2002-48199号公報(以下「引用例2」という)は、舶用推進装置の変速構造および変速制御方法の発明に関して、周知である次の技術事項が記載されている。 「【0072】前記変速装置3に内装されている各クラッチ軸仕組みには、図3に示すように油圧クラッチ44がそれぞれ内装されている。そして、この油圧クラッチ132・134・・・の摩擦板を、前記原動機1の出力軸の駆動回転数、あるいは該油圧クラッチ132・134のクラッチ油圧を変化させて、滑らせる制御を行っている。前述したように、変速装置3には各クラッチ軸仕組みごとに油圧クラッチ132・134が配設されて、合計4つの油圧クラッチ132・134・・・を有している。これらを同時に滑らせて、出力側へ低回転の駆動回転を伝達するのである。なお、前記コントローラを前記電磁流量弁に接続して、前記油圧クラッチ132・134・・・への作動油流量の調節により、該クラッチ油圧を制御可能としている。」 上記【0072】の記載と【図3】の記載から、第1,第2の摩擦クラッチ(油圧クラッチ132・134)において、「駆動相互接続から分離」し、「制御された滑り」をすること(以下「周知技術」という。)が示されている。 《引用発明》 上記引用例1の記載事項ア?エ及びFig1,Fig2に示された内容を総合すると、引用例1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「船舶用船尾駆動で、減速比を採用するか、増速比と採用するかができる複合ギヤ比のシステムで 少ないエンジン回転での使用が得られ、入力シャフトと出力シャフトは、同軸に配置され、 低速駆動は、ギヤ9,大径ギヤ5,小径ギヤ6とギヤ10を介して、入力シャフト23と出力シャフト12間に提供され、 巡航速度駆動では、カラー15の下面24とギア10の上面25間で圧迫され、入力シャフト23は出力シャフト12に直接接続し、 ギヤ9,大径ギヤ5,小径ギヤ6とギヤ10を介して得られる低速駆動のために、圧迫される摩擦クラッチ板17と18と、 カラー15の下面24とギア10の上面25間で、巡航速度駆動となるように圧迫される摩擦クラッチ板19と20と、 を備え、 クラッチ板17?20は、摩擦クラッチ板であることと、摩擦クラッチ板17と18は・・・圧迫され・・・その時、ギヤ10は自由に回転できることと、反対に、摩擦クラッチ板19と20は、カラー15の下面24とギア10の上面25間で圧迫され、 この作用をするクラッチドライブシャフト8の軸方向運動は、流体ピストンとシリンダユニット手段により、 入力シャフト23は出力シャフト12に直接接続し、副シャフト4は、減速駆動する大径ギヤ5と小径ギヤ6と共に稼働し、減速比を採用するか、増速比と採用するかができる複合ギヤ比のシステム。」 3.対比 本願補正発明と引用発明とを対比すると、 (1)引用発明の「船舶用船尾駆動で、減速比を採用するか、増速比を採用するかができる複合ギヤ比のシステムで」は、本願補正発明の「海洋用船舶を駆動するために搭載される2速度変速装置システムであって、」に対応している。 (2)引用発明の「少ないエンジン回転での使用が得られ、入力シャフトと出力シャフトは、同軸に配置され」は、本願補正発明の「前記海洋用船舶のエンジンからの駆動が伝達される入力シャフトと、前記入力シャフトと同軸であり、前記海洋用船舶の動力伝達装置と直接接続される出力シャフトと、」に対応している。 (3)引用発明の「ギヤ9」,「大径ギヤ5」,「小径ギヤ6とギヤ10」は、本願補正発明の「第1ギヤトレイン」に相当し、第1ギヤ比を形成するものであるから、引用発明の「低速駆動は、ギヤ9,大径ギヤ5,小径ギヤ6とギヤ10を介して、入力シャフト23と出力シャフト12間に提供され」は、本願補正発明の「低速で固定された第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、」に対応する。 (4)引用発明での「入力シャフト23と出力シャフト12の直接接続」は、本願補正発明の第2ギヤトレインに該当し、第2ギヤ比を形成するものであるから、引用発明の「巡航速度駆動は、カラー15の下面24とギア10の上面25間で圧迫され、入力シャフト23は出力シャフト12に直接接続し、」は、本願補正発明の「巡航速度で固定された第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、」に対応する。 (5)引用発明の「摩擦クラッチ板17と18」は、本願補正発明の「第1の摩擦クラッチ」に相当するから、引用発明の「ギヤ9,大径ギヤ5,小径ギヤ6とギヤ10を介して得られる低速駆動のための、圧迫される摩擦クラッチ板17と18と、」は、本願補正発明の「前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記低速の第1ギヤ比で駆動するよう係合される第1の摩擦クラッチと、」に対応している。 (6)引用発明の「摩擦クラッチ板19と20」は、本願補正発明の「第2の摩擦クラッチ」に相当するから、引用発明の「カラー15の下面24とギア10の上面25間で、巡航速度駆動となるように圧迫される摩擦クラッチ板19と20と、」は、本願補正発明の「前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記第2ギヤ比で駆動するよう係合され前記第1の摩擦クラッチと同軸である第2の摩擦クラッチと、」に対応している。 (7)引用発明のクラッチ板17?20は、摩擦クラッチ板であることと、引用発明の「摩擦クラッチ板17と18は・・・圧迫され・・・その時、ギヤ10は自由に回転できる」の時点では、摩擦クラッチ板19と20は当然分離されていることを考慮し、 また、同引用発明の「反対に、摩擦クラッチ板19と20は、カラー15の下面24とギア10の上面25間で圧迫され」る時点で、摩擦クラッチ板17と18は当然分離されることになることを考慮すると、引用発明の上記「クラッチ板17?20・・・上面25間で圧迫され」は、本願補正発明の「前記入力シャフトが、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、」に対応し、 それと同時に、本願補正発明の「前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いて係合解除され、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いて係合されるようになっており、」にも対応している。 (8)引用発明の「入力シャフト23は出力シャフト12に直接接続し、副シャフト4は、減速駆動する大径ギヤ5と小径ギヤ6と共に稼働し、」は、本願補正発明の「前記第2の摩擦クラッチが、直接的な1対1の駆動で前記出力シャフトを前記入力シャフトに係合するように作動可能であり、前記第1の摩擦クラッチが、前記第1ギヤ比を1対1以外とするように、副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続するよう作動可能である、」に対応している。 (9)引用発明の「減速比を採用するか、増速比と採用するかができる複合ギヤ比のシステム」は本願補正発明の「2速度変速装置システム」に対応する。 上記の事項を考慮すると、両者は次の点で一致し、 「海洋用船舶を駆動するために搭載される2速度変速装置システムであって、 前記海洋用船舶のエンジンからの駆動が伝達される入力シャフトと、 前記入力シャフトと同軸であり、前記海洋用船舶の動力伝達装置と直接接続される出力シャフトと、 低速で固定された第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、 巡航速度で固定された第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、 前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記低速の第1ギヤ比で駆動するよう係合される第1の摩擦クラッチと、 前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記第2ギヤ比で駆動するよう係合され前記第1の摩擦クラッチと同軸である第2の摩擦クラッチと、 を備え、 前記入力シャフトが、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、 前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いて係合解除され、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いて係合されるようになっており、 前記第2の摩擦クラッチが、直接的な1対1の駆動で前記出力シャフトを前記入力シャフトに係合するように作動可能であり、前記第1の摩擦クラッチが、前記第1ギヤ比を1対1以外とするように、副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続するよう作動可能である、2速度変速装置システム。」 以下の点で相違する。 a:本願補正発明の「入力シャフト」は、「エンジンの駆動シャフトと直接接続される」ものであるのに対し、引用発明では、「入力シャフト」に関して、「エンジンからの駆動が伝達される」ものである点。 4.当審の判断 aの相違点に関して、 先ず、「エンジンの駆動シャフトと直接接続される」の記載は、具体性を欠き不明な部分を含むものであるが、本願当初明細書中の【0038】の記載と【図6】を見ると、「直接接続」とは、前進および後退ベベルギヤをプロペラに隣接させ、前進および後退ベベルギヤは、入力シャフトとは接続させないことを意図するものと思われる。 しかしながら、該相違点である「エンジンの駆動シャフトと直接接続される」こと即ち、前進および後退ベベルギヤをプロペラに隣接させ、前進および後退ベベルギヤは、入力シャフトとは接続させない構成は、「アルファ」型駆動装置として周知のものであって、請求人も本願当初明細書中の【0038】で認めている処であり、また、通常用いられる船外機のほとんどがこの「アルファ」タイプでもあるから、引用発明の船舶用2速度変速装置システムを「アルファ」型駆動装置に用い、本願補正発明のように構成することは当業者なら容易に為し得ることと言わざるを得ない。 そして、本願補正発明の作用効果も、引用発明と周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。 〈請求人の主張について〉 請求人は、回答書において、英国特許出願公開第2367598号明細書(引用例1)では、「一方のクラッチの係合解除と他方のクラッチの係合の相対的なタイミングは、厳格に固定されています。」と主張し、「英国特許出願公開第2367598号明細書に基づいても本発明1に想到することはない」と述べている。 該主張は明確なものではないが、上記引用例1の「厳格に固定され」たタイミングでは、本願補正発明の要件である「駆動相互接続から分離」したり、「制御された滑り」ができるものではないという主張であると推測される。 しかしながら、前記の如く、引用例1のクラッチは「摩擦クラッチ」であって、「ギヤ10は自由に回転できる」ように設定されている[前記第2 2.(1)(ウ)の下線部訳(f)参照]から、引用発明では「駆動相互接続から分離」したり、「制御された滑り」ができないということはない。 更に付言すると、上記請求人の主張に係る本願補正発明後段「駆動相互接続から分離」及び「制御された滑り」は、当初明細書にはなく、平成19年7月20日付けの手続補正書から加入されたものである。 そこで、当初明細書及び図面からその根拠を探すと、【図3】と当初明細書【0033】の「制御されたクラッチ滑りを」と【0035】の「滑り速度の制御」であるが、これらは電子油圧ソレノイド82によるもので、入力シャフトを前進ベベルギヤかあるいは後退ベベルギヤのいずれかに係合させるドッグクラッチ用のものであって、第1,第2の摩擦クラッチで「駆動相互接続から分離」したり、「制御された滑り」をする記載はなく、また、そのための具体的手段の開示もない。 ところが前記の如く平成19年7月20日付けの手続補正書で、第1,第2の摩擦クラッチと、「駆動相互接続から分離」及び「制御された滑り」とを関係付けた補正が為されている。 即ち、該平成19年7月20日付けの手続補正書は、明細書に支持されていないものを特許請求の範囲に加入したものと判断し、当審では、前記3.(7)の如く、引用例1も本願補正発明も機構上同程度で、第1,第2の摩擦クラッチで「駆動相互接続から分離」したり、「制御された滑り」ができるものとした。 なお、船舶の速度変速装置システムにおいて、第1,第2の摩擦クラッチにおける「駆動相互接続から分離」及び「制御された滑り」ができることを明確に示したものもよく知られており、引用例2を示すことができるから、仮に、引用例1で、第1,第2の摩擦クラッチで「駆動相互接続から分離」したり、「制御された滑り」ができるものではないとし、もう一つの相違点b:第1,第2の摩擦クラッチでの「駆動相互接続から分離」及び「制御された滑り」を摘示したとしても、引用発明と周知技術である引用例2に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められる。 したがって、本願補正発明は、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成24年2月20日付けの手続補正は上記のとおり却下され、平成23年5月9日付け手続補正書は既に却下されているので、本願の請求項に係る発明は、平成22年5月6日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「海洋用船舶を駆動するために搭載される2速度変速装置システムであって、 前記海洋用船舶のエンジンの駆動シャフトと直接接続される入力シャフトと、 前記入力シャフトと同軸であり、前記海洋用船舶の動力伝達装置と直接接続される出力シャフトと、 第1ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第1ギヤトレインと、 第2ギヤ比で前記入力シャフトから前記出力シャフトに駆動力を伝達する第2ギヤトレインと、 前記第1ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記第1ギヤ比で駆動するよう係合される第1の摩擦クラッチと、 前記第2ギヤトレインを係合・係合解除するよう作動可能であり、前記海洋用船舶を前記第2ギヤ比で駆動するよう係合され、前記第1の摩擦クラッチと同軸である第2の摩擦クラッチとを備え、 前記入力シャフトが、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの係合解除により前記出力シャフトとの駆動相互接続から分離され、 前記第1ギヤ比と前記第2ギヤ比との間のシフト時に、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの一方が、制御された滑りを用いることで係合解除され、前記第1の摩擦クラッチおよび前記第2の摩擦クラッチの他方が、制御された滑りを用いることで係合されるようになっている、2速度変速装置システム。」 2.刊行物等 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物等、および、その記載事項は、前記「第2 2.」に記載したとおりである。 3.判断 本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明から「第1ギヤ比」の限定事項である「低速で固定された」と「第2ギヤ比」の限定事項である「巡航速度で固定された」の構成を省き、「第2の摩擦クラッチ」の限定事項である「直接的な1対1の駆動で前記出力シャフトを前記入力シャフトに係合するように作動可能であり」の構成を省き、同じく「前記第1の摩擦クラッチ」の限定事項である「前記第1ギヤ比を1対1以外とするように、副シャフトを介して前記入力シャフトを前記出力シャフトに接続するよう作動可能である、」の構成を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、前記「第2 4.」に記載したとおり、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明と周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-06 |
結審通知日 | 2013-02-12 |
審決日 | 2013-02-25 |
出願番号 | 特願2006-520631(P2006-520631) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B63H)
P 1 8・ 575- Z (B63H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 北村 亮 |
特許庁審判長 |
川向 和実 |
特許庁審判官 |
杉浦 貴之 小関 峰夫 |
発明の名称 | 複速度変速装置 |
代理人 | 野田 雅一 |
代理人 | 山田 行一 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 池田 成人 |
代理人 | 山口 和弘 |