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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H05B |
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管理番号 | 1276817 |
審判番号 | 不服2012-6588 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-11 |
確定日 | 2013-07-18 |
事件の表示 | 特願2001- 6383「上面発光型発光素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成14年 8月 2日出願公開、特開2002-216976〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成13年1月15日の出願であって、平成23年9月16日付け及び同年12月19日付けで手続補正書が提出され、その後、平成24年1月6日付けで平成23年12月19日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成24年4月11日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同時に手続補正がなされたものである。 その後、平成24年10月4日付けで、審判請求人に前置報告の内容を示し意見を求めるための審尋を行ったところ、同年12月7日付けで回答書が提出された。さらに、当審において、平成25年2月12日付けで平成24年4月11日付けの手続補正の補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶理由が通知され、平成25年4月15日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正書が提出された。 第2 本願発明について 1.本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という」)は、平成25年4月15日付けの手続補正により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「基板上に設けられた下部電極と、当該下部電極上に設けられた少なくとも発光層を有する有機層と、当該有機層上に設けられた光透過性上部電極とからなる発光素子において、 前記下部電極は、前記基板側から金属材料層と、当該金属材料層を構成する金属材料の酸化物のうち前記有機層よりも導電性が高い材料からなり、前記金属材料層の表面粗さを緩和する緩衝薄膜層との順に積層された構造を有する 上面発光型発光素子。」 2.引用刊行物 当審で通知した拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第99/39393号(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。(なお、仮訳として、ファミリー文献である特表2001-507167号公報(以下「引用文献1’」という。)の記載を採用した。また、下線は当審が付した。) (a)「電子および正孔の伝達関数が別々の有機層と、電子伝達層20(ETL)と、正孔伝達層(HTL)21との間に分割される改良された構造を第3図に示す。」(引用文献1第2頁第17?19行(引用文献1’第6頁第20?21行)) (b)「従来のOLEDはITOアノードにより光を抽出するが、透明度の高いカソード(TC)による光の抽出に頼るアーキテクチャは、透明なOLEDまたは不透明な基板上に作成されたOLEDに望ましいものである。Siは特に望ましいOLED基板である。というのは、Siウェハに作成された回路は表示機能を提供する駆動回路と低コストで統合できるからである。Si回路の小型化および顕著なパフォーマンスを考えると、高い情報内容のOLED/SiディスプレイはSi集積回路(IC)上に安く作成できるだろう。」(引用文献1第4頁第4?10行(引用文献1’第8頁第7?15行)) (c)「本発明の手法は、前処理した集積ディスプレイ回路(ここではSi ICという)を取り入れ、Si好ましいことにSi結晶ウェハの上にOLEDを作成するために特に設計されたものである。」(引用文献1第7頁第15?17行(引用文献1’第10頁第23?25行)) (d)「アノード改質層48は、長期間にわたって一貫したOLEDパフォーマンスを保証するために、隣接する有機放出層(EML)49との安定した界面を形成しなければならない。」(引用文献1第12頁第5?7行(引用文献1’第14頁第14?17行)) (e)「Si基板上に作成されたTC OLED用の本発明のアノードの第3の実施の形態を第6図に示す。基板33から上には、Si IC/Ni/NiOx/V_(2)O_(5)/HTL/EML/ETL/TC OLED構造が付着の順に示されている。第6図のSi IC33はAl:Cu合金の上部金属接点34を含み、これは本発明のアノード内の金属層として機能する。 Si ICの完成後、基板33のうち、金属接点層34によって覆われている部分の上に2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成する。本発明のアノードは、HTL38内へ正孔を注入可能なV_(2)O_(5)アノード改質層37の付着によって完成する。TC41からETL40内に注入された電子は有機放出層39内で再結合し、TC41から抽出されるEL42を生成する。単純にするため、Si基板内の回路は図示しない。 本発明のアノードの金属層34とアノード改質層37との間には任意に多数の障壁層35、36を挿入することができる。ただし、それそれの界面またはその大部分における過剰な直列抵抗によってデバイス効率を低減しないものとする。本実施の形態のNi35/NiOx36障壁層構造は、良好なデバイス効率を保証するために、Ni35金属の高い反射率と、絶縁しているNiOx36層の透明度および厚さを頼りにしている。 Ni層およびNiOx層のない第3の実施の形態は、Al:Cu合金34とアノード改質層37との化学反応のために不安定である。Ni35表面の酸化あるいは追加の障壁層の付着により、Ni金属はアノード改質層37からさらに化学的に隔離される。Ni35障壁層は導電性が高いので、隣接するICメタライゼーション34(第6図には図示しない)間の側方伝導を回避するために、非常に薄くするかまたはパターン化(第6図に示す)しなければならない。 第6図に示す本発明の金属/Ni/NiOx/V_(2)O_(5)アノード構造を有するデバイスは、従来のITOアノードより急峻な電流/電圧特性と、同様の電力効率を示す。」(引用文献1第15頁第4行?第16頁第10行(引用文献1’第17頁下から第8行?第18頁第22行)) (f)「 」 (g)「 」 上記記載事項からみて、引用文献1記載の「OLED」が上面発光型OLEDであることは明らかであるから、上記引用文献1の記載事項から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「基板33上に、Si IC/Ni/NiOx/V_(2)O_(5)/HTL/EML/ETL/TCの順に付着された上面発光型OLEDにおいて、 Si IC33はAl:Cu合金の上部金属接点34を含み、これはアノード内の金属層として機能し、 Si ICの完成後、基板33のうち、金属接点層34によって覆われている部分の上に2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成し、アノードは、HTL38内へ正孔を注入可能なV_(2)O_(5)アノード改質層37の付着によって完成する上面発光型OLED。」 3.対比 (1)本願発明と引用発明との対比 (a)引用発明の「基板33」、「HTL/EML/ETL」、「TC」及び「上面発光型OLED」が、それぞれ、本願発明の「基板」、「当該下部電極上に設けられた少なくとも発光層を有する有機層」、「当該有機層上に設けられた光透過性上部電極」及び「上面発光型発光素子」に相当する。 (b)引用発明において、「Si IC33はAl:Cu合金の上部金属接点34を含み、これはアノード内の金属層として機能し、Si ICの完成後、基板33のうち、金属接点層34によって覆われている部分の上に2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成し、アノードは、HTL38内へ正孔を注入可能なV_(2)O_(5)アノード改質層37の付着によって完成する」のであるから、引用発明の「Al:Cu合金の上部金属接点34」及び「Ni/NiOx/V_(2)O_(5)」は、本願発明の「下部電極」に相当する。 また、本願発明において、「緩衝薄膜層」が「金属材料層の表面の粗さを緩和する」のは、本願の明細書段落【0012】、【0019】、【0020】の記載によれば、表面粗さが粗い金属膜上に、表面粗さが小さい金属酸化膜を、スパッタリング法や熱酸化法により積層することにより達成されると認められ、引用発明の「2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成」した構成も、金属膜(「Ni35障壁層」)上に金属酸化膜(「NiOx36障壁層」)を積層したものであるから、本願発明と同様、「NiOx36障壁層」が「Ni35障壁層」の表面粗さを緩和するものであると認められる。さらに、「NiOx36障壁層」が「Ni35障壁層」の酸化物であることから、引用発明の「Si ICの完成後、基板33のうち、金属接点層34によって覆われている部分の上に2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成」する構成が、本願発明の「前記基板側から金属材料層と、前記金属材料層を構成する金属材料の酸化物」「からなり、前記金属材料層の表面粗さを緩和する緩衝薄膜層との順に積層された構造を有する」構成に相当する。 したがって、引用発明の「Si IC/Ni/NiOx/V_(2)O_(5)」、「Si IC33はAl:Cu合金の上部金属接点34を含み、これはアノード内の金属層として機能し、Si ICの完成後、基板33のうち、金属接点層34によって覆われている部分の上に2層のNi35/NiOx36の障壁層が順に直接付着されるか、あるいは、Ni35障壁層が付着され、その表面がその後酸化されてNiOx36障壁層を形成し、アノードは、HTL38内へ正孔を注入可能なV_(2)O_(5)アノード改質層37の付着によって完成する」構成と、本願発明の「前記下部電極は、前記基板側から金属材料層と、前記金属材料層を構成する金属材料の酸化物のうち前記有機層よりも導電性が高い材料からなり、前記金属材料層の表面粗さを緩和する緩衝薄膜層との順に積層された構造を有する」構成とは、「前記下部電極は、前記基板側から金属材料層と、前記金属材料層を構成する金属材料の酸化物からなり、前記金属材料層の表面粗さを緩和する緩衝薄膜層との順に積層された構造を有する」構成で一致する。 (2)一致点 してみると両者は、 「基板上に設けられた下部電極と、当該下部電極上に設けられた少なくとも発光層を有する有機層と、当該有機層上に設けられた光透過性上部電極とからなる発光素子において、 前記下部電極は、前記基板側から金属材料層と、当該金属材料層を構成する金属材料の酸化物からなり、前記金属材料層の表面粗さを緩和する緩衝薄膜層との順に積層された構造を有する 上面発光型発光素子。」 で一致し、次の点で相違する。 (3)相違点 「緩衝薄膜層」を形成する「金属材料の酸化物」が、本願発明では「前記金属材料層を構成する金属材料の酸化物のうち前記有機層よりも導電性が高い材料からな」るものであるのに対して、引用発明では、「NiOx」が「HTL/EML/ETL」よりも導電性が高いか否かが明らかでない点。 (4)判断 上記相違点について検討する。 有機EL素子において、電極を発光層等の有機物層よりも導電性が高い材料で形成することは周知であるから、引用発明において、電極を構成する「NiOx」として、「HTL/EML/ETL」よりも導電性が高いものを使用することは、当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願発明が奏し得る効果は、引用発明が奏し得るものであるか、または、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に想到し得るものであって格別なものではない。 したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第3 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-22 |
結審通知日 | 2013-05-23 |
審決日 | 2013-06-05 |
出願番号 | 特願2001-6383(P2001-6383) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川村 大輔、東松 修太郎、清水 裕勝 |
特許庁審判長 |
伊藤 昌哉 |
特許庁審判官 |
土屋 知久 北川 清伸 |
発明の名称 | 上面発光型発光素子及びその製造方法 |
代理人 | 藤島 洋一郎 |