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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04R
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04R
管理番号 1276835
審判番号 不服2012-21152  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-26 
確定日 2013-07-18 
事件の表示 特願2007-171678「音響装置およびスピーカの駆動方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 1月15日出願公開、特開2009- 10824〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成19年6月29日の出願であって、平成24年2月14日付けの拒絶理由通知に対して同年4月23日付けで手続補正がなされたが、同年8月23日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月26日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされ、その後、平成25年2月13日付けの審尋に対し、回答書が提出されなかったものである。


第2 平成24年10月26日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年10月26日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】
音声信号を入力する入力手段と、
前記入力手段を介して入力された音声信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に対応する特性に応じて補正する補正手段と、
前記補正手段によって補正された音声信号を、前記スピーカに出力する出力手段と、
を有し、
前記補正手段は、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する第2の補正特性と、に応じて、前記音声信号の対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する、
ことを特徴とする音響装置。
【請求項2】
2つの前記第1の補正特性と前記第2の補正特性とは、その一方が電圧を抑制する方向での補正特性であり、他方は電圧を増加する方向での補正特性であることを特徴とする請求項1記載の音響装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記第1の入出力特性および第2の入出力特性を二次曲線または三次曲線によって近似し、得られた曲線に対応して生成された第1の補正特性および第2の補正特性に基づいて補正処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の音響装置。
【請求項4】
前記入力手段を介して入力された音声信号から所定の周波数未満の音声信号を濾波して前記補正手段に出力する第1の濾波手段と、
前記入力手段を介して入力された音声信号から所定の周波数以上の音声信号を濾波して出力する第2の濾波手段と、
前記補正手段から出力される音声信号と、前記第2の濾波手段から出力される音声信号とを合成して、前記出力手段に供給する合成手段と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項5】
前記第1の濾波手段は、前記所定の周波数未満の信号を通過させるFIRフィルタによって構成され、
前記第2の濾波手段は、前記所定の周波数以上の信号を通過させるFIRフィルタによって構成されている、
ことを特徴とする請求項4記載の音響装置。
【請求項6】
音声信号を入力し、
入力された音声信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に応じて補正し、
補正された音声信号を前記スピーカに出力する際に、
前記補正として、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する第2の補正特性と、に応じて、前記音声信号の対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する、
ことを特徴とするスピーカの駆動方法。」
とあったところを、

「【請求項1】
音声信号を入力する入力手段と、
前記入力手段を介して入力された音声信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に対応する特性に応じて補正する補正手段と、
前記補正手段によって補正された音声信号を、前記スピーカに出力する出力手段と、
を有し、
前記補正手段は、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性とに応じて、前記音声信号の対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する、
ことを特徴とする音響装置。
【請求項2】
2つの前記第1の補正特性と前記第2の補正特性とは、その一方が電圧を抑制する方向での補正特性であり、他方は電圧を増加する方向での補正特性であることを特徴とする請求項1記載の音響装置。
【請求項3】
前記補正手段は、前記第1の入出力特性および第2の入出力特性を二次曲線または三次曲線によって近似し、得られた曲線に対応して生成された第1の補正特性および第2の補正特性に基づいて補正処理を行うことを特徴とする請求項1または2記載の音響装置。
【請求項4】
前記入力手段を介して入力された音声信号から所定の周波数未満の音声信号を濾波して前記補正手段に出力する第1の濾波手段と、
前記入力手段を介して入力された音声信号から所定の周波数以上の音声信号を濾波して出力する第2の濾波手段と、
前記補正手段から出力される音声信号と、前記第2の濾波手段から出力される音声信号とを合成して、前記出力手段に供給する合成手段と、
を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の音響装置。
【請求項5】
前記第1の濾波手段は、前記所定の周波数未満の信号を通過させるFIRフィルタによって構成され、
前記第2の濾波手段は、前記所定の周波数以上の信号を通過させるFIRフィルタによって構成されている、
ことを特徴とする請求項4記載の音響装置。
【請求項6】
音声信号を入力し、
入力された音声信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に応じて補正し、
補正された音声信号を前記スピーカに出力する際に、
前記補正として、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性と、に応じて、前記音声信号の対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する、
ことを特徴とするスピーカの駆動方法。」
とすることを含むものである。

なお、「逆関数を用いた」ことについて、本件補正後の請求項6に「第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性」、「逆関数を用いた第2の入出力特性に対応する第2の補正特性」と記載され、また本件補正後の請求項1には「第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性」と記載されていることから、本件補正後の請求項6の「逆関数を用いた第2の入出力特性に対応する第2の補正特性」との記載は、「第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性」の誤記と認定した。


そして、本件補正は、

本件補正後の請求項1において、本件補正前の「第1の入出力特性に対応する第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する第2の補正特性」との特定事項を、それぞれ、「第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性」と限定するとともに、本件補正後の請求項6において、本件補正前の「第1の入出力特性に対応する第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する第2の補正特性」との特定事項を、「第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性」と限定するものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項6に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。

本願補正発明は、再掲すれば、次に記載するとおりのものである。

「音声信号を入力し、
入力された音声信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に応じて補正し、
補正された音声信号を前記スピーカに出力する際に、
前記補正として、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性と、に応じて、前記音声信号の対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する、
ことを特徴とするスピーカの駆動方法。」


2 引用例及びその記載事項

原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願の日前に頒布された刊行物である特開昭60-204198号公報(昭和60年10月15日公開、以下「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a「発明の目的
本発明は、上記欠点に鑑み、スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正して、低歪でありかつ広ダイナミックレンジを実現する低歪スピーカ装置を提供するものである。」(第2頁右上欄第5-9行)

b「実施例の説明
以下、本発明の一実施例について図面を参照しながら説明する。」(第2頁左下欄第3-5行)

c「スピーカ20は、第2図に示すような入力電圧対振巾特性をもっており、大入力時になるにつれ非線形になる。この特性は、入力電圧をx、振巾をyとすると、以下の(1)式の
y=a_(0)+a_(1)x+a_(2)x^(2)+……+a_(n)x^(n)………(1)
(ただしa_(0),……,a_(n)は係数である。)
というn次の近似式で表わされる。スピーカ20からの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするためには、(1)式のxとyを入れ変えた第4図に示す以下の(2)式の特性をもつ非線形補正を行なうことにより実現可能である。
x=b_(0)+b_(1)y+b_(2)y^(2)+……+b_(n)y^(n)………(2)
(ただし、b_(0),……,b_(n)は係数である。)
まず、信号源13からの信号は、低域濾波器14を通り、A/Dコンバータ15によってディジタル信号に変換される。次に、このディジタル信号は(2)式の特性に従って入力信号を変換するD.S.P.16により補正される。
ここで最初にスピーカ20の入力電圧対振巾特性を測定しておき(1)式の各係数a_(0),……,a_(n)を求め、次に(2)式の各係数b_(0),……,b_(n)を導出しておき、前記(2)式の特性をD.S.P.16にプログラミングしておく。
D.S.P.16により補正された信号は、D/Aコンバータ17でアナログ信号に変換され低域濾波器18を通り、スピーカ20から再生される。再生信号は、(2)式の特性を持つ信号と、(1)式の特性をもつスピーカ20により、線形の特性をもつことになる。よって、非線形歪が少なくダイナミックレンジの広い音響特性が得られる。」(第2頁左下欄第16行-第3頁左上欄第5行)

(なお、上記「濾波器14」、「濾波器18」は、引用例に「ろ(さんずいに戸からなる漢字)波器14」、及び、「ろ(同)波器18」と記載されているところ、表記ができないため、「濾波器14」、「濾波器18」と記載した。)

d 第2図には、スピーカの入力電圧対振巾特性のグラフ(第3頁4.図面の簡単な説明の項参照)が示され、ここで、入力電圧x及び振巾yが正の領域である第1象限では、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、入力電圧x、振巾yが負の領域である第3象限では、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有することが示されている。

e 第4図には、入力電圧対振巾特性のグラフ(第3頁4.図面の簡単な説明の項参照)が示され、ここで、入力電圧x及び振巾yが正の領域である第1象限では、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧x、振巾yが負の領域である第3象限では、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有する点が示されている。


ア 上記aの「本発明は、‥‥‥スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正して、低歪‥‥‥を実現する低歪スピーカ装置を提供するものである。」との記載から、引用例には、「スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正するスピーカ装置」が記載されているといえる。

イ 上記cの「スピーカ20は、第2図に示すような入力電圧対振巾特性をもっており、大入力時になるにつれ非線形になる。この特性は、入力電圧をx、振巾をyとすると、以下の(1)式の y=a_(0)+a_(1)x+a_(2)x^(2)+……+a_(n)x^(n)………(1)(ただしa_(0),……,a_(n)は係数である。)というn次の近似式で表わされる。スピーカ20からの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするためには、(1)式のxとyを入れ変えた第4図に示す以下の(2)式の特性をもつ非線形補正を行なうことにより実現可能である。x=b_(0)+b_(1)y+b_(2)y^(2)+……+b_(n)y^(n)………(2)(ただし、b_(0),……,b_(n)は係数である。)」との記載において、(1)式で表されるn次の近似式は、関数fを用いてy=f(x)とし、また(2)式は、(1)式のxとyを入れ変えたものであるから、関数f^(-1)を用いてx=f^(-1)(y)とすることができるから、引用例には、「スピーカの入力電圧対振巾特性は、入力電圧をx、振巾をyとすると、y=f(x)という近似式で表わされ、xとyを入れ変えたx=f^(-1)(y)という近似式で表される特性を用いて、スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にする」ことが記載されているということができる。

ウ 上記cの「スピーカ20は、第2図に示すような入力電圧対振巾特性をもっており、大入力時になるにつれ非線形になる。」との記載、及び、第2図には、スピーカの入力電圧対振巾特性のグラフ(第3頁4.図面の簡単な説明の項参照)が示され、このグラフは、「入力電圧x及び振巾yが正の領域である第1象限では、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、入力電圧x、振巾yが負の領域である第3象限では、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有する」こと(上記d)から、引用例には、「スピーカの入力電圧対振巾特性は、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有する」ことが記載されているということできる。

エ 上記cの「スピーカ20からの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするためには、(1)式のxとyを入れ変えた第4図に示す以下の(2)式の特性をもつ非線形補正を行なう」との記載、及び、第4図には、入力電圧対振巾特性のグラフ(第3頁4.図面の簡単な説明の項参照)が示され、このグラフは、「入力電圧x及び振巾yが正の領域である第1象限では、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧x、振巾yが負の領域である第3象限では、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有する」こと(上記e)から、引用例には「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性は、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有する」ことが記載されているということができる。

オ したがって、上記引用例に記載された事項、図面の記載、及び上記アないしエを総合すると、引用例には、次の事項が記載されている(以下、引用発明という。)。

「スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正するスピーカ装置であって、
スピーカの入力電圧対振巾特性は、入力電圧をx、振巾をyとすると、y=f(x)という近似式で表わされ、xとyを入れ変えたx=f^(-1)(y)という近似式で表される特性を用いて、スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするものであり、
ここで、スピーカの入力電圧対振巾特性は、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、
スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性は、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有する、
スピーカ装置。」


3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)引用発明は「スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正するスピーカ装置」であって、ここで、「入力電圧」は、スピーカに入力される「信号」と、また、「スピーカの入力電圧対振巾特性」は、「駆動しようとするスピーカの入出力特性」と捉えることができ、さらに、引用発明のスピーカは、スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性に対して、その非線形性を補正するものといえるから、本願補正発明と引用発明とは、「信号を入力し、入力された信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に応じて補正する」点で共通する。

(2)引用発明における、スピーカの入力電圧対振巾特性に対する補正は、「スピーカの入力電圧対振巾特性」が「入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性」を有するものであって、これに対して、スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性は、「入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性」を有するものであって、これにより、「最終の入力電圧対振巾特性を線形にする」、すなわち、「スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正する」ものである。
ここで、「スピーカの入力電圧対振巾特性」について、スピーカの動作原理から、「振巾yが正方向」を本願補正発明の「前記スピーカの振動系の第1の変位方向」に対応付けるとすると、「振巾yが負方向」であることは、本願補正発明の「前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向」であることに相当する。
したがって、引用発明において、「入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性」を有する「スピーカの入力電圧対振巾特性」、「入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が減少する、非線形な特性」を有する「スピーカの入力電圧対振巾特性」は、それぞれ、本願補正発明の「前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性」、「前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性」に相当する。

そして、引用発明は、「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするためにxとyを入れ変えたx=f^(-1)(y)という近似式で表される特性を用いて非線形補正を行なうもの」であるから、「x=f^(-1)(y)という近似式で表される特性」を用いて「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にする」ことは、本願補正発明と、「入出力特性に対応する逆関数を用いた」「補正特性と、に応じて、前記信号を補正処理する」点で共通する。

また、引用発明は、「最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性」を用いて、入力電圧に対応した補正を施して補正を行うことから、引用発明は、「補正された信号を前記スピーカに出力する際に、」補正を行うものということができる。

したがって、本願補正発明と引用発明とは「補正された信号を前記スピーカに出力する際に、前記補正として、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性と、に応じて、前記信号を補正処理する」点で共通する。

(4)引用発明は、「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするために」、「スピーカの入力電圧対振巾特性」と「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性」を用いるものであるから、最終の入力電圧対振巾特性を線形にするよう補正処理する、スピーカの駆動方法と捉えることができる。
したがって、本願補正発明と引用発明とは「補正処理する、スピーカの駆動方法」である点で共通する。


すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「信号を入力し、
入力された信号を、駆動しようとするスピーカの入出力特性に応じて補正し、
補正された信号を前記スピーカに出力する際に、
前記補正として、前記スピーカの振動系の第1の変位方向に対する第1の入出力特性に対応する逆関数を用いた第1の補正特性と、前記第1の変位方向とは異なる第2の変位方向に対する第2の入出力特性に対応する逆関数を用いた第2の補正特性と、に応じて、前記信号を補正処理する、
スピーカの駆動方法。」


<相違点>

(ア)スピーカの入力信号について、本願補正発明が「音声信号」であるのに対し、引用発明は「音声」との特定がない点。

(イ)本願補正発明が、前記音声信号の「対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する」のに対し、引用発明は、「対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理する」ことについて特定がない点。


4 判断

<相違点>(ア)について
一般に、スピーカーに音声信号を入力することは周知慣用手段であるから、引用発明において音声信号を入力することに格別の困難性を有しない。

よって、本願補正発明の<相違点>(ア)に係る構成のようにすることは格別なことではない。

<相違点>(イ)について
引用発明は、「スピーカからの最終の入力電圧対振巾特性を線形にするための入力電圧対振巾特性は、入力電圧xが0から正方向に増大するにつれ、振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有し、入力電圧xが0から負方向に増大するにつれ、振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性を有する」ものであって、「入力電圧xが0から正方向に増大する」場合に、「振巾yが、正方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性」は、振巾yを正方向に補正するものであり、また、「入力電圧xが0から負方向に増大する」場合において、「振巾yが、負方向の線形的な増大からその増加率が増大する、非線形な特性」は、振巾yを負方向に補正するものであって、少なくとも、両者は、振巾yを正方向に補正するか、負方向に補正するかが異なるものであるから、「入力電圧xが0から正方向に増大する」場合と、「入力電圧xが0から負方向に増大する」場合とで、異なる補正処理をするものであるということができ、また、異なる補正処理をする場合に、それぞれ補正処理をすることに格別の困難性を有しないから、「入力電圧xが0から正方向に増大する」場合と、「入力電圧xが0から負方向に増大する」場合とでそれぞれ補正処理をすること、すなわち、対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理するようにすることは、当業者が適宜なし得る事項である。

なお、請求人は、平成24年10月26日付け審判請求書(d)において、「本発明は、振動板の前方への動きと後方への動きが非線形であることに着目し、入力される音声信号の電気信号の波形が音波になるまでの歪を電気信号の段階で逆関数を用いて音波の歪を減らすようにしたものであり、振動板の前方への動きと後方への動きを個別に補正処理するようにしたことを特徴とするものでありますが、引用文献1にこのような技術思想を適用することは上述のとおりその示唆がないことから当業者に容易に行えたものとはいえないものと思料いたします。」と主張しているが、引用発明も、「スピーカの入力電圧対振巾特性の非線形性を補正する」ものであり、また、「入力電圧xが0から正方向に増大する」場合、すなわち、スピーカの振動板の前方への動きと、「入力電圧xが0から負方向に増大する」場合、すなわち、スピーカの振動板の後方への動きとで、それぞれ非線形性を有するものであるから、この点において格別の相違を有しない。
また、振動板の前方への動きと後方への動きが非線形であるということが、振動板の前方への動きと後方への動きが対称ではなく非対称であることを意味するものであるとしても、本願特許請求の範囲の請求項6には、非対称であることについて記載されておらず、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって採用することができない。加えて、振動板の前方への動きと後方への動きが対称ではなく非対称である場合であっても、スピーカにおいて、振動板の動きが前方と後方で非対称になることは周知な事項であり(例えば、平成25年2月13日付けの審尋で援用した、平成24年12月7日付けの前置報告で引用された、特開2004-7331号公報(「【0008】図23は従来のスピーカのパワーリニアリティ、スピーカ入力電力に対する振動板5の変位を示している。Aは磁気回路1に向けた振動板5の振幅特性を示し、Bは磁気回路1とは反対方向の振動板5の振幅特性を示す。‥‥‥」、図23(AとBで異なる特性を有することが示されている。))参照)、引用発明において、この非対称がある場合にはこの非対称性を考慮して、「入力電圧xが0から正方向に増大する」場合と、「入力電圧xが0から負方向に増大する」場合にそれぞれ補正処理をすること、すなわち、「対応する極性側の信号をそれぞれ補正処理するようにすること」は当業者が容易になし得る事項である。

よって、本願補正発明の<相違点>(イ)に係る構成のようにすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は、引用発明及び周知技術から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成24年10月26日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成24年4月23日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1 」の本件補正前の「請求項6」として記載したとおりのものである。


2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由] 2 引用例及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、「逆関数を用いた」との限定を削除して「第1の入出力特性に対応する第1の補正特性」、「第2の入出力特性に対応する第2の補正特性」とするものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「第2 [理由] 4 判断」に示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2007-171678(P2007-171678)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04R)
P 1 8・ 575- Z (H04R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡邊 正宏  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 石丸 昌平
石井 研一
発明の名称 音響装置およびスピーカの駆動方法  

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