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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1276853 |
審判番号 | 不服2011-7977 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-04-14 |
確定日 | 2013-07-17 |
事件の表示 | 特願2006-541207「スプレー乾燥された混合金属チーグラー触媒組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月 9日国際公開、WO2005/052010、平成19年 5月17日国内公表、特表2007-512416〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は,平成16年10月25日(パリ条約による優先権主張 2003年11月20日 米国(US))を国際出願日とする出願であって,平成22年7月22日付けで拒絶理由が通知され,同年11月2日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年12月8日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成23年4月14日に拒絶査定不服審判が請求され,同年5月20日に手続補正書(方式)が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1乃至22に係る発明は,平成22年11月2日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲、明細書(以下,「本願明細書等」という。)および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「マグネシウム化合物,非メタロセンチタン化合物,およびチタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物のスプレー乾燥反応生成物を含む,チーグラー・ナッタ触媒前駆体組成物であって,前記チタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物はハフニウム化合物を含み,前記チタン化合物のハフニウム化合物に対するモル比は100/1?1/20である,前駆体組成物。」 第3.引用文献及びその記載事項 これに対して,平成22年7月22日付けの拒絶理由通知で引用された,本願の優先日前に頒布された特表2003-503589号公報(以下,「引用文献1」という。)には,次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 1.「【請求項1】 a)MgZrM_(x)(式中,Mは,+3または+4の酸化状態を有する一つ以上の金属から成る群から選択され, xは,0から約2であり,および マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比は,約2.5から3.6の範囲内にある);および b)アルコキシド基,フェノキシド基,ハロゲン化物,ヒドロキシ基,カルボキシレート基,アミド基,およびそれらの混合基から成る群から選択される成分a)と錯体形成した少なくとも一つの部分 を含む混合金属錯体前駆物質。 【請求項2】 Mが,Ti,Zr,V,Fe,Sn,Ni,Rh,Co,Cr,Mo,WおよびHfから成る群から選択される一つ以上の金属である,請求項1に記載の前駆物質。」(特許請求の範囲請求項1及び2) 2.「【発明が解決しようとする課題】 広いMWDを有するポリオレフィンを製造するために用いることができる良好な形態を有する単一触媒を開発する必要がある。広いMWDを有するポリオレフィンを単一反応器内で製造することができる触媒を開発する必要もある。調節された触媒崩壊率を有する実質的に球状のプロ触媒を製造する方法,および広いMWDを有するポリマー粒子を製造することができる実質的に球状のプロ触媒を製造する方法を提供する必要もある。触媒前駆物質,および前述のどの不利点も有さない触媒を製造する方法を開発する必要もある。 【課題を解決するための手段】 本発明のこれらおよびその他の特徴に従って,混合金属部分として,Mg_(y)ZrM_(x)(式中,Mは,+3または+4の酸化状態を有する一つ以上の金属から選択され,xは,0から約2であり,マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比(すなわち,y/(1+x))は,約2.5から3.6の範囲内である)を含有する混合金属錯体前駆物質を提供する。前駆物質は,混合金属部分と錯体形成する,アルコキシド基,フェノキシド基,ハロゲン化物,ヒドロキシ基,カルボキシレート基およびアミド基から選択される少なくとも一つの基も有する。本発明は,マグネシウムアルコキシド,ハロゲン化マグネシウム,カルボン酸マグネシウム,マグネシウムアミド,マグネシウムフェノキシドまたは水酸化マグネシウムの混合物を,ジルコニウムアルコキシド,ハロゲン化ジルコニウム,カルボン酸ジルコニウム,ジルコニウムアミド,ジルコニウムフェノキシドまたは水酸化ジルコニウムと接触させて,固体前駆錯体を生成すること,そしてその後,混合物から固体錯体を分離することを含む前駆物質を製造する方法も提供する。この方法に従って,好ましくはクリッピング剤を用い,任意にハロゲン化物および脂肪族アルコールを用いて,固体前駆錯体を生成することができる。 本発明のもう一つの特徴に従って,上述の前駆物質を,適するハロゲン化剤および任意の電子供与体と反応させることによって調製されるプロ触媒を提供し,このプロ触媒は,触媒に転化され,少なくとも一つのオレフィンを重合させるために用いられると,改善された触媒活性を有し,広いMWD,卓越したかさ密度,メルトインデックス,フローインデックスおよびメルトフローインデックスを有するポリマーを生じる。さらに,この触媒は,調節された触媒崩壊率を有する。」(段落0012?0014) 3.「本明細書全体を通して,用語『前駆物質』および表現『プロ触媒前駆物質』は,マグネシウム,ジルコニウムおよび金属Mの混合物を含有する(Mが一つ以上の金属を包含することにご留意いただきたい)が,電子供与体を含有せず,且つ,ハロゲン化アルキルアルミニウムまたは四価チタンハロゲン化物なとのハロゲン化剤および任意に電子供与体と接触させることによって『プロ触媒』(以下で定義する)に転化させることができる固体材料を示す。本明細書全体を通して,用途『プロ触媒』は,活性触媒成分であり,且つ,有機アルミニウム化合物(好ましくは,トリイソブチルアルミニウム(TIBA)およびアルミノキサン)および任意の外部供与体,すなわち選択性調整剤と接触させることによって重合触媒に転化させることができる固体材料を示す。」(段落0017) 4.「混合金属アルコキシドは,マグネシウムおよびジルコニウムと錯体形成する,Ti,Zr,V,Fe,Sn,Ni,Rh,Co,Cr,Mo,WおよびHfから選択される追加の金属Mを有することができる。前述の反応において,追加の金属を用いる場合,金属(M)化合物は,好ましくは,VCl_(4),FeCl_(3),SnCl_(4),Ti(OEt)_(4),TiCl_(3),TiCl_(4),HfCl_(4),Hf(OEt)_(4),Zr(NEt_(2))_(4)から成る群から選択される。当業者は,本明細書中で提供するガイドラインを用い,これらの金属含有化合物のいずれかを用いて,Mを含む混合金属アルコキシドを調製することができる。」(段落0029) 5.「好ましくは,固体前駆物質材料は,デカンテーション,濾過,遠心分離などを含むが,それらに限定されないいずれかの適する手段によって,反応混合物から分離する。さらに好ましくは,固体材料は濾過し,最も好ましくは,圧力および/または温度といった起動力のもとで濾過する。その後,濾過した固体は,モノクロロベンゼン,トルエン,キシレン,イソペンタン,イソオクタンなどを含むが,それらに限定されない一つ以上の溶媒で,少なくとも1回洗浄することができる。混合物(または母液,および後の洗浄溶媒)からの分離後,好ましくは,固体プロ触媒前駆物質を乾燥する。乾燥は,約25℃から約45℃の温度で,おおよそ約10分から約10時間,乾燥した水分のない導入窒素を供給することによって行い,これによって,実質的に乾燥している生成物を得る。およそ50から約150℃のより高い温度を用いて,より短い時間で前駆物質を乾燥してもよい。 あらゆるメカニズムを用いて,本発明の乾燥を実施することができる。例えば,フィルターケーキは,加熱した不活性ガス流をケーキに上記の時間流すことによって乾燥してもよい。あるいは,フィルターケーキをフィルターから取り外して,その後,通常の乾燥装置内で,直接加熱,間接加熱,赤外線加熱,放射加熱または誘電加熱を利用して乾燥させてもよい。約25℃より高い温度で固体を乾燥させることができるあらゆる装置を本発明に従って用いることができる。特に好ましい乾燥装置には,直接連続乾燥機,連続シート乾燥機,気送乾燥機,回転乾燥機,噴霧乾燥機,空気循環乾燥機,トンネル型乾燥機,流動床乾燥機,バッチ式空気循環乾燥機,棚型および仕切型乾燥機,シリンダー乾燥機,スクリューコンベヤー乾燥機,ドラム乾燥機,蒸気管回転乾燥機,振動棚型乾燥機,撹拌槽乾燥機,冷凍乾燥機,真空回転乾燥機および真空棚型乾燥機が挙げられるが,それらに限定されない。最も好ましくは,固体前駆物質材料は,単一または複数の濾葉を結合したフィルターおよび乾燥機で乾燥する。当業者は,本発明に従う前駆物質を乾燥させるために適する乾燥機および乾燥プロトコルを設計することができる。」(段落0033?0034) 6.「混合金属含有プロ触媒は,チーグラー・ナッタ触媒系の一成分として働き,この触媒中で前記プロ触媒は,助触媒および任意に選択性調整剤と接触している。チーグラー・ナッタ触媒系に用いられる助触媒成分は,遷移金属ハロゲン化物を用いるオレフィン重合触媒系の既知活性化剤のいずれから選択してもよいが,有機アルミニウム化合物が好ましい。」(段落0039) 7.「 E. Mg,Hf,TiおよびZrを含有する前駆物質の調製 マグネシウム,ハフニウム,チタンおよびジルコニウムを含有する前駆物質は,以下の反応: 3Mg(OEt)_(2) + 0.55HfCl_(4) + 0.40Zr(OBu)_(4) + 0.15Ti(OEt)_(4) + 0.1HOC_(6)H_(4)CO_(2)Me + 3.8EtOH ?????> によって調製した。 HfCl_(4)(4.40g,13.75mmol),Ti(OEt)_(4)(0.90g,95%,3.75mmol),およびZr(OBu)_(4)(4.40g,87.5%,10.0mmol)を8オンス瓶内で,エタノール(5.6mL,4.4g,95mmol)と混合した後,サリチル酸メチル(0.38g,2.5mmol)を添加た。混合物を約60℃で45分間撹拌して,黄色溶液を得た。混合物に,さらに70gのクロロベンゼンを添加し,続いてMg(OEt)_(2)(8.58g,75mmol)を添加し,続いてさらに30gのクロロベンゼンを添加した。瓶を97℃の油浴内に定置し,65分間,440rpmで撹拌すると,ほぼすべてのマグネシウムエトキシド粒体が溶解してしまったように見えた。約8%の溶媒が蒸発してしまうように,2時間,反応物上に穏かな窒素流を流した。スラリーを一晩撹拌,冷却させた後,混合物をグローブボックスに移し,濾過した。固体をクロロベンゼンで1回,ヘキサンで2回洗浄した後,移動する窒素のもとで乾燥させた。直径5から15マイクロメートルのほぼ半透明の粒体から主として成る白色粉末11.1gが得られた。」(段落0070) 8.「上記実施例からわかるように、多様な混合金属含有前駆物質を調製し、次に、高活性の重合プロ触媒を生成することができる。本発明の混合金属前駆物質は、重合プロ触媒に転化させると、卓越した加工性、流動性および広い分子量分布を有するポリマーを生成し、触媒は、卓越した触媒崩壊を有する。当業者は、本明細書中で提供するガイドラインを用いて、多様な触媒崩壊率と、多用な分子量分布を有するポリマーとを生じる重合プロ触媒を製造することができる。本発明の実施例は、前駆物質の卓越した形態を保持することによって、微粉がより少なく、ならびにキシレン溶解物含量がより少ないポリマーを生じる重合プロ触媒も提供する。」(段落0079) 第4.当審の判断 1.引用文献に記載された発明 引用文献1に記載の 「a)MgZrM_(x)(式中,Mは,Ti,Zr,V,Fe,Sn,Ni,Rh,Co,Cr,Mo,WおよびHfから成る群から選択される一つ以上の金属であり, xは,0から約2であり,および マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比は,約2.5から3.6の範囲内にある);および b)アルコキシド基,フェノキシド基,ハロゲン化物,ヒドロキシ基,カルボキシレート基,アミド基,およびそれらの混合基から成る群から選択される成分a)と錯体形成した少なくとも一つの部分 を含む混合金属錯体前駆物質。」(摘示事項1) に関し、マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比は1/(1+x)であるから、「マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比は,約2.5から3.6の範囲内」を満足しえない。 そうすると、「MgZrM_(x) ・・ xは,0から約2であり,および マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比は,約2.5から3.6の範囲内にある」という記載にはなんらかの錯誤があるといえるところ、摘示事項2.を勘案すれば上記記載は「Mg_(y)ZrM_(x)(・・xは,0から約2であり,マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比(すなわち,y/(1+x))は,約2.5から3.6の範囲内である)」の誤記であると解することが妥当である。 したがって、引用文献1には,下記の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「a)Mg_(y)ZrM_(x)(・・xは,0から約2であり,マグネシウムのジルコニウムとMの混合物に対するモル比(すなわち,y/(1+x))は,約2.5から3.6の範囲内である);および b)アルコキシド基,フェノキシド基,ハロゲン化物,ヒドロキシ基,カルボキシレート基,アミド基,およびそれらの混合基から成る群から選択される成分a)と錯体形成した少なくとも一つの部分 を含む混合金属錯体前駆物質。」 2.本願発明と引用発明との対比 引用発明の混合金属錯体前駆物質は,摘示事項3及び6の記載からみて,チーグラー-ナッタ触媒系の一成分であるから、本願発明の前駆物質に相当する。 引用発明の混合金属錯体前駆物質は、金属が「Mg_(y)ZrM_(x)」である混合金属錯体前駆物質であることから、金属がMgの錯体と金属がZrの錯体と金属がMの錯体の混合物であるといえる。また、チーグラー-ナッタ触媒系の一成分であるから、遷移金属のメタロセン化合物を包含することはないといえる。 引用発明のMは,Ti及びHfの組み合わせを取り得るものである(摘示事項1,4及び7)。 したがって,本願発明と引用発明とは,下記の点で一致する。 <一致点> マグネシウム化合物,非メタロセンチタン化合物,およびチタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物を含む,チーグラー・ナッタ触媒前駆体組成物であって,前記チタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物はハフニウム化合物を含む,前駆体組成物。 また,両者は,下記の点で相違する。 <相違点1> 本願発明の前駆体組成物は,マグネシウム化合物,非メタロセンチタン化合物,およびチタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物の「スプレー乾燥反応生成物」と特定されているのに対し,引用発明ではかかる特定はなされていない点。 <相違点2> 本願発明においては,「チタン化合物のハフニウム化合物に対するモル比は100/1?1/20である」と特定されているのに対し,引用発明ではかかる特定はなされていない点。 <相違点3> 本願発明の前駆体組成物は,金属としてZrを含む点が限定されていないのに対し,引用発明では金属としてZrを含む点が特定されている点。 3.相違点についての検討 (1)相違点1について 引用文献1には,摘示事項5に,固体前駆物質材料を反応混合物から分離、洗浄、乾燥することについて記載されている。また,特に好ましい乾燥装置として噴霧乾燥機(スプレー乾燥機)が挙げられている。 したがって,引用発明の混合金属錯体前駆物質にはスプレー乾燥反応生成物である態様が包含されているといえるので,相違点1は,実質的な相違点とは認められない。 仮に,そうでないとしても,摘示事項5に記載された種々の乾燥装置の中から,噴霧乾燥機を選択することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 また,「スプレー乾燥」を採用することによって,格別顕著な効果を奏するわけでもない。 (2)相違点2について 引用文献1には,実施例3のE.に,「 HfCl_(4)(4.40g,13.75mmol),Ti(OEt)_(4)(0.90g,95%,3.75mmol),およびZr(OBu)_(4)(4.40g,87.5%,10.0mmol)を8オンス瓶内で,エタノール(5.6mL,4.4g,95mmol)と混合した後,サリチル酸メチル(0.38g,2.5mmol)を添加た。混合物を約60℃で45分間撹拌して,黄色溶液を得た。混合物に,さらに70gのクロロベンゼンを添加し,続いてMg(OEt)_(2)(8.58g,75mmol)を添加し,続いてさらに30gのクロロベンゼンを添加した。」(摘示事項7)と記載されている。 この記載から実施例3におけるチタン化合物のハフニウム化合物に対するモル比を計算すると、約1/3.67(=3.75/13.75)となる。 上記のモル比は,使用した原料のモル比であって,前駆体組成物中のモル比とは異なるものの,上記摘示事項7の反応式から見て,原料と反応生成物とで,そのチタン化合物とハフニウム化合物のモル比に大きな差異が生ずるものとは認められないこと,本願明細書等の実施例におけるスプレー乾燥触媒A前駆体において,その原料におけるモル比(Ti:22.2mmol/Hf:41.2mmol 計算は省略)とスプレー乾燥触媒A前駆体におけるモル比(1/2)とがほぼ一致していることを勘案すれば,実施例3のスプレー乾燥後におけるチタン化合物のハフニウム化合物に対するモル比も約1/3.67であると解することができる。 したがって,引用発明における,チタン化合物のハフニウム化合物に対するモル比は,本願発明の当該モル比と重複一致する態様を包含しているといえる。 よって,相違点2は,実質的な相違点とは認められない。 仮に,そうでないとしても,一般に,チーグラ・ナッタ触媒等のオレフィン重合用触媒の技術分野では,触媒成分である遷移金属成分の種類,その量比,製造方法等の諸条件の差異によって、触媒性能が大きく影響を受けることが知られている。 引用発明においては,MgとZrとMの比は特定されているものの,Mを構成するTiとHfの比については特定されていないから,この両者の関係についても,その量比を考慮することは当業者が容易に想到し得るところである。 そして,引用発明は,広いMWD(分子量分布)を有するポリオレフィンを製造することを課題とするものであるから(摘示事項2),上記の摘示事項7に記載されたチタン化合物のハフニウム化合物のモル比を指標として,広いMWD(分子量分布)を有するポリオレフィンの製造のために最適な範囲を決定することは当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 また,格別顕著な効果が奏されているわけでもない。 (3)相違点3について 本願発明は,「前記チタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物はハフニウム化合物を含」むものであるから、ジルコニウムが含まれる態様を包含しており(除外していない),引用発明にジルコニウムが含まれることは相違点にはなりえない。 3.まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用文献1に記載された発明である。 また,本願発明は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5.審判請求人の主張について 審判請求人は,審判請求書において,次のように主張をしている。 「(3)引用文献との比較 引用文献1(特表2003-503589号公報,拒絶査定における引用文献4と同じ)には,発明の名称を『マグネシウム-ジルコニウムアルコキシド錯体』などとする,(a)MgZrMx,及び,(b)アルコキシド基,フェノキシド基,ハロゲン化物,ヒドロキシ基,カルボキシレート基,アミド基,およびそれらの混合基から成る群から選択される成分(a)と錯体形成した少なくとも一つの部分,を含む混合金属錯体前駆物質が開示されています。 したがって,本願発明に係る触媒前駆体組成物とは,触媒を構成する元素種としてジルコニウムが含まれるか否かの点で全く異なります。さらに,上述するように本願発明は少なくとも乾燥時には無機化合物であるため160℃もの高温で行われるスプレー乾燥(高速のスプレー操作であるため低温では未乾燥になってしまいます)を用いることができますが,引用文献1では熱に弱い有機部分である成分(b)を含んでいるため,高温での乾燥処理を特徴とするスプレー乾燥は使用することができません。引用文献1の段落[0034]には『噴霧乾燥機』なる記載がありますが,その前の段落[0033]には「乾燥は,約25℃から約45℃の温度で,おおよそ約10分から約10時間,乾燥した水分のない導入窒素を供給することによって行い」などと記載され,熱に弱い有機部分である成分(b)を保護する乾燥方法が求められています。そして,全ての実施例においてスプレー乾燥方法は用いられていません。したがって,引用文献1には本願発明で規定する『スプレー乾燥』は実質的には記載されていないものと思料いたします。」 しかしながら,引用発明にジルコニウムが含まれることは相違点にはなりえない。(上記2.(3)相違点3についてを参照。) また,本願発明は、「少なくとも乾燥時には無機化合物である」点を発明を特定する事項として有していないし、本願発明の「マグネシウム化合物,非メタロセンチタン化合物,およびチタン以外の遷移金属の少なくとも1つの非メタロセン化合物のスプレー乾燥反応生成物」において「マグネシウム化合物」等が無機化合物に限定されているわけでもない。さらには、発明の詳細な説明の段落【0017】に「スプレー乾燥触媒前駆体を形成するのに使用される組成物のさらなる任意の成分は: B)1またはそれ以上のフィラーまたは充填剤: C)1またはそれ以上の内部電子供与体;および/または D)シロキサン、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールのC_(1-4)アルキルあるいはフェニルモノまたはジエーテル誘導体、およびクラウンエーテルから成る群より選択される、1またはそれ以上の補助希釈剤化合物;を含む。」と記載されていることから、本願発明は、スプレー乾燥触媒前駆体を形成するのに使用される組成物に有機部分が含有されていることを明確に許容しているものである。 したがって,上記審判請求人の主張は,採用することができない。 第6.むすび 以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当し、特許を受けることができない。 また、本願の請求項1に係る発明は,引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-13 |
結審通知日 | 2013-02-19 |
審決日 | 2013-03-04 |
出願番号 | 特願2006-541207(P2006-541207) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 牧野 晃久 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 小野寺 務 |
発明の名称 | スプレー乾燥された混合金属チーグラー触媒組成物 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 片山 英二 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 井口 司 |