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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1276908
審判番号 不服2011-5731  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-15 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2006-551343「機械方向(MD)エレメンドルフ引裂強度に優れたフィルム樹脂製造用デュアルメタロセン触媒」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日国際公開、WO2005/070977、平成19年 7月12日国内公表、特表2007-518871〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年1月20日(優先権主張 2004年1月21日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成22年6月25日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日付けで手続補正書および意見書が提出されたが、同年11月15日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成23年3月15日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同日付けで手続補正書が提出されたが、同年5月19日付けで前置報告がなされた後、平成24年7月2日付けで当審において審尋がなされ、同年9月27日に回答書が提出されたものである。

第2 補正の却下の決定

[結論]
平成23年3月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.手続補正の内容
平成23年3月15日付け手続補正(以下、「本件手続補正」という。)の内容は、特許請求の範囲の記載を補正するものであって、平成22年9月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項9を削除すると共に、かかる請求項9に記載の技術事項を実質的に請求項1に加える補正事項(以下、「補正事項1」という。)を含むものである。

2.本件手続補正の適否について
(1)本件手続補正の目的について
本件手続補正は特許請求の範囲についての補正であって、補正事項1は、補正前の請求項1に記載された「c)焼成され、化学処理された固体酸化物は電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み;」を
「c)焼成され、化学処理された固体酸化物は、電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み、
固体酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、リン酸アルミニウム、ヘテロポリタングテン酸塩、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ボリア、酸化亜鉛、これらの混合酸化物、又はこれらの混合物であり;
電子吸引アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、リン酸イオン、トリフラートイオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、又はこれらの任意の組合せであり;」とする補正であるから、補正前の請求項9に記載されていた固体酸化物に係る技術事項を、補正前の請求項1に加えることにより、「固体酸化物」及び固体酸化物の処理に係る「電子吸引アニオン」を限定するものであり、発明を特定するために必要な事項を限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、補正事項1は、特許請求の範囲についてする補正であって、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
上記のとおり、補正事項1は特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、本件手続補正により補正された特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満足するか否か、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるもので有るか否かについて検討する。

(2-1) 特許法第29条第2項について

(a)本件手続補正後の請求項1に係る発明について
本件手続補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次に記載のものと認める。

「【請求項1】
第1メタロセン化合物、第2メタロセン化合物、焼成され、化学処理された固体酸化物の少なくとも1種、及び有機アルミニウム化合物の少なくとも1種を含む触媒組成物であって、
a)第1メタロセン化合物は次の式を有し、
(η^(5)-C_(5)H_(4)R^(1))_(2)ZrX^(11)_(2) 式中、それぞれの場合にR1は独立に、1から20個の炭素原子を有する線状又は分岐状の脂肪族基であり、それぞれの場合にX11は独立に、F、Cl、Br、I、OMe、OEt、O-n-Pr、O-i-Pr、O-n-Bu、O-t-Bu、NMe_(2)、又はNEt_(2)であり;
b)第2メタロセン化合物は、
i)次の式を有するアンサ-メタロセンであり:
(X^(5))(X^(6))(X^(7))(X^(8))Zr
式中、(X^(5))及び(X^(6))は独立に、シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル、これらの部分飽和アナログ、又はこれらの置換アナログであり;(X^(5))及び(X^(6))は、連鎖状になった3から5個のアンサ炭素原子を含む、置換されているか置換されていない架橋基により連結されていて、架橋基の一方の端は(X^(5))に結合しており、架橋基の他方の端は(X^(6))に結合しており;
式中、(X^(7))、(X^(8))、(X^(5))と(X^(6))とを連結する置換されている架橋基の任意の置換基、(X^(5))上の置換基、及び(X^(6))上の置換基は、独立に、脂肪族基、芳香族基、環式基、脂肪族基と環式基の組合せ、酸素基、硫黄基、窒素基、リン基、ヒ素基、炭素基、ケイ素基、ゲルマニウム基、スズ基、鉛基、ホウ素基、アルミニウム基、無機基、有機金属基、若しくは、これらの置換誘導体(これらの任意の1つは1から20個の炭素原子を有する);ハロゲン;又は、水素であり;又は、
ii)次の式を有するメタロセン化合物であり、
(η^(5)-C_(5)H_(3)R^(1)_(2))_(2)ZrX^(11)_(2) 式中、それぞれの場合にR^(1)は独立に、1から20個の炭素原子を有する線状又は分岐状の脂肪族基であり、それぞれの場合にX^(11)は独立に、F、Cl、Br、I、OMe、OEt、O-n-Pr、O-i-Pr、O-n-Bu、O-t-Bu、NMe_(2)、又はNEt_(2)であり;
c)焼成され、化学処理された固体酸化物は、電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み、
固体酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、リン酸アルミニウム、ヘテロポリタングテン酸塩、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ボリア、酸化亜鉛、これらの混合酸化物、又はこれらの混合物であり;
電子吸引アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、リン酸イオン、トリフラートイオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、又はこれらの任意の組合せであり;
d)有機アルミニウム化合物は次の式を有し、
Al(X^(9))n(X^(10))_(3-n) 式中、(X^(9))は1から20個の炭素原子を有するヒドロカルビルであり;(X^(10))は1から20個の炭素原子を有するアルコキシド若しくはアリールオキシド、ハロゲン、又は、水素であり;nは1から3の数(両端の数を含む)であり;
アルミノキサン、有機ホウ素化合物、又はイオン化イオン性化合物が、実質的に存在しない
触媒組成物。」
(以下、「第1メタロセン化合物」、「第2メタロセン化合物」及び「有機アルミニウム化合物」について、それらの化学構造式及び説明を略して示す場合がある。)

(b)刊行物及び刊行物の記載について
本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2003-105029号公報(以下、「刊行物3」という(原審での引用例3)。)には、以下の記載がされている。
(ア)「【請求項1】共役五員環配位子を少なくとも1個有するハフニウム化合物またはジルコニウム化合物[A1]、共役五員環配位子を少なくとも1個有するジルコニウム化合物であって[A1]とは異なる化合物[A2]及び層状珪酸塩[B]からなるオレフィン重合用触媒の存在下、オレフィンを重合することによって得られたオレフィン重合体。」
(イ)「【0015】(イ)一般式[1]で表される化合物、すなわち結合性基Qを有せず共役五員環配位子を2個有するハフニウム化合物:
(1)ビス(シクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(2)ビス(メチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(3)ビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(4)ビス(トリメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(5)ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(6)ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(7)ビス(i-プロピルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(8)ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(9)ビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(10)ビス(エチル-n-ブチル-シクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、
【0016】(11)ビス(エチル-メチル-シクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、(12)ビス(n-ブチル-メチル-シクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド、・・・」
(ウ)「【0031】また、上記(イ)?(ニ)の化合物の塩素を臭素、ヨウ素、ヒドリド、メチル、フェニル、ジエチルアミド基等に置き換えたものも使用可能である。なお、上記例示において、シクロペンタジエニル環の二置換体は1,2-および1,3-置換体を含み、三置換体は1,2,3-および1,2,4-置換体を含む。なお、これらのメタロセン系遷移金属化合物に不斉炭素が生じる場合には、特に記載が無い場合、立体異性体の1つまたはその混合物(ラセミ体を含む)を示す。成分[A1]は2種類以上を使用してもよい。
【0032】以上、[A1]として、一般式[1]、[2]、[3]又は[4]で表されるハフニウム化合物(MがHf原子の場合)を多数例示した。例示は省略するが、MがZr原子の場合のジルコニウム化合物も同様に使用することができる。」
(エ)「【0033】<共役五員環配位子を少なくとも1個有するジルコニウム化合物であって[A1]とは異なる化合物[A2]>
本発明で用いられる[A2]は、下記一般式[5]、[6]、[7]又は[8]で表される化合物である。」
(オ)「【0034】一般式[5]、[6]、[7]又は[8]の化合物は、前記成分[A1]を表す前記一般式[1]、[2]、[3]又は[4]の化合物と比較して、中心遷移金属元素のハフニウムまたはジルコニウムがジルコニウムに限定されている以外は同一の構造を有するものである。従って、一般式[5]、[6]、[7]又は[8]のジルコニウム化合物についての詳細説明を割愛し、重要な点のみ以下記載する。」
(カ)「【0037】かかる好ましいジルコニウム化合物を例示すると下記の通りである。
(1)ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(2)ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(3)ビス(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(4)ビス(トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(5)ビス(テトラメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(6)ビス(ペンタメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(7)ビス(i-プロピルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(8)ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(9)ビス(t-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(10)ビス(エチル-n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、
【0038】(11)ビス(エチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(12)ビス(n-ブチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(13)(シクロペンタジエニル)(n-ブチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(14)(シクロペンタジエニル)(エチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(15)(n-ブチルシクロペンタジエニル)(ジメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、(16)ビス(インデニル)ジルコニウムジクロリド、(17)ビス(テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、(18)ビス(2-メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド、(19)ビス(2-メチルテトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド、(20)ビス(フルオレニル)ジルコニウムジクロリド、」
(キ)「【0041】<層状珪酸塩[B]>本発明に用いられる[B]は、粘土鉱物の大部分を占めるものである。好ましくはイオン交換性層状珪酸塩である。層状珪酸塩とは、イオン結合等によって構成される面が互いに弱い結合力で平行に積み重なった結晶構造をとる珪酸塩化合物でる。大部分の層状珪酸塩は、天然には主に粘土鉱物の主成分として産出するが、これら、層状珪酸塩は特に天然産のものに限らず、人工合成物であってもよい。
【0042】層状珪酸塩の具体例としては、例えば、白水晴雄著「粘土鉱物学」朝倉書店(1995年)、等に記載される公知の層状珪酸塩であって、ディッカイト、ナクライト、カオリナイト、アノーキサイト、メタハロイサイト、ハロイサイト等のカオリン族、クリソタイル、リザルダイト、アンチゴライト等の蛇紋石族、モンモリロナイト、ザウコナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、テニオライト、ヘクトライト、スチーブンサイト、ベントナイト、ソーコナイト等のスメクタイト族、バーミキュライト等のバーミキュライト族、雲母、イライト、セリサイト、海緑石等の雲母族、アタパルジャイト、セピオライト、パリゴルスカイト、ベントナイト、パイロフィライト、タルク、緑泥石群が挙げられる。これらは混合層を形成していてもよい。」
(ク)「【0044】一般に、天然品は、非イオン交換性(非膨潤性)であることが多く、その場合は好ましいイオン交換性(ないし膨潤性)を有するものとするために、イオン交換性(ないし膨潤性)を付与するための処理を行うことが好ましい。そのような処理のうちで特に好ましいものとしては次のような化学処理があげられる。すなわち、これらの珪酸塩は化学処理を施したものであることが好ましい。ここで化学処理とは、表面に付着している不純物を除去する表面処理と層状珪酸塩の結晶構造、化学組成に影響を与える処理のいずれをも用いることができる。具体的には、(イ)酸処理、(ロ)アルカリ処理、(ハ)塩類処理、(ニ)有機物処理等が挙げられる。
【0045】これらの処理は、表面の不純物を取り除く、層間の陽イオンを交換する、結晶構造中のAl、Fe、Mg等の陽イオンを溶出させる等の作用をし、その結果、イオン複合体、分子複合体、有機誘導体等を形成し、表面積や層間距離、固体酸性度等を変えることができる。これらの処理は単独で行ってもよいし、2つ以上の処理を組み合わせてもよい。化学処理に用いられる(イ)酸としては、合目的的な無機酸あるいは有機酸、好ましくは例えば、塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、シュウ酸等があげられ、(ロ)アルカリとしては、NaOH、KOH、NH3等があげられる。(ハ)塩類としては、2族から14族原子からなる群より選ばれた少なくとも1種の原子を含む陽イオンと、ハロゲン原子または無機酸もしくは有機酸由来の陰イオンからなる群より選ばれた少なくとも1種の陰イオン、とからなる化合物が好ましい。」
(ケ)「【0051】<有機アルミニウム化合物[C]>本発明において[C]は、必要に応じて使用される、次の一般式で示される化合物である。
AlR^(8)_(j)X_(3-j)(式中、R^(8)はC_(1)?C_(20)の炭化水素基、Xは水素、ハロゲン、アルコキシ基、jは0<j≦3の数)で示されるトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリプロピルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウムまたはジエチルアルミニウムモノクロライド、ジエチルアルミニウムメトキシド等のハロゲンもしくはアルコキシ含有アルキルアルミニウムである。またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。これらのうち特にトリアルキルアルミニウムが好ましい。成分[C]を使用する場合の、成分[A1]、成分[A2]、成分[B]、成分[C]の接触順序は合目的的であれば特に限定されない。
【0052】触媒成分として更にホウ素化合物、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素に代表されるルイス酸、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートに代表されるアニオン性化合物等を使用することもできる。」
(コ)「【0062】(ii)成分[A1]、成分[B]および必要に応じて使用される成分[C]を接触させて得られるオレフィン重合用触媒、または成分[A2]、成分[B]および必要に応じて使用される成分[C]を接触させて得られるオレフィン重合用触媒よりも、[A1]、成分[A2]、成分[B]および必要に応じて使用される成分[C]を接触させて得られるオレフィン重合用触媒の方が、同一重合条件下でのオレフィン重合活性が高いこと。条件(ii)もまた、重合活性に関する該触媒の性能に関するものであり、成分[A1]、成分[A2]どちらか一方のみを用いる以外は同一製法によって製造された(この時、[A1]と[A2]の使用量の総和が同一量)触媒よりも、同1条件下でのオレフィン重合活性が高いというものである。これは、成分[A1]、成分[A2]を同一触媒上に共存させることによって、各々の成分単独では為し得なかった活性効率の向上が、二成分の相乗効果によって初めて実現できることを意味しており、経済的に非常に有利な性質である。」
(サ)「【0080】[実施例1]
(1)粘土鉱物の酸処理
市販の膨潤性モンモリロナイトの造粒分級品(「ベンクレイSL」、水澤化学社製、平均粒径27μm)37kgを25%硫酸148kgの中に分散させ、90℃で2時間撹拌した。これを脱塩水にて濾過・洗浄した。
(2)粘土鉱物のチタン塩処理および乾燥
市販の硫酸チタニル水溶液(堺化学工業(株)製、TiO_(2)として7.5%含有、SO_(4)として25.6%含有)236kgの中に上記(1)で得られた硫酸処理モンモリロナイトのケーキを全量分散させ、30℃で3時間撹拌した。これを脱塩水にてpH3.5まで濾過・洗浄した後、得られた含水固体ケーキを110℃で10時間予備的に乾燥してチタニウム塩処理モンモリロナイトを得た。この予備乾燥モンモリロナイトのうち、目開き150メッシュの篩を通過した粒子を更に、ロータリー・キルンを用いて、温度200℃、向流窒素気流下(窒素流量49Nm^(3)/hr)で、3kg/hrの速さ(滞留時間10分)で連続乾燥し、乾燥窒素下で回収した。
(シ)「【0096】[実施例7]
(1)粘土鉱物の酸処理
市販のモンモリロナイト(「クニピアF」、クニミネ工業社製)8kgを振動ボールミルによって粉砕し、塩化マグネシウム10kgを溶解させた脱塩水50L中に分散させて80℃で1時間撹拌した。得られた固体成分を水洗した後、8.2%の塩酸水溶液56L中に分散させて、90℃で2時間撹拌し、脱塩水で水洗した。このようにして得られたモンモリロナイト4.6kgの水スラリー液を固形分濃度15.2%に調製し、スプレードライヤーにより噴霧造粒を行った。造粒により得られた粒子の形状は球状であった。
(2)粘土鉱物のクロム塩処理および乾燥
次いで、上記(1)で得られた造粒モンモリロナイトを1Lのフラスコに分取し、その後、硝酸クロム九水和物(Cr(NO_(3))_(3)・9H_(2)O)48gを溶解させた脱塩水400ml中に分散させ、90℃で3時間撹拌した。処理後、この固体成分を脱塩水で洗浄し、予備乾燥を行って処理モンモリロナイトを得た。この予備乾燥クロム処理モンモリロナイトを200mlフラスコに入れて1mmHgの減圧下、200℃で2時間の加熱脱水処理を行った。
【0097】(3)触媒調製および予備重合
窒素雰囲気下、容量1Lの誘導攪拌装置付き反応器にn-ヘプタン374mlと、(2)で得た乾燥モンモリロナイト粒子10g(成分[B])をn-ヘプタン250mlでスラリー化して反応器へ導入した。系を30℃に保ち、トリエチルアルミニウム9.6mmol(1.096g)を添加して10分間攪拌した。引き続き温度を保持したまま、成分[A2]としてビスシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド(0.40mmolすなわち0.1170gをトルエン40mlに分散した溶液)と、成分[A1]としてエチレンビス(4,5,6,7-テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロリド(0.40mmolすなわち0.1714gをトルエン40mlに分散した溶液)を連続的に添加した後、系の温度を78℃に昇温した。78℃で10分間反応を行った後、エチレンガスを1.0NL/分の速度で57分間導入して予備重合を行った。エチレンの供給を停止し、反応器内のエチレンガスを窒素で置換した。
(4)予備重合触媒の乾燥
上記(3)で得られた予備重合触媒スラリーをフラスコに移送して、70℃に加温して減圧乾燥によって溶媒を留去して、予備重合触媒粉末80.5gを回収した。」
(ス)「【0120】
【発明の効果】本発明のオレフィン重合体は、粒径分布が狭く、製品の粒径毎に測定した融点特性が均一な重合体である。低融点粒子の生成が無いために、粒子毎の融点の分布が狭くなる。この結果として組成の均一性に優れる成形体が製造可能となり、凝集・付着といった微粉トラブルを低減でき、工業的な長期安定運転が実現できる。さらには、得られたオレフィン重合体をフィルム成形、ブロー成形、射出成形などした際に、ゲル、フィッシュ・アイ等の少ない、外観に優れる成型品を製造できる。かかる重合体は、特定のHfとZrの混合触媒を使用して製造できる。本発明の触媒は、高いオレフィン重合活性を有するため、反応器中で速やかに粒子径が増大して、凝集・付着といった微粉トラブルを低減でき、更には粒子破砕を起こさないために、工業的な長期安定運転が実現できる。」

同じく、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表2002-515522号公報(以下、「刊行物4」という(原審での引用例4)。)には、以下の記載がされている。
(あ)「【請求項1】単量体重合用触媒組成物の製造方法であって、有機金属化合物、処理済み固体酸化物化合物、及び有機アルミニウム化合物を接触させて前記組成物を製造する工程を含み、然も、
前記組成物が接触後の有機金属化合物及び接触後の処理済み固体酸化物化合物を含み、
前記組成物がエチレンを、同じ有機金属化合物及び同じ有機アルミニウム化合物を用いているが、前記処理済み固体酸化物化合物の代わりに未処理ケチェンB級(Ketjen grade B)アルミナを用いた組成物よりも大きな活性度をもって重合して重合体にすることができ、
前記有機金属化合物が次の一般式:
(X^(1))(X^(2))(X^(3))(X^(4))M^(1)〔式中、M^(1)は、チタン、ジルコニウム、又はハフニウムであり、(X^(1))は、独立にグループOMC-Iラジカルであり、このラジカルは、シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル、置換シクロペンタジエニル、置換インデニル、又は置換フルオレニルであり、前記置換シクロペンタジエニル、前記置換インデニル、又は前記置換フルオレニルの置換基が、各々脂肪族基、環式基、前記脂肪族基と環式基との組合せ、有機金属基、又は水素であり、
(X^(3))及び(X^(4))は、独立にグループOMC-IIラジカルであり、このラジカルはハロゲン、脂肪族基、環式基、脂肪族基と環式基との組合せ、又は有機金属基であり、
(X^(2))は、グループOMC-I又はグループOMC-IIラジカルである。〕を有し、
前記有機アルミニウム化合物が次の一般式:
Al(X^(5))_(n)(X^(6))_(3-n)〔式中、(X^(5))は、1?20個の炭素原子を有するヒドロカルビルであり、
(X^(6))は、ハロゲン、水素、又はアルコキシドであり、
nは1?3(両数字を含む)の数である。〕
を有し、
前記処理済み固体酸化物化合物が、少なくとも一種類の固体酸化物化合物と、少なくとも一種類の電子吸引性陰イオン源化合物と接触させて混合物を形成することにより製造されるものである、
上記製造方法。
・・・
【請求項6】前記処理済み固体酸化物化合物を製造する工程が、前記少なくとも一種類の固体酸化物化合物と、前記少なくとも一種類の電子吸引性陰イオン源化合物との混合物をか焼する工程を含む、請求項1に記載の方法。」
(い)「【0039】
一般に、例えば、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの混合物、又は例えば、シリカ・アルミナのような他の固体酸化物との混合物のような少なくとも一種類の固体酸化物化合物を、少なくとも一種類の電子吸引性陰イオン源化合物、及び場合により少なくとも一種類の金属塩化合物と接触させ、第一混合物を形成し、次にこの第一混合物をか焼して処理済み固体酸化物化合物を形成するのが好ましい。別法として、固体酸化物化合物、電子吸引性陰イオン源化合物、及び場合により前記金属塩化合物を、同時に接触及びか焼することもできる。更に別の方法として、金属塩化合物と電子吸引性陰イオン源とは同じ化合物にすることもできる。
・・・
【0041】
電子吸引性陰イオン源化合物は、処理済み固体酸化物化合物を製造するためのここに与える条件下で固体酸化物のルイス活性度を増大するどのような化合物でもよい。これら電子吸引性陰イオン源化合物は、例えば、硫酸イオン、ハロゲン化物イオン、及びトリフラートのような電子吸引性陰イオンの形成に寄与することにより、固体酸化物のルイス酸性度を増大する。一種類以上の種々の電子吸引性陰イオンを用いることができることに注意すべきである。更に、金属塩化合物は、組成物の重合活性度を増大すると考えられる。」
(う)「【0052】
本発明の重要な態様の一つは、組成物を形成するためにアルミノキサンを用いる必要がないことである。このことは、そのようなアルミノキサンの形成を補助する水を必要としないことを意味する。このことは、水が重合過程を時々阻外することがあるので有利である。更に、組成物を形成するために硼酸塩化合物を用いる必要がないことにも注意すべきである。要するに、このことは、不均一系であり、単量体を重合するのに用いることができる組成物を容易に且つ安価に製造することができることを意味する。なぜなら、いかなるアルミノキサン化合物も硼酸塩化合物も実質的に存在しないからである。更に、本発明を形成するために有機クロムを添加する必要はなく、MgCl_(2)を添加する必要もない。」
(え)「【0086】
例18
30mlのメタノール中に0.5gの二フッ化アンモニウムを入れた溶液を、4.5gのケチェンB級アルミナに添加した。そのアルミナは、前に記載したように、空気中600℃でか焼してあった。これはアルミナを丁度初期湿潤点(point of incipient wetness)を越えて湿潤させた。これはか焼したアルミナ1g当たり3.90mMのフッ化物に相当した。次にメタノールを窒素中、加熱により蒸発除去した。乾燥固体を、次に、前に記載したように、窒素中500℃でか焼した。この材料の試料を、次にエチレン重合について試験した。それは927g/g/時の重合体を生じた。この実験は表III中に例18として示す。
【0087】
例19?21
例18に記載した手順を繰り返した。但し最終か焼を、250℃、400℃、及び600℃で達成した。夫々を重合活性度について試験し、それらの結果を表III中に例19、20、及び21として示す。
・・・
【0122】




(c)刊行物3に記載の発明
刊行物3には、共役五員環配位子を少なくとも1個有するハフニウム化合物[A1]として「(8)ビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ハフニウムジクロリド」が挙げられ(摘示イ)、摘示ウからは、Mがジルコニウム化合物もハフニウム化合物と同様に使用できることが理解できるから、刊行物3には、[A1]としてビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドが記載されているといえる。
また、共役五員環配位子を少なくとも1個有するジルコニウム化合物であって[A1]とは異なる化合物[A2]としては、下記一般式[5]、[6]、[7]又は[8]で表される化合物であると記載され(摘示エ)、かかる好ましいジルコニウム化合物の例示として「(12)ビス(n-ブチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド」が挙げられている(摘示カ)。
さらに、刊行物3には、有機アルミニウム化合物が必要に応じて使用されることが記載され(摘示ケ)、実施例においてトリエチルアルミニウムが使用されている(摘示シ)。
そして、摘示シからみて、実施例7には、ジルコニウムを有する2種類の異なるメタロセン化合物([A1]、及び[A2])を使用した例が記載されていることから、[A1]、[A2]の化合物として、それぞれの化合物がジルコニウムを有する互いに異なるメタロセン化合物を使用することができることも明らかである。
また、摘示クには、層状珪酸塩は化学処理されたものが好ましいことが記載されている。
したがって、刊行物3には、「共役五員環配位子を少なくとも1個有するハフニウム化合物またはジルコニウム化合物[A1]としてビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、共役五員環配位子を少なくとも1個有するジルコニウム化合物であって[A1]とは異なる化合物[A2]としてビス(n-ブチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、化学処理された層状珪酸塩及び有機アルミニウム化合物からなるオレフィン重合用触媒」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(d)対比・判断
補正発明1と引用発明とを対比する。
引用発明における「共役五員環配位子を少なくとも1個有するハフニウム化合物またはジルコニウム化合物[A1]としてビス(n-ブチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド」は、補正発明1における第1メタロセン化合物(X^(11)がCl,R^(1)が4個の炭素原子を有する線状の脂肪族基(ブチル基)に相当)に相当し、引用発明における「共役五員環配位子を少なくとも1個有するジルコニウム化合物であって[A1]とは異なる化合物[A2]としてビス(n-ブチル-メチル-シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド」は、補正発明1における第2メタロセン化合物(X^(11)がCl,R^(1)が4個の炭素原子を有する線状の脂肪族基(ブチル基)及び1個の炭素原子を有する脂肪族基(メチル基)に相当)に相当する。また、引用発明における「層状珪酸塩」についてみるに、摘示シからみて、実施例にて具体的にモンモリロナイトを使用しており、モンモリロナイトが引用発明の層状珪酸塩の具体的態様として含まれるものであることは明らかであるところ、補正発明1の固体酸化物については、本願明細書段落【0106】に固体酸化材料の一態様として「ピラー化粘土、例えばピラー化モンモリロナイト」と記載されていることから、両者が重複するものであることは明らかである。さらに、引用発明における「有機アルミニウム化合物」は、摘示ケの記載からみて、補正発明1における有機アルミニウム化合物に相当する。

したがって、両者は、
「第1メタロセン化合物、第2メタロセン化合物、化学処理された固体酸化物の少なくとも1種、及び有機アルミニウム化合物の少なくとも1種を含む触媒組成物」の点で一致し、次の点で相違している。

相違点1
化学処理された固体酸化物について、補正発明1が、「焼成され、化学処理された固体酸化物は、電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み、
固体酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、リン酸アルミニウム、ヘテロポリタングテン酸塩、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ボリア、酸化亜鉛、これらの混合酸化物、又はこれらの混合物であり;
電子吸引アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、リン酸イオン、トリフラートイオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、又はこれらの任意の組合せであり;」なる事項を備えるのに対して、引用発明ではかかる事項を規定していない点
相違点2
補正発明1が、「アルミノキサン、有機ホウ素化合物、又はイオン化イオン性化合物が、実質的に存在しない」なる事項を備えるのに対して、引用発明ではかかる事項について規定していない点

これらの相違点について検討する。
[相違点1について]
刊行物4には、重合用触媒組成物としての成分である固体酸化物化合物を電子吸引性陰イオン源化合物で接触し、か焼することが記載されている(摘示(あ))。また、摘示(い)からみて、固体酸化物化合物を電子吸引性陰イオン源化合物に接触することにより固体酸化物のルイス酸性度を増大することが記載されている。さらに、摘示(え)からは、実施例19?21及びそれらの結果について記載され、固体酸化物のか焼温度が250℃、400℃、600℃と上昇すると共に、重合活性度が45,374,1250と上昇することが記載されている。これらの記載を参酌すれば、メタロセン化合物から成る触媒系において、使用される固体酸化物を電子吸引性陰イオン化合物で処理し、その後これを焼成したものを使用すれば、重合活性度が増大することは容易に理解できる。そして、固体酸化物として、アルミナ、ジルコニア、チタニア、及びそれらの混合物を用い、電子吸引性陰イオン源化合物として硫酸イオン、ハロゲン化物イオンを用いることは、摘示(い)に列記されている。
そうであれば、刊行物3に記載のオレフィン重合体の製造方法において、得られる重合体の性質を維持しつつ製造方法をさらに改良する目的で、触媒に着目することにより、刊行物4に記載の技術を刊行物3に記載の技術に適用して、特定の固体酸化物化合物を特定の電子吸引性陰イオン化合物で処理したものについて、これを焼成することにより、触媒の重合活性度を改良することは当業者が容易に想到し得たものといえる。

[相違点2について]
刊行物3には、有機アルミニウムの使用において「またこの他、メチルアルミノキサン等のアルミノキサン等も使用できる。」と記載されているものの(摘示ケ)、かかる記載からは、アルミノキサンが必須成分であるとはいえず、むしろ使用しても使用しなくてもよい任意成分として認識していると解することが自然であり、引用発明はアルミノキサンを含まない態様を含むものであるといえる。
また、刊行物3には、「触媒成分として更にホウ素化合物、例えばトリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素に代表されるルイス酸、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートに代表されるアニオン性化合物等を使用することもできる。」と記載されているものの(摘示ケ)、かかる記載も上記アルモキサンの場合と同様に解釈することが妥当であり、引用発明は有機ホウ素化合物は含まない態様を含むものであるといえる。そして、刊行物3には、本願明細書段落【0140】に挙げられているイオン化イオン性化合物を採用することについては何ら記載がなく、刊行物1に記載されたいずれの実施例においても、イオン化イオン性化合物は使用されていない。
そして、刊行物3には、固体酸化物化合物を電子吸引性陰イオン源化合物で処理し、その後焼成する技術を採用することにより、アルミノキサン及び硼酸塩化合物を用いる必要がなくなることまで記載されているのであるから(摘示う)、引用発明の触媒組成物も必然的に「アルミノキサン、有機ホウ素化合物が、実質的に存在しない」ものとなり、この点に格別の技術的な相違があるとはいえない。

そして、補正発明1によって得られる効果も、明細書の記載によっては、格別予想外のものということはできない。

(e)むすび
したがって、補正発明1は、刊行物3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(2-2)特許法第36条6項1号について
補正発明1は、特許請求の範囲の請求項1に記載された発明特定事項を採用することにより、明細書段落【0028】、段落【0031】に記載されたとおり、「デュアルメタロセン触媒系により、ポリオレフィンの性質(例えば、メルトインデックス、ヘーズ、MD引裂きなど)の有用な組合せが得られ、同時に、十分な溶融強度は保持されるので、樹脂はフィルムのインフレーション成形に適する」という課題を解決するものである。
そして、補正発明1で得られた効果を示すために実施例が記載され、実施例としては、段落【0244】?【0246】に実施例9(実施例番号9.1?9.14)が記載され、第1メタロセン化合物として(η^(5)-C_(5)H_(4)^(n)Bu)_(2)ZrCl_(2)(A)が、第2メタロセン化合物として、E(架橋連鎖炭素数3から成るインデニル骨格を有するメタロセン化合物のジクロロ化合物:RAC)、F(架橋連鎖炭素数3から成るインデニル骨格を有するメタロセン化合物のジクロロ化合物:MESO)、G(架橋連鎖炭素数4から成るインデニル骨格を有するメタロセン化合物のジクロロ化合物)が記載されており、段落【0258】の【表10】に得られた結果について記載されている。また、段落【0247】?【0248】に実施例10(実施例番号10.1?10.5)が記載され、第1メタロセン化合物として(η^(5)-C_(5)H_(4)^(n)Bu)_(2)ZrCl_(2)(A)が、第2メタロセン化合物として(η^(5)-C_(5)H_(3)^(n)BuMe)_(2)ZrCl_(2)(H)が記載されており、段落【0260】の【表12】に得られた結果について記載されている。
しかしながら、実施例番号9.1?9.14で示された架橋メタロセン化合物において、実施例番号9.7と9.8とでは同じメタロセン化合物を採用しているにもかかわらず、得られる重合体のMI値が0.76と1.01と異なり、ダート衝撃の値も191と391と異なり、ヘーズ値も6.4と7.4とで異なっている。同様に9.11と9.12とでは、MI値が0.6と1.03と異なり、ダート衝撃値が437と1400以上と異なり、MD引裂き値が274と215.5と異なり、ヘーズ値が7.4と17.3と大きく異なっている。また、架橋基の炭素数が化合物Fより1個多い化合物Gの実施例番号9.2と化合物Fの実施例番号9.10で得られる重合体のMI値についても0.83に対し0.58と異なり、ダート衝撃値も823と1400以上と異なり、MD引裂き値も275と194と異なり、ヘーズ値も8.4と10.01と異なっている。
また、実施例番号10.1?10.5で示された2置換メタロセン化合物を採用した場合において、実施例番号10.4と10.5とでは同じ2置換メタロセン化合物を採用しているにもかかわらず、得られる重合体のMI値が1.33と0.98と異なり、ダート衝撃の値も1007と1400と異なり、MD引裂き値も297と217と異なり、ヘーズ値も29.9と13.3と異なっている。
そして、比較すべき例として記載されている実施例番号7.1?7.2においては、メチル-3-ブテニルメチリデン(η^(5)-シクロペンタジエニル)(η^(5)-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロリド(B)が採用され、実施例番号8.1?8.2においては、ジメチル置換ケイ素基で架橋したジメチルシリレンビス(2-メチルインデニル)ジルコニウムジクロリド(C)が、実施例番号8.3においては、ジメチルシリレンビス(2-メチル-4-フェニルインデニル)ジルコニウムジクロリド(D)が記載されているが、これらの例においても、同じ化合物を採用したにもかかわらず得られる重合体のそれぞれの物性値は異なっている(【表6】、【表8】参照)。

そうすると、実施例の結果から、メタロセン化合物の組合せが同じであっても、得られる重合体の物性値はそれぞれ異なり、また、メタロセン化合物の組合せが異なった場合でも、得られる重合体の物性値はそれぞれ異なっており、補正発明1のメタロセン化合物の組合せを採用した場合に得られる重合体の物性値について、いずれの組合せについてもほぼ同様の物性値を有する重合体が得られるということはできず、どの様なメタロセン化合物を組合せた場合に、どの様な物性値を有する重合体が得られるのかは、実際に実施してみないと分からないものである。そうであれば、補正発明1のメタロセン化合物については、実施例で示されたメタロセン化合物以外のメタロセン化合物については、どの様な物性値を有する重合体が得られるのか予測することはできないということになる。
そして、発明の詳細な説明において、第1メタロセン化合物と組み合わせて使用する第2メタロセン化合物について、メタロセン化合物の架橋していないものを採用した場合に、置換基として炭素数1?20個の脂肪族置換基を2個有していれば、炭素数3?5個で架橋されたメタロセン化合物(置換基の有無に関係なく)と同じ効果を奏するのかについてその技術的な説明は何らなされていないし、また、炭素数3?5個で架橋されたメタロセン化合物について、シクロペンタジエニル環、インデニル環、フルオレニル環に置換した置換基が「独立に、脂肪族基、芳香族基、環式基、脂肪族基と環式基の組合せ、酸素基、硫黄基、窒素基、リン基、ヒ素基、炭素基、ケイ素基、ゲルマニウム基、スズ基、鉛基、ホウ素基、アルミニウム基、無機基、有機金属基、若しくは、これらの置換誘導体(これらの任意の1つは1から20個の炭素原子を有する);ハロゲン;又は水素であり」と全く化学構造式や性質の異なる置換基であっても、これらの置換基は作用効果において全て等価であって、置換基のない架橋メタロセン化合物(実施例に記載された化合物)と同じ作用効果を奏するといえる技術的な説明も何らなされていないし、また、置換基の種類およびその数に関係なく、それらの置換基を有する架橋メタロセン化合物が奏する効果が同程度であると確認できる具体例も記載されていない(架橋基に置換基を有する場合についても同様のことがいえる。)。
しかも、実施例番号10.1?10.5で示された例によれば、同じシクロペンタジエニル骨格を有する化合物であっても、第1メタロセン化合物のみの場合の実施例番号6.1?6.3で得られた重合体の物性値は、第1メタロセン化合物よりも1個置換基の数が多い第2メタロセン化合物とを組み合わせた実施例番号10.1?10.5で得られた重合体の物性値とで大きく異なり、置換基の数が1個多いのみで、全く異なった物性を有する重合体が得られているのであるから、置換基の有無が得られる重合体の物性値に大きく影響し、得られる重合体の物性値を予測することができないことは容易に理解できるところである。
そうすると、実施例番号9.1?9.14で示された実施例において、使用されている第1メタロセン化合物が(η^(5)-C_(5)H_(4)nBu)_(2)ZrCl_(2)(A)であり、第2メタロセン化合物が炭素数3個で架橋されたプロピレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドあるいは4個で架橋されたブチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロリドであって、第1メタロセン化合物として縮合環を含まない単環のシクロペンタジエニル基を特定の化合物として使用していることを勘案すれば、実施例番号9.1?9.14で示された実施例の結果を参照しても、第2メタロセン化合物としてシクロペンタジエニル骨格を有する化合物であればそれらの化合物がシクロペンタジエニル化合物、インデニル化合物、フルオレニル化合物のいずれにおいても等価であって、補正発明1による所望の効果が奏されると合理的に予測することができるとはいえない。
そうであれば、発明の詳細な説明の一般的記載及び限られた実施例の結果から、補正発明1の効果が確認できるとはいえないから、補正発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識する範囲のものではない。
したがって、補正発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本件手続補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
上記記載のとおり、平成23年3月15日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成22年9月29日付け手続補正書により補正された、明細書の特許請求の範囲の請求項1?28に記載されたとおりのものであって、請求項1には、以下のとおり記載されている。

「【請求項1】
第1メタロセン化合物、第2メタロセン化合物、焼成され、化学処理された固体酸化物の少なくとも1種、及び有機アルミニウム化合物の少なくとも1種を含む触媒組成物であって、
a)第1メタロセン化合物は次の式を有し、
(η^(5)-C_(5)H_(4)R1)_(2)ZrX^(11)_(2) 式中、それぞれの場合にR^(1)は独立に、1から20個の炭素原子を有する線状又は分岐状の脂肪族基であり、それぞれの場合にX^(11)は独立に、F、Cl、Br、I、OMe、OEt、O-n-Pr、O-i-Pr、O-n-Bu、O-t-Bu、NMe_(2)、又はNEt_(2)であり;
b)第2メタロセン化合物は、
i)次の式を有するアンサ-メタロセンであり:
(X^(5))(X^(6))(X^(7))(X^(8))Zr
式中、(X^(5))及び(X^(6))は独立に、シクロペンタジエニル、インデニル、フルオレニル、これらの部分飽和アナログ、又はこれらの置換アナログであり;(X^(5))及び(X^(6))は、連鎖状になった3から5個のアンサ炭素原子を含む、置換されているか置換されていない架橋基により連結されていて、架橋基の一方の端は(X^(5))に結合しており、架橋基の他方の端は(X^(6))に結合しており;
式中、(X^(7))、(X^(8))、(X^(5))と(X^(6))とを連結する置換されている架橋基の任意の置換基、(X^(5))上の置換基、及び(X^(6))上の置換基は、独立に、脂肪族基、芳香族基、環式基、脂肪族基と環式基の組合せ、酸素基、硫黄基、窒素基、リン基、ヒ素基、炭素基、ケイ素基、ゲルマニウム基、スズ基、鉛基、ホウ素基、アルミニウム基、無機基、有機金属基、若しくは、これらの置換誘導体(これらの任意の1つは1から20個の炭素原子を有する);ハロゲン;又は、水素であり;又は、
ii)次の式を有するメタロセン化合物であり、
(η^(5)-C_(5)H_(3)R^(1)_(2))_(2)ZrX^(11)_(2) 式中、それぞれの場合にR1は独立に、1から20個の炭素原子を有する線状又は分岐状の脂肪族基であり、それぞれの場合にX^(11)は独立に、F、Cl、Br、I、OMe、OEt、O-n-Pr、O-i-Pr、O-n-Bu、O-t-Bu、NMe_(2)、又はNEt_(2)であり;
c)焼成され、化学処理された固体酸化物は電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み;
d)有機アルミニウム化合物は次の式を有し、
Al(X^(9))_(n)(X^(10))_(3-n) 式中、(X^(9))は1から20個の炭素原子を有するヒドロカルビルであり;(X^(10))は1から20個の炭素原子を有するアルコキシド若しくはアリールオキシド、ハロゲン、又は、水素であり;nは1から3の数(両端の数を含む)であり;
アルミノキサン、有機ホウ素化合物、又はイオン化イオン性化合物が、実質的に存在しない
触媒組成物。」(以下、「本願発明1」という。)

2.拒絶査定の理由について
原審で示された拒絶査定には、「この出願については、平成22年6月25日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?4によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び誤訳訂正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。」と記載されている。
そして、平成22年6月25日拒絶理由通知書においては、概略、理由2として、「この出願の請求項1?10,14?35,39?41に係る発明は、その出願前に日本国内において、頒布された下記3,2,4の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることが出来たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」、及び理由3として、「この出願は、特許請求の範囲(請求項1?35,39?41)の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり、上記理由2に係る刊行物として下記の文献を引用している。

2.特開平10-298223号公報
3.特開2003-105029号公報
4.特表2002-515522号公報

3.当審の判断
原査定の上記拒絶の理由が妥当かどうかについて検討する。
(1)特許法第29条第2項について(上記理由2)
拒絶の理由において引用された本願優先日前に頒布された刊行物3である特開2003-105029号公報(本審決における刊行物3)には、前記第2.2.(2)(2-1)(b)に記載した事項及び(c)に記載の発明が記載されている。
同じく、本願優先日前に頒布された刊行物4である特開2002-515522号公報(本審決における刊行物4)には、前記第2.2.(2)(2-1)(b)に記載した事項が記載されている。
そして、前記第2.2.(2)(2-1)、(a)に記載した補正発明1は、「c)焼成され、化学処理された固体酸化物は、電子吸引アニオンにより処理された固体酸化物を含み、
固体酸化物が、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、リン酸アルミニウム、ヘテロポリタングテン酸塩、チタニア、ジルコニア、マグネシア、ボリア、酸化亜鉛、これらの混合酸化物、又はこれらの混合物であり;
電子吸引アニオンが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、リン酸イオン、トリフラートイオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、又はこれらの任意の組合せであり;」なる事項を加入することにより、本願発明1を限定的に減縮したものであるから、本願発明1は補正発明1を含むものである。
そうすると、前記第2.2.(2)(2-1)(d)で検討したとおり、補正発明1は、刊行物3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、補正発明1を含む本願発明1は、刊行物3、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)特許第36条第6項第1号について(上記理由4)
本願発明1と補正発明1との関係は上記(1)のとおりであって、前記第2.2.(2)(2-2)において検討したとおり、補正発明1が、発明の詳細な説明に記載したものでない以上、補正発明1を含む本願発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。


第4.むすび
以上のとおりであるから、原査定の拒絶の理由は妥当なものであり、本願は、この理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-18 
結審通知日 2013-02-19 
審決日 2013-03-04 
出願番号 特願2006-551343(P2006-551343)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧野 晃久  
特許庁審判長 渡辺 仁
特許庁審判官 加賀 直人
大島 祥吾
発明の名称 機械方向(MD)エレメンドルフ引裂強度に優れたフィルム樹脂製造用デュアルメタロセン触媒  
代理人 浅村 肇  
代理人 亀岡 幹生  
代理人 安藤 克則  
代理人 浅村 皓  

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