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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1276921
審判番号 不服2012-4177  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-05 
確定日 2013-07-16 
事件の表示 特願2008-195645「メダルプッシャーゲーム機」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月 4日出願公開、特開2008-289913〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成16年3月22日に出願された特願2004-82108号の一部を特許法第44条第1項の規定により,平成20年7月30日に新たに特許出願したものであって,平成23年12月1日付けで拒絶査定がなされ,これを不服として,平成24年3月5日に審判が請求されると同時に手続補正がなされた(なお,平成24年3月5日付け手続補正に対する手続補正が同年3月26日付けでなされている)ものである。
その後,平成24年9月6日付けで,審判請求人に前置報告書の内容を示して意見を求めるための審尋を行ったが,回答がなかった。


第2 平成24年3月5日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年3月5日付け手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲について次のように補正しようとする事項を含むものである。
(1)補正前(願書に最初に添付した特許請求の範囲)
「【請求項1】
内部にプッシャーフィールド(3)を設けた筐体(1)と,
プッシャーフィールド(3)の上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー(4)と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダル投入口(5)と,
メダル投入口(5)に近接した位置に設けられたメダル払出口(9)と,
メダル投入口(5)に投入されたメダルをプッシャーフィールド(3)の上面に投下するメダルシューター(6)と,
プッシャーフィールド(3)の前に設けられた開口部(7)に落下したメダルを捕集するホッパ(81)と,ホッパ(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)と,送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成るメダル搬送装置(80)とを設けたことを特徴とする上記のメダルプッシャーゲーム装置。
【請求項2】
開口部(7)からホッパ(81)に至るメダル通路に,チルトシャッター(11)が設けられた,請求項1記載のメダルプッシャーゲーム装置。」

(2)補正後(平成24年3月26日付け手続補正書により補正された同年3月5日付け手続補正書)
「【請求項1】
内部にプッシャーフィールド(3)を設けた筐体(1)と,
プッシャーフィールド(3)の上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー(4)と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダル投入口(5)と,
メダル投入口(5)に近接した位置に設けられたメダル払出口(9)と,
メダル投入口(5)に投入されたメダルをプッシャーフィールド(3)の上面に投下するメダルシューター(6)と,
プッシャーフィールド(3)の前に設けられた開口部(7)に落下したメダルを捕集するホッパー(81)と,ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)と,送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成り,更に,メダル押出機構(82)から送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導くガイドレール(83)は,”く”の字形に湾曲したバックプレート(83a)と,その片面にメダル(M)の直径より僅かに大きな間隔を隔てて互いに平行に取り付けられたスペーサ(83b,83c)と,メダルが脱落しないようにスペーサ(83b,83c)の上面に互いに平行にそれぞれ取り付けられたエッジプレート(83d,83e)とから構成され,スペーサ(83b,83c)の間に形成される通路(83f)内をメダル(M)が押し上げられて通過し得るように,スペーサ(83b,83c)の厚さを,バックプレート(83a)が湾曲していない直線部分ではメダル(M)の厚さより僅かに大きい程度に設定し,バックプレート(83a)が”く”の字形に湾曲している当該湾曲部分ではメダル(M)の厚さよりも相当に厚く形成し,これにより,当該湾曲部分をメダルが円滑に通過することができるよう構成したことを特徴とする上記のメダルプッシャーゲーム装置。
【請求項2】
開口部(7)からホッパ(81)に至るメダル通路に,チルトシャッター(11)が設けられた,請求項1記載のメダルプッシャーゲーム装置。」

2 補正の目的
本件補正は,補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項であるメダル搬送装置(80)について,さらに構成を付加して限定をするものであり,また,補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるので,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,上記補正後の請求項1に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,すなわち,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項に規定する要件を満たしているかについて,以下に検討する。

3 独立特許要件について
3-1 文献及びその記載事項
(1)文献1:DINOKINGパンフレット,株式会社タイトー,2003年3月11日,独立行政法人工業所有権総合情報館受入
ア 文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由に引用された上記文献1は,2003年3月11日に独立行政法人工業所有権総合情報館に受け入れられたもの,すなわち,本願出願前の,遅くとも2003年3月11日には頒布された刊行物であって,写真とともに次の事項が記載されている。
(1a)「DINOKING ダイノキング」(表紙)
(1b)「新種の恐竜プッシャーゲーム機,現る!」(見開きページ)
(1c)「●新型メダルエントリー
新規開発のメダルエントリーを採用。連続投入が容易なので,パチスロ感覚で,つい時間をわすれてゲームに熱中・・。メダルガイドには,10枚程度のメダルを貯留できる設計。」(見開きページ折込み内右下部)
(1d)「●アウトカウントホッパー
・(略)
・メダルの払い出しは,すぐ手元のメダル受けに。取り出しやすさを第一に考えた設計。メダルを取るたびに,目を離すこともありません。」(見開きページ折込み内右下部)
(1e)見開きページ折込み内の中央上部には,ゲーム機の筐体の全体写真が写っており,同中央下部には,ゲーム機の筐体の一部拡大写真が写っている。
(1e-1)両写真から,ゲーム機筐体の内外を隔てる窓部があり,メダルエントリー及びメダル受けが筐体外部にあること,また,筐体外部に赤いテーブル状部分が設けられ,メダルエントリーはテーブル状部分の左右のやや上方に位置すること,メダル受けはテーブル状部分の中央部かつテーブル状部分の上面からやや下がった場所に位置することが看取できる。
(1e-2)中央下部の写真から,筐体内部の「START」と表記された箇所の上側と下側の2箇所に多数のメダルが堆積されていること,下側の多数のメダルが堆積された箇所の手前側には赤い円柱のような物体があることが看取できる。
(1e-3)両写真から,メダルエントリーが銀色の細長い部分に連続することが看取でき,特に中央上部の写真から,メダルエントリー及び当該細長い部分は,細長い部分の先端に向かって下方に傾斜していることが看取できる。
(1f)見開きページ折込み内左上部の「●エクストラジャックポット」の説明の下にある4つの写真のうち左上の写真には,中央に穴の空いた赤い円状物体と多数のメダルが写っており,特に写真の最下部に注目すると,多数のメダルが堆積した箇所から崖状に落ち込んでいる部分があることが看取できる。

イ 文献1に記載された発明
文献1に記載されたものは,記載事項(1b)に記載されるようにプッシャーゲーム機であることを念頭に,上記記載事項(1e)及び(1f)の写真を見ると,
(ア)上記記載事項(1e-2)のメダルが堆積した2箇所の部分のうち下側の部分は,プッシャーフィールドであること
(イ)上記記載事項(1e-3)のように設けられる細長い部分は,投入されたメダルを投下するメダルシューターであること
(ウ)上記記載事項(1e-3)のように設けられるメダルエントリーが,プッシャーフィールドより高い位置に設けられること
(エ)上記記載事項(1f)の写真における中央に穴の空いた赤い円状物体は,上記記載事項(1e-2)の赤い円柱のような物体であって,上記記載事項(1f)の崖状に落ち込んでいる部分が,プッシャーフィールドの前に設けられたメダルが落下する開口部であること
は明らかである。

そうすると,文献1には,次の発明(以下,「文献1記載の発明」という。)が記載されているということができる。
「内部にプッシャーフィールドを設けた筐体と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダルエントリーと,
メダルエントリーは筐体外部に設けられたテーブル状部分の左右のやや上方に位置し,
筐体外部に設けられたテーブル状部分の中央部かつテーブル状部分の上面からやや下がった場所に位置するメダル受けと,
メダルエントリーに投入されたメダルを投下するメダルシューターと,
プッシャーフィールドの前に設けられたメダルが落下する開口部とから成り,
メダルの払い出しは,すぐ手元のメダル受けにし,取り出しやすさを第一に考え,メダルを取るたびに,目を離すこともない,恐竜プッシャーゲーム機」

(2)文献2:ダイノキング取扱説明書,株式会社タイトー,表紙,第11?12,73,75?76ページ,奥付
ア 文献2に記載された事項
現査定の拒絶の理由に引用された上記文献2には,写真とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審にて付与。)
(2a)「DINOKING ダイノキング 取扱説明書」(表紙)
(2b)「注意
・本製品を安全に正しく使用していただくために,使用前に必ず本書をお読みいただき,十分に理解してください。
・本書は,お読みになった後,いつでも使用できるように必ず所定の場所に保管してください。」(表紙下部)
(2c)「●アウトホッパー
このホッパーは,各ターミナル内部にあり,プレイヤーが獲得するメダルを払い出します。メダルの補充は,フィールド手前側に落ちたメダルとボーナスメカメカに落ちたメダルがそのまま供給され,払い出されます。設置時,運営時にメダルを補充する必要はありません。」(第12ページ)
(2d)「●アウトホッパーの外し方
・・・
注意 ●アウトホッパーを取り外時,エスカレータ先端に付いているセンサー部に注意しながら外してください。無理に取り外すとセンサー部が破損する恐れがあります。また,メダルエントリーハーネスに引っかからないように注意してください。」(第75?76ページ)
(2e)「(C)(当審注:原文は,「C」を丸で囲む。以下,同。)TAITO CORP,2002 PRINTED IN JAPAN」(奥付)
(2f)12ページ左下の写真及び76ページの2つの写真を見ると,アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲した長尺状の部材が設けられていることが看取できる。

イ 文献2に記載された発明
上記記載事項(2d)に記載されるように,アウトホッパーを外す際にはエスカレータに注意すべきものであり,上記記載事項(2f)のように,アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲した長尺状の部材が設けられるものである。そして,ゲーム機等のメダルの搬送技術の分野において,エスカレータとは,メダルを長尺状の部材に沿って搬送する搬送装置を意味すること(下記文献4,特開平9-94319号公報,特開平4-180192号公報等)に鑑みると,上記記載事項(2f)のアウトホッパーに設けられた長尺状の部材が,メダルを搬送するエスカレータであることは当業者にとって明らかである。
そうすると,文献2には,次の発明(以下,「文献2記載の発明」という。)が記載されているということができる。
「ダイノキングにおけるプレイヤーが獲得するメダルの払い出し装置であって,アウトホッパーは,フィールド手前側に落ちたメダルがそのまま供給され,払い出されるものであり,アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲したメダルを搬送するエスカレータを備えるダイノキングのメダルの払い出し装置」

(3)文献3:月刊アルカディア,株式会社エンターブレイン,第3巻第12号通巻第31号,平成14年12月1日,第150?151ページ
原査定の拒絶の理由に引用された上記文献3は,平成14年12月1日発行,すなわち本願出願前に頒布された刊行物であり,写真とともに次の事項が記載されている。
(3a)「ダイノキング
・・・
■発売日:2002年10月(稼働中)」(第150ページ上段)

(4)文献4:特開平10-177666号公報
ア 文献4の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物である上記文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。(下線部は当審にて付与。)
(4a)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】 本発明は,円板体を平らに一列に並べて,連続的に送り出すための円板体の通路装置に関する。本発明は,具体的には,貨幣である円板形のコイン,あるいは,ゲーム等に使用される円板形のメダルなどの円板体を,上方に,あるいは下方に,一列に並べて移送するための円板体の通路装置に関する。さらに具体的には,本発明は,メダルの貸出し機を含む自動販売機,通貨の両替機,メダル使用のゲーム機などに使用される,円板体のエスカレータ装置に関するものである。
【従来の技術】 メダルなどの円板体の通路装置である,いわゆる,エスカレータ装置は,たとえば,実開平6-56860(実願平4-94525)号公報に開示されているように,主として,ゲーム機などに使用されている。
【0002】図3は,実開平6-56860号公報に開示されている,エスカレータ装置の概略図であり,図面は装置の側面を示しており,ホッパHにエスカレータEが起立状態に固定されている。メダルのホッパHは,その頂部が開口されて,たとえば,ゲーム機のスロットに投入されたメダルを収納し,電動モータの駆動制御によってメダルを一個ずつ,エスカレータEの下端内に押し込んでいる。エスカレータEの下端内に押し込まれたメダルは,順次にエスカレータE内の通路にガイドされて上方に進み,上端から,たとえば,ゲーム機の払い出し口に放出される。エスカレータEは通常,ゲーム機などの装置内のスペースの関係から,図3に示されるように,斜めの直線状態ではなく,上方が起立された湾曲状態で使用されている。
【0003】・・・
【発明が解決しようとする課題】 上述したエスカレータ装置は,従来から,湾曲部2が問題になっていた。すなわち,エスカレータEの湾曲部2内のメダル通路は,メタルの直径を顧慮すると,図4の拡大やや誇張した断面図に示されるように,メダル5a,5bの厚さよりも,通路9の高さW3を大きくする必要があった。図示のように,通路9の高さW3を大きくすると,メダル5a,5bのエッジが重なるなどして,エスカレータE内の通路9が詰まるという,いわゆるジャムになるという欠点があった。」
(4b)「【0006】
【発明の実施の形態】 以下に本発明を,その実施について,添付の図面を参照して説明する。図1は,本発明による一実施例の要部を示す概略的な斜視図であり,図2は,図1を右側から見た断面の拡大端面図である。図1の幅広の湾曲された11は,金属製のバックプレートで,下端部12は取り付けのために屈曲されている。図1の左右の細長い弓形のものは,一対のスペーサ13,14で,樹脂成型品からなり,図2に拡大して示されるように,もっとも湾曲する部分が最も厚く,直線状になるに従って薄くなるように形成されている。右のスペーサ14の上方には,小さな矩形の上スペーサ15が取り付けられ,左のスペーサ13の上方には,やや長い上スペーサ16が取り付けられている。なお,これらの上スペーサ15,16は金属製である。
【0007】図1上方の逆L字形のものは,メダルのガイド板17で,金属製であり,メダルなどの円板体Mを,図1において左方向に放出するためのものである。図1の左右に一部分が鎖線で示されている,湾曲した帯板形のものは,やや幅広になる一対のエッジプレート18,19で,これらは金属製である。したがって,図1に示されるように,バックプレート11,スペーサ13,14,エッジプレート18,19によって,メダルなどの円板体Mの通路20が形成されることになる。
【実施例】 上述の構成からなる本実施例は,図3に示されるメダルのホッパHなどの,円板体の送出装置によって,円板体Mが,通路20内に押し上げられてくると,通路20の高さが,直線状の部分では低く,湾曲状の部分では徐々に高くなるため,図2に示されるように,通路20の高さが,徐々に滑らかに変化することになって,円板体Mの通路20の通過が,極めてスムーズになる。」
(4c)「【0008】・・・
【発明の効果】 以上のように,本発明によると,簡単な構成を付加するだけで,バックプレートの湾曲部に,長手方向の長溝,あるいは長孔を形成する必要が無くなり,また,スペーサとエッジプレートとの間にワッシャを入れる必要が無くなるなど,装置部品の製造行程を低減できると共に,装置の組み立て作業を少なくできるという,大きな効果が得られる。」
(4d)図1には一実施例の要部を示す概略的な斜視図が記載され,バックプレート11が”く”の字形に湾曲されていることが看取できる。また,同図から,スペーサ13,14はバックプレート11の片面に互いに平行に取り付けられていること,エッジプレート18,19はスペーサ13,14の上面に互いに平行に取り付けられていること,エッジプレート18,19の間隔はメダルなどの円板体Mの直径よりも小さくされていることが看取できる。
また,図1には,メダルなどの円板体Mの直径とスペーサ13,14の間隔が同等であるように図示されているとともに,図2には図1の要部を右側から見た拡大端面図が記載され,湾曲部分においてスペーサ13の厚さはメダルなどの円板体Mの厚さよりも少々大きい程度であるように図示されている。

イ 文献4に記載された発明
上記記載事項(4d)には,メダルなどの円板体Mの直径とスペーサ13,14の間隔が同等であるように図示されているものの,図面は概略図であって,メダルなどの円板体Mがスペーサ13,14の間の通路20を通過するものであることから,実際には,スペーサ13,14の間隔は,「メダルの直径より僅かに大きな間隔を隔てて」いるものと認識するのが普通である。
また,記載事項(4c)のスペーサ13,14が「もっとも湾曲する部分が最も厚く,直線状になるに従って薄くなるように形成されている」構成は,メダルなどの円板体Mがスペーサ13,14で高さが決定される通路20を通過するものであることから,スペーサの薄い部分であってもメダルなどの円板体Mの厚さよりも大きいものと認識するのが普通であり,一方,上記記載事項(4d)のように,最も厚い部分である湾曲する部分であってもメダルの厚さよりも少々大きい程度であることも勘案すると,薄い部分ではメダルの厚さより僅かに大きい程度といえる。そうすると,スペーサ13,14は「もっとも湾曲する部分が最も厚く,直線状になるに従ってメダルの厚さより僅かに大きい程度に薄くなるように形成されている」ものといえる。
また,メダルなどの円板体Mの直径よりも間隔の小さいエッジプレート18,19によってメダルの脱落が防止されることは明らかである。

そうすると,文献4には,次の発明(以下,「文献4記載の発明」という。)が記載されているということができる。
「”く”の字形に湾曲されたバックプレート11と,その片面にメダルの直径より僅かに大きな間隔を隔てて互いに平行に取り付けられたスペーサ13,14と,メダルが脱落しないようにスペーサの上面に互いに平行に取り付けられたエッジプレート18,19とからなり,バックプレート11,スペーサ13,14,エッジプレート18,19によって,メダルなどの円板体Mの通路20が形成され,メダルのホッパHは,メダルを収納し,電動モータの駆動制御によってメダルを一個ずつ,エスカレータの下端内に押し込んで,円板体Mが,通路20内に押し上げられ,スペーサ13,14は,もっとも湾曲する部分が最も厚く,直線状になるに従ってメダルの厚さより僅かに大きい程度に薄くなるように形成されているメダル使用のゲーム機などに使用されるメダルなどの円板体のエスカレータ装置。」


3-2 刊行物に記載された発明に基づく進歩性の判断
(1)対比
本願補正発明と文献1記載の発明とを対比すると,
文献1記載の発明の「恐竜プッシャーゲーム機」は,メダルを用いたプッシャーゲーム機であるので,本願補正発明の「メダルプッシャーゲーム装置」に相当する。
文献1記載の発明における「メダルエントリー」及び「メダル受け」は,本願補正発明の「メダル投入口」及び「メダル払出口」に相当する。

そうすると,本願補正発明と文献1記載の発明とでは,
「内部にプッシャーフィールドを設けた筐体と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダル投入口と,
メダル払出口と,
メダル投入口に投入されたメダルを投下するメダルシューターと,
プッシャーフィールドの前に設けられた開口部から成る,メダルプッシャーゲーム装置。」
で一致し,以下の点で相違する。

ア 相違点1
本願補正発明では,「プッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー」を備えており,メダルシューターがメダルを投下するのが「プッシャーフィールドの上面」であるのに対し,文献1記載の発明では,そのように特定されていない点。

イ 相違点2
本願補正発明では,メダル払出口が「メダル投入口に近接した位置に設けられた」ものであるのに対し,文献1記載の発明のメダル受け(メダル払出口)は,そのように特定されていない点。

ウ 相違点3
本願補正発明では,開口部(7)に「落下したメダルを捕集するホッパー(81)と,ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)と,送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成り,更に,メダル押出機構(82)から送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導くガイドレール(83)は,”く”の字形に湾曲したバックプレート(83a)と,その片面にメダル(M)の直径より僅かに大きな間隔を隔てて互いに平行に取り付けられたスペーサ(83b,83c)と,メダルが脱落しないようにスペーサ(83b,83c)の上面に互いに平行にそれぞれ取り付けられたエッジプレート(83d,83e)とから構成され,スペーサ(83b,83c)の間に形成される通路(83f)内をメダル(M)が押し上げられて通過し得るように,スペーサ(83b,83c)の厚さを,バックプレート(83a)が湾曲していない直線部分ではメダル(M)の厚さより僅かに大きい程度に設定し,バックプレート(83a)が”く”の字形に湾曲している当該湾曲部分ではメダル(M)の厚さよりも相当に厚く形成し,これにより,当該湾曲部分をメダルが円滑に通過することができるよう構成した」のに対し,文献1記載の発明は,そのような構成を有するか不明である点。

(2)判断
上記相違点1?3について検討する。
ア 相違点1について
プッシャーゲーム機の基本的なゲーム内容は,プッシャーフィールドに堆積したメダルをメダルプッシャーが押し出してプッシャーフィールドから落下させるものであって,メダルプッシャーがプッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動して,プッシャーフィールドの前端からメダルを落下させる形式は周知(下記周知技術1)であるとともに,少なくともプッシャーフィールドにメダルを投下することができれば良いことも周知(下記周知技術2)である。
文献1記載の発明はプッシャーゲーム機であり,さらにプッシャーフィールドの前にメダルが落下する開口部が設けられているのであるから,上記周知の形式のようにプッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動するメダルプッシャーを備えるものとすることに何ら困難性は見いだせない。
また,プッシャーゲーム機は,上記のように少なくともプッシャーフィールドにメダルを投下できれば良いことは周知であるから,メダルシューターがプッシャーフィールドの上面にメダルを投下するプッシャーゲーム機とすることも,当業者が容易になし得たことである。

(※周知技術1について)
特開平8-19661号公報の【0002】及び【0003】には,従来技術として「プッシャーゲーム機は,予め多数のメダルが堆積されたフィールド面上で板状のメダルプッシャーを一定のストロークで往復移動させる構造となっている。」,「こうして押し出されたメダルがフィールド面の前端に設けられた落下溝まで達してそこに落下すると,遊技者はそのメダルを獲得することができる。」(当審注:「フィールド面」が,「プッシャーフィールド」に相当)と記載されている。また,登録実用新案第3066407号公報の【0002】には,「プッシャーゲーム装置が知られており,このものは,多数のメダルが上面に堆積されたゲーム板と,ゲーム板の上面に摺動可能に支持されたプッシャーと,該プッシャーを前後方向に往復動させることにより,ゲーム板上のメダルを略前方に向かって押し出す往復動手段とを備え,遊技者が手持ちのメダルをゲーム板上の適当な場所に投入する一方で,プッシャーに押されてゲーム板の前端から落下したメダルを遊技者の取り分とし,・・・。」(当審注:「ゲーム板」が,「プッシャーフィールド」に相当)と記載されている。

(※周知技術2について)
上記特開平8-19661号公報の【0002】には,従来技術として「遊技者はフィールド面の適宜の箇所を狙い,しかもメダルプッシャーが後退したタイミングを見計らって手持ちのメダルを投入することによってゲームが行なわれる」(当審注:「フィールド面」が,「プッシャーフィールド」に相当)と記載されている。また,上記登録実用新案第3066407号公報の【0006】には,「前記装置を用いてプッシャーゲームを行なう場合には,遊技者が手持ちのメダルをゲーム板上に投入(プッシャー上に投入してもよいが,このときにはプッシャーが後退したとき,ゲーム板上に落下)する。」(当審注:「ゲーム板」が,「プッシャーフィールド」に相当)と記載されている。

イ 相違点2について
文献1記載の発明において,メダルエントリー(メダル投入口)は「筐体外部に設けられたテーブル状部分の左右やや上方に位置し」,メダル受け(メダル払出口)は,「筐体外部に設けられたテーブル状部分の中央部かつテーブル状部分の上面からやや下がった場所に位置する」ものであり,両者ともテーブル状部分の近傍に位置している。さらに,文献1記載の発明は「メダルの払い出しは,すぐ手元のメダル受けにし,取り出しやすさを第一に考え,メダルを取るたびに,目を離すこともない」というのであるから,メダル受けはその位置を目で確認したり,体を屈めてメダルを掴み取るという動作を行う必要がないものである。そうすると,文献1記載の発明のメダルエントリー(メダル投入口)とメダル受け(メダル払出口)は,近接した位置に設けられたものといえる。
よって,相違点2については実質的に相違しない。

ウ 相違点3について
(ア)文献2の「DINOKING ダイノキング 取扱説明書」は,その記載事項(2a)によれば「本製品を安全に正しく使用していただくために,使用前に必ず本書をお読み頂」くためのものであるから,ダイノキングを使用する者,すなわちダイノキングを購入あるいは導入した者が,ダイノキングを使用する前に読むことを意図したものであるといえる。また,文献2の記載事項(2d)には,「(C)TAITO CORP,2002 PRINTED IN JAPAN」と2002年の文献である旨の表示があり,ダイノキングの発売日は,文献3から2002年10月であることからみて,ダイノキングを使用する前に読むことを意図した文献2は,ダイノキングの発売日の2002年10月前後には日本国内又は外国において頒布された刊行物であった解するのが相当である。
してみれば,上記文献2記載の発明は,本願出願前に頒布された刊行物に記載された発明であるといえる。

(イ)そこで,文献2記載の発明について,本願補正発明に対応させると,
文献2記載の発明における「アウトホッパー」は,本願補正発明における「ホッパー」に相当し,同様に「フィールド手前側に落ちたメダル」は,「落下したメダル」にそれぞれ相当する。
また,文献2記載の発明において,アウトホッパーは,「フィールド手前側に落ちたメダルがそのまま供給され」るというのであるから,本願補正発明における落下した「メダルを捕集する」ホッパーとして機能するものである。
また,文献2記載の発明における「アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲したメダルを搬送するエスカレータを備える」構成と,本願補正発明における「メダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成」る構成とは,「メダルを導くガイドレールとから成」る点で共通する。
そうすると,文献2記載の発明は,本願補正発明の表現に倣えば「落下したメダルを捕集するホッパー(81)と,メダル(M)を導くガイドレール(83)とから成」るメダルの払い出し装置の発明ということができる。

(ウ)文献1記載の発明はダイノキングに関するものであるから,プッシャーフィールドの前に設けられた開口部に落下したメダルについて,同じダイノキングという製品に関する文献2記載の発明のメダルの払い出し装置を備えていることは明らかである。仮にそうでないとしても,文献1記載の発明において,プッシャーフィールドの前に設けられた開口部に落下したメダルについて,同じダイノキングという製品に関する文献2記載の発明のメダルの払い出し装置を適用することは,当業者が容易になし得ることである。
その際,文献1記載の発明が,「メダルの払い出しを,すぐ手元のメダル受けにし」たものであること,文献2記載の発明は,落下したメダルを捕集するホッパーにメダルを搬送するエスカレータ(ガイドレール)が設けられていることからすれば,落下したメダルをすぐ手元のメダル受けに払い出すべく,エスカレータ(ガイドレール)によりメダルをメダル払出口まで上方向へ向けて導くものとすることは,当業者が当然に考えることである。
また,具体的なメダルの搬送装置として,どのような構造の装置を採用するかについては,適宜,当業者がより好ましいと考えられる装置を採用すべきものであって,公知の各種装置から選択することは,いわゆる設計的事項の範疇に過ぎない。

(エ)ここで,文献4には,上記文献4記載の発明が記載されており,文献4記載の発明について,本願補正発明に対応させると,
文献4記載の発明の「バックプレート,スペーサ,エッジプレート」からなる構成はエスカレータの一部が開口(すなわち樋状)とされているものであるから,本願補正発明における「樋状のガイドレ-ル」に相当し,同様に,「ホッパ」は「ホッパー」に,「電動モータの駆動制御によってメダルを一個ずつ,エスカレータの下端内に押し込」む構成は,「メダル押出機構」にそれぞれ相当する。
また,文献4記載の発明においてスペーサが「もっとも湾曲する部分が最も厚く」されていることは,本願補正発明における「湾曲部分ではメダルの厚さよりも相当に厚く」形成することに相当するとともに,これにより本願補正発明の如く「当該湾曲部分をメダルが円滑に通過することができるよう構成した」ことは明らかである。
そうすると,文献4記載の発明は,本願補正発明の記載に倣えば「ホッパー(81)と,ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)と,送り出されたメダル(M)を上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成り,更に,メダル押出機構(82)から送り出されたメダル(M)を上方向へ向けて導くガイドレール(83)は,”く”の字形に湾曲したバックプレート(83a)と,その片面にメダル(M)の直径より僅かに大きな間隔を隔てて互いに平行に取り付けられたスペーサ(83b,83c)と,メダルが脱落しないようにスペーサ(83b,83c)の上面に互いに平行にそれぞれ取り付けられたエッジプレート(83d,83e)とから構成され,スペーサ(83b,83c)の間に形成される通路(83f)内をメダル(M)が押し上げられて通過し得るように,スペーサ(83b,83c)の厚さを,バックプレート(83a)が湾曲していない直線部分ではメダル(M)の厚さより僅かに大きい程度に設定し,バックプレート(83a)が”く”の字形に湾曲している当該湾曲部分ではメダル(M)の厚さよりも相当に厚く形成し,これにより,当該湾曲部分をメダルが円滑に通過することができるよう構成した」メダルの搬送装置の発明ということができる。
また,文献4記載の発明は上記記載事項(4a)の【発明が解決しようする課題】及び上記記載事項(4d)の【発明の効果】を参照すれば,簡単な構成でメダルのジャムを防止する点で好ましい装置と考えられるものである。

(オ)そして,上述(ウ)のとおり,文献1記載の発明において文献2記載の発明の構造を備えるものとする際に,具体的なメダルの搬送装置については,当業者が好ましいと考えられる装置を適宜採用すべきものであり,簡単な構成でメダルのジャムを防止することが好ましいことは当然のことであるから,文献4記載の発明のメダルの搬送装置を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

エ まとめ
本願補正発明の作用効果は,文献1,2,4記載の発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲のものである。
したがって,本願補正発明は,文献1,2,4記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


3-3 公知発明に基づく進歩性の判断
(1)公知発明
文献1?3には上記「3-1(1)?(3)」に記載したとおりの記載がある。
特に文献3によれば,「ダイノキング」は2002年10月頃には販売・稼働されていたのであるから,恐竜プッシャーゲーム機「ダイノキング」は,本願出願前に公然知られたものと認められる。
そして,「ダイノキング」は,文献1及び文献2に示された各構成を有するものといえるから,上記「3-1(1),(2)」に記載した文献1記載の発明の構成と文献2記載の発明の構成とを有する次の発明(以下,「ダイノキング発明」という。)が,公知であったということができる。
「内部にプッシャーフィールドを設けた筐体と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダルエントリーと,
メダルエントリーは筐体外部に設けられたテーブル状部分の左右やや上方に位置し,
筐体外部に設けられたテーブル状部分の中央部かつテーブル状部分の上面からやや下がった場所に位置するメダル受けと,
メダルエントリーに投入されたメダルを投下するメダルシューターと,
プッシャーフィールドの前に設けられたメダルが落下する開口部とから成り,
メダルの払い出しは,すぐ手元のメダル受けにし,取り出しやすさを第一に考え,メダルを取るたびに,目を離すこともない,恐竜プッシャーゲーム機であって,
プレイヤーが獲得するメダルの払い出し装置として,アウトホッパーは,フィールド手前側に落ちたメダルがそのまま供給され,払い出されるものであり,アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲したメダルを搬送するエスカレータを備える,恐竜プッシャーゲーム機」

なお,文献2が公知であったか否かに関わらず,「ダイノキング」のゲーム機それ自体が文献2に示された構成を有するものであるから,文献2の公知性はダイノキング発明の上記認定に影響しない。

(2)対比
本願補正発明とダイノキング発明とを対比すると,
上記「3-2(1)」に記載したのと同様にダイノキング発明の各構成が,本願補正発明の各構成に相当し,さらに,
ダイノキング発明における「アウトホッパー」は,本願補正発明における「ホッパー」に相当し,同様に「フィールド手前側に落ちたメダル」は,「落下したメダル」に相当する。
また,ダイノキング発明において,アウトホッパーは,「フィールド手前側に落ちたメダルがそのまま供給され」るというのであるから,本願補正発明における落下した「メダルを捕集する」ホッパーとして機能するものである。
また,ダイノキング発明における「アウトホッパーには上下方向に延びる下部が湾曲したメダルを搬送するエスカレータを備える」構成と,本願補正発明における「メダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成」る構成とは,「メダルを導くガイドレールとから成」る点で共通する。
また,ダイノキング発明において,メダルの払い出し装置が払い出す「フィールド手前側に落ちたメダル」は,「プッシャーフィールドの前に設けられたメダルが落下する開口部」に落下したメダルであることは明らかである。

そうすると,本願補正発明とダイノキング発明とは,
「内部にプッシャーフィールドを設けた筐体と,
筐体外部でプッシャーフィールドより高い位置に設けたメダル投入口と,
メダル払出口と,
メダル投入口に投入されたメダルを投下するメダルシューターと,
プッシャーフィールドの前に設けられた開口部に落下したメダルを捕集するホッパーと,メダルを導くガイドレールを設けたメダルプッシャーゲーム装置。」
で一致し,以下の点で相違する

ア 相違点4
本願補正発明では,「プッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー」を備えており,メダルシューターがメダルを投下するのが「プッシャーフィールドの上面」であるのに対し,ダイノキング発明では,そのように特定されていない点。

イ 相違点5
本願補正発明では,メダル払出口が「メダル投入口に近接した位置に設けられた」ものであるのに対し,ダイノキング発明のメダル受け(メダル払出口)は,そのように特定されていない点。

ウ 相違点6
本願補正発明では,ガイドレ-ルは「メダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く」ものであるのに対し,ダイノキング発明では,エスカレータ(ガイドレール)がメダルをどのように搬送するか不明であり,また,本願補正発明では,「ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)」を備え,さらにメダル押出機構(82)から送り出されたメダル(M)を上方向へ向けて導くガイドレール(83)は,「樋状」であり,「”く”の字形に湾曲したバックプレート(83a)と,その片面にメダル(M)の直径より僅かに大きな間隔を隔てて互いに平行に取り付けられたスペーサ(83b,83c)と,メダルが脱落しないようにスペーサ(83b,83c)の上面に互いに平行にそれぞれ取り付けられたエッジプレート(83d,83e)とから構成され,スペーサ(83b,83c)の間に形成される通路(83f)内をメダル(M)が押し上げられて通過し得るように,スペーサ(83b,83c)の厚さを,バックプレート(83a)が湾曲していない直線部分ではメダル(M)の厚さより僅かに大きい程度に設定し,バックプレート(83a)が”く”の字形に湾曲している当該湾曲部分ではメダル(M)の厚さよりも相当に厚く形成し,これにより,当該湾曲部分をメダルが円滑に通過することができるよう構成した」のに対し,ダイノキング発明では明確ではない点。

(3)判断
上記相違点4?6について検討する。
ア 相違点4について
相違点4は,上記相違点1と同じであるから,上記「3-2(2)ア」で検討したのと同様に当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点5について
相違点5は,上記相違点2と同じであるから,上記「3-2(2)イ」で検討したのと同様に実質的に相違しない。

ウ 相違点6について
ダイノキング発明が「メダルの払い出しを,すぐ手元のメダル受けにし」たものであること,また,落下したメダルを捕集するホッパーにエスカレータ(ガイドレール)が設けられていることからすれば,落下したメダルをすぐ手元のメダル受けに払い出すべく,エスカレータ(ガイドレール)によりメダルをメダル払出口まで上方向へ向けて導くものとすることは,自明のことであるか,少なくとも当業者が当然に考えることである。
また,ダイノキング発明におけるメダルの搬送装置について具体的にどのような構造の装置を採用するかについては,当業者が適宜より好ましいと考えられる装置を採用すべきものであって,公知の各種装置から選択することは,いわゆる設計的事項の範疇に過ぎない。
ここで,文献4記載の発明は,本願補正発明に倣えば「3-2(2)ウ(エ)」に記載したとおりのメダルの搬送装置の発明であるとともに,簡単な構成でメダルのジャムを防止する点で好ましい装置と考えられるものである。
そして,簡単な構成でメダルのジャムを防止することが好ましいことは当然のことであるから,ダイノキング発明において,文献4記載の発明のメダルの搬送装置を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

エ まとめ
本願補正発明の作用効果は,ダイノキング発明,文献4記載の発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲のものである。
したがって,本願補正発明は,ダイノキング発明,文献4記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


4 補正の却下の決定のむすび
上記「3-2」及び「3-3」で検討したとおり,本願補正発明は,特許法第29条第2項の規定により独立して特許を受けることができない。

したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明及び判断
1 本願発明
上記のように平成24年3月5日付け手続補正は却下されたので,本願の請求項1?2に係る発明は,願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,「第2 1(1)」に記載した上記補正前の請求項1に記載されたとおりのものである。

2 刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由で引用された文献1?3及びその記載事項は,上記「第2 3-1(1)?(3)」のとおりである。

3 進歩性について
3-1 刊行物に記載された発明に基づく進歩性の判断
(1)対比
本願発明と文献1記載の発明とを対比すると,上記「第2 3-2(1)」と同様の点で一致し,以下の点で相違する。

ア 相違点1’
本願発明では,「プッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー」を備えており,メダルシューターがメダルを投下するのが「プッシャーフィールドの上面」であるのに対し,文献1記載の発明では,そのように特定されていない点。

イ 相違点2’
本願発明では,メダル払出口が「メダル投入口に近接した位置に設けられた」ものであるのに対し,文献1記載の発明のメダル受け(メダル払出口)は,そのように特定されていない点。

ウ 相違点3’
本願発明では,開口部(7)に落下したメダルを「捕集するホッパー(81)と,ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)と,送り出されたメダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く樋状のガイドレール(83)とから成るメダル搬送装置(80)とを設けた」ものであるのに対し,文献1記載の発明は,そのような構成を有するか不明である点。

(2)判断
上記相違点1’?3’について検討する。
ア 相違点1’について
相違点1’は,上記相違点1と同じであるから,上記「第2 3-2(2)ア」で検討したのと同様に当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2’について
相違点2’は,上記相違点2と同じであるから,上記「第2 3-2(2)イ」で検討したのと同様に実質的に相違しない。

ウ 相違点3’について
上記「第2 3-2(2)ウ(ア)」で検討したように文献2記載の発明は,本願出願前に公知の刊行物であったといえる。
そして,文献1記載の発明はダイノキングに関するものであるから,プッシャーフィールドの前に設けられた開口部に落下したメダルについて,同じダイノキングという製品に関する文献2記載の発明のメダルの払い出し装置を備えていることは明らかである。仮にそうでないとしても,文献1記載の発明において,プッシャーフィールドの前に設けられた開口部に落下したメダルについて,同じダイノキングという製品に関する文献2記載の発明のメダルの払い出し装置を適用することは,当業者が容易になし得ることである。
その際,文献1記載の発明が,「メダルの払い出しを,すぐ手元のメダル受けにし」たものであること,文献2記載の発明は,落下したメダルを捕集するホッパーにメダルを搬送するエスカレータ(ガイドレール)が設けられていることからすれば,落下したメダルをすぐ手元のメダル受けに払い出すべく,エスカレータ(ガイドレール)によりメダルをメダル払出口まで上方向へ向けて導くものとすることは,当業者が当然に考えることである。
また,具体的なメダルの搬送装置として,ホッパーに収容されたメダルを1個ずつ送り出す機構を備えること(下記周知技術3)及び樋状のガイドレールとすること(下記周知技術4)は,エスカレータを用いたメダルの搬送装置における周知技術に過ぎず,文献1記載の発明において,これらの構成を採用することは当業者が適宜なし得る程度のことである。

(※周知技術3について)
上記文献4の【0002】には「メダルのホッパHは,・・・メダルを収納し,電動モータの駆動制御によってメダルを一個ずつ,エスカレータEの下端内に押し込んでいる」と記載され,上記特開平9-94319号公報の【0002】には「当該バケットからコインを1枚ずつエスカレータ部へ送出するコイン送出部・・・とを備えている」と記載され,上記特開平4-180192号公報の第2ページ右上欄第19行?左下欄第6行には「従来,多数の硬貨またはメダル(本明細書では「硬貨」と総称する)を貯留するホッパー内の・・・硬貨送り円盤が回転されることによってホッパー内の硬貨が各送り片によって1個づつ拾い上げられて上方に送られ」と記載されている。

(※周知技術4について)
上記文献4の図1等,上記特開平9-94319号公報の図3等,上記特開平4-180192号公報の図8等には,本願補正発明のバックプレート,スペーサ,エッジプレートに相当する部材で構成されて,エスカレータの一部が開口(すなわち樋状)とされたものが記載されている。

エ まとめ
本願発明の作用効果は,文献1,2記載の発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲のものである。
したがって,本願発明は,文献1,2記載の発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


3-2 公知発明に基づく進歩性の判断
(1)公知発明
上記「第2 3-3(1)」のとおり,ダイノキング発明が公知であったということができる。

(2)対比
本願発明とダイノキング発明とを対比すると,上記「第2 3-3(2)」と同様の点で一致し,以下の点で相違する。

ア 相違点4’
本願発明では,「プッシャーフィールドの上面に沿って前後に往復運動を繰り返すメダルプッシャー」を備えており,メダルシューターがメダルを投下するのが「プッシャーフィールドの上面」であるのに対し,ダイノキング発明では,そのように特定されていない点。

イ 相違点5’
本願発明では,メダル払出口が「メダル投入口に近接した位置に設けられた」ものであるのに対し,ダイノキング発明のメダル受け(メダル払出口)は,そのように特定されていない点。

ウ 相違点6’
本願発明では,ガイドレ-ルは「メダル(M)をメダル払出口(9)まで上方向へ向けて導く」ものであるのに対し,ダイノキング発明では,エスカレータ(ガイドレール)がメダルをどのように搬送するか不明であり,また,本願発明では,「ホッパー(81)に収容されたメダル(M)を1個ずつ送り出すメダル押出機構(82)」を備え,さらにガイドレールが,「樋状」であるのに対し,ダイノキング発明では明確ではない点。

(3)判断
上記相違点4’?6’について検討する。
ア 相違点4’について
相違点4’は,上記相違点1と同じであるから,上記「第2 3-2(2)ア」で検討したのと同様に当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点5’について
相違点5’は,上記相違点2と同じであるから,上記「第2 3-2(2)イ」で検討したのと同様に実質的に同一である。

ウ 相違点6’について
ダイノキング発明が「メダルの払い出しを,すぐ手元のメダル受けにし」たものであること,また,落下したメダルを捕集するホッパーにエスカレータ(ガイドレール)が設けられていることからすれば,落下したメダルをすぐ手元のメダル受けに払い出すべく,エスカレータ(ガイドレール)によりメダルをメダル払出口まで上方向へ向けて導くものとすることは,自明のことであるか,少なくとも当業者が当然に考えることである。
また,具体的なメダルの搬送装置として,ホッパーに収容されたメダルを1個ずつ送り出す機構を備えること(上記周知技術3)及び樋状のガイドレールとすること(上記周知技術4)は,エスカレータを用いたメダルの搬送装置における周知技術に過ぎず,ダイノキング発明において,これらの構成を採用することは当業者が適宜なし得る程度のことである。

エ まとめ
本願発明の作用効果は,ダイノキング発明及び周知技術から当業者が予測できた範囲のものである。
したがって,本願発明は,ダイノキング発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
上記「第3 3-1」及び「第3 3-2」で検討したとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そうすると,このような特許を受けることができない発明を包含する本願は,本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-10 
結審通知日 2013-05-13 
審決日 2013-05-30 
出願番号 特願2008-195645(P2008-195645)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A63F)
P 1 8・ 121- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 植野 孝郎  
特許庁審判長 高橋 三成
特許庁審判官 住田 秀弘
筑波 茂樹
発明の名称 メダルプッシャーゲーム機  
代理人 最上 正太郎  

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