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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C04B
管理番号 1276927
審判番号 不服2010-23720  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-21 
確定日 2013-07-19 
事件の表示 特願2000-117437「振動子用圧電磁器組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成13年10月31日出願公開、特開2001-302348〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年4月19日の出願であって、平成22年1月19日付けで拒絶理由の起案がなされ、同年3月29日付けで意見書と手続補正書が提出され、同年7月14日に拒絶査定の起案がなされ、同年10月21日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、平成23年11月25日付けで特許法第164条第3項の規定に基づく報告書を引用した審尋の起案がなされ、平成24年1月25日付けで回答書が提出され、その後、当審から平成24年8月20日付けで拒絶理由が通知されると共に平成22年10月21日付けの手続補正が却下され、平成24年10月18日に意見書と手続補正書が提出されたものである。
本願の請求項1?4に係る発明(以下、「本願発明1?4」という。)は、平成24年10月18日付けの手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
【請求項1】 振動子に用いられる圧電磁器組成物において、組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され,その組成範囲が,図1のI点(a=35mol%,b=30mol%,c=35mol%)、J点(a=44mol%,b=16mol%,c=40mol%)、K点(a=50mol%,b=40mol%,c=10mol%)、およびL点(a=40mol%,b=50mol%,c=10mol%)の各組成点を結ぶ線上およびこの4点に囲まれた領域とする範囲を母成分とし,Pb量を0?3mol%(0を除く)の範囲で減少させた,分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下であることを特徴とする振動子用圧電磁器組成物。
【請求項2】 請求項1記載の振動子用圧電磁器組成物において、母成分に対してランタノイド元素およびアルカリ土類元素のうち少なくとも1種を0?7mol%(0を除く)の範囲で添加し,かつPb量を0?5mol%(0を除く)の範囲で滅少させた,分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下であることを特徴とする振動子用圧電磁器組成物。
【請求項3】 請求項1に記載の振動子用圧電磁器組成物において、総量に対して,MnをMnOで表される酸化物に換算して,0?0.05wt%(0は含まない)の割合で含有し,-40℃?170℃における比抵抗が1.0×10^(11)Ω・cm以上であることを特徴とする振動子用圧電磁器組成物。
【請求項4】 振動子に用いられる圧電磁器組成物において、組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され,その組成範囲が,図4のI点(a=37.5mol%,b=40mol%,c=22.5mol%)、J点(a=45mol%,b=20mol%,c=35mol%)、K点(a=50mol%,b=40mol%,c=10mol%)、およびL点(a=40mol%,b=50mol%,c=10mol%)の各組成点を結ぶ線上およびこの4点に囲まれた領域とする範囲を母成分とし,ランタノイド元素およびアルカリ土類元素のうち1種類以上を添加してなり、前記ランタノイド元素およびアルカリ土類元素の少なくとも1種以上の元素がLaのみの場合には、0.1?5mol%の範囲で、前記ランタノイド元素およびアルカリ土類元素の少なくとも1種以上の元素がLa以外の元素を含む場合には、0?5mol%(0を除く)の範囲で添加した,分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下であることを特徴とする振動子用圧電磁器組成物。

第2.当審からの平成24年8月20日付けの拒絶理由の概要
平成24年8月20日付けで当審から通知した拒絶理由は、次の(1)?(2)を含むものである。
(1)本願発明4(平成24年10月18日付けの手続補正書によって、請求項3に係る発明が本願発明4になった。)の母成分の範囲に含まれる母成分の組成のものが【0033】の【表2】において「本発明の範囲外」の例と扱われており、上記母成分の範囲の中において、わずかな母成分の組成についてのみ実施例が記載されているにすぎず、出願時の技術常識を考慮しても本願発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
(2)本願発明1は、特開昭60-103079号公報に記載された発明もしくは同発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法同条第2項の規定により特許を受けることができない。

第3.当審の判断
1.特許法第36条第6項第1号について
(1)特許請求の範囲の記載
ア 母成分の組成の領域として、本願発明1?3は、「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され,その組成範囲が,図1のI点(a=35mol%,b=30mol%,c=35mol%)、J点(a=44mol%,b=16mol%,c=40mol%)、K点(a=50mol%,b=40mol%,c=10mol%)、およびL点(a=40mol%,b=50mol%,c=10mol%)の各組成点を結ぶ線上およびこの4点に囲まれた領域とする範囲」(以下「領域範囲A」という。)であることを、本願発明4は、「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され,その組成範囲が,図4のI点(a=37.5mol%,b=40mol%,c=22.5mol%)、J点(a=45mol%,b=20mol%,c=35mol%)、K点(a=50mol%,b=40mol%,c=10mol%)、およびL点(a=40mol%,b=50mol%,c=10mol%)の各組成点を結ぶ線上およびこの4点に囲まれた領域とする範囲」(以下「領域範囲B」という。)であることを、それぞれ、発明特定事項としている。
イ ここで、「図1」及び「図4」は、それぞれ、「本発明の圧電磁器組成物の一例による母成分の組成を三角座標で示す図である」、「本発明の圧電磁器組成物の他一例による母成分の組成を三角座標で示す図である」と説明され、それぞれの図の三角座標の各頂点には、PbTiO_(3)、PbZrO_(3)、Pb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)のそれぞれの組成の100%点が正三角形の頂点である三角グラフである。
ウ よって、本願発明1?4の母成分の組成の領域(上記領域範囲A及びB)は、数値の範囲によって定められているということができる。
(2)特許法第36条第6項第1号の適合要件について
平成17年(行ケ)10042号(知的財産高等裁判所)判決では、「本件発明は,・・・・・パラメータ発明に関するものであるところ,このような発明において,特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するためには,発明の詳細な説明は,その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的な意味が,特許出願時において,具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか,又は,特許出願時の技術常識を参酌して,当該数式が示す範囲内であれば,所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に,具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である。」と判示している。
この判示に従えば、本願発明1?4にように、母成分の組成の領域が数値の範囲で表される場合は、発明の詳細な説明に、数値の範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に説明や具体例が記載されて、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できることが、特許法第36条第6項第1号の適合要件ということができる。
(3)発明の詳細な説明の記載の検討について
ア 本願発明1?3の発明特定事項である母成分の組成の領域範囲A及び本願発明4の発明特定事項である母成分の組成の領域範囲Bが、それぞれ、どのような理由によって、導出されたかについて、発明の詳細な説明にはその理由に関する記載は何ら見当たらない。
イ そこで、本願発明1?4の具体例である実施例についてみてみる。
ウ 本願発明1の実施例に相当すると考えられる表1の試料No.19?24とその比較例であると考えられる同表の試料No.25?26を比較すると、これら実施例及び比較例の母成分の組成は、すべて、領域範囲A内の同一組成の1点(a=47.5mol%、b=30mol%、c=22.5mol%、以下「α組成」という。)である。
そして、この点において、Pb減少量が0.5?3mol%の範囲では、「分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下である」こと(以下、「本願の物性1」という。)が満足され、Pb減少量が4、5mol%では「本願の物性1」を満足しないとみることができるから、この領域範囲A内の1点のα組成においてのみ本願発明1の「Pb量を0?3mol%(0を除く)の範囲で減少させ」ることにより「本願の物性」が満足することの裏付けが一応なされているといえる。
エ 次に、本願発明2の実施例に相当すると考えられる表2の試料No.40?64をみると、これらの母成分の組成は、すべて、領域範囲A内の同一組成の1点(a=43mol%、b=34.5mol%、c=22.5mol%、以下「β組成」という。)であり、この1点のβ組成においてのみ、「ランタノイド元素およびアルカリ土類元素のうち少なくとも1種を0?7mol%(0を除く)の範囲で添加し,かつPb量を0?5mol%(0を除く)の範囲で滅少させ」ることにより「本願の物性1」が満足することが一応裏付けられているといえる。
オ また、本願発明3の実施例に相当すると考えられる「第4の実施形態」について、発明の詳細な説明の記載である【0034】には、「酸化鉛(PbO),酸化チタン(TiO_(2)),酸化ジルコニウム(ZrO_(2)),酸化ニッケル(NiO),酸化ニオブ(Nb_(2)O_(5))の母成分原料と添加物元素として酸化ランタン(La_(2)O_(3)),酸化ネオジウム(Nd_(2)O_(3)),炭酸ストロンチウム(SrCO_(3)),炭酸マンガン(MnCO_(3))を目的組成となるように秤量し,第1の実施の形態と同様に試料を作成し,-40℃,170℃それぞれでの比抵抗を測定した。その結果の一例を図3に示す。図3から,恒温領域では比抵抗が低下するものの,MnOとしてMnCO_(3)を極微量添加するだけで,比抵抗が顕著に向上し,本発明の目標値を満足することがわかる。また,MnOの添加量は,0.05wt%を超えると,それ以上の比抵抗向上効果は望め無いことがわかった。MnOの過剰な添加は,圧電定数などの圧電特性を劣化させる傾向もあるため,0.05wt%以下が,本発明の目標に対して適当な値であると判断できる。」と記載されており、この「第1の実施の形態と同様に試料を作成し」とは、表1の試料No.19?24と同様の組成の試料を作成したということであれば、領域範囲Aの1点であるα組成である母成分の組成においてのみ本願発明3の「Pb量を0?3mol%(0を除く)の範囲で減少させ」、「MnをMnOで表される酸化物に換算して,0?0.05wt%(0は含まない)の割合で含有」することにより、「本願の物性1」を満足することに加え「-40℃?170℃における比抵抗が1.0×10^(11)Ω・cm以上」こと(以下、「本願の物性2」という。)であることが一応裏付けられているといえる。
カ さらに、本願発明4の実施例に相当すると考えられる表1及び2の試料No.27?38をみると、これらの母成分の組成は、すべて、領域範囲B内の同一組成の1点であるβ組成である。
なお、領域範囲Bは領域範囲Aに含まれる。
カ-1 ここで、La以外のすべてのランタノイド元素とすべてのアルカリ土類元素が等価の働きをするという具体的な理由の記載はなされていないものの、等価の働きをすると仮定するならば、本願発明4のうちの「ランタノイド元素およびアルカリ土類元素のうち1種類以上を添加してなり、」「前記ランタノイド元素およびアルカリ土類元素の少なくとも1種以上の元素がLa以外の元素を含む場合には、0?5mol%(0を除く)の範囲で添加」することにより、「本願の物性1」が満足されることが、表1及び2の試料No.27?34から一応裏付けられているといえる。
カ-2 しかし、本願発明4のうちの「前記ランタノイド元素およびアルカリ土類元素の少なくとも1種以上の元素がLaのみの場合」は、表2の試料No.35?39をみると、上記領域範囲B内の1点のβ組成において、Laが0.1?1.0mol%の範囲のみで「本願の物性1」を満足することは一応裏付けられているといえるが、表2の試料No.39が「試料作成中に破損して測定できなかった」(【0030】)と記載され、「本発明の範囲外」と扱われているから、Laが0.1?5mol%の範囲で「本願の物性1」を満足するとは発明の詳細な説明の記載から直ちにいえない。
ク 以上纏めると、上記カ-2で述べた場合を除いて、本願発明1?4は、それぞれ、1点の母成分である組成αまたはβにおいて、「本願の物性1、2」を一応満足するといえるものの、この組成αまたはβにおける実施例、比較例のみから、これら組成αまたはβを含む広範囲の領域範囲A、Bを画定することは困難である。
ケ 一方、表1で本願発明の範囲外とされている試料No.1、3、4、8、11、15?18は、領域範囲A及びBのいずれの範囲内でもない母成分の組成であるが、これらは、Pb量を減少させていないし、本願発明2、4で特定される添加物も添加されているため、これら試料が「本願の物性1」を満足しない理由が、母成分の組成が領域範囲A及びBのいずれの範囲にもないことによるものか、Pb量を減少させていないためか、同添加物を添加しないことによるものか、のいずれに起因しているかを窺い知ることはできず、これら試料に相当する本願発明1?4外とされる母成分の組成をもって、領域範囲A及びBのいずれの範囲を確定する根拠にはならないし、仮に、これら試料が「本願の物性1」を満足しない理由が、母成分の組成が領域範囲A及びBのいずれの範囲内でもないことによるものであるとしても、これら試料の母成分の組成は領域範囲A及びBを画定する線からかけ離れているため、これら試料の母成分の組成のみから、母成分の組成の領域範囲A及びBのいずれの範囲を直ちに確定するための技術思想を表1及び2の試料No.19?64から導出することは困難である。
コ 試料No.6の母成分の組成は領域範囲Aに含まれ、Pb量を減少させていないし、本願発明2、4で特定される添加物も添加されていないものの「本願の物性1」を満足する。この試料No.6において、Pb量を減少させたり、同添加物を添加すると、すでに「本願の物性1」を満足することがどのように変化していくのかは、上記組成αまたはβである試料No.19?64及び試料No.1、3、4、8、11、15?18においてPbを減少させていない場合や同添加物も添加されていない場合との対比結果が示されていないから、予想することは困難である。よって、試料No.6の母成分の組成から、領域範囲A、Bを画定するための何らかの情報を導出することはできない。
サ よって、上記検討を踏まえると、試料No.1、3、4、6、8、11、15?64の各母成分の組成と「本願の物性1、2」の満足の有無を関連づけても領域範囲A、Bを画定することは困難であるし、仮に画定できたとしても、そのことだけから領域範囲A及びBの母成分のすべての組成において、Pb量を減少させたり、本願発明2、4に特定される添加物を添加することにより「本願の物性1、2」を満足するとは直ちにいえない。
シ そして、当審からの拒絶の理由に引用した特開昭61-142781号公報の特許請求の範囲に記載された発明の組成範囲及び特開昭64-5973号公報の望ましい組成範囲(公報2頁左下欄)並びに新たに提示する特開平8-151262号公報の特許請求の範囲に記載された発明の組成範囲を画定するに当たり、組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表される三角グラフにおいて、これら公報には、組成範囲を画定するための説明はなされておらず、画定を行うために、画定すべき組成範囲の内外の多数の組成(点)において、物性値を検討していることを考慮すると、本願発明1?4においても、領域範囲A、Bを画定するためには、領域範囲A及びB内外の多数の組成(点)において、Pbを減少させ、本願発明2、4に特定される添加物を添加して物性値を検討する必要があることが、本願出願前の技術常識といえ、本願の出願時にもこの技術常識は変わっていないと推定される。
ソ そうすると、本願の出願時の技術常識を考慮しても発明の詳細な説明の記載に基づいて、領域範囲A、Bを画定することは当業者といえども困難である。
タ よって、本願発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。

2.特許法第29条第1項第3号及び同法同条第2項について
(1)引用例の記載
本願出願前に頒布された刊行物である特開昭60-10379号公報(以下、「引用例」という。)には次の事項が記載されている。
(ア)「1.基本組成式を
Pb_(A){(Zn_(1/3)・Nb_(2/3))_(W)・(Ni_(1/3)・Nb_(2/3))_(X)・Ti_(Y)Zr_(Z)}O_(3)と表し、W+X+Y+Z=1としたとき、組成範囲を限定するA、W、X、Y、Zが下記式を満足する組成よりなることを特徴とする圧電磁器組成物。
0.960≦A≦0.985
0≦W≦0.70
0≦X≦0.50
ただし、0.25≦W+X≦0.70
0.20Y≦0.40
0.075≦Z≦0.375」(特許請求の範囲の第1項)
(イ)「圧電磁気材料の代表的な用途の一つに・・・・・・電気音響変換子があるが、この場合には小入力エネルギーに対して大きな変位と応力が出力できることが望まれる。この種の用途には、従来より、圧電定数(・・・・・・)・・・・・・誘電率(・・・・・・)などの圧電特性がすぐれた材料が要望されている・・・・・・。」(2頁右上欄15?同頁左下欄1行)
(ウ)「次に、この発明の実施例について説明する。
原料を、第1表に示した組成になるように秤量し、ボールミルにて湿式混合し850℃で2時間仮焼きした後、再度ボールミルにて粒径を1μ程度に粉砕した。この粉砕物を・・・・・・角棒状に加圧成形し、1200℃で1時間焼結を行った。」(4頁右上欄12?18行)
(エ)第1表の試料No.4では、Aが0.980、Wが0、Xが0.3、Yが0.375、Zが0.325であるものが示されている。
(2)引用例に記載された発明
ア 引用例の(エ)に示された数値である「Aが0.980、Wが0、Xが0.3、Yが0.375、Zが0.325」に基づいて、同(ア)に記載された磁器組成物の組成を求めると、「Pb_(0.98){(Zn_(1/2)・Nb_(2/3))_(0)・(Ni_(1/3)・Nb_(2/3))_(0.3)・Ti_(0.375)Zr_(0.325)}O_(3)」となるから、これを、「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)」で表すと、a=37.5mol%、b=32.5mol%、c=30.0mol%となり、Pbは2(=(1-0.980)×100)mol%減少させたものとなる。
イ そうすると、引用例には、
「圧電磁器組成物において、組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され、a=37.5mol%、b=32.5mol%、c=30.0mol%であり、Pb量を2mol%減少させた圧電磁器組成物」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
(3)本願発明1と引用発明との対比・判断
ア 本願発明1と引用発明とを対比する。
イ 引用発明の「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され、a=37.5mol%、b=32.5mol%、c=30.0mol%であ」ることは、本願発明1の「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され,その組成範囲が,図1のI点(a=35mol%,b=30mol%,c=35mol%)、J点(a=44mol%,b=16mol%,c=40mol%)、K点(a=50mol%,b=40mol%,c=10mol%)、およびL点(a=40mol%,b=50mol%,c=10mol%)の各組成点を結ぶ線上およびこの4点に囲まれた領域とする範囲を母成分」とすることと、母成分の組成が、「組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され、a=37.5mol%、b=32.5mol%、c=30.0mol%」である点で一致する。
ウ また、引用発明において「Pb量を2mol%減少させた」ことは、本願発明1の「Pb量を0?3mol%(0を除く)の範囲で減少させた」ことと「Pb量を2mol%減少させた」点で一致している。
エ そうすると、両者は、
「圧電磁器組成物において、組成式aPbTiO_(3)+bPbZrO_(3)+cPb(Ni_(1/3)Nb_(2/3))O_(3)(a+b+c=100)で表され、a=37.5mol%、b=32.5mol%、c=30.0mol%の母成分とし、Pb量を2mol%減少させた圧電磁器組成物」で一致し、次の点で相違している。
相違点1:本願発明1の圧電磁器組成物が「振動子用」であるのに対し、引用発明はかかる事項を有していない点
相違点2:本願発明1の圧電磁器組成物が、「分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下である」のに対し、引用発明はかかる事項を有していない点
オ 次に、これら相違点について検討する。
カ 相違点1について
引用例には、その(イ)に「圧電磁気材料の代表的な用途の一つに・・・・・・電気音響変換子があるが、この場合には小入力エネルギーに対して大きな変位と応力が出力できることが望まれる。この種の用途には、従来より、圧電定数(・・・・・・)・・・・・・誘電率(・・・・・・)などの圧電特性がすぐれた材料が要望されている」と記載されているように、電気音響変換子の圧電特性の向上が記載されており、電気音響変換子には圧電振動子が用いられているから(要すれば、特開昭61-209642号公報の特許請求の範囲第1項、特開平3-145707号公報の2頁左上欄等を参照。)、引用発明は圧電振動子用とみることができ、仮にそうでないとしても圧電振動子用とすることは当業者であれば、適宜なし得ることである。
キ 相違点2について
本願明細書の【0025】には、「成形体を1100℃?1300℃で2時間焼成し」たことが記載され、一方、引用例には、(ウ)に示したように「1200℃で1時間焼結」しており、焼結条件も類似しており、組成が一致して焼結条件が類似していれば、ほぼ同じ物性を有するといえ、引用発明も「分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下である」といえる。また、仮にそうでないとしても、圧電変位が大きいこと(要すれば、特開平5-24917号公報の【0001】、特開平7-135695号公報の【0004】等を参照。)や比誘電率の温度変化が小さいこと(要すれば、特開平4-275968号公報の【0005】、特開平5-116947号公報の【0001】等を参照。)は、圧電振動子用圧電磁器組成物に当然に要求される事項であるから、焼結条件等を適宜調整し、「分極軸と同一方向に,500kV/mの直流電界を印加したときの圧電変位が,500pm/V以上を示し,かつ,-40℃?170℃の範囲で,比誘電率の温度変化が300%以下である」ようにすることは当業者であれば、困難なくなし得ることである。
コ よって、本願発明1は引用発明と同一であるか、仮にそうでないとしても、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法同条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4.むすび
以上のとおり、本願発明1?4の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていないし、本願発明1は、引用例に記載された発明であるか、仮にそうでないとしても、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、または、同法同条第2項の規定により特許を受けることができず、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-15 
結審通知日 2013-05-22 
審決日 2013-06-04 
出願番号 特願2000-117437(P2000-117437)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C04B)
P 1 8・ 113- WZ (C04B)
P 1 8・ 121- WZ (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武石 卓  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 中澤 登
木村 孔一
発明の名称 振動子用圧電磁器組成物  
代理人 福田 修一  
代理人 池田 憲保  

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