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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09K
管理番号 1277041
審判番号 不服2010-12041  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-06-03 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2009-98829「極低温絞りサイクル冷凍システムに使用する不燃性混合冷媒」拒絶査定不服審判事件〔平成21年7月16日出願公開、特開2009-155660〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2001年6月28日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2000年6月28日 同月28日 同年11月30日 2001年6月1日 いずれも米国(US))を国際出願日とする特願2002-506012号(以下,「原出願」という。)の一部を平成21年4月15日に新たな出願としたものであって,同年4月23日に上申書とともに手続補正書が提出され,同年7月1日付けで拒絶理由が通知され,平成22年1月8日に意見書が提出されたが,同年1月27日付けで拒絶査定がされ,同年6月3日に拒絶査定に対する審判が請求され,当審で平成24年7月12日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願の特許請求の範囲の記載
本願の特許請求の範囲には,平成25年1月17日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載されたとおりの以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システムに使用されるHCFCを含まない冷媒配合物であって、以下の成分を含んでなり、
【表1】

所望によりさらに以下の成分も含み、
【表2】

113K?137Kの範囲内の温度での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する冷媒配合物。
【請求項2】
各々の前記配合物において少なくとも1つの追加成分をさらに含み、前記追加成分が追加された後も成分が互いに同一の相対比率を維持する請求項1に記載の冷媒配合物。
【請求項3】
前記冷凍システムは、気液相セパレータを備えた自動冷凍カスケード、絞り装置冷凍システム、およびクリーメンコ型システムの1つにおけるコンプレッササイクルである、請求項1又は2に記載の冷媒配合物。
【請求項4】
前記冷凍システムは、エバポレータへの低温冷媒の流れまたは高温冷媒の流れを交互に許容する、請求項1?3の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項5】
前記冷凍システムは冷媒によって冷却される物体を含み、前記物体は、
(a)水蒸気などの好ましくない気体をフリーズアウトしてトラップする真空チャンバ内の金属部品、
(b)液体、気体、凝縮ガスおよび凝縮ガス混合物の少なくとも1つを含む第2の流動体から熱を除去する熱交換器、
(c)内部冷媒流路を有し、シリコンウェハ、ガラス片、プラスチック片、および磁気コーティングが施された、または施されていないアルミニウムディスクの少なくとも1つを冷却する金属部品、ならびに
(d)生体組織の凍結および保存の少なくともいずれかを行う生体冷凍庫
のうちの少なくとも1つである、請求項1?4の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項6】
冷媒のモルパーセントが、エバポレータを循環する際のモルパーセントである請求項1?5の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項7】
1重量%未満の潤滑オイルをさらに含む請求項1?6の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項8】
POE型またはPAG型潤滑オイルさらに含む請求項1?7の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項9】
1重量%から10重量%の範囲の潤滑オイルをさらに含み、前記オイルはPOE型オイルおよびPAG型オイルの1つである請求項1?6の何れか一項に記載の冷媒配合物。
【請求項10】
Ar、R-14、R-23及びR-125のみからなる請求項1?9の何れか一項に記載の冷媒配合物。」

第3 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が通知した拒絶の理由は,
[理由1]この出願の特許請求の範囲の記載は,下記の点で不備であるから,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,この出願は特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
[理由2]この出願の特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく,特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから,この出願は特許法第36条第6項に規定にする要件を満たしていない。
[理由4]この出願の請求項1?25に係る発明は,その出願前外国又は国内において頒布された下記の刊行物1?4に記載された発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
という理由を含むものである。

そして,[理由1]については,
『請求項1,8,12?15には,「極低温冷凍システム」と記載されているが,「極低温」とは,発明の詳細な説明の記載によれば,「223Kと73K(-50℃と-200℃)の間の温度」を意味するものである(【0003】参照)。そうすると,「極低温冷凍システム」とは73K?223Kの温度範囲全域で作動できる冷凍システムを意味するのか,あるいは,73K?223Kの温度範囲の一部でも作動することができる冷凍システムを意味するのかが明確でない。』との拒絶理由を指摘していたものである。

また,[理由4]においては,本願の原出願の優先日(2000年6月28日)前に頒布された,以下の刊行物1?4が引用されている。
刊行物1:米国特許第6076372号明細書
刊行物2:特開平11-310775号公報
刊行物3:特開平9-272886号公報
刊行物4:特開平8-165465号公報
そして,「本願発明12と引用発明とを対比」して,「本願発明12は引用発明及び刊行物2?4の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。」と記載されているので,補正前の請求項12に係る発明(補正後の請求項1に係る発明と同様に,アルゴン(Ar),R-14,R-23,R-125を含む冷媒配合物である。)は,刊行物1を主引用例として,刊行物2?4の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの理由が含まれるものである。

第4 当審の判断
1 理由1について
請求項1には,「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」と記載されている。
この記載は,上記第3の拒絶理由の[理由1]で指摘したとおり,73K?223Kの温度範囲全域で作動できる冷凍システムを意味するのか,あるいは,73K?223Kの温度範囲の一部でも作動することができる冷凍システムを意味するのかが明確でない。

よって,請求項1の特許を受けようとする発明は明確でない。

2 理由2について
(1)明細書のサポート要件について
特許法第36条第6項は,「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は,明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって,特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで,以下,この観点に立って,本願の特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かについて検討する。

(2)特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の記載は「第2」に記載されたとおりである。
ただし,上記1で述べたとおり,本願の請求項1の特許を受けようとする発明は明確ではないが,請求項1の「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」とは,1)73K?223Kの温度範囲全域で作動できる冷凍システムを意味する場合と,2)73K?223Kの温度範囲の一部でも作動することができる冷凍システムを意味する場合とのいずれかを意味するもので,それぞれの意味においては明確であると解して,それぞれについて判断する。

(3)発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明には,以下の事項が記載されている。
(a)「【0009】
従来技術の極低温システムでは、可燃性の成分を使用してオイルを管理していた。塩素化冷媒を使用する極低温システムに用いられるオイルは、加圧すると室温で液化することが可能なより高温のボイリング(boiling)成分との混和性に優れていた。R-23などのより低温のボイリング(boiling)HFC冷媒は、これらのオイルとの混和性に優れず、冷凍処理の低温部までは容易に液化しない。このような混和性の欠如は、コンプレッサオイルの分離およびフリーズアウトを引き起こし、管、ストレーナ、弁または絞り装置の詰まりによるシステムの故障の原因となる。このようなより低温での混和性を確保するために、冷媒混合物にエタンを加えていた。あいにく、エタンは可燃性で、顧客の容認を制限するとともに、システム制御に対する要件、設置要件およびコストをさらに上積みする可能性がある。したがって、いかなる可燃性成分をも排除することが好ましい。
【0010】
さらに、毒性を有する冷媒の使用は、顧客の容認を制限するとともに、システム制御に対する要件、設置要件およびコストをさらに上積みする可能性がある。許容曝露限度(PEL)とは、OSHA法に基づいて、作業者が曝露されうる化学物質の最大量または濃度である。混合冷媒の場合は、PELが400ppm未満の成分はすべて有毒であると見なされ、冷媒に曝露されうるサービス技術員のようないかなる個人に対しても健康リスクがある。したがって、その成分のPELが400ppmより大きい冷媒を使用するのが有益である。」
(b)「【0011】
他の要件は、冷媒混合物からフリーズアウトすることのない冷媒の混合物を開発することである。冷凍システムにおける「フリーズアウト」状態とは、1つまたは複数の冷媒成分、またはコンプレッサオイルが固化し、あるいは粘性が極端に強くなって流動しなくなる場合のことである。」
(c)「【発明の概要】
【0020】
本発明は、様々な構成の極低温絞りサイクル冷凍システムに使用される不燃性で塩素フリーの無毒な混合冷媒(MR)である。」
(d)「【0026】
したがって、本発明の目的は、HCFCが含まれておらず、かつコンプレッサ、冷媒気液相セパレータ、絞り装置および熱交換器の構成を変える必要がなく、従来のHCFCが含まれている冷媒配合物と同じ冷凍性能を提供するのに使用できる改良冷媒配合物を開発することであった。」
(e)「【0065】
表1に示される配合物は、本発明によるもので、PGC-152を例外として、図1に示されるものと同様の自動冷凍カスケード冷凍処理での使用に向けて開発された。表1に示されるすべての配合物は、掲載された各モデルに充填される全体的な配合物である。
【0066】
4つの異なる基本配合物を表1(図4)に示す。表1に示される配合物の範囲は既に述べたような多くの異なる冷凍サイクルに適用可能である。配合物AからDは、本発明を評価する上で自動冷凍カスケードにおいて実際に開発された配合物の例である。各々の配合物は、そのためにそれが開発された冷凍ユニットの特定の要件に基づく変形形態である。配合物は、小規模な改造が加えられた商業的に入手可能な4つの異なる冷凍システムにおいて実装されたもので、図1に示される構成と同様のクール、デフロストおよび待機モードを与える。異なるシステム間の変動は、ユニット毎に性能使用がわずかに異なるためである。表2(図5)は、冷凍システムを、HCFCを含有する先行技術の配合物を用いて動作させ、次いで配合物Aを用いて動作させた場合における重要なシステム動作条件を与える。データから明らかなように、2つの配合物の間で性能がよく一致している。配合物Cを代替冷媒とする他の例も表2に示されている。」
(f)「【0073】
さらに、新規の冷媒を調査して、極低温冷凍システムにおけるそれらの性能を評価した。冷媒は、R-245fa、R-134a、E-347およびR-4112である。R245faを試験したが、それはR-236faと同様の性能を与えるものである。加えて、R-134a、E-347およびR-4112に対する試験により、これらの冷媒も極低温冷凍システムに使用できることが示唆されている。さらに、表3から8について論述する中で、さらに詳細な説明が示される。
【0074】
HCFC含有混合冷媒は、R-170(エタン)とR-23を交互に使用していたことも認識されている。したがって、これら新規配合物にはR-23の代わりにR-170を使用できる。言うまでもなく、当該可燃性成分を使用すると、R-170の分子濃度が約5から10%を超えた場合は、混合物全体が可燃性になる。」
(g)「【0075】
本発明による広範囲な冷媒群において、低温絞りサイクル冷凍システムに使用されるMR配合物は、冷媒成分のフリーズアウトを防ぐように様々な成分に対して範囲を限定した表3から7に記載されている成分から構成されていた。
【0076】
表3から表7は、どの成分もフリーズアウトを生じることなく、各々の表の見だしに記載された最低温度まで冷却するのに効果的に機能する広範囲な配合物を示している。各々のケースにおいて、そこに示される冷媒組成物は、エバポレータコイルを循環する冷媒組成物である。自動冷凍カスケードシステムの場合は、エバポレータを循環する冷媒組成物と、コンプレッサを循環する冷媒組成物とは異なっている。この違いは、より高温で凝縮する冷媒の意図的な分離によるものである。コンプレッサの冷媒組成物とエバポレータの冷媒組成物の相違を管理する様々な方法が存在することを当業者なら理解するであろう。重要な基準は、エバポレータの冷媒組成物が本願に記載されている範囲内にあることである。これらの範囲内にあれば、組成物の数およびそれらの性能は、可能性として無制限である。」
(h)「【0078】
さらに、R-236fa、R-245fa、R-4112およびE-347の使用を考えると、R-236faおよびR-245faはHFC冷媒であるのに対して、R-4112およびE-347はそうではない。POE型オイルとの混和性が証明されているためHFC冷媒が好ましい。R-4112はフッ化炭素で、POEオイルとの混和性がなく、地球温暖化ポテンシアルが比較的高い。E-347はエーテル冷媒である。E-347はPOEオイルと容易に混和せず、地球温暖化ポテンシアルが極めて低い。POE型オイルを潤滑剤とするコンプレッサを使用するときは、コンプレッサへのオイルの戻りを良くし、およびコンプレッサにおけるオイル/冷媒管理を確実なものとするために、R-236faまたはR-245faを使用することを推奨する。E-247またはR-4112をオイル潤滑コンプレッサに使用する場合には、オイルが十分にコンプレッサに戻っていること、ならびにコンプレッサの内部部品が適切に潤滑されていることを確認するために、正規の取り組みとして特殊な評価を実施する必要がある。」
(i)「【0079】
表8は、試料MR配合物(モル%)と、それに関連するフリーズアウト温度(T_(FR))を示す((実験データ)^(*))(T_(MIN))-フリーズアウトを伴わない最低到達温度)。ロングスワースの特許に記載されているような単一の絞りを備えた極低温システムに対する試験によってデータを得た。このデータは、表3から表7の基礎をなしている。」
(j)「【0082】
E-347は、1-(メトキシ)-1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン(CH_(3)-O-CF_(2)-CF_(2)-CF_(3))、3M製品参照ハイドロフルオロエーテル301として知られる。この時点では、この化合物についての許容露出限度(PEL)はまだ確立されていない。したがって、それが無毒冷媒の基準(PEL>400ppm)に合致しているかどうかは不明である。この化合物のPELが400ppm未満であることが判明すれば、それを他の成分で希釈して、総合的なPELが無毒と見なされるレベルの冷媒混合物を生成することができる。」
(k)「【0084】
本発明による第3の実施形態は、表3から8の不燃性MR配合物の1つを用いて200K未満の温度で動作するオイル潤滑コンプレッサに基づく冷凍システムに必要とされる。したがって、本発明によるMR配合物にオイルを加えなければならない。さらに、そのオイルは、長期間のコンプレッサ動作を保証し、オイルで汚染された冷媒のフリーズアウトを避けるものであることが求められる。
【0085】
HFC成分で構成された混合冷媒を用いて動作するよう設計されたコンプレッサには、ポリオレスタ(POE)またはポリアルキレングリコール(PAG)タイプのオイルのいずれかを使用して長期的な動作を保証する必要がある。次いで、このオイルについての典型的な流動点は220K(-53℃)より高い。また、この温度範囲において、このタイプのオイルは、HFCで構成された純粋冷媒および混合冷媒との混和性を有する。例えば、POEオイルソレストLT-32は流動点が223Kで、純粋なR-23との十分な混和性を有する。混合冷媒R-404a(R-125とR-143aとR-134aの組み合わせ)およびR-407c(R-32とR-125とR-134aの組み合わせ)も223Kより高い温度でこのオイルとの十分な混和性を有する。以下の表9は、実例冷媒配合物と、それに関連する凝固点を示し、残留オイルLT-32(CPIエンジニアリング、ソレストLT-32)とともに純粋冷媒および混合冷媒が含まれている。
【0086】
フリーズアウトを生じない極低温において、少量のオイルLT32と混合冷媒を混合させることができることが見出された。これを表9に示す。これは、オイル潤滑コンプレッサ、ならびにオイル濃度を表9に示す濃度より低いレベルに保つための適切な大きさのオイルセパレータを装備した場合におけるシステムの長期的な動作を可能にする。あるいは、自動冷凍カスケードシステムにおいて、冷凍処理に相セパレータを使用して、システムの最も温度の低い部分を流れる極低温冷媒と混ざり合うオイルの濃度を制限することも可能である。オイル濃度が表9に示される範囲を超えないように、相セパレータの効率を十分に高めることが必要である。」

また,図面には,「表1」,「表3」,「表4」,「表5」,「表6」,「表7」,「表8」,「表9」として以下の表が記載されている。
(l)「【図4】


(m)「【図6】


(n)「【図7】


(o)「【図8】


(p)「【図9】



(q)「【図10】


(r)「【図11】


(s)「【図12】



(4)本願発明の課題について
本願請求項1に記載された発明は,「様々な構成の極低温絞りサイクル冷凍システムに使用される不燃性で塩素フリーの無毒な混合冷媒(MR)」(摘記c参照)であって,その目的は「HCFCが含まれておらず、かつコンプレッサ、冷媒気液相セパレータ、絞り装置および熱交換器の構成を変える必要がなく、従来のHCFCが含まれている冷媒配合物と同じ冷凍性能を提供するのに使用できる改良冷媒配合物」(摘記d参照)を提供することである。
また,「従来のHCFCが含まれている冷媒配合物と同じ冷凍性能を提供するのに使用できる」とは,「フリーズアウトすることのない冷媒」(摘記b参照)との要件を満たすものと認められ,本願請求項1に記載された発明は,「極低温冷凍システムに使用される」ものであるから,「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲全域において動作する」ものと解すれば,「73K?223Kの温度範囲全域において」「フリーズアウトすることがない冷媒配合物」である必要があり,「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲の一部において動作する」ものと解すれば,請求項1に記載されたとおり「113K?137Kの範囲内の温度での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する冷媒配合物」である必要があるものと,それぞれ認められる。
そうすると,本願請求項1に記載された発明が解決しようとする課題は,上記の「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」の解釈によって,
「様々な構成の極低温絞りサイクル冷凍システムに使用される不燃性で塩素フリーの無毒な混合冷媒」を提供することのほかに,「73K?223Kの温度範囲全域においてフリーズアウトすることがない冷媒配合物を提供する」こと,あるいは,「113K?137Kの範囲内の温度での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する冷媒配合物を提供する」ことにあるものと認める。

(5)対比・判断
ア 「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲全域において動作する」ものと解した場合
発明の詳細な説明には,「本発明による広範囲な冷媒群において、低温絞りサイクル冷凍システムに使用されるMR配合物は、冷媒成分のフリーズアウトを防ぐように様々な成分に対して範囲を限定した表3から7に記載されている成分から構成されていた。」,「表3から表7は、どの成分もフリーズアウトを生じることなく、各々の表の見だしに記載された最低温度まで冷却するのに効果的に機能する広範囲な配合物を示している。」と記載されている(摘記g参照)。
しかしながら,表3から表7に示される冷媒配合物は,本願請求項1に記載される成分の組成範囲を含み得るが,最低温度はいずれも105K?155Kの範囲のものであって(摘記m,n,o,p,q参照),フリーズアウトを生じない最低温度として73Kまで冷却するのに効果的とされる冷媒配合物については,具体的な組成が一切記載されていない。
また,発明の詳細な説明には,「4つの異なる基本配合物を表1(図4)に示す。表1に示される配合物の範囲は既に述べたような多くの異なる冷凍サイクルに適用可能である。」(摘記e参照)とも記載されているが,表1に示される配合物A?Dでは最低到達温度が-133?-150℃(140K?123K)のものであって(摘記l参照),最低温度として73Kまで冷却することができる冷媒配合物については記載されていない。
そして,その他の発明の詳細な説明の記載をみても,フリーズアウトを生ぜずに73Kまで冷却できる冷媒配合物については一切記載されていない。
そうすると,「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲全域において動作する」ものと解した場合には,本願の請求項1に記載した発明において,「73K?223Kの温度範囲全域においてフリーズアウトすることがない冷媒配合物を提供する」との課題が解決できると当業者が認識できるように,発明の詳細な説明に記載されているとはいえない。

イ 「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲の一部において動作する」ものと解した場合について
(ア)請求項1に記載される冷媒配合物について
本願の請求項1の冷媒配合物の組成については,請求項1の【表1】及び【表2】の記載から,
「Ar:14.0-41.0(モル%),R-14:19.3-46.8(モル%),R-23:12.5-48.5(モル%),R-125:9.0-24.2(モル%)」の成分(以下「必須成分」という。)を含み,
「所望によりさらに」,
「R-134a:0.0-12.5(モル%),R-236fa:0.0-15.5(モル%),Ne:0.0-8.5(モル%)」の成分(以下「任意成分」という。)を含むものである。
そして,本願の請求項1には,「HCFCを含まない」との記載はあるが,それ以外の成分を含まないとの記載がないこと,本願の請求項1を引用して限定する冷媒配合物の請求項2には,「各々の前記配合物において少なくとも1つの追加成分をさらに含み、前記追加成分が追加された後も成分が互いに同一の相対比率を維持する請求項1に記載の冷媒配合物」と記載されていること,さらに,発明の詳細な説明で述べられている表3?8において,上記必須成分,任意成分以外の「N_(2)」,「He」,「E-347」,「R-245fa」,「R-4112」などの成分(以下,「追加成分」という。)をも含み得ることが記載されている(摘記m,n,o,p,q,r参照)ことからすれば,本願請求項1の冷媒配合物は,上記「必須成分」と「任意成分」のみならず,それ以外の「HCFC」でない「追加成分」をも含み得るものである。
さらに,本願の請求項1を引用して限定する冷媒配合物の請求項7には,「1重量%未満の潤滑オイルをさらに含む請求項1?6の何れか一項に記載の冷媒配合物」と,本願の請求項9には,「1重量%から10重量%の範囲の潤滑オイルを含み、・・・請求項1?6の何れか一項に記載の冷媒配合物」とそれぞれ記載されているから,本願の請求項1に記載された冷媒配合物は,潤滑オイルをも含み得るものである。

(イ)発明の詳細な説明に,請求項1に記載される冷媒配合物が記載されているかについて
発明の詳細な説明で述べている表3?7に示される冷媒配合物の組成において,必須成分をすべて含むことが記載されているのは,表3に示された冷媒配合物のみであるが,本願の請求項1の冷媒配合物とは各成分の組成範囲が異なるものであって,さらに,「R-23」,「R-125」の組成の範囲がそれぞれ,「10.0?30.0(モル%)」,「8.0?15.0(モル%)」となっている(摘記m参照)ので,少なくとも,本願の請求項1の冷媒配合物において,「R-23」が「30.0?48.5(モル%)」,「R-125」が「15.0?24.2(モル%)」の組成範囲のものについては記載されていない。
また,上述のように表4?7に示される冷媒配合物の組成においては,「R-125」を含まない場合(0.0モル%)を許容している(摘記n,o,p,q参照)から,本願請求項1の冷媒配合物のように,「Ar」,「R-14」,「R-23」,「R-125」を必須成分として含む冷媒配合物として記載されているとは認められない。
さらに,発明の詳細な説明で述べている表1(図4)には,「Ar」,「R-14」,「R-23」,「R-125」,「R-236fa」を含む冷媒配合物の組成範囲が記載されている(摘記l参照)が,この冷媒配合物は,必須成分に加えて,任意成分である「R-236fa」を7?40(モル%)含むものであるから,本願の請求項1の本願請求項1の冷媒配合物のように,「R-236fa」を任意成分として含む冷媒配合物として記載されているとは認められない。加えて,「R-125」については,「5?20(モル%)」であるので,本願の請求項1の冷媒配合物において,「R-125」が「20.0?24.5(モル%)」の組成範囲のものについてはいずれにしても記載されていない。
してみると,発明の詳細な説明の記載には,本願の請求項1の冷媒配合物が,
必須成分として,「Ar:14.0-41.0(モル%),R-14:19.3-46.8(モル%),R-23:12.5-48.5(モル%),R-125:9.0-24.2(モル%)」を含み,
任意成分として,「R-134a:0.0-12.5(モル%),R-236fa:0.0-15.5(モル%),Ne:0.0-8.5(モル%)」を含むことについて,直接の記載がないだけでなく,このような所定の組成範囲で必須成分及び任意成分を含むことについて何ら記載されていない。

次に,発明の詳細な説明で述べている表1(図1),表8(図11)には,いくつかの冷媒配合物の例が記載されている。これらの冷媒配合物のうち,本願の請求項1の冷媒配合物に含まれるものは,表1の配合物B,C及び表8のNo.1,No.2,No.5?No.10の配合物のみである(摘記l,r参照)。
これ以外の表1の配合物A,DはArの組成が14.0モル%を下回るとともに,最低到達温度(フリーズアウトしない最低到達温度と同じと解される。)が-133℃(140K)である点で,本願の請求項1の冷媒配合物に当たらず,また,表8のNo.3,No.4,No.14,No.15の配合物は必須成分であるR-125を含まず,No.11?13は,必須成分であるR-23とR-125のいずれをも含まない点で,本願の請求項1の冷媒配合物には当たらない。そして,必須成分であるR-125を含まない冷媒配合物において,ある特定の性質が得られたとしても,R-125をさらに必須成分として含ませれば,フリーズアウトをする温度などの冷媒配合物の性質がそのまま維持されるといえないから,本願の請求項1の冷媒配合物に当たらない配合例を根拠として,Ar,R-14,R-23,R-125のすべてを必須成分とする本願の請求項1の冷媒配合物の組成範囲を定めることはできない。
そうすると,本願の請求項1の冷媒配合物の範囲にある表1,表8の冷媒配合物の例を根拠として定めることができる各成分の組成範囲については,必須成分は,
「Ar:15.0-41.0(モル%)」(表8のNo.2,6,7)
「R-14:19.3-46.8(モル%)」(表8のNo.1,10)
「R-23:12.5-37.0(モル%)」(表8のNo.1,6)
「R-125:9.0-24.2(モル%)」(表8のNo.2,6)であって,
任意成分は,
「R-134a:0.0-3.7(モル%)」(表8のNo.6,8)
「R-236fa:0.0-17(モル%)」(表8のNo.1,表1の配合物B)である。
したがって,本願請求項1の冷媒配合物において,各成分が上記の組成範囲外である,
必須成分が
「Ar:14.0-15.0(モル%)」
「R-23:37.0-48.5(モル%)」
任意成分が
「R-134a:3.7-12.5(モル%)」
「Ne:0.0-8.5(モル%)(ただし,0.0(モル%を除く)」であるものについては,発明の詳細な説明に,そもそも記載されているとは認められない。

(ウ)冷媒配合物の組成とフリーズアウトすることのない最低到達温度について
本願の請求項1の冷媒配合物は,「113K?137Kの温度範囲での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐ」ものでなければならない。
発明の詳細な説明には,「表8は、試料MR配合物(モル%)と、それに関連するフリーズアウト温度(T_(FR))を示す((実験データ)^(*))(T_(MIN))-フリーズアウトを伴わない最低到達温度)。ロングスワースの特許に記載されているような単一の絞りを備えた極低温システムに対する試験によってデータを得た。」と記載されているので(摘記i参照),ここで述べられている表8には,上記(イ)で述べたように,本願の請求項1の冷媒配合物の組成範囲にあるNo.1,2,No.5?No.10の配合物が「113K?137Kの温度範囲での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐ」ことが記載されているとはいえる(摘記r参照)。
しかしながら,上記(ア)で述べたように,本願の請求項1の冷媒配合物は,表8のNo.1,2,No.5?No.10の配合物のように必須成分,任意成分のみを含むだけでなく,さらにHCFCでない追加成分をも含み得るものであって,そのような追加成分には,必須成分のみならず任意成分の「R-134a」,「R-245fa」に対してもかなり沸点の高い「R-4112」などの成分が含まれ得るものであるから,たとえ,本願の請求項1の冷媒配合物の組成範囲で必須成分及び任意成分を含むものであっても,追加成分を含むものについては,表8のNo.1,2,No.5?No.10の配合物のように必須成分,任意成分のみを含む冷媒配合物と同様に,「113K?137Kの温度範囲での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐ」との課題を解決できるとはいえない。
また,発明の詳細な説明には,上述のように,「表3から表7は、どの成分もフリーズアウトを生じることなく、各々の表の見だしに記載された最低温度まで冷却するのに効果的に機能する広範囲な配合物を示している。」(摘記g参照)と記載され,さらに,「重要な基準は、エバポレータの冷媒組成物が本願に記載されている範囲内にあることである。これらの範囲内にあれば、組成物の数およびそれらの性能は、可能性として無制限である。」(摘記g参照)とは記載されているものの,あくまでも,これは「可能性がある」ことを示唆するのみで,なぜ,冷媒配合物が各々の表の見だしに記載された最低温度まで冷却するのに効果的に機能するのかその理由は説明されていないし,このようなことがいえる技術常識があるとも認められない。

したがって,「極低温冷凍システム」を「73K?223Kの温度範囲の一部において動作する」ものと解した場合であっても,本願請求項1に記載された発明は,その冷媒配合物の組成全般にわたって,「113K?137Kの温度範囲での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐ冷媒配合物を提供する」との課題が解決できると発明の詳細な説明から当業者が認識できるとは認められない。

(エ)無毒性及び不燃性
本願の請求項1の冷媒配合物には,上記(ア)で述べたように,追加成分を含み得るものであり,表3?表7に記載されるように(摘記m,n,o,p,q,r参照),HCFCでない「E-347」を追加成分として含み得るものである。
しかしながら,発明の詳細な説明には,「E-347は、・・・この時点では、この化合物についての許容露出限度(PEL)はまだ確立されていない。したがって、それが無毒冷媒の基準(PEL>400ppm)に合致しているかどうかは不明である。」と記載される(摘記j参照)ように,E-347は無害の成分とは認められないから,請求項1に記載された冷媒配合物において「E-347」を含むものは「無毒な混合冷媒」を提供するとの課題を解決できるとはいえない。
さらに,発明の詳細な説明には,「HCFC含有混合冷媒は、R-170(エタン)とR-23を交互に使用していたことも認識されている。したがって、これら新規配合物にはR-23の代わりにR-170を使用できる。言うまでもなく、当該可燃性成分を使用すると、R-170の分子濃度が約5から10%を超えた場合は、混合物全体が可燃性になる。」(摘記f参照)と記載されるように,本願の請求項1の冷媒配合物には,「R-170」を追加成分として含み得るものであって,HCFCでない「R-170」を5%以上含むと冷媒配合物が可燃性となるから,請求項1の冷媒配合物において,追加成分として「R-170」を5%以上含むものは「不燃性」の「混合冷媒」を提供するとの課題を解決できるとはいえない。

(オ)冷媒配合物が潤滑オイルを含有する場合について
本願の請求項1の冷媒配合物には,上記(ア)で述べたように,潤滑オイルを含有するものも含まれている。
発明の詳細な説明には,「本発明によるMR配合物にオイルを加えなければなら」ず,「HFC成分で構成された混合冷媒を用いて動作するよう設計されたコンプレッサには、ポリオレスタ(POE)またはポリアルキレングリコール(PAG)タイプのオイルのいずれかを使用して長期的な動作を保証する必要がある」として,「フリーズアウトを生じない極低温において、少量のオイルLT32と混合冷媒を混合させることができることが見出され」,「表9は実例冷媒配合物と、それに関連する凝固点を示」すことが記載され(摘記k参照),実際に,「表9」には,配合物が「1」?「6」について,冷媒の種類,冷媒とオイルとの配合比,凝固点温度が記載されている(摘記s参照)。そして,「POEオイルソレストLT-32」と記載されている(摘記k参照)ので,表9の「オイルLT32」は「POE」タイプの潤滑オイルといえ,「冷凍システムにおける「フリーズアウト」状態とは、1つまたは複数の冷媒成分、またはコンプレッサオイルが固化し、あるいは粘性が極端に強くなって流動しなくなる場合のことである。」と記載される(摘記b参照)ように,「凝固点温度」は「フリーズアウトを生じない」最低到達温度(T_(FR))と同じ意味といえる。
そこで,「表9」の配合物をみると「1」?「5」は明らかに,本願の請求項1に記載された冷媒配合物ではなく,配合物「6」も冷媒配合物の組成が記載されていないので,本願の請求項1に記載された冷媒配合物か明確ではない。
しかしながら,配合物「6」の冷媒配合物が本願の請求項1に記載された冷媒配合物であるとした場合,残留オイルを1重量%添加したものでは,凝固点温度が150.0Kであるから,これは明らかに,「113K?137Kの温度範囲での極低温冷凍システムの動作時のフリーズアウトを防ぐ」との課題を解決できていない。

また,本願発明における潤滑オイルを含む冷媒配合物の凝固点温度の低下は,「この温度範囲において、このタイプのオイルは、HFCで構成された純粋冷媒および混合冷媒との混和性を有する。例えば、POEオイルソレストLT-32は流動点が223Kで、純粋なR-23との十分な混和性を有する。」と記載(摘記k参照)されているように,冷媒配合物と潤滑オイルとの混和性を有することにより得られるものであり,その一方,「R-23などのより低温のボイリング(boiling)HFC冷媒は、これらのオイルとの混和性に優れず、冷凍処理の低温部までは容易に液化しない。このような混和性の欠如は、コンプレッサオイルの分離およびフリーズアウトを引き起こし、管、ストレーナ、弁または絞り装置の詰まりによるシステムの故障の原因となる。」(摘記a参照)と記載されるように,R-23等の冷媒と混和性を有しない潤滑オイルも存在する。
また,「R-4112はフッ化炭素で、POEオイルとの混和性がなく、地球温暖化ポテンシアルが比較的高い。E-347はエーテル冷媒である。E-347はPOEオイルと容易に混和せず、地球温暖化ポテンシアルが極めて低い。POE型オイルを潤滑剤とするコンプレッサを使用するときは、コンプレッサへのオイルの戻りを良くし、およびコンプレッサにおけるオイル/冷媒管理を確実なものとするために、R-236faまたはR-245faを使用することを推奨する。」と記載される(摘記h参照)ように,R-4112やE-347を含む冷媒配合物においては,POEオイルとの混和性がない。
そうすると,潤滑オイルには,「LT32」のような「POE」タイプ以外にも様々なタイプがあるところ,潤滑オイルと冷媒の組み合わせによって混和性はそれぞれ異なるといえるから,潤滑オイルとして「POE」タイプの潤滑オイル,R-236faを含む冷媒配合物で凝固点が他の冷媒よりも低下することが示されたとしても,本願の請求項1に記載された冷媒配合物において,「POE」タイプ以外の「潤滑オイル」を含むものや「追加成分」としてR-4112やE-347を含むものについてまで,同様に凝固点が極低温の所定温度まで低下するとは認められない。

さらに,発明の詳細な説明には,「オイル潤滑コンプレッサ、ならびにオイル濃度を表9に示す濃度より低いレベルに保つための適切な大きさのオイルセパレータを装備した場合におけるシステムの長期的な動作を可能にする。あるいは、自動冷凍カスケードシステムにおいて、冷凍処理に相セパレータを使用して、システムの最も温度の低い部分を流れる極低温冷媒と混ざり合うオイルの濃度を制限することも可能である。オイル濃度が表9に示される範囲を超えないように、相セパレータの効率を十分に高めることが必要である。」と記載される(摘記k参照)ように,オイル濃度を表9の配合物「6」にある1重量%にするために,「オイルセパレータ」を装備したり,「自動冷凍カスケードシステム」に「相セパレータ」を備えることを必要とするものであり,冷媒配合物に1重量%を超える潤滑オイルが含まれる場合においては,本願の請求項1に記載される冷媒配合物は,「凝固点」が極低温の所定温度まで低下して「てフリーズアウトすることがない」との課題のみならず,「様々な構成の極低温絞りサイクル冷凍システムに使用される」との課題をも解決できない。

(6)小括
以上のとおりであるから,本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明にそもそも記載されておらず,また,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
よって,本願の請求項1に記載された特許を受けようとする発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではない。

3 理由4について
(1)本願発明
本願の特許請求の範囲の記載は「第2」に記載されたとおりである。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものである。
ただし,上記1で述べたとおり,本願の請求項1の特許を受けようとする発明は明確ではないが,本願の請求項1の「73K?223Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システム」とは,「73K?223Kの温度範囲の一部でも作動することができる冷凍システム」を意味するものと解して,以下判断する。

(2)引用刊行物の記載事項
ア 刊行物1の記載事項
本願の原出願の優先日(2000年6月28日)前に頒布された刊行物である米国特許第6076372号明細書(刊行物1)には,日本語に訳して以下の記載がある(日本語訳はファミリーである特開2000-205675号公報によった。)。
(1-a)「本発明は、周囲温度から極低温に効率的に達する際に使用するのに特に有益である。表1?15は、本発明の可変負荷冷媒混合物の好ましい例を表に記載したものである。各表に与えられる濃度範囲はモル%単位である。表1?5に示される例は約200°Kよりも高い冷凍を発生させるための好ましい混合物であり、そして表6?15に示される例は約200°Kよりも低い冷凍を発生させるための好ましい混合物である。」(第5欄第42?50行)
(1-b)「表7
成分 濃度範囲
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(4)F_(10) 0-15
C_(3)F_(8) 10-40
CHF_(3) 0-30
CF_(4) 10-50
Ar 0-40
N_(2) 10-80」(第6欄一番下の表)
(1-c)「表8
成分 濃度範囲
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(3)H_(2)F_(6) 0-15
C_(2)H_(2)F_(4) 0-20
C_(2)HF_(5) 5-20
C_(2)F_(6) 0-30
CF_(4) 10-50
Ar 0-40
N_(2) 10-80」(第7欄一番上の表)
(1-d)「ここで図3を説明すると、冷媒流体20は圧縮機21を通ることによって圧縮されて圧縮冷媒流体22を形成し、これは最終冷却器71によってほぼ周囲温度に冷却され、次いで熱交換器5の部分横断によって冷却されそして一部分凝縮される。冷却された二相冷媒混合物23は相分離器24に送られ、ここでそれは蒸気と液体とに分離される。蒸気25は熱交換器5によって更に冷却され、弁26によって絞られ、そして熱交換器9及び/又は5を通ることによって加温される。液体27は弁28を通され、次いで熱交換器5を通ることによって気化される。図3に例示される具体例では、液体は、気化に先立って弁26によって絞られたより低い圧力の蒸気と合流される。得られる加温された冷媒混合物は、次いで、流れ20として圧縮機21に戻され、そして冷凍サイクルが新たに始まる。単相分離が例示されているけれども、異なる温度レベルでの多相分離を利用して段階的予備冷却回路を提供することができることも理解されたい。」(第9欄第16?35行)
(1-e)「カスケードループ系は図4において例示され、それに関連して説明される。ここで図4を説明すると、例えば、テトラフルオルメタン、フルオルホルム、ペルフルオルプロパン、ペンタフルオルブタン、ペンタフルオルプロパン、テトラフルオルエタン、ジフルオルメトキシ-ジフルオルメタン及びペルフルオルペンタンのうちの2種又はそれ以上を含むより高い温度の可変負荷冷媒流体はより高温のループ30を循環し、そこで約300°Kの周囲温度から約200°Kに至るまで冷凍が提供される。約300°Kにあるより高温の冷媒流体31は、圧縮機32で圧縮され、冷却器33及び熱交換器60によって冷却され、そして弁34によって絞られて約200°Kにあるより低温の冷媒流体35を生成する。そのより低温の冷媒流体は、次いで、約300°Kに加温され、そして流れ31として圧縮機32に戻される。
中間温度可変負荷冷媒流体(これは、高い温度の流体に関して記載した成分のうちの1種又はそれ以上の他に窒素及び/又はアルゴンを含有することができる)は中間温度ループ40を循環し、そこで約200°Kから約100°Kに至るまで冷凍が提供される。中間温度冷媒流体41は、圧縮機42で圧縮され、冷却器43及び熱交換器60、61によって冷却され、そして弁44によって絞られて約100°Kにあるより低温の冷媒流体45を生成し、そしてこれは加温され、次いで流れ41として圧縮機42に戻される。」(第9欄第53行?第10欄第11行)

イ 刊行物4の記載事項
本願の原出願の優先日前に頒布された刊行物である特開平8-165465号公報(刊行物4)には以下の事項が記載されている。
(4-a)「【請求項1】オクタフルオロシクロブタンと、1,1,1-トリフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンのいづれか1つと、トリフルオロメタンと、テトラフルオロメタンと、メタンと、から成ることを特徴とする冷媒組成物。
【請求項2】 アルゴンを追加した請求項1記載の冷媒組成物。」
(4-b)「【0021】この冷媒回路には前記した沸点の異なる五種類の混合冷媒が封入される。即ち、オクタフルオロシクロブタン(RC318)と、1,1,1-トリフルオロエタン(R143a)、ペンタフルオロエタン(R125)及び1,1,1,2-テトラフルオロエタン(R134a)のいづれか1つと、トリフルオロメタン(R23)と、テトラフルオロメタン(R14)と、メタン(R50)とから成る非共沸混合冷媒があらかじめ混合された状態で封入される。」
(4-c)「【0035】これら各冷媒の組成は、実施例に限られるものではない。即ち、実験及び設計計算により、RC318を30?80重量%,R143a又はR125を1?20重量%,R23を5?30重量%,R14を1?40重量%,R50を0.5?20重量%の範囲内で混合することにより冷却器19において-150℃以下の超低温が得られることが確認された。
【0036】R143a又はR125に代えてR134aを用いる場合は、RC318を30?80重量%,R134aを1?20重量%,R23を5?30重量%,R14を5?40重量%,R50を0.5?20重量%の範囲で混合することにより冷却器19において-150℃以下の超低温が得られることを確認した。
【0037】また、上記混合冷媒にアルゴン(R740)を追加し、その組成をRC318を30?80重量%,R143a,R125又はR134aを1?20重量%,R23を5?30重量%,R14を1?40重量%(たゞし、R134aを用いた場合は、R14を5?40重量%とする)、R50を0.5?15重量%,R740を0.5?15重量%の範囲内で混合することにより冷却器19において-150℃以下の超低温が得られた。」

(3)引用発明
刊行物1には,「約200°Kよりも低い冷凍を発生させるための好ましい混合物」(摘記1-a参照)として,「表7」の以下の混合物
「成分 濃度範囲
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(4)F_(10) 0-15
C_(3)F_(8) 10-40
CHF_(3) 0-30
CF_(4) 10-50
Ar 0-40
N_(2) 10-80」が記載され(摘記1-b参照),
表7の混合物は,CF_(4)(テトラフルオルメタン),CHF_(3)(フルオルホルム)の「高い温度の可変負荷冷媒流体」(摘記1-e参照)にAr(アルゴン)が含まれたものであるから,「中間温度可変負荷冷媒流体(これは、高い温度の流体に関して記載した成分のうちの1種又はそれ以上の他に窒素及び/又はアルゴンを含有することができる)」(摘記1-f参照)に相当することは明らかであって,この冷媒流体で「約200°Kから約100°Kに至るまで冷凍が提供される」(摘記1-e参照)ことも記載されている。
また,「各表に与えられる濃度範囲はモル%単位である」(摘記1-a参照)ことも記載されている。
そうすると,刊行物1には,
「200?100°Kに至るまで冷凍が提供される冷媒混合物であって,以下の成分の冷媒の混合物
成分 濃度範囲(モル%)
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(4)F_(10) 0-15
C_(3)F_(8) 10-40
CHF_(3) 0-30
CF_(4) 10-50
Ar 0-40
N_(2) 10-80」の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているといえる。

(4)対比・判断
ア 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
上記(3)で述べたように,引用発明の冷媒混合物は,「100?200Kの範囲内の温度で使用される極低温冷却システムに使用される」もので,その組成は「HCFCを含まない」ものといえ,引用発明の「冷媒の混合物」は本願発明の「冷媒配合物」に相当する。
そうすると,本願発明と引用発明とは,
「100?200Kの範囲内の温度で使用される極低温冷凍システムに使用されるHCFCを含まない冷媒配合物」である点で一致し,以下の点で一応相違している。
・相違点(i)
冷媒配合物の成分の範囲が,
前者は,
「以下の成分を含んでなり、
成分名 範囲(モル%)
Ar 14.0-41.0
R-14 19.3-46.8
R-23 12.5-48.5
R-125 9.0-24.2
所望によりさらに以下の成分も含み、
成分名 範囲(モル%)
R-134a 0.0-12.5
R-236fa 0.0-15.5
Ne 0.0-8.5」であるのに対して,
後者は,
「成分名 範囲(モル%)
Ar 0-40
N_(2) 10-80
CF_(4) 10-50
CHF_(3) 0-30
C_(3)F_(8) 10-40
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(4)F_(10) 0-15」である点
・相違点(ii)
前者は,「113K?137Kの範囲内の温度での極低温システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する」ものであるのに対して,後者は「113K?137Kの範囲内の温度での極低温システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する」か明確でない点

イ 相違点の検討
(ア)相違点(i)について
引用発明の「CF_(4)」,「CHF_(3)」は,それぞれ,本願発明の「R-14」,「R-23」に相当する。また,本願発明は,Ar,R-14,R-23,R-125の必須成分,R-134a,R-236fa,Neの任意成分以外のHCFCでない追加成分も含み得るものであるから,引用発明において,「N_(2)」,「C_(3)F_(8)」,「C_(3)H_(3)F_(5)」,「C_(4)F_(10)」の成分を含む点は本願発明との相違点とはならない。
そうすると,相違点(i)について,本願発明と引用発明とは,
「成分名 範囲(モル%)
Ar 14.0-40.0
R-14 19.3-46.8
R-23 12.5-30」
の成分を含む点でさらに一致し,
前者が,以下の成分を含む
「成分名 範囲(モル%)
R-125 9.0-24.2」のに対して,
後者が,「R-125」を含まない点でのみ相違しているといえる。

そこで,この組成範囲の相違について,さらに検討する。
刊行物1には,表8として,
「成分 濃度範囲
C_(3)H_(3)F_(5) 5-25
C_(3)H_(2)F_(6) 0-15
C_(2)H_(2)F_(4) 0-20
C_(2)HF_(5) 5-20
C_(2)F_(6) 0-30
CF_(4) 10-50
Ar 0-40」の冷媒混合物が記載され(摘記1-c参照),「C_(2)HF_(5)」は本願発明の「R-125」に相当し,濃度範囲はモル%であるから,「Ar」と「R-14」と「R-125」を含む冷媒配合物も,引用発明と同様に100?200Kの低温を得るための冷媒配合物となることが理解できる。
一方,刊行物4には,「オクタフルオロシクロブタンと、1,1,1-トリフルオロエタン、ペンタフルオロエタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンのいづれか1つと、トリフルオロメタンと、テトラフルオロメタンと、メタンと、から成ることを特徴とする冷媒組成物」に「アルゴンを追加した」「冷媒組成物」が記載されており(摘記4-a参照),この「ペンタフルオロエタン」は「R125」で,「トリフルオロメタン」は「R23」で,「テトラフルオロメタン」は「R14」であり(摘記4-b参照),「アルゴン」は「R740」である(摘記4-c参照)。
そして,この冷媒混合物は「その組成をRC318を30?80重量%,R143a,R125又はR134aを1?20重量%,R23を5?30重量%,R14を1?40重量%(たゞし、R134aを用いた場合は、R14を5?40重量%とする)、R50を0.5?15重量%,R740を0.5?15重量%の範囲内で混合することにより冷却器19において-150℃以下の超低温が得られた」と記載されている(摘記4-c参照)ように,Ar,R14,R23,R125の4成分を本願発明と同様に含むものといえる。上記4成分がArを0.5?15重量%,R14を1?40重量%,R23を5?30重量%,R125を1?20重量%の相対比率で含むものであるが,これに対応するモル%の相対比率で換算する(分子量で除して,全体の割合が変わらないように換算する)と,Arを0.9?27.6モル%,R14を0.8?33.5モル%,R23を5.2?31モル%,R125を0.6?12.3モル%となるから,上記4成分をこの範囲の相対比率で含む冷媒混合物は,その他の成分も含むとはいえ,-150℃(123K)以下の低温を得ることができるといえる。

そうすると,刊行物1の表8に記載される冷媒混合物は,本願発明で必須の「R-23」を含まないものとはいえ,「Ar」,「R-14」に加えて「R-125(C_(2)HF_(5))」を含ませても,刊行物1の表7で示される引用発明と同様の100?200Kの低温を得るための冷媒混合物となることに加えて,刊行物4の記載からみて,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を所定の組成範囲で含む冷媒混合物が123K以下の低温を得ることができるのであるから,引用発明において,同様の100?200Kの低温を得ることのできる冷媒混合物を得るために,刊行物1,4に記載される「R-125」をさらに成分として加えることは当業者が容易になし得たことと認められる。
そして,さらに加える「R-125」の組成範囲として,刊行物1の「5-20モル%」との記載(摘記1-c参照)や刊行物4の上記他の成分との相対比率に照らして,9.0-24.2モル%の範囲内に設定することは,当業者が適宜なし得る設計事項と認められる。

(イ)相違点(ii)について
引用発明は,「113K?137Kの範囲内の温度での極低温システムの動作時のフリーズアウトを防ぐように機能する」ものであるかは明確ではない。
しかしながら,刊行物4に記載されるように,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を所定の組成範囲で含む冷媒混合物が123K以下の低温を得ることができ,その温度では冷凍システムが動作可能であるのであるから,123Kより高い137Kでは,当然,フリーズアウトが生じていないものと理解できる。
そうすると,上記刊行物4の記載から,引用発明において,R-125をさらに成分として加えて,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を所定の組成範囲で含むようにして,137K以下の低温範囲でも冷凍システムの動作が可能となる,すなわちフリーズアウトを防ぐようにすることは,当業者が容易になし得たことと認められる。

ウ 効果について
上記2(5)イ(ウ),(オ)で述べたように,発明の詳細な説明において裏付けられている極低温においてフリーズアウトしない冷媒配合物の提供という効果は,本願発明において,必須成分及び任意成分が特定の範囲内にあり,かつ,追加成分や潤滑オイルが含まれない場合のみ得られるものであって,本願発明の冷媒配合物のすべての範囲にわたって生じるものとは認められない。
また,本願発明において,その組成が上述の効果を奏する範囲内にあるものであっても,上記イ(イ)で述べたように,刊行物4には,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を所定の組成範囲で含む冷媒混合物が123K以下の低温を得ることができることが記載されているから,137K以下でフリーズアウトを生じないという効果は当業者が十分予測し得たものといえる。

(5)小括
よって,本願発明は,その原出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物1,4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第5 請求人の主張
1 請求人の主張の概要
請求人は,平成25年1月17日付けの意見書において,以下の主張をしている。
(1)理由1に対して
『今回の補正により、請求項1の極低温冷凍システムが「73K?223Kの範囲内の温度で使用される」ものであることを明記して、その内容を明瞭にしました。』

(2)理由2に対して
(a)「表8(図11)のデータ中、本発明の対象となるのはNo1?No10及びNo14の11種類の成分組成となります。そしてこの11種の成分組成における対象温度は、113K(No1)?137K(No14)です。また、11種の成分組成においては、Ar、R-14、R-23及びR-125の4成分は主に使用される成分であり、Arの使用量(モル%)は14.0(No3)?41.0(No2)、R-14の使用量(モル%)は19.3(No10)?46.8(No1)、R-23の使用量(モル%)は12.5(No1)?48.5(No3)、R-125の使用量(モル%)は9.0(No2)?24.2(No6)になっています。一方、11種の成分組成において、R-134a、R-236fa及びNeは必要に応じて使用される任意成分であり、R-134aの最大含有量は12.5(No14)、R-236faの最大含有量は15.5(No14)、Neの最大含有量は8.5(No13)です。」
(b)「本願発明の冷媒配合物の具体的な各成分の種類及び配合比、使用温度などにつきましては、先に説明した通り、請求項1の範囲を当初明細書の表8(図11)の具体的な成分組成データに基づいて減縮しましたので、この点に関する記載不備は解消と考えます。」

(3)理由4に対して
「例えば刊行物1には各種の組成が記載されていますが、本願発明のような
i Ar
ii R-14
iii R-23
vi R-125
という4成分を必須成分として組み合わせることを示唆する記載は有りません。・・・刊行物3及び刊行物4についても同様であり、これらもまた本願発明のような4成分を必須成分として組み合わせることを示唆する記載は無く、本願発明のような極低温の場合の課題を必ずしも解決するものではあいません。」

2 検討
(1)理由1について
本願の請求項1の「極低温システムが」が「73K?223Kの範囲内の温度で使用される」ものであることを明記したとしても,この記載は,上記「第4 1」で述べたとおり,73K?223Kの温度範囲全域で作動できる冷凍システムを意味するのか,あるいは,73K?223Kの温度範囲の一部でも作動することができる冷凍システムを意味するのかが明確でない。
加えて,請求人は上記の拒絶理由の指摘に対して何も回答しておらず,拒絶理由は依然として解消していないから,請求人の主張は採用できない。

(2)理由2について
上記「第4 2(5)イ(イ)」で述べたように,表8(図11)に示される冷媒配合物のうち,本願の請求項1の冷媒配合物に含まれるものは,No.1,No.2,No.5?No.10の配合物のみであって,請求人が主張するNo.3,No.4,No.14は,本願の請求項1の冷媒配合物で必須のR-125を含まないので,No.3,No.4,No.14を根拠にして成分組成の範囲を限定しても,本願の請求項1の冷媒配合物が発明の詳細な説明の記載に記載されていたことにはならない。
さらに,上記「第4 2(5)イ(ア),(ウ)?(オ)」で述べたように,本願の請求項1の冷媒配合物は,必須成分や任意成分以外に追加成分や潤滑オイルも含み得るものであるのに対して,表8で示される冷媒配合物は,必須成分と任意成分のみからなるものであるから,本願の請求項1の冷媒配合物は,請求人の主張するように,「明細書の表8(図11)の具体的な成分組成データに基づいて減縮し」たものともいえない。
よって,請求人の主張は採用できない。

(3)理由4について
請求人が指摘するように,刊行物1には,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を必須成分として組み合わせることについては明記されていない。
しかしながら,上記「第4 3(4)イ(ア)」で述べたように,刊行物1の表8に記載される冷媒混合物は,R-23を含まないものであるとはいえ,Ar,R-14に加えてR-125を含ませても,引用発明と同様の100?200Kの低温を得るための冷媒混合物となっていることに加えて,刊行物4には,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を含む冷媒混合物が123K以下の低温を得ることが記載されているから,引用発明において,同様の100?200Kの低温を得るための冷媒混合物を得るために,Ar,R-14,R-23,R-125の4成分を必須成分として組み合わせることは当業者が容易になし得たことといえる。
よって,請求人の主張は採用できない。

第6 むすび
以上のとおり,本願の特許請求の範囲の記載は,請求項1の特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく,また,請求項1の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく,本願は特許法第36条第6項に規定にする要件を満たしていない。
さらに,本願の請求項1に係る発明は,その原出願の優先日前外国又は国内において頒布された刊行物1,4に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-19 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2009-98829(P2009-98829)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09K)
P 1 8・ 537- WZ (C09K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 敏康  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 橋本 栄和
小石 真弓
発明の名称 極低温絞りサイクル冷凍システムに使用する不燃性混合冷媒  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  
代理人 石橋 政幸  

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