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審決分類 |
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない。 C01B 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C01B 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C01B |
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管理番号 | 1277114 |
審判番号 | 不服2012-16811 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-29 |
確定日 | 2013-07-25 |
事件の表示 | 特願2007-123089「三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭及びその製法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月20日出願公開、特開2008-280185〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 この出願は、平成19年5月8日の出願であって、平成24年1月27日付けの拒絶理由が通知され、同年4月2日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年5月23日付けの拒絶査定がなされ、これに対し、同年8月29日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出された後、平成25年1月15日付けの審尋がされ、同年3月25日に回答書が提出されたものである。 第2 平成24年8月29日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成24年8月29日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成24年8月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、同年4月2日付けの手続補正後の特許請求の範囲である 「【請求項1】 活性炭へホウ酸を含浸させ水を除去した高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、下部温度を550℃以上800℃になるように加熱しつつ、下部から不活性ガスを流通させて上部から水蒸気を同伴させて抜き出したものであるメタホウ酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭。」 を、 「【請求項1】 飽和ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ、次いで、水分を除去して200℃で乾燥させた高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、下部温度を550℃以上800℃になるように加熱しつつ、下部から不活性ガスを流通させて上部から水蒸気を同伴させて抜き出したものであるメタホウ酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭。」 と、補正するものである。 すなわち、本件補正は、補正前の「活性炭へホウ酸を含浸させ水を除去した高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭」を「飽和ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ、次いで、水分を除去して200℃で乾燥させた高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭」と補正するものである。 2 補正の適否 (1)新規事項の追加の有無 ホウ酸の活性炭への担持について、この出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)をみると、その【0008】に、 「本発明で使用するホウ酸を含侵させた活性炭としては、通常の方法によりホウ酸を担持させた活性炭を使用することができるが、好ましくはホウ酸の担持割合が20?25%である活性炭が使用される。」 と記載されるほかは、【0011】に、「参考例1(三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭の合成)」として、 「グラスライニングの容器に水1125Lを加えて80℃まで加熱した後、ホウ酸375kgを加えて完全に溶解させて25質量%のホウ酸水溶液を得た。次いで、当該ホウ酸水溶液に活性炭(クラレケミカル社製;4GS)920kgを加え、活性炭にホウ酸を担持させた後、200℃で水を除去して乾燥させ、ホウ酸の担持割合が28%である三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭1277gを得た。」 との記載があるのみである。 すると、当初明細書には、ホウ酸の活性炭への担持は「通常の方法により」と記載されるのみであって、「飽和」ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させる、ということについては明記されていないといえる。 なお、「参考例1」には、「水1125Lを加えて80℃まで加熱した後、ホウ酸375kgを加えて完全に溶解させて25質量%のホウ酸水溶液」に活性炭を加え、活性炭にホウ酸を担持させる、ことが記載されている。しかし、この記載には何らかの誤記があることは明らかである。すなわち、80℃における100gのホウ酸の飽和水溶液に溶存するホウ酸の量は19.06gであり、したがって80℃ではこれ以上の濃度の溶液は製造し得ないことが技術常識であるにもかかわらず、「完全に溶解させて25質量%のホウ酸水溶液」としたと記載されている。このように、参考例1の記載にはホウ酸水溶液について何らかの誤記があることは明らかであるが、いずれの誤記であるかは不明である。そうすると、このような記載を根拠に、「飽和ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ」ることを、当初明細書に記載された事項ということはできない。 以上によれば、「飽和ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ」ることは、「当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないもの」であるということはできず、本件補正は、当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものあるとはいえない。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反する。 (2)目的要件の適否 また、仮に、新規事項の追加の違反をおくとすると、本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であると認められる。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に規定に適合する。 (3)独立特許要件の有無 そこで、補正後における請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、検討する。 ア 刊行物及び刊行物に記載された事項 (ア)刊行物 特公昭58-057368号公報(以下、「刊行物1」という。) (イ)刊行物1に記載された事項 1a 「特許請求の範囲 1 ホウ酸水溶液を粒状の活性炭に含浸させて得られるホウ酸担持活性炭を、不活性ガス雰囲気下に300?800℃で加熱処理した後、300?800℃で塩素と反応させることを特徴とする三塩化ホウ素の製造方法。」(1ページ1欄19?24行) 1b 「この発明者らは、…(略)…従来法の欠点が改善された三塩化ホウ素の製造方法を開発することを目的として鋭意研究を行つた。 その結果、ホウ酸水溶液を粒状の活性炭とを使用し、粒状の活性炭にホウ酸水溶液を含浸させて得られるホウ酸担持活性炭を、一度不活性ガス雰囲気下に300?800℃で加熱処理した粒状の活性炭と塩素とを300?800℃で反応させると、前記目的を容易に達成できることを知り、この発明に到つた。」(2ページ3欄11?23行) 1c 「この発明で使用するホウ酸水溶液の濃度も特に制限されないが、一般には濃度が5?28重量%、好ましくは10?25重量%のものが適当である。」(2ページ4欄27?30行) 1d 「この発明において、ホウ酸担持活性炭のホウ酸の担持量は、使用するホウ酸水溶液の濃度、活性炭の比表面積、含浸時間、含浸操作の回数などを変えることによつて調節できるが、一般には活性炭100重量部に対してホウ酸[H_(3)BO_(3)]が、10?80重量部好ましくは20?60重量部になるように担持させるのがよい。」(2ページ4欄39行?3ページ5欄1行) 1e 「この発明において、ホウ酸水溶液を粒状の活性炭に含浸させて得られるホウ酸担持活性炭は、これを不活性ガス雰囲気下に300?800℃、好ましくは400?600℃で加熱処理する必要がある。加熱処理によってホウ酸は分解、脱水して三酸化二ホウ素になる。2H_(3)BO_(3)→B_(2)O_(3)→3H_(2)O」(3ページ5欄7?13行) 1f 「この発明において、不活性ガス雰囲気下での加熱処理は、一般に不活性ガスを流通させながら行なう。また、加熱処理は、塩素と反応させる前に行つておきさえすれば、いつ行なつてもよい。」(3ページ5欄28?31行) 1g 「実施例 2?6 実施例1と同様の粒状の活性炭90mlを、80℃に加温した水100mlにホウ酸[H_(3)BO_(3)]20g(323mmol)を溶解させたホウ酸水溶液に5分間浸漬した後、濾(審決注:原文はさんずいに戸。以下この表記とする。)別して空気雰囲気下に160℃で20時間乾燥させてホウ酸担持活性炭[H_(3)BO_(3)担持量8.0g]を得た。 次いでホウ酸担持活性炭90mlを内径24mmの石英製の反応管に充填し、アルゴンガスを270ml/mimの流量で流しながら加熱し、第1表に記載の温度で1時間加熱処理した後、アルゴンガスに代えて塩素ガスを…流し…生成した三塩化硼素を定量した。」(3ページ6欄42行?4ページ7欄13行) 1h 「 」(4ページ7欄) 1i 「実施例 8 ホウ酸[H_(3)BO_(3)]70gを水200mlに加え、97℃に加温してホウ酸を溶解させ、これに実施例1と同様の粒状の活性炭90mlを10分間浸漬した後、実施例5と同様に加熱処理および塩素と反応を行つた。」(4ページ7欄末行?8欄5行) イ 刊行物1に記載された発明 刊行物1は、「改善された三塩化ホウ素の製造方法」(摘示1b)、具体的には、 「ホウ酸水溶液を粒状の活性炭に含浸させて得られるホウ酸担持活性炭を、不活性ガス雰囲気下に300?800℃で加熱処理した後、300?800℃で塩素と反応させることを特徴とする三塩化ホウ素の製造方法。」(摘示1a) に関して記載するものである。 そして、その具体例である「実施例2?6」には、「活性炭…を…ホウ酸水溶液に…浸漬した後、濾別して空気雰囲気下に160℃で20時間乾燥させてホウ酸担持活性炭…を得た」(摘示1g)こと、このホウ酸担持活性炭を「反応管に充填し、アルゴンガスを…流しながら…加熱処理した」(摘示1g)ことが記載されている。 そうすると、刊行物1には、上記の塩素と反応させる活性炭として、 「活性炭をホウ酸水溶液に浸漬した後、濾別して空気雰囲気下に160℃で20時間乾燥させたホウ酸担持活性炭を反応管に充填し、アルゴンガスを流しながら、300?800℃で加熱処理した活性炭」 の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 ウ 本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比する。 引用発明における、「活性炭をホウ酸水溶液に浸漬」とは、摘示1aによれば「ホウ酸水溶液を粒状の活性炭に含浸させ」る工程であるから、本件補正発明における「ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ」る工程に相当し、引用発明の「濾別して空気雰囲気下に160℃で20時間乾燥させ」たことは、本件補正発明の「水を除去した」ことに相当する。 そして、引用発明の「ホウ酸担持活性炭を反応管に充填し、アルゴンガスを流しながら、300?800℃で加熱処理し」について、摘示1eに「加熱処理によってホウ酸は分解、脱水して三酸化二ホウ素になる。2H_(3)BO_(3)→B_(2)O_(3)→3H_(2)O」(審決注:この式は、技術常識及び係数から、「2H_(3)BO_(3)→B_(2)O_(3)+3H_(2)O」の誤記であると認める。)の記載からみて、ホウ酸を「分解、脱水して三酸化二ホウ素」とする工程と認められる。したがって、引用発明における加熱処理して得られた活性炭は、「三酸化二ホウ素担持活性炭」ということができ、引用発明の「反応管」は本件補正発明の「脱水装置」に相当するといえ、さらに、引用発明の不活性ガスであることが明らかな「アルゴンガス」はホウ酸の脱水で生成する水(その温度から水蒸気の状態であると認められる。)を伴って反応管から抜き出されると認められる。 そうすると、引用発明の「ホウ酸担持活性炭を反応管に充填し、アルゴンガスを流しながら、300?800℃で加熱処理し」の工程は、本件補正発明の「ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、…温度を550℃以上800℃になるように加熱しつつ、…不活性ガスを流通させて…水蒸気を同伴させて抜き出し」の工程に対応する。 そして、引用発明におけるホウ酸担持活性炭及び加熱処理して得られた三酸化二ホウ素担持活性炭は、ともに三塩化ホウ素を製造するために用いられる活性炭である(摘示1a、1b、1g等)。 そうすると、本件補正発明と引用発明とは、 「ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ、水を除去した三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、加熱しつつ、不活性ガスを流通させて水蒸気を同伴させて抜き出したものである三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 A 活性炭を加えるホウ酸水溶液が、本件補正発明は、「飽和」ホウ酸水溶液であるのに対して、引用発明は、「飽和」と特定されていない点(以下、「相違点A」という。) B 不活性ガスは、本件補正発明は、装置の「下部」温度を「550℃以上800℃」になるように加熱しつつ、装置の「下部から」「上部」へガスを流通させるのに対して、引用発明は、「300?800℃」で加熱処理する点(以下、「相違点B」という。) C 三酸化二ホウ素担持活性炭は、本件補正発明は、「メタホウ酸を実質的に含まない」ものであるのに対して、引用発明は、この点は明らかではない点(以下、「相違点C」という。) D 三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭及び三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭が、本件補正発明は、「高純度」「三塩化ホウ素製造用」であるのに対して、引用発明は、「三塩化ホウ素製造用」である点(以下、「相違点D」という。) エ 相違点についての判断 (ア)相違点Aについて 活性炭を加えるホウ酸水溶液の濃度について、刊行物1には、「特に制限されないが、一般には濃度が5?28重量%、好ましくは10?25重量%のものが適当である。」(摘示1c)と記載されている。この濃度は、飽和水溶液濃度を包含する(審決注:ホウ酸の飽和水溶液濃度は重量%で、60℃で12.96、80℃で19.06、100℃で27.53である。)ものであり、例えば、刊行物1の実施例8でも25.9重量%(97℃)の飽和水溶液を使用している(摘示1i)。 よって、引用発明において、活性炭を加えるホウ酸水溶液の濃度を「飽和」とすることは、当業者が適宜なし得ることである。 そして、この点による格別の効果も認められない。 (イ)相違点Bについて 引用発明における不活性ガスによる加熱処理は、担持されたホウ酸を「分解、脱水して三酸化二ホウ素」とするための処理であり、この加熱によってホウ酸は脱水してメタホウ酸を経て「三酸化二ホウ素」となる(必要であれば、査定において引用した特開2000-119011号公報図4等参照)。そうすると、「三酸化二ホウ素」をより生成するであろう条件である「550℃以上800℃」で加熱処理を行うことは格別のことではない。例えば、刊行物1の実施例2ないし4においてもこのような温度を使用している(摘示1g,1h)。 また、不活性ガスは装置の下部から上部、あるいは横からのいずれかで流通させるのであり、そのうちの前者とすること、さらに、温度を「下部」の位置のものとすることは、当業者が適宜なし得ることである。 そして、この点による格別の効果も認められない。 (ウ)相違点Cについて 引用発明において不活性ガスによる加熱処理は、上記(イ)のとおり担持されたホウ酸を分解、脱水して「三酸化二ホウ素」とするための処理であるから、目的物である「三酸化二ホウ素」ではない、例えば、中間生成物である「メタホウ酸」やその他のもの、を含まないものとすることは、当業者が当然になすべきことであると認められる。 そして、この点による格別の効果も認められない。 (エ)相違点Dについて 本件補正発明も引用発明も塩素と反応させて三塩化ホウ素を製造するための原料として用いる「三塩化ホウ素製造用」の活性炭である。そして、明細書等を検討しても、本件補正発明における「高純度」の程度は、何についてどの程度の純度であるかは明らかではない。 本件補正発明の酸化二ホウ素担持活性炭は上記のとおり引用発明から容易想到な引用発明と類似する方法により得られるものであって、その方法によって得られる三酸化二ホウ素担持活性炭として格別異なるものとも認められないから、両者同じ塩素と反応させて三塩化ホウ素を製造するための原料として用いたとき、得られる「三塩化ホウ素」の純度が格別異なるということはできない。 したがって、両者の活性炭は本件補正発明でいう「高純度」「三塩化ホウ素製造用」ということができる。 よって、この点は両者の相違点とはいえない。 (オ)請求人の主張 請求人(出願人)は平成24年4月2日付け意見書等において、 「引用文献1(審決注:刊行物1である。)に記載の製法では、上記の通り、反応率が100%でも、三塩化ホウ素の収率は98%ですから高純度三塩化ホウ素を得るためには精製が必要となります。… 高純度三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭を塩素ガスと反応させることで、三塩化ホウ素を得、次いで、三塩化ホウ素をホウ化炭素化合物と反応させる事によってドライエッチングガス等として使用できる高純度の三塩化ホウ素が得られるのです(特開2010-111550号公報記載)。」と主張する。 しかし、そもそも、本件補正発明において得られる三塩化ホウ素は、どの程度の「高純度」の三塩化ホウ素であるのかデータ等示すところはなく、「ドライエッチングガス等として使用できる高純度」のものであることも確認できない。 そうすると、本件補正発明において得られる三塩化ホウ素が「ドライエッチングガス等として使用できる高純度」のものであることを前提とする請求人の主張は、根拠がないものである。 また、請求人は、本件出願人の後願の公開公報である「特開2010-111550号公報」を挙げて高純度の三塩化ホウ素が得られる旨も主張する。 しかし、この文献において本件補正発明と類似する活性炭を用いて得られた三塩化ホウ素には、通常ホスゲンや塩素が含まれる(【0021】)ことが明記されている。 そうすると、請求人のこの主張は、むしろ上記(エ)の認定判断を裏づけるものといえる。 オ まとめ したがって、本件補正発明は、その出願前頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 そうすると、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反する。 3 むすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反し、又はさらに、同法第126条第7項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたから、この出願に係る発明は、平成24年4月2日付けで手続補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、 「活性炭へホウ酸を含浸させ水を除去した高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、下部温度を550℃以上800℃になるように加熱しつつ、下部から不活性ガスを流通させて上部から水蒸気を同伴させて抜き出したものであるメタホウ酸を実質的に含まないことを特徴とする高純度三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭。」 (以下、「本願発明」という。)である。 第4 原査定の理由 原査定は、「この出願については、平成24年 1月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、その「理由2」は、 「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものである。 この理由における、「下記の刊行物」は、「引用文献等:1」すなわち、「1.特公昭58-057368号公報」である。 第5 当審の判断 当審は、原査定の理由のとおり、本件補正発明は、上記刊行物に記載された発明に基づいて発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。 その理由の詳細は、以下のとおりである。 1 刊行物、刊行物に記載された事項及び刊行物に記載された発明 刊行物、刊行物に記載された事項及び刊行物に記載された発明は、それぞれ、前記第2の2(3)ア、イに記載したとおりである。 2 本願発明と引用発明との対比・判断 本願発明は、前記第2の3(1)に記載したとおり、本件補正発明の「飽和ホウ酸水溶液に活性炭を加えてホウ酸を担持させ、次いで、水分を除去して200℃で乾燥させた高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭」が「活性炭へホウ酸を含浸させ水を除去した高純度三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭」となったものである。 そうすると、本願発明と引用発明とを対比したとき、本件補正発明と引用発明とを対比したときとは「活性炭へホウ酸を含浸させ」ることが一致点となる点で異なり、したがって、本願発明と引用発明との一致点が、 「活性炭へホウ酸を含浸させ水を除去した三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭を脱水装置に充填し、加熱しつつ、不活性ガスを流通させて水蒸気を同伴させて抜き出したものである三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭。」 となり、相違点はAがなくなる他は、本件補正発明と引用発明とを対比したとき同じ、以下のとおりとなる。 B’ 不活性ガスは、本願発明は、装置の「下部」温度を「550℃以上800℃」になるように加熱しつつ、装置の「下部から」「上部」へガスを流通させるのに対して、引用発明は、「300?800℃」で加熱処理する点(以下、「相違点B’」という。) C’ 三酸化二ホウ素担持活性炭は、本願発明は、「メタホウ酸を実質的に含まない」ものであるのに対して、引用発明は、この点は明らかではない点(以下、「相違点C’」という。) D’ 三塩化ホウ素製造用ホウ酸担持活性炭及び三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭が、本願発明は、「高純度」「三塩化ホウ素製造用」であるのに対して、引用発明は、「三塩化ホウ素製造用」である点(以下、「相違点D’」という。) これらの相違点についての判断は、前記第2の2(3)エ(イ)(ウ)(エ)に記載したことと同じことがいえる。 5 まとめ したがって、本願発明は、その出願前頒布された刊行物1に記載された発明に基づいて発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第6 むすび 以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、この出願は、同法第49条第1項第2号に該当し拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-05-21 |
結審通知日 | 2013-05-28 |
審決日 | 2013-06-10 |
出願番号 | 特願2007-123089(P2007-123089) |
審決分類 |
P
1
8・
561-
Z
(C01B)
P 1 8・ 121- Z (C01B) P 1 8・ 575- Z (C01B) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡田 隆介、近野 光知 |
特許庁審判長 |
真々田 忠博 |
特許庁審判官 |
松本 貢 豊永 茂弘 |
発明の名称 | 三塩化ホウ素製造用三酸化二ホウ素担持活性炭及びその製法 |