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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B29C
審判 全部無効 2項進歩性  B29C
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B29C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B29C
管理番号 1277166
審判番号 無効2012-800001  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-28 
確定日 2013-07-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第2932136号発明「電子部品の樹脂封止成形方法及び装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第2932136号は、平成5年7月22日に特許出願され、平成11年5月28日に特許権の設定登録がされたものである。
これに対して、請求人・第一精工株式会社より平成24年1月4日に請求項1?4に係る発明について本件無効審判請求がなされ、被請求人・TOWA株式会社から同年3月30日付けで答弁書が提出された。
そこで、当審において、同年4月23日付けで口頭審理における審理事項を通知したところ、請求人及び被請求人からそれぞれ同年5月25日付けで口頭審理陳述要領書が提出され、その後、同年6月8日に口頭審理を行い、審理終結したものである。

第2 本件発明
本件特許第2932136号の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明4」、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】 固定型と可動型とを対向配置した金型と、該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットを用いてリードフレーム上に装着した電子部品を樹脂材料にて封止成形する電子部品の樹脂封止成形方法であって、
樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程と、
上記各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する工程と、
上記各モールディングユニットを用いて、上記電子部品の樹脂封止成形を行う工程と、
樹脂封止された電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す工程とを備えたことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形方法。
【請求項2】 各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する工程は、
電子部品を装着した多数枚の樹脂封止前リードフレームを、リードフレーム供給ユニットにおける所定位置に供給しセットする工程と、
上記リードフレーム供給ユニットにセットした樹脂封止前リードフレームを、リードフレーム整列ユニットへ移送する工程と、
上記リードフレーム整列ユニットに移送した樹脂封止前リードフレームを、所定の方向へ整列させる工程と、
所定数の樹脂タブレットを樹脂タブレット搬出ユニットに供給し整列させる工程と、
上記リードフレーム整列ユニットにセットした樹脂封止前リードフレームと、上記樹脂タブレット搬出ユニットに整列させた樹脂タブレットとを、モールディングユニットにおける固定型及び可動型間に移送すると共に、上記樹脂封止前リードフレームをモールディングユニットのキャビティ部の所定位置に供給し、且つ、上記樹脂タブレットをポット内に供給する工程とを備えており、
電子部品の樹脂封止成形を行う工程は、
上記固定型及び可動型の両型を型締めすると共に、ポット内の樹脂タブレットを加熱且つ加圧して溶融化し、該溶融樹脂材料を上記樹脂通路を通してキャビティ内に夫々注入充填させて、該キャビティ内に嵌装した電子部品を夫々樹脂封止成形する工程を備えており、
樹脂封止した電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す工程は、
上記樹脂封止成形工程を経た樹脂封止済リードフレームを、上記固定型及び可動型の両型から外部へ取り出す工程と、
上記固定型及び可動型における型面のクリーニィングを行う工程と、
上記樹脂封止済リードフレームを、ディゲーティングユニットの位置に移送する工程と、
上記ディゲーティングユニットにおいて、上記樹脂封止済リードフレームにおけるゲート部分を除去する工程と、
上記ゲート除去工程を経た上記樹脂封止済リードフレームを、リードフレーム収容ユニットへ移送する工程と、
上記リードフレーム収容ユニットにおいて、上記ゲート除去工程を経た樹脂封止済リードフレームを各別に係着する工程と、
各別に係着した上記各樹脂封止済リードフレームを、各別に収容する工程とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の電子部品の樹脂封止成形方法。
【請求項3】 固定型と可動型とを対向配置した金型と、該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットと、上記モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する手段と、樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットから外部へ取出す手段とを備えた電子部品の樹脂封止成形装置であって、
既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成したことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形装置。
【請求項4】 モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する手段が、
電子部品を装着した多数枚の樹脂封止前リードフレームを供給する供給ユニットと、
上記各樹脂封止前リードフレームを所定方向へ整列させるリードフレーム整列ユニットと、
樹脂タブレットの供給ユニットと、
樹脂タブレットを整列して搬出する樹脂タブレットの搬出ユニットと、
整列させた上記樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを上記モールディングユニットに移送するローダユニットとを備えており、
樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットから外部へ取出す手段が、
樹脂封止済リードフレームを取り出すアンローダユニットと、
金型のクリーナユニットと、
上記樹脂封止済リードフレームの移送ユニットと、
上記樹脂封止済リードフレームのゲートを除去するディゲーティングユニットと、
ゲートを除去した各樹脂封止済リードフレームを個々に係着するピックアップユニットと、
係着した個々の上記樹脂封止済リードフレームを各別に収容するリードフレーム収容ユニットとを備えており、
更に、上記各ユニットの各動作を連続的に且つ自動的に制御するコントローラユニットとを備えたことを特徴とする請求項3に記載の電子部品の樹脂封止成形装置。」

第3 請求人の主張及び証拠方法
(1)請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書及び平成24年5月25日付け口頭審理陳述要領書を提出し、「特許第2932136号発明の特許請求の範囲の請求項1乃至4に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、その証拠方法として、下記の甲第1号証ないし甲第6号証を提出し、本件発明1ないし4に係る特許は、第1回口頭審理調書に記載された請求人の陳述の要領からみて、概略、以下の理由により無効とされるべきものであると主張している。

無効理由1:
本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。
または、本件請求項1ないし4に係る発明は、甲第1号証ないし甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

無効理由2:
本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるため、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
または、本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
または、本願は、明細書の特許請求の範囲の記載が不備であるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)証拠方法
甲第1号証:特開昭59-207635号公報
甲第2号証:実開平4-96323号公報
甲第3号証:特開昭62-269327号公報
甲第4号証:平成12年6月19日(起案日)付け異議決定の謄本(当審注:異議の決定(特許第2932136号の請求項1?4に係る特許に対する特許異議の申立て、異議2000-70540)の写し)
甲第5号証:特許庁に提出された平成9年4月25日付け意見書(当審注:特願平5-202690号の審査経過における平成9年4月25日付けの特許出願人トーワ株式会社が提出した意見書の写し)
甲第6号証:本件発明(第2932136号)に係る特許庁に提出された平成9年4月25日付けの意見書(当審注:特願平5-202689号の審査経過における平成9年4月25日付けの特許出願人トーワ株式会社が提出した意見書の写し)

第4 甲各号証の記載事項
1.甲第1号証に記載された事項
(a1)「半導体素子を外気と遮断してモールドするモールド金型と、該金型を型締め加圧保持し該金型内に樹脂を注入するトランスフアーモールドプレス機構部とから構成される半導体素子の樹脂封止装置において、装置本体に前記トランスフアーモールドプレス機構部を複数台設置し、該各機構部に、個別に分離した専用のモールド金型をそれぞれ配置したことを特徴とする半導体素子の樹脂封止装置。」(特許請求の範囲)

(a2)「従来、この種の樹脂封止装置は半導体素子を外気と遮断してモールドし、半導体装置としての外形状を与えるモールド金型と、このモールド金型を型締め加圧保持し、該金型内に樹脂を注入するトランスフアーモールドプレス機構部とから構成されている。この2つの機構部は最近の傾向として作業1シヨツトごとの作業数を向上させるために大形化が進んでいる。
この大形化に伴ない、以下に述べる諸々の問題が発生している。すなわち、モールド金型においては、従前以上の型加工精度の確保と、高級型材質の選定及び処理が要求されコスト高となる。又、金型内の各位置により樹脂封止条件の差が生じ充填不良、ボイド、薄バリ発生などのモールド成形不良が生じ、品質にバラツキを生ずる。さらに重量が増大するためその取扱いが困難になると共に、安全性の確保がむずかしくなつている。
一方、トランスフアーモールドプレスにおいても金型の大形化に伴ない、金型の取付部(プラテン)の大形化及び型締め圧の高圧化が余儀なくされている。さらにプラテン面積の拡大により、型締圧の分布を均一にしモールドバリ発生を防止するため型締めシリンダーを複数台設ける必要があり、金型と同様に大形化に伴なう弊害を生じさせるという欠点があつた。」(第1頁左下欄第17行?第2頁左上欄第1行)

(a3)「本発明の目的は小形軽量でかつ、品質のバラツキの少ない半導体素子の樹脂封止装置を提供することにある。」(第2頁左上欄第2?4行)

(a4)「第1図において、半導体素子の樹脂封止を行う装置の本体Mに、型締めシリンダー1、射出シリンダー2、プラテン3等により構成されるトランスフアーモールドプレス機構部P_(1),P_(2)を2台装備し、各機構部P_(1),P_(2)のプラテン3,3に、個別に分離した専用のモールド金型4,4をそれぞれセツトする。該専用のモールド金型4は第2図、第3図に示すように半導体装置用リードフレームの1枚分又は2枚分をモールドできる大きさのものである。
また前記機構部の周辺には樹脂封止前半導体装置用リードフレームをストツクし整列部へ配置するワーク供給部5、整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6、樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7、金型部より排出されたワークより不要樹脂を除去しワークのみを取り出し収納するワーク収納部8、及び定期的に金型表面を清掃するクリーニングユニツト9を設置する。
各プレス機構部P_(1),P_(2)では設置された専用のモールド金型4を型締めシリンダー1により型締め加圧保持し、射出シリンダー2で樹脂を金型4内に注入し、各金型4で第2図、第3図に示すように半導体装置用リードフレーム11の半導体素子10を樹脂12で封止を行なつて少数個の型取りを行なうのである。
本発明は以上説明したように装置本体に複数台のプレス機構部を設置し、各機構部に個別に分離した専用のモールド金型を配置するようにしたため、モールド金型を従来の多数個取り(大形化)から少数個取り(小形化)、たとえば1枚又は2枚取りとすることにより装置全体を小形軽量化でき、取扱いの簡便さ、安全性の確保ができるとともに型加工精度の確保が容易に実現でき、金型内の各位置による樹脂封止条件の差をほとんどなくし、かつ半導体装置用リードフレームごとの板厚のバラツキによる薄バリの発生も極力押えることができるなど製造コストの低減を図りつつ、高精度でかつ高品質の装置及び半導体装置が製造できる効果がある。又、金型の小形化(少数個取り)による生産性の低下は金型及びプレスの複数化と、周辺自動化機器群の有効的連係動作により解決できるものである。」(第2頁左上欄第12行?左下欄第15行)

(a5)「尚、本発明は上述の実施例に制限されることなく、トランスフアーモールドプレス機構部及び金型の数の増設又、これらとその他の自動化機器群の配置を変更しても実施できることはいうまでもない。」(第2頁左下欄第16?20行)

(a6)「

」(第1図)

(a7)「

」(第2図)

(a8)「

」(第3図)

2.甲第2号証に記載された事項
(b1)「【請求項1】 型開き状態でワークがセットされるモールド型と、型締め状態のモールド型内に樹脂を注入するための樹脂注入機構と、前記ワークがセットされた後に前記モールド型の型締めを行い前記樹脂注入機構により注入された樹脂が硬化した後当該モールド型の型開きを行う駆動機構と、前記モールド型の型開き状態で前記ワークが当該モールド型に正規の状態にてセットされているかどうか及びカルの残存があるかどうかを検出し得るように設けられたセンサと、前記駆動機構による型締めが実行される前に前記センサによりワークが正規の状態にセットされていないことあるいはカルの残存があることが検出されたときに当該駆動機構による型締めの実行を中止する中止手段とを具備してなる樹脂モールド装置。」(実用新案登録請求の範囲)

(b2)「【図面の簡単な説明】
・・・
【図3】樹脂モールド装置の要部の概略的な正面図
【図4】可動型部分の上面図
・・・
【図6】リードフレームの上面図」(第2頁第1欄第16行?第2欄第5行)

(b3)「【符号の説明】
1はリードフレーム(ワーク)、2は位置決め孔、3は半導体チップ、24は固定型、25は可動型、26はモールド型、27は駆動機構、28,34はチェイス、29はポット部、30はスプル部、33は位置決めピン、35は運転制御装置(中止手段)、36は樹脂注入機構、37は搬送機構、38はカル、39はセンサ、40は投光器、41は受光器、43は警報器を示す。」(第2頁第2欄第11?18行)

(b4)「【図3】

」(図3)

(b5)「【図4】

」(図4)

(b6)「【図6】

」(図6)

3.甲第3号証に記載された事項
(c1)「(産業上の利用分野)
この発明は、ICやLSI等を樹脂封止して半導体装置を製造する方法の改良に関し、特に、半導体装置の多品種を夫々少量生産する場合に適した該装置の製造方法に係るものであり、この種装置の製造技術産業の分野において利用されるものである。」(第2頁左上欄第5?11行)

(c2)「(作用)
本発明の方法によれば、固定側及び可動側の両金型ベース(3・4)に対する固定側及び可動側の両キャビティブロック(7・8)の着脱が夫々容易となるため、キャビティブロック(7・8)の交換作業に要する時間が短縮化される。」(第3頁左下欄第5?10行)

(c3)「(実施例)
次に、本発明を実施例図に基づいて説明する。
第2図は半導体素子の樹脂封止用金型装置の要部を示しており、この装置には、装置フレーム上端の固定盤(図示なし)側に固着される固定上型1と、該上型の下方に対向配置される可動下型2と、上記両金型1・2のベース3・4側に夫々配置したオイル或はヒータ等の熱源5・6とが備えられている。
上記上型のベース3には固定側キャビティブロック7が一種のアリ溝嵌合により着脱自在に嵌合装着されており、また、下型のベース4には可動側キャビティブロック8が同じく一種のアリ溝嵌合により着脱自在に嵌合装着されている。
また、上記可動側キャビティブロック8には、所要複数のポット9…9が上下方向に配置されており、更に、これらのポット9の周辺には所要複数の下型キャビティ10・10(図例においては、1個のポットに対して2個のキャビティ)が配設されている。」(第3頁右下欄第3行?第4頁左上欄第3行)

(c4)「第3図乃至第5図に示すように、リードフレーム27上の半導体素子(図示なし)をその着脱機構28によって上下キャビティ20・10の所定位置にセットし、次に、下型ポット9…9内に樹脂材料29を供給した状態で型締めを行ない、次に、上記樹脂材料をプランジャー13a…13aにて加圧すると、該樹脂材料29は溶融化されながら上型カル部24及びゲート部26を通して上下キャビティ20・10内に加圧注入されて該キャビティ内の半導体素子を樹脂封止するといったトランスファ樹脂モールドを行なうことができるのである。」(第5頁左下欄第16行?右下欄第7行)

(c5)「固定側キャビティブロック7には、可動側キャビティブロック8及び下型ベース4におけるアリ部8aとアリ溝部4aと同一の構成(7a・3a)が設けられており、また、ネジ孔17と挿通孔18及びボルト19から成る固定手段と同一の構成が設けられている。
・・・
即ち、上記ブロック7・8はべース3・4に対して嵌合という簡易手段によって確実に、且つ、容易に着脱できるのである。」(第5頁右下欄第8行?第6頁左上欄第12行)」

(c6)「上記金型ベース4に新たに装着すべきキャビティブロックにおけるポットの各位置が交換前の各位置と異なる場合・・・このような場合は・・・各プランジャーとそのホルダー13の全体を同時に交換する等の必要が生じる。
・・・
第11図は各構成部材を着脱自在に構成した金型装置を分解した状態を示している。 この金型装置におけるプランジャー13a…13aは、第12図乃至第15図に示すように、各プランジャーのピッチ間隔を自在に変更・調整すると共に、該各プランジャー13aとそのホルダー13の全体を下型ベース4に対して着脱自在に装着することができるように構成されている。」(第7頁左上欄第6行?左下欄第3行)

(c7)「第17図乃至第20図は、キャビティブロック7・8を金型ベース3・4に対して着脱する場合において、特に、該キャビティブロックを簡易に嵌合装着し且つ所定の位置に確実に固定させるための構成例を示している。 この構成は上下両型1・2において実質的に同じ構成を採用できるので、以下、これを下型2についてのみ説明する。
上記キャビティブロック8と下型ベース4とは、前述したように、一種のアリ溝嵌合(8a・4a)によって着脱自在に構成されているが、第17図に示したキャビティブロックのアリ部8aとベース側のアリ溝4aとは次のように形成されている。
・・・
該ブロック8はベース4に対してフリーな状態で簡易に嵌入させることができると共に、所定位置での嵌合は高精度に設けられた先端及び後端におけるアリ溝嵌合によって確実に装着された状態となる。
・・・
該ブロック8をベース4に嵌合させるときに、その嵌入作用をスムーズに行なうことができると共に、所定位置での嵌装時においてのみ、該ブロック8をベース4に対して高い精度に且つ密に嵌合装着させることができるものである。」(第8頁左下欄第5行?第9頁左下欄第3行)

(c8)「(発明の効果)
本発明方法によれば、キャビティブロックを金型ベースに対して頻繁に交換するといった積極的な交換性を有する金型装置を用いるため、固定側及び可動側の両金型ベースに対して固定側及び可動側の両キャビティブロックを夫々頻繁に交換する半導体装置の多品種少量生産に適した製造方法を提供することができる。」(第10頁右上欄第16行?左下欄第4行)

(c9)「第2図

」(第2図)

(c10)「第3図

」(第3図)

(c11)「第11図

」(第11図)

(c12)「第17図

」(第17図)

第5 当審の判断
1.無効理由1
1-1.特許法第29条第1項第3号についての検討
(1)本件発明1について
ア.甲第1号証に記載された発明
上記第4 1.摘示(a1)?(a8)からみて、甲第1号証には、トランスファーモールドプレスによる、リードフレーム上に装着した半導体素子の樹脂封止装置を用いた半導体素子の樹脂封止成形方法が記載されている。甲第1号証記載の半導体素子の樹脂封止装置は、型締めシリンダー1、射出シリンダー2、プラテン3等により構成されるトランスファーモールドプレス機構部を複数台設置し、各機構部にモールド金型4,4をそれぞれセットしたものである。
よって、甲第1号証には、
「型締めシリンダー1、射出シリンダー2、プラテン3等により構成されるトランスファーモールドプレス機構部にモールド金型をセットしたもの(以下、「ユニット(あ)」という。)を複数用いてリードフレーム上に装着した半導体素子を樹脂材料にて封止成形する半導体素子の樹脂封止成形方法。」(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。

イ.本件発明1と甲1発明1との対比
甲第1号証記載の「モールド金型」及び「半導体素子」は、摘示(a1)、(a4)及び(a6)?(a8)からみて、それぞれ、本件発明1の「固定型と可動型とを対向配置した金型」及び「電子部品」に相当することは明らかである。また、トランスファーモールドプレスによる樹脂封止の技術分野において、金型に樹脂材料供給用のポット、金型型面のキャビティ、ポットとキャビティとの間の樹脂通路を設け、ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャによって、樹脂材料にて封止成形することは、当然の技術常識であるので(例えば、甲第3号証の上記第4 3.摘示(c1)、(c3)、(c4)、(c6)、(c9)?(c12)を参照)、甲1発明1のユニット(あ)が、金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有することは、甲第1号証に明記がなくとも記載されているに等しい事項である。
そうであれば、甲1発明1におけるユニット(あ)の構成が本件発明1の「モールディングユニット」の構成を備えていることは、第1回口頭審理調書における被請求人の陳述からみて明らかであり、そして、本件発明1におけるモールディングユニットの数は、増減調整が可能なことから、複数存在しうるものであるから、甲1発明1のユニット(あ)は、本件発明1におけるモールディングユニットに相当するものである。
さらに、甲1発明1は本件発明1の備える「各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する工程」及び「樹脂封止された電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す工程」を明示的には備えていないが、甲第1号証に「樹脂封止前半導体装置用リードフレームをストツクし整列部へ配置するワーク供給部5」、「整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6」及び「樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7」が記載されているから(摘示(a4)、(a6))、甲1発明1においても、ユニット(あ)の稼働に際し、ユニット(あ)に半導体素子を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給し、樹脂封止された成形体をユニット(あ)から外部へ取出す工程が存在することは明らかである。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、
「固定型と可動型とを対向配置した金型と、該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットを用いてリードフレーム上に装着した電子部品を樹脂材料にて封止成形する電子部品の樹脂封止成形方法であって、
上記各モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する工程と、
上記各モールディングユニットを用いて、上記電子部品の樹脂封止成形を行う工程と、
樹脂封止された電子部品を上記各モールディングユニットから外部へ取出す工程とを備えたことを特徴とする電子部品の樹脂封止成形方法。」
である点で一致し、
本件発明1は、「樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」を有するのに対し、甲1発明1では、そのような工程についての規定がなされていない点で、相違している。

ウ.相違点についての判断
はじめに、本件発明1に規定される、モールディングユニットの数の「増減調整」について検討する。
甲第1号証の摘示(a5)には、「トランスフアーモールドプレス機構部及び金型の数の増設又、これらとその他の自動化機器群の配置を変更しても実施できることはいうまでもない。」と記載されている。したがって、甲第1号証には、ユニット(あ)すなわち本件発明1における「モールディングユニット」が増設可能である点については開示されている。
しかし、甲第1号証には「増設」としか記載がなく、削減に関する記載はないから、甲第1号証には、ユニット(あ)の削減を含めた増減調整についての明示的な記載はなされていない。
そこで、「増設ができること」が記載されていることで、「削減できること」も併せて示唆があると解することができる場合もあることから、甲第1号証における「増設」の記載が「削減」をも示唆しているかどうかを検討する。
甲第1号証には、作業1ショットごとの作業数を向上させるための大形化に伴う問題点の解決が課題であり、モールド金型を従来の多数個取り(大形化)から少数個取り(小形化)とする代わりに、少数個の型取りを複数台のプレス機構部により行い、金型の小形化(少数個取り)による生産性の低下を金型及びプレスの複数化により解決する旨が記載(摘示(a2)、(a3)及び(a4))されている。
上記課題の前提である「大形化」は生産量増大、生産性向上のために行われるものであるから、甲第1号証には、生産数の削減や生産性の低減の想定はなく、よって、ユニット(あ)の削減は示唆されていないと解するのが相当である。また、金型の小形化により生産性の低下を解決するとの記載からは、生産性の低下や生産数の減少を防止する意図が明確に把握できるから、この点からも、甲第1号証には、生産性の低減や生産数の削減の想定はなく、よって、ユニット(あ)の削減は示唆されていないと解するのが相当である。むしろ、甲第1号証における、上記「大型化」を前提とする課題の記載及び生産性の低下を解決する旨の記載は、生産性の低下や生産数の削減を阻害する記載であるといえるから、ユニット(あ)の削減を阻害する記載であるといえる。
上記のとおり、甲第1号証には、ユニット(あ)の削減の明記はなく、示唆もされていないから、ユニット(あ)の削減を含めた増減調整に相当する技術的思想は開示されておらず、甲1発明1は、ユニット(あ)の削減を含む「増減調整する」工程を有するものということはできない。
次に、モールディングユニットを「着脱自在の状態で装設する」点について検討する。
上記のように、甲第1号証の摘示(a5)における「増設」が、トランスファーモールドプレス機構部及び金型の数の削減を想定していないものである以上、「増減」を可能にすることを前提とした装設の状態を着脱自在とすることについては、甲第1号証に記載されているものとは認められない。
よって、甲第1号証には「モールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」が開示されていない。

以上のとおり、甲1発明1は、「樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」を有していない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

なお、仮に、甲第1号証の金型及び金型に付随する部材(ポット、プランジャ、キャビティ、樹脂通路)のみからなるもの、すなわち、ユニット(あ)からトランスファーモールドプレス機構部を除いたもの(以下、「ユニットA」という。)が、本件発明1のモールディングユニットに相当すると解釈した場合について、検討する。
甲第1号証に、金型4,4はトランスファーモールドプレス機構部に対してセットされる旨の記載(摘示(a4))があり、トランスファーモールドプレスによる樹脂封止の技術分野において、金型及び金型に付随する部材を、トランスファーモールドプレス機構部に対して交換可能なものとして、着脱自在に取り付け可能なものとすることは周知慣用技術であること(例えば、甲第3号証(摘示(c2)、(c3)、(c5)?(c8)、(c11))参照)から、甲第1号証に記載のユニットAは、交換可能なものとしてトランスファーモールドプレス機構部に着脱自在に装設されるものであるといえる。
そうであれば、上記の「着脱自在」とは、ユニットAの交換のために着脱自在とするのであって、ユニットAの個数を増減調整するためとはいえない。さらに、ユニットAが複数設けられた樹脂封止装置において、設置されているユニットAのいくつかを取り外して樹脂封止装置を使用することは、本件発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)の技術常識から考えて、通常の使用であるとは認められず、そのような成形操作は、実質的にできないものと認められる。
よって、仮に甲第1号証のユニットAが本件発明1のモールディングユニットに相当すると解釈しても、甲第1号証には「モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」が開示されているとはいえず、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(2)本件発明2について
上記(1)のとおり、本件発明1は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないから、本件発明1を引用する本件発明2も、また、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

(3)本件発明3について
ア.甲第1号証に記載された発明
上記第4 1.摘示(a1)?(a8)からみて、甲第1号証には、トランスファーモールドプレスによるリードフレーム上に装着した半導体素子の樹脂封止装置であって、型締めシリンダー1、射出シリンダー2、プラテン3等により構成されるトランスファーモールドプレス機構部を複数台設置し、各機構部にモールド金型4,4をそれぞれセットした装置が記載されている。また、該装置には、樹脂封止前半導体装置用リードフレームをストツクし整列部へ配置するワーク供給部5」、「整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6」及び「樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7」が記載されている(摘示(a4)、(a6))。
よって、甲第1号証には、
「型締めシリンダー1、射出シリンダー2、プラテン3等により構成されるトランスファーモールドプレス機構部にモールド金型をセットした「ユニット(あ)」(上記(1)ア.参照)を複数用いてリードフレーム上に装着した半導体素子を樹脂材料にて封止成形する半導体素子の樹脂封止成形装置であって、整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6及び樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7を有する樹脂封止成形装置。」(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。

イ.本件発明3と甲1発明2との対比
上記第5 1.1-1.(1)イ.における検討から、甲1発明2の「モールド金型」、「半導体素子」、「ユニット(あ)」は、それぞれ、本件発明3における「固定型と可動型とを対向配置した金型」、「電子部品」、「モールディングユニット」に相当する。
また、甲第1号証における「整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6」及び「樹脂タブレツトを金型へ装填するタブレツトローダー7」が、本件発明3における「モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する手段」に相当し、甲第1号証における「整列部より金型部へワークを装填し又樹脂封止済みワークを金型部から排出部へ取り出すワークローダー6」が本件発明3における「樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットから外部へ取出す手段」に相当することは、明らかである。
したがって、本件発明3と甲1発明2とは、
「固定型と可動型とを対向配置した金型と、該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニットと、上記モールディングユニットに電子部品を装着した樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレットを供給する手段と、樹脂封止された電子部品を上記モールディングユニットから外部へ取出す手段とを備えた電子部品の樹脂封止成形装置」
である点で一致し、
本件発明3は、「既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成」する点を規定するのに対し、甲1発明2では、そのような規定がなされていない点で、相違している。

ウ.相違点についての判断
上記第5 1.1-1.(1)ウにおける検討と同様の理由により、甲第1号証には「既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成」する点が開示されていない。
したがって、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

なお仮に、甲第1号証の金型及び金型に付随する部材(ポット、プランジャ、キャビティ、樹脂通路)のみからなる「ユニットA」(上記(1)ウ.のなお書き参照)が、本件発明3のモールディングユニットに相当すると解釈しても、第5 1.1-1.(1)ウのなお書きにおける検討と同様の理由により、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。

(4)本件発明4について
上記(3)のとおり、本件発明3は甲第1号証に記載された発明であるとすることはできないから、本件発明3を引用する本件発明4も、また、甲第1号証に記載された発明であるとすることはできない。

1-2.特許法第29条第2項についての検討
(1)本件発明1について
ア.本件発明1と甲1発明1との対比
本件発明1と甲1発明1との対比については、上記第5 1.1-1.(1)ア?イに記載したとおりである。

イ.相違点についての判断
上記第5 1.1-1.(1)ウにおいて検討したとおり、甲1発明1は、「樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」(以下「増減工程」という。)を有さず、ユニット(あ)の削減を含めた増減調整に相当する技術的思想が開示されていない。また、同記載において検討したとおり、甲第1号証における、「大型化」を前提とする課題の記載及び生産性の低下を解決する旨の記載は、ユニット(あ)の削減を阻害する記載であるといえるから、甲第1号証には、ユニット(あ)を削減する動機付けもない。
上記増減工程について検討する。
甲第2号証には、上記第4 2.摘示(b1)?(b6)からみて、「樹脂モールド装置を用いた、リードフレーム上に装着した半導体チップの樹脂モールド方法」が記載されるが、モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する点及びそのような技術思想は記載されていない。
また、甲第3号証には、上記第4 3.摘示(c1)?(c12)からみて、
「リードフレーム上に装着した半導体素子をトランスファ樹脂モールドにより封止成形する半導体素子の樹脂封止成形方法であって、
樹脂封止成形方法に使用する樹脂封止用金型装置が、固定型と可動型とを対向配置した金型と、キャビティブロックと、キャビティブロックに配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、プランジャのホルダーと、上記キャビティブロックの型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有し、
キャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーが、それぞれ、金型ベースに対して容易に着脱自在に装着され、交換可能である樹脂封止成形方法」が記載されているが、上記の「着脱自在」とは、キャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーの交換のために着脱自在とするのであって、キャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーの個数を増減調整するためとはいえない。さらに、キャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーを複数有する樹脂封止用金型装置において、設置されているキャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーのいくつかを取り外して樹脂封止用金型装置を使用することは、当業者の技術常識から考えて、通常の使用であるとは認められず、そのような成形操作は、実質的にできないものと認められる。
したがって、甲第3号証には、キャビティブロック、及び、プランジャとそのホルダーを、着脱自在の状態で装設することにより、それらの数を増減調整するという技術思想の開示はないから、モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する点及びそのような技術思想が記載されているとはいえない。
また、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設することによりモールディングユニットの数を任意に増減調整することが技術常識であるとも認められない。
したがって、本件発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお仮に、甲第1号証の金型及び金型に付随する部材(ポット、プランジャ、キャビティ、樹脂通路)のみからなる「ユニットA」(上記第5 1.1-1.(1)ウのなお書き参照)が、本件発明1のモールディングユニットに相当すると解釈しても、上記の相違点についての判断及び第5 1.1-1.(1)ウのなお書きにおいて記載したとおり、甲第1?3号証にはユニットAの個数を増減調整する技術思想の開示はなく、そして、ユニットAが複数設けられた樹脂封止装置において、設置されているユニットAのいくつかを取り外して樹脂封止装置を使用することは、当業者の技術常識から考えて通常の使用であるとは認められず、そのような成形操作は、実質的にできないものと認められ、甲第1号証には、生産数を削減する動機付けも存在しない。また、着脱自在の状態で装設することによりユニットAの数を任意に増減調整することが技術常識であるとも認められない。
よって、仮に、ユニットAが本件発明1のモールディングユニットに相当すると解釈しても、甲第1号証?甲第3号証に、ユニットAの数を任意に増減調整するとの構成は存在せず、また、かかる構成を導く動機付けも存在しないから、本件発明1は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(2)本件発明2について
上記(1)のとおり、本件発明1は甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1を引用する本件発明2もまた、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明3について
ア.本件発明3と甲1発明2との対比
本件発明3と甲1発明2との対比については、上記第5 1.1-1.(3)ア?イに記載したとおりである。

イ.相違点についての判断
上記(1)イ.における検討のとおり、甲第1号証には、「モールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」が開示されていない。したがって、甲1発明2は、「既に備えられたモールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成した」との事項を有していない。そして、上記(1)イ.における検討のとおり、甲第2号証及び甲第3号証にも、モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成する点及びそのような技術思想は記載されておらず、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成することが当業者の技術常識であるとも認められないから、本件発明3は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

なお仮に、甲第1号証の金型及び金型に付随する部材(ポット、プランジャ、キャビティ、樹脂通路)のみからなる「ユニットA」(上記第5 1.1-1.(1)ウのなお書き参照)が、本件発明3のモールディングユニットに相当すると解釈しても、第5 1.1-1.(1)ウのなお書きにおいて記載したとおり、甲第1号証にはユニットAの個数を増減調整する技術思想の開示はなく、そして、ユニットAが複数設けられた樹脂封止装置において、設置されているユニットAのいくつかを取り外して樹脂封止装置を使用することは、当業者の技術常識から考えて、通常の使用であるとは認められず、そのような成形操作は、実質的にできないものと認められ、甲第1号証には、生産数を削減する動機付けも存在しない。また、上記のとおり、甲第2号証、甲第3号証にも、モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成する点及びそのような技術思想は記載されておらず、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成することが、当業者の技術常識であるとも認められない。
よって、仮に、ユニットAが本件発明3のモールディングユニットに相当すると解釈しても、甲第1号証?甲第3号証に、ユニットAの数を任意に増減調整するとの技術思想の開示は存在しないから、本件発明3は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(4)本件発明4について
上記(3)のとおり、本件発明3は甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明3を引用する本件発明4もまた、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

1-3.請求人の主張について
請求人は、審判請求書第19?20頁、審判請求書第29?31頁において、本件発明1の構成要件1B:「樹脂封止成形装置に既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程と、」(審判請求書第15頁)、本件発明3の構成要件3D:「既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成した」(審判請求書第12頁))に関して、甲第1号証には、トランスファーモールドプレス機構部及び金型の数の増設を、他の自動化機器群の配置を変更して実施できることが開示されているから、甲第1号証には、トランスファーモールドプレス機構部および金型の数を増設することにより、必要な生産量に対応すべく、金型の数を増減調整することが開示されており、構成要件1B,3Dが開示されているといえると主張している。
また、平成24年5月25日付け口頭審理陳述要領書第2?4頁において、
1.第1号証のモールド金型は交換可能なものであること、
2.着脱自在の状態で装設可能とすることは広く知られた技術であり、甲第1号証から本件発明1の構成要件1B、本件発明3の構成要件3Dを導き出せること、
3.甲第3号証の「金型(金型の構成要素同士)」は、金型とポットとプランジャとキャビティと樹脂通路とを有するものである本件発明の「モールディングユニット」に相当し、着脱自在なものであること、
4.本件発明1、3の「モールディングユニット」は、金型とポットとプランジャとキャビティと樹脂通路とを有するものであるから、構成要件1B,3Dに記載の「モールディングユニットを着脱自在の状態で装設」することは甲第1号証及び周知技術に開示されており、本件発明1,3は当業者が甲第1号証および周知技術に基き、容易に想到できること、
を主張している。

しかし、上記1-1.にて検討したとおり、甲第1号証には、「モールディングユニットを着脱自在の状態で装設することにより、該モールディングユニットの数を任意に増減調整する工程」、「既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし、これによって該モールディングユニットの数を増減調整自在に構成」する点が開示されていないから、本件発明1及び3は、甲第1号証に記載された発明とはいえない。本件発明1、3を引用する本件発明2、4も、また、甲第1号証に記載された発明とはいえない。
また、上記1-2.にて検討したとおり、甲第1?3号証には、上記工程、上記構成が開示されておらず、上記工程、上記構成が技術常識であるとも認められず、甲第1号証には削減を含めた増減調整を行う動機付けもないから、本件発明1及び3は、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。本件発明1、3を引用する本件発明2、4もまた、甲第1?3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
よって、請求人の上記主張は採用することができない。

1-4.無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第29条第1項第3号、同条第2項の規定に違反してされたものではないから、同法第123条第1項第2号の規定に該当するものではない。
よって、無効理由1には、理由がない。

2.無効理由2
2-1.特許法第36条第4項についての検討
請求人は、明細書の記載要件違反について、概略、次の主張をしている(無効審判請求書第36頁第1行?第39頁第23行、口頭審理陳述要領書第4頁第19行?第7頁第13行)。
本件明細書には、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とする構成が具体的に開示されていない。図7には、ボトムベースに設けられた凹凸状の嵌合部が図示されているが、位置決め後の位置ズレ防止に必要となる固定手段、固定手段を解除する解除手段、上下方向に位置決めできる連結部、着脱自在に装設するために必要なガイド手段、電源、信号ケーブル、空気配管などの付帯装置の開示がなく、連結部の配置も不明確である。
よって、本件明細書において、モールディングユニットを着脱自在に装設できるように、すなわち、モールディングユニットの増減調整作業を簡単・容易に迅速に実施できるように、当業者が実施できる程度に十分かつ明確に開示されているとはいえない。

以下、検討する。
上記固定手段、解除手段、連結部、ガイド手段、付帯装置については、それぞれの役割を考慮し、当業界において採用される種々の手段などから適切なものを選択し、慣用される方法などにより設けることは、具体的な記載がなくとも、当業者の技術常識の範囲内で適宜なし得るものといえるから、具体的開示がないからといって、発明が不明確になるものではない。
したがって、当業者であれば、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、モールディングユニットの増減調整作業を実施できるから、当業者が本件発明を実施できないとはいえない。

2-2.特許法第36条第6項第1号についての検討
請求人は、概略、次の主張をしている(無効審判請求書第36頁第1行?第39頁第23行、口頭審理陳述要領書第4頁第19行?第5頁第13行、第7頁第14?27行)。
発明の詳細な説明には、水平方向の位置決め手段が開示されているにすぎず、着脱自在に装設できる、すなわち、増減調整作業を簡単・容易に迅速に対応できる位置決め手段、固定手段、解除手段、および、付帯設備については開示されていない。また、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設するためには、水平方向を位置決めできるだけの連結部では不十分である。よって、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に開示されているとはいえない。

しかし、上記2-1.で検討したとおり、増減調整作業を実施できる位置決め手段としての連結部、固定手段、解除手段、および、付帯設備は、当業者が技術常識の範囲内で実施可能なものであるから、本件明細書の発明の詳細な説明には、モールディングユニットを着脱自在の状態で装設する点に関して記載されているといえる。
したがって、本件発明1ないし4は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

2-3.特許法第36条第6項第2号についての検討
請求人は、概略、下記の2点について主張している(無効審判請求書第36頁第1行?第39頁第23行、口頭審理陳述要領書第4頁第19行?第5頁第13行、第7頁第28行?第8頁第27行)。
主張1:着脱自在の状態で装設できるモールディングユニットの構成が不明確である。また、「モールディングユニット」の概念が不明確である。モールディングユニットを着脱自在の状態で装設できる、すなわち、増減調整作業を簡単・容易に迅速に実施できる増減調整手段が記載されておらず、明確でないから、本件発明は明確でない。
主張2:「既に」の判断基準時が明確でなく、「既に備えられたモールディングユニット」と「他のモールディングユニット」とを特定できない。「既に」の判断時点によっては、増減調整が実行不可能である。よって、本件発明は明確でない。

以下、各主張について検討する。
主張1について
「モールディングユニット」に関して、本件発明1、3には、「固定型と可動型とを対向配置した金型と、該金型に配設した樹脂材料供給用のポットと、該ポットに嵌装した樹脂加圧用のプランジャと、上記金型の型面に配設したキャビティと、該キャビティと上記ポットとの間に配設した樹脂通路とを有するモールディングユニット」と記載されている。当該記載から、金型と、ポットと、プランジャと、キャビティと、樹脂通路とを備えるものがモールディングユニットであることは、明確に把握できる。また、上記の5つの要素を少なくとも備えたモールディングユニットであれば、本願発明のモールディングユニットに包含されることは、被請求人も、口頭審理にて陳述している(第1回口頭審理調書参照)。
そして、請求人の主張する上記「モールディングユニットを着脱自在の状態で装設できる、すなわち、増減調整作業を実施できる増減調整手段」に関しては、本件発明1、3に記載の「モールディングユニット」の構成に含まれないから、該モールディングユニットの明確性を左右するものではない。
なお、該増減調整手段が、当業者が実施可能なものであることは、上記2-1.及び2-2.で検討したとおりである。

主張2について
本件発明1における「既に」との記載は、モールディングユニットを着脱自在な状態で装設することにより任意に増減調整可能とすることの説明を構成する記載と解するのが自然であり、本件発明1を不明確とするものとはいえず、モールディングユニットの増減調整の実行が不可能とはいえない。本件発明3における「既に」との記載についても、同様である。

2-4.無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許は、特許法第36条第4項、同条第6項第1号、同条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、同法第123条第1項第2号の規定に該当するものではない。
よって、無効理由2には、理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-06 
出願番号 特願平5-202689
審決分類 P 1 113・ 121- Y (B29C)
P 1 113・ 536- Y (B29C)
P 1 113・ 113- Y (B29C)
P 1 113・ 537- Y (B29C)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 富永 久子
大島 祥吾
登録日 1999-05-28 
登録番号 特許第2932136号(P2932136)
発明の名称 電子部品の樹脂封止成形方法及び装置  
代理人 前田 厚司  
代理人 吉田 昌司  
代理人 中嶋 隆宣  
代理人 深見 久郎  
代理人 加藤 浩二  
代理人 山崎 宏  
代理人 重冨 貴光  
代理人 佐々木 眞人  
代理人 森田 俊雄  
代理人 田中 光雄  

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