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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1277174
審判番号 不服2010-9881  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-05-10 
確定日 2013-07-22 
事件の表示 特願2004-527605「チアクマイシン生産」拒絶査定不服審判事件〔平成16年2月19日国際公開、WO2004/014295、平成17年11月17日国内公表、特表2005-534332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成15年7月15日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成14年7月29日 米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1ないし16に係る発明は、平成22年5月10日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項11に係る発明は次のとおりのものである。
「【請求項11】
炭素源、窒素源、チアクマイシンBを吸着することができる吸着剤及び培地中でチアクマイシンBを生産することができる微生物を含むチアクマイシンB生産のための培地。」(以下、「本願発明」という。)

2 引用刊行物とその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、刊行物1(原査定の引用文献2)、刊行物2(同引用文献1)、刊行物3(同引用文献4)、刊行物4(同引用文献5)及び刊行物5(同引用文献6)には、以下の事項がそれぞれ記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)刊行物1:The Journal of Antibiotics,Vol.40,No.5,1987,p.567-574 の記載事項の当審抄訳
「チアクマイシン、18員環マイクロライド系抗生物質の新規化合物」と題する論文であって
(1a)567頁19?28行 要約欄
「新しい抗生物質のスクリーニング過程で、固体で単離され指定されたAB718C-41の発酵ブロスは、スタフィロコッカス アウレウス及びストレプトコッカス ピオゲネスの耐性菌を阻止することが示された。製造された培養物は、ダクチロスポランギウム アウランチアクム亜種ハムデネンシス亜種 新規株AB718C-41と同定された。活性な発酵ブロスは、初期は、振とうフラスコ及び14リットルの発酵槽中で製造されたが、発酵収率は、New Brunswick 150l発酵槽より高く、再現可能であった。抗菌活性の精製の研究は、6種の新規な18員環マクロライド系抗生物質の単離をもたらした。抗生物質のメンバーは、チアクマイシンA,B、C,D,E及びFと名付けられた。この論文は、製造した培養物の分類法と発酵法、及びチアクマイシン抗生物質の抗菌活性を報告する。チアノマイシンの単離と化学構造の解明は、添付論文^(1))で記述する。」

(1b)568頁7?30行
「発酵の研究
AB718C-41株は、ATCC培地172の寒天傾斜培地で生育された。傾斜培地は、30℃で10?14日間培養された後、使用するまで4℃で保存された。
寒天傾斜培地の培養物は、10mlのグルコース0.1%、澱粉2.4%、イーストエキス(Difco)0.5%、トリプトン(Difco)0.5%、ビーフエキス(Scott)0.3%、及びCaCO_(3)0.4%含有したシード培地を含む、ステンレスキャップで閉じられた25×150mmのシードチューブに接種するために使用された。培地は、蒸留水で調製され、滅菌に先立ち、pH7.3に調製された。シードチューブは、30℃で96時間、回転シェーカーで250rpm(振幅3.2cm)で培養された。5%の成長した接種材料が、600mlの同じシード培地を含み、レーヨン栓で閉じられた2リットルのErlenmeyerシードフラスコの2代継代の接種に使用された。フラスコは、また、回転シェーカーで30℃72時間培養された。
2代継代接種シードフラスコからの5%の成長した接種材料が、グルコース1水和物(滅菌後添加)2%、大豆粉1%、ビーフエキス(Scott)0.3%、大豆油0.1%、K_(2)HPO_(4)0.05%、MgSO_(4)・7H_(2)O0.05%、CaCO_(3)0.3%%及び消泡剤XFO-371(Ivanhoe Chem.Co.)0.01%を含有した培地80リットル容量を充填したNew Brunswick150l発酵槽に接種するのに用いられた。発酵は、200rpmの撹拌、0.7vol/vol/分のエアレーション、0.35Kg/cm^(2)の上部圧力の下、162時間行われた。細胞容積は、15mlの円錐管で、30分間、600×gの遠心分離により決定された。グルコース濃度は、Hoffman法^(10))で決定した。」

(1c)568頁31?最終行
「HPLC
チアクマイシンB及びCのレベルHPLC分析のための発酵ブロスは、pH7に調製され、酢酸エチルで2回抽出された。酢酸エチル抽出物は混合され、溶媒が減圧下で除去され、残留物が、元の発酵ブロスの100倍の濃度で、メタノール中に再構成された。分析はWatersモデル6000A溶媒分配システムとU6Kインジェクターを用いて行われた。チアクマイシンB及びCは、25cm 7μm C-18 Adsorboshere HSカラム(Alltech.Assoc.)で、アセトニトリル0.1%H_(3)PO_(4)(50:50)の移動相、1ml/分の流速でクロマト分離された。チアクマイシンB及びCは、Kratos SF 770UV検出器を用いて、266nmで検出された。定量分析は、チアクマイシンB及びCの外部標準を用いて、保持時間27及び25分でそれぞれ実施された。発酵ブロスのHPLCスキャンが、図1の示されている。」

(1d)568頁Fig.1
「チアクマイシンB及びCを含む発酵ブロス抽出物のHPLC分離」が示されている。

(1e)573頁 1?6行
「抗菌活性
表6に示されるように、チアクマイシンB及びFは、スタフィロコッカス アウレウスの病原性株、ストレプトコッカス ピオゲネスとエンテロコッカス ファエシウムの多剤耐性株も含めて、これらに対して中程度の活性を示した。これらは、ほぼ同じ活性を有し、チアクマイシンA,C,D,及びEよりも効き目があった。チアクマイシンBは、限定的であるが、幾つかの嫌気性菌に対して効き目を示した(表7)。」

(2)刊行物2:国際公開第01/83800号の記載事項の抄訳(訳文は、対応日本語公報であり特表2004-508810号公報により、段落番号も併せて記載した。)
(2a)202頁 特許請求の範囲40
「【請求項40】
エポシロンを生成する細胞からエポシロンを精製するための方法であって、該方法が、XAD樹脂の存在下で該細胞を培養する工程、該樹脂からエポシロンを溶離する工程、該樹脂から溶離されたエポシロンの固相抽出を行う工程、および該固相樹脂抽出から得られたエポシロンでクロマトグラフィーを行う工程、を包含する、方法。」

(2b)66?67頁[193]
「【0157】
本発明はまた、発酵培地からエポシロンを精製するための方法およびエポシロンの結晶形態を調製するための方法を提供する。一般的に、この精製方法は、発酵の間のXAD樹脂上へのエポシロンの捕獲、この樹脂からの溶出、固相抽出、クロマトグラフィー、および結晶化を含む。この方法は、実施例3に詳細に記載される。そして、この方法は、エポシロンDについて好ましく、かつ例示されるが、この方法は、一般的に結晶エポシロン(他の天然に存在するエポシロンおよび本発明の宿主細胞によって産生されるエポシロンアナログを含むがこれらに限定されない)を調製するために使用され得る。」

(2c)99頁[259]?100頁[260]
「【0245】
50mLフラスコ中で5mLのCYE(1リットル当たり10gカシトン(casitone)、5g 酵母抽出物および1g MgSO4・7H2O)に菌株を播種し、そしてこの培養物が中間対数増殖期になるまで一晩増殖させることによって、発酵を実施した。100μLのアリコートを、CTSプレート上に広げ、そしてプレートを32℃で4?5日間インキュベートした。エポシロンを抽出するために、プレートからのアガーおよび細胞を、浸軟し、50mLの円錐チューブに入れ、そしてアセトンを添加してチューブを充たした。溶液を、4?5時間振動してインキュベートし、アセトンを吸引し、そして残った液体を、等量の酢酸エチルで2度抽出した。硫酸マグネシウムを添加することによって、酢酸エチル抽出物から水を除去した。硫酸マグネシウムを濾過し、そして液体を吸引して乾燥した。エポシロンを、200μLのアセトニトリル中に再懸濁し、LC/MSによって分析した。この分析は、この菌株がエポシロンAおよびBを生成したことを示した。エポシロンBは培養物中に約0.1mg/L存在し、そしてエポシロンAは5?10倍低いレベルで存在した。
【0246】
この菌株をまた使用して、液体培地中にエポシロンを生成し得る。CYEを含むフラスコを、エポシロン生成菌株で播種する。次の日、細胞が中間対数増殖期にある間に、1mg/mLのセリン、アラニンおよびグリシン、ならびに0.1% ピルビン酸ナトリウムとともに、0.5%CMM(0.5%カシトン、0.2%MgSO4・7H2O、10mM MOPS(pH7.6))を含むフラスコに、5%の接種原を添加した。ピルビン酸ナトリウムを0.5%にまで添加して、エポシロンB生成を増加し得たが、エポシロンB対エポシロンAの比が減少した。培養物を、30℃で60?72時間増殖させる。より長いインキュベーションは、エポシロンの力価の低下をもたらす。エポシロンを回収するために、培養物を、SS34ローターにて10,000rpmで10分間遠心分離する。上清を、酢酸エチルで2度抽出し、そして旋回吸引(「ロータベーポ(rotavape)」)して乾燥する。液体培養物は、プレート培養物で観察したものと類似した比の、2?3mg/LのエポシロンAおよびBを生成した。XAD(0.5?2%)を培養物に添加する場合、エポシロンCおよびDを観察した。エポシロンDは、0.1mg/Lで存在し、そしてエポシロンCは、5?10倍低いレベルで存在した。」

(2d)103頁[266]の下から3行?105頁[272]
「【0253】
(実施例3)
(エポシロンの産生および精製のためのプロセス)
(A.Myxococcus xanthusにおけるエポシロンDの異種性産生の最適化)
Myxococcus xanthusにおけるエポシロンDの異種性産生を、吸着樹脂の組み込み、適切な炭素源の同定、およびフェッドバッチプロセス(fed-batch process)の実行により、最初の力価の0.16mg/Lから140倍に改善した。
【0254】
基底培地におけるエポシロンDの分解を減少させるために、XAD-16(20g/L)を添加し、細胞外生成物を安定化させた。これはその回収を大いに容易にし、そして収率を3倍に増強した。
・・・
【0256】
エポシロンAおよびBは、天然の宿主の主要な発酵産物である(Gerth et al.,1996)。これらのポリケチド分子の大環状コアは、アセテート単位とプロピオネート単位との連続的な脱炭酸縮合により形成される(Gerth et al.,2000)。エポシロンAおよびBは、それらの炭素骨格のC-12位での単一のメチル基が異なる。この構造の相違は、エポシロンAのアセンブリにおけるアセテートの組み込み、およびエポシロンBのアセンブリにおけるプロピオネートの組み込みに起因する。エポシロンCおよびDは、それぞれ、エポシロンAおよびBの生合成経路における中間体である(Tang et al.,2000;Molnar et al.,2000)。それらは、組み合わせた収率が約0.4mg/Lである、発酵プロセスの間の少数派の生成物として分泌される。予備的なインビボ研究は、エポシロンDが4つの化合物の中で抗腫瘍薬として最も見込みがあることを明らかにし(Chou et al.,1998)、この分子を大量に生成することが重要な目的である。」
・・・
【0258】
吸着樹脂は、少量で生成される生物学的に活性な分子の連続的な補足のために、myxobacteriaの発酵において用いられる(ReichenbachおよびHofle,1993)。エポシロンDの単離を容易にするために、疎水性樹脂XAD-16を培養培地に添加した。結合した生成物は、適切な溶媒を用いて樹脂から容易に溶出され得るので、その回収は非常に簡単であった。さらに、XAD-16の使用は、生成物の安定化を通じてエポシロン分解を最小化した。」

(2e)112頁[291]
「【0277】
(生成物の安定性に対するXAD-16の効果)
エポシロンDの急激な分解を防止するために、疎水性吸着樹脂XAD-16を生成物培地に添加し、分泌された生成物を結合および安定化させた。XAD-16は、微生物プロデューサーSorangium cellulosum So ce90の発酵からエポシロンAおよびBを単離することについて、Gerthら(1996)により以前に使用された多芳香族樹脂である。図7に示されるように、吸着樹脂の存在は、細胞の増殖に影響しなかった。しかし、それは、発酵ブロス中のエポシロンDの損失を効果的に減少させ、この生成物の回収における3倍の増強を導いた。」

(2f)116頁[303]
「【0289】
より高いエポシロンD力価を達成することに対する主な障害の1つは、発酵ブロス中の産物の迅速な分解であった。この問題は、培養培地に吸着樹脂を組込むことで軽減された。XAD-16の添加は、細胞増殖には影響しなかったが、分泌された産物の損失を最小にし、そしてその回収率を3倍まで増加した。」

(3)刊行物3:特開2000-53514号公報の記載事項
(3a)「【請求項8】レジオネラ(Legionella)属細菌を吸着材を添加した培地で培養し、当該レジオネラ(Legionella)属細菌が生産する殺菌性物質を前記吸着材に吸着させ、当該吸着材に吸着せしめた殺菌性物質を溶出し、回収することを特徴とするレジオネラ(Legionella)属細菌産生殺菌性物質の製造方法。」

(3b)「【0018】即ち、本発明における吸着材は、レジオネラが生産した殺菌性物質を吸着する手段であるのみならず、何らかの形でレジオネラの殺菌性物質の生産を誘導し、また、殺菌性物質の生産性を向上させる因子になっていると推察される。
【0019】本発明で用いる吸着材は、脂溶性物質である、本発明の殺菌性物質を吸着し得る限りにおいて特に限定されず、従前と同様に活性炭を吸着材として用いることも可能である。但し、活性炭のように培地が黒濁せず、培養後の処理が容易な吸着材を用いることが好ましい。このような吸着材の例としては、ポリスチレンからなる合成吸着材(例えば、商品名:Diaion HP-20(三菱化学(株)製)、Amberlite XAD-2(ローム・アンド・ハース社製))が挙げられる。」

(3c)「【0044】培養終了後、培地中の合成吸着材を取り出し、ガラス製のクロマト管に充填した。そのカラムを水でよく洗浄した後、メタノールを用いて吸着している物質を溶出した。メタノール溶出液を濃縮・乾固させ、再び水で溶解させ酢酸エチルを同量加えて溶媒抽出を行なった。得られた酢酸エチル抽出物を濃縮・乾固し、10mgの油状物を得た。」

(4)刊行物4:特開2000-239266号公報の記載事項
(4a)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成するため、鋭意研究を続けた結果、海洋環境から新たに粘液細菌群に属する細菌を培養し、この培養物より抽出される新規物質が強い抗真菌作用を有することを発見し本発明を完成した。即ち本発明は粘液細菌群に属する細菌を培養し、この培養物より抽出して得られる新規物質SMP-2及びSMP-2又はその活性誘導体を有効成分とする抗真菌薬である。」

(4b)「【0008】このような新規抗生物質SMP-2の生産菌は一般的な微生物の培養方法を用いて培養することが可能である。培養に用いられる培地としては、新規抗生物質SMP-2生産菌が利用できる栄養源を含有するものが利用できる。例えば炭素源及び窒素源としてカゼイン、グルテン、大豆粉、酵母エキスなどの各種タンパク質やアミノ酸混合物などが適している。また発酵生産に用いた酵母や細菌の菌体あるいはグルコ-ス、デンプン、デキストリンなどの糖質類や尿素、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機窒素源も利用可能である。また培地は必要に応じて、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を含有することが可能である。ただしいずれの培地にも海水相当の食塩等が必須である。通常は人工海水溶液(例えばジャマリンラボラトリー製(大阪))を用いると良い。培地のpHは6?9で培養することができるが、特に7.0?8.5で培養することが好ましい。また生産物の収量を上げる目的で培地中に各種の吸着樹脂を添加して培養することも可能である。」

(4c)「【0018】次に下記の組成を有する生産培地を調製し、その100mlを500ml容三角フラスコに注入し、加熱蒸気滅菌(120℃、20分)した。これに上述のシ-ド培地上に生育したコロニーから、5白金耳分接種し、28℃で10日間旋回培養(180rpm)した。
(生産培地組成)
ポリペプトン(ディフコ社製) 10g
酵母エキス(ディフコ社製) 2g
吸着樹脂SP207(三菱化学製) 20g
0.8倍濃度人工海水(ジャマリンラボラトリー製)1リットル(pH7.5)
得られた生産培地の培養液から以下の手順で新規抗生物質SMP-2の単離を行った。
【0019】即ちこの培養液20Lを遠心分離にかけ上清を除去し、湿菌体と吸着樹脂を得た。これにアセトン2.5Lを加えて、2時間室温で攪拌して活性物質を抽出した。」

(5)刊行物5:特開2000-72760号公報
(5a)「【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は上記目的を達成するため、鋭意研究を続けた結果、シストバクタ-属に属する細菌を培養し、この培養物より抽出される新規物質が強い抗真菌作用を有することを発見し本発明を完成した。・・・シストバクター属に属する粘液細菌を培地中で培養して上記のシストチアゾール類縁体を生成蓄積せしめ、該培養物よりこれを採取することを特徴とする上記のシストチアゾール類縁体の製造方法、及び上記のシストチアゾール類縁体またはその薬理学的に許容される塩を有効成分とする抗真菌剤に関するものである。」

(5b)「【0009】培養に用いられる培地としては、シストチアゾール類縁体生産菌が利用できる栄養源を含有するものであればよく一般的な細菌培養用培地を利用できる。例えば炭素源及び窒素源としてカゼイン、グルテン、大豆粉、酵母エキスなどの各種タンパク質やアミノ酸混合物などが適している。また発酵生産に用いた酵母や細菌の菌体あるいはグルコ-ス、デンプン、デキストリンなどの糖質類や尿素、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウムなどの無機窒素源も利用可能である。また培地は必要に応じて、炭酸カルシウム、リン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の無機塩を含有することができる。培地のpHは6?9で培養することができるが、特に7.0?8.5で培養することが好ましい。また生産物の収量を上げる目的で培地中に各種の吸着樹脂を添加して培養することも可能である。」

(5c)「【0034】以下に示す組成の生産培地を調製し、300l容ジャーファーメンターに150L注入して加熱蒸気滅菌した(120℃,20分)。これにシード培養液を4.5L添加し、28℃、67時間培養した。培養は通気量7.5L/分、回転数200rpm.で行った。
(生産培地組成)
カジトン(ディフコ社製) 10g/l
乾燥酵母(エビオス、アサヒビール製) 5g/l
麦芽エキス(ディフコ社製) 2g/l
酵母エキス(ディフコ社製) 1g/l
MgSO_(4)・7H_(2)O 1g/l
Hepes 10g/l
吸着樹脂SP207(三菱化学製) 20g/l
(pH7.2)
【0035】得られた生産培地の培養液から、以下の手順でシストチアゾールC-Fの単離を行った。
【0036】即ち、この培養液150Lをふるい及び遠心分離にかけて上清を除去し、湿菌体と吸着樹脂を得た。これにアセトン12Lを加えて、1昼夜室温で静置して活性物質を抽出した。」

3 対比・判断
刊行物1(上記(1a)?(1e))には、ダクチロスポランギウムアウランチアクム亜種ハムデネンシス亜種AB718C-41株を、グルコース等の炭素源、トリプトン等の窒素源、ビーフエキスやイーストエキス等のビタミン源、及びCaCO_(3)等の無機塩類等を含有した培地に接種して培養し、発酵ブロスを溶媒抽出し、HPLCでチアクマイシンAないしFを単離したことが記載され、これら抗菌活性をMICで測定した結果、チアクマイシンB及びFが抗菌活性が他より高く、チアクマイシンBは、幾つかの嫌気性菌に効き目があることを確認したことが記載されているから、刊行物1には、発酵ブロスからチアクマイシンBを単離し生産したことが記載されているといえる。
そうすると、刊行物1には、
「グルコース等の炭素源、トリプトン等の窒素源、ビーフエキスやイーストエキス等のビタミン源、及びCaCO_(3)等の無機塩類等を含有した培地に、ダクチロスポランギウム アウランチアクム亜種ハムデネンシス亜種AB718C-41株を接種した培地であって、その発酵ブロスからチアクマイシンBを生産できる培地」の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。

そこで、本願発明と刊行物1発明とを比較する。
(ア)刊行物1発明の「ダクチロスポランギウム アウランチアクム亜種ハムデネンシス亜種AB718C-41株」は、「チアクマイシンBを生産することができる微生物」であり、本願明細書の実施例で用いられている菌株と同じであるから、本願発明の「培地中でチアクマイシンBを生産することができる微生物」に相当する。
(イ)刊行物1発明の「グルコース等の炭素源、トリプトン等の窒素源、ビーフエキスやイーストエキス等のビタミン源、及びCaCO_(3)等の無機塩類等を含有した培地に、ダクチロスポランギウムアウランチアクム亜種ハムデネンシス亜種AB718C-41株を接種した培地」と、本願発明の「炭素源、窒素源、チアクマイシンBを吸着することができる吸着剤及び培地中でチアクマイシンBを生産することができる微生物を含む」培地とは、炭素源、窒素源、及び培地中でチアクマイシンBを生産することができる微生物を含む培地である点で共通する。

したがって、両者の間には、以下の一致点及び相違点がある。
(一致点)
炭素源、窒素源、及び培地中でチアクマイシンBを生産することができる微生物を含む培地である点。

(相違点)
培地が、本願発明では、チアクマイシンBを吸着することができる吸着剤を含み、チアクマイシンB生産のためのものであるのに対して、刊行物1発明は、このような吸着剤を含まず、チアクマイシンBを生産できるものである点。

そこで、上記相違点について検討する。
微生物が抗生物質等の有用な物質を生産することを発見した場合、研究のためや製品化するために、その物質を収量を上げて生産することを考え、その物質を吸着する吸着剤を添加した培地を用いて培養を行うことは、以下に示すとおり、本願優先日前の周知技術といえる。

刊行物2には、エポシロンAないしDの中で抗腫瘍薬として最も見込みがあるエポシロンDの産生において、培地に吸着樹脂組み込む等により力価を140倍に改善したこと、培地におけるエポシロンDの分解を減少させるために、培地に疎水性樹脂XAD-16を添加し、生成物であるエポシロンDを安定化させ、その単離を容易にし、収率を3倍に増強したこと、(上記(2d)(2d)(2e))が記載されている。
刊行物3には、ジオネラを、HP-20やXAD-2といった、脂溶性の殺菌性物質を吸着する吸着材を添加した培地で培養し、ジオネラの殺菌性物質の生産性を向上させることが記載されている。
刊行物4には、海洋性粘液細菌を、吸着性樹脂を添加した培地で培養し、生産物であるポリエン系抗生物質の収量を上げることが記載されている。
刊行物5には、シストバクターを、吸着性樹脂を添加した培地で培養し、生産物である抗菌性物質シストチアゾールの収量を上げることが記載されている。

そして、刊行物1では、抗生物質の新規化合物であるチアクマイシンA?Fを、HPCLでそれぞれ単離し、それぞれの抗菌活性を測定し、チアクマイシンB及びFが他のものより効き目があり、チアクマイシンBは幾つかの嫌気性菌に対しても効き目があることを確認していることから、チアクマイシンBの更なる研究のため、或いは抗生物質として製品化するために、収量を上げて生産することは、当業者が当然に考えることといえる。
さらに、刊行物2には、液体培地にエポロシン生成菌株を接種し、エポシロンAおよびBを生成したこと、吸着樹脂XADを添加した場合、エポシロンCおよびDを観察したことが記載され(上記(2c))、培地に吸着樹脂XAD-16を添加し、エポシロンDを安定化させ、回収を容易にし、収率を3倍に増強したこと、及びエポシロンDが4つの化合物(エポロシンAないしD)の中で抗腫瘍薬として最も見込みがあり、この分子を大量に生成することが重要な目的であることが記載されており(上記(2d))、エポロシンA及びBが生産される培地に、これ以外のエポロシンファミリーであり、薬効が期待できるエポロシンDを高収率で得るために、吸着樹脂XAD-16を添加することが行われていたといえ、また、刊行物3には、「吸着材は、レジオネラが生産した殺菌性物質を吸着する手段であるのみならず、何らかの形でレジオネラの殺菌性物質の生産を誘導し、また、殺菌性物質の生産性を向上させる因子になっていると推察される。」(上記(3b))と記載され、吸着材が、抗菌物質の吸着だけでなく、生産を誘導することが示唆されていることから、刊行物1に記載されたチアクマイシンA?Fを生産することができる培地について、吸着樹脂を添加することで、チアクマイシンA?Fが全体的に収率が上がるのでなく、効き目があるチアクマイシンBが高収率で得られることを期待することができるといえる。
そうすると、刊行物1発明において、効き目があるチアクマイシンBの収量を多くするために、培地に吸着剤を添加するという周知技術を適用して、チアクマイシンBを吸着することができる吸着剤を添加し、チアクマイシンB生産のための培地とすることは、当業者が容易になし得たことといえる。

(本願発明の効果について)
本願明細書に記載された、チアクマイシンBの生産、回収を改善する効果(本願明細書段落【0009】、【0013】)は、刊行物1ないし5(特に刊行物2及び3)の上記記載事項から予測し得たものであり、格別顕著なものとはいえいない。

(請求人の主張及び回答書の補正案について)
請求人は、審判請求理由等で添付書類1を提出し、XAD-16樹脂を添加すると、チアクマイシンCの生産量は非常に少なくなり、生産されるほとんどがチアクマイシンBであるという生産プロフィールとなり、この結果が予期せぬ発見である旨主張するが、本願明細書には、上記のような生産プロフィールについて何ら記載がなく、チアクマイシンB以外のファミリーについても何ら言及がない。そして、この効果が予期せぬものであれば、添付資料1を参酌することはできない。
また、添付資料1を参酌したとしても、上記の相違点についての検討で記載したとおり、刊行物2の記載事項から、エポロシンファミリーについて、XAD-16を培地に添加することで、生産プロフィールが変わることが示唆されているといえ、その結果、薬効の期待できるエポロシンDの収率を上げることができている。また、刊行物3には、吸着剤が抗菌物質の生産を誘導することが示唆されており、吸着剤が、生成物を吸着する以外に、特定の生成物の収率向上の機能を有することが知られていたことから、XAD-16樹脂を添加することにより、チアクマイシンCの生産量は非常に少なくなり、生産されるほとんどがチアクマイシンBであるという生産プロフィールとなるという効果は、予測し得る範囲のものといえる。

また、請求人は、前置審査についての審尋の回答書で、請求項11の吸着剤を、請求項14に記載のものに特定する補正案を提出しているが、刊行物2ないし5に記載される、XAD16、XAD2等の疎水性化合物の吸着剤として市販されているものを用いて、効果のあるものを選択することに格別の困難性があるとはいえない。

4 むすび
以上のとおり、本願請求項11に係る発明は、刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2004-527605(P2004-527605)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一  
特許庁審判長 秋月 美紀子
特許庁審判官 郡山 順
菅野 智子
発明の名称 チアクマイシン生産  
代理人 弓削 麻理  
代理人 池田 幸弘  
代理人 浅村 皓  
代理人 浅村 肇  

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