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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 C07D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1277198
審判番号 不服2011-15609  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-19 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2006-506071「蛍光タグ付きリガンド」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開、WO2004/088312、平成18年10月12日国内公表、特表2006-523203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2004年 3月31日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年 4月 2日 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国(GB)及び同年同月28日 アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成17年11月30日 翻訳文提出書
平成17年11月30日 条約34条補正翻訳文
平成17年12月 2日 手続補正書
平成22年 5月18日付け 拒絶理由通知書
平成22年 9月21日 意見書・手続補正書
平成23年 3月14日付け 拒絶査定
平成23年 7月19日 審判請求書・手続補正書
平成24年 5月30日付け 審尋
なお、審尋について指定した期間内に請求人からは何ら回答がなかった。

第2 平成23年 7月19日付けの手続補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成23年 7月19日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成23年 7月19日付けの手続補正は、平成22年 9月21日付けの手続補正後の特許請求の範囲の請求項1である、

「 式I’
(LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)の蛍光リガンドであって、
式I中、任意の光学活性蛍光リガンドがその光学活性異性体のラセミ体又はその1つとして存在し、
連結部位又は連結官能基J_(T)及びJ_(L)にてリンカー部分Lを介してタグ部分Flに連結されたリガンド部分Ligを含み、
式I中、Ligは、非ペプチドGPCRリガンドであり、
Lは、アミン、アミド、並びに飽和又は不飽和の置換されているか又は置換されていないC_(1?600)の分枝鎖又は直鎖の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素及びそれらの組合せから選択され、これらのいずれかは、N、O、S、Pから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含むことができ、置換基が、C_(1?20)の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素の置換基のいずれかから選択され、これらの置換基のいずれかは、1つ又は複数のヘテロ原子N、O、S、ヒドロキシ、チオール、ハロ、アミン、ヒドラジン、オキソ、シアノ及びカルボニル並びにそれらの組合せを含んでもよく、Lは、モノマー、2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマー、又は30個を超えて300個までのポリマー反復を有するポリマーであり;
mは、1から3までの整数から各々独立して選択され;
pは、0から3までであり、
式中、-Tagが蛍光体実体-Flであり、それによって化合物は、
式I’
(LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)のものであり、
Flは、蛍光をスペクトルの赤色部分に遷移させかつ吸収最大値を生じる蛍光改変機能を発揮するヘテロアリール又はアルケニル基である置換基-t-を含む、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアズ-s-インダセン色素から選択されることを特徴とし、
ただし、
a)Ligが8-[4-[(2-アミノエチル)-アミノカルボニルメチルオキシ]フェニル]-1,3-ジプロピルキサンチンである場合、すなわち、Lig.aにおいてR.a^(1)及びR.a^(2)がプロピルであり、R.a^(3)がHでありR.a^(4)が-Ph-OCH_(2)CONH(CH_(2))_(2)NH-であり、Lが単結合である場合には、Flは6-(((4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-イル)スチリルオキシ)アセチル)アミノヘキサノイルではなく;又は
b)LigがN6-(4-アミノブチル)-5’-エチルアミノ-5’-オキソ-5’-デオキシアデノシンである場合、すなわち、mが4でありLが単結合である場合には、Flは6-(((4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-イル)スチリルオキシ)アセチル)アミノヘキサノイルではない、
上記蛍光リガンド又はその塩。」

を、

「 式IIIa
Lig J_(L) L J_(T) Fl
の蛍光リガンドであって、
式IIIa中、任意の光学活性蛍光リガンドがその光学活性異性体のラセミ体又はその1つとして存在し、
連結部位又は連結官能基J_(T)及びJ_(L)にてリンカー部分Lを介してタグ部分Flに連結されたリガンド部分Ligを含み、
式IIIa中、Ligは、アデノシンレセプターまたはβ-アドレノレセプターのアゴニストまたはアンタゴニストから選択される非ペプチドGPCRリガンドであり、
J_(L) L J_(T)が、モノ、ジ、トリ、またはテトラ-アミノ、アルコキシ、カルボン酸、及びそれらの組合せを含み;
Lは、モノマー、または2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマーであり;
Flは、BODIPY630/650又はBODIPY630/650Xからなることを特徴とし、
【化1】

ただし、
a)Ligが8-[4-[(2-アミノエチル)-アミノカルボニルメチルオキシ]フD_PAGE2D_PAGE2ェニル]-1,3-ジプロピルキサンチンであり、すなわち、Lig.aにおいてR.a^(1)及びR.a^(2)がプロピルであり、R.a^(3)がHでありR.a^(4)が-Ph-OCH_(2)CONH(CH_(2))_(2)NH-であり、Lが単結合である場合には、Flは6-(((4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-イル)スチリルオキシ)アセチル)アミノヘキサノイルではなく;又は
b)LigがN6-(4-アミノブチル)-5’-エチルアミノ-5’-オキソ-5’-デオキシアデノシンである場合、すなわち、mが4でありLが単結合である場合には、Flは6-(((4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-イル)スチリルオキシ)アセチル)アミノヘキサノイルではない、
上記蛍光リガンド又はその塩。」

とする補正を含むものである。

この補正前の請求項1には、2つの一般式が記載されているが、いずれも式の名称は「式I’」と記載され、1番目の一般式の後に「式I中・・・」と式Iについての基の定義が記載されているから、1番目の一般式の名称は、ただしくは「式I」と記載されるべきものの誤記であると認められる。また、補正前の請求項1には、「式中、-Tagが・・・」という「-Tag」についての定義が記載されているのに対し、当該請求項に記載された一般式中には「-Tag」は記載されていない。しかし、補正前の請求項1には、「式中、-Tagが蛍光実体-Flであり、それによって化合物は、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)のものであり、」との記載があることから、当該請求項に最初に記載された一般式による「式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)の蛍光リガンドであって、」との記載は、正しくは「式I (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Tag)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)の蛍光リガンドであって、」と記載されるべきものの誤記であることは明らかである。また、補正前の請求項1では、2番目の一般式により蛍光リガンドである化合物の構造を「式中、-Tagが蛍光実体-Flであり、それによって化合物は、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)のものであり、」と定義し直しているから、結果的には、当該請求項1に最初に記載された一般式と2番目に記載された一般式とはいずれも同じく「(LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)」で表される化学構造を指すものであることに変わりはない。
また、補正後の請求項1中のa)の「フD_PAGE2D_PAGE2ェニル」という記載は、正しくは「フェニル」と記載されるべきものの誤記であると認められる。
そうすると、この請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載された式I’の定義に、それぞれ以下の変更をする補正を含むものである。
(1)式I’の化合物をm及びpが1である補正前の請求項8の(IIIa)の化合物に限定する補正
(2)Ligの「非ペプチドGPCRリガンド」を「アデノシンレセプターまたはβアドレナリンレセプター又はアンタゴニストから選択される非ペプチドGPCRリガンド」とする補正
(3)Lの定義を「Lは、アミン、アミド、並びに飽和又は不飽和の置換されているか又は置換されていないC_(1?600)の分枝鎖又は直鎖の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素及びそれらの組合せから選択され、これらのいずれかは、N、O、S、Pから選択される1つ又は複数のヘテロ原子を含むことができ、置換基が、C_(1?20)の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素又は脂環式炭化水素の置換基のいずれかから選択され、これらの置換基のいずれかは、1つ又は複数のヘテロ原子N、O、S、ヒドロキシ、チオール、ハロ、アミン、ヒドラジン、オキソ、シアノ及びカルボニル並びにそれらの組合せを含んでもよく、Lは、モノマー、2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマー、又は30個を超えて300個までのポリマー反復を有するポリマーであり;」から、「Lは、モノマー、または2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマーであり;」へと変更する補正
(4)Flの定義を「Flは、蛍光をスペクトルの赤色部分に遷移させかつ吸収最大値を生じる蛍光改変機能を発揮するヘテロアリール又はアルケニル基である置換基-t-を含む、4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアズ-s-インダセン色素から選択されることを特徴とし、」から「Flは、BODIPY630/650又はBODIPY630/650Xからなる(注 式は省略する。)」ものへと変更する補正
(以下、これらを順に「補正(1)」ないし「補正(4)」という。)。

2 補正の適否
(1)補正の目的
補正前の請求項1を補正後の請求項1とする補正のうち、上記補正(2)が、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものに該当するといえるかを検討する。
補正(2)は、Lは、アミン、アミド、並びに飽和又は不飽和の置換されているか又は置換されていないC_(1?600)の分枝鎖又は直鎖の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素及びそれらの組合せから選択され、モノマー、2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマーである場合を含むものから、モノマー、2個から30個までのオリゴマー反復を有するオリゴマーである限りにおいて、化学構造については何ら特定されないものへと変更するものであるから、この補正によって、補正前の請求項1の範囲外であった、Lがアミン、アミド、並びに飽和又は不飽和の置換されているか又は置換されていないC_(1?600)の分枝鎖又は直鎖の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、脂環式炭化水素及びそれらの組合せから選択されるもの以外である蛍光リガンドが含まれることになる。
本件補正は、補正後の請求項1に記載された発明に、補正前の請求項1に記載された発明の範囲外であるLを有する蛍光リガンドを包含するようにする補正であるから、特許請求の範囲の減縮には当たらず、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるとはいえない。
また、本件補正は、請求項の削除を目的とするものではなく、また、誤記の訂正若しくは明りようでない記載の釈明を目的とするものでもないことは明らかであるから、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第1号、第3号及び第4号に掲げる事項を目的とするものということもできない。
したがって、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものともいうことはできない。

3 むすび
以上のとおりであるから、補正(2)を含むものである平成23年 7月19日付けの手続補正は、その余の点を検討するまでもなく、平成18年改正前特許法第17条の2第4項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明
平成23年 7月19日付けの手続補正は上記のとおり却下されたから、本件出願において特許を受けようとする発明は、平成22年 9月21日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし27に記載されたものであると認められ、その請求項1には、上記第2の1に示したとおりに記載されている。そして、この補正前の請求項1は誤記と認められる記載があるが、当該請求項に記載された発明は、結果的には式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)で表される化合物に関するものであることも、既に上記第2の1で述べたとおりである(以下、これを「本願発明」という。)。
また、本願の明細書は、平成17年11月30日付け条約34条補正翻訳文及び平成17年12月 2日付け手続補正書の内容により補正されたものであるので、以下、これを「本願明細書」という。

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、「この出願については、平成22年 5月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2-4によって、拒絶をすべきものです。」というものである。
原査定における平成22年 5月18日付け拒絶理由通知書の「理由」の欄に「2.この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 3.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」と記載されている。
以上のことから、原査定における「平成22年 5月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由」とは、「本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由と、「本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むと認められる。

第5 当審の判断
当審は、原査定の理由のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないので、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえないので、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない、と判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 実施可能要件について
本願明細書の発明の詳細な説明には、式I’におけるmが1でpが0である場合の蛍光リガンド、すなわち、Lig J_(L) L J_(T) Flで表される構造の蛍光リガンドについては、これらを製造した実施例が具体的に記載され、【0157】-【0165】には、XAC-BY630と称される蛍光リガンドについて薬理学的な試験を行って、アデノシンレセプターへの結合活性を保持していることを確認した記載があり、【0166】-【0169】、図1及び図2には、BY630-ABEAと称される蛍光リガンドがCHO-AlTpzと称される細胞に結合し、緑色蛍光タンパク質でC末端タグ付きされたA_(1)-ARと同時局在化することを確認した記載がある。これに対し、本願発明は、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)におけるm又はpが2?3である蛍光リガンドを包含するものであるが、この化合物については、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的な製造を行った実施例は記載されていない。
本願明細書の発明の詳細な説明における蛍光リガンドの製造に関する記載をみると、以下の記載がある。
「【0059】好ましくは、この方法はコンビナトリアル法である。好ましくはこの方法は、本明細書で上記定義の通りの連結官能基J、J_(L)又はJ_(T)を形成する1つ若しくは複数の若しくは異なる反応性基Y_(L)又はY_(Lig)を含む式IV及び/又は式IV’:
IV (LigJ_(L))_(m)-L-Y_(Lm)
IV’ LigY_(Lign)
の1つ又は複数のリガンド前駆体の、
本明細書で上記定義の通りの連結官能基J又はJ_(T)を形成する1つ若しくは複数の若しくは異なる反応性基Y_(T)を含む式V及び/又は式V’:
V Y_(Tm)Tag
V’ Y_(Tm)L(J_(T)Tag)_(m)
の複数の分析的タグ付き基質の1つ又は複数と、
任意選択で1つ又は複数の連結種VI又はVI’又はVI”:
VI Y_(Lm)LY_(Lm)との反応を含み、
式中、Lig、J、L、J_(T)及びTag並びに各mは独立して本明細書で上記定義の通りであり、式IV若しくは式IV’の上記化合物若しくは各化合物は、上記種VI若しくはVI’若しくはVI”又は種VI若しくはVI’若しくはVI”の各々を任意選択で介して、式V若しくは式V’の前記化合物若しくは各化合物と反応して、本明細書で上記定義の通りの複数の式Iの化合物を形成することが可能である。」
また、【0061】には、反応性基Y_(Lig)、Y_(L)、Y_(T)の例が表に記載されている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)ig)_(m))_(p)におけるm又はpが2?3である蛍光リガンドを製造するために用いるIV (LigJ_(L))_(m)-L-Y_(Ln)及びVI Y_(Lm)LY_(Lm)、V’ Y_(Tm)L(J_(T)Tag)_(m)について、Lに対して複数のLigJ_(L)、Y_(Lm)、J_(T)Tagがどのような配置で結合した中間体化合物を用いればよいのか、また、そのような中間体化合物をどのようにして製造できるのかを説明する記載はない。また、本願明細書の発明の詳細な説明に具体的記載がなくても、式I’ におけるm又はpが2?3である蛍光リガンドを実際に製造するための中間体及びその製造方法が本願出願日時点で当業者に自明であるといえるような技術常識の存在は認められないにもかかわらず、本願明細書の発明の詳細な説明には何らそれを知る手掛かりとなる記載もない。そうすると、このような本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、技術常識を考慮しても、当業者が本願発明の蛍光リガンドを入手して、本願発明の実施をすることができるとはいえない。本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

2 サポート要件について
本願明細書の【0011】-【0013】の記載などからみて、本願発明の課題はGPCRに対する新規な蛍光タグ付きリガンドを提供することであると認められる。
上記1で述べたように、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)におけるm又はpが2?3である本願発明の蛍光リガンドについては、当業者がその入手をすることができるものであるとはいえない。
また、式I’ (LigJ_(L))_(m)L(J_(T)Fl)_(m)(J_(T)L(J_(L)Lig)_(m))_(p)におけるm又はpが2?3である蛍光リガンドは、その構造中にm+(m×p)=6?12個のLig及び2?3個のFlを有するものである。これに対し、その薬理学的な活性や細胞への結合の選択性に関する試験によって、実際にGPCRに対する蛍光タグ付きリガンドとして機能することが確認されて本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたXAC-BY630及びBY630-ABEAと称される蛍光リガンドは、Lig及びFlが1個ずつのものであり、これらの基がLを介して直線的に配列した構造を有するものである。これに対し、式Iのm又はpが2?3である本願発明の蛍光リガンドは、少なくとも上記のXAC-BY630及びBY630-ABEAの2倍の分子量を持つものであって、仮に、LigとFlの分子量が同程度であるとすれば、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたXAC-BY630及びBY630-ABEAと称される蛍光リガンドに対して、2倍?15倍もの分子量を持つものまで包含する。リガンドとしての機能には、分子の嵩高さが影響することが技術常識であるところ、技術常識に照らすと、このように高分子量で、しかも、XAC-BY630及びBY630-ABEAとは異なり、Lig及びFlとLとの相互の配列が直線的ではなく、分岐構造となる式Iのm又はpが2?3である本願発明の蛍光リガンドまでが、実際にGPCRに対する蛍光リガンドとして機能するとはいえない。そうすると、本願発明は、当業者が本願発明の課題を解決できると認識し得る範囲内のものであるとはいえない。
したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。

3 請求人の主張について
請求人の審判請求書における主張は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の蛍光リガンドに対する説明に終始しており、式Iのm又はpが2?3である本願発明の蛍光リガンドの製造可能性及び蛍光リガンドとしての機能と、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識との関係については、説明されていない。したがって、審判請求書における請求人の主張によって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するということはできず、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるということもできない。

4 まとめ
以上のことから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものであるとはいえないので、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるとはいえないので、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていないから、その余について検討するまでもなく、特許法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-14 
出願番号 特願2006-506071(P2006-506071)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07D)
P 1 8・ 57- Z (C07D)
P 1 8・ 536- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 冨永 保  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 東 裕子
齋藤 恵
発明の名称 蛍光タグ付きリガンド  
代理人 恩田 博宣  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 誠  

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