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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B01J
管理番号 1277205
審判番号 不服2011-25431  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-11-25 
確定日 2013-07-24 
事件の表示 特願2008-139310「多孔性触媒構造及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日出願公開、特開2008-296212〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成20年5月28日(パリ条約による優先権主張 2007年5月31日 60/941165 米国、2008年3月19日 097109738 台湾)の出願であって、平成23年4月7日付けで拒絶理由通知が起案され(発送日は平成23年4月12日)、平成23年7月8日付けで意見書並びに特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年7月22日付けで拒絶査定が起案され(発送日は平成23年7月26日)、これに対して、平成23年11月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同日付で特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書が提出され、平成23年12月26日付けで審判の請求理由を補充する手続補正書が提出され、その後に平成24年2月13日付けで最後の拒絶理由通知が起案され(発送日は平成24年2月21日)、応答期限内に意見書等の提出がなされなかったため、平成24年10月25日付けで特許法第164条第3項に基づく報告書が起案されたものである。

第2.本願発明について
本願の請求項1?21に係る発明は、平成23年11月25日付けの特許請求の範囲及び明細書の記載に係る手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体と、前記多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む、多孔性触媒構造。」

第3.拒絶理由について
平成24年2月13日付けの最後の拒絶理由通知には、
「(理由1及び2について)
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1-7
・引用文献等 1-3
・備考
[請求項1]
引用文献1には、発泡金属(「金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体」に相当)と、その表面に形成された触媒層を有する触媒が記載されている(請求項1、段落【0015】、実施例等参照)。
引用文献2には、発泡金属に触媒活性金属を担持させた触媒が記載されている(第43頁左欄第7行?右欄第8行等参照)。
引用文献3には、発泡金属及び触媒層を有する触媒が記載されている(請求項「15,24,実施例等参照)。」と記載され、
これは、請求項1に係る発明(本願発明)は、引用文献1-3に記載の発明と同一であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない(理由1)、または、引用文献1-3に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由2)、と判断したものであるといえる。
そこで、以下で当該判断の適否について検討する。

第4.刊行物の記載
平成24年2月13日付けの最後の拒絶理由通知に引用文献1として引用された、本願優先権主張日前である平成17年1月13日に頒布された刊行物である特開2005-7298号公報(以下「刊行物1」という。)には以下の事項が記載されている。
(刊1-ア)「【請求項1】
三次元網目構造を有する多孔質金属担体の表面に、触媒粉末を担持した多孔質セラミックス層からなる触媒層を形成してなる多孔質金属触媒であって、
前記触媒層は、触媒粉末を多孔質セラミックス層の最表面およびセラミックス空孔内面に固着し担持した構造を有することを特徴とする多孔質金属触媒。」(【特許請求の範囲】)
(刊1-イ)「・・・(イ)・・・図1の断面模式図に示されるように、多孔質金属空孔6と骨格7により構成される三次元網目構造を有する多孔質金属担体1の表面に、セラミックス粉末4が焼結結合して形成されたセラミックス空孔5を内蔵する多孔質セラミックス層2が形成されると共にこの多孔質セラミックス層2の最表面およびセラミックス空孔5の内面に触媒粉末3´が固着担持された構造を有する触媒層21が形成された多孔質金属触媒が得られる、
(ロ)さらに、この多孔質金属触媒は、複合セラミックス粉末9が三次元網目構造を有する多孔質金属担体1の多孔質金属空孔6内にも入り込み、骨格7の表面に複合セラミックス粉末9が固着した構造を有しおり、触媒粉末3´がセラミックス空孔5の内面にまで均一分散して固着担持されていると共に、触媒粉末3は多孔質金属担体1の骨格7の表面にも固着担持されているので従来の多孔質金属触媒に比べて触媒粉末の固着担持量が格段に多くなり、改質効果が各段に向上する、という研究結果が得られたのである。」(【0008】)
(当審注:【図1】において、符号「3」「3’」の示す引き出し線の指示する部分の位置から、上記(イ)の「触媒粉末3´」は「触媒粉末3,3´」と記載されることが正しいと解され、以後、「触媒粉末3,3´」として扱う。)
(刊1-ウ)「この発明の多孔質金属触媒における触媒粉末は、Ag,Pd,Ru,Ti,Cr,Mo,W,Mn,Fe,Co,Ni,Rh,Pt,Cu,Zn,In,Sn,Pd,Ge,Si,Al,Sbなどの金属粉末およびそれらの合金粉末のいずれかであり、この触媒粉末はすでに知られているものであるが、炭化水素ガスを改質するための改質器用触媒粉末としてはNi、Ru,Rh,Ptなどが特に好ましい。」(【0010】)
(刊1-エ)「この発明の三次元網目構造を有する多孔質金属担体は、耐熱性および耐食性を有するオーステナイト系ステンレス鋼、Ni基合金、TiまたはTi合金などで構成されている全ての多孔質金属を使用することができる。その製造方法は、これら金属または合金の粉末を燒結する方法、発泡樹脂または繊維状樹脂の表面に耐熱金属メッキ層を形成するかまたは耐熱金属粉末が懸濁したスラリーに浸漬したのち乾燥させたものを焼成することにより発泡樹脂または繊維状樹脂を除去して作製する方法、耐熱金属粉末に有機溶剤、界面活性剤、水溶性樹脂結合剤および水を添加し混合してスラリーを作製し、このスラリーを加熱乾燥して発泡グリーン体を作製し、この発泡グリーン体を焼成することにより作製する方法などが知られている・・・。」(【0015】)
(刊1-オ)「この発明の多孔質金属触媒の断面を示す模式図」と題された【図1】には、(刊1-イ)に記載された事項がみてとれる。

第5.当審の判断
1.引用発明の認定
上記(刊1-ア)の記載から、刊行物1には、
「三次元網目構造を有する多孔質金属担体の表面に、触媒粉末を担持した多孔質セラミックス層からなる触媒層を形成してなる多孔質金属触媒であって、前記触媒層は、触媒粉末を多孔質セラミックス層の最表面およびセラミックス空孔内面に固着し担持した構造を有することを特徴とする多孔質金属触媒。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

2.本願発明と引用発明との対比
2-1.本願発明の技術的意義
(1)本願発明は上記「第2.」で認定したように、
「【請求項1】
金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体と、前記多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む、多孔性触媒構造。」であって、その記載に不明確な点も誤記も見いだせない。
すると、いわゆるリパーゼ事件(昭和62年(行ツ)3)で、発明の要旨の認定は「特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない。」と最高裁が判示したように、請求項に記載された本願発明の内容を解するにあたり、本願明細書を参酌して、例えば「金属触媒層」は電気めっきによって作成されたものに限られる等に限定的に解釈すべきではないというべきである。
(2)また、たしかに本願明細書中には、例えば【0024】に「本発明の多孔性触媒構造は、簡易な電気めっき法により提供できる。具体的には、材質がステンレス等の多孔性金属担体を電気めっき処理し、該多孔性金属担体上に触媒層としての金属層をめっきして達成できる。」と記載されるように、「多孔性金属担体上に触媒層としての金属層をめっきして」製造するものが記載されてはいる。
しかしながら、本願明細書中には、「金属触媒層」を担体の「表面」へ「配置」する製法について、従来技術として「通常触媒は先ず活性成分金属酸化物の粉末を作製し、次いで接着工程を経て製造される。」(【0003】)、「触媒活性を有する金属又は金属酸化物を該セラミック薄層上に被覆し、最後に乾燥及び焼成工程を経て該ハニカム触媒を製造」(【0009】)等とも記載されており、当該製法として「接着」「被覆」等が知られていたものであり、本願発明の上記「多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層」では、それらの製法で製造されたものも包含し得る記載となっていることに鑑みれば、当該製法が電気めっきによるもののみに限られるとは解されないというべきである。
(3)したがって、本願発明は上記記載の文言の通り解するべきであり、「多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層」はその製法を限定するものではないというべきである。

2-2.対比
(1)引用発明の「三次元網目構造を有する多孔質金属担体」について、(刊1-エ)には「三次元網目構造を有する多孔質金属担体は・・・多孔質金属を使用することができ・・・その製造方法は、これら金属または合金の粉末を燒結する方法、発泡樹脂または繊維状樹脂の表面に耐熱金属メッキ層を形成するかまたは耐熱金属粉末が懸濁したスラリーに浸漬したのち乾燥させたものを焼成することにより発泡樹脂または繊維状樹脂を除去して作製する方法、耐熱金属粉末に有機溶剤、界面活性剤、水溶性樹脂結合剤および水を添加し混合してスラリーを作製し、このスラリーを加熱乾燥して発泡グリーン体を作製し、この発泡グリーン体を焼成することにより作製する方法」と記載されている。
すると、引用発明の「三次元網目構造を有する多孔質金属担体」は、当該「担体」の上記製造方法に鑑みれば、当該「担体」自体が多数の開口を有するものということができるので、引用発明の「三次元網目構造を有する多孔質金属担体」は本願発明の「金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体」に相当するということができる。
(2)引用発明の「触媒粉末」について、(刊1-ウ)には「この発明の多孔質金属触媒における触媒粉末は、Ag,Pd,Ru,Ti,Cr,Mo,W,Mn,Fe,Co,Ni,Rh,Pt,Cu,Zn,In,Sn,Pd,Ge,Si,Al,Sbなどの金属粉末およびそれらの合金粉末のいずれかであり、この触媒粉末はすでに知られているものであるが、炭化水素ガスを改質するための改質器用触媒粉末としてはNi、Ru,Rh,Ptなどが特に好ましい。」と記載されており、引用発明の「触媒粉末」は、「金属触媒」と言い得るものであって、本願発明の「金属触媒」に相当するということができる。
(3)引用発明は「表面に、触媒粉末を担持した多孔質セラミックス層からなる触媒層を形成してなる」ものであり、「触媒粉末を担持した多孔質セラミックス層からなる触媒層」は「触媒粉末を多孔質セラミックス層の最表面」に有するから、「触媒粉末」は「三次元網目構造を有する多孔質金属担体の表面に」配置されるものということができる。
また、「多孔質金属触媒」は多孔性の触媒構造を有することは明らかであり、引用発明の「多孔質金属触媒」は本願発明の「多孔性触媒構造」にあたるものということができる。
よって、引用発明の「三次元網目構造を有する多孔質金属担体の表面」に「触媒粉末」を「固着し担持した構造」を有する「多孔質金属触媒」は、本願発明の「金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体と、前記多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む、多孔性触媒構造。」に相当するということができる。
そして、本願発明は「多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む」とのみ記載され、他の「金属触媒層」に関する構成を排除せずに含み得る記載となっていることから、引用発明の、「触媒層」が「多孔質セラミックス層」に「担持」されるものであり、また、「触媒粉末」を「セラミックス空孔内面に固着し担持した構造を有」するものであることを、本願発明は包含し得るものであるということができる。
(4)また、引用発明の「多孔質金属触媒」の「物」としての構造について明細書の記載と図面の開示から検討するに、(刊1-オ)の視認事項と併せて(刊1-イ)には、「多孔質金属空孔6と骨格7により構成される三次元網目構造を有する多孔質金属担体1」の「表面」に、「セラミックス粉末4が焼結結合して形成されたセラミックス空孔5を内蔵する多孔質セラミックス層2が形成される」と共に「この多孔質セラミックス層2の最表面」および「セラミックス空孔5の内面に触媒粉末3,3´が固着担持された構造」を有する「触媒層21」が形成された「多孔質金属触媒」が得られることが記載され、また、視認されるものである。
すると、「セラミックス粉末4が焼結結合して形成されたセラミックス空孔5を内蔵する多孔質セラミックス層2が形成される」と共に「この多孔質セラミックス層2の最表面」に「触媒粉末3」が「固着担持」されることから、「多孔質金属空孔6と骨格7により構成される三次元網目構造を有する多孔質金属担体1」の「表面」に「触媒粉末3」が「固着担持」されているということができる。
さらに、(刊1-イ)には「(ロ)・・・触媒粉末3は多孔質金属担体1の骨格7の表面にも固着担持されている」とも記載されており、「多孔質金属空孔6と骨格7により構成される三次元網目構造を有する多孔質金属担体1」の「表面」に直接に「触媒粉末3」が「固着担持されている」場合もあることが示されている。
したがって、引用発明の「多孔質金属触媒」の「物」としての構造において、「多孔質金属担体1」の表面に「触媒粉末3」が配置されているということができ、当該構造は「金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体と、前記多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む、多孔性触媒構造。」になっているものということができる。

2-3.結言
以上を勘案すれば、本願発明は引用発明を包含するものであり、両者は「金属自体が有する開口によって多孔性を呈する多孔性金属担体と、前記多孔性金属担体の表面に配置される金属触媒層とを含む、多孔性触媒構造。」であることで一致し、両者の間に相違点を見出すことはできない。
よって、引用発明は本願発明と実質的に同一発明というべきである。
また、そうでないとしても、引用発明に基づき本願発明の特定事項に想到することは当業者の容易に推考し得るところということができ、本願発明の奏する作用効果も、刊行物1の記載事項及び技術常識から予測できる範囲のものであり格別なものではない。

第6.むすび
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明と同一発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、または、同文献に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定から特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に記載された発明に言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-25 
結審通知日 2013-02-26 
審決日 2013-03-11 
出願番号 特願2008-139310(P2008-139310)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B01J)
P 1 8・ 113- WZ (B01J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡田 隆介  
特許庁審判長 松本 貢
特許庁審判官 國方 恭子
中澤 登
発明の名称 多孔性触媒構造及びその製造方法  
代理人 山口 朔生  

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