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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08J
管理番号 1277306
審判番号 不服2012-4422  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-07 
確定日 2013-08-01 
事件の表示 特願2006-348628「SMC及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年7月10日出願公開、特開2008-156535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成18年12月25日の特許出願であって、平成23年9月15日付けで拒絶理由が通知され、同年11月21日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年12月7日付けで拒絶査定がなされ、平成24年3月7日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。



第2 本願発明

本願の請求項1?3に係る発明は、平成23年11月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。

「樹脂組成物とガラス繊維とを含有して形成されるSMCであって、ガラス繊維として、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプを混合したガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドを用いることによって、ウェットアウトのものとウェットスルータイプのものを併用して成ることを特徴とするSMC。」



第3 原査定の拒絶の理由の概要

原査定の拒絶の理由となった平成23年9月15日付けの拒絶理由通知書に記載された理由1.(1)の概要は、本願の請求項1,3-5に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものを含むものである。

引用文献1:特開昭61-91256号公報

なお、上記拒絶理由は、出願当初の明細書における請求項1,3-5に係る発明について通知したものであり、これは補正後の請求項1-3に対応するものである。



第4 引用文献の記載事項

本願出願前に頒布されたことが明らかな引用文献1(特開昭61-91256号公報)には、以下の事項が記載されている。

ア 「(1)ガラス繊維束と充填剤を含み且つ増粘された樹脂組成物とよりなるシートモールデイングコンパウンドにおいてガラス繊維が樹脂組成物に不溶バインダーを使用したハードタイプと溶性バインダーを使用したセミハードタイプの組み合せであることを特徴とするシートモールデイングコンパウンド。」(特許請求の範囲)

イ 「(産業上の利用分野)
この発明はシートモールデイングコンパウンド(以下SMCと略称)に関するものであり、特にリブ部・ボス部においてひけを生じず表面平滑性にすぐれ、かつ衝撃及び曲げ強度に優れたSMCに関する。」(第1頁左欄13?18行)

ウ 「(問題点を解決する手段)
これらに鑑み本発明においては種々の検討を重ねた結果、フイラメントの収束性の良好なガラス繊維、即ち樹脂に不溶性バインダーよりなるハードタイプを主成分とし更に溶性バインダーよりなるセミハードタイプを組み合わせたことにより表面平滑性及び強度・剛性に優れた製品が得られるSMCを開発するに致つた。
ガラス繊維のバインダーは一般にカップリング剤、フィルム形成剤、界面活性剤等から構成されるがSMC化した場合、その一部はコンパウンド中のスチレンに溶解し、ガラス繊維は開繊する。
ガラス繊維はその開繊度に応じ不溶性のハードタイプ、可溶性のセミハードタイプ、ソフトタイプに分類される。
ここで開繊度はlgのガラス繊維を大量の不飽和ポリエステル樹脂に投入し、100g-cmで攪拌した時、充分開繊するまでの時間で表わす開繊時間が350秒以上をハードタイプ、 100?350をセミハードタイプ、100以下をソフトタイプという。」(第2頁右上欄12行?左下欄11行)

エ 「以上の結果より考えうるに適切なバインダーを付着させたガラス繊維を使用することによりバランスのとれた特性を示す成形物が得られる。すなわち、ハードタイプとセミハードタイプガラス繊維を組み合わせて使用することにより、其々単独における場合の良好な特性(表面性 機械的物性)を兼ねそなえることができる。
(効果)
以上述べたように、本発明はガラス繊維束と充填剤を含み且つ増粘された樹脂組成物とよりなるシートモールデイングコンパウンドにおいて、ガラス繊維が樹脂組成物に不溶バインダーを使用したハードタイプと溶性バインダーを使用したセミハードタイプの組合せとしたため、曲げ強度はソフトタイプ並みで、うねりはハードタイプ並みの性能のFRPを得られるという効果を得られる。」(第3頁左下欄11行?右下欄6行)



第5 引用発明

引用文献1には、摘示アから、「ガラス繊維束と充填剤を含み且つ増粘された樹脂組成物とよりなるシートモールディングコンパウンドにおいてガラス繊維が樹脂組成物に不溶バインダーを使用したハードタイプと溶性バインダーを使用したセミハードタイプの組み合せであることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。



第6 本願発明と引用発明との対比

本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ガラス繊維束」及び「シートモールディングコンパウンド」は、本願発明における「ガラスロービングを切断して得られるチョップドストランド」及び「SMC」に相当する。
引用発明におけるガラス繊維において「樹脂組成物に不溶バインダーを使用したハードタイプ」及び「溶性バインダーを使用したセミハードタイプ」とは、それぞれ、本願発明における「ウェットアウトタイプ」及び「ウェットスルータイプ」に相当するものであるといえる。このことは、引用文献1における摘示ウの記載と、本願明細書の段落【0023】に「SMCに用いられるガラス繊維はガラスロービングを所定寸法に切断したチョップドストランドである。このガラスロービングは、ノズルから引き出された数百本から数千本の多数のガラスフィラメントに集束剤を塗布した後に集束基で集束してストランドを作製し、このストランドをトラバースにより綾掛けしながらワインダーに取り付けた紙管に巻き取って作製した複数のケーキをロービングワインダーにより解舒して、複数本引き揃えて再度巻き取ることによって得られるものである。そしてガラスロービングには集束剤の種類などによって、樹脂と混合した際にロービング内部のガラスフィラメントまで樹脂が浸透し易いウェットアウトタイプのガラスロービングと、樹脂と混合した際にロービングの表面は樹脂で覆われるがロービング内部のガラスフィラメントまでは樹脂が浸透し難いウェットスルータイプのガラスロービングとがあり、本発明で使用するウェットアウトタイプのガラス繊維は、ウェットアウトタイプのガラスロービングを所定寸法に切断したチョップドストランドであり、ウェットスルータイプのガラス繊維はウェットスルータイプのガラスロービングを所定寸法に切断したチョップドストランドである。」と記載されていることとを対比することからも明らかである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「樹脂組成物とガラス繊維とを含有して形成されるSMCであって、ガラス繊維としてウェットアウトのものとウェットスルータイプのものを併用して成ることを特徴とするSMC。」の点で一致し、次の相違点で相違する。

<相違点>
本願発明では、ガラス繊維として、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプを「混合した」ガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドを用いるのに対し、引用発明では、特に規定されていない点。



第7 相違点に対する判断

SMC(シートモールディングコンパウンド)の技術分野において、複数のガラスロービングを併せてカッターに供給してチョップドストランドを得ることは周知のことにすぎないものと認められる(例えば、特開平1-226311号公報の第1図、特開平5-156146号公報の図1、特開平6-107937号公報の図1、特開平5-169444号公報の図1、特開平5-301220号公報の図1、特開平6-79742号公報の図1及び特開2001-105431号公報の図1を参照のこと)。
そうすると、引用発明において、ガラス繊維束として、「樹脂組成物に不溶バインダーを使用したハードタイプ」と「溶性バインダーを使用したセミハードタイプ」とを組み合せるに際し、ハードタイプとセミハードタイプとを「混合した」ガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドとすることは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であれば容易になし得る程度のことであるといわざるを得ない。

また、本願発明の効果について検討すると、強度と外観の両方に優れるという点は、摘示イ及びエのとおり、引用文献1において奏されている効果と差異はないし、ガラス繊維として、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプを混合したガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドを用いることにより、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維の一方が偏在するようなことがなく、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維を均一な所定比率で分散させることができるという点も、当業者であれば当然に予測し得る程度のことにすぎない。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。



第8 請求人の主張に対する検討

請求人は、平成23年11月21日提出の意見書において、「本願発明と引用文献1・・・に記載された発明とは、樹脂組成物に対して複数種のガラス繊維を併用してSMCを得る点では共通する。
しかし、引用文献1に記載された発明では、ハードタイプのガラス繊維の切断物を含むSMCとセミハードタイプのガラス繊維の切断物を含むSMCを別々に作成し、それらを組み合わせて積み上げて積層にしているに過ぎない(実施例参照)。
・・・
従って、引用文献1・・・に記載されたガラス繊維の切断物(チョップドストランド)は、本願発明のように、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維を混合したガラスロービングを切断して得られたものではない。
(4)このように引用文献1・・・に記載された発明は、本願発明の上記(a)の構成「ガラス繊維として、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプを混合したガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドを用いることによって、ウェットアウトのものとウェットスルータイプのものを併用する」という構成を具備していない。従って、本願発明が上記の(a)より奏した「ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維の一方が偏在するようなことなく、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維を所定比率で分散させることができる」という効果を引用文献1・・・に記載された発明では期待することができず、この点において、本願発明と引用文献1・・・に記載された発明とは明らかに別異のものである。よって本願発明は、新規性を有するものである。
また、引用文献1・・・に記載された発明に上記(a)の構成が存在していない以上、引用文献1・・・に記載された発明をどのように組み合わせたとしても本願発明を想到することができない。引用文献1・・・に記載された発明には、本願発明のように、ガラス繊維として、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプを併用し、これらを混合したガラスロービングを切断したチョップドストランドを樹脂組成物と混合しつつシート化するという技術的思想が全く存在していないものであり、このような引用文献1・・・に記載された発明から本願発明が想到するとは到底いえない。よって、本願発明は引用文献1・・・に記載された発明に対して進歩性を有するものである。」と主張し、さらに平成24年3月7日提出の審判請求書において、「引用文献1・・・に記載された発明は、成形品の外観に関与するガラス繊維と、強度に関与するガラス繊維とを使い分けて、成形材料の厚み方向に上記ガラス繊維が層状となるように成形材料を形成するものである。
一方、本願発明は、表面平滑性が得られるウェットスルータイプのガラス繊維と、比較的高い強度が得られるウェットアウトタイプのガラス繊維と、を均一に混在させた状態で樹脂組成物中に混合して作成されるSMC(成形材料)に関するものであり、この点において、引用文献1・・・に記載される発明とは相違する。
このように、引用文献1・・・に記載された発明は、上記(a)・・・という構成を具備していない。従って、本願発明より奏した「ウェットアウトタイプのガラス繊維とウェットスルータイプのガラス繊維を所定比率で混合したガラスロービングを切断することにより、ウェットアウトタイプのものとウェットスルータイプのものが所定比率で均一に混在したチョップドストランドを得ることで、図1で示すようなSMCを容易に得ることができる。つまり、従来のSMCのような、ウェットアウトタイプのような強度を付与するガラス繊維と、ウェットスルータイプのような優れた外観を付与するガラス繊維とを積層した状態にしなくても、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維を均一に所定比率で分散させることで、ウェットアウトタイプのガラス繊維とウェットスルータイプのガラス繊維の相互の長所と短所が補完しあい、強度と外観のいずれにも優れたFRPを容易に得ることができるものである。すなわち、ウェットアウトタイプのガラス繊維が含有されていることによる優れた強度と、ウェットスルータイプのガラス繊維が含有されていることによる優れた外観を併せもったFRPを得ることができる」という効果を期待することができない。
また、引用文献1・・・に記載された発明に上記(a)の構成・・・が存在していない以上、引用文献1・・・に記載された発明をどのように組み合わせても、本願発明のような2種のガラス繊維を成形材料に均一に混在させ、厚み方向に2種類のガラス繊維を混在させた状態となるようにするという技術的思想に想到するとは到底いえない。」とも主張している。

しかしながら、引用文献1に記載された発明として、その実施例に記載された態様のみに限定して解釈する理由は見当たらず、その特許請求の範囲には、摘示アのとおりのことが記載されているのであるから、引用文献1には、第5 で述べたとおりの引用発明が記載されていることは明らかである。
そして、第7 でも述べたとおり、SMC(シートモールディングコンパウンド)の技術分野において、複数のガラスロービングを併せてカッターに供給してチップドストランドを得ることが周知のことにすぎないものと認められる以上、引用発明において、ガラス繊維束として、ハードタイプとセミハードタイプを混合したガラスロービングを切断して得られるチョップドストランドとすることは、当業者であれば容易になし得る程度のことであるといわざるを得ない。
また、そのことによる効果であると請求人が主張する「ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維の一方が偏在するようなことなく、ウェットアウトタイプとウェットスルータイプのガラス繊維を所定比率で分散させることができる」という点は、第7 でも述べたとおり、当業者であれば当然に予測し得ることにすぎない。

よって、意見書及び審判請求書回答書における請求人の主張は何れも採用することができない。



第9 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく、本願は原査定のとおり拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-29 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-17 
出願番号 特願2006-348628(P2006-348628)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 富永 久子
大島 祥吾
発明の名称 SMC及びその製造方法  
代理人 時岡 恭平  
代理人 竹尾 由重  
代理人 水尻 勝久  
代理人 西川 惠清  

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