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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1277311
審判番号 不服2012-8659  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-11 
確定日 2013-08-01 
事件の表示 特願2006-232712「画像表示システム、及び画像表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月13日出願公開、特開2008- 59088〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は平成18年8月29日の出願であって,平成23年6月10日付けの拒絶理由通知に対し,平成23年8月9日に意見書の提出とともに手続補正がなされたが,平成24年2月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成24年5月11日に審判請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成24年12月6日付けで審尋がなされ,これに対して平成25年2月8日に回答書が提出されたものである。

2.補正の適否について
(1)平成24年5月11日の手続補正(以下,「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項2(以下「旧請求項2」などという。)を削除し,旧請求項3を本件補正後の請求項2(以下「新請求項2」などという。)とし,旧請求項4を削除し,旧請求項5及び6をそれぞれ新請求項2に従属させて新請求項3及び4とし,旧請求項7,9,11を削除し,旧請求項8を新請求項5とし,旧請求項10を,新請求項5に従属させて,新請求項6としたものである。
(2)本件補正は,請求項の削除を目的とする補正であり,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第4項に規定する要件を満たすものであり,適法な補正である。

3.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,本件補正後の明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「医用画像を保管する保管手段と,
健常者の医用画像の保管先情報と所見なしを示す確診病名情報とが対応付けられて記憶されるレポートのデータベースと,
前記データベースから前記所見なしを示す確診病名情報に基づき,健常者の医用画像の保管先情報を検索する検索手段と,
前記検索手段により検索された保管先情報に基づき,前記保管手段に存在する健常者の医用画像を取得する画像取得手段と,
前記画像取得手段が取得した健常者の医用画像と当該健常者の医用画像と比較対照する患者の医用画像とを同時表示する表示手段と,
を備えること,
を特徴とする画像表示システム。」

4.原査定の拒絶の理由について
原査定の拒絶の理由は以下のとおりである。
「【拒絶理由】
A.この出願の下記の請求項に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-13
・引用文献1-5
備考:
引用文献1,2には,対象部位の正常画像・類似画像を検索して読み出し,患者の画像と比較可能なシステム・装置が開示されている。
引用文献3には,対象部位の終末処置後の処置画像を検索して読み出し,患者の画像と比較可能なシステム・装置が開示されている。
検索条件を緩和して画像を検索する事項(例えば,引用文献4:段落【0036】?【0043】等)や,優先順位を設けて検索する事項(例えば,引用文献5:段落【0061】?【0063】等)は,出願前に周知な事項に過ぎない。
してみれば,これら開示されている事項に基いて,本願発明のような構成とすることに,当業者が困難を要するとは認められない。
B.(略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-275986号公報
2.特開2004-005364号公報
3.(略)
4.(略)
5.(略)
【拒絶査定】
この出願については,平成23年 6月10日付け拒絶理由通知書に記載した理由Aによって,拒絶をすべきものです。
なお,意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが,拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。
備考:
(途中略)
よって,補正された請求項1-11に係る発明は,上記拒絶理由通知書にて引用した引用文献に基いて,当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。」

5.引用例について
(1)引用例1及び引用発明について。
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2001-275986号公報」(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに,次の(ア)?(エ)の事項が記載されている。
(以下「引用例1摘記事項」という。)
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,モニタに診断画像を表示しながら,この画像に対応する部位・位置の正常解剖例画像を併置して表示する医用画像表示装置に関する。」
(イ)「【0004】本発明の目的は,観察画像と同時に,観察画像に相当する部位の正常解剖例画像(正常人の画像+画像についての各種コメント付き)を自動で表示し,その正常解剖例画像上には各種の情報が表示されていてその情報と観察画像を比較観察することにより効率よく,診断を行うことを可能とすることにある。」
(ウ)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は,上記目的を達成するために,撮影部位と撮影位置情報とを有する検査画像を格納する検査画像格納部と,この撮影部位と撮影位置情報に対応する情報を有する正常解剖例画像を格納する正常解剖例画像格納部と,前記検査画像および正常解剖例画像の部位・位置情報を取得して前記検査画像の部位・位置情報にもとづいて前記解剖例画像の部位・位置情報を検索する正常解剖例画像検索部と,前記検査画像格納部より検査画像を読み出す検査画像読み出し部と,前記正常解剖例画像検索部からの部位・位置情報にもとづいて正常解剖例画像格納部より正常解剖例画像を読み出す正常解剖例画像読み出し部と,前記読み出された検査画像と正常解剖例画像とを併置して表示する表示部とで構成する。」
(エ)「【0009】
【発明の実施の形態】本発明の一実施例を図1により説明する。検査画像格納部1はCT,MR,X線などによる被検体の撮影画像と,その時の撮影部位および撮影位置情報とを格納している。一方,正常解剖例画像格納部2は正常人の画像の臓器についてコメント等が付与された正常解剖例画像と,その部位および位置情報とを格納している。正常解剖例画像検索部4は第1のメモリテーブルと,第2のメモリテーブルとこれらを制御する制御部とをもっている。対応指定部9は正常解剖例画像検索部4の制御部に接続し,その指令信号により制御部が作動し,検査画像格納部1より全検査画像の部位・位置情報を正常解剖例画像検索部4の第1のメモリテーブルに取り込むと同時に,正常解剖例画像格納部2から全正常解剖例画像に相当する部位・位置情報を正常解剖例画像検索部4の第2のメモリテーブルに格納するように構成する。検査画像読み出し部5は,画像更新釦6からの更新指示信号17により,検査画像格納部1より検査画像20を読み出して,検査画像18として,これを表示メモリ7へ送るとともに,その時の検査画像18に対応する部位・位置情報16を正常解剖例画像検索部4へ出力するようにする。正常解剖例画像読み出し部3は,正常解剖例画像検索部4の第2のテーブルから送られてくる部位・位置情報15にもとづき,正常解剖例画像格納部2より正常解剖例画像13を読み出して,その画像14を表示メモリ7に入力するようにする。表示メモリ7は,検査画像18を記憶するための検査メモリ7aと,正常解剖例画像14を記憶するための解剖例用メモリ7bとをもっている。CRTモニタ8は,表示メモリ7のメモリ7a,7bに記憶された画像がテレビ信号に変換されて検査画像と解剖画像が同時に併置して表示されるものである。」

上記(ア)?(エ)の引用例1摘記事項を参照すれば,引用例1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「モニタに診断画像を表示しながら,この画像に対応する部位・位置の正常解剖例画像を併置して表示する医用画像表示装置であって,
検査画像読み出し部5が検査画像格納部1より検査画像20を読み出して,検査画像18として表示メモリ7の検査メモリ7aへ送り記憶するとともに対応する部位・位置情報16を正常解剖例画像検索部4へ出力し,
正常解剖例画像読み出し部3は,正常解剖例画像検索部4の部位・位置情報15にもとづき正常解剖例画像格納部2より正常解剖例画像13を読み出して表示メモリ7の解剖例用メモリ7bに入力して記憶し,
CRTモニタ8は,表示メモリ7のメモリ7a,7bに記憶された画像をテレビ信号に変換して検査画像と解剖画像を同時に併置して表示する,
医用画像表示装置。」

(2)引用例2について。
原査定の拒絶の理由に引用された「特開2004-005364号公報」(以下,「引用例2」という。)には,次の(ア)?(エ)の事項が記載されている。
(以下「引用例2摘記事項」という。)
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,類似画像検索システムに関し,特に詳しくは,処理対象の画像と類似している画像を検索する類似画像検索システムに関するものである。」
(イ)「【0017】
また,本発明の類似画像検索システムを,画像データベースに保存されている画像データを,各画像データが表す被写体画像に関連する関連情報を付与されたものとし,画像データ入力手段を,検索画像データとともに該検索画像データの関連情報を入力するものとし,検索手段を,入力された関連情報と同等の関連情報が付与されている類似画像データを検索するものとすることもできる。すなわち,検索手段を,入力された検索画像データと画像の特性が類似している部分を有し,さらに入力された関連情報と同等の関連情報が付与されている画像データを,類似画像データとして検索するものとすることもできる。
【0018】
ここで,関連情報は,撮影部位を示す撮影部位情報,撮影モダリティを示す撮影モダリティ情報,患者の氏名,年令,性別等の患者に関する個人情報を示す患者関連情報,画像の表す疾病を示す疾病情報のうち少なくとも1つを意味するものとすることもできる。
【0019】
詳しくは,撮影部位情報とは,「胸部」や「乳房」などの撮影部位を示すものであり,撮影モダリティ情報とは,「CR」や「CT」などの撮影モダリティを示すものである。患者関連情報とは,画像データが表す被写体画像の被写体である患者の氏名,年令,性別,人種,病歴,喫煙暦等,患者個人に関する情報のうち少なくとも1つを意味するものである。また,疾病情報とは,肺癌,乳癌,胃癌等,画像データが表す被写体画像を診断した結果得られた疾病名を1つ以上示す情報を意味するものである。なお,診断した結果得られた疾病名とは,確定診断されたものに限られるものではなく,疑われる疾病をも含むものである。
【0020】
また,画像データベースに保存されている画像データを,各画像データが表す被写体画像の各部分の位置を示す位置情報を付与されたものとし,画像データ入力手段を,検索画像データとともに該検索画像データが表す被写体画像の検索対象部分の位置を示す位置情報を入力するものとし,検索手段を,入力された位置情報を画像データベースに保存されている画像データに付与されている位置情報と対応させて検索するものとすることもできる。
【0021】
ここで,位置情報とは,画像上の位置を示す情報でもよいし,解剖学的な位置を示す情報でもよい。解剖学的な位置を示す情報とは,例えば,「右肺野上部」や「心臓部」など,解剖学的に定義することが可能な各部分の名称を意味するものである。」
(ウ)「【0037】
症例データベース20は,被写体画像を表す画像データを多数保存している画像データベース20aと,各画像データに関連する診断データを保存している診断データベース20bとにより構成されている。画像データベース20aには,過去に診断された種々の被写体の多数の画像データが保存されており,また,診断データベース20bには,画像データベース20aに保存されている各画像データに関連する診断データが,各画像データと関連付けられた状態で保存されている。また,診断データとしては,疾患名や対応(治療や検査の方針)等,診断に関する種々のデータが記録されている。」
(エ)「【0062】
また,上記第1の実施形態における表示手段50や,第2の実施形態におけるクライアント端末2における表示例としては,上記の他,例えば,検索された類似画像の全体画像とその画像中の類似している部分を示す部分画像とを同一画面上に表示する形態や,類似画像とともに類似度を表示する形態や,類似画像データをカテゴリ分類して各カテゴリの中から最も類似している症例を1つずつ表示する形態など種々の形態が可能である。このうち,類似度を表示する形態としては,数字で表示する形態の他,類似している部分を示す部分画像の表示において,その部分画像を囲む枠の大きさで表現する形態や,枠の太さで表現する形態などを採用することもできる。また,類似度が所定の基準以下(例えば,20%以下など)の類似画像は表示しない形態としてもよい。また,類似画像データがなかったときには,「類似症例が存在しません」等のメッセージを表示することができる。また,類似画像データのカテゴリ分類としては,例えば,画像中に存在している異常陰影の性状(悪性,良性,正常の別)による分類などが考えられる。すなわち,カテゴリ分類せずに類似画像を検索すると悪性の症例しか表示されないこともあるが,正常の症例と悪性の症例からそれぞれ1つ以上の症例を表示させれば,診断結果が異なる症例を比較することができるため,より正確な診断が可能になる。」
ここで,引用例2摘記事項(エ)の「正常の症例」は,診断結果が正常である症例であるから,摘記事項(ウ)の,診断データベース20bの診断データには,正常であるとの診断結果が記録され,対象画像に対応する所定部位の正常の症例の画像が画像データベース20aに保存され,検索して表示できるものと理解できる。
してみると,上記(ア)?(エ)の引用例2摘記事項を参照すれば,引用例2には以下の事項が記載されている。
「被写体画像を表す画像データを多数保存している画像データベース20aと,画像データベース20aに保存されている各画像データに関連する診断データであって,正常の症例との診断結果を含む診断データが各画像データと関連付けられて保存されている診断データベース20bとを有し,検索手段30により,診断データベース20bから特定部位の診断結果が正常であるとの診断結果となった画像データを,処理対象の画像と類似する画像であって正常である画像として検索し表示すること。」
(以下「引用例2記載事項」という。)

6.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の,「正常解剖例画像格納部2」は,「医用画像を保管する保管手段」にほかならず,当該格納部に格納される「正常解剖例画像」は,後記する点で相違するものの,本願発明の,「保管手段に存在する健常者の医用画像」に相当する。
(イ)引用発明の,「正常解剖例画像読み出し部3」が,「正常解剖例画像格納部2より正常解剖例画像13を読み出して表示メモリ7の解剖例用メモリ7bに入力して記憶」することは,本願発明の,「保管手段に存在する健常者の医用画像を取得」することに相当する。
(ウ)引用発明は,検査画像18を表示メモリ7の検査メモリ7aへ送り記憶し,正常解剖例画像13を読み出して表示メモリ7の解剖例用メモリ7bに入力して記憶し,CRTモニタ8は,表示メモリ7のメモリ7a,7bに記憶された画像をテレビ信号に変換して検査画像と解剖画像を同時に併置して表示する。
してみると,引用発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「取得した健常者の医用画像と当該健常者の医用画像と比較対照する患者の医用画像とを同時表示する表示手段」を有する点で共通する。
(エ)以上(ア)?(ウ)のことから,引用発明と本願発明とは,後記する点で相違するものの,「医用画像を保管する保管手段」と,「保管手段に存在する健常者の医用画像を取得する画像取得手段」と,「画像取得手段が取得した健常者の医用画像と当該健常者の医用画像と比較対照する患者の医用画像とを同時表示する表示手段」とを有する「画像表示システム」である点で共通する。
上記(ア)?(エ)によれば,引用発明と本願発明との[一致点]と[相違点]とは,以下のとおりである。
[一致点]
「医用画像を保管する保管手段と,保管手段に存在する健常者の医用画像を取得する画像取得手段と,画像取得手段が取得した健常者の医用画像と当該健常者の医用画像と比較対照する患者の医用画像とを同時表示する表示手段とを有する画像表示システム。」
[相違点]
本願発明の「健常者の医用画像を取得する画像取得手段」は,「健常者の医用画像の保管先情報と所見なしを示す確診病名情報とが対応付けられて記憶されるレポートのデータベースと,データベースから所見なしを示す確診病名情報に基づき,健常者の医用画像の保管先情報を検索する検索手段と,検索手段により検索された保管先情報に基づき,保管手段に存在する健常者の医用画像を取得」する「画像取得手段」であって,「保管手段」から健常者の所定部位の医用画像を検索して取得するものであるのに対して,引用発明は,「正常解剖例画像」を格納する「正常解剖例画像格納部2」から,健常者の所定部位の医用画像を取得するにとどまる点。

7.当審の判断
[相違点]について。
(ア)引用例2記載事項の「被写体画像を表す画像データを多数保存している画像データベース20a」は,本願発明の「医用画像を保管する保管手段」に相当する。
(イ)引用例2記載事項の「診断結果が正常であるとの診断結果となった画像データ」は,本願発明の「健常者の医用画像」に相当する。
(ウ)引用例2記載事項の「正常の症例との診断結果」の「診断データ」は,その症例を診断した結果が最終的に正常であったことを示す確診情報であるから,本願発明の「所見なしを示す確診病名情報」とは,「正常を示す確診病名情報」である点で共通する。
(エ)引用例2記載事項の「診断データベース20b」は,「正常の症例との診断結果を含む診断データが各画像データと関連付けられて保存されている」ものであり,「正常の症例との診断結果」の「診断データ」が当該症例の「画像データ」と「関連付けられ」ていること,つまり対応付けられていることが明らかであるから,引用例2記載事項と本願発明とは,「健常者の医用画像の保管先情報と正常を示す確診病名情報とが対応付けられて記憶されているレポートのデータベース」を有する点で共通する。
(オ)つまり,(ア)?(エ)のことから,引用例2は,本願発明の,「医用画像を保管する保管手段と,健常者の医用画像の保管先情報と正常を示す確診病名情報とが対応付けられて記憶されるレポートのデータベースと,データベースから正常を示す確診病名情報に基づき,健常者の医用画像の保管先情報を検索する検索手段と,検索手段により検索された保管先情報に基づき,保管手段に存在する健常者の医用画像を取得する」との構成に相当する構成を有する点で共通する。
(カ)ここで,そもそも本願発明は,健常者の所定部位の画像を取得し,比較対照することを課題とした発明であり,健常者を検出するための手段としてどのようなキーワードを用いるかは,データベースに応じて当業者が適宜選択できる設計的事項である。
(キ)つまり,データベースに「所見なし」との診断結果が含まれるのであれば,「所見なし」は当然健常者に含まれるのであるから,健常者を検索するためのキーワードとして「所見なし」を選択することも当業者が適宜選択できる設計的事項である。
(ク)そして,引用発明及び引用例2は,ともに本願発明と同様,患者の所定部位の医用画像と比較対照するべく,健常者の所定部位の医用画像を得て表示しようとするものである点で共通する。
(ケ)以上,(カ)(キ)のことを勘案すれば,上記(ア)?(ク)のことから,引用発明の,「正常解剖例画像格納部2」から健常者の所定部位の画像を取得するとの構成にかえて,引用例2記載事項の,「画像データベース20a」と「診断データベース20b」と「検索手段30」とから健常者の所定部位の画像を取得するとの構成を採用し,もって,「医用画像を保管する保管手段」と,「健常者の医用画像の保管先情報と所見なしを示す確診病名情報とが対応付けられて記憶されるレポートのデータベース」と,「データベースから所見なしを示す確診病名情報に基づき,健常者の医用画像の保管先情報を検索する検索手段」とからなる構成とし,これらの構成により,「検索手段により検索された保管先情報に基づき,保管手段に存在する健常者の医用画像を取得する画像取得手段」の構成とすることには何ら困難性がなく,当業者が容易に想到することができたものである。

以上のとおりであるから,[相違点]に係る本願発明の構成は,引用発明及び引用例2記載事項から当業が容易に想到することができたものである。
そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び引用例2記載事項から当業者が予測できる範囲のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び引用例2記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8.審判請求人の主張について
(ア)審判請求人は,審判請求書で以下の主張をしている。
「本願発明は,「所見なし」という状態を確信(当審注:「確診」の誤記。)病名情報とみなし,健常者の医用画像の検索に用いるという特有の構成を有している。これにより,本願発明は,別途データベース上に正常かどうかを示すフラグをたてるような構成を設けることなく,正常情報の検索を行うことが可能となる(段落[0025],[0065],[0066],[0105],[0106]参照)。これに対して,引用文献2及び3には,審査官殿が指摘する患者の正常情報の検索について,検索が可能であるという作用的な記載はあるものの,その具体的な手法については一切開示されていない。このことから,引用文献1及び2に記載された発明を組み合わせたとしても,本願発明を想到することは困難であると思料する。」
(審判請求書5ページ6行?15行)
(イ)以下に検討する。
確かに,引用例のいずれにも「所見なし」という状態を確診病名情報とみなすことは記載されていない。しかし,そのようにすることが,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,当業者想到容易であったことは,前記「7.」の「[相違点]について。」で判断したとおりである。
また,確かに,引用例2にはデータベース上に正常かどうかを示すフラグを立てることなく患者の正常情報の検索をすることは開示されていない。しかし,引用例2の診断データベース20bには,疾患名や対応(治療や検査の方針)等,診断に関する種々のデータが診断データとして記録され,正常の症例を抽出することができるものであるから,引用例2が,データベース上に正常かどうかを示すフラグを別途立てることなどにより患者の正常情報の検索をするものである必然性はない。
以上,審判請求人の主張を採用することはできない。
(ウ)審判請求人は,回答書で以下の主張をしている。
「イ)平成23年6月10日付け拒絶理由通知書で引用されました特開2004-005364号公報(引用文献2)の段落「0065」には「疾病名を指定しない場合には,画像の特性が類似している全ての画像データが検索される」と記載され,さらに続けて「そのために,正常なもの(疾病名がないもの)を含む種々の画像データが検索結果として得られる」趣旨が記載されております。つまり,引用文献2では,装置(或は技術が)としては,全てが検索されるのであって,正常なものだけを特定(認識)して検索されるわけではありません。本願発明の場合は,装置(技術)が「所見なし」のものから対応する画像データを検索します。そして,それを健常者のものとして表示することになります。したがって,本願発明と,引用文献2における内容の発明とは全く異なるものです。
ロ)引用文献2も,周知としてリストされた特開2005-250526号公報(引用文献6),特開2005-160660号公報(引用文献7),特開2004-166985号公報(引用文献8)のいずれも,医者等の人間側から判断した状況を説明しているにすぎません。そして,それはむしろ,人間側からしますと,医者が異常を見つけられないから「所見なし」と判断しているのですから当然です。つまり,これらの引用文献のいずれも,装置(技術)側で「所見なし」に対応する画像を検索し,健常者の画像として呈示するものではありません。
ハ)一方,拒絶査定時に審査官殿は,引用文献2(段落「0054」「0058」)を基に「所見なし」情報,「治療後(術後)」情報をデータベースに有するかどうかは,当業者が適宜なしうることにすぎない旨主張されております。つまり,引用文献2のように,種々の情報の検索条件で検索可能としている中に,その一部として「所見なし」等の条件を入れることは容易であると主張されているものと認識しております。しかしながら,これは,本願発明がその目的を達成するために,本願発明の図5に記載のように「所見なし」等の比較検討に必要な情報を選択的に設けたデータ構造のデータベースを構成することを示唆するものではありません。さらに言い換えるなら,本願発明の明細書の段落「0006」に記載のように,「健常者は,医用画像で部位の範囲で異常の無かった者」です。これを基に本願発明にかかるデータベースは,この健常者の画像,或は,類似する画像を認識し検索可能なデータ構造を有するものです。引用文献2及びその他の引用文献を含めても,これらの技術思想を開示・示唆するものではありません。」
(回答書4ページ下から6行?5ページ下から2行)
(エ)以下に検討する。
上記「イ)」の主張に関し,確かに,発明の詳細な説明の【0065】段落には,審判請求人主張のとおりの記載がある。しかし,この記載は,疾病名を指定しない場合には正常なものが含まれる事例が記載されるにとどまる。なお,原査定及び当審が引用するのは【0062】段落である。
上記「ロ)」の主張に関し,審判請求人は人間側から判断した状況であると主張しているところ,引用例2には,カテゴリ分類することにより正常の症例をも表示させることができることが記載されている。
上記「ハ)」の主張に関し,仮に,審判請求人が主張するように,本願発明が,「医用画像で部位の範囲で異常の無かった者」が「健常者」であり,「所見なし」の情報が「確診病名情報」の欄にあり,その情報を利用するとしても,そのようにすることが,当業者が適宜なし得る設計的事項であり,当業者想到容易であったことは,前記「7.」の「[相違点]について。」で判断したとおりである。
以上,審判請求人の主張を採用することはできない。

9.むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用例2記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-28 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-19 
出願番号 特願2006-232712(P2006-232712)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小林 正和  
特許庁審判長 清田 健一
特許庁審判官 西山 昇
手島 聖治
発明の名称 画像表示システム、及び画像表示装置  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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