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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04W
管理番号 1277315
審判番号 不服2012-12631  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-03 
確定日 2013-08-01 
事件の表示 特願2010- 13296「無線通信システム、通信装置、設定情報提供方法、設定情報取得方法、およびコンピュータプログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月22日出願公開、特開2010-161780〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年11月30日に出願した特願2005-345468号の一部を平成22年1月25日に新たな特許出願としたものであって、平成23年12月13日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年2月20日付けで手続補正がなされたが、平成24年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年7月3日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

第2 平成24年7月3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
平成24年7月3日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1は、以下のとおりである。
「【請求項1】
近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部と、
情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離通信装置に送信し、前記近距離通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部と、
前記設定情報を用いて無線通信により前記情報処理装置にアクセスする通信部と、
前記コンテンツリストを表示画面に表示させる表示部と、
を備え、
前記近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」

請求項1の第2段落には、「情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離通信装置に送信し、前記近距離通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部」と記載されている。
ここには、「前記近距離通信装置」と記載されているが、これに対応する「近距離通信装置」は、第2段落の前には記載されておらず、記載があるのは、「近距離無線通信装置」のみである(下線は当審が付した。)。
一方、本願明細書中には、例えば、段落【0043】に「設定情報受信部122は、アクセスポイント102が近距離通信機能を備えている場合には、親側近距離通信部130を介して近距離無線通信によりアクセスポイント102から設定情報を取得する。」(下線は当審が付した。)と記載されているように、「近距離通信」は、「近距離無線通信」と同義で使用されているといってよい。
それゆえ、請求項1の「前記近距離通信装置」は、「前記近距離無線通信装置」の誤記と認め、本願発明は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部と、
情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離無線通信装置に送信し、前記近距離無線通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部と、
前記設定情報を用いて無線通信により前記情報処理装置にアクセスする通信部と、
前記コンテンツリストを表示画面に表示させる表示部と、
を備え、
前記近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」

上記補正は、請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項について限定を付加するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項の規定第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)否かについて以下に検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開2004-104460号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の(1)?(2)の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。

(1)「【発明の実施の形態】
図1は、本発明を適用したコンテンツ提供システムの利用例を示している。
【0034】
蓄積端末1は、内蔵するICタグリーダライタ2を用いて、利用端末11に内蔵されるICタグリーダライタ12または利用端末21に内蔵されているICタグリーダライタ22との間で、至近距離の通信を行い、例えば、IEEE802.11規格の無線通信を確立するための通信設定情報を供給し、供給した通信設定情報に基づく利用端末11または利用端末21における通信設定処理に応じて、それらとの無線通信を確立する。蓄積端末1は、要求に応じて、保有する例えば、音声、動画などのAVデータ、デジタルカメラ等で撮像された写真などの静止画、名刺情報、アドレス情報などのコンテンツを、確立された無線通信を介して、利用端末11または利用端末21に供給する。
【0035】
なお、IEEE802.11規格の無線LANにおける通信距離は、一般的に、数十m以内とされている。
【0036】
利用端末11は、内蔵するICタグリーダライタ12を用いて、蓄積端末1のICタグリーダライタ2との間で至近距離の通信を行って、蓄積端末1から送信されてきた通信設定情報を受信するとともに、それに基づく通信確立処理を行い、蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立する。利用端末11は、確立された無線通信を介して、蓄積端末1から、所望のコンテンツの提供を受け、それを利用する。
【0037】
利用端末11はまた、ICタグリーダライタ12を用いて、利用端末21に内蔵されているICタグリーダライタ22との間で至近距離の通信を行い、要求に応じて、蓄積端末1との無線通信を確立するための通信設定情報とともに、利用端末11で利用しているコンテンツの利用情報を、利用端末21に送信する。
【0038】
利用端末21は、内蔵するICタグリーダライタ22を用いて、利用端末11のICタグリーダライタ12との間で至近距離の通信を行い、利用端末11から送信された、蓄積端末1との無線通信を確立するための通信設定情報と、コンテンツの利用情報を受信する。利用端末21は、受信した通信設定情報に基づいて、蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立し、蓄積端末1から、利用情報に対応するコンテンツ(例えば、利用端末11に提供されているものと同一のコンテンツ)の提供を受け、それを利用する。
【0039】
利用端末11から利用端末21に送信される利用情報には、コンテンツのID(例えば、利用端末11が、いま蓄積端末1から提供を受けているコンテンツのID、または利用端末11がいま利用しているコンテンツのID)が含まれている。
・・・(中略)・・・
【0046】
蓄積端末1、利用端末11、および利用端末21の間で授受される通信設定情報には、図2に示される、通信設定を行う際に必要な情報としての通信グループ形成情報、および図3に示される、通信グループ形成情報の管理の条件としての管理条件が含まれている。
【0047】
通信グループ形成情報(図2)は、ネットワークネーム、SSID、WEPキー、および通信ネットワーク形態から構成されている。
【0048】
ネットワークネームは、無線LANの通信ネットワークを識別するためのタイトルであり、図2の例の場合、「TEST GROUP」とされている。
【0049】
SSID(Service Set Identification)は、IEEE802.11規格の無線LANを識別するためのIDであり、図2の例の場合、「0x123456」とされている。なお、SSIDは、蓄積端末1、利用端末11、および利用端末21のそれぞれに設定されており、通信し合う両者のSSIDが一致する場合のみ通信が可能となる。
【0050】
WEP(Wired Equivalent Privacy)キーは、通信グループ参加に必要な認証情報であり、図2の例では、「0x123456789」とされている。なお、蓄積端末1、利用端末11、および利用端末21間で通信を行う場合、通信されるデータは、共通のWEPキーを使用して暗号化されて通信されるので、共通のWEPキーを有さない機器により、通信データが傍受されても、通信データは解読されない。」

(2)「【0071】
次に、図1に示した利用例における蓄積端末1、利用端末11、および利用端末21の動作の概要を、図8のフローチャートを参照して説明する。
【0072】
ステップS1において、利用端末11が蓄積端末1の直近にかざされると、非接触通信で、蓄積端末1のICタグリーダライタ2から利用端末11のICタグリーダライタ12に通信設定情報が送信され、その通信設定情報に基づいて、蓄積端末1と利用端末11との間でIEEE802.11規格の無線通信が確立される。蓄積端末1は、要求に応じて、所定のコンテンツを、確立された無線通信を介して利用端末11に提供し、利用端末11は、蓄積端末1からそのコンテンツの提供を受ける。
【0073】
すなわち、ユーザ13は、利用端末11で視聴したいコンテンツを、例えば、利用端末11の操作部106を操作して指定し、利用端末11を蓄積端末1に直近にかざすことで、蓄積端末1からそのコンテンツの提供を受け、利用端末11でそれを視聴することができる。
【0074】
なお、視聴したいコンテンツを、蓄積端末1で指定することもできる。
【0075】
ステップS2において、例えば、ステップS1の処理で、蓄積端末1と利用端末11との間で無線通信が確立されているときに、利用端末21が利用端末11の直近にかざされると、非接触通信で、利用端末11のICタグリーダライタ12から利用端末21のICタグリーダライタ22に、ステップS1で蓄積端末1から利用端末11に送信された通信設定情報とともに、例えば、蓄積端末1から利用端末11にいま提供されているコンテンツの利用情報が送信される。利用端末11から利用端末21に送信された通信設定情報に基づいて、蓄積端末1と利用端末21との間でIEEE802.11規格の無線通信が確立される。蓄積端末1は、要求に応じて利用端末21に、利用情報に対応するコンテンツ(例えば、利用端末11にいま提供されているコンテンツ、またはいま利用されているコンテンツ)を提供し、利用端末21は、蓄積端末1からそのコンテンツの提供を受け、それを利用する。
【0076】
例えば、ユーザ23が、ユーザ13が利用端末11で視聴しているコンテンツに興味を持ち、それを視聴したい場合、利用端末21を利用端末11に直近にかざし、または利用端末11を利用端末21に直近にかざすことで、ユーザ23は、ユーザ13が視聴しているコンテンツを利用端末21で視聴することができる。
【0077】
なお、ここでの処理では、コンテンツは、利用端末11から利用端末21へコピーされたように取り扱われるので、ここでの処理を、適宜、コンテンツのコピー処理と称する。
【0078】
次に、図8のステップS1の処理の詳細を、図9のフローチャートを参照して説明する。
【0079】
ステップS11において、蓄積端末1のCPU51は、ICタグリーダライタ2に指令して、利用端末の検出を開始させる。その指令によりICタグリーダライタ2は、利用端末検出の電磁波の出力を開始する。なお、利用端末検出は、ユーザ13が、蓄積端末1の操作部56に対して所定の操作を行ったときに開始されるようにしてもよいし、蓄積端末1の電源が投入されたときに開始されるようにすることもできる。
【0080】
利用端末11のCPU101は、ステップS21において、ICタグリーダライタ12により利用端末検出の電磁波が受信されるまで待機し、例えば、ユーザ13により、利用端末11(ICタグリーダライタ12)が蓄積端末1(ICタグリーダライタ2)の至近距離に保持されることで、ICタグリーダライタ12がその電磁波を受信したとき、ステップS22に進む。
【0081】
ステップS22において、利用端末11のCPU101は、コンテンツの受信の許可を受けるためのダイヤログを、ディスプレイ108に表示させ、ステップS23において、コンテンツの受信が許可されたか否かを判定する。
【0082】
ユーザ13は、ステップS22の処理で表示されたダイヤログに、コンテンツの受信を許可する旨、またはコンテンツの受信を許可しない旨を入力するので、CPU101は、その入力に基づいて、コンテンツの受信が許可されたか否かを判定する。
【0083】
ステップS23で、コンテンツの受信が許可されたと判定されたとき、ステップS24に進む。
【0084】
ユーザ13は、蓄積端末1からコンテンツの提供を受け、利用端末11でそれを視聴する場合、コンテンツの受信を許可する旨を、ステップS22で表示されたダイヤログに入力するので、ステップS24に進む。
【0085】
ステップS24において、利用端末11のCPU101は、ICタグリーダライタ12(アンテナ共振回路部)を介して、応答信号を送信する。
【0086】
蓄積端末1のCPU51は、ステップS12において、ICタグリーダライタ2により応答信号が受信されるまで、すなわち利用端末(正確には、コンテンツの提供を要求する利用端末)が検出されるまで待機し、応答信号が受信されたとき、すなわち利用端末が検出されたとき、ステップS13に進み、記憶部59に記憶されている通信設定情報を読み出して、ICタグリーダライタ2に供給する。ICタグリーダライタ2は、供給された通信設定情報を、利用端末11に対して送信する。
【0087】
なお、ここでCPU51は、ステップS12で、利用端末が検出されるまで待機するのではなく、制限時間内に利用端末が検出されなかった場合、利用端末の検出処理を終了するようにしても良い。
【0088】
利用端末11のCPU101は、ステップS25において、ICタグリーダライタ12により、通信設定情報が受信されるまで待機し、それが受信されたとき、ステップS26に進み、それを、記憶部109に記憶させる。
【0089】
次に、ステップS27において、利用端末11のCPU101は、無線通信部110を制御して、ステップS26で記憶部109に記憶された通信設定情報に含まれる通信グループ形成情報に基づくIEEE802.11規格の無線通信の通信設定を実行させる。このとき蓄積端末1の無線通信部60は、ステップS14において、ステップS27での利用端末11の無線通信部110における処理に対応した通信設定処理を実行する。その結果、蓄積端末1と利用端末11の無線通信が確立される。
【0090】
ステップS28において、利用端末11のCPU101は、無線通信部110を制御して、操作部106で指定されたコンテンツ(ユーザ13が利用端末11で視聴したいコンテンツ)のコンテンツIDを、ステップS27の処理で確立された無線通信を介して、蓄積端末1に送信させる。
【0091】
蓄積端末1のCPU51は、ステップS15において、利用端末11から送信されてきたコンテンツIDを有するコンテンツを記憶部59から読み出すとともに、無線通信部60を制御して、読み出したコンテンツの利用端末11への送信を開始させる。すなわちユーザ13により指定されたコンテンツのデータが、蓄積端末1から、ステップS14で確立された無線通信を介して利用端末11に送信される。その後、蓄積端末1のCPU51の処理は終了する。
【0092】
利用端末11のCPU101は、ステップS29において、無線通信部110を制御して、蓄積端末1から送信されてくるコンテンツのデータの受信を開始させる。
・・・(中略)・・・
【0101】
次に、図8のステップS2の処理(利用端末11から利用端末21へのコピー処理)の詳細を、図10のフローチャートを参照して説明する。
【0102】
利用端末11のCPU101は、ステップS61において、ICタグリーダライタ12に指令して、利用端末の検出を開始させる。その指令によりICタグリーダライタ12は、利用端末検出の電磁波の出力を開始する。
【0103】
なお、ここでの利用端末検出は、図9のフローチャートで示した処理で、蓄積端末1と利用端末11との無線通信が確立されたときに開始されるようにしてもよいし、利用端末11の操作部106に対して、ユーザ13により所定の操作が行われたときに開始されるようにすることもできる。
【0104】
利用端末21のCPU151は、ステップS71において、ICタグリーダライタ22により利用端末11から出力された利用端末検出の電磁波が受信されたか否かを判定し、例えば、ユーザ13により、利用端末11(ICタグリーダライタ12)が利用端末21(ICタグリーダライタ22)の至近距離に保持されることで、またはユーザ23により、利用端末21が利用端末11の至近距離に保持されることで、ICタグリーダライタ22がその電磁波を受信したとき、ステップS72に進む。
【0105】
ステップS72において、利用端末21のCPU151は、コンテンツの受信の許可を受けるためのダイヤログを、ディスプレイ158に表示させ、ステップS73において、コンテンツの受信が許可されたか否かを判定する。
【0106】
ステップS73で、コンテンツの受信が許可されたと判定されたとき、ステップS74に進み、利用端末21のCPU151は、ICタグリーダライタ22(アンテナ共振回路)を介して、応答信号を送信する。
【0107】
利用端末11のCPU101は、ステップS62において、ICタグリーダライタ12により応答信号が受信されるまで待機し、応答信号が受信されたとき、ステップS63に進む。
【0108】
ステップS63において、利用端末11のCPU101は、図9のステップS26で記憶部109に記憶された、蓄積端末1から送信されてきた通信設定情報と、例えば、蓄積端末1からいま提供を受けているコンテンツのコンテンツIDを含む利用情報を、ICタグリーダライタ12を介して、利用端末21に送信する。その後、利用端末11のCPU101の処理は、終了する。
【0109】
なお、ここで利用情報として利用端末21に送信されるコンテンツIDは、利用端末11がいま提供を受けているコンテンツのコンテンツIDに限らず、そのコンテンツに対応する他のコンテンツのコンテンツIDであってもよい。
【0110】
利用端末21のCPU151は、ステップS75において、ICタグリーダライタ22により通信設定情報等が受信されるまで待機し、それが受信されたとき、ステップS77に進み、記憶部159に記憶させる。
【0111】
次に、ステップS77において、利用端末21のCPU151は、無線通信部160を制御して、ステップS76で記憶部159に記憶された通信設定情報に含まれる通信グループ形成情報に基づくIEEE802.11規格の無線通信の通信設定(すなわち、蓄積端末1との無線通信を確立するための処理)を実行させる。このとき蓄積端末1のCPU51は、ステップS51において、無線通信部60を制御して、ステップS77での利用端末21の無線通信部160における処理に対応する無線通信設定処理を実行させる。その結果、蓄積端末1と利用端末21の無線通信が確立される。
【0112】
ステップS78において、利用端末21のCPU151は、無線通信部160を制御して、ステップS75で受信されたコンテンツIDを、ステップS77の処理で確立された無線通信を介して、蓄積端末1に送信させる。
【0113】
蓄積端末1のCPU51は、ステップS52において、利用端末21から送信されてきたコンテンツIDを有するコンテンツを記憶部59から読み出すとともに、無線通信部60を制御して、読み出したコンテンツの利用端末21への送信を開始させる。すなわち、いままで利用端末11に提供されていたコンテンツが、利用端末21にも提供される(コピーされる)。
・・・(中略)・・・
【0126】
なお、以上においては、利用端末21に提供されるコンテンツが、利用端末11がいま蓄積端末1から提供を受けているコンテンツであると予め決められており、ステップS63では、そのコンテンツのIDが送信されるようになされていたので、利用端末11は、例えば、ユーザからのコンテンツの指定を待つことなく、ステップS63においてコンテンツのIDの送信を行うことができた。
【0127】
ただし、利用端末21に提供されるコンテンツを、利用端末11または利用端末21で指定することもでき、例えば、利用端末11がいま利用しているコンテンツ、または利用端末11がいま蓄積端末1から提供を受けているコンテンツ等を指定できる。」
なお、段落【0086】には、「蓄積端末1のCPU51は、テップ12において、」と記載されていたが、「テップ12」が「ステップ12」の誤記であることは明らかであるので、誤記を正して摘記した。

(3)上記(1)?(2)の記載を総合すれば、引用文献には、次の2つの発明が記載されている。
「内蔵するICタグリーダライタ12を用いて、蓄積端末1のICタグリーダライタ2との間で至近距離の通信を行って、蓄積端末1から送信されてきた通信設定情報を受信するとともに、それに基づく通信確立処理を行って、蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立し、確立された無線通信を介して、蓄積端末1から、所望のコンテンツの提供を受け、それを利用する利用端末11であって、
無線通信部110を制御して、ユーザ13により操作部106で指定されたコンテンツのコンテンツIDを、前記確立された無線通信を介して、蓄積端末1に送信すると、ユーザ13により指定されたコンテンツのデータが、蓄積端末1から、前記確立された無線通信を介して送信される利用端末11」(以下、「引用発明1」という。)
及び、
「内蔵するICタグリーダライタ22を用いて、利用端末11のICタグリーダライタ12との間で至近距離の通信を行い、利用端末11から送信された、蓄積端末1との無線通信を確立するための通信設定情報と、例えば、蓄積端末1からいま提供を受けているコンテンツのコンテンツIDを含む利用情報を受信し、受信した通信設定情報に基づいて、蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立し、蓄積端末1から、利用情報に対応するコンテンツの提供を受け、それを利用する利用端末21。」(以下、「引用発明2」という。)

3. 対比・判断
(1)本願補正発明と引用発明1との対比
本願補正発明は、「コンテンツを・・・情報処理装置から受信する、携帯通信端末」である。
引用発明1の「利用端末11」は、「蓄積端末1」から送信されるコンテンツを受信するものであるから、引用発明1の「利用端末11」、「蓄積端末1」は、それぞれ本願補正発明の「携帯通信端末」、「情報処理装置」に相当する。

本願補正発明は、「前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」とされているように、「携帯通信端末」が「情報処理装置」からコンテンツを受信するものであり、また、「情報処理装置にアクセスするための設定情報」は、「前記近距離無線通信装置から前記設定情報を受信する」とされているように、「近距離無線通信装置」から受信されている。
ここで、本願補正発明において、「情報処理装置」と「近距離無線通信装置」との関係は、必ずしも明確ではない。
しかし、発明の詳細な説明及び図面の記載からみて、図9及び図10に示される「親側通信装置304」が「情報処理装置」に、親側通信装置において近距離無線通信を行う「親側近距離通信部130」が「近距離無線通信装置」に対応すると解されることから、本願補正発明における「近距離無線通信装置」は、「情報処理装置」の一構成要素である場合を少なくとも含むものである。
そして、引用発明1の「ICタグリーダライタ12」、「ICタグリーダライタ2」は、それぞれ至近処理の通信を行うものであるから、「近距離無線通信を行う」ものであるということができる。
それゆえ、引用発明における「蓄積端末1」の「ICタグリーダライタ2」が、本願補正発明における「情報通信装置」の「近距離無線通信装置」に相当し、引用発明における「利用端末11」の「ICタグリーダライタ12」が、本願補正発明における「近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部」に相当する。

引用発明1の「利用端末11」は、「蓄積端末1のICタグリーダライタ2との間で至近距離の通信を行って、蓄積端末1から送信されてきた通信設定情報を受信するとともに、それに基づく通信確立処理を行い、蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立し、確立された無線通信を介して、蓄積端末1から、所望のコンテンツの提供を受け」るものであって、「利用端末11」は、「蓄積端末1」から送信されてきた「通信設定情報」を受信するものであるから、本願補正発明と引用発明1とは、「前記近距離無線通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部」を備える点で共通し、「前記設定情報を用いて無線通信により前記情報処理装置にアクセスする通信部」を備える点で一致する。

引用発明1は、「蓄積端末1から、所望のコンテンツの提供を受け、それを利用する利用端末11であって、」「ユーザ13により操作部106で指定されたコンテンツのコンテンツIDを、前記確立された無線通信を介して、蓄積端末1に送信すると、ユーザ13により指定されたコンテンツのデータが、蓄積端末1から、前記確立された無線通信を介して送信される」ものである。
ここで、蓄積端末1は、“所望の”コンテンツを利用端末11に提供するものであるから、ユーザ13は、前記蓄積端末1に数多く蓄積された(少なくとも1つではない複数の)コンテンツの中から所望のコンテンツの指定、すなわち所望のコンテンツの選択をすることができるととらえることが相当である。
そして、複数のコンテンツの中からいずれかを選択するのであるから、そのような複数のコンテンツは選択可能なように、リスト化されているととらえるのが合理的である。
それゆえ、本願補正発明と引用発明1とは、「複数の利用可能なコンテンツを示す」「コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末」である点で共通する。

したがって、本願補正発明と引用発明1とは、以下の点で一致し、相違する。

[一致点]
「近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部と、
前記近距離無線通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部と、
前記設定情報を用いて無線通信により前記情報処理装置にアクセスする通信部と、
を備え、
コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」

[相違点1]
本願補正発明は、設定情報の受信に先立ち、「情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離通信装置に送信」するのに対して、
引用発明1は、そのような取得要求を近距離通信装置に送信しているか否か不明である点。

[相違点2]
本願補正発明は、「コンテンツリストを表示画面に表示させる表示部」を備え、「複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択」されるのに対して、
引用発明1は、複数の利用可能なコンテンツの中からユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択されるものの、「コンテンツリストを表示画面に表示させる表示部」を備え、「複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択」されるものではない点。

[相違点3]
本願補正発明は、「近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信」するのに対して、
引用発明1は、複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを用いてコンテンツを選択するものであるものの、そのようなコンテンツリストを近距離通信部を介して受信するものか否かは明確ではない点。

(2)相違点に対する判断
[相違点1について]
一般に、通信を行う際に、リクエスト(取得要求)を発してこれに対するレスポンスを受けることは、ごく普通に行われていることであるから、引用発明1において、情報処理装置の近距離無線通信装置から設定情報を受信するに先立ち、情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離無線通信装置に送信するようにして、本願補正発明となすことは、当業者が容易になし得たことである。

[相違点2について]
複数の対象物の中からいずれかを選択するときに、対象物のリストを表示して、表示された中からユーザ操作に応じて対象物を選択することは、例えば、特開2001-128242号公報(段落【0011】には、ファイルリストを表示し、利用者が表示された中から選択することが記載されている。)、特開2003-46703号公報(図5及び段落【0075】?【0077】には、画像リストを表示し、操作部を使って(すなわち、ユーザ操作によって)画像データを選択することが記載されている。)、特開2003-273791号公報(図3及び段落【0091】?【0092】、【0147】には、データリストを受診し、これに基づきリクエストリストを送信することが記載されている。)に見られるように周知のことである。
引用発明1は、複数の利用可能なコンテンツの中からユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択されるものであるから、引用発明1において、該周知技術を用いて、「複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択」されるようにすることに格別困難な点はない。

[相違点3について]
引用発明1は、本願補正発明の情報処理装置に相当する蓄積端末1にアクセスするための設定情報を近距離無線通信で受信して、前記蓄積端末1とのIEEE802.11規格の無線通信を確立し、それ以降はIEEE802.11規格の無線通信でコンテンツも含めた情報の送受信を行っていると解される。
それゆえ、引用発明1は、複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを近距離通信ではなく無線通信を介して受信していると解される。
しかし、引用発明1と同様に、通信設定情報やコンテンツに関する情報をやりとりする引用発明2では、利用端末21と利用端末11との間では、通信設定情報、コンテンツのコンテンツIDを含む利用情報をやりとりし、その後に、利用端末21はコンテンツの提供を受けている。加えて、引用発明1において、設定情報を受信するために近距離通信を使うことを排除する事情があるものでもない。
そうすると、引用発明1においても、近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信するようにすることは、当業者が適宜なし得たことといわざるをえない。

以上のとおりであるから、本願補正発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4.まとめ
したがって、本件補正は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明の認定
平成24年7月3日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成24年2月20日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりのものである。
「【請求項1】
近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部と、
情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離通信装置に送信し、前記近距離通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部と、
前記設定情報を用いて前記情報処理装置にアクセスする通信部と、
を備え、
前記近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記コンテンツリストから前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」

上記第2 1.に記したと同じく、請求項1の「前記近距離通信装置」は、「前記近距離無線通信装置」の誤記と認め、本願発明は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
近距離無線通信装置と近距離無線通信を行う近距離通信部と、
情報処理装置にアクセスするための設定情報の取得要求を、前記近距離通信部を介して前記近距離無線通信装置に送信し、前記近距離無線通信装置から前記設定情報を受信する設定情報取得部と、
前記設定情報を用いて前記情報処理装置にアクセスする通信部と、
を備え、
前記近距離通信部を介して複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記コンテンツリストから前記コンテンツが選択され、前記選択に応じた前記コンテンツを前記通信部を介して前記情報処理装置から受信する、携帯通信端末。」

2.引用文献
原審拒絶理由に引用された文献、および、その記載事項は、前記第2 2.に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明の限定事項である構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2 3.に記載したとおり、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.まとめ
したがって、本願発明は、引用発明1、引用発明2及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 補足
審判請求人は、平成25年3月22日付けの回答書において、
「なお、本願には、出願当初の明細書の段落0089において、再生位置を子側通信装置206で自動取得し、相手側の機器に伝えるという構成が開示されている。そして、このような構成は、上記引用文献1?6には記載も示唆もされていない。
本願出願人は、上記相違点によっても本願発明の進歩性が認められない場合には、上述の再生位置の自動取得及び取得した再生位置の情報を相手側の機器に伝えるという内容により、独立請求項について更なる減縮補正を行うが用意がある。」
と述べている。
しかし、仮に、本願補正発明に、上記事項の限定がなされたとしても、以下のとおり、特許を受けることができない。

段落【0089】に記載された事項は次のとおりである。
「【0089】
子側通信装置206が転送対象のコンテンツを指定する場合に、ユーザによる入力装置を介した入力のほか、子側通信装置206に備えられるコンテンツ再生部(図示なし)により再生中のコンテンツを転送対象として自動的に指定することもできる。再生中のコンテンツを転送対象として指定する場合に、子側通信装置206において再生が終了している位置(再生位置)の情報をコンテンツとともに親側通信装置204に送信すれば、親側通信装置204は、取得した位置の情報に従って、その位置からコンテンツを再生することができる。」
ここに記載されていることは、ユーザによるコンテンツの指定に代えて、再生中のコンテンツを自動的に指定することができること、及び、その際に、再生位置の情報を送信すれば、その位置からコンテンツを再生することができることである。
すなわち、再生位置の自動取得は、ユーザによるコンテンツの指定とは異なり、再生中のコンテンツを自動的に指定する場合になされるものであって、「複数の利用可能なコンテンツを示すコンテンツリストを受信し、前記表示部により表示画面に表示された前記コンテンツリストからユーザ操作に応じて前記コンテンツが選択され」る本願補正発明とは両立しないものであって、本願補正発明を限定的に減縮することによって、審判請求人が意図する発明とすることはできないものである。
また、平成24年7月3日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項3には、再生位置情報の取得についての記載があるが、上記したように、複数のコンテンツを示すコンテンツリストの中から、ユーザによってコンテンツの指定を行うコンテンツの選択態様において、再生位置情報の取得をすることは、明細書及び図面に記載されていないから、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項3は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-29 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-17 
出願番号 特願2010-13296(P2010-13296)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 倉本 敦史田中 寛人  
特許庁審判長 吉村 博之
特許庁審判官 佐藤 聡史
近藤 聡
発明の名称 無線通信システム、通信装置、設定情報提供方法、設定情報取得方法、およびコンピュータプログラム  
代理人 亀谷 美明  

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