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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1277367
審判番号 不服2010-17655  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-06 
確定日 2013-07-31 
事件の表示 特願2003-520308「粘度制御された食品香味システム」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 2月27日国際公開、WO03/15538、平成16年12月24日国内公表、特表2004-538015〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成14年8月13日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年8月16日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成20年10月7日付けの拒絶理由通知に対して,平成21年1月21日に意見書及び手続補正書が提出され,その後,平成22年3月31日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,平成22年8月6日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成23年9月5日付けの審尋に対し,平成23年12月21日に回答書が提出されたものである。
その後,当審において,平成24年9月10日付けで平成22年8月6付け手続補正を却下する補正の却下の決定がなされ,同日付けで拒絶理由通知書が出されたところ,平成24年12月11日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 当審の拒絶理由の概要
当審が平成24年9月10日付けでした拒絶理由には,概略次の理由が含まれている。
本願請求項1?6に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記刊行物1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

刊行物1:特開平11-28073号公報

第3 本願発明
本願請求項1及び請求項2に係る発明は,平成24年12月11日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載されるとおりのものと認める。
その内,本願請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次の事項により特定される発明である。
「【請求項1】
任意に調理された食品の提供可能部分を提供する段階,
食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分を提供する段階,および
上記の提供可能な食品香味料およびテキスチャー生成物部分と提供可能食品部分とを接触して風味およびテキスチャーをつけた食品の提供可能部分を形成する段階,
を含む提供するための風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する方法であって,
該食品香味料テキスチャー生成物が,
円柱,円盤,薄片,キューブまたは細い断片状を有する,食品香味料およびテキスチャー生成物であって,該食品香味料およびテキスチャー生成物が:
部分水素添加大豆油10-30%(重量/重量),
でんぷん,ペクチン,アルギニン,カラギーナンおよびそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも一種のゲル化剤3-20%(重量/重量),および
ココア,ココアバター,チョコレートリカー,および酵素変性チーズから成る群から選択された少なくとも一種の香味料成分0.1-60%(重量/重量),
クラスタマメガム,イナゴマメガム,キサンタンガム,アラビアガム,麦芽デキストリン,セルロースガム,トウモロコシシロップ固形物,デキストリン類,モノ-グリセリド,ジ-グリセリド,およびレシチンから成る群から選択された少なくとも一種のテキスチャー成分0.1-60%(重量/重量),および
水20-65(重量/重量)を含有し,そして,
該食品香味料およびテキスチャー生成物は,常温で自立する固体であり,および該生成物を昇温する場合に液状化または軟化する,
風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する方法。」

第4 刊行物1記載の事項
上記当審の拒絶の理由で引用され,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平11-28073号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が記載されている。
なお,下線は当審にて付記したものである。
(刊1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】具材の周囲に,常温固体で調理時の加熱によってペースト状になるソースを配してなる具入り固形ソース。
【請求項2】固形ソースが,油脂5?40重量%,水40?75重量%,ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上0.2?10重量%並びに卵黄2?10重量%を含む水中油型エマルジョンである請求項1記載の具入り固形ソース。」

(刊1-2)「【0005】
【課題を解決するための手段】すなわち本発明は,具材の周囲に,常温固体で調理時の加熱によってペースト状になるソースを配してなる具入り固形ソースである。この固形ソースは,油脂5?40重量%,水40?75重量%,ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上0.2?10重量%並びに卵黄2?10重量%を含む水中油型エマルジョンであることが好ましい。また,この固形ソースは澱粉0.1?5重量%を含むものが好ましい。また,上記の油脂は炭素数20?24の長鎖脂肪酸を含有しているものであることが好ましい。また上記の油脂は炭素数20以上の飽和脂肪酸1残基と不飽和脂肪酸2残基とからなるトリグリセリドを含有するものが好ましい。また上記の固形ソースの形状は円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状などである。」

(刊1-3)「【0007】本発明で用いる固形ソースは,常温固体,すなわち約30℃以下の加熱しない状態で固体を呈するものである。この固形ソースは調理時の加熱,調理の対象によって異なるが,約35℃以上の加熱によってペースト状になるものであり,例えば蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってペースト状に変化するものである。特にトロッとしたペースト状になるものが好ましい。また,口に入れて咀嚼する間にペースト状になるものが好ましい。ここで言う調理時の加熱とは,固形ソースそのものを直火で焼く方法以外の加熱であればどのような方法による加熱でもよい。例えば,固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶして,焼いたり,蒸したり,揚げたり,電子レンジで加熱する方法などが挙げられる。」

(刊1-4)「【0008】本発明の固形ソースは,油脂を水中に乳化させた水中油型エマルジョンである。本発明で用いる油脂としては,大豆油,ナタネ油,コーン油,綿実油,落花生油,パーム油,ヤシ油,サル脂,シア脂,パーム核油,魚油,ラード,牛脂,乳脂,からし油等の動植物性油脂及びそれらの硬化油又は分別油,エステル交換油など適宜に使用することができ,また,固体脂と液体油などと混合した配合油も使用できる。水中油型エマルジョンとした後の冷却固化時の冷却速度を速くしたり,固化したソースの固さを大きくするには硬化油又は固形脂を使用するのが好ましい。また,加温調理時に特に好ましいトロッとしたペースト状になる固形ソースを得るには,炭素数20?24の長鎖脂肪酸を含有する油脂,例えばナタネ油,魚油,落花生油,からし油,サル脂,或はこれらの硬化油,分別油,エステル交換油などを使用するか,又は炭素数20?24の部分が多い分別油を配合するのがよい。この炭素数20?24の長鎖脂肪酸の配合割合は固形ソースの全組成中好ましくは0.1?20重量%,更に好ましくは0.1?10重量%である。」

(刊1-5)「【0017】本発明の固形ソースには所望により以下のものを配合することができる。すなわち,酢酸,乳酸,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,アスコルビン酸,リン酸等の有機,無機酸,或いは果汁,果肉,発酵乳等の酸味料,更には砂糖,ブドウ糖,液糖,還元糖類のほかアスパルテームなどのアミノ酸系甘味料などである。その他にソースやケチャップ,香辛料,調味料,シロップも適宜使用できる。これらの配合量は適宜である。また,本発明では乳化安定剤として,キサンタンガム,グアーガム,ローカストビーンガム,カラギーナン,アルギン酸塩等の多糖類を添加配合してもよい。この添加量は0.01?1重量%である。この乳化安定剤は油相,水相のどちらに添加してもよい。」

(刊1-6)「【0018】本発明の固形ソースは,ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上,及び卵黄を加熱溶解した水相中に,加温した油脂を油相として乳化させて水中油型エマルジョンを製造し,次いで該エマルジョンを冷却することによって製造できる。すなわち,ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種及び卵黄を水に分散し,加熱溶解して水相を調製する。油相には油脂を用いるが,加温状態で乳化させる。乳化操作は,水相及び油相とも30?50℃,好ましくは35?45℃前後に調温して行う。常温固体の油脂を用いる場合は,油脂を加熱溶融状態にして乳化させる。また,本発明の固形ソースにおいて,澱粉を配合した固形ソースを製造するには,上記の油相に用いる油脂に澱粉を分散させてエマルジョンを形成させるのが好ましい。水中油型エマルジョンの調製にはホモジナイザー又はコロイドミルを用い,均質化するのが好ましい。水中油型エマルジョンは室温以下まで冷却させると固化する。」

(刊1-7)「【0027】実施例3
ナタネサラダ油と大豆硬化油(MP36℃)を75:25で混合した配合油25%〔炭素数20?24の長鎖脂肪酸含量=(18.75×0.036)+(6.25×0.01)=0.738%〕にワキシーコーン澱粉2%を添加分散した45℃の油相を調製した。一方,寒天4%,グルコマンナン0.4%を水37.6%に添加し,加熱溶解させたのちトマトケチャップ20%,卵黄6%,食酢(酢酸度15%)5%を撹拌させながら加え,45℃に調温した。このときの水相における水の割合は,配合した水(37.6%),トマトケチャップ中の水分(20×0.8=16%),卵黄中の水分(6×0.51=3.06%),及び食酢中の水分(5×0.85=4.25%)の合計60.91%である。この水相に上記調製した油相を添加,撹拌したのちコロイドミルで均質化し,水中油型エマルジョンとした。この水中油型エマルジョンを釣鐘状の弾性成形型に流し込み,その上から茹でた小エビを入れ一夜冷却して固化させ,鋳型から取り出して具入り固形ソースを得た。この固形ソースをシューマイに乗せ,蒸したところ,ソースがトロットしたエビシューマイが得られた。」

(刊1-8)「【0019】本発明は,上記水中油型エマルジョンの常温で固化する性質を利用して,具入り固形ソースを成形する。成形には成形型を用いる。成形型は種々の形状,材質の成形型が用いられるが,ゴムを素材とする弾性成形型が好ましい。この弾性成形型は伸縮性,可撓性があるため,成形品を離型させて取り出すのが容易になるからである。図1は本発明の具入り固形ソースを成形する成形型の一例の上面図であり,図2はその正面図である。1はゴム製のシートで,その全面にわたって鋳型2が設けられている。鋳型2もゴム製である。この鋳型2の形状によって,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状の固形ソースを成形できる。」

(刊1-9)「【0013】本発明で用いるゼラチンとしては,コラーゲンを水と長時間煮沸して製造した常用のものが使用できる。また寒天としては原料海藻を熱水で抽出し,抽出液を濃縮し,その後冷却して凝固させ,更に凍結,融解させ乾燥させた常用のものが使用できる。またグルコマンナンとしては,通称こんにゃくいもの塊茎を乾燥後粉砕した常用のものが使用できる。ジェランガムとしてはpseudomonaselodeaが菌体外に産出する多糖類を脱アセチル化したものが使用できる。ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムは,それぞれ単独又は併用して使用する。このゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムはソースを常温で固形状にするためである。そして,これらゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムを加熱溶解した水溶液を水相とし,これに加温した油脂を乳化させた乳化物は,常温に冷却すると固化する性質を有し,且つこの固化した乳化物は加熱によりトロッとしたペースト状になり,加熱残りする特性を有する。」

(刊1-10)「【0016】また,本発明で所望に応じて用いる澱粉は特に制限がなく,タピオカ澱粉,コーン澱粉,ポテト澱粉などであり,この他に酸,アルカリ又は酵素で処理したり,リン酸架橋処理した化工澱粉なども使用できる。澱粉を配合すると,固形ソースの流動性の調整が容易になり,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状などに成形する成形工程が円滑に行える。また上記の成形時に,或いは固形ソース成形物を加工食品に適用し,具有させる際に,固形ソース成形物を積んだり,重ねて保管するときがあり,このときに該成形物同士が相互に付着し易いが,澱粉を配合すると,この成形物同士が付着しにくくなる。また,澱粉の配合量は0.1?5重量%,より好ましくは2?4重量%である。0.1重量%より少ないと上記の付着防止効果が十分でなく,5重量%より多いと加熱調理時にペーストになりにくくなる。」

(刊1-11)「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,タコ焼き,シューマイ,中華まんじゅう,調理パン,おにぎりなどの内部に具材と共に,或は具材として配置させるための固形ソースに関する。更にこの具入り固形ソースの製造方法に関する。」

(刊1-12)「【0003】また,従来のマヨネーズ,各種ソース,ホワイトソース,カスタードクリームなどの水中油型エマルジョンは冷凍し,解凍すると,乳化状態が破壊され,油脂分が分離する傾向があるという問題点があった。・・・(略)・・・」

(刊1-13)「【0015】本発明では卵黄を使用するが,この卵黄は乳化剤の作用をなす。・・・(略)・・・」

第5 刊行物1に記載された発明
1 刊行物1の請求項1及び請求項2について
刊行物1の摘示(刊1-1)の請求項1及び2には,
「【請求項1】具材の周囲に,常温固体で調理時の加熱によってペースト状になるソースを配してなる具入り固形ソース。
【請求項2】固形ソースが,油脂5?40重量%,水40?75重量%,ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上0.2?10重量%並びに卵黄2?10重量%を含む水中油型エマルジョンである請求項1記載の具入り固形ソース」
と記載されている。
引用関係を整理すると請求項2には,
「油脂5?40重量%,水40?75重量%,ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上0.2?10重量%並びに卵黄2?10重量%を含む水中油型エマルジョンで構成され,
具材の周囲に,常温固体で調理時の加熱によってペースト状になるソースを配してなる具入り固形ソース。」が記載されている。

2 固形ソースの成分について
上記請求項1記載の「固形ソース」は,「本発明の固形ソースには所望により以下のものを配合することができる。すなわち,酢酸,乳酸,クエン酸,リンゴ酸,酒石酸,アスコルビン酸,リン酸等の有機,無機酸,或いは果汁,果肉,発酵乳等の酸味料,更には砂糖,ブドウ糖,液糖,還元糖類のほかアスパルテームなどのアミノ酸系甘味料などである。その他にソースやケチャップ,香辛料,調味料,シロップも適宜使用できる。」(摘示(刊1-5))との記載事項がある。
したがって,上記請求項1記載の「固形ソース」は,所望により,香辛料,調味料などを配合することができることが分かる。

3 固形ソースの加熱による性質について
そして,このソースは摘示(刊1-3)に
「(刊1-3)「【0007】本発明で用いる固形ソースは,常温固体,すなわち約30℃以下の加熱しない状態で固体を呈するものである。この固形ソースは調理時の加熱,調理の対象によって異なるが,約35℃以上の加熱によってペースト状になるものであり,例えば蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってペースト状に変化するものである。特にトロッとしたペースト状になるものが好ましい。また,口に入れて咀嚼する間にペースト状になるものが好ましい。ここで言う調理時の加熱とは,固形ソースそのものを直火で焼く方法以外の加熱であればどのような方法による加熱でもよい。例えば,固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶして,焼いたり,蒸したり,揚げたり,電子レンジで加熱する方法などが挙げられる。」
と記載されているから,請求項1に記載の「固形ソース」は,常温固体,すなわち約30℃以下の加熱しない状態で固体を呈するものであり,約35℃以上の加熱によってペースト状のソースになるものである。
また,請求項1記載の「固形ソース」は,「口に入れて咀嚼する間にペースト状になるものが好ましい。」(摘示(刊1-3))と記載されているから,そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になる特性について記載されている。
さらに,「例えば蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってペースト状に変化するものである。特にトロッとしたペースト状になるものが好ましい。」(摘示(刊1-3))と記載されているように,加熱することによりトロッとしたペースト状に変化する特性について記載されている。

4 固形ソースの成形について
請求項1記載の「固形ソース」は,摘示(刊1-8)に
「【0019】本発明は,上記水中油型エマルジョンの常温で固化する性質を利用して,具入り固形ソースを成形する。成形には成形型を用いる。成形型は種々の形状,材質の成形型が用いられるが,ゴムを素材とする弾性成形型が好ましい。この弾性成形型は伸縮性,可撓性があるため,成形品を離型させて取り出すのが容易になるからである。図1は本発明の具入り固形ソースを成形する成形型の一例の上面図であり,図2はその正面図である。1はゴム製のシートで,その全面にわたって鋳型2が設けられている。鋳型2もゴム製である。この鋳型2の形状によって,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状の固形ソースを成形できる。」
と記載されているから,成形型である鋳型2により,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状に成形されたものである。

5 水中油型エマルジョンについて
刊行物1には,「固形ソース」を,固形とする製造工程として「本発明の固形ソースは,ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上,及び卵黄を加熱溶解した水相中に,加温した油脂を油相として乳化させて水中油型エマルジョンを製造し,次いで該エマルジョンを冷却することによって製造できる。」「水中油型エマルジョンは室温以下まで冷却させると固化する。」(摘示(刊1-6))と記載されている。
このことから,請求項1記載の「固形ソース」は,ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上を選び,これに,卵黄を加熱溶解して水相を作り,別途加熱した油脂を油相とし,両相を混合して乳化させ製造した水中油型エマルジョンを含むものであって,室温まで冷却することで固化したものであることが分かる。

6 固形ソースの使用方法について
さらに,「例えば,固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶして,焼いたり,蒸したり,揚げたり,電子レンジで加熱する方法などが挙げられる。」(摘示(刊1-3))と記載されているから,固体ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶした食品を調製する方法が記載されているといえる。

7 小括
以上のことを総合すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「油脂5?40重量%,水40?75重量%,ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上0.2?10重量%並びに卵黄2?10重量%を含む水中油型エマルジョンで構成され,
具材の周囲に,常温固体で調理時の加熱によってペースト状になるソースを配してなる具入り固形ソースであって,
該固形ソースは,所望により,香辛料,調味料を配合することができ,
該固形ソースは,常温固体,すなわち約30℃以下の加熱しない状態で固体を呈し,約35℃以上の加熱によってペースト状のソースになるものであり,そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状となる特性を有し,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性を有し,
該固形ソースは,成形型である鋳型2により,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状に成形されたものであり,
該固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶした食品を調製する方法。」

第6 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 香味料成分について
引用発明の「固形ソース」は,「所望により,香辛料,調味料を配合することができ」るものであるし,ソースであるから,何らかの香味料を含むことは自明なことであって,香味料を含むということができる。
そうすると,引用発明の「所望により,香辛料,調味料を配合することができ」る「固形ソース」と,本願発明の「ココア,ココアバター,チョコレートリカー,および酵素変性チーズから成る群から選択された少なくとも一種の香味料成分0.1-60%(重量/重量)」とは,「香味料成分」を含むという点で共通する。

2 テキスチャー成分について
本願明細書には,「テキスチャー」及び「テキスチャー生成物」の定義はなされていないから,本願出願時の技術常識に沿って,その意味を理解するべきところ,テキスチャーとは,「丸善食品総合辞典」,丸善株式会社,平成10年3月25日,727頁の「テクスチャー」の項に「1963年,ツェスニヤク(Szczesniak)女史が明らかにした食べ物に対する重要な食感要素の一つで,日本語の”口あたり”,”舌触り”,”歯応え”のような語感に対応する評価をテクスチャーと総称する.」と記載されている。

よって,本願発明の「テキスチャー」とは,”口あたり”,”舌触り”及び/又は”歯応え”といった食感に関与する要素をいうと理解される。そして,「テキスチャー生成物」とは,テキスチャー,すなわち,当該食感をもたらす生成物と理解される。

他方,引用発明の「固形ソース」は,「そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になり,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性を有」するものであるから,口あたり,舌触り,歯応えといった表現で表される食感を有することは明白であり,「テキスチャー生成物」ということができるし,当該テキスチャーをもたらす何らかの成分が含まれていることも自明である。
そして,このような食感の変化をもたらすのが引用発明の「室温まで冷却することで固化」する作用を有する「水中油型エマルジョン」であり,その成分の一つである卵黄は,「本発明では卵黄を使用するが,この卵黄は乳化剤の作用をなす。・・・(略)・・・」(摘示(刊1-13))と記載されているように乳化剤として添加されているものである。

ところで,卵黄に含まれるレシチンは,技術常識として引用する特開平6-192609号公報の段落【0007】に「レシチンは卵黄中に10%程度含まれている」と記載されているよう,約10%含まれていることが技術常識となっており,レシチンが乳化剤であることも技術常識である。
そうすると,引用発明の「水中油型エマルジョン」に乳化剤として添加されている「卵黄2?10重量%」は,上記技術常識を加味すると,0.2?1%のレシチンに相当するということができる。

以上の事項を総合すると,引用発明の「水中油型エマルジョン」に含まれる成分と,本願発明の「クラスタマメガム,イナゴマメガム,キサンタンガム,アラビアガム,麦芽デキストリン,セルロースガム,トウモロコシシロップ固形物,デキストリン類,モノ-グリセリド,ジ-グリセリド,およびレシチンから成る群から選択された少なくとも一種のテキスチャー成分0.1-60%(重量/重量)」とは,レシチン0.2?1%と何らかのテキスチャー成分を含むという点で共通する。

3 ゲル化剤について
本願明細書によれば,「ゲル化」及び「ゲル化剤」を,次のように定義している。
「【0020】
(ゲル化)
本発明の生成物は,常温で生成物の一部もしくはすべてのゲル化を引き起こし,かつ本発明の生成物でトッピングされた食品が熱された時に,ゲル構造の溶解を可能にする食用の熱可逆的ゲル化剤を含むことができる。本発明の生成物中で使用されるゲル化剤は,生成物中で熱可逆的ゲル構造を形成することができる種々の適当な物質,例えばタンパク質,ガム,多砂糖,でんぷん類等のいずれかから選択され得る。」
「【0022】
(ゲル化剤)
本明細書中において,用語「ゲル化剤」は本明細書中に記載された固体または半固体状マトリックスを形成する成分を意味する。ゲル化剤は水と相互作用する単独成分であってよく,複数の成分から構成されてもよいが,それら自体水とゲルを形成する必要は必ずしもないが,組合せ使用した時にゲル化するものであってよい。本明細書中のゲル化剤のレベルは,少なくとも部分的に水和した,および部分的に官能性であってもよいと理解する。」

以上のことから,本願発明の「ゲル化剤」とは「常温で生成物の一部もしくはすべてのゲル化を引き起こし,かつ本発明の生成物でトッピングされた食品が熱された時に,ゲル構造の溶解を可能にする食用の熱可逆的ゲル化剤」を含むものと理解される。

他方,引用発明の「固形ソース」には,「室温まで冷却することで固化」する性質を有する「該水中油型エマルジョン」が含有されており,その成分に「ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上」が「0.2?10重量%」含まれるものである。
摘示(刊1-9)に「このゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムはソースを常温で固形状にするためである。」と記載されているように,ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムは,常温で固形状にするために添加されており,固形になる作用がゲル化作用に由来することは技術常識であるから,ゲル化剤としてこれらの成分が添加されていると理解される。
そうすると,引用発明の「ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上を選んだ」ものと,本願発明の「でんぷん,ペクチン,アルギニン,カラギーナンおよびそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも一種のゲル化剤3-20%(重量/重量)」とは,ゲル化剤である点で共通する。
しかし,両発明はゲル化剤を含む点で共通するものの,成分が異なるから,含まれるゲル化剤の含有量については対比することができない。

4 部分水素添加大豆油について
引用発明の「該固形ソース」は,水中油型エマルジョンを含むものであって,その成分に「油脂」を「油相」として含むものである。
よって,引用発明の当該「油脂」と本願発明の「部分水素添加大豆油10-30%(重量/重量)」とは,油脂を含む点で共通する。

5 水20-65(重量/重量)について
引用発明の「水40?75重量%」と,本願発明の「水20-65(重量/重量)」とは,水を含む点で一致する。

6 任意に調理された食品の提供可能部分を提供する段階
本願発明の実施例として提示されている段落【0040】の「(例2:バーべーキュー)」でいえば,本願発明の「任意に調理された食品の提供可能部分」とは,焼き網に載せられた肉や野菜であると解される。
また,本願発明の「食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分」とは,「常温で自立する固体であり,および該生成物を昇温する場合に液状化または軟化する」性質を有するものであり,バーべーキューソースに相当するものであると解される。
そして,本願発明の「任意に調理された食品」とは,本願明細書に
「【0038】(化合物の使用)
本発明の別の面は,提供のための風味をつけた食品および/またはテキスチャーをつけた食品の調製方法を包含する。本発明の方法は:(a)任意に調理された食品の提供可能部分の供給段階,(b)提供可能部分,例えば,上記の自立可能食品生成物の円板またはキューブを食品から除去する段階,(c)提供可能食品部分を提供可能食品アイテム部分と接触して,通常は食品アイテムの上部に生成物を配置した風味および/またはテキスチャーをつけた食品組合せを形成する段階,および(d)例えば電子レンジ中で,前記風味および/またはテキスチャーを付けた食品アイテム組合せ体を加熱してサービス用の食品アイテムを形成する段階,を含む。・・・(略)・・・
【0039】
段階(a)の食品部分が調理するのに十分な熱を保持する場合には段階(d)は必ずしも必要ではない。・・・(略)・・・」
と記載されているから,熱を保持するような調理手法が施されたものを少なくとも含む,任意の調理手法により調理された食品と理解される。

他方,引用発明の「食材」は,「固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶして」使われるものであって,当然何らかの手段により提供されているものであるが,該食材が任意の調理手法により調理されたものかは不明である。
したがって,引用発明の「食材」を提供する段階と,本願発明の「任意に調理された食品の提供可能部分を提供する段階」とは,食品の提供可能部分を提供する段階という点で共通する。

7 食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分及び提供する段階について
本願請求項2に「食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分が円盤状もしくはキューブ状である請求項1記載の方法。」と記載されているから,本願発明の「提供可能部分」とは,非提供可能部分又は非食用物質を分離することで,残った円盤状もしくはキューブ状のものを包含する。

他方,上記「1 香味料成分について」及び「2 テキスチャー成分について」で述べたように,引用発明の「固形ソース」は,具体的な成分及び含有量において相違するものの香味料成分とテキスチャー成分を含むから,本願発明の「食品香味料およびテキスチャー生成物」ということができる。
そして,引用発明の「固形ソース」は,「成形型である鋳型2により,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状に成形されたもの」であり,鋳型2という非提供可能部分から,分離された円柱状又は立方体状となった提供可能部分である固形ソースが取り出されることで,固形ソースが提供されていることが理解される。

そうすると,上記香味料成分及びテキスチャー成分の種類及び含有量の相違を除けば,引用発明の「固形ソース」を「成形型である鋳型2により,円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状に成形」する段階は,本願発明の「食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分及び提供する段階」に相当する。

8 上記の提供可能な食品香味料およびテキスチャー生成物部分と提供可能食品部分とを接触して風味およびテキスチャーをつけた食品の提供可能部分を形成する段階について
引用発明の「固形ソース」が,香味料成分の種類及びテキスチャー成分の種類並びにそれぞれの含有量において相違することを除き,本願発明の「上記の提供可能な食品香味料およびテキスチャー生成物部分」に相当することは,上記「7」で述べたとおりである。
そして,引用発明の「食品」が,調理されたものであるか規定が無く,「提供可能食品部分」と相違することについては,上記「6 任意に調理された食品の提供可能部分を提供する段階」で述べたとおりである。
それらの相違を除けば,引用発明の「該固形ソースを食材で包」む,「固形ソースを食材の上にのせ」る,「固形ソースを食材の間に挾」む,又は,「食材と固形ソースを組合せ衣をまぶ」す段階は,固形ソースと食材とを接触することを意味するものであって,それにより,固形ソースの有する風味と「そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になり,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性」,すなわち,そのような食感を生じるテキスチャーを「食材」に付与することに他ならないから,本願発明の「上記の提供可能な食品香味料およびテキスチャー生成物部分と提供可能食品部分とを接触して風味およびテキスチャーをつけた食品の提供可能部分を形成する段階」に相当する。

9 該食品香味料およびテキスチャー生成物は,常温で自立する固体であり,および該生成物を昇温する場合に液状化または軟化することについて
香味料成分の種類及びテキスチャー成分の種類並びにそれぞれの含有量の上記相違を除けば,引用発明の「固形ソース」は,「常温固体,すなわち約30℃以下の加熱しない状態で固体を呈するものであり」,「円柱状,立方体状,直方体状,球状,半球状,釣鐘状など種々の形状に成形されたもの」であるから,本願発明の「該食品香味料およびテキスチャー生成物は,常温で自立する固体」であるという特性において相違はない。
また,引用発明の「固形ソース」は,「約35℃以上の加熱によってペースト状のソースになり,そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になり,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性を有」するものであるから,本願発明の「該食品香味料およびテキスチャー生成物は」,「該生成物を昇温する場合に液状化または軟化する」との特性において相違がない。

10 風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する方法について
引用発明の「固形ソース」が,香味料成分の種類及びテキスチャー成分の種類並びにそれぞれの含有量において上記したように相違することを除けば,引用発明の「固形ソースを食材で包んで,或は固形ソースを食材の上にのせて,或は固形ソースを食材の間に挾んで,或は食材と固形ソースを組合せ衣をまぶ」すことは,それにより,「食材」に対して「固形ソース」の有する「香味料成分」に起因する風味が付けられ,「テキスチャー成分」に起因するテキスチャーが付けられたことになるから,本願発明の「風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する」に相当することは明白である。

11 小括
以上の事項を総合すると,両発明は,次の(一致点)並びに(相違点1)?(相違点4)を有する。

(一致点)
「食品の提供可能部分を提供する段階,
食品香味料およびテキスチャー生成物の提供可能部分を提供する段階,および
上記の提供可能な食品香味料およびテキスチャー生成物部分と提供可能食品部分とを接触して風味およびテキスチャーをつけた食品の提供可能部分を形成する段階,
を含む提供するための風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する方法であって,
該食品香味料テキスチャー生成物が,
円柱,円盤,薄片,キューブまたは細い断片状を有する,食品香味料およびテキスチャー生成物であって,該食品香味料およびテキスチャー生成物が:
油脂,
ゲル化剤,および
香味料成分,
レシチン0.2?1%と何らかのテキスチャー成分,
および 水
を含有し,そして,
該食品香味料およびテキスチャー生成物は,常温で自立する固体であり,および該生成物を昇温する場合に液状化または軟化する,
風味およびテキスチャーをつけた食品を調製する方法。」

(相違点1)
油脂及びその含有量が,本願発明では「部分水素添加大豆油10-30%(重量/重量)」であるのに対して,引用発明では「油脂5?40重量%」である点。

(相違点2)
ゲル化剤及びその含有量が,本願発明では「でんぷん,ペクチン,アルギニン,カラギーナンおよびそれらの混合物から成る群から選択された少なくとも一種のゲル化剤3-20%(重量/重量)」であるのに対して,引用発明では「ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムの1種又は2種以上0.2?10重量%」である点。

(相違点3)
香味料成分及びその含有量が,本願発明では「ココア,ココアバター,チョコレートリカー,および酵素変性チーズから成る群から選択された少なくとも一種の香味料成分0.1-60%(重量/重量)」であるのに対して,引用発明では,「香辛料,調味料」を含むことができる点。

(相違点4)
レシチン0.1?1%とテキスチャー成分が,本願発明では「クラスタマメガム,イナゴマメガム,キサンタンガム,アラビアガム,麦芽デキストリン,セルロースガム,トウモロコシシロップ固形物,デキストリン類,モノ-グリセリド,ジ-グリセリド,およびレシチンから成る群から選択された少なくとも一種のテキスチャー成分0.1-60%(重量/重量)」であるのに対して,引用発明では,水中油型エマルジョンにテキスチャーに影響する成分が含まれているものの,そこに含まれる成分は,テキスチャー成分という認識の下で加えられたものでないし,その含有量も特定事項にない。また,引用発明では,水中油型エマルジョンに乳化剤として「卵黄2?10重量%」が加えられており,0.2?1%のレシチンに相当するが,これもまた,乳化剤として添加されているのであって,テキスチャー成分として添加されたものでない点。

(相違点5)
水が,本願発明では「20-65(重量/重量)」含まれるのに対して,引用発明では「40?75重量%」である点。

(相違点6)
食品の提供可能部分が,本願発明では「任意に調理された」ものであるのに対して,引用発明では,調理について特段規定されていない点。

第7 検討・判断
上記相違点について検討する。
1 相違点1について
刊行物1の摘示(刊1-4)に「本発明の固形ソースは,油脂を水中に乳化させた水中油型エマルジョンである。本発明で用いる油脂としては,大豆油,ナタネ油,・・・(略)・・・からし油等の動植物性油脂及びそれらの硬化油又は分別油,エステル交換油など適宜に使用することができ,また,固体脂と液体油などと混合した配合油も使用できる。」と記載されており,大豆油の硬化油,すなわち,水素添加大豆油が記載されている。
そして,刊行物1の実施例においても摘示(刊1-7)に「ナタネサラダ油と大豆硬化油(MP36℃)を75:25で混合した配合油25%〔炭素数20?24の長鎖脂肪酸含量=(18.75×0.036)+(6.25×0.01)=0.738%〕にワキシーコーン澱粉2%を添加分散した45℃の油相を調製した。・・・鋳型から取り出して具入り固形ソースを得た。」と記載のように,大豆硬化油,すなわち,水素添加大豆油が使用されている。
そうすると,引用発明1において,「油脂」として,大豆硬化油,すなわち,水素添加大豆油を入れることは当業者が容易になし得たことといえる。
また,水素添加の度合いにより,油脂の融点が変化することは例示するまでもなく本願優先権主張日前からの技術常識である。刊行物1の摘示(刊1-4)に「固化したソースの固さを大きくするには硬化油又は固形脂を使用するのが好ましい。」と記載され,固さを大きくする手段として硬化が述べられている。したがって,引用発明において,「油脂」として,「固形ソース」を望ましい固さとすべく,部分,すなわち適度に水素添加された大豆油を選び,同じく望ましい固さとすべくその添加量を10-30%として,本願発明のごとく構成することは,当業者が容易に発明できたといえる。

2 相違点2について
引用発明の「ゼラチン,寒天,グルコマンナン及びジェランガムから選ばれた1種又は2種以上」のものは,刊行物1の摘示(刊1-9)に「このゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムはソースを常温で固形状にするためである。」と記載されていることから,これらの成分は,常温で固形状にするために添加されていることが理解される。
そして,刊行物1には,上記「このゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガムはソースを常温で固形状にするためである。」との他に,これらの成分を選んだ理由は特段記載されていないから,ソースを常温で固形状にする他の成分に代替え可能であることは,当業者であれば誰しも気付くことである。本願発明の「でんぷん」,「ペクチン」,及び,「カラギーナン」が常温で固形状となる成分であることは,例えば,下記刊行物Aに記載のように,本願優先権主張日前から周知であるし,「でんぷん」,「ペクチン」,及び,「カラギーナン」が常温で固化をもたらす作用は,ゲル化によることは技術常識である。
そうすると,引用発明において,「ゼラチン,寒天,グルコマンナン,ジェランガム」に代えて,常温で固形状にする作用を有する,本願優先権主張日前から周知の「でんぷん」,「ペクチン」,及び,「カラギーナン」から選ばれる少なくとも一つの成分を,ゲル化剤として選ぶことは,当業者が適宜なし得たことであって,その添加量を「3-20%(重量/重量)」とすることは,「常温で固形状」とする固まり方の程度を考慮しつつ当業者が適宜決め得る単なる設計的事項に過ぎない。

刊行物A:特開2001-46028
「【0029】尚,常温下でゲル状のマヨネーズを固形若しくは半固形化する凝固剤としては,上述のゼラチン以外に,カラギーナンやタマリンドシードガム,ペクチン,寒天,澱粉等を単体若しくは適宜混ぜ合わせて用いてもよく,さらにこれら凝固剤の濃度を変えて用いることにより,マヨネーズの固さ具合を調整できる。」

3 相違点3について
ココア,ココアバター,チョコレートリカー,および酵素変性チーズは,本願優先権主張日前から知られた周知のソースの香味料成分である。
例えば,特開平9-201165号公報の段落【0019】に「そのソース液に用いるソース生地としては,果汁,ココアパウダー,牛乳・・・(略)・・・を例示できる。」と記載され,特開平10-108652号公報の段落【0008】に,「チーズソース用には,広範囲のチーズ,例えば,チェダーチーズを含有する高い香りのチーズブレンド,酵素改質チーズ,顆粒状チーズ・・・(略)・・・を用いることができる。」と記載されている。

また,引用発明の「固形ソース」は,摘示(刊1-11)に「本発明は,タコ焼き,シューマイ,中華まんじゅう,調理パン,おにぎりなどの内部に具材と共に,或は具材として配置させるための固形ソースに関する。」と記載されているように,調理パンへの適用ができる固体ソースである。
そして,刊行物1には,摘示(刊1-12)に「カスタードクリーム」がソースとして記載されている。
調理パンにおいて,ココアを入れたカスタードクリームは,例えば,特開平4-304847号公報に「【0002】【従来の技術】従来,菓子類またはパン類のフィリング材として,あん類が古くから多用されている。・・・(略)・・・また,洋菓子用のフィリング材として,小麦粉に乳製品,卵,ココア,ナッツ類などを加えて糖類と共に蒸煮混練して製造するフラワーペーストやカスタードクリームなどがある。」と記載されているように,本願優先権主張日前から周知であった。

そうすると,引用発明の「香辛料」「調味料」として,本願優先権主張日前から周知のココア,ココアバター,チョコレートリカー,および酵素変性チーズから成る群から選択された少なくとも一種を選ぶことは,ソースの種類に応じて当業者が適宜選び得たことといえ,その添加量を「0.1-60%(重量/重量)」とする程度のことは,好みに応じて当業者が適宜決め得る単なる設計的事項に過ぎないものである。

4 相違点4について
前記「第6 2テキスチャー成分について」で言及したように、引用発明の「水中油型エマルジョン」は,室温まで冷却することで固化する作用を有するもので,「そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になり,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性」に寄与をしている。それに含まれる「卵黄」は,水中油型エマルジョンのトロッとしたペースト状となる物性をもたらすのに欠かせぬ乳化作用を担う(乳化作用がないと、成分が分離してしまう。)ものである。

他方,本願明細書の段落【0035】には「本発明の生成物は,すべての成分と組合せるため,およびエマルジョンの安定化のために攪拌を必要とする。これは低ホット粘度を持つ生成物にとって特に重要である。広範囲にわたる通常の攪拌装置を使用することができる。すべてのタイプの配合に最も適した処理は,LIKWIFIER製のバッチ処理攪拌機のような高剪断混合装置により与えられる。処理温度で低?中程度の粘度を持つ配合はコロイド粉砕機を連続的またはバッチ操作で使用して加工する。バルブホモジナイザー(所望のエマルジョンに達するのに十分な圧力を持つ)は希薄配合に使用され得る。香辛料または他の微粒子を持つ生成物の剪断量や攪拌量は高剪断力でそれらの成分を劣化する可能性があるため,注意して制御すべきである。」と記載されているように,本願発明の「食品香味料およびテキスチャー生成物」は,すべての成分が攪拌され,エマルジョンとなっているものと理解される。
そうすると,本願発明の「テキスチャー成分」の一つとして挙げられた「レシチン」をテキスチャー成分として選んだ場合,レシチンが乳化剤であることは技術常識であるから,その作用によりエマルジョンとなってテキスチャーに寄与していると理解される。

そうであるなら,引用発明の「卵黄」もエマルジョンとなって,前記した「そのまま口に入れて咀嚼する間にペースト状になり,また,蒸したり,焼いたりするなどの加熱によってトロッとしたペースト状に変化する特性」に寄与するものであるからテキスチャー成分ということができる。卵黄中の主たる乳化作用物質は,レシチンであって,上記「第6 2 テキスチャー成分について」で言及したように,レシチンは卵黄中に10%程度含まれていることが技術常識となっているから,引用発明の「卵黄2?10重量%」,に含まれるレシチンは,「0.2?1重量%」と換算でき,本願発明の「・・・(略)・・・レシチンから成る群から選択された少なくとも一種のテキスチャー成分0.1-60%(重量/重量)」とする特定事項と一致し,実質的に相違点とはいえない。

仮に,相違点であるとしても,テキスチャー成分として本願発明の「クラスタマメガム,イナゴマメガム,キサンタンガム,アラビアガム」及び「セルロースガム」のガム類,「麦芽デキストリン」及び「デキストリン類」などのデキストリン類,「モノ-グリセリド,ジ-グリセリド」などのグリセリド並びに「レシチン」のいずれかを用いることは下記刊行物B?Eに記載のように本願優先権主張日前から周知の事項であって,引用発明は「口に入れて咀嚼する間にペースト状になる」食べ方も規定されているのであるから,食品において重要な要素であるテキスチャーを改善すべく,引用発明において,これら周知のテキスチャー成分を適当量配合することで,相違点4記載の本願発明の特定事項のごとく構成することは当業者が容易になし得たことといえる。

刊行物B:特開平11-243877
「【0010】ゲル状又はペースト状とするための安定剤としては,冷水可溶又は比較的低温で溶解するものであれば使用可能であり,ペクチン,アルギン酸ナトリウム,ジェランガム,カラギーナン,グアガム,キサンタンガム,ローカストビーンガム,α化澱粉等が使用可能であり,前記の如く目的とするテクスチャーを得るために従来からこの分野で使用されている各種安定剤の1種又は2種以上を選択して適宜使用することができる。」

刊行物C:国際公開第01/028673号
(なお,翻訳は対応出願の公表特許公報である特表2003-512152号公報の段落【0014】に基づくものである。摘記箇所は,国際公開された明細書の頁及び行を示す。)
「ガラクトマンナンは,マメ科植物の種子から抽出される非イオン性多糖類であり,該植物はそれらから貯蔵用炭水化物を構成するが,特に,それらの粘度上昇特性,増粘特性,安定化特性,水保持特性及び皮膜形成特性のために,特に公知であり,テキスチャリング剤として用いられている。これらの挙げうるものの内で,最も広く用いられているのは,グアーガム,イナゴマメガム及びタラガムである。」(2頁26?31行)

刊行物C:特表2000-503549号公報
「また,適当なテクスチャーを達成するために,乳化剤も本発明のナッツスプレッドに使用することができる。乳化剤は,モノ-およびジ-グリセリド,レシチン,スクロースモノエステル,ポリグリセロールエステル,ソルビタンエステル,ポリエトキシル化グリコールおよびそれらの混合物などの食品適合性乳化剤であればいずれでもよい。約5%まで,好ましくは約0.1?約3%まで乳化剤を使用する。」(15頁2?7行)

刊行物E:特開平11-9266号公報
「【要約】
【課題】 デキストランを産生する菌株,デキストランの製造法,デキストランの生合成に関与する酵素を含む添加剤の製造法,およびこのデキストラン,酵素および/またはこのデキストランおよび酵素を産生する菌株の,食料品または化粧組成物の製造における使用。」
「【0021】他の特徴
顕著なテクスチャリング特性を有する多糖類であるデキストランを合成する菌株。」

5 相違点5について
水の量は,ソースの味に影響を与えていることは誰しも知るところであって,引用発明において,固形ソースを仕上げる際に,水の量を20-65(重量/重量)とする程度のことは,好みに応じて当業者が適宜決め得る単なる設計的事項である。

6 相違点6について
刊行物1には,「この固形ソースをシューマイに乗せ,蒸したところ,ソースがトロットしたエビシューマイが得られた」(摘示(刊1-7))ことが記載されており,シューマイという形状に調理され,その後,固形ソースが乗せられた食材が提供されていることが分かる。
そうすると,引用発明の「食材」には,シューマイ等の調理された食材が包含されるものであって,引用発明の「食材」を提供する段階として,調理を施した食材を選ぶことで,本願発明のごとく「任意に調理された食品の提供可能部分を提供する段階」とする程度のことは,当業者が何の創意工夫もなくなし得たことといえる。

7 本願発明の効果について
本願発明の効果は,刊行物1及び周知の技術的事項から当業者が予測し得るものであって,格別顕著なものとはいえない。

第8 結語
以上のとおり,本願発明は,本願優先権主張日前に頒布された上記刊行物1に記載された発明及び本願優先権主張日前から周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-19 
出願番号 特願2003-520308(P2003-520308)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山本 匡子  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 関 美祝
小川 慶子
発明の名称 粘度制御された食品香味システム  
代理人 山本 宗雄  
代理人 後藤 裕子  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  

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