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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C08F |
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管理番号 | 1277370 |
審判番号 | 不服2010-26721 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2010-11-26 |
確定日 | 2013-07-31 |
事件の表示 | 特願2003-573038「ジアシルパーオキサイドを含む重合化方法」拒絶査定不服審判事件〔平成15年 9月12日国際公開、WO2003/74573、平成17年 6月30日国内公表、特表2005-519154〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成15年2月20日(パリ条約による優先権主張 2002年3月1日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、平成18年2月15日付けで手続補正書が提出され、平成21年1月31日付けで拒絶理由が通知され、同年6月8日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成22年7月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月26日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正書が提出され、同年12月17日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され、平成23年5月31日付けで前置報告がなされ、当審において平成24年5月15日付けで審尋がなされ、同年11月14日に回答書が提出されたものである。 第2.平成22年11月26日付けの手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成22年11月26日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.補正の内容 平成22年11月26日付けの手続補正書による補正(以下、「本件補正」という。)の内容は、平成21年6月8日提出の手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲について、 「【請求項1】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところの任意の金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含む方法。 【請求項2】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところの任意の金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方がアルキル基であるならば、これらのアルキル基のそれぞれは6までの炭素原子を有する、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含む方法。 【請求項3】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところの任意の金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表す、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含む方法。 【請求項4】 過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に重合化工程において使用されるところの、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 ジアシルパーオキサイドが本方法において5℃までの温度において貯蔵され取り扱われるところの、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。 【請求項6】 M及びH_(2)O_(2)の源からMOOH/M_(2)O_(2)を製造し、そして過酸化工程を行うために全く同じ反応器が使用されるところの、請求項1?5のいずれか1項に記載の方法。 【請求項7】 エチレン性不飽和モノマーの重量に基づいて、0.005?2重量%のジアシルパーオキサイドが重合化工程において使用されるところの、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 該エチレン性不飽和モノマーが塩化ビニルモノマーを含むところの、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 ハロゲン化ラウロイル、ハロゲン化イソブタノイル、ハロゲン化2-エチルブタノイル、ハロゲン化2-エチルヘキサノイル、ハロゲン化2-クロロプロパノイル、シクロヘキサンカルボニルハライド、3-メチルシクロヘキサンカルボニルハライド、及び2,3-ジハロシクロヘキサンカルボニルハライドからなる群から選択される少なくとも1の酸ハロゲン化物が使用されるところの、請求項1?8のいずれか1項に記載の方法。 【請求項10】 少なくとも1の得られるジアシルパーオキサイドが非対称であるところの、請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 過酸が過酸化工程において使用されるところの、請求項10に記載の方法。 【請求項12】 全工程がジアシルパーオキサイドの重量に基づいて0?20重量%未満の溶剤の存在下で行なわれるところの、請求項1?11のいずれか1項に記載の方法。 【請求項13】 ジアシルパーオキサイドが、反応温度において重合化反応混合物に添加されるところの、請求項1?12のいずれか1項に記載の方法。」 を 「【請求項1】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化1】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 【化2】 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化3】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含み、 ここで、過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される、 方法。 【請求項2】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化4】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 【化5】 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化6】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方がアルキル基であるならば、これらのアルキル基のそれぞれは6までの炭素原子を有する、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して有機遊離基を生成して、前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含み、 ここで、過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される、 方法。 【請求項3】 以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化7】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 【化8】 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化9】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表す、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して有機遊離基を生成して、前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含み、 ここで、過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される、 方法。 【請求項4】 ジアシルパーオキサイドが本方法において5℃までの温度において貯蔵され取り扱われるところの、請求項1?3のいずれか1項に記載の方法。 【請求項5】 M及びH_(2)O_(2)の源からMOOH/M_(2)O_(2)を製造し、そして過酸化工程を行うために全く同じ反応器が使用されるところの、請求項1?4のいずれか1項に記載の方法。 【請求項6】 エチレン性不飽和モノマーの重量に基づいて、0.005?2重量%のジアシルパーオキサイドが重合化工程において使用されるところの、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項7】 ハロゲン化ラウロイル、ハロゲン化イソブタノイル、ハロゲン化2-エチルブタノイル、ハロゲン化2-エチルヘキサノイル、ハロゲン化2-クロロプロパノイル、シクロヘキサンカルボニルハライド、3-メチルシクロヘキサンカルボニルハライド、及び2,3-ジハロシクロヘキサンカルボニルハライドからなる群から選択される少なくとも1の酸ハロゲン化物が使用されるところの、請求項1?6のいずれか1項に記載の方法。 【請求項8】 少なくとも1の得られるジアシルパーオキサイドが非対称であるところの、請求項1?7のいずれか1項に記載の方法。 【請求項9】 過酸が過酸化工程において使用されるところの、請求項8に記載の方法。 【請求項10】 全工程がジアシルパーオキサイドの重量に基づいて0?20重量%未満の溶剤の存在下で行なわれるところの、請求項1?9のいずれか1項に記載の方法。 【請求項11】 ジアシルパーオキサイドが、反応温度において重合化反応混合物に添加されるところの、請求項1?10のいずれか1項に記載の方法。」 とする補正であり、補正後の請求項1についてみると、補正前の請求項1の「Mは・・・任意の金属又はアンモニウム含有基」との規定を「Mは・・・ナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基」とする補正事項(以下、「補正事項1」という。)、補正前の請求項1の「1以上のエチレン性不飽和モノマー・・・を前記重合化反応器中で重合化させる工程」を「塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマー・・・を前記重合化反応器中で重合化させる工程」とする補正事項(以下、「補正事項2」という。)、及び、補正前の請求項1に「過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される」を追加する補正事項(以下、「補正事項3」という。)を含むものである。 2.新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について 本願は特許法第184条の3第1項の規定により特許出願とみなされた国際出願(外国語特許出願)に係るものであるから、同法第17条の2第3項の規定は同法第184条の12第2項の規定により読み替えて適用される。 そうすると、本願において、同法第17条の2第3項の規定により補正ができる範囲は、国際出願日における国際特許出願の明細書又は特許請求の範囲の翻訳文若しくは条約第34条(2)(b)の規定に基づく補正に係る補正書の翻訳文による補正後の特許請求の範囲(以下、「出願当初翻訳文」という。)に記載した事項の範囲内ということになる。 以下、上記を踏まえて検討する。 補正事項1?3は、出願当初翻訳文の記載からみて、出願当初翻訳文に記載した事項の範囲内においてする補正であり、特許請求の範囲の減縮(いわゆる、請求項の限定的減縮)を目的とするものである。 そうすると、前記補正事項1乃至3は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第3項の規定に適合するものであり、前記補正事項1及び3は、同法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。 3.独立特許要件について 上記補正事項1乃至3は、上記のとおり、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる事項を目的とするものであるから、同法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する補正であるか否か(いわゆる、独立特許要件の有無)について、以下に検討する。 3-1.本件補正後の請求項1に係る発明 本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正発明1」という。)は、平成22年11月26日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められ、補正発明1は以下のとおりである。 「以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化1】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 【化2】 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化3】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含み、 ここで、過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される、 方法。」 3-2.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明 (1)刊行物の記載事項 本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平11-511464号公報(以下、「引用文献」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、引用文献は、平成21年1月31日付け拒絶理由通知で引用された引用文献等1である。 ア.「1.水性水酸化物および過酸化物をハロゲン化アシルと接触させる段階を含んでなる、移送管と連結されている反応容器の中で反応が起きるアシル過酸化物の連続的な製造方法における、反応時間を1分以内に短縮するために特定の反応容器構造を激しい撹拌を与える手段と組み合わせることからなる改良法。 7.過酸化物が過酸化水素、アルキルヒドロペルオキシドおよび金属過酸化物よりなる群から選択される請求の範囲第1項記載の方法。 8.過酸化物がH_(2)O_(2)およびt-BuOOHよりなる群から選択される請求の範囲第7項記載の方法。 14.水性水酸化物が水中で0.1モルより多い請求の範囲第1項記載の方法。 15.水性水酸化物が1?5モルである請求の範囲第14項記載の方法。 16.水性水酸化物が金属またはテトラアルキルアンモニウム水酸化物から選択される請求の範囲第14項記載の方法。 17.水性水酸化物がKOH、LiOH、NaOH、CsOHおよびR′_(4)N+OH-(ここでR′はCH_(3)、C_(2)H_(5)-である)よりなる群から選択される請求の範囲第16項記載の方法。 44.請求の範囲第1項または請求の範囲第25項の方法の生成物。 45.水中分散液状の請求の範囲第44項記載の生成物。」(特許請求の範囲の請求項1、7、8、14?17、44、45) イ.「 発明の分野 本発明はヒドロカーボン、フルオロカーボンおよびクロロカーボンアシル過酸化物のほぼ瞬間的な製造方法に関する。この方法は簡単な装置を使用しそして熱安定性の最も小さい過酸化物にとって特に安全なものである。アシル過酸化物はビニル重合のための開始剤としてそして有機合成において有用である。」(公報9頁3行?7行) ウ.「例えば実施例23で実施されるような反応は過酸化物の予期せぬほど安定な水性分散液を生ずる。そのような分散液は、重合用の開始剤として直ちに使用される場合には、コーテイング用途で使用できる重合体の水性分散液を生ずることができる。」(公報 12頁7行?10行) エ.「 定義 下記の頭文字および商品名が実験の記述部分で使用される。 HFPOCOF、HFPO二量体酸弗化物:CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))COF HFPOdP、HFPO二量体過酸化物:[CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))(C=O)O]_(-2 ) ・・・ IBP、過酸化イソブチリル、[(CH_(3))_(2)CH(C=O)O]_(-2) EtHDC、ペルオキシニ炭酸ビス-(2-エチルヘキシル) [CH_(3)CH_(2)CH_(2)CH_(2)CH(C_(2)H_(5))CH_(2)O(C=O)O]_(-2)」(公報18頁17行?19頁2行) オ.「 実施例23 水性分散液状でのHFPOdPの超音波バッチ製造 ビーカーに1.78gの85%KOHペレット(27ミリモル)、0.1gのペルフルオロオクタン酸アンモニウム、および60mlの水を充填した。溶解が完了した時に、混合物を氷上で冷却しそして1.4mlの30%過酸化水素(14ミリモル)および次に5.0mlのHFPO二量体酸弗化物(23.8ミリモル)を加えた。40Khz、150ワットデュカン(Dukane)超音波動力源に連結された超音波ホーンを最大動力の100%で始動させそして反応混合物中に下げた。30秒後に、超音波ホーンへの動力を切りそして白色分散液を氷上で冷却しながら1分間の熟成期間にわたり静かに撹拌した。5mlのフレオン(Freon)^(R)113層を反応混合物に加えた。^(*) 反応混合物を次に分離漏斗に移しそして激しく振盪してHFPOdPのフレオン(Freon)^(R)113層への移送を完了させた。50mlの5%水性NaHCO_(3)で2回洗浄した後に、有機層は50mlの合計容量を有しておりそしてヨウ素還元滴定により出発HFPOCOFを基にした63%収率のHFPOdPを与えそして出発H_(2)O_(2)を基にすると53%を占めた。最初の水層に戻ると、その容量は60mlであることが見いだし、そしてヨウ素還元滴定はそれが過酸化物中0.110Mであることが見いだされ、出発H_(2)O_(2)の残りが47%を占めた。水相中の過酸化物は未反応の過酸化水素、ペルオキシ酸ナトリウム塩CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))(C=O)OO-Na^(+)、またはこれら2種の混合物のいずれかのようである。実際に同様な実験では、硫酸による水相の酸性化およびその後のフレオン(Freon)^(R)113を用いる抽出は過酸CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF_(3))(C=O)OOHであると推定される9%収率の過酸化物を与えた。動力水準、熟成時間、および界面活性剤濃度の影響を追跡したこの実施例23並びに実施例24-40の結果は以下にまとめられてある。」(公報35頁11行?36頁7行) カ.「 水性HFPOdPを用いるTFE重合の開始 1gのペルフルオロオクタン酸アンモニウムおよび100mlの水が充填された500ml重合ケトルを氷上で予備冷却した。 以上の実施例40で、分散液の5mlサンプルを超音波処理期間中に30秒間にわたり採取した。この分散液サンプルを直ちに重合体ケトルに加えた。ケトルを密封し、アルゴン加圧および真空化を繰り返し、そして次に?33gのテトラフルオロエチレンを含有する1リットルシリンダーからのテトラフルオロエチレンで67psiまで充填した。この混合物を37-41℃に加熱した。2?3時間後に、重合体状生成物を濾過により回収し、1:1メタノール:水で3回洗浄し、そして真空下で乾燥して11テトラえ8gのポリ(テトラフルオロエチレン)を与えた。」(公報38頁3行?11行) キ.「 実施例49 ヘキサン中のIBPの超音波バッチ製造 A.塩基としての水酸化テトラブチルアンモニウムの使用:冷却しそして撹拌しながら、ビーカーに27.8mlの40%水性水酸化テトラ-n-ブチルアンモニウム(40ミリモル)、4.1mlの30%過酸化水素(40ミリモル)、および100mlのヘキサンを充填した。3.15mlの塩化イソブチリル(30ミリモル)を加えた後に、混合物を最大動力で30秒間にわたり40Khz、150ワットデュカン(Dukane)動力源に連結された超音波ホーンを使用して超音波処理した。有機層を分離しそして50mlの5%水性NaHCO_(3)で2回洗浄して95mlの有機相を与え、それはヨウ素還元滴定により出発塩化イソブチリルを基にした47%の合計収率の0.074M過酸化物であることが見いだされた。 B.塩基としての水酸化カリウムの使用:ビーカー中で氷浴冷却しながら、3.96gの85%KOH(60ミリモル)を6.13mlの30%過酸化水素(60ミリモル)中に溶解させる。90mlのヘキサンおよび3.15mlの塩化イソブチリル(30ミリモル)を加える。40Khz、150ワットデュカン(Dukane)動力源に連結された超音波ホーンを最大動力の?75%で始動させそして反応混合物中に下げた。1分後に、超音波処理を停止した。有機層を直ちに分離しそして50mlの5%水性NaHCO_(3)で2回洗浄し、そしてヨウ素還元滴定により出発塩化イソブチリルを基にした29%の合計収率の0.049M IBPであることが見いだされた。」(公報46頁3行?24行) (2)引用文献に記載された発明の認定 引用文献の上記摘示アの改良されたアシル過酸化物の連続的な製造方法で製造されるアシル過酸化物は、上記摘示イによれば、ビニル重合のための開始剤として有用であると記載されているとともに、その水中分散液として得たアシル過酸化物(HFPOdP)をビニル重合のための開始剤として使用したことが具体的に記載されている(摘示オ)から、引用文献には、 「水性水酸化物および過酸化物をハロゲン化アシルと接触させる段階を含んでなる、移送管と連結されている反応容器の中で反応が起きるアシル過酸化物の連続的な製造方法における、反応時間を1分以内に短縮するために特定の反応容器構造を激しい撹拌を与える手段と組み合わせることからなる改良法によって製造されたアシル過酸化物の水中分散液をビニル重合のための開始剤として利用するビニル重合方法」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。 3-3 補正発明1と引用発明との対比 引用発明の実施例として記載されている上記摘示キのアシル過酸化物としての「IBP」(過酸化イソブチリル。摘示エ、キを参照)を合わせてみれば、引用発明における「アシル過酸化物」は、補正発明1の「下記(I)のジアシルパーオキサイド【化3】 」を包含していることは明らかである。 そして、引用発明における「水性水酸化物」としてKOH、NaOHが例示(上記摘示ア)され、引用発明における「過酸化物」が「H_(2)O_(2)およびt-BuOOHよりなる群から選択される」(上記摘示ア)とされていること、一方、本願明細書の段落【0010】における「用語MOOH/M_(2)O_(2)は、H_(2)O_(2)及び金属(M)イオンの適切な源から形成される生成物を意味することに留意されたい。生成物は典型的には別個の生成物M_(2)O_(2)ではなく、H_(2)O_(2),MOOH及びM_(2)O_(2)を含む平衡物である。」との記載、及び、段落【0039】における「M_(2)O_(2)は好ましくは過酸化水素とNaOH、KOH、K_(2)CO_(3)、及び/又はNa_(2)CO_(3)とを混合することにより製造される。」なる記載からみて、引用発明における「水性水酸化物および過酸化物」は、補正発明1の「i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である」に相当する。 引用発明におけるハロゲン化アシルとして、摘示キには塩化イソブチリルが明記されており、かかるハロゲン化アシルが補正発明1の「酸ハロゲン化物」に相当する。 そうすると、引用発明における「水性水酸化物および過酸化物をハロゲン化アシルと接触させる段階を含んでなる、移送管と連結されている反応容器の中で反応が起きるアシル過酸化物の連続的な製造方法における、反応時間を1分以内に短縮するために特定の反応容器構造を激しい撹拌を与える手段と組み合わせることからなる改良法によって製造されたアシル過酸化物の水中分散液」は、補正発明1の「以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化1】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化3】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程」までの部分で得られている水性混合物に相当する。 また、引用発明における「ビニル重合のための開始剤として利用するビニル重合」は、「ビニル重合のための開始剤としての利用」が、エチレン性不飽和モノマーの存在下、アシル過酸化物である開始剤を熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを重合化させることを意味することはよく知られた技術事項であり、塩化ビニルはエチレン性不飽和モノマーとして典型的なモノマーの一つであるから、補正発明1の「塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程」に相当する。 ここで、補正発明1の任意的工程として記載されている事項は必須の工程に係る事項でないので、一致点であるとして、補正発明1と引用発明とを対比すると、 「以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 【化1】 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところのナトリウム、カリウム及びリチウムから成る群から選択されるいずれかの金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 【化2】 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 【化3】 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 塩化ビニルモノマーを含む1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含む、 方法。」 の点で一致し、以下の点で一応相違している。 <相違点1> 補正発明1においては、「式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程」を含みと特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。 <相違点2> 補正発明1においては、「ここで、過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される」と特定されているのに対して、引用発明においては、このような規定はない点。 3-4.判断 以下、相違点について検討する。 相違点1について 引用発明の備える「ビニル重合のための開始剤として利用」なる記載が、上記のとおりエチレン性不飽和モノマーをビニル重合化させることを意味しているものであるから、重合時に開始剤が加えられるものであり、そうであれば、引用発明が「式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程」を備えないことはありえないから、相違点1は実質的な相違点ではない。 相違点2について 引用発明のアシル過酸化物の製造における反応時間は1分以内であり(上記摘示ア)重合開始剤として利用されている例である実施例40(上記摘示カ)においては、製造されたアシル過酸化物を製造後直ちに重合体ケトルに加えている事例が記載されているから、引用発明も168時間以内を満足している態様を含んでいるといえる。 したがって、相違点2も実質的な相違点ではない。 相違点2に係る事項が引用文献に実質的に記載があるといえないにしても、過酸化物が化学的に不安定であることから、実験室等で製造されたアシル過酸化物を直ちに重合に利用することが本件優先日前に一般的に行われていたことであり、引用発明において、製造された過酸化物を有効に利用するために、製造後直ぐに重合に利用すること、いいかえれば「過酸化工程において得られるジアシルパーオキサイドが、前記過酸化工程後168時間の期間内に前記重合化工程において使用される」ことは、当業者が適宜、設定し得たことといえる。 そして、相違点2に係る効果について検討してみても、相違点2により格別な効果があるとは認められない。 よって、補正発明1は、引用文献に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。あるいは、引用文献に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 3-5.審判請求人の主張の検討 審判請求人は、審判請求書において、上記引用文献に関して以下の主張をしている。 「引用文献1(特表平11-511464号公報)には、過酸化水素水または金属化酸化物を用いたペルフルオロアシル過酸化物の製造が開示されています(例えば、公報の9?11頁)。引用文献1には、実施例40において「この分散液サンプルを直ちに重合体ケトルに加えた」との記載で、製造されたパーオキサイドを短時間のうちに重合工程へ導入する唯一の例が開示されています(公報の38頁)。ここで使用されたパーオキサイドはHFPOdP(HFPO二量体過酸化物:〔CF_(3)CF_(2)CF_(2)OCF(CF)_(3)(C=O)O〕_(2))であり、重合されたモノマーはテトラフルオロエチレンです。この実施例40に開示された方法は、少なくとも以下の3点において本願の請求項1?3に記載の方法と異なります。 1.パーオキサイドの構造:実施例40で用いられているパーオキサイドは、本願の請求項1?3の式(I)に示されるようなα位(すなわちカルボニル基に隣接する炭素原子)の水素原子を有しません。 2.重合されるモノマー:実施例40ではテトラフルオロエチレンが重合されるのに対して、本願の請求項1?3に係る発明は塩化ビニル重合方法に関するものです。 3.パーオキサイドの使用方法:実施例40ではパーオキサイドを重合工程で「直ちに」使用するとだけ記載されているのに対して、本願の請求項1?3に係る発明ではより具体的に「ジアシルパーオキサイドをその製造時から168時間以内に使用する」ことを要件にしています。 したがって、本願発明は、引用文献1に対して新規性を有します。」 そこで上記主張について検討する。 上記主張における1.及び2.については、上記実施例40において、引用文献の発明の詳細な説明におけるアシル過酸化物として利用されているHFPOdPは、引用発明のアシル過酸化物の中での特殊な部類のものということはなく、TFE重合もビニル重合の一例といえるものであり、重合工程の適用手順に技術的な特徴があるものでもないから、実施例40の記載は、引用文献の発明の詳細な説明におけるアシル過酸化物をビニル重合工程に適用する場合の適用手順の例示としての記載と把握することができるものである。 そして、引用文献に記載された発明については、その実施例に限定して解釈する必要はなく、技術思想として把握できる範囲で認定できるものであり、当審において上記の引用発明のとおり認定し、その技術思想の適用範囲を想定する指標として、具体的な実施例である実施例40の記載を上記把握のとおり参照しているだけであるから、当該アシル過酸化物及び重合モノマーについての相違は問題とはならないものである。 上記主張における3.については、ジアシルパーオキサイドを「直ちに」使用することが、「ジアシルパーオキサイドをその製造時から168時間以内に使用する」条件に包含されることは明らかである。 そうすると、審判請求人の上記主張は失当であって、採用できない。 3-6.まとめ よって、補正発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。 4.むすび 以上のとおりであるから、補正事項1乃至3を含む本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3.本願発明について 1.本願発明 平成22年11月26日付けの手続補正書による補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?13に係る発明は、平成21年6月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載されたとおりのものであり、その請求項1に記載された発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。 「以下の工程; いわゆる過酸化工程において下記式(II)の1以上の酸ハロゲン化物、 ここでXはハライドである、 を i)MOOH/M_(2)O_(2)、ここでMは、該方法において存在する1以上のパーオキサイドを分解することなくH_(2)O_(2)と反応して、MOOH/M_(2)O_(2)を生成するところの任意の金属又はアンモニウム含有基である、 及び任意的にii)下記式(III)の1以上の過酸又はそのM塩 と、水性相において反応させることにより、下記式(I)のジアシルパーオキサイド、 ここでR^(1)?R^(4)は独立して、水素、ハロゲン、及び飽和又は不飽和の、直鎖又は分岐の、任意的に1以上のハロゲン原子で置換されていてもよいアルキル、アルカリール、及びアラルキル基からなる群から選択され、ただしもしR^(1)及び/又はR^(2)が水素であるならばR^(3)及び/又はR^(4)は水素ではなく、またその逆に、もしR^(3)及び/又はR^(4)が水素であるならば、R^(1)及び/又はR^(2)は水素ではなく、該工程においてR^(1)-C-R^(2)及び/又はR^(3)-C-R^(4)は、飽和又は不飽和であり得る環構造の一部であることができ、かつ1以上の独立して選択される基R^(1)で置換されていることができる、あるいは,R^(1)-C(R^(2))H及びR^(3)-C(R^(4))Hの一方が、任意的に置換されていてもよい芳香環構造を表し、さらにただしR^(2)がハロゲンであってR^(4)が水素であり、かつR^(1)とR^(3)の両方が10?16の炭素原子を有する長鎖アルキル基であるところの式(I)のジアシルパーオキサイドは除かれる、 を含む水性混合物を製造する工程であって、該工程において酸ハロゲン化物又は酸ハロゲン化物の混合物が、MOOH/M_(2)O_(2)及び任意的に用いられうる1以上の過酸又は過酸の塩を含む水と基本的には接触に至らせられるだけである工程、 本方法の任意の部分において酸ハロゲン化物のための1以上の溶媒を導入する任意的工程、 本方法の任意の部分において1以上の塩を導入する任意的工程、 過酸化工程の前、間、又は後に1以上のコロイド及び/又は界面活性剤を導入する任意的工程、 1以上の精製工程において該水性混合物を精製する任意的工程、 1以上の均一化工程において該水性混合物を均一化する任意的工程、 式(I)のジアシルパーオキサイドを含むところの前の工程からの生成物を重合化反応器へ移す工程、及び 1以上のエチレン性不飽和モノマーの存在下、前記ジアシルパーオキサイドを熱的に分解して、有機遊離基を生成して前記モノマーを前記重合化反応器中で重合化させる工程、 を含む方法。」 2.原査定の理由の概要 原査定の理由とされた、平成21年1月31日付け拒絶理由通知書に記載した理由1及び2は、以下のとおりである。 「1.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 ・・・ 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) I.理由1、2について ・請求項 1-13 ・引用文献等 1 ・備考 引用文献1には、水性相で、水酸化ナトリウム等の水性水酸化物及びH2O2等の過酸化物をハロゲン化アシルと接触させ、アシル過酸化物を製造する方法が記載され、当該アシル過酸化物を含む水相を重合開始剤として用いる点が記載されている。 (特に、請求項1-45、第12頁第7行-第10行、第15頁第23行-第25行、第18頁末行を参照されたい。) したがって、本願の上記各請求項に係る発明は、上記引用文献に記載された発明または上記引用文献に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 ・・・(略)・・・ 引 用 文 献 等 一 覧 1.特表平11-511464号公報 (以下略)」 3.当審の判断 3-1.刊行物の記載事項及び刊行物に記載された発明 拒絶理由で提示された引用文献等1の特表平11-511464号公報(以下、前記第2.3.と同様に「引用文献」という。)の記載事項及び刊行物に記載された発明は、前記「第2.3.3-2」に記載したとおりである。 3-2.対比・判断 前記第2.3.3-3、3-4で検討したとおり、本願発明1を減縮したものである補正発明1が、引用文献に記載された発明あるいは引用文献に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、減縮前の本願発明1も、引用文献に記載された発明あるいは引用文献に記載された発明及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであることは明らかであるから、特許法第29条第1項第3号に該当、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 第4.むすび 以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明についての原査定の拒絶の理由1、2は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-01 |
結審通知日 | 2013-03-05 |
審決日 | 2013-03-18 |
出願番号 | 特願2003-573038(P2003-573038) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(C08F)
P 1 8・ 121- Z (C08F) P 1 8・ 113- Z (C08F) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鈴木 亨 |
特許庁審判長 |
渡辺 仁 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 大島 祥吾 |
発明の名称 | ジアシルパーオキサイドを含む重合化方法 |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 井口 司 |
代理人 | 片山 英二 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 大森 規雄 |