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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61L |
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管理番号 | 1277388 |
審判番号 | 不服2012-2029 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-02-02 |
確定日 | 2013-07-31 |
事件の表示 | 特願2006-336137「創傷閉鎖手段として有効な単量体組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成19年3月15日出願公開、特開2007- 61658〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、1997年(平成9年)2月28日(パリ条約による優先権主張1996年2月29日米国)を国際出願日とする特願平9-531147号の一部を平成18年12月13日に新たな特許出願としたものである。 そして、平成23年9月29日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成24年2月2日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成24年11月1日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに応答して、平成25年2月6日付けで手続補正書及び意見書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成25年2月6日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そして、そのうちの請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「生体組織面を共に接合するフィルムを形成するための生物適合性単量体組成物であって、次のA?C: A.医療上許容できる創傷閉鎖用重合体を形成する、少なくとも1種の単量体; B.前記組成物の3重量%?9重量%の量で、前記組成物中に存在する少なくとも1種の可塑化物質;および C.約0から約7のイオン化定数pKaを有する、少なくとも1種の酸性の安定化物質 を含んでなり、前記フィルムが、次の(a)?(c): (a)少なくとも2つの組織面を並置して一緒に保持して、接触した組織面を形成すること、 (b)前記組成物を、前記接触した組織面を横切るようにして適用すること;および (c)前記組成物を重合させ前記フィルムを前記接触した組織面上に形成すること を含んでなる方法によって作られ、 前記単量体が、2-オクチルシアノアクリレート、ドデシルシアノアクリレート、2-エチルヘキシルシアノアクリレート、ブチルシアノアクリレート、3-メトキシブチルシアノアクリレート、2-ブトキシエチルシアノアクリレート、2-イソプロポキシエチルシアノアクリレート、又は1-メトキシ-2-プロピルシアノアクリレートである、 ことを特徴とする組成物。」 3.当審より通知した拒絶の理由 当審より通知した拒絶の理由のうちの特許法第29条第2項の規定に基づく拒絶の理由(理由2)の概要は、次のとおりである。 請求項1に係る発明と引用文献1の発明とを対比すると、 ・組成物に含まれる成分について、請求項1に係る発明は「B.可塑化物質」を含む点。 ・フイルム形成手段について、請求項1に係る発明は「(a)」?「(c)」の手段を用いる点。 の2点が相違点となる。 しかし、外科用のシアノアクリレート接着剤に可塑化物質を含ませて可撓性を付与することは、引用文献2?4に記載されるように、当業者に周知の技術であるから、引用文献1の発明において、可塑化物質を含ませることは、当業者が容易になし得ることである。 また、引用文献4には、外科用接着剤により組織を接合する際の手段として、「(a)」?「(c)」の手段を用いることが記載されており、さらに、この手段は、皮膚用接着剤として既に製品化されている「ヒストアクリル」の使い方でもあるから、引用文献1の発明において、「(a)」?「(c)」の手段を用いることは、当業者が容易になし得ることである。 そして、引用文献1に記載の接着剤は強い結合を形成できるものであり、また、可塑化物質により可撓性を付与できることは、引用文献2?4に記載されているから、本願発明の効果は、当業者が予測し得る効果である。 4.引用例1?4と主な記載事項 当審からの拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特公昭46-37278号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項((ア)?(ク))が記載されている(以下、下線は当審が付した。)。 (ア)「本発明は、一般的ならびに特に外科医療用に適する無菌α-シアノアクリレート接着剤の製法に関する。詳言すれば、本発明はα-シアノアクリレート接着剤の製法であって、熱重合および貯蔵中の接着性の低下を防止する不揮発性酸性重合禁止剤すなわち安定剤を組成物中に使用することを特徴とする方法を提供するものである。 本発明によれば、上記目的はpKaが0.1?3の酸を重合禁止剤として添加し、しかるのちに組成物を加熱滅菌することによって達成される。」(第1頁左欄第26?35行)。 (イ)「一般産業用その他の用途に供せられる接着剤としてのα-シアノアクリル酸のエステルの効果はよく知られており…さらに最近では、医学文献および特許にこれらのα-シアノアクリル酸エステルのあるものはおおくの外科用の用途、たとえば骨折の固定用、外科用縫糸の代用または付加物として、傷口より出血の阻止に、一般に生体組織の補修ならびに再成長のたすけ等に成功裡に使用されることが開示されている。」(第1頁左欄第36行?右欄第8行)。 (ウ)「よくしられているように、外科用品は通常、バクテリア、芽胞、その他の微生物を破壊するに充分な温度に加圧水蒸気や乾燥加熱をくわえることによって滅菌される。…本発明者らはいまやそのような単量体が、そのような乾熱にさらされても、滅菌中に不当に単量体の重合をおこさず、それゆえに接着力の減少や商品寿命の減損をおこさずにすむ手段を発見した。」(第1頁右欄第18?29行) (エ)「安定剤 pKa … … ブロム酢酸 2.87 … 」(第3頁表) (オ)「本発明者らは、上記表の酸性安定剤の1種以上を、比較的少量、単量体α-シアノアクリレート接着剤にくわえることによって、接着材料は自動重合に対して安定化され、さらに重要なことに、この材料が滅菌のために比較的高温にさらされても、生体組織をふくむ種々の基体に対する接着性の低下をおこさないことをみいだした。」(第3頁左欄第25?31行)。 (カ)「このみによっては、種々の遊離基捕捉剤が、本発明の接着組成物の製造に、附加的安定剤として使用される。…外科用の組成物はまた同程度の遊離基捕捉剤を含有すると満足であることがある。… 本発明の接着剤組成物を製造するにあたって、所望ならば…粘度調節剤、すなわち濃厚化剤として全組成物の約25重量%までの量で使用される。外科用の組成物を処方するにあたって、濃厚化剤または粘度調節剤としてはポリ(アクリル・α-シアノアクリレート)接着剤成分が利用される。」(第4頁左欄第6?26行) (キ)「本発明にしたがって、ここにしるされた接着組成物の滅菌に採用される温度に関しては、これは処理をうける個々のα-シアノアクリレート単量体の種類および滅菌の時間にしたがって決定される。一般に、滅菌温度は約120℃乃至150℃である。滅菌に採用される時間は15分乃至2時間であり、好適には1時間である。」(第4頁右欄第11?17行) (ク)「実施例 8 0.01gのブロム酢酸をいれた氷冷した受器に100gの蒸留2-シアノアクリル酸n-ブチルをあつめた。この単量体を封管中で140℃1時間の加熱処理に附した。溶液粘度の増加はみとめられなかった。」(第5頁右欄第4?9行) 当審からの拒絶の理由に引用文献2として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平7-236687号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項((ケ)?(シ))が記載されている。 (ケ)「【産業上の利用分野】本発明は、生物医学的接着剤、密封剤、生物活性剤放出マトリックスおよびインプラントを形成するのに有用である単量体組成物および重合体組成物に関する。さらに特に、本発明は、特に医学用、外科用および他のインビボの用途に有用である生物学的適合性単量体組成物および重合体組成物に関する。」(【0001】) (コ)「好ましくは、単量体はα-シアノアクリレートである。本発明の単量体組成物およびこれから形成した重合体は、組織接着剤、出血を防止するかまたは開いた傷を覆う密封剤、治療薬または他の生物活性薬剤の送達系および他の生物医学的用途に有用である。これらは、例えば、外科的に切断されたかまたは外傷的に裂傷した組織を付着させること;骨折した骨構造を整骨すること;傷からの血流を抑制すること;生体組織の修復および再生を補助することにおいて並びに生物活性薬剤を送達するマトリックスとしておよびインプラントとしての用途が見出されている。」(【0018】) (サ)「本発明の組成物は、さらに、安定剤および/または1種以上のアジュバント物質、例えば増粘剤、可塑剤等を含んで、単量体の特定の医学的用途への医学的有用性を向上させることができる。」(【0045】) (シ)「適切な可塑剤の例は、フタル酸ジオクチル、…およびグルタル酸ジオクチルを含む。」(【0048】) 当審からの拒絶の理由に引用文献3として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、米国特許第3759264号明細書(1973)(以下、「引用例3」という。)には、次の事項((ス)?(セ))が記載されている(英文のため翻訳文で記載する。)。 (ス)「本発明は、α-シアノアクリル酸エステルの新規な用途、より詳細には、接着剤として該エステルを使用することによって、組織表面を結合する外科的手法に関する。」(第1欄第2?5行) (セ)「α-シアノアクリル酸エステルは単独、あるいは、例えば、増粘剤、可塑剤、抗生物質又は同様のもの等の添加剤を少量混ぜて使用できる。… 好適な可塑剤の代表的なものとしては、セバシン酸ジメチル、…他のエステル系可塑剤である。 添加物を含む組成物においては、α-シアノアクリレートモノマーが主成分であり、組成物の少なくとも約75重量%であることが好ましい。これら組成物は、上記ポリマー増粘剤又は粘度調整剤をα-シアノアクリレートモノマーの約20重量%まで含むことができ、そして、上記可塑剤は該モノマーの20重量%まで含むことができる。好ましくは、急速な接着作用のために、可塑剤の量は、該モノマーの約1?5重量%である。この好ましい範囲において、エステル系可塑剤は、α-シアノアクリレートの接着特性に悪影響を及ぼすことなく、接着結合の柔軟性を改善する。」(第2欄第42行?第3欄第10行) 当審からの拒絶の理由に引用文献4として引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、米国特許第3667472号明細書(1972)(以下、「引用例4」という。)には、次の事項((ソ)?(テ))が記載されている(英文のため翻訳文で記載する。)。 (ソ)「本発明は湿潤生体組織用の接着剤に関する。」(第1欄第2行) (タ)「本発明は、組織の炎症又は壊死を引き起こすことになる組織内への拡散がなく、そして、接着部位を超えて不快感を与えるほどに広範囲に拡散することもなく、生体組織上に最も有効な厚さで適用できる接着剤の改良形態を提供する。また、固まると十分に柔軟で、剥離あるいは亀裂することなく組織に結合する接着フイルムを提供する。 簡潔に述べると、本発明は、後述の製品、外科的切開、身体損傷、動脈瘤又は同様のものを橋かけ(bridging)又は閉じる(closing)方法、及び、生体組織上の接着パッチ、拡散防止及び柔軟物質として作用する変性剤と組み合わせた低アルキルα-シアノアクリレートを含む組成物であるフイルム成形物質からなる。」(第1欄第13?26行) (チ)「拡散防止あるいは変性剤としては、通常、固体ポリマー樹脂を用いる。…そのような物質の例としては、C_(1)-C_(8)アルキル及び…アルケニルエステルのホモポリマー;先のエステルの1つと他のものとの共重合体;…水溶性ポリオールと…多塩基性酸との樹脂質のポリエステル;及びこれらの混合物である。… 選択されたアルキルα-シアノアクリレートの重量の約5-25%、好ましくは、5-15%の拡散防止剤を用いることで、そのような結果を得る。」(第1欄第41?62行) (ツ)「使用条件については、接着剤組成物は通常の方法で接着部位に広げて適用される。例として、絞り出し容器のスリット口から絞り出されたひも状物として適用され、ガラス棒又は無菌のラクダ毛のブラシで広げられ、あるいは、エアゾールとしてスプレーされる。例えば、切り口を橋かけする際、組織は、接着剤が切り口を横切るバンドとして適用され、強い結合にするために必要な時間、約5分まで、一緒に保持され、固定された関係が保たれる。その後、傷や切り口は適切な位置で接着剤により治癒する。縫合は不要である。」(第2欄第7?19行) (テ)「実施例1 動物組織に使用する接着剤は、100重量部のメチルα-シアノアクリレート中で15重量部のポリ(メチルメタクリレート)粉末を混合して作られる。 これらの使用される原料は、無水であり、そして、例えば、水酸化ナトリウムより与えられる水酸化物やアルコールからのアルコキシド等の活性陰イオンを供給する汚染物が除去されている。30℃?100℃またはそれ以上の範囲内であり、望ましい溶解速度となる温度変動に従って、粉末が溶ける温度になるまで、全体を数分間かき混ぜながら徐々に温める。 そして、組成物は、液体又はガス推進薬を加えて又は加えることなく、適用できる状態になる。 … 実施例4 加温に先立ち、可塑剤としてフタル酸ジオクチルを、シアノアクリレートの重量に対して5%にしたこと以外は、実施例1の方法及び組成を用いた。 この例の変更例として、フタル酸ジオクチルに代えて、他の可塑剤、例えば、セバシン酸ジブチル、アジピン酸ジブチル、リン酸トリクレシル、エチレングリコールジシアノアセテートである他の可塑剤を、別々に順番で5%にして用いた。」(第2欄第38行?第3欄第22行) 5.引用発明 引用例1には、特に外科用の無菌α-シアノアクリレート(α-シアノアクリル酸エステル)接着剤であって、pKaが0.1?3の酸安定剤を添加することで、熱重合及び貯蔵中の接着性の低下を防止し(上記(ア))、生体組織に対する接着性が低下しない(上記(ウ)、(オ))接着剤が記載されており、そして、外科用のα-シアノアクリレート接着剤は、外科用縫糸の代用を含む多くの外科用の用途で成功裡に使用されているものであることが記載されている(上記(イ))。 さらに、引用例1には、この接着剤の実施例として、ブロム酢酸(pKa 2.8)をいれた受け器に2-シアノアクリル酸n-ブチルをあつめ、140℃1時間の加熱処理に附してなるものが記載されている(上記(ク) pKaについては上記(エ))。 そして、この実施例における加熱処理(140℃1時間)は、上記(キ)に記載の滅菌条件(120?150℃ 15分?2時間)に沿うものであるし、しかも、上述のとおり、引用例1は、特に外科用の無菌α-シアノアクリレート接着剤について記載するものであるし、さらに、外科用品は通常、滅菌される(上記(ウ))ことから、この加熱処理は、外科用品にするための"滅菌"であると解することができ、この実施例は、外科用の無菌α-シアノアクリレート接着剤について記載するものと認識することができる。 また、上述のとおり、外科用のα-シアノアクリレート接着剤は、外科用縫糸を代用するものであるから、生物適合性であって、生体組織面を共に接合するためのものであり、そして、生体組織面に適用された後は、医療上許容できる創傷閉鎖用重合体が形成され、フィルム状になることは明らかである。 以上のことより、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「生体組織面を共に接合するフィルムを形成するための生物適合性α-シアノアクリレート接着剤であって、次の: ・医療上許容できる創傷閉鎖用重合体を形成する、2-シアノアクリル酸n-ブチル;および ・2.8のpKaを有するブロム酢酸安定剤 を含んでなる接着剤。」 6.対比 そこで、本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明の「生物適合性α-シアノアクリレート接着剤」は、本願発明の「生物適合性単量体組成物」に相当する。 また、両発明は共に、「医療上許容できる創傷閉鎖用重合体を形成する」単量体として「ブチルシアノアクリレート(2-シアノアクリル酸n-ブチル)」を用いる点でも共通する。 さらに、引用発明の安定剤のpKa(2.8)は、本願発明が特定するpKaの範囲(「約0から約7」)内でもある。 よって、両発明の間の一致点及び相違点(相違点1、2)は、次のとおりといえる。 [一致点] 「生体組織面を共に接合するフィルムを形成するための生物適合性単量体組成物であって 、次のA、C: A.医療上許容できる創傷閉鎖用重合体を形成する、少なくとも1種の単量体; C.2.8のイオン化定数pKaを有する、少なくとも1種の酸性の安定化物質 を含んでなり、 前記単量体が、ブチルシアノアクリレートである、 ことを特徴とする組成物。」 [相違点] ・相違点1 生物適合性単量体組成物によりフィルムを形成する方法として、本願発明では、「(a)少なくとも2つの組織面を並置して一緒に保持して、接触した組織面を形成すること、(b)前記組成物を、前記接触した組織面を横切るようにして適用すること;および(c)前記組成物を重合させ前記フィルムを前記接触した組織面上に形成すること」を含む方法を用いることを特定するのに対し、引用発明では、この方法を用いることは特定していない点。 ・相違点2 組成物に含ませる成分について、本願発明では、「B.前記組成物の3重量%?9重量%の量で、前記組成物中に存在する少なくとも1種の可塑化物質」を含ませることを特定するのに対し、引用発明では、この成分を含ませることは特定していない点。 7.判断 上記相違点1、2について順に検討する。 ・相違点1について 引用例1には、上記5.で述べたとおり、外科用のα-シアノアクリレート接着剤により、生体組織面を共に接合するフィルムを形成することが記載されている。 そして、外科用のα-シアノアクリレート接着剤について記載する(上記(ソ)、(タ))点で引用例1と共通する引用例4には、この接着剤を生体組織に適用することによって、外科的切開や身体損傷等を橋かけ(bridging)又は閉じる(closing)ことが記載されており(上記(タ))、さらに、この橋かけの方法について、組織を、接着剤が切り口を横切るバンドとして適用され、強い結合にするために必要な時間まで、一緒に保持し固定された関係を保つ方法を用いること(上記(ツ))、すなわち、本願発明が特定する「(a)」?「(c)」の方法を用いることが記載されている。 しかも、本願発明が特定する「(a)」?「(c)」の方法は、皮膚用接着剤として既に製品化されている「ヒストアクリル」の使い方でもある(このことは、本願明細書【0008】の記載からも確認できる。)。 よって、引用発明において、生物適合性単量体組成物によりフィルムを形成する方法として、本願発明が特定する「(a)」?「(c)」の方法を用いることは、当業者が創傷に応じて適宜選択し得た事項にすぎない。 ・相違点2について 引用例1には、さらに、外科用のα-シアノアクリレート接着剤を処方するにあたり、pKaが0.1?3の酸性の安定剤の他に、他の機能剤を含ませることについても記載されている(上記(カ))。 そして、上記「・相違点1について」で述べたように橋かけについて記載する引用例4には、さらに、外科用のα-シアノアクリレート接着剤に、拡散防止及び"柔軟"物質として作用する変性剤を含ませることも記載されており(上記(タ))、"可塑剤"成分を用いた例が実施例として記載されてもいる(上記(テ)の実施例4)。 また、引用例2、3にも、外科用のα-シアノアクリレート接着剤に"可塑剤"を含ませることが記載されている(上記(ケ)?(セ))。 これら引用例2?4に記載される「拡散防止及び柔軟物質として作用する変性剤」や「可塑剤」は、いずれも、「可塑化物質」と言い得るものであり、そして、これら引用例2?4に記載されるように、本願優先日当時、外科用のα-シアノアクリレート接着剤に可塑化物質を含ませることは、当業者に周知の技術であった(このことは、本願明細書【0009】の記載からも確認できる。)。 さらに、引用例3、4には、可塑化物質を本願発明で特定する程度の量で含ませることも記載されており(上記(セ)、(チ)、(テ))、加えて、引用例3には、可塑化物質を本願発明で特定する程度の量で含ませることで、 ・「接着特性に悪影響を及ぼすことなく、接着結合の柔軟性を改善」(上記(セ)) ことも記載されており、また、引用例4には、可塑化物質を本願発明で特定する量で含む外科用のα-シアノアクリレート接着剤は、 ・「固まると十分に柔軟で、剥離あるいは亀裂することなく組織に結合」( 上記(タ)) ことも記載されている。 (ここで、含ませる可塑化物質の量について捕捉すると、引用例3、4は、いずれも、含ませる可塑化物質の量をα-シアノアクリレートに対する量で記載するが、例えば、引用例4(上記(テ)の実施例4(100重量部のシアノアクリレートに"可塑剤"を5重量%(5重量部)混合してなる接着剤))における可塑化物質の量を、組成物に対する量で示せば、約4.8重量%(5÷(100+5))となり、本願発明で特定する範囲(「組成物の3重量%?9重量%」)内である。 また、この量(α-シアノアクリレートに対し5重量%)の可塑化物質を、引用発明の認定の際に用いた引用例1の実施例(上記(ク))に含ませた場合も、組成物に対する可塑化物質の量は、同じく約4.8重量%(5÷(0.01+100+5))となり、本願発明で特定する範囲内となる。) よって、引用発明において、外科用のα-シアノアクリレート接着剤を処方するにあたり、フイルム形成後の利便性等を考慮して、可塑化物質を本願発明で特定する程度の量で含ませることは、当業者が容易になし得ることである。 ・本願発明の効果について 本願発明の効果に関して、本願明細書には、まず、接着剤中に可塑剤を含まない例(I)と、本願発明が特定する範囲内である「5.7w/w%」含む例(II)とは、同じ破壊圧力(3.9psi)であったことが記載されている(表I)。 しかし、引用例1には、上記5.で述べたように、酸安定剤を含むα-シアノアクリレート接着剤は、熱重合及び貯蔵中の接着性の低下が防止されており、生体組織に対する接着性が低下しない、すなわち、α-シアノアクリレート接着剤が持つ本来の接着力を維持できることが記載されており、さらに、引用例3、4には、上記「・相違点2について」で述べたように、可塑化物質を本願発明が特定する程度の量で含む外科用のα-シアノアクリレート接着剤は、柔軟性だけでなく接着性も持つことが記載されているから、上記本願発明の効果は、これら引用例より認識できる効果と比べて、顕著であると認めるまでには至らない。 また、本願明細書には、既存品である「ヒストアクリル」との比較結果についても記載されているが(表II?III)、この結果は、引用発明との効果の違いを裏付けるものではないから、この効果も顕著な効果として認めることはできない。 なお、引用例4は、上述のとおり、相違点1、2に関する事項について記載するものであるが、審判請求人は、この引用例4に対して、次の主張をしている(平成25年2月6日付け意見書の「5.拒絶理由2について」)。 ・「引用文献4については、第1欄第60?62行に、拡散防止剤の量に関する記載があり、第1欄第25?26行の記載によれば、この拡散防止剤が、可塑化物質に役割も果たすようです。また、第2欄第7?第23行には、架橋として創傷部位をまたがるように使用することが記載されています。 しかしながら、この拡散防止剤(可塑化物質)の量の記載が、「架橋として創傷部位をまたがるように使用」する場合を考慮したものであるという証拠はありません。実施例を見ても、そのような記載は見当たりません。」 ・「従って、引用文献4における拡散防止剤の量に関する記載が、上記構成要素1(審決注:「可塑化物質が、組成物の3重量%?9重量%の量で存在する」こと。)における濃度範囲を開示または示唆するもの考えるのは、当業者の取る態度ではありません。」 しかしながら、上記「・相違点1について」で述べたとおり(審判請求人も上記主張中で認めるように)、引用例4は、外科的切開等を橋かけ(bridging)又は閉じる(closing)ために用いる外科用のα-シアノアクリレート接着剤について記載するものであるから、可塑化物質の量の記載は、その一つである"橋かけ"のために用いる(「架橋として創傷部位をまたがるように使用」する)場合を考慮していると解するのが相当である。 よって、審判請求人の上記主張は採用できない。 8.むすび 以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された刊行物である引用例1?4に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願はその余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-01 |
結審通知日 | 2013-03-05 |
審決日 | 2013-03-18 |
出願番号 | 特願2006-336137(P2006-336137) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐々木 秀次 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
前田 佳与子 平井 裕彰 |
発明の名称 | 創傷閉鎖手段として有効な単量体組成物 |
代理人 | 加藤 公延 |