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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09K 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C09K |
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管理番号 | 1277427 |
審判番号 | 不服2009-24601 |
総通号数 | 165 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-12-11 |
確定日 | 2013-07-30 |
事件の表示 | 特願2006-524270「メソゲン性化合物、電気光学ディスプレイ用媒体および電気光学ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年3月3日国際公開、WO2005/019378、平成19年2月22日国内公表、特表2007-503487〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2004年8月10日〔パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年8月25日 (EP)欧州特許庁〕を国際出願日とする出願であって、 平成19年8月9日付けで手続補正書の提出がなされ、 平成20年12月12日付けの拒絶理由通知に対し、平成21年7月6日付けで意見書及び手続補正書の提出がなされ、 平成21年7月30日付けの拒絶査定に対し、平成21年12月11日に審判請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、 平成23年8月29日付けの審尋に対し、平成24年3月6日付けで回答書の提出がなされ、 平成24年3月27日付けの審尋に対し、指定期間内に回答書の提出がなされなかったものである。 第2 平成21年12月11日付け手続補正についての補正の却下の決定 〔補正の却下の決定の結論〕 平成21年12月11日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1.補正の内容 平成21年12月11日付け手続補正(以下、「第3回目の手続補正」という。)は、補正前の請求項1の 「式Iの化合物を1種または2種以上含み、 【化1】 式中、a、b、cおよびdは、相互に独立して0、1または2であり、1≦a+b+c+d≦4であり;」 との記載部分を、補正後の請求項1において、 「式Iの化合物を1種または2種以上含み、 【化1】 式中、 【化2】 は 【化3】 または単結合であり、cおよびdは、相互に独立して0、1または2であり、1≦c+d≦3であり;」 との記載に改める補正を含むものである。 2.補正の適否 (1)はじめに ここで、平成22年2月4日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由の『請求項1において、式Iにおいて…を「…または単結合であり」とし、請求の範囲の限定しました。』との釈明をも参酌するに、 上記請求項1についての補正のうち、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「式I」の定義を部分的に改める補正については、補正前の請求項1に記載した発明特定事項を限定するものであって、なおかつ、当該限定により補正前後の当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が変更されるものでもないことから、 平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものに該当する。 そこで、補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下、「補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか否か)について以下に検討する。 (2)新規性について ア.引用刊行物及びその記載事項 平成20年12月12日付けの拒絶理由通知書において「引用文献1」として引用された本願優先の基礎となる出願日前に頒布された刊行物である「国際公開第98/12166号」には、次の記載がある。 摘記1a:請求の範囲1及び16 「1.一般式(1) (式中R_(0)およびR_(1)は互いに独立して、炭素数1?10のアルキル基を表し、このアルキル基中の相隣接しない1個以上のメチレン基は、酸素原子、硫黄原子、-SiH_(2)-、-CH=CH-、または-C≡C-で置換されてもよく、またこのアルキル基中の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく; 環A_(0)、環A_(1)、環A_(2)および環A_(3)は互いに独立して1,4-シクロヘキシレン基、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、環上の1個以上の水素がハロゲン原子またはR_(2)O基で置換されてもよい1,4-フェニレン基、ピリジン-2,5-ジイル基、またはピリミジン-2,5-ジイル基を表し; Z_(0)、Z_(1)、Z_(2)およびZ_(3)は互いに独立して、-CH_(2)CH_(2)-、-CH=CH-、-C≡C-、-CH_(2)O-、-OCH_(2)-、-CF_(2)O-、-OCF_(2)-、-COO-、-OCO-、-(CH_(2))_(4)-、または単結合を表し; Q_(1)、およびQ_(2)は互いに独立して水素原子またはハロゲン原子を表し、 Q_(3)は水素原子、ハロゲン原子またはR_(2)O基を表し; R_(2)は炭素数1?10のアルキル基を表し、このアルキル基中の相隣接しない1個以上のメチレン基は、-SiH_(2)-、-CH=CH-、または-C≡C-で置換されてもよく、またこのアルキル基中の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく; Yはハロゲン原子、シアノ基、または炭素数1?10のアルキル基を表し、このアルキル基中の相隣接しない1個以上のメチレン基は、酸素原子、硫黄原子、-SiH_(2)-、-CH=CH-、または-C≡C-で置換されてもよく、またこの基中の任意の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよく; l、m、nおよびoは互いに独立して0、1または2を表すが、 l+m+n+o≦3であり; ただし、Z_(0)、Z_(1)、Z_(2)、Z_(3)のいずれかが-COO-である場合、Yはシアノ基ではなく; また、n=o=0、Z_(0)およびZ_(1)が-CH_(2)CH_(2)-、-CH_(2)O-、-OCH_(2)-、-(CH_(2))_(4)-、-C≡C-あるいは単結合から選択される基であり、Q_(3)がフッ素原子、Yがフッ素原子あるいは塩素原子である場合、R_(2)はC_(2)H_(5)基であり; また、この化合物を構成する原子はその同位体原子で置換されていてももよい。)で示される液晶性化合物。… 16.一般式(1)で示される化合物を少なくとも1種類含有することを特徴とする、少なくとも2成分からなる液晶組成物。」 摘記1b:第9頁第21?24行 「一般式(1)で示される本発明の化合物は、液晶組成物に添加した際の相溶性、特に低温における相溶性に優れている。本発明の化合物を含有する液晶組成物は誘電率異方性は著しく大きく、しきい値電圧は低く、プレチルト角が大きく、電圧保持率が高く、さらにその温度依存性が小さい。」 摘記1c:第35頁下から3行?第36頁第4行 「本発明の液晶組成物は、電界効果型および電流効果型のいずれの表示素子にも使用できる。…テトラジン系等の二色性色素を添加してゲストホストモードの素子用の液晶組成物としても使用できる。」 摘記1d:第104頁 「 … 」 摘記1e:第119頁 「 … 」 摘記1f:第120頁第3?12行 「液晶組成物(以下母液晶Aと略称する。)は…誘電率異方性(Δε)は+11.0…であった。母液晶Aの85重量部と、実施例1で製造した…化合物No.195…15重量部とを混合し、その物性値を測定したところ、…Δε:11.7…であった。」 イ.引用文献1に記載された発明 摘記1dの式289の化合物についての記載、摘記1eの式440の化合物についての記載、摘記1bの「本発明の化合物を含有する液晶組成物は誘電率異方性は著しく大きく」との記載、並びに摘記1aの「一般式(1)で示される化合物を少なくとも1種類含有する…液晶組成物。」との記載からみて、引用文献1には、 『次の式で示される化合物を少なくとも1種類含有する誘電率異方性が著しく大きい液晶組成物。 、 』についての発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 ウ.対比・判断 補正発明と引用発明とを対比する。 まず、引用発明の「式289」及び「式440」の化合物は、補正発明の「式I」の定義において、 『式Iの化合物…【化1】 式中、【化2】 は単結合であり、cおよびdは、相互に独立して0、1または2であり(式289は『c=1及びd=1』であり、式440は『c=0及びd=1』である)、1≦c+d≦3であり; R^(11)は、1個?15個の炭素原子を有するアルキルであり、該アルキルは無置換である(式289は『R^(11)=3個の炭素原子を有する無置換のアルキル』である);またはアルキルシクロアルキルであり、それぞれ15個までの炭素原子を有し、該基は無置換である(式440は『R^(11)=9個の炭素原子を有する無置換のアルキルシクロアルキル』である); L^(11)、L^(12)、L^(13)およびL^(14)は、相互に独立して、水素、1個?15個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、該アルコキシ基は無置換である(式289は『L^(11)=1個の炭素原子を有する無置換のアルコキシ基、L^(12)=L^(13)=L^(14)=水素』であり、式440は『L^(11)=L^(12)=1個の炭素原子を有する無置換のアルコキシ基、L^(13)=L^(14)=水素』である); 少なくともL^(11)およびL^(12)の一方が水素ではないとき、L^(13)およびL^(14)は水素であり;およびL^(11)、L^(12)、L^(13)およびL^(14)の少なくとも1つは水素ではなく; X^(11)は、ハロゲンであり(式289及び式440は『X^(11)=ハロゲン(フッ素)』である); R^(11)およびX^(11)は同時に非置換アルキルではなく; A^(13)およびA^(14)は、相互に独立して下記式の環の1つであり: 【化4】 A^(13)およびA^(14)は、ともに存在する場合(式289の場合)、それぞれ同一の環でもよくまたは2つの異なる環でもよく; Y^(11)、Y^(12)、Y^(13)およびY^(14)は、相互に独立して水素、ハロゲン、1?15個の炭素原子を有するアルコキシ基であり、該アルコキシ基は無置換である(式289はA^(13)が『Y^(11)=1個の炭素原子を有する無置換のアルコキシ基、Y^(12)=ハロゲン(フッ素)、Y^(13)=Y^(14)=水素』で、A^(14)が『Y^(11)=ハロゲン(フッ素)、Y^(12)=Y^(13)=Y^(14)=水素』であり、式440はA^(14)が『Y^(11)=Y^(12)=ハロゲン(フッ素)、Y^(13)=Y^(14)=水素』である); Z^(13)およびZ^(14)は、相互に独立して単結合(式289及び式440)であり、 Z^(13)およびZ^(14)のそれぞれは、ともに存在する場合、同一の意味でもまたは異なる意味でもよい。』 を満たすものである。 そして、本願明細書の段落0055の「本出願においては、誘電的に正である化合物とはΔε>1.5である化合物であり」との記載、及び同段落0046の「本願における含む(comprising)の語は、組成物において、…媒体または成分が、当該1種または2種以上の化合物を好ましくは10%またはこれ以上…含むことを意味する。」との記載を参酌するに、 引用発明の「次の式で示される化合物を少なくとも1種類含有する誘電率異方性が著しく大きい液晶組成物。」のうちの「誘電率異方性が著しく大きい液晶組成物」は、 摘記1fの「液晶組成物(以下母液晶Aと略称する。)は…誘電率異方性(Δε)は+11.0…であった。母液晶Aの85重量部と、実施例1で製造した…化合物No.195…15重量部とを混合し、その物性値を測定したところ、…Δε:11.7…であった。」との記載にあるように、Δε>1.5を満たすほどの著しく大きな誘電率異方性を示す組成物を意図し、所定の液晶性化合物を10%以上含むことを意図したものであって、 摘記1cの「本発明の液晶組成物は…テトラジン系等の二色性色素を添加してゲストホストモードの素子用の液晶組成物としても使用できる。」との記載にあるように、当該前段の液晶組成物(補正発明の「液晶成分A」に相当する。)と、添加物を更に含む当該後段の液晶組成物(補正発明の「液晶媒体」に相当する。)の両方を意図しているものであるから、 補正発明の「誘電的に強く正である液晶成分Aを含む液晶媒体」に相当する。 また、引用発明の「次の式で示される化合物を少なくとも1種類含有する誘電率異方性が著しく大きい液晶組成物。」のうちの「次の式で示される化合物を少なくとも1種類」が、補正発明の「式Iの化合物を1種または2種以上」に相当することは、引用発明の「式289」及び「式440」の化合物が、補正発明の「式I」の定義を満たすことから、自明である。 してみると、補正発明と引用発明は『誘電的に強く正である液晶成分Aを含む液晶媒体であって、該成分Aは、式Iの化合物を1種または2種以上含み、【化1】…式中、…でもよい。』という点において一致し、両者に相違する点は認められない。 したがって、補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 (3)サポート要件及び実施可能要件について ア.平成20年12月12日付けの拒絶理由通知書においては『理由7』として『7.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。』との拒絶の理由が示されるとともに、 その「記」において『・理由7 (1)請求項1に記載された式Iの化合物は、式Iはa?dの合計が0?4であるから、L11?14を有するベンゼン環のみを共通部分とするものであり、トルエン等の一置換ベンゼンのような明らかに液晶成分とならないものも含むものである。また、発明の詳細な説明の実施例には、特定の側鎖置換基を特定位置に結合した化合物が具体的に記載されているのみであるから、これらの例示化合物から、式Iにまで拡張ないし一般化できるとは認められない。…よって、請求項1-4,11-13に係る発明は、発明の詳細な説明に実質的に記載されていない。』との指摘がなされている。 イ.また、平成21年7月30日付けの拒絶査定(原査定)においては『この出願については、平成20年12月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由3、5、7によって、拒絶をすべきものです。』との拒絶の査定がなされるとともに、 その「備考」において『理由7について 出願人は意見書において、補正により、本願請求項1?15に係る発明は、「1≦a+b+c+d≦4」となったので、補正後の本願請求項1?15記載の発明は、その全体にわたって発明の詳細な説明に実質的に記載されたものとなったと主張している。しかしながら、先の拒絶理由でも記載したように、発明の詳細な説明の実施例には、特定の側鎖置換基を特定位置に結合した化合物が具体的に記載されているのみであるから、単に「1≦a+b+c+d≦4」と環の数を限定したのみでは、依然として、例示化合物から式Iまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。したがって、出願人の主張は採用できず、補正後の本願請求項1?15記載の発明は、依然として、その全体にわたって発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。』との指摘がなされている。 ウ.そして、平成22年2月4日付けで手続補正された審判請求書の請求の理由において、審判請求人は『5)理由7(記載不備)による拒絶理由について 上記拒絶査定において原審審査官殿は、「発明の詳細な説明の実施例には、特定の側鎖置換基を特定位置に結合した化合物が具体的に記載されているのみであるから、単に「1≦a+b+c+d≦4」と環の数を限定したのみでは、依然として、例示化合物から式Iまで拡張ないし一般化できるものとはいえない」旨指摘されましたが、今回の補正により上記「3)理由3」で述べたとおり、 の定義を大幅に限定することにより、補正後の本願請求項1?15にかかる発明は本願明細書段落〔0093〕?〔0181〕において具体的な効果が実証されているもの及びそれに極めて近傍のもののみとなりましたので、かかる原審審査官殿のご指摘はもはやあたらにものになったと思料します。』との主張をしている。 エ.以上の経緯を踏まえて、平成24年3月27日付けの審尋において、次の(イ)に示すとおりの審尋を発して、補正後の特許出願のサポート要件及び実施可能要件に関して、審判請求人に具体的な立証を求めたが、当該審尋に対しては、指定期間内に回答書の提出がなされなかったものである。 『(イ)原査定の「理由7」について 原査定の「理由7」の拒絶の理由に対し、平成22年2月4日付けの手続補正により補正された審判請求書の請求の理由において『定義を大幅に限定することにより、補正後の本願請求項1?15にかかる発明は本願明細書段落〔0093〕?〔0181〕において具体的な効果が実証されているもの及びそれに極めて近傍のもののみとなりましたので、かかる原審審査官殿のご指摘はもはやあたらにものになったと思料します。』との釈明がなされています。 しかしながら、平成24年3月6日付けの回答書の『有機化合物合成の分野において置換基や結合基が大きく異なれば化合物の物性が大きく異なり、同様の製造方法を適用しても必ずしも対象の化合物を必然的に提供できるわけではないということが当業者に共通の認識である』との主張を斟酌するに、本願の補正後の請求項1に記載された極めて広範な範囲の化合物(及び当該化合物を含む液晶成分)の全てを、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(ないし本願優先権主張日前の技術水準における技術常識)に基づいて提供し得ないものと思料されます。 また、一般に『特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり,明細書のサポート要件の存在は,特許出願人…が証明責任を負うと解するのが相当である。』とされているところ〔平成17年(行ケ)第10042号判決参照。〕、 本願の補正後の請求項1に記載された発明は、その範囲が極めて広範なものであることから、本願明細書の段落0014に記載された「本発明の化合物は、特性電圧の温度依存性を明らかに低下せしめ、これによって動作電圧の低下に寄与し、および/または温度依存性が極めて小さい温度範囲の拡展に寄与する。」という本願所定の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることができないように思料されます。 また、本願明細書の段落0039?0045に記載されたスキーム1?4の工程によって製造できるものは、本願明細書の段落0093?0140の例1?471(例396、400?402、428及び448を除く。)のように連結鎖に-CF_(2)O-又は-CO_(2)-を含み、その両端の環がベンゼン環(他のベンゼン環が縮合してナフタレン環を形成するものを含む。)である場合のもののみに限られており、 本願の補正後の請求項1に記載された各種の選択肢について、 (a)その「A^(13)およびA^(14)」の23種類の選択肢について、その「環」の各々が「ベンゼン環」又は「ナフタレン環」以外の21種類である場合のもの、 (b)その「Z^(13)およびZ^(14)」の17種類の選択肢について、その連結鎖の各々が-CF_(2)O-又は-CO_(2)-以外の15種類である場合のもの、 (c)その「Y^(11)、Y^(12)、Y^(13)およびY^(14)」の選択肢について、任意の置換位置に置換した場合の各種選択肢の各々のもの、 の何れもが、本願明細書の発明の詳細な説明(ないし本願優先権主張日前の技術常識)に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施可能であること(本願が実施可能要件を満たし得ること)、並びに本願所定の課題を解決できる範囲のものであること(本願がサポート要件を満たし得ること)については、本願明細書の発明の詳細な説明などに十分な裏付けがあるとは認められません。 ついては、審尋事項(イ)として、本願の補正後の請求項1に記載された化合物を含む液晶成分を含む液晶媒体が、過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施可能であること(本願が実施可能要件を満たし得ること)、並びに本願所定の課題を解決できる範囲のものであること(本願がサポート要件を満たし得ること)を具体的に立証し、 本願の補正後の請求項1の記載が、平成20年12月12日付けの拒絶理由通知書の「理由7…これらの例示化合物から、式Iにまで拡張ないし一般化できるとは認められない。」との指摘及び平成21年7月30日付けの拒絶査定の備考欄の「例示化合物から式Iまで拡張ないし一般化できるものとはいえない。」との指摘を解消し得るものであること(すなわち、原査定の「理由7」の拒絶の理由を解消し得ること)を具体的に立証してください。』 オ.しかして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によっては、例えば、その「A^(13)およびA^(14)」の23種類の選択肢について、その「環」の各々が「ベンゼン環」又は「ナフタレン環」以外の 等の21種類である場合のもの全てを過度の試行錯誤を要することなく当業者が実施できるとも認められない。 また、このような21種類である場合のものにまで、特許を受けようとする発明を一般化できるとは認められないので、原査定の『補正後の本願請求項1?15記載の発明は、依然として、その全体にわたって発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。』という旨の指摘は、依然として妥当なものである。 カ.したがって、補正後の請求項1の記載は、特許を受けようとする発明の全てが、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明に記載した範囲内のものであるとは認められないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、第3回目の手続補正により補正された場合の特許出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないので、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 キ.また、補正後の本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が補正発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとは認められないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、第3回目の手続補正により補正された場合の特許出願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないので、補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 3.まとめ 以上総括するに、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、第3回目の手続補正は、その余のことを検討するまでもなく、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、〔補正の却下の決定の結論〕のとおり決定する。 第3 本願発明について 1.本願発明 第3回目の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?15に係る発明は、平成21年7月6日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。 2.原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は「この出願については、平成20年12月12日付け拒絶理由通知書に記載した理由3、5、7によって、拒絶をすべきものです。」というものであって、 平成20年12月12日付けの拒絶理由通知書には、 理由3として「3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」との理由が示されるとともに、 理由7として「7.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。」との理由が示されている。 3.理由7について 本願請求項1の記載は、上記『第2 2.(3)』において検討した『補正後の請求項1の記載』を包含するものである。 してみると、上記『第2 2.(3)』において既に検討したように、原査定の『補正後の本願請求項1?15記載の発明は、依然として、その全体にわたって発明の詳細な説明に実質的に記載されたものではない。』という旨の指摘は妥当なのものである。 したがって、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 4.理由3について ア.引用文献及びその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された「引用文献1」及びその記載事項は、上記『第2 2.(2)ア.』に示したとおりである。 イ.原査定の指摘事項 原査定の「備考」には『出願人は意見書において、先の拒絶理由で引用した刊行物1記載の化合物は、環A0およびA1がシクロへキシレン基であるのに対して、本願請求項1?15に係る発明は、A11?A14の選択肢から、補正によりシクロへキシレン基を削除したことを挙げて、補正後の本願請求項1?15に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないと主張している。しかしながら、刊行物1には、環A0、A1としては、シクロへキシレン基と同様に、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、1,4-フェニレン基、ピリジン-2,5-ジイル基、ピリミジン-2,5-ジイル基も有用であることが記載されているから(特許請求の範囲)、シクロへキシレン基に代えて、これらの基を採用したものである本願発明を想到することに格別の困難性は見出せない。』との指摘がなされている。 ウ.対比・判断 本願請求項1に係る発明は、上記『第2 2.(2)ウ.』において検討した「補正発明」を包含するものであって、その「一般式I」の定義において「R^(11)」が「アルキルシクロアルキル」である場合のもの(例えば、引用文献1に記載された化合物440の場合のもの)を包含するものである。 けだし、審判請求人が、当該「R^(11)」が「アルキルシクロアルキル」である場合のものの存在を失念していたと仮定するに、 引用文献1(刊行物1)には、その環A_(0)、A_(1)として、シクロへキシレン基と同様に、1,3-ジオキサン-2,5-ジイル基、1,4-フェニレン基、ピリジン-2,5-ジイル基、ピリミジン-2,5-ジイル基も有用であることが記載されているから(摘記1a)、シクロへキシレン基に代えて、これらの基を採用したものである本願発明を想到することに格別の困難性は見出せない。 そして、シクロヘキシレン基に代えて、これらの基とすることにより、引用文献1(刊行物1)記載の発明からは予測し得ないような優れた効果を奏するものでもない。 したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1(刊行物1)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5.むすび 以上総括するに、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 また、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 したがって、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-02-18 |
結審通知日 | 2013-02-26 |
審決日 | 2013-03-11 |
出願番号 | 特願2006-524270(P2006-524270) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C09K)
P 1 8・ 121- Z (C09K) P 1 8・ 536- Z (C09K) P 1 8・ 537- Z (C09K) P 1 8・ 575- Z (C09K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅原 洋平、井上 千弥子、松本 直子 |
特許庁審判長 |
新居田 知生 |
特許庁審判官 |
木村 敏康 大畑 通隆 |
発明の名称 | メソゲン性化合物、電気光学ディスプレイ用媒体および電気光学ディスプレイ |
代理人 | 葛和 清司 |