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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H03F
管理番号 1277445
審判番号 不服2012-10367  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-05 
確定日 2013-07-29 
事件の表示 特願2009-120658「ドライバ回路」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 2日出願公開、特開2010-272919〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯・本願発明

本願は、2009年5月19日を出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という)

「正相入力信号と逆相入力信号とからなる差動入力信号を入力として差動出力信号の振幅を調整可能な振幅可変増幅器と、
この振幅可変増幅器から出力される差動出力信号を入力とする少なくとも1つの差動増幅器から構成される増幅回路とを備え、
前記振幅可変増幅器は、
前記差動入力信号が入力される差動構成の第1の増幅用トランジスタを含む増幅部と、
前記第1の増幅用トランジスタとカスコード接続された差動構成の第1、第2の振幅調整用トランジスタを含み、この第1、第2の振幅調整用トランジスタに入力される振幅調整信号GCT,GCCに応じて前記第1の増幅用トランジスタの出力信号の振幅を調整する振幅調整部と、
前記増幅部および振幅調整部に定電流を供給する第1の電流源とから構成され、
前記増幅回路中の差動増幅器は、
前記振幅可変増幅器から出力される差動出力信号を入力とする差動構成の第2の増幅用トランジスタを含む出力部と、
この出力部に定電流を供給する第2の電流源とから構成され、
前記振幅可変増幅器の増幅部は、
ベースに前記正相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された正相入力側の前記第1の増幅用トランジスタと、ベースに前記逆相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された逆相入力側の前記第1の増幅用トランジスタとを備え、
前記振幅可変増幅器の振幅調整部は、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される正相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される逆相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに正相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される正相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに逆相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される逆相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタとを備え、
前記差動入力信号に応じて前記第1の増幅用トランジスタで生成された電流を、前記振幅調整信号GCT,GCCの大小関係で決定される分配比で前記第1、第2の振幅調整用トランジスタに分配し、前記正相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記正相出力側のコレクタ抵抗との接続点から正相出力信号を出力し、前記逆相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記逆相出力側のコレクタ抵抗との接続点から逆相出力信号を出力することを特徴とするドライバ回路。」

2.引用例記載の発明

これに対して、原査定において引用された特開2003-115731号公報(以下「引用例1」という。)には、図7とともに、

「【0007】図7に、従来の直流定電流源回路を用いた要素回路の例を示す。(a)はギルバート型掛算回路27、(b)はコレタタ接地増幅回路28’、(c)は差動増幅回路29’の構成を示す。図7において、図6におけるものと同じものには同じ符号を付けた。8は高電位側電源端子、9は低電位側電源端子、10?16は信号入力端子、17?21は信号出力端子、22,23は負荷抵抗、24?26は直流定電流源回路を示す。
【0008】一般に従来の電子回路は、これら図7(a)?(c)等の要素回路を複数個組み合わせて所望の機能を得るが、電源数を低下させるために可能なかぎり電源端子を共有するように設計される。図8は従来の電子回路を示す図で、図7に示した従来の要素回路27,28’,29’を電源端子8,9を共有して信号入出力端子を縦続に接続した例を示したものである。各要素回路27,28’,29’の信号入出力端子は図に示したように縦続接続されていることもあれば、個々に独立している場合もある。」

の記載がある。

「コレタタ接地増幅回路28’」は「コレクタ接地増幅回路28’」の誤記と認められるから、上記記載によれば、引用例1には、

「ギルバート型掛算回路27、コレクタ接地増幅回路28’差動増幅回路29’の信号入出力端子を縦続に接続し、
差動増幅回路29’は、
ギルバート型掛算回路27から出力される信号をコレクタ接地増幅回路28’を介して入力する差動構成の増幅用トランジスタを含む出力部と、
この出力部に定電流を供給する直流定電流源回路とから構成され、
る回路」

が記載されている。(以下「引用発明」という)

3.本願発明と引用発明の対比

まず、引用発明の「ギルバート型掛算回路」について論及する。

特開2000-332554号公報(以下「周知例1」という)には、
「【0011】第1の従来例においては、コレクタ電流ic23及びic26の値により、利得が決定されるので、負荷抵抗R25及びR26の電圧降下分が変化することになり、直流的な出力電圧が変動する。従って、次段の回路における直流的な入力電圧が変動することになるので、その電圧マージンが減少し、交流波形のクリップが生じたり、トランジスタの接合容量の影響を受けたりする。このため、キャパシタ等を利得可変増幅器の出力端子に接続する必要があり、チップ面積が増大してしまう。また、キャパシタ等を接続した場合には、そこを通過することができる信号の周波数が制限されてしまうという欠点もある。なお、直流的な出力電圧とは、交流の出力電圧に対しその平均をとり時刻による変動をなくしたものである。
【0012】そこで、これらの欠点を解消することを目的とした利得可変増幅器が提案されている。以下、この従来例を第2の従来例という。図13は第2の従来例の利得可変増幅器の構成を示す回路図である。
【0013】第2の従来例には、エミッタ結合されたトランジスタQ13及びQ14を備えた第1の差動増幅器が設けられている。同様に、エミッタ結合されたトランジスタQ15及びQ16を備えた第2の差動増幅器が設けられている。トランジスタQ13乃至Q16は、相互に同等の形状及び特性を具備している。また、トランジスタQ13及びQ14のエミッタに接続されたトランジスタQ11並びにトランジスタQ15及びQ16のエミッタに接続されたトランジスタQ12が設けられている。そして、トランジスタQ11及びQ12及びその間に接続されたエミッタ抵抗R11及びR12を備えた第3の差動増幅器が設けられている。即ち、第1及び第2の差動増幅器が第3の差動増幅器にカスコード接続されている。
【0014】抵抗R11及びR12間のノードには、接地電位との間に定電流源S11が接続されている。また、トランジスタQ13及びQ15並びにトランジスタQ14及びQ16のコレクタには、夫々負荷抵抗R15及びR16が接続されており、負荷抵抗R15及びR16の他端は電源電位Vccに接続されている。
【0015】相補の入力信号IN及びINBは、夫々トランジスタQ11及びQ12のベースに入力される。一方、出力信号OUT11及びOUT12は、夫々トランジスタQ13及びQ15並びにトランジスタQ14及びQ16のコレクタの電位として出力される。
【0016】なお、トランジスタQ13及びQ16のベースには、制御信号Vcontの正電圧が入力され、トランジスタQ14及びQ15のベースには、制御信号Vcontの負電圧が入力される。制御信号Vcontにより、増幅器の利得が制御される。このような利得可変増幅器は、一般にギルバート回路とよばれている。」
の記載があり、図13には、引用例1の図7記載のギルバート回路と同じ回路が記載されている。

また、特開2005-252779号公報(以下「周知例2」という)には、
「【0002】
ラジオ受信機においては、受信レベルが低下してくると段階的に出力の音量を下げることでノイズの音量を同時に下げ、聴感を向上させる機能を備えたミュート回路が設けられている。従来このミュート回路は、アナログ回路で構成されている。
図3に、従来のギルバートセル型の、ミュート回路の構成図を示す。入力信号INPを入力するトランジスタ1と、入力信号Pの逆相信号を入力信号INNとして入力するトランジスタ2と、RSSI(Received Signal Strength Indicator、受信信号強度表示信号)電圧を入力するトランジスタ3及び6と、固定値である基準電圧を入力するトランジスタ4及び5から構成される。
【0003】
図3のミュート回路では、入力信号INPと入力信号INNの差分(差動入力)を利得分増倍させたものが出力信号Pと出力信号Nの差分(差動出力)として得られる。ここで、利得は、RSSI電圧と基準電圧との差分により決定される。
他方、デジタル制御によって可変の利得の制御を行う電子ボリューム回路(可変利得回路)についての開示がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1にかかる電子ボリューム回路は、デジタル制御信号によってスイッチが切り替えられ、並列に接続された複数個の抵抗の中から任意の抵抗が選択されることによって回路の利得が決定される。」
の記載があり、図3には、引用例1の図7記載のギルバート回路と同じ回路が記載されている。

周知例1には、入力信号INとINBは相補の入力信号、すなわち逆相の入力信号であること、周知例2には、入力信号INNは入力信号INPの逆相信号であり出力信号が差動出力として得られること、が記載されている。
また、周知例1は「利得可変増幅器」であり、周知例2は「ミュート回路」であるから、いずれも「振幅を調整可能」な回路である。
よって、周知例1,2によれば、ギルバート回路は、「正相入力信号と逆相入力信号とからなる差動入力信号を入力として差動出力信号の振幅を調整可能な振幅可変増幅器」であり、その出力信号は「差動出力信号」である。

また、引用発明の「差動増幅回路29’」は「増幅回路」であるから、「少なくとも1つの差動増幅器から構成される増幅回路」である。

ところで、引用発明は、「ギルバート型掛算回路27」と「差動増幅回路29’」の間に「コレクタ接地増幅回路28’」が介在している。なお、「コレクタ接地増幅回路」は、一般に「エミッタフォロワ」と呼ばれている。
本願発明の実施例を参照すれば、【0024】に記載されるように、振幅可変増幅器と差動増幅器の間にトランジスタQ10P,Q10N,Q11P,Q11Nでエミッタフォロワを備えているから、本願発明は、振幅可変増幅器と差動増幅器がエミッタフォロワを介して接続されていることを含むものである。
よって、引用発明の「ギルバート型掛算回路27」と「差動増幅回路29’」が「コレクタ接地増幅回路28’」を介して接続されていても、「ギルバート型掛算回路27」から出力される信号を「差動増幅回路29’」に入力するといえる。

したがって、本願発明と引用発明は、
「正相入力信号と逆相入力信号とからなる差動入力信号を入力として差動出力信号の振幅を調整可能な振幅可変増幅器と、
この振幅可変増幅器から出力される差動出力信号を入力とする少なくとも1つの差動増幅器から構成される増幅回路とを備え、
増幅回路中の差動増幅器は、
ギルバート型掛算回路から出力される差動信号を入力とする差動構成の第2の増幅用トランジスタを含む出力部と、
この出力部に定電流を供給する第2の電流源とから構成され
る回路」

で一致し、下記の点で相違する。

相違点1
振幅可変増幅器について、
本願発明は、
「差動入力信号が入力される差動構成の第1の増幅用トランジスタを含む増幅部と、
前記第1の増幅用トランジスタとカスコード接続された差動構成の第1、第2の振幅調整用トランジスタを含み、この第1、第2の振幅調整用トランジスタに入力される振幅調整信号GCT,GCCに応じて前記第1の増幅用トランジスタの出力信号の振幅を調整する振幅調整部と、
前記増幅部および振幅調整部に定電流を供給する第1の電流源とから構成され、」
ており、
「振幅可変増幅器の振幅調整部」

「ベースに前記正相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された正相入力側の前記第1の増幅用トランジスタと、ベースに前記逆相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された逆相入力側の前記第1の増幅用トランジスタとを備え、
前記振幅可変増幅器の振幅調整部は、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される正相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される逆相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに正相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される正相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに逆相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される逆相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタとを備え」
て、
「前記差動入力信号に応じて前記第1の増幅用トランジスタで生成された電流を、前記振幅調整信号GCT,GCCの大小関係で決定される分配比で前記第1、第2の振幅調整用トランジスタに分配し、前記正相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記正相出力側のコレクタ抵抗との接続点から正相出力信号を出力し、前記逆相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記逆相出力側のコレクタ抵抗との接続点から逆相出力信号を出力する」
のに対し、
引用発明は異なる回路構成である点。

相違点2
本願発明は、「ドライバ回路」であるのに対し、引用発明はどのような目的の回路であるか特定されていない点。

4.相違点についての検討

相違点1に関し、
周知例1には、図12とともに、
「【0002】
【従来の技術】従来、利得可変増幅器として1つの差動増幅器に2つの差動増幅器がカスコード接続され、1つの出力端子に1つのトランジスタが接続されたものが知られている。以下、この従来例を第1の従来例という。図12は第1の従来例の利得可変増幅器の構成を示す回路図である。
【0003】第1の従来例には、エミッタ結合されたトランジスタQ23及びQ24を備えた第1の差動増幅器が設けられている。同様に、エミッタ結合されたトランジスタQ25及びQ26を備えた第2の差動増幅器が設けられている。トランジスタQ23乃至Q26は、相互に同等の形状及び特性を具備している。また、トランジスタQ23及びQ24のエミッタに接続されたトランジスタQ21並びにトランジスタQ25及びQ26のエミッタに接続されたトランジスタQ22が設けられている。そして、トランジスタQ21及びQ22及びその間に接続されたエミッタ抵抗R21及びR22を備えた第3の差動増幅器が設けられている。即ち、第1及び第2の差動増幅器が第3の差動増幅器にカスコード接続されている。
【0004】抵抗R21及びR22間のノードには、接地電位との間に定電流源S21が接続されている。また、トランジスタQ23及びQ26のコレクタには、夫々負荷抵抗R25及びR26が接続されており、負荷抵抗R25及びR26の他端は電源電位Vccに接続されている。
【0005】相補の入力信号IN及びINBは、夫々トランジスタQ21及びQ22のベースに入力される。一方、出力信号OUT21及びOUT22は、夫々トランジスタQ23及びQ26のコレクタの電位として出力される。
【0006】なお、トランジスタQ23及びQ26のベースには、制御信号Vcontの正電圧が入力され、トランジスタQ24及びQ25のベースには、制御信号Vcontの負電圧が入力される。制御信号Vcontにより、増幅器の利得が制御される。
【0007】このように構成された第1の従来例においては、トランジスタQ21乃至Q26のコレクタ電流を夫々ic21、ic22、ic23、ic24、ic25及びic26、出力信号OUT21及びOUT22の電圧を夫々VOUT21及びVOUT22、負荷抵抗R25及びR26の抵抗値を夫々R25及びR26、定電流源S21の電流値をI20、絶対温度をT、ボルツマン定数をk、電荷量をqとすると、下記数式1乃至3が成り立つ。
【0008】
【数1】
ic21=ic23+ic24
ic22=ic25+ic26
【0009】
【数2】
I20=ic21+ic22
ic21=ic22=I20/2
【0010】
【数3】
ic23=ic21/1+exp(-Vcont/Vt)
ic25=ic22/1+exp(+Vcont/Vt)
Vt=kT/q」
の記載がある。

特開2002-208827号公報(以下「周知例3」という)には、図3とともに、
「【0002】
【従来の技術】利得可変回路としては、ギルバートマルチプライヤを使用する構成が一般的である。その従来回路の一例を図3に示す。図3において、従来例に係る利得可変回路は、差動増幅回路101、2つの電流分割回路102,103、コントロール電圧(Vc)発生源104およびバイアス電圧(Vb)発生源105を有する構成となっている。
【0003】ここで、差動増幅回路101は、NPN型の差動対トランジスタQ101,Q102と、これら差動対トランジスタQ101,Q102の各エミッタ電極間に接続されたエミッタ抵抗R101と、差動対トランジスタQ101,Q102の各エミッタ電極とグランドとの間に接続された定電流源I101,I102とによって構成されている。そして、差動対トランジスタQ101,Q102の各ベース電極が回路入力端子106,107に接続されている。
【0004】一方の電流分割回路102は、各エミッタ電極がトランジスタQ101のコレクタ電極に共通に接続されたNPN型の差動対トランジスタQ103,Q104と、一方のトランジスタQ103のコレクタ電極と電源Vccとの間に接続された抵抗R102とからなる差動回路構成となっている。他方のトランジスタQ104のコレクタ電極は、電源Vccに直接に接続されている。
【0005】他方の電流分割回路103は、各エミッタ電極がトランジスタQ102のコレクタ電極に共通に接続されたNPN型の差動対トランジスタQ105,Q106と、一方のトランジスタQ103のコレクタ電極と電源Vccとの間に接続された抵抗R103とからなる差動回路構成となっている。他方のトランジスタQ106のコレクタ電極は、電源Vccに直接に接続されている。
【0006】これら電流分割回路102,103において、トランジスタQ103,Q105の各コレクタ電極が回路出力端子108,109に接続されている。また、トランジスタQ104,Q106の各ベース電極がコントロール電圧発生源104の正極側に共通に接続され、トランジスタQ103,Q105の各ベース電極がコントロール電圧発生源104の負極側に共通に接続されている。バイアス電圧発生源105は、トランジスタQ103,Q105の各ベース電極に正極側が、グランドに負極側がそれぞれ接続されている。
【0007】上記構成の利得可変回路において、トランジスタQ103,Q104の各コレクタ電流をIc1,Ic2、コントロール電圧発生源104のコントロール電圧をVcとすると、
Ic2/Ic1=exp(Vc/Vt) ……(1)
となる。ここで、Vt=kT/qであり、kはボルツマン定数、Tは絶対温度、qは電子の電荷量である。
【0008】また、定電流源I101の電流値をIAとすると、Ic1+Ic2=IAであるから、
Ic1/IA=Ic1/(Ic1+Ic2)
=1/{1+(Ic2/Ic1)} ……(2)
となる。よって、(2)式に(1)式を代入すると、
Ic1/IA=1/{1+(exp(Vc/Vt))} ……(3)
となる。
【0009】ここで、入力電圧をvi 、出力電圧をvo 、抵抗R101の抵抗値をRA、抵抗102,R103の各抵抗値をRBとすると、従来例に係る利得可変回路の利得Avは、
【数1】
で与えられる。この(4)式から明らかなように、コントロール電圧発生源104のコントロール電圧Vcによって利得Avが可変となる。」
の記載がある。

特開平7-210995号公報(以下「周知例4」という)には、図7とともに、
「【0041】ゲイン可変増幅器
図7はゲイン可変増幅器の構成図である。図7の構成はギルバートセルとよばれ、既に多くの回路に使用されているものである。ゲイン可変増幅器101は、互いに極性の異なる再生信号RDS1,RDS2が入力されるトランジスタQ5,Q6を備えた差動アンプ段101a、差動アンプ段の各トランジスタに電流を供給するバイアス部101b、定電流部101c、出力バッファ段101d、トランジスタスイッチ部101eを有している。トランジスタスイッチ部101eはAGC制御部102から出力される制御電圧信号Vcntと予め設定されている基準電圧Vrefの大小に応じて差動アンプ段101aのゲインを制御する2組のトランジスタスイッチSW1(Q1,Q2),SW2(Q3,Q4)を有している。トランジスタスイッチ部101eは制御電圧信号Vcntと基準電圧Vrefを比較し、基準電圧と制御電圧が等しくなるようにトランジスタQ1?Q4の導通度を制御し、結果的に差動アンプ101aのゲインを制御し、再生信号RDS1,RDS2の振幅が最適値となるようにする。」
の記載がある。

よって、上記周知例1,3,4によれば、
ギルバート回路として、
「前記第1の増幅用トランジスタとカスコード接続された差動構成の第1、第2の振幅調整用トランジスタを含み、この第1、第2の振幅調整用トランジスタに入力される振幅調整信号GCT,GCCに応じて前記第1の増幅用トランジスタの出力信号の振幅を調整する振幅調整部と、
前記増幅部および振幅調整部に定電流を供給する第1の電流源とから構成され、」
ており、
「振幅可変増幅器の振幅調整部」が
「ベースに前記正相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された正相入力側の前記第1の増幅用トランジスタと、ベースに前記逆相入力信号が入力され、エミッタが前記第1の電流源に接続された逆相入力側の前記第1の増幅用トランジスタとを備え、
前記振幅可変増幅器の振幅調整部は、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される正相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCCが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに電源電圧が供給される逆相出力用の前記第1の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記逆相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに正相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される正相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタと、
ベースに前記振幅調整信号GCTが入力され、エミッタが前記正相入力側の第1の増幅用トランジスタのコレクタに接続され、コレクタに逆相出力側のコレクタ抵抗を介して電源電圧が供給される逆相出力用の前記第2の振幅調整用トランジスタとを備え」る回路
は周知である。(以下、「ギルバート回路A」という)

そして、周知例1,3によれば、上記のギルバート回路Aが、
「前記差動入力信号に応じて前記第1の増幅用トランジスタで生成された電流を、前記振幅調整信号GCT,GCCの大小関係で決定される分配比で前記第1、第2の振幅調整用トランジスタに分配し、前記正相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記正相出力側のコレクタ抵抗との接続点から正相出力信号を出力し、前記逆相出力用の第2の振幅調整用トランジスタのコレクタと前記逆相出力側のコレクタ抵抗との接続点から逆相出力信号を出力する」
ように動作することは自明である。

引用例1の図7、周知例1の図13、周知例2の図3に記載されるギルバート回路(以下、「ギルバート回路B」という)と、ギルバート回路Aについては、周知例1の【0011】及び【0012】に、可変利得増幅器において、ギルバート回路Aの欠点を解消することを目的とした回路としてギルバート回路Bが知られていると記載されているように、可変利得増幅器としてギルバート回路Bもギルバート回路Aも周知の回路であり、どちらの回路を採用するかは設計的事項である。
したがって、引用発明のギルバート回路Bに代えて周知例1,3,4に記載されるギルバート回路Aを用いて所定の出力信号を出力することは容易である。

相違点2について
引用発明の回路の出力がどのような機能を有するのか特定されていないが、少なくとも何かを駆動するものであることは当然であり、何かを駆動する回路を「ドライバ回路」というから、引用発明も、駆動の対象は特定されないが「ドライバ回路」であるといえる。
一方、本願発明も「ドライバ回路」であって、何を駆動する「ドライバ回路」であるかは規定されていない。

よって、引用発明の回路がどのような目的の回路か特定されていないが、本願発明との実質的な差異をもたらすものではない。

5.むすび

したがって、請求項1記載の発明は引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論の通り審決する。
 
審理終結日 2013-05-31 
結審通知日 2013-06-03 
審決日 2013-06-17 
出願番号 特願2009-120658(P2009-120658)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高橋 義昭  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 吉田 隆之
吉村 博之
発明の名称 ドライバ回路  
代理人 豊田 義元  
代理人 渡部 比呂志  

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