• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1277534
審判番号 不服2010-23402  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-18 
確定日 2013-08-09 
事件の表示 特願2005-502611「抗菌ペプチド阻害剤による疾患治療」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日国際公開、WO2004/056307、平成18年 4月27日国内公表、特表2006-514106〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 [1]手続の経緯
本願は,2003年12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年12月19日 イスラエル,2003年7月17日 イスラエル)を国際出願日とするものであって,拒絶理由通知に応答して平成22年5月28日を受付日とする意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,同年6月16日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年10月18日を受付日とする拒絶査定不服審判が請求されたものである。
(なお,審判請求と同日付け提出の手続補正書に係る手続は,平成23年1月5日付けで却下されている。)

[2]本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は,平成22年5月28日を受付日とする手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。
『 炎症、悪性腫瘍、自己免疫疾患、皮膚疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患、傷治療から選択された疾患を治療する薬剤の製造方法において、
抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子の活性度を低下させる化合物を利用する
ことを特徴とする薬剤の製造方法。 』

[3]引用例の記載事項

A.米国特許出願公開第2002/0072495号明細書(原査定時の引用例12)
B.American Journal of Pathology,2002年 4月,Vol.160, No.4,p.1311-1324(原査定時の引用例15)

原査定の拒絶の理由に引用された,本願の第一優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな上記刊行物A,B(以下,単に刊行物A,Bという。)には,それぞれ以下の事項が記載されている。(刊行物A,Bいずれも英文のため訳文にて記す。下線は当審による。)

(a)刊行物Aの記載事項
(a1)請求の範囲
『 ・・・
8.対象において免疫応答を低下させる化合物を検出する方法であって,以下のように構成される方法:
a)LL-37を含む白血球遊走系を当該化合物に接触させ;そして
b)当該化合物なしの系における白血球遊走に比しての当該化合物に伴う同系での白血球遊走の低下を検出し,ここで,当該化合物に伴う同系での白血球遊走の低下は対象における免疫応答を低下せしめる化合物を検出する。
・・・
12.対象における自己免疫疾患を治療する方法であって,請求項8の方法にしたがって検出された化合物の十分な量を同対象に投与することからなり,ここで該化合物の投与は対象における自己免疫疾患を処置する,方法。
・・・』

(a2)第1頁左欄第12?36行
『 [0005] 種々の小さい(<100アミノ酸)抗菌性ペプチド・・・。ヒトでは,これら抗菌性ペプチドのうち・・・18kDaのヒトカチオン性抗微生物タンパクであるhCAP18が含まれる(1)。hCAP18は・・・カセリシジンと称されるタンパクのファミリーに属する(5)。・・・。hCAP18の開裂は,・・・N末端に2つのロイシン残基を有する37残基の成熟した抗微生物性ペプチドLL-37を生じる。LL-37/hCAP18は好中球顆粒中に存在し(3)そして骨髄及び精巣(4),炎症性皮膚ケラチノサイト(7),肺上皮(8),ならびにヒトの口腔,舌,食道,子宮頸部及び膣の扁平上皮(9)により産生される。LL-37はヒトにおいてカセリシジンと称されるタンパク質ファミリーのメンバーとして唯一同定されたものである。』

(a3)第3頁左欄第1?37行
『 [0032] 本発明はまた,対象において免疫応答を低下させる化合物を検出する方法をも提供し,・・・。当業者に知られているとおり,“白血球遊走系”とはマイクロ走化性チャンバーであって,・・・。化学走化性因子を含むチャンバーへの白血球の遊走を低下させる化合物は,対象における免疫応答を低下させる。ここで用いられているとおり,“白血球”とは,それらに限定されないが,単球,好中球,T細胞,好塩基球及び好酸球を含む。
[0033] したがって,本発明は,対象における免疫応答を低下させる化合物を投与することによる,対象において自己免疫疾患を処置する方法を提供する。・・・上記方法によって同定された化合物は,単球上のFPRL1受容体と競合的に結合し,よってLL-37のFPRL1受容体への結合を防止し,結果として対象における免疫応答を低下させるものと考えられる。』

(b)刊行物Bの記載事項
(b1)第1311頁 標題
『腎細胞癌におけるヒトα-ディフェンシンHNPs-1,2,及び-3』

(b2)第1312頁右欄第29?36行
『 HNP-1,-2,及び-3の発現の分析のため,ネズミモノクローナル抗体(mAb)DEF-3(・・・),及び高度精製HNP-1(・・・)^(34)に対し調製された他のネズミmAbが適用された。いずれの抗体もHNP-2及び-3をも認識したが,HNP-4は認識しなかった。・・・』

(b3)第1315頁左欄第4行?右欄第2行
『 腫瘍細胞増殖試験
RCC(10^(4)/ウェル)は,三連で96ウェル丸底マイクロタイタープレート(・・・)中にて,異なる濃度の合成HNP-1又は単離HNP-1,-2,及び-3ペプチド画分(0?100μg/ml)の存在下及び非存在下で・・・培養された。24時間後に細胞増殖はトリチウム化チミジン([^(3)H]TdR)(・・・)の核への取り込みを・・・測定することにより定量した。・・・。細胞増殖の抑制試験は,ディフェンシンをポリクローナル又はモノクローナルDEF3抗体と共に前培養することにより行われた。
・・・
増殖はまた,8ウェルの・・・スライド(・・・)上でディフェンシン12.5μg/mlの存在下及び非存在下で・・・培養された腫瘍細胞の直接計数によっても評価された。40時間後に細胞核がスライド上で・・・染色され・・・。各培養ウェルの底(ウェルあたり?0.25cm^(2))に付着した腫瘍細胞の細胞核は・・・デジタル画像上で定量された。』

(b4)第1319頁本文左欄第12行?右欄第17行
『 HNPs-1,-2,及び-3によるRCC増殖の調節
・・・。図8Aに示されるように,HNP-1,-2及び-3ペプチド画分6?25μg/mlでのインキュベーションは,・・・24時間後5種の試験されたRCC株のうち2種(A-498及び786-0)において^(3)H-チミジン取り込みにより測定されたDNA合成を強く刺激した。より高い濃度下(>25μg/ml)では,α-ディフェンシン混合物は試験された全ての細胞株においてDNA合成の抑制を示した。・・・。細胞増殖の誘導・・・はまた,RCC株A-498を12.5μg/mlの合成ペプチドHNP-1と共にインキュベートすることによっても再生された。対照的に,α-ディフェンシンにより誘導されたRCC株A-498の増殖は,mAbDEF3(12.5μg/ml)を伴うHNP-1,-2,及び-3ペプチド画分での前培養により抑制され得た(図8B)。 ・・・チャンバースライド上で培養されたA498腫瘍細胞の蛍光標識された細胞核の直接計測もまた,・・・ディフェンシン12.5μg/mlでの刺激40時間後の総細胞数の顕著な増大を裏付けた(図8C)。』

[4]当審の判断

1.刊行物Aについて
(1)対比
刊行物Aには,対象において免疫応答を低下させる化合物を検出する方法((a1)請求項8),ならびに,当該化合物を対象に投与することにより自己免疫疾患を治療する方法((a1)請求項12)が記載されている。ここで,(a1)請求項8の記載によれば,当該化合物は,カセリシジンに属するhCAP18の開裂により生じる抗菌性ペプチドLL-37((a2))により誘導される白血球遊走を低下させるものであることが認められ,(a3)の記載によれば,このLL-37誘導性白血球遊走を低下させる化合物は,対象における免疫応答を低下させることから,当該化合物の投与により対象における自己免疫疾患を治療する方法が提供されることが認められる。
そうすると,刊行物Aには
「 LL-37による白血球遊走を低下させる化合物を対象に投与することにより,自己免疫疾患を治療する方法」
の発明(以下,単に「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と引用発明Aを対比する。
本願明細書には,「AMP/AML」,即ち「抗菌ペプチド(AMP)」(段落【0001】等)/「抗菌ペプチド類似分子(AML)」(段落【0012】),の例としてカセリシジンであるLL-37が挙げられている(段落【0318】及び【0325】)から,引用発明AのLL-37は,本願発明の「抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子」に相当する。また,引用発明Aにおける「白血球遊走を低下させる」ことは,白血球遊走の「活性度を低下させる」ことに相当する。さらに,引用発明Aにおいて,前記化合物を対象に投与することは,当該化合物を「利用する」ことに他ならない。
これらのことを踏まえると,両者は
自己免疫疾患の治療において,抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子の活性度を低下させる化合物を利用することを特徴とする,方法
の点で一致する一方,
抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子の活性度を低下させる化合物を,本願発明では,自己免疫疾患を「治療する薬剤の製造方法」において利用するのに対し,引用発明Aでは,自己免疫疾患を「治療する方法」における投与物として利用する
という点で相違する。

(2)判断
上記相違点につき検討する。
化合物を患者に投与して疾患の治療に利用する際,その化合物を含む薬剤を製造してから投与することは,当業者にとり常套手段であるから,引用発明Aにおける化合物を自己免疫疾患の治療の目的で患者に投与するために,当該化合物を自己免疫疾患を治療する薬剤の製造方法において利用することは,当業者であれば容易になし得たことに過ぎない。
そして,本願発明が当業者の予想を超える効果を奏するものとも認められない。

(3)小括
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物Aに記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

2.刊行物Bについて
(1)対比
(b3)及び(b4)の記載によれば,刊行物Bには,RCC(腎細胞癌)株A-498及び786-0が,6?25μg/mlのHNP-1,-2及び-3ペプチド刺激に応答して増殖したことが記載されていると認められる。また,刊行物Bには,モノクローナル抗体(mAb)DEF3と共にHNP-1,-2,及び-3ペプチドで前培養することによりA-498の増殖が抑制されたことが記載されている((b4))。ここで,HNP-1,-2及び-3ペプチドはα-ディフェンシンであり((b1)),mAbDEF-3は該HNP-1,-2及び-3を特異的に認識する抗α-ディフェンシン抗体である((b2))。
そうすると,刊行物Bには
「腎細胞癌細胞のα-ディフェンシン応答性増殖を,抗α-ディフェンシン抗体を投与することにより抑制する方法」
の発明(以下,単に「引用発明B」という。)が記載されているものと認められる。

本願発明と引用発明Bを対比する。
引用発明Bの「腎細胞癌細胞」は,腎細胞癌が腎悪性腫瘍の一種であることが本願第一優先日前技術常識であったと認められること(「南山堂 医学大辞典(豪華版)」第18版(1998年1月16日 第1刷発行) (株)南山堂 第1042-1043頁「腎細胞癌」の項を参照のこと。)から,腎悪性腫瘍の構成物であって本願発明の「悪性腫瘍」に相当する。また,本願明細書には,「AMP/AML」の例としてα-ディフェンシンも挙げられているから(段落【0318】及び【0319】),引用発明Bの「α-ディフェンシン」は本願発明の「抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子」に相当し,引用発明Bの「抗α-ディフェンシン抗体」は,α-ディフェンシンによる腎細胞癌細胞の増殖刺激活性を抑制する,即ち「低下させる」ものであるから,前記「α-ディフェンシン」の「活性度を低下させる化合物」に相当する。さらに,引用発明Bにおいて,抗α-ディフェンシン抗体を投与して腎細胞癌細胞の増殖を抑制することは,当該抗体を「利用する」ことに他ならない。
これらのことを踏まえると,両者は
悪性腫瘍に対し,抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子の活性度を低下させる化合物を利用することを特徴とする,方法
の点で一致する一方,
抗菌ペプチド(AMP)又は抗菌ペプチド(AMP)類似分子の活性度を低下させる化合物を,本願発明では,悪性腫瘍を「治療する薬剤の製造方法」において利用するのに対し,引用発明Bでは,悪性腫瘍の「α-ディフェンシン応答性増殖を抑制する方法」において利用する
という点で相違する。

(2)判断
上記相違点につき検討する。
悪性腫瘍細胞の増殖を抑制する作用を有する化合物を,同細胞で構成される悪性腫瘍の治療のための有効成分とし,同化合物を含む薬剤を製造することは,当業者であれば当然検討することであるから,引用発明Bの抗α-ディフェンシン抗体を,α-ディフェンシンに対し増殖応答を示す腎悪性腫瘍細胞で構成される腎悪性腫瘍の治療のための有効成分として薬剤を製造する方法において利用することは,当業者であれば容易に想到し得たことである。
そして,本願発明が当業者の予想を超える効果を奏するものとも認められない。

(3)小括
したがって,本願発明は,刊行物Bに記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3.請求人の主張について
審判請求書の(c)における,原査定の特許法第29条第2項違反の拒絶の理由に対する請求人の反論は,既に却下された手続に係る手続補正書に記載された特許請求の範囲に基づくものであるから,参酌できない。また,(c)中には「引例1-16のいずれにも、カセリシジンについての記載はないと思慮する。」との主張もされているが,上の1.で述べたとおり,刊行物B(引用例12)にはカセリシジンに相当するLL-37及びその白血球遊走化を低下させる化合物,ならびに当該化合物の自己免疫疾患治療の用途等について記載されているから,かかる請求人の主張は失当である。

また,請求人は,平成23年8月24日を受付日とする上申書において,却下された手続に係る手続補正書に記載されたのと同内容の特許請求の範囲を記載して,その特許請求の範囲に基づき判断されるよう希望している。しかしながら,却下された手続に係る手続補正書の記載内容に基づいて審理をすることができないのは当然のことである。なお,同上申書の特許請求の範囲に記載された発明は依然として拒絶の理由を有していることから,このような特許請求の範囲への変更を行うための更なる補正の機会を敢えて与えるまでもないと判断した。

4.むすび
以上1.?3.で述べたとおりであるから,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項について論及するまでもなく,この特許出願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-18 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2005-502611(P2005-502611)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 横井 宏理  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 平井 裕彰
大久保 元浩
発明の名称 抗菌ペプチド阻害剤による疾患治療  
代理人 三俣 弘文  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ