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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  B23K
管理番号 1277593
審判番号 無効2012-800011  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-02-15 
確定日 2013-08-14 
事件の表示 上記当事者間の特許第3512634号発明「レーザ加工方法、被レーザ加工物の生産方法、およびレーザ加工装置、並びに、レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成10年 5月11日 出願(特願平10-127628号)
平成16年 1月16日 設定登録(特許第3512634号)
平成24年 2月15日 無効審判請求
平成24年 4月27日 答弁書
平成24年 5月30日 通知書(審理事項通知)
平成24年 6月26日 両者・口頭審理陳述要領書
平成24年 6月28日 通知書(審理事項通知(2))
平成24年 7月 6日 両者・口頭審理陳述要領書(2)
平成24年 7月 6日 応対記録(進行メモ)
平成24年 7月10日 口頭審理

本件審判は、平成23年法律第63号による改正特許法の施行(平成24年4月1日)前に請求されたものであるから、同法改正附則第2条第18項によりなお従前の例による。
本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。

第2.本件発明
本件特許の無効審判請求対象である請求項3及び9に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項3】 被覆材を表面に設けた被加工物を、アシストガスを用いたレーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、
最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたことを特徴とするレーザ加工方法。
【請求項9】 前記請求項1?5のいずれか一つに記載されたレーザ加工方法、または、前記請求項6に記載された被レーザ加工物の生産方法を、コンピュータに実行させるプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータが読取可能な記録媒体。」

第3.請求人の主張
1.条文
特許法第29条第2項(第123条第1項第2号)

2.証拠
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

甲第1号証:特開平7-241688号公報
甲第2号証:特開昭63-33191号公報
甲第3号証:特開昭60-174289号公報
甲第4号証:特開平2-284780号公報
甲第5号証:特開平9-192871号公報
甲第6号証:特開平2-295688号公報
甲第7号証:特開平9-47888号公報
甲第8号証:平成22年(ワ)第20084号、平成24年2月8日付け 被告(請求人)第10準備書面、第22?42ページ
甲第9号証:平成22年(ワ)第20084号、平成24年3月30日付 け原告(被請求人)第8準備書面、第20?25ページ
甲第10号証:平成22年(ワ)第20084号、平成24年5月25日 付け被告(請求人)第12準備書面、第24?29ページ
甲第11号証:特開平6-304773号公報

なお、甲第8ないし10号証は、請求人・口頭審理陳述要領書(1)とともに提出され、甲第11号証は、同(2)とともに提出された。

3.概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)審判請求書第5ページ第17行?第31ページ第17行
「2.2.1 甲第1号証(特開平7-241688号公報)
・・・
以上のことから、甲第1号証には、本件発明1の構成要件にあわせて記載すれば、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
a:樹脂材の薄膜からなる保護シート5を表面に貼付したワーク4を、アシストガス300を用いたレーザビーム100により切断加工するにあたり、切断加工とは異なる加工条件により切断加工経路102上の保護シート5を焼付ける焼付け加工工程と、保護シート5を焼付けしたワーク4の切断加工経路102上にレーザビームを照射し、加工を行う切断加工工程とを含むレーザ加工方法において、
b:切断加工経路102に沿った焼付け面101を前記焼付け加工工程による保護シート5の焼付け範囲とした
c:ことを特徴とするレーザ加工方法。

2.2.2 甲第2号証(特開昭63-33191号公報)
・・・
以上のことから、甲第2号証には、保護材1で表面が覆われた金属部材2を、レーザにより溶断加工するにあたり、初めに保護材1の溶断を目的に出力400wでレーザ照射を行い、保護材1のみを円形に溶断する工程と、保護材1が円形に溶断された部分に対して出力約800wの溶断加工を行い、所定の孔径を溶断する工程とを含むレーザ加工方法が記載されている。
そして、・・・、甲第2号証には、本件発明1の構成要件にあわせて記載すれば、次の技術が記載されている。
被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、
最終加工軌跡上における加工部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲とした
ことを特徴とするレーザ加工方法。

2.2.3 甲第3号証(特開昭60-174289号公報)
・・・
以上のことから、上記甲第3号証のア及びエの記載によれば、甲第3号証には、金属製の母材に合成樹脂の被膜が付着された材料をレーザ光で切断加工するにあたり、弱いエネルギのレーザ光で被膜だけを切断する工程、強いエネルギのレーザ光で母材を切断する工程とを含むレーザ加工方法が記載されている。
そして、・・・、甲第3号証には、本件発明1の構成要件にあわせて記載すれば、次の技術が記載されている。
被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、
最終加工軌跡上における加工部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲とした
ことを特徴とするレーザ加工方法。

2.2.4 甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術の認定
甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術の認定によれば、被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、最終加工軌跡上における加工部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたことを特徴とするレーザ加工方法は周知である。
すなわち、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を前処理する第1加工工程において、被覆材の前処理として被覆材を除去することはレーザ加工方法において従来周知の技術である。

2.2.5 甲第4号証(特開平2-284780号公報)
・・・
以上のことから、甲第4号証に記載された技術は、表面に樹脂フィルムが重合された鋼板のレーザ加工において、アシストガスの噴出が行われても樹脂フィルムが鋼板より浮き上がることなく、ピアス成形が良好に行われるように改良されたピアス成形方法を提供することを目的として、ピアスが鋼板に貫通穿設されるまでの間は、押え片25により樹脂フィルムFを押えて樹脂フィルムFが鋼板より浮き上がることを回避し、ピアス成形完了後の切断作業の際には押え部材23を後退位置に移動するものであって、アシストガスは切断作業時にも被加工物Wに対し噴出されるが、アシストガスの一部乃至多くがピアスP或いは切断スリットを通過して流れるようになることから、樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることはないものである。

2.2.6 甲第5号証(特開平9-192871号公報)
・・・
以上のことから、甲第5号証に記載された技術は、レーザ加工ヘッドを用いた表面被覆材の切断方法に関し、ピアシング又はレーザ切断加工時に加工部周囲の被覆材が金属部から剥離することなく、かつ、同一の切断経路を2回通過し加工時間が2倍近く必要とはならない表面被覆材のレーザ加工方法を提供することを目的として、ピアシング時には、遊動ノズル17の排出口25から逆流する余分なアシストガスAG及び金属蒸気などを大気中に排出し、ピアシングに続く切断加工時には、遊動ノズル17の排出口25を閉止して切断加工を実施することにより、レーザ加工ヘッド1から供給されるアシストガスAGを表面被覆材29の切断溝31から全て下方に排出し、被覆材29Aが母体金属29Bから剥離することなく良好な切断を実施するようにしたものである。

2.2.7 甲第6号証(特開平2-295688号公報)
・・・
以上のことから、甲第6号証に記載された技術は、フィルムコーティング材にレーザ加工を行う際、フィルムがめくれず加工が安定して外観が汚れず、ピアス時にバルーンにならず、さらにレーザ加工が従来に比べて短時間で行えるようにすることを目的として、レーザビームによりフィルムを溶かして蒸発させると共に、フィルムを溶かして蒸発させると同時に母材を切断するようにしたフィルムコーティング材のレーザ加工方法である。

2.2.8 甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術の認定
被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工する際、被覆材と母材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離を起こし、切断加工に支障をきたすこと、特に、切断開始点における穿孔作業であるピアシング時において被覆材の剥離が顕著であることは、甲第4号証ないし甲第6号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知であった。
また、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工する際、被覆材の剥離を防止するため、まず、レーザビームをデフォーカスさせた状態で切断経路上の被覆材を溶融させ、その後、レーザビームの焦点を合わせた状態で再度同じ経路をピアシング及び切断することが行われていたこと、及び、この場合には、加工時間が2倍近く必要になるという問題があることは、甲第5号証及び甲第6号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知であった。
さらに、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時には、アシストガスを排出しやすくしたり、あるいは被覆材を母材に押しつけたりして、被覆材の剥離が生じない工夫をするとともに、ピアシング後の切断時には、アシストガスが切断溝から下方に排出されることから、通常の切断作業を行うようにすることは、甲第4号証及び甲第5号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知であった。

2.2.9 甲第7号証(特開平9-47888号公報)
・・・。したがって、甲第7号証には、本件発明1及び2の構成要件にあわせて記載すれば、次の技術が記載されている。
所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物が表面に付着した被加工材に対し、レーザ光を照射すると共にアシストガスを噴射して加工するにあたり、切断作業とは異なる加工条件により切断作業位置上の弊害物を除去する弊害物除去工程と、弊害物を除去した被加工材の切断作業位置上にレーザ光を照射し、穿孔及び切断を行う穿孔工程及び切断作業を実施するレーザ加工方法において、
切断作業位置上におけるピアシング位置を弊害物の除去範囲とした
ことを特徴とするレーザ加工方法。
及び、前記のレーザ加工方法における所定の加工を実施するために必要な情報を格納したことを特徴とするROM。

3 無効理由(特許法第29条第2項)
3.1 本件発明1について
・・・
よって、本件発明1と引用発明とを対比すると、両者は、
・・・、次の点で相違している。
相違点1:第1加工工程による被覆材の前処理が、本件発明1は被覆材の除去であるのに対し、引用発明では保護シート5の焼付けである点。
相違点2:第1加工工程による被覆材の前処理範囲が、本件発明1は最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位であるのに対し、引用発明では最終加工経路102に沿った焼付け面101、すなわち最終加工軌跡上におけるすべての加工部位としている点。

3.1.2 相違点の判断
3.1.2.1 相違点1について
前記「2.2.4 甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術の認定」によれば、被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を前処理する第1加工工程において、被覆材の前処理として被覆材を除去することはレーザ加工方法において従来周知の技術である。そして、引用発明と甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術とは、被覆材の被覆された被加工物のレーザ加工という同一の技術分野に属し、また、被覆材の被覆された被加工物のレーザ加工において被覆材が存在していてもレーザ加工に悪影響を及ぼさないようにするという共通の課題を有するから、引用発明に甲第2号証及び甲第3号証に記載された周知技術を適用することに格別の困難性は存在しない。
したがって、引用発明において、被覆材の前処理における焼付けに代えて、従来周知の技術である除去とすることは、当業者が容易に想到できたものである。

3.1.2.2 相違点2について
前記「2.2.8 甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術の認定」によれば、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工する際、被覆材を前処理することなく被加工物をレーザ加工しようとすると、被覆材と母材との間にアシストガスが侵入して被覆材が剥離を起こし、切断加工に支障をきたすこと、特に、切断開始点における穿孔作業であるピアシング時において被覆材の剥離が顕著であることは、甲第4号証ないし甲第6号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知である。
また、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工する際、被覆材の剥離を防止するため、レーザビームをデフォーカスさせた状態で切断経路上の被覆材を溶融させ、すなわち、被覆材の前処理を行い、その後、レーザビームの焦点を合わせた状態で再度同じ経路をピアシング及び切断することが行われていたこと、及び、この場合には、加工時間が2倍近く必要になるという問題があることは、甲第5号証及び甲第6号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知である。
さらに、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時には、アシストガスを排出しやすくしたり、あるいは被覆材を母材に押しつけたりして、被覆材の剥離が生じない工夫をするとともに、ピアシング後の切断時には、アシストガスが切断溝から下方に排出されることから、通常の切断作業を行うようにすることは、甲第4号証及び甲第5号証に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知である。すなわち、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時だけ被覆材の剥離が生じないように特別の工夫をして被加工物を穿設し、ピアシング後の切断時には、被覆材に何らの措置も施すことなく通常の被加工物の切断作業を行うことは、レーザ加工方法において従来周知である。
上記従来周知の技術によれば、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、ピアシング位置に対してだけ被覆材の剥離が生じないように前処理を行うようにすることは、当業者が容易になし得ることである。そうすると、引用発明において第1加工工程による被覆材の前処理範囲を最終加工軌跡上におけるすべての加工部位としているものを、最終加工軌跡上におけるピアシング位置、すなわち加工開始部位とすることは当業者が容易に想到できたものである。
さらに、被覆材ではないが所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物が表面に付着した被加工材に対し、レーザ光を照射すると共にアシストガスを噴射して加工するにあたり、切断作業とは異なる加工条件により切断作業位置上の弊害物を除去する弊害物除去工程と、弊害物を除去した被加工材の切断作業位置上にレーザ光を照射し、穿孔及び切断を行う穿孔工程及び切断作業を実施するレーザ加工方法において、切断作業位置上におけるピアシング位置を弊害物の除去範囲とすることは甲第7号証に記載されているとおり公知の技術である。
上記公知の技術によれば、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、ピアシング位置に対してだけ被覆材の剥離が生じないように前処理を行うようにすることは、当業者が容易になし得ることである。そうすると、引用発明において第1加工工程による被覆材の前処理範囲を最終加工軌跡上におけるすべての加工部位としているものを、最終加工軌跡上におけるピアシング位置、すなわち加工開始部位とすることは当業者が容易に想到できたものである。
・・・
5.2 本件発明2について
・・・。また、例えば甲第7号証に記載されているように、レーザ加工方法をコンピュータに実行させるプログラムをコンピュータが読取可能な記録媒体に格納することは当業者が通常行う事項にすぎないから、請求項3に記載されたレーザ加工方法(すなわち、本件発明1)をコンピュータに実行させるプログラムを、「コンピュータが読取可能な記録媒体」に格納するという限定を追加したとしても、この限定の追加をもって発明の進歩性が認められるものではない。」

(2)口頭審理陳述要領書第5ページ第15行?第10ページ末行
「(3)相違点2について
(a)引用発明と甲4ないし甲6との組合せについて
・・・。したがって、ピアシング時には、被覆材の剥離が生じない工夫をするが、ピアシング後の切断時には、アシストガスが切断溝から下方に排出されることから、被覆材の剥離が生じない工夫をすることなく切断作業を行うようにすることは、甲4及び甲5に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知であったのである。
・・・
しかしながら、審判請求書の「2.2.8 甲第4号証ないし甲第6号証に記載された周知技術の認定」(23頁)において述べたとおり、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時には、アシストガスを排出しやすくしたり、あるいは被覆材を母材に押しつけたりして、被覆材の剥離が生じないような工夫をし、ピアシング後の切断時には、アシストガスが切断溝から下方に排出されることから、被覆材の剥離が生じないような工夫をすることなく切断作業を行うようにすることは、甲4及び甲5に記載されているようにレーザ加工方法において従来周知であった。すなわち、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時だけ被覆材の剥離が生じないように特別の工夫をして被加工物を穿設し、ピアシング後の切断時には、被覆材の剥離が生じないように何らの措置も施すことなく被加工物の切断作業を行うことは、レーザ加工方法において従来周知である。
そうすると、この周知技術を引用発明に適用すれば、引用発明において第1加工工程による被覆材の前処理範囲を最終加工軌跡上におけるすべての加工部位としているものが、最終加工軌跡上におけるピアシング位置、すなわち加工開始部位となるのであるから、必然的に新たな装置を必要としないという本件発明1と同様の構成となることは明らかである。

(b)引用発明と甲7との組合せについて
・・・。しかしながら、本件発明1、引用発明及び甲7に記載された公知技術はすべて、アシストガスを用いて切断加工するレーザ加工方法であり、また、それぞれの実施例では切断加工する材料として表面加工がなされた金属を含む点で共通するものである。さらに、本件特許明細書には、従来の技術及び発明が解決しようとする課題として次の記載がある。
・・・
この記載によれば、本件発明1の従来の技術は、甲7と同様に、鋼材(すなわち、金属)の表面に亜鉛メッキ層(すなわち、塗装等の弊害物)が形成され、レーザ加工時にアシストガスの純度が低下しないように高いまま保つという課題の解決も含むものであり、また、本件発明1は前記従来の技術の問題点を解決しようとするものであるから、本件発明1の被覆材22は、塗装等の弊害物に相当する亜鉛メッキ層を含むものである。そうすると、本件発明1では、「被覆材」について何らの特定はなされておらず、被覆材として甲7の亜鉛メッキ層と引用発明のシートの両者を含むものであるから、本件発明1の進歩性の判断において、両者は互いに関連のあるものであることは明らかであり、塗装等の弊害物に関する甲7に記載された公知技術を、引用発明のような被覆材の剥離に適用して本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものである。」

(3)口頭審理陳述要領書(2)第6ページ第24行?第7ページ第20行
「ア 甲4?6の周知技術の適用について
平成24年6月26日付け口頭審理陳述要領書12頁?13頁で述べたとおり、甲4?甲6のレーザ加工方法における周知技術によれば、引用発明のように、被覆材の前処理を行い、その後、レーザビームの焦点を合わせた状態で再度同じ経路をピアシング及び切断する場合には、加工時間が2倍近く必要になるという問題があった。そして、切断開始点における穿孔作業であるピアシング時において被覆材の剥離が顕著であり、また、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時だけ被覆材の剥離が生じないように特別の工夫をして被加工物を穿設し、ピアシング後の切断時には、被覆材の剥離が生じないように何らの措置も施すことなく被加工物の切断作業を行うことも、レーザ加工方法において従来周知である。そうすると、当業者であれば、引用発明に潜在する周知の問題を認識した場合には、その問題の解決のために甲4?甲6に記載されたレーザ加工方法における周知技術の適用に想到するはずである。したがって、引用発明に甲4?甲6に記載された周知技術を適用する動機付けは存在する。

イ 「加工開始部位または/および加工終了部位」と他の部位とを区別することについて
上記アで述べたとおり、甲4?甲6のレーザ加工方法における周知技術によれば、引用発明のように、被覆材の前処理を行い、その後、レーザビームの焦点を合わせた状態で再度同じ経路をピアシング及び切断する場合には、加工時間が2倍近く必要になるという問題があったのである。そして、切断開始点における穿孔作業であるピアシング時において被覆材の剥離が顕著であり、また、被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時だけ被覆材の剥離が生じないように特別の工夫をして被加工物を穿設し、ピアシング後の切断時には、被覆材の剥離が生じないように何らの措置も施すことなく被加工物の切断作業を行うことも、レーザ加工方法において従来周知である。したがって、これらの周知技術を考慮し、引用発明に潜在する周知の問題を認識した場合には、その問題の解決のために加工開始部位のみに前処理を施すことは、当業者であれば容易に想到し得るものである。」

(4)口頭審理調書の請求人欄
「2 本件、特許明細書の段落「0002」に「低融点物質」との記載があるから、甲第11号証の塗装も被覆材である。
3 甲第1号証の焼き付けを甲第2号証、甲第3号証の周知事術に換える動機は、共に同様な目的を達成するので置き換え可能ということであって、「積極的に置き換えるべき」とまでは主張していない。
4 周知技術の認定は、証拠の発行順序を問題としない。
5 甲第6号証の「バルーン」は、大きく剥離することであり、剥離しやすいことを示している。
6 ピアシング後の切断時に通常加工であることの「通常加工」とは、特別なことをやらないことを意味している。
7 甲第11号証についての主張と同様に、甲第7号証の塗装も被覆材に含まれるものである。」

第4.被請求人の主張
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。
その主張の概要は、以下のとおりである。

(1)答弁書第3ページ第15行?第11ページ第27行
「7.2.1 本件発明1と引用発明との相違点について
・・・
以上より、甲2や甲3から認定される周知技術は、被加工物の美観を損なう場合には予め被覆材を溶断/切断する、というものである。しかしながら、引用発明と甲2や甲3から認定される周知技術を比較すると、引用発明における保護シートの剥離を防止することと、甲2に記載の保護材が溶着して表面を汚したり甲3に記載の被膜が炭化して表面に焼き付いたりすることにより美観を損なうことを防止することは、明らかに異なる課題であり、請求人は課題を上位概念化して共通と述べているに過ぎない。例えば、引用発明の課題と甲2に記載の課題が異なることにより、引用発明では保護シートの焼付け部分を、ピアシング部分やピアシングライン部分も含めた最終加工軌跡上の全ての加工部位としているが、甲2では製品の美観に関係ないピアシング部分やピアシングライン部分は保護材の溶断部分から除外しているというように、技術内容の相異として現れているのである。よって、相違点1の存在有無に関わらず、そもそも引用発明のみならず本件発明1と、甲2および甲3に記載の課題は明らかに共通とは言えない。さらに、引用発明にて焼付け対象であるピアシング部分やピアシングライン部分を、甲2は溶断部分から除外していることを鑑みると、如何なる論理付けにおいても甲2および甲3に記載された周知技術をもとに本件発明1の容易性を示す根拠にはなりえないものであり、当然ながら甲2および甲3に記載された周知技術を引用発明に適用することに格別の困難性は存在しないとの請求人主張は明らかに誤りである。

7.2.2 相違点2について
7.2.2.1 引用発明と甲4ないし甲6との組み合わせについて
本件発明1において、「最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたこと」(構成要件B)は、本件発明1を特徴付けるものである。そして、この点において、最終加工軌跡全体にわたって被覆材を処理する引用発明とは正反対である。
・・・
これに対して、甲5は、審判請求書の「2.2.6.1 甲第5号証の記載事項」(19頁1行目?19頁9行目)に記載の通り、(デフォーカスして)切断経路上の被覆材を溶断及び切断することを採用せず、ノズルの物理的接触による被覆材を抑えると共にアシストガスが切断溝から全て下方に排出されるような特殊な形状のノズルを用いるといった手法にて解決している。・・・。また、甲6は、審判請求書の「2.2.7.1 甲第6号証の記載事項」(21頁下から4行目?22頁7行目)に記載の通り、特殊なレンズを用いることにより、デフォーカスした部分が常時フォーカスした部分に先行するような構成を採用している。したがって、「レーザビームをデフォーカスさせた状態で切断経路上の被覆材を焼付け、その後、レーザビームの焦点を合わせた状態で再度同じ経路をピアシング及び切断する」を採用している引用発明とは組合せようがないものであり、「最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたこと」という本件発明1における解決手段を何ら示唆していない。
・・・。すなわち、甲1、4、5、6のうちで、切断時に樹脂シートが剥離しないと記載しているのは甲4のみであり、その他3つの文献には切断時に樹脂シートが剥離すると記載されているから、甲4の記載が当業者の一般的な認識であったとは言えない。むしろ、切断時に保護シートが剥離することを問題として認識することが当業者の技術常識であり、これに対して、まずデフォーカスしてビニールを溶かした後に焦点を合わせて母材を切断するといった2工程による解決手段が知られていたところ「加工時間が2倍近く必要になる」ことが新たに認識されて、更なる技術に変遷していったのである。
このような技術の変遷経過は、甲1、甲4、甲5及び甲6の出願日を時系列的に整理することによって容易に分かることである。これらのうちで最も出願日の早いのは甲4の平成1年4月27日である。これに対して、甲1の出願日は平成6年3月4日である。もし、請求人の指摘する「(切断中は)アシストガスにより樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることはない。」との記載が甲4の出願人の独自の見解ではなく、当業者に周知の技術常識であったならば、甲4の出願日から約5年が経過してから甲1の出願が行われたはずがないのである。したがって、甲4が当業者の技術常識を反映しているという請求人の主張は成り立たない。
・・・

7.2.2.2 引用発明と甲7との組み合わせについて」
・・・
しかし、請求人も「被覆材ではないが所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」(審判請求書30頁9行目)と認めるとおり、本件特許の「被覆材」と甲7の「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」は全く異なるものであり、それ故、本件特許と甲7は解決すべき課題も目的も異なるのである。すなわち、本件特許が課題とするところは、被覆材の剥離であり、一方、甲7が課題とするところは、弊害物によるレーザエネルギーの低下やアシストガス純度の低下であり、弊害物の剥離については開示も示唆も無い。よって、弊害物の剥離について開示も示唆も無い甲7に基づいて「ピアシング位置に対してだけ被覆材の剥離が生じないように前処理を行うようにすること」を、当業者が容易になし得るはずもなく、本件と同様に被覆材の剥離を課題とする引用発明に甲7の技術を適用できるはずもない。請求人の主張は、全くの的外れなものである。」

(3)口頭審理陳述要領書第4ページ第21行?第5ページ第21行
「また、甲4ないし甲6の記載から「特に、切断開始点における穿孔作業であるピアシング時において被覆材の剥離が顕著であること」が周知との主張や、甲4および甲5の記載から「ピアシング後の切断時には、アシストガスが切断溝から下方に排出されることから、通常の切断作業を行うようにすること」が周知との主張は、明らかに誤りである。引用発明も含めて、甲1、4、5、6において切断時に被覆材が剥離しないとの記載があるのは甲4のみであり、その他の甲号証では切断時にも剥離があるため、通常とは異なる加工により切断加工を行うことが記載されている。また、切断時にも剥離があると記載された甲1、5、6において、特にピアシング時において被覆材の剥離が顕著であるとの記載は見られない。更に、甲1、4、5、6の出願日を考慮するならば、甲4が最も古く、その後甲1、5、6が出願されているのであるから、出願が新しい甲1、5、6に共通している、ピアシング時と切断時は同様に被覆材が剥離するので、出願時においていずれの加工時にも通常とは異なる加工を行う必要があるとの認識が、甲1、4、5、6から得られる周知技術とすべきである。よって、引用発明にこのような周知技術を適用したとしても、結局は最終加工軌跡全体に対して前処理を行う構成のままであり、本件発明1とは異なるのは明らかである。
なお、仮に、切断時には被覆材が剥離しないとする甲4を周知技術ではなく従来技術として当該甲4の技術を引用発明に適用するとの試みを行ったとしても、そもそも引用発明は最終加工軌跡全体を焼付けすることを意図しているのであるから、ピアシング時にのみ樹脂フィルムが剥離しないように樹脂フィルムを押さえつける甲4の技術を適用するには格別の動機付けが必要である。無理矢理に適用したとしても、例えば、ピアシング時には押さえつけを行い切断時には焼付けを行うとの構成が生まれる程度である。
また請求人は、甲7の技術を引用発明に適用することで、引用発明の前処理範囲をピアシング位置とすることは容易との主張を行っているが、甲7が除去の対象としているのは錆やマーキング或いは塗料等の弊害物であり、引用発明や本件発明1が対象とする剥離が問題となる被覆材とは全く異なるものである。よって、なんら動機付けが存在しないならば甲7の技術を引用発明に適用することは困難である。」

(4)口頭審理陳述要領書第9ページ下から2行?第10ページ第15行
「更に、甲5、6において、ピアシング時の方が切断時よりも被覆材が剥離しやすいとの記載は見られない。すなわち、甲5には、【0003】段落に「また、図4はレーザ切断の進行中に前記ピアシングと同様に切断部の周囲に剥離部105が形成される状態を示したものである。」との記載があり、ピアシングと同様に切断部にも剥離部が形成されることが記載されている。また、甲6には、「レーザビームをビニールコーティング材に照射して一度にビニールの溶融と母材の切断を行う方法が知られている。・・・後者の方法では、ビニールと母材との間にレーザガスが入り込むため、ビニールがめくれて加工が不安定であると共に外観が汚なく、さらにピアス時にビニールがバルーンになるという問題があった。」(1頁右下欄下から3行目?2頁左上10行目)との記載があり、ピアス時にはバルーンになる問題はあるものの、ピアス時と切断時との間でビニールの剥がれやすさに差異があるとの記載は見られない。
結局、ピアシング位置が他の部位よりも被覆が剥がれやすいとの記載があるのは、甲4のみであり、「被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工にあたり、ピアシング位置においては、他の部位に比べて被覆材が剥離しやすくなるため何らかの対応を行うこと」は、甲4?6のごとく周知である。」との認定は誤りである。」

(5)口頭審理陳述要領書(2)第5ページ第2行?第8ページ第27行
「甲5については、・・・。一方、切断加工時にも、甲5は遊動ノズルの先端を表面被覆材に当接させることでアシストガスが表面被覆材面に沿って流出しないようにして、切断時の表面被覆材の剥離を防止している。・・・。このように甲5においては、ノズルの先端を表面被覆材に当接させることで切断加工時の表面被覆材の剥離現象が防止されるから、切断加工時に表面被覆材の剥離を防止するという観点からは、「排出口25」が開口していようが閉口していようが構わないのである。しかし、それでも切断加工時に「排出口25」を閉じているのは、これを開口したままにしておくと、そこからアシストガスが排出され、切断部に充分にアシストガスが供給されず、適切な切断加工が行えなくなる可能性があるからであり、甲5の【0017】段落の「前記排出口が閉止される位置にレーザ加工ヘッドの位置を制御して切断加工を行うときには、切断加工部に供給するアシストガスが全て切断溝内部に供給されるのでアシストガスを効率的に使用することが可能である。」との記載からも明らかである。よって、甲5における「排出口25」の開閉動作は、遊動ノズルを被覆材に当接させて加工する甲5に固有の必須動作であり、ピアシング時のみ「排出口25」を開口していることが、「加工開始部位においては、他の部位に比べて、被覆材が剥離しやすくなる」ことを示唆しているものではない。
甲6には、「ピアス時にビニールがバルーンになる」との記載はあるが、バルーンになるとは剥離の仕方を説明しているだけであり、例えば甲5の図3がその例である。切断の場合の剥離の仕方の例は、例えば甲5の図4である。・・・。よって、「ピアス時にビニールがバルーンになる」との記載は、剥離のし易さを述べているものではなく、この記載は、加工開始部位においては、他の部位に比べて、被覆材が剥離しやすくなることを示唆するものではない。
よって、加工開始部位においては、他の部位に比べて、被覆材が剥離しやすくなることを示唆しているのは甲4のみであり、一文献に示唆があることのみでは周知とまでは言えない。
・・・
甲5については、上述したように、遊動ノズルが被覆材に当接しているが、通常の切断時にはノズルと被加工物との間には間隙が存在している点で、通常の切断加工とは異なる。更には、遊動ノズルはアシストガスの圧力に付勢されており(【0009】段落に記載がある)、被覆材を押さえつける作用を奏していることは明らかである。更には、遊動ノズルを被覆材に当接すると共に「排出口25」を閉口することにより、アシストガスを全て下方に排出している(【0030】段落に記載がある)が、通常の切断時には加工溝によりアシストガスの通気性は良くなるがノズルと被加工物との間に間隙が存在しているのでアシストガス全てが下方に排出されることはない点も、通常の切断加工とは異なる。
甲6については、・・・。すなわち、甲6の第1図のような特殊なレンズを用いることにより、集光されないレーザの照射部分が常時フォーカスした部分に先行しながら切断加工が行われるような構成としているが、通常の切断時にはこのような特殊なレンズを用いず一点に集光するようなレンズを用いる点で、通常の切断加工とは異なる。
・・・
・・・、甲1は、加工開始部位のみを他の部位と区別することなく、本件発明1の第1加工工程に相当する工程を付加したものである。また、前述したとおり、甲5及び甲6は、加工軌跡の全体にわたって被覆材の剥離対策を行うものである。したがって、「加工開始部位」のみ他の部位と区別するという着想はどこからも出てこない。
・・・
審判長殿は、ピアスが貫通すれば、被覆材のさらなる剥離は生じないことを前提としていると思われるが、現実には、被覆材の剥離が生じた後にピアスが貫通しても被覆材の剥離を防止することはできない。すなわち、被覆材の剥離はピアシング部分でのみ生じるものではなく、ピアシング部分で剥離が生じた後は、切断加工が進むに伴ってその剥離が連鎖して軌跡上にも剥離が生じ、結局、加工軌跡全体にわたって生じるのである。だからこそ、甲1、甲5及び甲6では、加工開始部位に限定することなく被覆材の剥離防止措置を講じているのである。」

(6)口頭審理調書の被請求人欄
「2 甲第1号証も焼付けの結果、除去作用を含むから、相違点1は実質的相違点でないともいえる。
3 甲第11号証は塗装であり、剥離という課題は生じないから、被覆材とは言えない。
4 甲第2号証、甲第3号証から認定できる周知技術は、議論の実益の有無とは別として、「進行メモ」のとおりでよい。
5 甲第5号証は、「排出口25」を開閉しているが、常に押さえていることから剥離とは無関係である。
6 周知技術は、出願時点で認定すべきであり、最も古い甲第4号証のみをもって、相違点2が周知とはいえない。
7 甲第6号証の「バルーン」と剥離しやすさは、無関係である。
8 甲第7号証は、甲第11号証と同様、剥離とは無関係である。」

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1(請求項3)及び2(請求項9)は、上記第2.のとおりと認められる。
本件発明1及び2における、被覆材の除去範囲は、「加工開始部位または/および加工終了部位」のみ除去し他の部位は除去しない(図6の23、27のみ)ものと解される。
なお、この点は、両当事者間に争いはない(調書の「両当事者 1」)。

2.証拠記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証には、以下の記載がある。

ア.段落0001?0003
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はレーザビームをワークに照射して加工を行うレーザ加工方法に関し、特に保護シートが貼付されたワークのレーザ加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ステンレス、アルミ等の非鉄金属のレーザによる切断加工は、一般的に行われており、特に切断面を酸化(黒色化)させない無酸化切断は、外観を重視する部品の切断加工において重用されている。但し、これら非鉄金属のレーザ切断加工については、高圧(5?10bar)のアシストガス供給が必要になる。
【0003】一方、外観を重視するステンレスやアルミ等の非鉄金属の表面には、保護シートが貼付されている場合がある。この保護シートは、それらの材料による製品製作の最終工程まで貼付したままであることが望ましく、レーザーによる切断加工後も保護シートがワーク上に貼付されたままであることが望ましい。」

イ.段落0005?0006
「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このように、保護シート付きワーク4にレーザビーム100及びアシストガス300を照射して切断加工を行うと、図6に示すように、保護シート5とワーク4との間にアシストガス300が流入し、保護シート5を剥離させてしまう。したがって、これらの材料に対して、保護シート5をワーク4上に残すこと目的とするレーザによる切断加工は、実際には行われていなかった。
【0006】本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、保護シートを損なうことなくレーザによる切断加工を行うことができるレーザ加工方法を提供することを目的とする。」

ウ.段落0011?0014
「【0011】さらに、ワーク4表面には、表面の外観を保護するための保護シート5が貼付されている。この保護シート5には、例えば樹脂材の薄膜が用いられる。図3は本発明のレーザ加工方法の説明図である。本発明のレーザ加工方法では、先ず、ワーク4表面に貼付された保護シート5にレーザビーム100を照射し、その保護シート5をワーク4表面に焼付ける。この保護シート5の焼付けは、ピアシング加工点103、及びそのピアシング加工点103からの切断加工経路102に沿って行われ、その結果切断加工経路102に沿って幅を持つ焼付け面101が形成される。
【0012】レーザビーム100による切断加工は、この焼付け面101内の切断加工経路102に沿って行われる。すなわち、焼付け面101の範囲内で切断加工が行われる。
【0013】図4は保護シート焼付け時の加工ヘッドとワークとの位置関係を示す図である。図に示すように、ワーク4表面の保護シート5に焼付け面101を形成する場合、加工ヘッド1(集光レンズ11)と保護シート5との間の距離L1を長くとる。このように長く設定することにより、レーザビーム集光点とワーク5との間の距離L2も長くなり、レーザビーム100は、広がった状態で保護シート5に照射される。その結果、レーザビーム100の照射面でのエネルギ密度が小さくなり、保護シート5の焼付けに必要かつ十分なエネルギ密度を持つレーザビーム100が保護シート5に照射されることになる。なお、この焼付け時には、アシストガス300を吹きつける必要はないので、最低出力あるいは無効にしておけばよい。
【0014】図5は切断加工時の加工ヘッドとワークとの位置関係を示す図である。図に示すように、ワーク4に切断加工を施す場合、加工ヘッド1と保護シート5との間の距離L3は、通常の切断加工時と同様に設定され、レーザビーム100は保護シート5上に集光する。この状態で、ワーク4に対する切断加工が行われる。この切断加工時にはアシストガス300も高圧化で吹きつけられる。」

これらを、技術常識を踏まえ、本件発明1に照らして整理すると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「保護シート5を表面に貼付したワーク4を、アシストガス300を用いたレーザビーム100により加工するにあたり、切断加工とは異なる加工条件により切断加工経路102上の保護シート5を焼付ける工程と、保護シート5を焼付けたワーク4の切断加工経路102上にレーザビーム100を照射し、加工を行う切断加工工程とを含むレーザ加工方法において、
切断加工経路102上に沿った焼付け面101を前記焼付工程による保護シート5の焼付け範囲としたレーザ加工方法。」

なお、この点は、両当事者間に争いはない(調書の「両当事者 1」)。

(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の記載がある。

ア.第1ページ右下欄第15行?第2ページ右上欄第16行
「〔発明が解決しようとする問題点〕
しかし表面にヘアライン加工等を施したステンレス部材やその他表面を化粧加工した金属材は、前述の通り表面を保護材(合成樹脂等)で覆っている。このような状態の材質に対して、レーザを用いた加工を行うには、解決すべき問題がいくつかあった。
第1には上記ヘアライン加工されたステンレス材等には加工面の保護のためビニール等合成樹脂の保護材が貼着されており、保護材の剥離をしないでレーザによる溶断加工を実施すると、第3図に示すように保護材はステンレス部材等の金属母材に溶着して表面を汚し、1部はガス化して該金属母材表面にシミ状に変色部1aを生成する。・・・。
・・・。
本発明は上記問題点を解決して、人の手の介入を不要とし、表面加工されて保護材を備えた金属部材表面を損傷することなく溶断加工するレーザ加工方法の提供を目的とする。
〔問題点を解決する為の手段〕
上記問題点を解決する為の手段は、保護材で表面を保護された金属部材の加工において、低い出力のレーザ光エネルギで保護材を溶断した後、高い出力のレーザ光エネルギで金属部材の加工をする保護材付金属部材のレーザ加工方法を用いることである。」

イ.第2ページ左下欄第7行?右下欄第11行
「第1図に示した金属部材2は厚みが2m/mのステンレス材で、片面表面にはヘアライン加工が施されており、該レーザ加工により所定孔明け溶断工程迄、ビニール製の保護材1で加工表面を保護されてきている。・・・。今テーブルT上に位置決めされたワーク102(ステンレス材2m/m厚)は、孔明け加工の寸法等を制御パネルCMで数値制御され、レーザ出力をレーザ発振機操作盤CLで制御される。初めに保護材1の溶断を目的にレーザ照射を行う。その時の出力は約400wであり、保護材1のみ円形に溶断され、ヘアライン加工された表面は変色しない。次にステンレス材2の溶断加工を行い、所定の孔径を溶断する。レーザ出力は約800wである。この時は既に保護材1は溶断されているので、2回目の溶断時には発熱を受けない為、ステンレス材2に溶着したり、ガス化してステンレス材2の表面を変色させることはない。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第2号証には、以下の事項(以下「甲2事項」という。)が記載されている。
「保護材1で表面が覆われた金属部材2を、レーザにより溶断加工するにあたり、保護材1の剥離をしないでレーザによる溶断加工を実施すると、保護材1が金属部材2に溶着して表面を汚すことから、初めに保護材1の溶断を目的に出力400wでレーザ照射を行い、保護材1のみを円形に溶断する工程と、保護材1が円形に溶断された部分に対して出力約800wの溶断加工を行い、所定の孔径を溶断する工程とを含むレーザ加工方法。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、以下の記載がある。

ア.第1ページ左下欄第13?16行
「〔発明の技術分野〕
この発明は金属製の母材に合成樹脂の被膜が付着された材料をレーザ光で切断加工する方法に関する。」

イ.第2ページ左上欄第11行?右上欄第2行
「〔発明の目的〕
この発明は被膜を炭化させて母材に付着させることなく、しかも能率よく上記母材と被膜とをレーザ光によつて切断することができるようにした切断加工方法を提供することにある。
〔発明の概要〕
この発明は、弱いエネルギのレーザ光で被膜だけを切断してから、強いエネルギのレーザ光で母材を切断するようにして、上記被膜が切断されるに必要以上のエネルギを受けて炭化することなく、上記被膜と母材を切断できるようにしたものである。」

ウ.第2ページ右下欄第7?18行
「テーブル3が+X方向に駆動されると、レーザ発振器1から弱いエネルギのレーザ光Lが発振される。したがつて、材料4は第3図に示すように被膜8だけが上記レーザ光Lによつて溶融切断される。このように材料4の幅方向全長にわたつて被膜8が溶融切断されると、つぎにテーブル3は-X方向に駆動されるとともに、レーザ発振器1からは強いエネルギのレーザ光Lが発振される。したがつて、第4図に示すように被膜8の溶融切断された個所から母材7がレーザ光Lによつて照射された溶融切断される。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第3号証には、以下の事項(以下「甲3事項」という。)が記載されている。
「金属製の母材7に合成樹脂の被膜8が付着された材料をレーザ光Lで切断加工するにあたり、被膜8を炭化させて母材7に付着させることがないよう、テーブル3の+X方向駆動により、弱いエネルギのレーザ光で被膜8だけを切断する工程、テーブル3の-X方向駆動により、被膜8が溶融切断された個所に強いエネルギのレーザ光を与え母材7を切断する工程とを含むレーザ切断加工方法。」

(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の記載がある。

ア.第1ページ右下欄第4?7行
「(産業上の利用分野)
本発明は、レーザ加工に於けるピアス成形方法、及びこのピアス成形方法の実施に用いられるレーザ加工装置のレーザビームノズル装置に係る。」

イ.第1ページ右下欄第15行?第2ページ右上欄第1行
「(発明が解決しようとする課題)
レーザ加工による切断等に於ては、切断開始点にレーザ加工により一般にピアスと称される小孔を穿設することが行われる。このピアスの成形時に於てもレーザビームノズルの噴孔よりアシストガスを被加工物に対し噴出することが行われるが、しかしその被加工物が表面保護のために表面にビニール等の樹脂フィルムを張着状態にて重合させたものに於ては、樹脂フィルムの側よりピアスの穿設が行われると、ピアスが鋼板に貫通穿設されるまではレーザビームノズルの噴孔よりのアシストガスの全てが噴き返しを生じ、これが樹脂フィルムと鋼板との間に比較的高い圧力をもって流入しようとするするため、樹脂フィルムが鋼板より剥離して浮き上がり、樹脂フィルムが風船状に脹らむ現象が生じることがある。この様な現象が生じると、これ以降のレーザビーム切断加工が続行され得なくなる。
本発明は、上述の如き不具合に鑑み、表面に樹脂フィルムを重合された鋼板にピアスを樹脂フィルムの側より穿孔する場合に於て、アシストガスの噴出が行われても樹脂フィルムが鋼板より浮き上がることなく、ピアス成形が良好に行われるよう改良されたピアス成形方法及び、このピアス成形方法の実施に用いられるレーザ加工装置のレーザビームノズル装置を提供することを目的としている。」

ウ.第2ページ左下欄第1?8行
「(作用)
本発明によるピアス成形方法に於ては、ピアス成形時に於て樹脂フィルムが鋼板より浮き上がる虞れがある期間、即ちピアスが鋼板に貫通穿設されるまでの間は、押え手段により樹脂フィルムが鋼板に対し押付けられる。これによりピアス成形時に樹脂フィルムが鋼板より浮き上がることが回避されるようになる。」

エ.第3ページ右上欄第14行?右下欄第9行
「ピアス成形のための位置決めが終了したならば、・・・、押え片25が噴孔21の周りにて樹脂フィルムFを鋼板Mに対し押付けるようになる。
押え片25による樹脂フィルムFの押えが完了したならば、次に噴孔21より被加工物Wに対するレーザビームノズルの照射とアシストガスの噴出とを開始する。噴孔21より噴出したアシストガスは被加工物WにピアスPが貫通穿設されるまでは従来と同様にその全てが噴き返しを生じるが、樹脂フィルムFは噴孔21の周りにて押え片25により鋼板F(当審注:正しくは「鋼板M」)に対し押付けられていることから、これがアシストガスの風圧によって巻上がることが回避される。
ピアスPが樹脂フィルムF及び鋼板Mを貫通して穿設され、ピアスの成形が完了すると、次にレーザビームノズル装置17に対し被加工物Wを移動させることにより切断作業が開始される。この時には・・・、押え部材23を第2図に示されている如き後退位置に移動させることが行われる。
アシストガスはピアス成形時に引続いて切断作業時に於ても噴孔21より被加工物Wに対し噴出されるが、この時には既に被加工物WにピアスPが貫通穿設され、また切断スリットが設けられていることから、アシストガスの一部乃至多くがピアスP或いは切断スリットを通過して流れるようになる。・・・、一旦ピアスPが貫通穿設されれば、アシストガスにより樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることはない。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第4号証には、以下の事項(以下「甲4事項」という。)が記載されている。
「表面に樹脂フィルムFが重合された鋼板Mのレーザ加工において、アシストガスの噴出が行われても樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることなく、ピアス成形が良好に行われるように改良されたピアス成形方法を提供するため、ピアスが鋼板Mに貫通穿設されるまでの間は、押え片25により樹脂フィルムFを押えて樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることを回避し、ピアス成形完了後の切断作業の際には押え片25を後退位置に移動するものであって、アシストガスは切断作業時にも被加工物Wに対し噴出されるが、アシストガスの一部乃至多くがピアスP或いは切断スリットを通過して流れ、樹脂フィルムFが鋼板Mより浮き上がることがないもの。」

(5)甲第5号証
甲第5号証には、以下の記載がある。

ア.段落0001?0008
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はレーザ加工ヘッドおよび同ヘッドを用いた表面被覆材の切断方法に関する。
【0002】
【従来の技術】アルミニウムの板材やステンレス鋼板の表面を擦傷から保護するために表面をビニールなどのプラスチックスの薄膜で被覆した表面被覆材を従来のレーザ加工方法とレーザ加工ヘッドによってレーザ切断すると、切断時に使用するアシストガスによって図3および図4に示すように切断部周囲の被覆が剥離する現象がある。
【0003】図3は従来の表面被覆材Wのピアシング(穿孔加工)時のピアシング完了直前の状態を示したものである。ピアシング時には表面被覆材Wの表面にレーザ加工ヘッド100の先端に設けたノズル101からレーザビームLBが集光レンズ(図示省略)により集光されると共にアシストガスAGが噴射される。このとき表面被覆材Wのピアシングが完了するまでの間にアシストガスAGが被覆材103と被覆された金属部との間に侵入し、ピアシング部の周囲の被覆材103を金属部から剥離させ剥離部105が形成される。また、図4はレーザ切断の進行中に前記ピアシングと同様に切断部の周囲に剥離部105が形成される状態を示したものである。
【0004】そこで、この表面被覆材の剥離現象を防止するために次のような加工方法が用いられている。第一の方法は、集光レンズの焦点を切断する表面被覆材の上方に合わせる(デフォーカシング)と共にアシストガスの圧力を通常より弱くしてレーザ加工ヘッドを予定切断経路上を移動させ、予定切断経路上の被覆材を軟化または溶融させて被覆される金属材に接着された状態にさせた後、切断条件を通常の切断条件またはピアシング条件に変更して再度同じ切断経路上を移動させて切断加工またはピアシングを実施する方法である。第二の方法は、ノズルを表面被覆材に接触させた状態にしてアシストガスが表面被覆材面に沿って流出しないようにして切断加工またはピアシングを実施する方法である。
【0005】
・・・。
【0006】また剥離現象を防止する上述の二つの方法において、第一の方法の場合には、同一の切断経路を2回通過するので加工時間が2倍近く必要になるという問題がある。・・・。
【0007】・・・。
【0008】本発明は上述の如き問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の課題はピアシングまたはレーザ切断加工時に加工部周囲の被覆材が金属部から剥離しない表面被覆材のレーザ加工方法と同加工方法に使用するレーザ加工ヘッドを提供することである。」

イ.段落0025?0030
「【0025】上記構成において、被加工材である表面被覆材29にピアシングを実施する場合、圧力が約1kg/cm^(2) ?3kg/cm^(2)(約0.1MPa?0.3MPa)のアシストガスAGをレーザ加工ヘッド1供給すると共に、図1に示す様に前記遊動ノズル17の先端を表面被覆材29に当接させた状態において、静電容量センサー制御装置(図示省略)によりレーザ加工ヘッドの位置を制御して、センサーノズル5と表面被覆材29との間隙D_(p)を一定(約1.5mm)に維持し、遊動ノズル17の排出口25を大気中に開放されたた位置に常に在る様にしながらレーザビームLBを表面被覆材29に照射してピアシングを実施する。
【0026】上述の如きピアシング方法により、アシストガスAGは被加工材である表面被覆材29の加工点に集中的に供給されレーザ加工が進行すると同時に、母体金属29Bから発生するスパッターと加工点から逆流する余分なアシストガスAGおよび金属蒸気などは、レーザ加工ヘッドから供給されるアシストガスAGと一緒に遊動ノズル17の排出口25から大気中に排出されるため、供給したアシストガスAGが被覆材29Aと母体金属29Bとの間に侵入しない。従ってピアシング部の周囲の被覆材29Aが母体金属29Bから剥離することがなく、またスパッターがノズル内に侵入しないので集光レンズなどの光学系を汚染することなく良好なピアシングを実施することが可能である。
【0027】・・・。
【0028】・・・。
【0029】上記構成において、ピアシングに引き続いて切断加工を行う場合、または表面被覆材29の端部から切断加工を行う場合には、・・・アシストガスAGをレーザ加工ヘッド1供給すると共に、図2に示す様に前記遊動ノズル17の先端を表面被覆材29に当接させた状態において、静電容量センサー制御装置(図示省略)を制御して遊動ノズル17の排出口25がセンサーノズル5の前記遊動ノズル案内孔11の位置にくる様にセンサーノズル5と表面被覆材29との間隙Dcが(約0.3mm?0.6mm)維持される様にして、レーザビームLBを表面被覆材29に照射して切断加工を実施する。
【0030】上述の如き切断方法により、遊動ノズル17の排出口25は閉止され、レーザ加工ヘッド1から供給されるアシストガスAGは表面被覆材29の切断溝31から全て下方に排出されるので、被覆材29Aが母体金属29Bから剥離することなく、またスパッターは表面被覆材29の裏面側に排出されてノズル内に侵入することもなく良好な切断を実施することが可能である。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第5号証には、以下の事項(以下「甲5事項」という。)が記載されている。
「レーザ加工ヘッドを用いた表面被覆材の切断方法に関し、ピアシング又はレーザ切断加工時に加工部周囲の被覆材が金属部から剥離することなく、かつ、同一の切断経路を2回通過し加工時間が2倍近く必要とはならない表面被覆材のレーザ加工方法を提供するため、ピアシング時には、遊動ノズル17の先端を表面被覆材29に当接させた状態において、逆流する余分なアシストガスAG及び金属蒸気などを、遊動ノズル17の排出口25から大気中に排出し、ピアシングに続く切断加工時には、遊動ノズル17の先端を表面被覆材29に当接させた状態において、排出口25を閉止して切断加工を実施することにより、レーザ加工ヘッド1から供給されるアシストガスAGを表面被覆材29の切断溝31から全て下方に排出し、被覆材29Aが母体金属29Bから剥離することなく良好な切断を実施するようにしたもの」

(6)甲第6号証
甲第6号証には、以下の記載がある。

ア.第1ページ右下欄第4行?第2ページ右上欄第9行
「(産業上の利用分野)
この発明は、例えばビニールコーティング材などのフィルムコーティング材にレーザ加工を行うフィルムコーティング材のレーザ加工方法およびその方法に用いるレーザ加工ヘッドに関する。
(従来の技術)
従来、例えばステンレスなどの母材の表面に樹脂などからなるフィルムを張り合せたフィルムコーティング材として、例えばビニールコーティング材が知られている。このビニールコーティング材にレーザ加工機でレーザ加工を行うレーザ加工方法としては、集光レンズで集光されたレーザビームをデフォーカスさせ、まずビニールのみを溶かし、その後集光レンズの焦点を合せて母材を切断する方法や、レーザビームをビニールコーティング材に照射して一度にビニールの溶融と母材の切断を行う方法が知られている。
(発明が解決しようとする課題)
ところで、前述した従来技術のうち、前者の方法では、集光レンズの焦点をデフオーカスしてまずビニールを溶かしてから焦点を合せて母材を切断しているため、レーザ加工の加工時間が通常のレーザ時間に比べて2倍程度かかるという問題があった。
また、後者の方法では、ビニールと母材との間にレーザガスが入り込むため、ビニールがめくれて加工が不安定であると共に外観が汚なく、さらにピアス時にビニールがバルーンになるという問題があった。
この発明の目的は、フィルムコーティング材にレーザ加工を行う際、フィルムがめくれず加工が安定して外観が汚れずに、ピアス時にバルーンとならず、さらにレーザ加工を従来に比べて短時間で行な得るようにしたフィルムコーティング材のレーザ加工方法およびその方法に用いるレーザ加工ヘッドを提供することにある。
[発明の構成]
(課題を解決するための手段)
上記目的を達成するために、この発明は、レーザ加工装置でレーザビームをフィルムコーティング材に照射せしめてレーザ切断を行う際、集光レンズのフラットな部分で集光されたレーザビームによりフィルムを溶かして蒸発させると共に、集光レンズの凸部分で集光されたレーザビームにより母材を切断するフィルムコーティング材のレーザ加工方法である。」

イ.第2ページ頁右上欄第18行?左下欄第17行
「(作用)
この発明のフィルムコーティング材のレーザ加工方法を採用することにより、レーザビームでフィルムコーティング材にレーザ加工を行うと、集光レンズのフラットな部分で集光されたレーザビームによりフィルムコーティング材のフィルムを溶かして蒸発させると共に、集光レンズの凸部分で集光されたレーザビームによりフィルムコーティング材の母材が切断される。
・・・
而して、レーザ加工が従来に比べて短時間で行われると共に、フィルムがめくれないで加工が安定して行われるから、外観が汚れないで済む。しかも、ピアス時にバルーンが生じないで加工される。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第6号証には、以下の事項(以下「甲6事項」という。)が記載されている。
「フィルムコーティング材にレーザガスを用いたレーザ加工を行う際、フィルムがめくれず加工が安定して外観が汚れず、ピアス時にバルーンにならず、さらにレーザ加工を短時間で行えるようにするため、集光レンズのフラットな部分で集光されたレーザビームによりフィルムを溶かして蒸発させると同時に、集光レンズの凸部分で集光されたレーザビームにより母材を切断するようにしたフィルムコーティング材のレーザ加工方法。」

(7)甲第7号証
甲第7号証には、以下の記載がある。

ア.段落0001
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は表面に錆や塗料等の弊害物が付着した被加工材に対してピアシングを行うレーザピアシング方法およびその装置に関するものである。」

イ.段落0007?0009
「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記の如くレーザピアシングを実施する場合、表面に錆やマーキング或いは塗装等の弊害物が形成された被加工材に於いては、該弊害物によって照射したレーザ光が吸収或いは反射されてしまい、その結果被加工材へのレーザエネルギーが低下することにより穿孔に時間がかかるといった問題がある。
【0008】また、被加工材表面に施された塗料などが蒸発或いは燃焼することによって発生したガスや燃焼生成物質がアシストガスに作用してアシストガスの純度を低下させ、ピアシングに時間がかかるという問題があり、これ等の問題を解決するためにレーザエネルギーを高くすると、被加工材が広い範囲で加熱され、セルフバーニング(自己燃焼)を発生する原因となる。このような問題に鑑み、本発明は、穿孔工程の前に被加工材の表面に形成された錆やマーキング、塗料等の弊害物を除去する弊害物除去工程を実施することによって効率のよい穿孔を行うためのレーザピアシング方法およびその装置を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明に係るレーザピアシング方法は、被加工材に対し集光されたレーザ光をノズルから照射すると共にアシストガスを噴射して穿孔するレーザピアシング方法に於いて、被加工材に対しレーザ光の焦点位置を移動して、ピアシングを行う穿孔径より大きいスポット径でレーザ光を照射すると共に、アシストガスを噴射させて前記被加工材の表面に形成された錆、マーキング、塗料等の弊害物を除去する弊害物除去工程と、前記弊害物除去工程の次に前記レーザ光の焦点位置を移動して、ピアシングを行う所定のスポット径で前記被加工材に対し前記レーザ光を照射すると共に、アシストガスを噴射させて前記被加工材を穿孔する穿孔工程とを含んでなることを特徴とするレーザピアシング方法である。」

ウ.段落0027?0028
「【0027】前記レーザ加工装置は図2に示すように、前述のモーター制御部8b、11b、レーザ発振器4およびアシストガス制御装置14の夫々がインターフェイス16を介して中央制御部15に接続して構成してあり、該中央制御部15はCPU、RAM、ROM等の装置を含んで構成されている。また、前記インターフェイス16には外部から加工情報を入力するための操作盤17が接続されている。
【0028】前記ROMには、被加工材Wの材質、板厚及び表面に形成した錆、マーキング、塗料等の弊害物の種類や付着状態等に応じて予め設定された弊害物除去工程および穿孔工程におけるレーザ光1の出力および照射時間データ、アシストガス2の供給量および供給時間データ、ノズル3及び集光レンズ6の高さデータ、そして、ピアシング後に切断を実施する際のレーザ光1、アシストガス2の諸データ、ノズル3及びレンズ6の高さデータ、切断図形データ、切断プログラム等の所定の加工を実施するために必要な情報が予め記憶されている。」

エ.段落0030
「【0030】被加工材Wは、鉄鋼材、ステンレス材等の鉄系金属材や真鍮材、アルミニウム材およびアルミニウム合金材、銅材および銅合金材等の非鉄金属材およびプラスチック等の合成樹脂等の非金属材等に塗料、マーキング、錆等の弊害物が形成されたものが適用可能である。本実施形態では特に板厚16mmの軟鋼材の表面に所定の種類の塗料(例えば合成樹脂塗料)で所定の塗装厚の塗装処理が施されたものを用いている。」

オ.段落0047
「【0047】上述のようにしてピアシングを完了した後は、切断作業を実施する際の集光レンズ6とノズル3との相対基準位置を設定するための動作を行った後、所定の切断作業を実施することが出来る。」

これらを、図面を参照し、技術常識を踏まえ整理すると、甲第7号証には、以下の事項(以下「甲7事項」という。)が記載されている。
「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物が表面に付着した被加工材に対し、レーザ光を照射すると共にアシストガスを噴射して加工するにあたり、ピアシングとは異なる加工条件によりピアシング位置上の弊害物を除去する弊害物除去工程と、レーザ光を照射しピアシングを行う穿孔工程と、集光レンズ位置を設定し切断を行う切断工程を行うレーザ加工方法において、
ピアシング位置を弊害物の除去範囲とした
レーザ加工方法、
及び、前記のレーザ加工方法を中央制御部により、所定の加工を実施するために必要な情報を格納したROM。」

(8)甲第11号証
審判請求後に提出された甲第11号証には、段落0005、0010?0013等の記載からみて、以下の事項が記載されている。
「表面に塗装膜2が塗装されている鋼材1に対し、レーザを、鋼材1が溶融しない程度のレーザ出力、速度として、塗装膜2のみを燃焼させ、次いで、集光レンズ5および切断ノズル6を移動して、アシストガスを供給しつつ、レーザの焦点を鋼材1表面として塗装膜2が燃焼された部位を移動して、鋼材1を切断するレーザ切断方法。」

3.本件発明1
(1)対比
甲1発明の「焼付ける工程」と本件発明1の「除去する第1加工工程」とは「処理する第1加工工程」である限りにおいて、一致する。
甲1発明の「切断加工経路102上に沿った焼付け面101を前記焼付工程による保護シート5の焼付け範囲とした」と、本件発明1の「最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位を前記第1加工工程による被覆材の除去範囲とした」とは、「最終加工軌跡上における加工部位を前記第1加工工程による被覆材の処理範囲とした」である限りにおいて、一致する。

本件発明1と甲1発明は、以下の点で一致する。
「被覆材を表面に設けた被加工物を、アシストガスを用いたレーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を処理する第1加工工程と、被覆材を処理した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、
最終加工軌跡上における加工部位を前記第1加工工程による被覆材の処理範囲としたレーザ加工方法。」

そして、以下の点で相違する。
相違点1:被覆材を「処理する」第1加工工程が、本件発明1では「除去する」工程であるが、甲1発明では「焼付ける」工程である点。
相違点2:「第1加工工程による被覆材の処理範囲」について、本件発明1では「最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位」のみであるが、甲1発明では「最終加工軌跡上に沿った焼付面」すなわち、加工部位全体である点。」

なお、一致点、相違点については、両当事者間に争いはない(調書の「両当事者 1」)。

(2)判断
ア.相違点1
相違点1について検討する。

(ア)甲2事項
甲2事項は、上記2.(2)のとおり、「保護材1で表面が覆われた金属部材2を、レーザにより溶断加工するにあたり、保護材1の剥離をしないでレーザによる溶断加工を実施すると、保護材1が金属部材2に溶着して表面を汚すことから、初めに保護材1の溶断を目的に出力400wでレーザ照射を行い、保護材1のみを円形に溶断する工程と、保護材1が円形に溶断された部分に対して出力約800wの溶断加工を行い、所定の孔径を溶断する工程とを含むレーザ加工方法。」である。
甲2事項を、本件発明1に照らすと、甲2事項の「保護材1で表面が覆われた金属部材2」は本件発明1の「被覆材を表面に設けた被加工物」に、「保護材1の溶断を目的に出力400wでレーザ照射を行い、保護材1のみを円形に溶断する工程」は「最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程」に、「保護材1が円形に溶断された部分に対して出力約800wの溶断加工を行い、所定の孔径を溶断する工程」は「被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程」に相当する。
また、甲2事項は、「保護材1が円形に溶断された部分に対して・・・溶断加工を行い、所定の孔径を溶断」なる記載、第1図の記載からみて、本件発明1に照らすと、「最終加工軌跡上における加工部位のすべてを前記第1加工工程による被覆材の除去範囲」とするものである。
甲2事項を本件発明1に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「被覆材の剥離をしないでレーザ光により加工すると、被覆材が被加工物に溶着して表面を汚す」ことを解消するため「被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、最終加工軌跡上における加工部位のすべてを前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたレーザ加工方法。」

(イ)甲3事項
甲3事項は、上記2.(3)のとおり、「金属製の母材7に合成樹脂の被膜8が付着された材料をレーザ光Lで切断加工するにあたり、被膜8を炭化させて母材7に付着させることがないよう、テーブル3の+X方向駆動により、弱いエネルギのレーザ光で被膜8だけを切断する工程、テーブル3の-X方向駆動により、被膜8が溶融切断された個所に強いエネルギのレーザ光を与え母材7を切断する工程とを含むレーザ切断加工方法。」である。
甲3事項を、本件発明1に照らすと、甲3事項の「金属製の母材7に合成樹脂の被膜8が付着された材料」は本件発明1の「被覆材を表面に設けた被加工物」に、「テーブル3の+X方向駆動により、弱いエネルギのレーザ光で被膜8だけを切断する工程」は「最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程」に、「テーブル3の-X方向駆動により、被膜8が溶融切断された個所に強いエネルギのレーザ光を与え母材7を切断する工程」は「被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程」に相当する。
また、甲3事項は、「被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射」なる記載、第3図、第4図の記載からみて、本件発明1に照らすと、「最終加工軌跡上における加工部位のすべてを前記第1加工工程による被覆材の除去範囲」とするものである。
甲3事項を本件発明1に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「被覆材を炭化させて被加工物に付着させることがないよう」、「被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、最終加工軌跡上における加工部位のすべてを前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたレーザ加工方法。」

(ウ)周知技術
書き改められた甲2事項、甲3事項によれば、「被覆材が被加工物に溶着することがないよう」、「被覆材を表面に設けた被加工物を、レーザ光により加工するにあたり、最終加工とは異なる加工条件により最終加工軌跡上の被覆材を除去する第1加工工程と、被覆材を除去した被加工物の所定経路上にレーザ光を照射し、加工を行う第2加工工程とを含むレーザ加工方法において、最終加工軌跡上における加工部位のすべてを前記第1加工工程による被覆材の除去範囲としたレーザ加工方法。」は周知である。
なお、甲第11号証は、上記周知技術の立証を補強するために、審判請求後に提出されたものであるが、甲第2?3号証により、周知技術と認められるから、甲第11号証について検討するまでもない。

(エ)容易性
甲1発明における「被覆材」は、「外観を重視する」被加工物を保護するため、「製品製作の最終工程まで貼付したままであることが望まし」いことから、「被覆材を被加工物上に「残すこと目的」とするものである(上記2.(1)ア.の段落0003、同イ.の段落0005)。
上記周知技術は、レーザ加工方法という甲1発明と同一技術分野において、「被覆材が被加工物に溶着することがないよう」に、「最終加工軌跡上の被覆材を除去」するものである。
すなわち、かかる周知技術は、甲1発明が目的とする「被加工物を保護する」ために、被覆材を被加工物上に「貼付したまま」「残す」ことと、相いれないものである。
請求人は、「レーザ加工に悪影響を及ぼさないようにするという共通の課題を有する」から、周知技術と置き換え可能と主張する(上記第3.3.(1)の「3.1.2.1」)が、上記のとおり、甲1発明における「被覆材を残す」ことと、周知技術における「被覆材を除去」することとは、相いれない課題であるから、請求人の主張は採用できない。
したがって、甲1発明の「焼付ける」工程を「除去する」工程とする相違点1を容易とすることはできない。

イ.相違点2
相違点2について検討する。
本件発明1は「最終加工軌跡上における加工開始部位または/および加工終了部位」であるから、「最終加工軌跡上における加工開始部位」のみであるものを含む。

(ア)甲4事項
甲4事項は、上記2.(4)のとおりであり、本件発明1に照らすと、甲4事項の「樹脂フィルムF」は本件発明1の「被覆材」に、「鋼板M」は「被加工物」に、相当する。
甲4事項の「ピアス成形」を行う部位は本件発明1の「加工開始部位」に相当する。
甲4事項を、本件発明1に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「被覆材を表面に設けた被加工物を、アシストガスを用いたレーザ光により加工するにあたり、加工開始部位において、アシストガスにより被覆材が被加工物から浮き上がることのないよう、押え片により被覆材を押え、加工開始部位以外では押え片による押えを行わないレーザ加工方法。」

甲1発明は、上記のとおり、「被加工物を保護する」ために、被覆材を被加工物上に「残す」ことを目的とし、甲4事項も、被覆材を被加工物上に「残す」ことを目的としている。
効果をより確実なものとするため、手段を重畳的に行うことはありうるから、甲1発明に甲4事項を適用したとする。
すると、甲1発明において「加工開始部位において、アシストガスにより被覆材が被加工物から浮き上がることのないよう、押え片により被覆材を押え、加工開始部位以外では押え片による押えを行わない」ものとなる。
すなわち、相違点1の第1加工工程において「除去」する点が容易であるか否かにかかわらず、甲4事項の適用により、加工開始部位を「押さえ」ることとなるから、本件発明1に至ることはない。

(イ)甲5事項
甲5事項は、上記2.(5)のとおりであり、本件発明1に照らすと、甲5事項の「被覆材29A」は本件発明1の「被覆材」に、「母体金属29B」は「被加工物」に、「表面被覆材29」は「被覆材を表面に設けた被加工物」に、相当する。
甲5事項の「ピアシング」を行う部位は本件発明1の「加工開始部位」に相当する。
甲5事項を、本件発明1に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「被覆材を表面に設けた被加工物を、アシストガスを用いたレーザ光により加工するにあたり、加工部周囲の被覆材が金属部から剥離することがないよう、加工開始部位において、遊動ノズルの先端を被覆材に当接させた状態において、逆流する余分なアシストガスを遊動ノズルの排出口から大気中に排出し、加工開始部位に続く切断加工時には、遊動ノズルの先端を被覆材に当接させた状態において、排出口を閉止して切断加工を実施するレーザ加工方法。」

甲5事項は、被覆材の剥離防止のため、加工開始部位、加工開始部位に続く切断加工時のいずれにおいても、遊動ノズルの先端を被覆材に当接させている。
よって、剥離防止に着目した場合、すべての加工工程において、遊動ノズルの先端を被覆材に当接させており、「加工開始部位」のみ区別するものではない。
請求人は、排出口が「加工開始部位」のみ開口されている旨、主張する(第3.3.(2))が、これは、「すべての加工工程において、遊動ノズルの先端を被覆材に当接させ」る結果、加工開始部位においては、アシストガスの逃げ場がなくなるためのものであって、「剥離防止」の観点によるものではない。

(ウ)甲6事項
甲6事項は、上記2.(6)のとおりであり、本件発明1に照らすと、甲6事項の「フィルム」は本件発明1の「被覆材」に、「フィルムコーティング材」は「被覆材を表面に設けた被加工物」に、「レーザガス」は「アシストガス」に、「レーザビーム」は「レーザ光」に、相当する。
甲6事項を、本件発明1に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「被覆材を表面に設けた被加工物を、アシストガスを用いたレーザ光により加工するにあたり、集光レンズのフラットな部分で集光されたレーザ光により被覆材を溶かして蒸発させると同時に、集光レンズの凸部分で集光されたレーザ光により被加工物を切断するようにしたレーザ加工方法」

甲6事項は、「加工開始部位」のみにおいて加工条件を区別するものではない。
請求人は、甲第6号証の「にビニールがバルーンになる」(上記(6)ア)なる記載をもとに、加工開始部位を区別するものである旨、主張する(第3.3.(3))。
しかし、甲第6号証には「ピアス時」における「加工条件」の差違については、何ら記載がないから、請求人の主張は根拠がない。

(エ)甲7事項
甲7事項は、上記2.(7)のとおりであり、甲7事項の「ピアシング位置」は本件発明1の「加工開始部位」に相当する。
甲7事項は、被加工物の表面に設けられるものが、「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」であり、その塗装範囲は明らかでない。
甲1発明における「被覆材」は、上記のとおり、「被加工物を保護する」ために、被加工物上に「残す」ことを目的としたものである。
甲7事項の「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」は、本来は被加工物上に残すことは効率の良い穿孔の支障となるものであって(2.(7)イの段落0008)、甲7事項は、本件発明1及び甲1発明とは、その技術的思想を異にする。
さらに、甲7事項は、弊害物除去工程、穿孔工程、切断工程の3工程からなり、「第1加工工程」、「第2加工工程」の2工程からなる甲1発明と、前提を異にする。
よって、甲1発明の「被覆材」を甲7事項の「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」に置き換えることは、動機がない。

請求人は、本件発明1の「被覆材」は、その明細書の段落0002?0004の記載からみて、「低融点物質」を含み、同明細書において、従来技術とされる特開平7-236984号公報の段落0040に「本実施例では亜鉛メッキによるコーティングについて示したが、母材よりも低融点のコーティング材であればどの材料においても同等な加工品質が得られる。」なる記載があるから、甲7事項の「所定の塗装厚の合成樹脂塗料からなる弊害物」は、本件発明1の「被覆材」に当たる旨、主張している(調書の「請求人 2及び7」)。
しかし、上記のとおり、甲1発明に甲7事項を適用することは困難であるから、請求人の主張は、その前提において誤りである。

(オ)周知技術
請求人は、「被覆材が被覆された被加工物をレーザ加工するにあたり、被覆材の剥離を防止するため、ピアシング時だけ被覆材の剥離が生じないように特別の工夫をして被加工物を穿設し、ピアシング後の切断時には、被覆材に何らの措置も施すことなく通常の被加工物の切断作業を行うこと」が周知と主張するが、以上のとおり、提出された証拠によっては、かかる技術が周知とは認められない。

したがって、相違点2を容易とすることはできない。

以上、提出された証拠により、本件発明1が容易に発明をすることができたとすることはできない。

4.本件発明2
(1)対比
本件発明2と甲1発明とを対比すると、上記3.(1)と同様の対応関係がある。
よって、本件発明2と甲1発明は、上記3.(1)と同様の一致点、相違点1、2を有し、さらに以下の相違点を有する。

相違点3:本件発明2では、「レーザ加工方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムを格納したことを特徴とするコンピュータが読取可能な記録媒体」であるが、甲1発明では、そのような記録媒体ではない点。

(2)判断
相違点3について検討する。
甲7事項は、上記のとおり「レーザ加工方法を中央制御部により、所定の加工を実施するために必要な情報を格納したROM。」を含むものである。
本件発明2に照らすと、甲7事項の「中央制御部」は本件発明2の「コンピュータ」に、「所定の加工を実施するために必要な情報」は「プログラム」に、「ROM」は「コンピュータが読取可能な記録媒体」に相当する。

甲7事項の相違点3に係る部分を、本件発明2に照らし、書き改めると、以下のとおりである。
「レーザ加工方法を、コンピュータに実行させるためのプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体」

加工をコンピュータにより制御・実行させることは、一般的であることから、甲1発明に、甲7事項の相違点3に係る部分を適用し、相違点3に係るものとすることは、必要に応じてなしうる設計的事項にすぎない。

なお、相違点3に格別な意義がないことは、被請求人も認めるとおりである(口頭審理調書「両当事者 2」)。
しかし、上記3.(2)のとおり、相違点1、相違点2を容易とすることはできないから、本件発明2が容易に発明をすることができたとすることはできない。

第7.むすび
以上、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1ないし2に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-19 
出願番号 特願平10-127628
審決分類 P 1 123・ 121- Y (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 加藤 昌人  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 菅澤 洋二
長屋 陽二郎
登録日 2004-01-16 
登録番号 特許第3512634号(P3512634)
発明の名称 レーザ加工方法、被レーザ加工物の生産方法、およびレーザ加工装置、並びに、レーザ加工または被レーザ加工物の生産方法をコンピュータに実行させるプログラムを格納したコンピュータが読取可能な記録媒体  
代理人 中根 孝之  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 高橋 元弘  
代理人 小川 文男  
代理人 近藤 惠嗣  
代理人 末吉 亙  
代理人 豊岡 静男  

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