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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C09D
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09D
管理番号 1277605
審判番号 不服2011-10895  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-24 
確定日 2013-08-06 
事件の表示 特願2000-594872「防汚塗料」拒絶査定不服審判事件〔平成12年7月27日国際公開、WO00/43460、平成14年10月22日国内公表、特表2002-535437〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成12年1月18日(パリ条約による優先権主張 平成11年1月20日 欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、平成19年1月11日及び同年4月9日にそれぞれ手続補正書が提出され、平成22年6月18日付けで拒絶理由が通知され、同年12月21日に意見書及び手続補正書が提出され、平成23年1月17日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、同年5月24日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年7月1日付けで前置審査の結果が報告され、当審において平成24年6月20日付けで審尋され、同年12月26日に回答書が提出されたものである。

2.本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成23年5月24日付け手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1?9にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は次のとおりである。
「バインダーを有する防汚塗料であって、
i)ロジン、ii)水素化ロジン、マレイン化ロジン、フマール化ロジン、ホルミル化ロジン、又は重合されたロジンであるロジン誘導体、及びiii)ロジン金属塩からなるグループから選択されるロジン物質、及び
補助的フィルム形成性樹脂を含み、
該塗料は、海中での殺生物特性を有する成分を含み、バインダーが55:45ないし80:20の重量%比でのロジン物質と補助的フィルム形成性樹脂とのブレンドを含むことにより特徴付けられ、
該補助的フィルム形成性樹脂は、酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)であって、その酸基が、加水分解又は解離する事が出来て海水に可溶なポリマーを残す基でブロックされており、該ブロッキング基は、一価の有機残基に結合されている二価の金属原子、ヒドロキシル残基に結合されている二価の金属原子、およびポリマーの有機溶剤可溶性アミン塩を形成するモノアミン基から選択されるところの酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)30?90重量%、及び非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)70?10重量%を含むことを特徴とする防汚塗料。」

3.原査定における拒絶理由
原査定は、「この出願については、平成22年6月18日付け拒絶理由通知書に記載した理由2、5によって、拒絶をすべき」というものであるが、その理由2とは、「この出願の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」というものである。

4.当審の判断
(1)引用刊行物及びその記載事項
刊行物1:特開平7-90200号公報(原査定における引用文献4)

≪刊行物1の記載事項≫
ア.「【請求項8】 主鎖中および/または主鎖末端に多価金属の塩からなる結合を有するポリウレタン樹脂(A)と、親水性樹脂(B)および/または親水性化合物(C)と、疎水性樹脂(D)と、防汚剤(E)とを含有することを特徴とする、防汚塗料用樹脂組成物。
【請求項9】 前記した金属塩結合が、カルボキシル基、式(I)または式(II)に示されるリン原子を含有する酸基および式(III)に示されるイオウ原子を含有する官能基よりなる群から選ばれる、少なくとも1種の原子団基と、Si、Ge、Sn、Pb、Al、Zn、Cd、Hg、Cu、Ag、Ni、Co、Fe、Mn、Cr、Ti、Zr、MgおよびCaよりなる群から選ばれる、少なくとも1種の金属とからなるものである、請求項1?8のいずれかに記載の防汚塗料用樹脂組成物。
OH

-P=O (I)

R
[ただし、式中のRは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシル基、アリール基またはアリールオキシ基を表わすものとする。]
OH

-P (II)

R
[ただし、式中のRは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシル基、アリール基またはアリールオキシ基を表わすものとする。]
O
?
-S-OH (III)
?
O 」(特許請求の範囲の請求項8、9)
イ.「【産業上の利用分野】本発明は新規にして有用なる防汚塗料用樹脂組成物に関する。さらに詳細には、本発明は、主鎖中および/または主鎖末端に、多価金属の塩からなる結合を有するという特定のポリウレタン樹脂(A)を、最低必須の成分として含んで成る、セルフ・ポリッシング型の防汚塗料用樹脂組成物に関する。
そして、本発明の組成物は、とりわけ、長期防汚性に優れるものであって、主として、船底ならびに魚網などに用いられる防汚塗料に供されるものである。」(段落0001?0002)
ウ.「本発明における樹脂成分としては、当該ポリウレタン樹脂(A)を、唯一の皮膜形成性成分として、単独で以て使用してもよいし、あるいは、当該ポリウレタン樹脂(A)それ自体の、海水中への溶出速度を制御するために、それぞれ、親水性樹脂(B)および/または親水性化合物(C)を併用することが出来るし、
また、かかる親水性樹脂(B)および/または親水性化合物(C)と、疎水性樹脂(D)とを併用することも出来るし、さらには、疎水性樹脂(D)とを併用することも出来る。」(段落0101?0102)
エ.「さらに、上記した親水性化合物(C)とは、水溶性の、ないしは水膨潤性の高い、低分子量の化合物を指称するものである。かかる親水性化合物(C)として代表的なもののみを例示するにとどめれば、1価アルコール類、ポリヒドロキシ化合物、モノカルボキシ化合物またはポリカルボキシ化合物などであるが、これらのうちでも特に望ましいものとしては、モノカルボキシ化合物が、就中、ロジンの使用が適切である。」(段落0106)
オ.「さらにまた、上記した疎水性樹脂(D)とは、非水溶性で、かつ、水膨潤性の低い樹脂類を指称するものである。かかる疎水性樹脂(D)として特に代表的なもののみを例示するにとどめれば、塩素化オレフィン系重合体類や、何ら、エーテル基またはアミド基の如き、いわゆる親水性基を有しないか、あるいは、かかる親水性基の含有率が極めて低いようなアクリル系重合体などであるが、勿論、これらのもののみに、決して、限定されるものではない。」(段落0107)
カ.「その際において、当該ポリウレタン樹脂(A)と、当該ポリウレタン樹脂(A)成分以外の3成分のうちの、少なくとも1種とを併用する場合には、通常、当該(A)成分の100重量部に対して、(B)および/または(C)成分が5?200重量部程度の範囲、好ましくは、5?100重量部となるように、
あるいは、当該(A)成分の100重量部に対して、(D)成分が5?200重量部程度の範囲、好ましくは、5?100重量部となるように、あるいはまた、当該(A)成分の100重量部に対して、(B)および/または(C)と(D)成分の合計量がが5?200重量部程度となるように、好ましくは、5?100重量部となるように混合すればよい。」(段落0109?0110)
キ.「参考例 1〔主鎖中および/または主鎖末端に多価金属の塩からなる結合を有するポリウレタン樹脂(A)の調製例〕
温度計、還流冷却器、攪拌機および滴下漏斗を備えた反応容器に、メチルエチルケトンの107部と、キシレンの107部と、1,6-ヘキサンジオールの79部と、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピル-2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピオネートの136部と、ジブチル錫ジラウレートの0.1部とを仕込んで、70℃に昇温した。
次いで、同温度で、メチルエチルケトンの93部と、キシレンの93部と、トリレンジイソシアネートの185部とからなる混合物を、2時間に亘って滴下し、その後も同温度で、8時間のあいだ攪拌して、この反応混合物中には、イソシアネート基が存在しないことを、赤外線吸収スペクトル(IR)測定で以て確認した。
その後は、フタル酸無水物の79部と、メチルエチルケトンの39部と、キシレンの39部と、N-メチルイミダゾールの0.5部とを添加し、85℃に昇温してから、同温度で10時間のあいだ攪拌して、この反応混合物中には、もはや、酸無水基の存在しないことを、IR測定で以て確認した。
しかるのち、酸化亜鉛の22部と、メチルエチケトンの11部およびキシレンの11部とを添加し、反応温度を85℃として、5時間に亘って反応させ、不揮発分が49.5%なる、淡黄色の目的重合体の溶液を得た。以下、これをA-1と略称する。」(段落0129?0132)
ク.「参考例 10〔疎水性共重合体(C)の調製例〕
温度計、還流冷却器、攪拌機、滴下漏斗および窒素ガス導入管を備えた反応容器に、キシレンの400部を仕込んでから、100℃にまで昇温したのち、キシレンの100部と、
tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエートの10部、アゾビスイソブチロニトリルの2.5部およびメチルメタクリレートの400部と、イソブチルアクリレートの100部とからなる混合物を、6時間かけて滴下した。
さらに、同温度で、8時間のあいだ反応を続行せしめて、目的とする疎水性樹脂を得た。これをC-1と略称する。」(段落0162?0164)
ケ.「実施例 1?8ならびに比較例 1および2
第1表に示される通りの配合組成に基づいて、それぞれの所定の成分を配合せしめ、混練分散を行なって、各種の防汚塗料を調製した。
……
第 1 表(2)
┌────┬────┬────┬────┬────┐
│実施例6│実施例7│実施例8│比較例1│比較例2│
┌────┼────┼────┼────┼────┼────┤
│ A-1 │ │ 360 │ │ │ │
│ A-6 │ 360 │ │ │ │ │
│ A-7 │ │ │ 600 │ │ │
├────┼────┼────┼────┼────┼────┤
│ B-1 │ │ │ │ │ 240 │
│ B-2 │ │ │ │ │ │
│ ロジン │ │ 120 │ │ 240 │ │
├────┼────┼────┼────┼────┼────┤
│ C-1 │ │ 120 │ │ │ 360 │
│塩化ゴム│ 240 │ │ │ 360 │ │
├────┼────┼────┼────┼────┼────┤
│亜酸化銅│ 650 │ 650 │
├────┼──────────────┼─────────┤
│弁 柄│ 50 │ 50 │
└────┴──────────────┴─────────┘
≪第1表の脚注≫……
ロジンは、50%のトルエン溶液として用いた。」(段落0165?0176)

(3)刊行物1に記載された発明
摘示アの請求項8の記載からみて、刊行物1には、以下のとおりの発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「主鎖中および/または主鎖末端に多価金属の塩からなる結合を有するポリウレタン樹脂(A)と、親水性樹脂(B)および/または親水性化合物(C)と、疎水性樹脂(D)と、防汚剤(E)とを含有する、防汚塗料用樹脂組成物」

(4)対比
本願発明1と、刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明の「主鎖中および/または主鎖末端に多価金属の塩からなる結合を有するポリウレタン樹脂(A)」は、摘示アの請求項9やその製造方法である摘示キの記載からみて、多価金属が二価の金属のとき、本願発明1における「その酸基が、加水分解又は解離する事が出来て海水に可溶なポリマーを残す基でブロックされており、該ブロッキング基は、一価の有機残基に結合されている二価の金属原子」を含む「酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)」に該当する。(なお、請求人も回答書にて「引用文献4のポリウレタン樹脂は、酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)の定義に当てはまり得るといえます。」と述べているとおり、この対応関係は認めている。)
刊行物1発明の「親水性化合物(C)」は、摘示エの記載からみて、本願発明1における「ロジン物質」のうちの「i)ロジン」に該当する。
刊行物1発明の「疎水性樹脂(D)」は、摘示オやその製造例である摘示クの記載及び本願明細書の段落0022の記載からみて、本願発明1における「非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)」に該当する。(なお、請求人は、「疎水性樹脂(D)」について、「(i)加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー」、「(ii)非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー」、「(iii)加水分解性水溶性フィルム形成性ポリマー」及び「(iv)非加水分解性水溶性フィルム形成性ポリマー」の4種類に分類しているが、摘示オには、「非水溶性で、かつ、水膨潤性の低い樹脂類を指称するもの」と記載され、例示として「いわゆる親水性基を有しないか、あるいは、かかる親水性基の含有率が極めて低いようなアクリル系重合体など」が挙げられていることからみて、「(ii)非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー」のみが該当するものと解される。)
そして、刊行物1発明の「防汚剤(E)」は、本願発明1における「海中での殺生物特性を有する成分」に該当する。
ところで、本願発明1では、「補助的フィルム形成性樹脂」と特定されているが、これは、本願明細書の発明の詳細な説明に、
「伝統的に防汚塗料は、塗料から浸出される殺生物性顔料を有する比較的不活性なバインダーを含んでいた。使用されてきたバインダーのうちに、ビニル樹脂及びロジンがある。……。ロジンは、海水に非常に僅か溶ける硬いもろい樹脂である。ロジンに基づく防汚塗料は、可溶性マトリックス又は侵食性塗料と呼ばれてきた。殺生物性顔料は、使用中に非常にゆっくりとロジンバインダーのマトリックスから浸出されて、ロジンのマトリックス骨格を残し、後者は船体表面から洗い落とされて、塗膜内の深部から殺生物性顔料が浸出する事を可能にする。」(段落0002)及び
「ロジンは、フィルム形成剤としては非常に優れたものとはいえず、ロジンに基づく防汚塗料に他のフィルム形成性樹脂を添加することが知られている。……。本発明は、塗膜強度及び/又は塗料から殺生物剤が浸出してしまった後でロジンに基づく塗料マトリックスの確実な侵食除去に関して、ロジンに基づく防汚塗料を改善することを目的とする。」(段落0005)
と記載されているように、ロジンを可溶性マトリックスとして使用する防汚塗料において、さらに添加する「フィルム形成性樹脂」を単に「補助的フィルム形成性樹脂」と呼んでいるにすぎないものと認められ、ロジンと組み合わせて使用するものである限り、「補助的」との語に技術的に格別の意味はないものと解される。
そうすると、刊行物1発明における「ポリウレタン樹脂(A)」、「親水性化合物(C)」及び「疎水性樹脂(D)」は、摘示ウに記載があるとおり、被膜形成性成分であるから、本願発明1の「バインダー」に該当し、このうちロジンに相当する「親水性化合物(C)」を除いた「ポリウレタン樹脂(A)」及び「疎水性樹脂(D)」は、本願発明1の「補助的フィルム形成性樹脂」に該当するものといえる。

上記した対応関係を踏まえると、本願発明1と刊行物1発明とは、
「バインダーを有する防汚塗料であって、
ロジン物質、及び
補助的フィルム形成性樹脂を含み、
該塗料は、海中での殺生物特性を有する成分を含み、バインダーがロジン物質と補助的フィルム形成性樹脂とのブレンドを含み、
該補助的フィルム形成性樹脂は、酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)であって、その酸基が、加水分解又は解離する事が出来て海水に可溶なポリマーを残す基でブロックされており、該ブロッキング基は、一価の有機残基に結合されている二価の金属原子の酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)、及び非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)を含む防汚塗料」
である点で一致し、以下の点で相違するものと認められる。

相違点1:
本願発明1では、バインダーが55:45ないし80:20の重量%比でのロジン物質と補助的フィルム形成性樹脂とのブレンドを含むのに対し、刊行物1発明では、そのような規定がない点。

相違点2:
本願発明1では、補助的フィルム形成性樹脂として、酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)30?90重量%、及び非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)70?10重量%を含むとするのに対し、刊行物1発明にはそのような規定がない点。

(5)相違点に対する判断
ア.相違点1について
刊行物1には、ロジンとフィルム形成性樹脂の量比についての具体的な例としては、刊行物1の摘示ケの実施例7において、ロジン120(部)に対し、本願発明1の酸官能性フィルム形成性ポリマーに該当する「ポリウレタン樹脂A-1」が360(部)で、同じく非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマーに該当する「疎水性樹脂C-1」(摘示クより、メチルメタクリレートとイソブチルアクリレートの共重合体と認められる。)が120重量部であり、ロジンの量がフィルム形成樹脂よりも少ないものが記載され、ロジンの量がフィルム形成性樹脂よりも多く配合されるものの例は記載されてはいない。しかしながら、摘示カには、「当該(A)成分の100重量部に対して、(B)および/または(C)成分が5?200重量部程度の範囲」と記載され、(C)成分というのは、本願発明1のロジンに相当し、(A)成分というのは、同じく本願発明1の「酸官能性フィルム形成性ポリマー」に相当するものであるから、ロジンが、フィルム形成性樹脂である「酸官能性フィルム形成ポリマー」よりも多くなる場合が示唆され、また、同じく摘示カにおける「当該(A)成分の100重量部に対して、(B)および/または(C)と(D)成分の合計量がが5?200重量部程度」とも記載され、(C)成分のロジンと(D)成分の「非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー」の量比が不明ではあるが、それらの合計量が(A)成分の「酸官能性フィルム形成性ポリマー」よりも多くなることも示唆されており、これらの記載内容はロジンの量がフィルム形成性樹脂よりも多く配合できることを示唆するものといえる。そして、そのように配合した場合は、ロジンが主でフィルム形成性樹脂が補助的になることを十分に示唆するものである。
そして、効果について検討しても、本願明細書の表1及び表2には、参考例5として、ロジンの量(3.88)が加水分解性ポリマー(11.98)と非加水分解性ポリマー(1.14)の合計量(フィルム形成性樹脂の量)よりも極めて少ない場合であっても、平均汚染評点が89.3と、その他の実施例1?3及び5?9の平均汚染評点(71.3?88.0)よりも優れたものであることが示されており、このことは、本願発明1の相違点1である「バインダーが55:45ないし80:20の重量%比でのロジン物質と補助的フィルム形成性樹脂とのブレンド」とすることに何ら臨界的な意味がないことを示すものであるから、本願発明1が相違点1に係る発明特定事項を備えることによる格別な効果を見出すことができない。

イ.相違点2について
上記摘示カの、「当該(A)成分の100重量部に対して、(D)成分が5?200重量部程度の範囲、好ましくは、5?100重量部」との記載や、摘示ケの実施例7における、「酸官能性フィルム形成性ポリマー」である「ポリウレタン樹脂A-1」が360(部)と「非加水分解性フィルム形成性ポリマー」である「疎水性樹脂C-1」が120(部)との記載は本願発明1で特定する範囲と重複するものと認められ、そのような数値範囲とすることは当業者が適宜採用できることにすぎない。
そして、その効果を検討しても、本願明細書の表1及び表2には、参考例6として、「非加水分解性フィルム形成性ポリマー」が存在しない場合であっても、その平均汚染評点83.3とあり、他の実施例の平均汚染評点と比較しても格別な差異は認められないものであるから、相違点2の「酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)30?90重量%、及び非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)70?10重量%を含む」とすること自体に、臨界的な意義は認められないことから、本願発明1が相違点2に係る発明特定事項を備えることにより格別な効果を奏するものとは認められない。

したがって、上記相違点1及び2に係る数値範囲は、当業者が適宜採用できるものであって、本願発明1は刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。

(6)請求人の主張について
請求人は、回答書において、
「当業者が、引用文献4の実施例を参照すると、非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)」を含む実施例がないことに気づきます。従いまして、引用文献4は、コーティング組成物中に非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)が存在することが重要であるという示唆を実施例から与えることはありません。」
と主張している。
しかしながら、摘示クの「疎水性共重合体(C)の調製例」で調製された「疎水性樹脂C-1」はメチルメタクリレートとイソブチルアクリレートの共重合体であり、「非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)」に該当し、摘示ケの実施例7ではこの「疎水性樹脂C-1」を含むものであるから、実施例も存在している。
そして、本願明細書の段落0030以降、特に表1及び表2の記載を見れば、非加水分解性アクリルポリマーを配合しない参考例6や非加水分解性アクリルポリマーが所定量配合されていない参考例3及び4の平均汚染評点は実施例のものと遜色ないものであるから、「補助的フィルム形成性樹脂」として「非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)」を70?10重量%含ませることに格別の効果は認められないものであるし、平成22年12月21日付け意見書に添付された参考資料1(回答書に添付された参考資料2)の追加実施例を併せみても、せいぜい「酸官能性フィルム形成性ポリマー(A)」と「ロジン」が所期の効果を奏するために必要であることを示すにとどまり(なお、Paint 1のAntifouling Performanceは本願明細書の表2における比較例1よりも劣るものである。)、「非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B)」の必要性を示すものではない。
よって、請求人の上記主張は受け入れられない。

さらに、請求人は、回答書において、
「本願明細書の実験結果によっても証明されているように(段落)[0040]?[0043]等ご参照)、ロジン物質を所定の範囲内で比較的高い割合で含む(例えば60重量%)コーティング組成物が、優れた防汚性能を発揮することを見出しました(より低いロジン含有量の組成物と同等の、あるいはよりすぐれた性能を有します)。」、
「本願の優先日においては、防汚性能により優れた防汚コーティング組成物(酸官能性フィルム形成性ポリマー(A))に、防汚性能に劣る成分(ロジン物質および/または非加水分解性水不溶性フィルム形成性ポリマー(B))を混合することは防汚性能を低下させるものと予想されていました。このような予想にも関わらず、驚くべきことに、上述の成分組み合わせことにより防汚性能が実際に向上されたのであり、防汚性能の改善を明確に示すものが上述の実験データに関する参考資料1(本意見書に再度添付しました参考資料2)です。」
と主張している。
しかしながら、回答書添付の参考資料2については上記したとおりであるし、また、本願明細書の表2における参考例5(ロジン含有量が55重量%以下)の平均汚染評点は実施例1?3及び5?9のものより高い結果となっていることから、ロジンを比較的高い割合で含むことによる防汚性能の向上・改善も示されていない。
よって、請求人のこの主張も失当である。

5.むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-28 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2000-594872(P2000-594872)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C09D)
P 1 8・ 537- Z (C09D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牟田 博一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 防汚塗料  
復代理人 潮 太朗  
代理人 鈴木 康仁  
代理人 片山 英二  
代理人 大森 規雄  
代理人 小林 浩  

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