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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1277611
審判番号 不服2011-26172  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-02 
確定日 2013-08-06 
事件の表示 特願2006-509278「半結晶性プロピレンポリマー及び高ガラス転移温度物質の弾性ブレンド」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月14日国際公開、WO2004/087806、平成18年9月21日国内公表、特表2006-521457〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月23日(パリ条約による優先権主張 2003年3月28日 アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成19年2月23日に手続補正書が提出され、平成22年7月30日付けで拒絶の理由が通知され、平成23年2月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年7月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、平成24年1月31日付けで前置報告がなされ、当審において同年8月6日付けで審尋がなされ、同年12月14日に回答書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?20に係る発明は、明りようでない記載の釈明を目的とした平成23年12月2日提出の手続補正書によって補正された明細書(以下、「本願明細書」という。)、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)は、以下のとおりのものである。
「以下を含む弾性ブレンド組成物:
(a)組成物の全重量に基づいて70重量%?95重量%の、以下のものからなる群より選択されるポリマー:
i)ホモポリプロピレン、及び
ii) (1)プロピレン、及び(2)エチレン、C_(4)?C_(12)α-オレフィン及びその組み合わせから選択される少なくとも1のコモノマー、のランダムコポリマー、であり、
前記ポリマーはDSCで測定した25-110℃の融点を有し、ASTM E-794-95手順を用いて測定した融解熱がDSCで測定して50J/g未満、ASTM D1238手順A(190℃、2.16kg)に従い測定したメルトインデックス(MI)が20dg/分未満であり、立体規則性プロピレン結晶化度を有するポリマー;
(b)組成物の全重量に基づいて (a)と混和性を有する5重量%?30重量%の炭化水素樹脂であって、DSCで測定した20℃より高いガラス転移温度を有し、ASTM E-28(改訂1996)により測定した軟化点が80℃?180℃であり;及び
(c) ASTM D790に従い測定した組成物の永久伸びが20%未満である。」

第3 原審における拒絶の理由の概要
原審において拒絶査定の理由とされた、平成22年7月30日付け拒絶理由通知書に記載した理由1の概要は以下のとおりである。
「この出願の請求項1?23に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
引用文献等一覧
2.特開平03-062838号公報」

第4 当審の判断
1.刊行物
特開平3-62838号公報(以下、「引用例」という。原審での引用文献2に同じ。)

2.引用例の記載事項
ア 「(1)メルトインデックス(ASTM D1238-65T、230℃)が0.1ないし100g/10min、プロピレン含有率が60ないし85mol%、かつDSC法により測定される結晶融解熱量が20ないし80Joule/gのプロピレン・1-ブテンランダム共重合体(A)100重量部に対して、粘着付与剤(B)を0.5ないし20重量部含有する剥離性保護フィルム用組成物。
(2)粘着付与剤(B)が脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族/芳香族共重合炭化水素樹脂、脂環族系炭化水素樹脂、合成テルペン系炭化水素樹脂、テルペン系炭化水素樹脂、クマロンインデン系炭化水素樹脂、低分子量スチレン系樹脂およびロジン系炭化水素樹脂から選ばれる1種以上のものである請求項(1)記載の剥離性保護フィルム用組成物。
(3)単層または多層からなるフィルムであって、このフィルムの少なくとも一方の最外表面に位置する層が請求項(1)または(2)記載の組成物からなる剥離性保護フィルム。」(特許請求の範囲)

イ 「これら粘着付与剤(B)の中でも脂肪族系炭化水素樹脂および芳香族系炭化水素樹脂を水素添加した脂環族系炭化水素樹脂が(A)成分との相溶性が良いので好ましく、さらには軟化点(環球法)が70ないし150℃、好ましくは80ないし140℃、かつ芳香族核への水素添加率が80%以上、好ましくは85%以上の脂環族系炭化水素樹脂が特に好ましい。」(第3頁左上欄20行?右上欄6行)

ウ 「実施例1、2
(プロピレン・1-ブテンランダム共重合体の製造)
攪拌翼を備えたステンレス製の20lの重合器中に触媒成分として、200gの無水塩化マグネシウム、46mlの安息香酸エチルおよび30mlのメチルポリシロキサンを窒素雰囲気中でボールミル処理した。次いで四塩化チタン中に懸濁して濾過したものをチタン濃度が0.01mmol/lとなるように、トリエチルアルミニウムを重合器中の濃度が1.0mmol/lになるように、また電子供与体としてp-トルイル酸メチルを重合器中の濃度が0.33mmol/lになるように供給し、重合溶媒としてn-へプタンを用い、プロピレンと1-ブテンの混合ガス(プロピレン68mol%、1-ブテン32mol%)を毎時4klの速度で供給することにより70℃で共重合反応を行った。
このようにして得られたプロピレン・1-ブテンランダム共重合体は、核磁気共鳴スペクトルにより測定したプロピレン含有率が71.0mol%、融点110℃、融解熱量50Joule/g、メルトインデックス(230℃)7.0g/10minであった。
(組成物およびフィルムの調製)
上記方法で得たプロピレン・1-ブテンランダム共重合体(以下、PBCと略記する。)に、脂環族系炭化水素樹脂「アルコンP125」(荒川化学(株)製、商品名)を第1表に示す配合比でタンブラーブレンダーで2分間混合し、直径40mmの押出機(設定温度=230℃)で溶融混合して組成物を調製した。
次にこの組成物をT-ダイ成形機(設定温度=230℃)を用いて厚さ50μmの単層フィルムに成膜した。」(第4頁左上欄10行?右上欄19行)

3.引用例に記載の発明
引用例には、摘示ア及びイからみて、下記のとおりの発明(以下、「引用例発明」という。)が記載されていると認められる。
「(A)メルトインデックス(MI)(230℃、2.16kg)が0.1?100g/10min、プロピレン含有率が60?85mol%、及びDSC法により測定される結晶融解熱量が20?80J/gのプロピレン・1-ブテンランダム共重合体と、
(B)軟化点(環球法)が70?150℃の粘着付与剤である脂環族系炭化水素樹脂とを、
プロピレン・1-ブテンランダム共重合体(A)100重量部に対して、粘着付与剤である脂環族系炭化水素樹脂(B)を0.5ないし20重量部含有する剥離性保護フィルム用組成物。」

4.対比・判断
引用例発明の「プロピレン・1-ブテンランダム共重合体」は、本願発明1の「ii)(1)プロピレン、及び(2)エチレン、C_(4)?C_(12)α-オレフィン及びその組み合わせから選択される少なくとも1のコモノマー、のランダムコポリマー」に対応し、そして、メルトインデックス(MI)に関し、引用例発明と本願発明1は測定温度が異なるが、引用例発明のMI(230℃、2.16kg)は0.1?100g/10min、すなわち、0.1?100dg/分であり、本願発明1のMI(190℃、2.16kg)の値「20dg/分未満」と重複一致していることは明らかであり、また、融解熱(DSC)に関しても、引用例発明の「20?80J/g」は、本願発明1の「50J/g未満」と重複一致している。
さらに、引用例発明は、「結晶融解熱量」を有し、さらに、摘示ウを参照するに、チーグラー系重合触媒を用いてプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を得ていることからみて、当然に「立体規則性プロピレン結晶化度を有する」ものと認められる。
引用例発明の「脂環族系炭化水素樹脂」は、本願発明1の「炭化水素樹脂」に対応し、引用例発明の軟化点(環球法)は70?150℃であって、本願発明1の軟化点「80℃?180℃」と重複一致し、さらに、摘示ウを参照するに、引用例1に具体的に記載されているのは、「脂環族系炭化水素樹脂「アルコンP125」(荒川化学(株)製、商品名)」であり、これは本願明細書に具体的に記載されているもの(段落【0044】)と同一のものであるから、引用例発明の「脂環族系炭化水素樹脂」は、「20℃より高いガラス転移温度」(DSC)を有するものであるといえる。
引用例発明のポリマー(プロピレン・1-ブテンランダム共重合体)と炭化水素樹脂(脂環族系炭化水素樹脂)との配合比は、ポリマー100重量部に対して、炭化水素樹脂が0.5ないし20重量部であることから算出すると、約83?約95.5/約17?約0.5であり、本願発明1の配合比である70?95/30?5と重複一致している。
そして、引用例発明の剥離性保護フィルム用組成物が、ブレンド組成物であることは明らかである。

してみると、本願発明1と引用例発明は、
「以下を含むブレンド組成物:
(a)組成物の全重量に基づいて70重量%?95重量%の、以下のものからなる群より選択されるポリマー:
i)ホモポリプロピレン、及び
ii) (1)プロピレン、及び(2)エチレン、C_(4)?C_(12)α-オレフィン及びその組み合わせから選択される少なくとも1のコモノマー、のランダムコポリマー、であり、
前記ポリマーは、ASTM E-794-95手順を用いて測定した融解熱がDSCで測定して50J/g未満、ASTM D1238手順A(190℃、2.16kg)に従い測定したメルトインデックス(MI)が20dg/分未満であり、立体規則性プロピレン結晶化度を有するポリマー;
(b)組成物の全重量に基づいて (a)と混和性を有する5重量%?30重量%の炭化水素樹脂であって、DSCで測定した20℃より高いガラス転移温度を有し、ASTM E-28(改訂1996)により測定した軟化点が80℃?180℃である。」
の点で一致し、以下の点で一応相違する。

相違点1:本願発明1では、ポリマーの融点を「25-110℃」と特定しているが、引用例発明ではそのような特定がなされていない点。

相違点2:本願発明1では、ブレンド組成物が「弾性」であり、「 ASTM D790に従い測定した組成物の永久伸びが20%未満」と特定しているが、引用例発明では、そのような特定がなされていない点。

相違点1について検討する。
引用例発明のランダムコポリマー(プロピレン・1-ブテンランダム共重合体)のプロピレン含有率は60?85mol%であり、摘示ウを参照するに、実施例において、「プロピレン含有率が71.0mol%」、「融点110℃」のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体を得ており、この融点自体、本願発明1の融点である「25-110℃」と重複一致するものであるし、そして、融点の高いポリマーを生成するプロピレンの含量を低下させればポリマーの融点は低下することが推認されるから、プロピレン含有量が60?70mol%程度の場合には、該共重合体の融点が110℃未満である蓋然性が高く、引用例発明の融点は、本願発明1の融点である「25-110℃」と重複一致するものと認められる。
したがって、相違点1は実質的な相違点とはいえない。

相違点2について検討する。
本願発明1と引用例発明とは、組成成分及び配合割合の点で重複一致する組成物であるから、引用例発明にかかる組成物は、本願発明1と同様の「弾性」及び「永久伸びが20%未満」との性状を呈すると認められる。
したがって、相違点2は実質的な相違点とはいえない。

よって、本願発明1は、実質上、引用例発明と同一である。

5.まとめ
上記4.のとおり、本願発明1は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

第5 審判請求人の主張について
1.審判請求人は、平成23年12月2日に提出の審判請求書において、以下のとおり主張している。
主張1:
「2)まず、引用文献1及び2に記載の発明は、本願発明とその目的が本質的に異なる。・・・引用文献2は保護対象を輸送、保管時に発生する傷、汚染等から保護するためのフイルムに係るものである(明細書第2欄「産業上の利用分野」、第10-11欄(発明の効果))。これに対して本願発明は弾性ブレンド組成物に関するものである(その具体的な用途は明細書の各所に記載されているが(0009、0061、0064)、例えば、「引張範囲にわたって一定の引張モジュラスは、オムツ及びその他の材料の使用者は当該材料が一定の力で元に戻ることを期待しているので、特にオムツ及び類似用途における弾性材料に望ましい」(0061)ものである。」(審判請求書10頁4?13行)

主張2:
「引用文献2と比較すると、引用文献2は補正後の本願請求項1に係る組成物のもつ以下の特徴を開示していない:
・立体規則性プロピレン結晶化度を有するポリマーである;
・炭化水素樹脂は、DSCで測定した20℃より高いガラス転移温度をもつ;
・組成物はASTM D790に従い測定した組成物の永久伸びが20%未満である。
これらの各点について、引用文献1及び2の何れも開示していないことは、平成23年2月2日に提出した意見書においても詳細に述べており、本願請求項に係る発明と引用文献1又は2に記載の発明との違いは、その効果を含め明白であると思量する。
さらに、例えば、引用文献2の実施例1(明細書第11-12欄)に記載のプロピレン・1-ブテンランダム共重合体(PBC)は本願請求項1のポリマーの融点(110℃)及びMI(7.0g/10分)を持つ。しかしその融解熱50J/gは、本願発明の範囲(50J/g未満)外である。したがって、このPBCは本願請求項1の発明に係るポリマーと同じ成分をもつものとは言えない。
このように組成物の成分が異なるため、引用文献1及び2の組成物は本願請求項1の(c)の特徴を有することはない。」(審判請求書10頁20?11頁11行)

2.主張1に対して
本願発明1は、「弾性ブレンド組成物」であって、何ら用途を限定するものではないので、審判請求人の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり、失当といわざるを得ない。

3.主張2に対して
上記第4_4.において検討したとおりであり、本願発明1と引用例発明は、審判請求人が主張している組成物の特徴に相違はなく、また、引用文献2(引用例)に記載の実施例における融解熱50J/gは、本願発明1の範囲(50J/g未満)外である旨主張しているが、引用例には融解熱が20ないし80J/gと記載され、本願発明1の50J/g未満との範囲と重複一致しており、審判請求人の主張は失当といわざるを得ない。

4.まとめ
したがって、審判請求人の主張は、いずれも採用できない。

第6 むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原審の拒絶の理由1は妥当なものであるので、本願は、その拒絶の理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2006-509278(P2006-509278)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鈴木 亨  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 小野寺 務
塩見 篤史
発明の名称 半結晶性プロピレンポリマー及び高ガラス転移温度物質の弾性ブレンド  
復代理人 尾首 亘聰  
代理人 山崎 行造  

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