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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C09C
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 C09C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C09C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C09C
管理番号 1277619
審判番号 不服2012-14634  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-30 
確定日 2013-08-06 
事件の表示 特願2000-575949「耐高温性重合可能な金属酸化物粒子」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 4月20日国際公開、WO2000/22052、平成14年 8月27日国内公表、特表2002-527565〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、1999年10月8日(パリ条約による優先権主張:1998年10月9日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特許出願であって、本邦における以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。

平成13年 4月 5日 国内書面(翻訳文提出)
平成18年 9月26日 出願審査請求
平成22年 9月 6日付け 拒絶理由通知
平成23年 3月 3日 意見書・手続補正書・誤訳訂正書
平成24年 3月27日付け 拒絶査定
平成24年 7月30日 本件審判請求
同日 手続補正書
平成24年 8月 7日付け 前置審査移管
平成24年10月 4日付け 前置報告書
平成24年10月 5日付け 前置審査解除
平成24年11月14日付け 審尋
平成25年 1月16日 回答書

第2 平成24年 7月30日付け手続補正の却下の決定

<決定の結論>
平成24年 7月30日付けの手続補正を却下する。

<決定の理由>
I.補正の内容
上記平成24年7月30日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲につき下記のとおり補正することを含むものである。

1.本件補正前(平成23年3月3日付け手続補正後のもの)
「【請求項1】
周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する、耐高温性重合可能な金属酸化物粒子であって、該重合可能な金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)xMe(O)y^(1)-(R)y^(2)または-R(O)z-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y^(1),y^(2)およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され、そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子。
・・(【請求項2】ないし【請求項11】については、本件補正の前後において実質的に変更されていないので、省略する。)・・
【請求項12】
Aは二酸化ケイ素、二酸化チタンまたはSi/Al混合酸化物であり、
-B-Xは(MeO)x(MeO)y^(1)(CH_(2))nOCOR^(4)=CH_(2)または(MeO)x(MeO)y^(1)CH_(2)CHOHCH_(2)OCOCR^(4)=CH_(2)であって、ここでMeはSi,Al,TiまたはZrであり、xは1または2,y^(1)は0または1,nは2ないし6,R^(4)はHまたはCH_(3)であって、Si,AlまたはZrの自由原子価はアルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じまたは別のコアAの酸素原子へ結合している請求項1の粒子。
・・(【請求項13】ないし【請求項15】については、本件補正の前後において実質的に変更されていないので、省略する。)・・
【請求項16】
基B,-B-X-および/またはXが強酸の存在下固体の形で存在するコアAへ共有結合されることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかの粒子の製造方法。
【請求項17】
共有結合は1工程(その場で)で実施されることを特徴とする請求項16の方法。
【請求項18】
請求項1ないし15のいずれかの粒子を含んでいる組成物。」
(以下、項番に従い「旧請求項1」?「旧請求項18」という。)

2.本件補正後
「【請求項1】
周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する、耐高温性重合可能な金属酸化物粒子であって、該重合可能な金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)-(R)_(y2)または-R(O)_(z)-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y1,y2およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され、そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)。
・・(【請求項2】ないし【請求項11】については、本件補正の前後において実質的に変更されていないので、省略する。)・・
【請求項12】
Aは二酸化ケイ素、二酸化チタンまたはSi/Al混合酸化物であり、
-B-Xは(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)または(MeO)_(x)Me(O)_(y1)CH_(2)CHOHCH_(2)OCOCR^(4)=CH_(2)であって、ここでMeはSi,Al,TiまたはZrであり、xは1または2,y1は0または1,nは2ないし6,R^(4)はHまたはCH_(3)であって、Si,AlまたはZrの自由原子価はアルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じまたは別のコアAの酸素原子へ結合している請求項1の粒子。
・・(【請求項13】ないし【請求項15】については、本件補正の前後において実質的に変更されていないので、省略する。)・・
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれかの粒子を含んでいる組成物。」
(以下、項番に従い「新請求項1」?「新請求項16」といい、それらを併せて「新請求項」ということがある。)

II.補正事項に係る検討

1.補正の目的の適否
本件補正は、上記I.のとおり、特許請求の範囲に係る補正事項を含むので、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものか否かにつき検討する。
本件補正では、旧請求項16及び同項を引用する旧請求項17につき削除するとともに、旧請求項1における「式-(B)_(w)-X」なる部分につき、「(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)」なる場合分けにおける条件付加を行い限定している。
また、旧請求項12につき、括弧の位置及び炭素原子の欠落に係る誤記を単に正して新請求項12としている。
そして、旧請求項2ないし15及び18については、項番を繰上げ新請求項2ないし16としており、新旧の請求項1を引用する引用関係については変化していない。
してみると、新請求項1ないし16に係る各発明は、旧請求項1ないし15及び18に係る各発明との間で、解決しようとする課題及び産業上の利用分野をそれぞれ一にするものであることが明らかであるから、旧請求項1ないし18から新請求項1ないし16とする本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。

2.独立特許要件
上記1.のとおり、上記特許請求の範囲に係る手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、新請求項1に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるか否かにつき検討する。(なお、当該検討にあたり、本件補正により補正された本願明細書を「本願補正明細書」という。)

(1)新請求項に係る発明
新請求項1に係る発明は、新請求項1に記載された事項で特定されるとおりのものであり、再掲すると以下のとおりの記載事項により特定されるものである。
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する、耐高温性重合可能な金属酸化物粒子であって、該重合可能な金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)-(R)_(y2)または-R(O)_(z)-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y1,y2およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され、そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)。」
(以下、「本件補正発明」という。)

(2)検討
しかるに、本件補正発明については、下記の理由により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

1)本件補正発明は、本願の出願(優先日)前に当業者が日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるか、当該発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定により、特許を受けることができない。
2)本件補正発明は、本願の出願の日(優先日)前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。



ア.上記理由1)について

引用刊行物:特開平10-54990号公報(原審における「引用文献1」)
(以下「引用例」という。)

(ア)引用例に記載された事項
上記引用例には、以下の事項が記載されている。

(ア-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 球状粒子からなるコアと、その表面を実質的に均一な厚さで被覆するエポキシ樹脂および潜在型硬化剤からなる熱接着性層とを有しており、コア粒子と熱接着性層を構成するエポキシ樹脂とがシランカップリング剤を介して化学結合され、かつ熱接着性層の表面にエポキシ樹脂と結合しているシランカップリング剤に由来するシロキサン結合を有することを特徴とするエポキシ樹脂被覆熱接着性粒子。
【請求項2】 コア粒子の材質がシリカ微粒子であることを特徴とする請求項に記載のエポキシ樹脂被覆熱接着性粒子。
・・(中略)・・
【請求項5】 (工程A)球状粒子からなるコアを反応性官能基を有するシランカップリング剤で表面処理してコア粒子の表面に反応性官能基を導入する工程
(工程B)表面処理されたコア粒子を、エポキシ樹脂および潜在型硬化剤の有機溶媒溶液中に均一に分散させ、エポキシ樹脂と潜在型硬化剤からなる粒子をコア粒子表面に析出させるための処理を行った後、有機溶媒を除去してコア粒子表面にエポキシ樹脂粒子および潜在型硬化剤粒子が析出した乾燥粉体を得る工程
(工程C)得られた乾燥粉体を衝撃力または剪断力付与処理に付し、エポキシ樹脂および潜在型硬化剤からなる熱接着性層がコア粒子表面に融着された熱接着性層被覆粒子を得る工程および
(工程D)得られた熱接着性層被覆粒子を分散安定剤の水性溶媒溶液中に分散させ、ここにシランカップリング剤のエマルジョンを添加してシランカップリング剤を熱接着性層に吸収させた後、シランカップリング剤の親水性置換基を加水分解してシロキサン結合を形成する工程
を含むエポキシ樹脂被覆熱接着性粒子の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項7】 コア粒子がシリカ微粒子であり、(工程A)における反応性官能基を有するシランカップリング剤での表面処理時にシリコンアルコキシドを添加することを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂被覆熱接着性粒子の製造方法。」

(アー2)
「【0006】
【発明が解決しようとする課題】上記の現状の下、本発明は、球状粒子の表面に、球状粒子の単分散性を維持し得る均一な厚さの熱硬化性樹脂層を有し、かつ球状粒子と熱硬化性樹脂層との結合性が高く、従って超音波耐久性、機械的接着強度の高い熱硬化性樹脂被覆熱接着性粒子を提供することを目的とする。さらに、本発明は、長期間の保存によっても粒子間の合着・凝集が起こらない、分散安定性の高い熱硬化性樹脂被覆熱接着性粒子を提供することをも目的とする。」

(ア-3)
「【0011】本発明においてコアとして用いることができる球状粒子の材質としては、実質的に真球状の粒子であって、シランカップリング剤の親水性官能基と反応して、化学結合を形成できる無機材料または有機・無機複合材料が挙げられる。その材質の具体例としてはシリカ;WO_(3)、SnO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)等の金属酸化物;ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ゲルマン酸塩ガラス、タングステン酸塩ガラス、モリブデン酸塩ガラス、テルル酸塩ガラス等のガラス;WO96/15986号公報に開示されている発明の黒色粒子および絶縁膜付き黒色粒子;オルガノシラン等の有機無機複合物等が挙げられ、目的とする熱接着性粒子の用途等に応じて適宜選択可能である。
【0012】上記の球状粒子からなるコアの粒径は、目的とする熱接着性粒子の用途等に応じて適宜選択可能である。例えば、本発明の熱接着性粒子を液晶表示パネル(液晶セル)用のスペーサーとして用いる場合、前記のコアは粒径が0.4?29μmのシリカ粒子であることが特に好ましい。」

(ア-4)
「【0017】次に、本発明の熱接着性粒子は、コア粒子と熱接着性層を構成するエポキシ樹脂とがシランカップリング剤を介して化学結合されていることを特徴とする。シランカップリング剤の一方の親水性置換基が、コア粒子を構成する材質との間で化学結合を形成しており、他方の反応性官能基がエポキシ樹脂と化学結合を形成している。コア粒子とエポキシ樹脂層とが化学的に結合されていることによって、コア粒子と熱接着性層とが強固に接合されているため、超音波処理等による熱接着性層の剥がれが無く、高い接着力が得られる。これにより、例えば液晶表示装置用固着型面内スペーサとして用いた場合、液晶セル膜との強固な接着が達成できる。
【0018】コア粒子とエポキシ樹脂との間の化学結合を形成する反応性官能基を有するシランカップリング剤(以下、単に「シランカップリング剤」ということがある)は、置換基として反応性官能基を1つまたは2つ有し、親水性置換基がアルコキシ基であるものであれば特に限定されない。反応性官能基は、ビニル基、エポキシ基、アミノ基等でエポキシ樹脂との反応性を有しているものが挙げられる。その具体例としては、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。好ましくはγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等である。
【0019】なお、コア粒子の材質が無機材料である場合、上記の反応性官能基を有するシランカップリング剤と共に、テトラアルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等)を反応させてもよい。加水分解速度の速いシリコンアルコキシドをシランカップリング剤と同時に反応させることにより、コア粒子表面がより疎水化され、エポキシ樹脂による被覆およびコア粒子とエポキシ樹脂との結合性がより良好となる。」

(ア-5)
「【0033】次に本発明のエポキシ樹脂被覆熱接着性粒子の製造方法について説明する。本発明の製造方法は、
工程A:シランカップリング剤によるコア粒子の表面処理、
工程B:エポキシ樹脂と潜在型硬化剤のコア粒子表面への析出処理、
工程C:衝撃力または剪断力付与処理、および
工程D:シロキサン結合形成処理
を含む。以下、工程毎に詳述する。
【0034】工程A:シランカップリング剤によるコア粒子の表面処理
工程Aは、シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)とコア粒子を構成する物質との間に化学結合を形成し、次の工程Bでコア粒子とエポキシ樹脂との間で化学結合を形成するための反応性官能基をコア粒子の表面に導入する工程である。
【0035】工程Aでは、球状粒子からなるコアを反応性官能基を有するシランカップリング剤で表面処理してコア粒子の表面に反応性官能基を導入する。
【0036】コア粒子にシランカップリング剤の反応性官能基を導入するには、まず、超音波振動等を利用して、コア粒子をアルコール系溶媒中に分散させる。この分散液に、25?30重量%アンモニア水を添加し、次いで反応性官能基を有するシランカップリング剤を添加して攪拌することにより、シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され、かつコア粒子表面に反応性官能基が導入される。
・・(中略)・・
【0038】反応性官能基を有するシランカップリング剤の使用量は、コア粒子に対し、通常0.1?500重量%、好ましくは0.5?200重量%、特に好ましくは1?100重量%の範囲である。シランカップリング剤の使用量が0.1重量%未満の場合、充分なエポキシ樹脂との化学結合を提供できるだけの反応性官能基を導入することができない。また、500重量%を超えるとシランカップリング剤の加水分解物が凝集し、これが粒子表面に付着して粒子の単分散性が損なわれ、不都合である。
・・(中略)・・
【0041】前述したように、コア粒子の材質が無機材料である場合には、反応性官能基を有するシランカップリング剤でのコア粒子の表面処理時に、必要に応じて加水分解速度の速いシリコンアルコキシドを共存させることにより、コア粒子表面により均一な熱接着性層を形成するのに十分な量の反応性官能基を導入することができる。」

(ア-6)
「【0068】(実施例1)
工程A:シランカップリング剤によるコア粒子の表面処理
内容量1リットルのフラスコに、粒径分布が単分散のシリカ粒子(平均粒径:5.745μm、CV値:1.0%、個々の粒子は実質的に真球)50gを入れ、ここに2-プロパノール315gを加え、超音波振動によりシリカ粒子を均一に分散させた。この分散液に、メタノール315gを添加し、40℃で15分間攪拌した後、25wt%のアンモニア水125gを添加し、同温度で15分間攪拌した。得られた溶液にγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン21.5gとテトラエトキシシラン2.8gの混合液を10分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃に昇温し、同温度で10時間攪拌した。攪拌終了後、反応溶液を静置してシリカ粒子を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去した。残留シリカ粒子にメタノールを加えて攪拌し、静置してシリカ粒子を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去することを繰り返し、未反応のシランカップリング剤を除去した。最後にメタノールを除去した後、得られた表面処理シリカ粒子を150℃のオーブン中で1時間乾燥した。
【0069】得られた表面処理シリカ粒子の平均粒径は5.747μmであり、CV値は1.0%、個々の粒子は実質的に真球であった。シリカ粒子表面にはγ-メタクリロキシプロピル基が導入されており、撥水性を示した。また、赤外線吸収スペクトルにて、ビニル基およびエステル基の吸収が認められた。」

(イ)理由1)に係る検討

(イ-1)引用例に記載された発明
上記引用例には、「球状粒子からなるコアを反応性官能基を有するシランカップリング剤で表面処理してコア粒子の表面に反応性官能基を導入する工程」により表面処理してなる粒子が記載され(摘示(ア-1)【請求項1】及び【請求項5】参照)、その「コア粒子がシリカ微粒子であり、(工程A)における反応性官能基を有するシランカップリング剤での表面処理時にシリコンアルコキシドを添加すること」も記載されている(摘示(ア-1)【請求項7】参照)。
そして、上記引用例には、上記「コア粒子」として、シリカ微粒子とともに、「WO_(3)、SnO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)等の金属酸化物」が挙げられ(摘示(ア-3)参照)、上記「シランカップリング剤」として、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが好適に使用できることも記載されている(摘示(ア-4)参照)。
また、上記引用例には、上記「球状粒子からなるコアを反応性官能基を有するシランカップリング剤で表面処理してコア粒子の表面に反応性官能基を導入する」工程につき、「反応性官能基を有するシランカップリング剤を添加して攪拌することにより、シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され、かつコア粒子表面に反応性官能基が導入される」ことが記載され、その「反応性官能基を有するシランカップリング剤の使用量」が、「コア粒子に対し、通常0.1?500重量%」であることも記載されている(摘示(ア-5)参照)。
なお、技術常識(必要ならば下記参考文献1及び2等参照)からみて、上記「シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され」ることは、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが、脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成するものであることが当業者に自明である。

参考文献1:石塚末豊ら編「塗装ハンドブック」1996年11月20日、株式会社朝倉書店発行、第496?497頁(「6)シリカ有機複合ポリマー塗料」の欄)
参考文献2:伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」1990年8月31日、日刊工業新聞社発行、第55?63頁(「3.3 シランカップリング剤」の欄)

してみると、上記引用例には、上記(ア-1)ないし(ア-6)の記載事項からみて、本件補正発明に倣い表現すると、
「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアと、そしてコアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの反応性官能基を有するシランカップリング剤の残基を有する金属酸化物粒子であって、そしてコアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤の残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子」
に係る発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

(イ-2)対比・検討

(a)対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコア」は、シリカを構成する珪素が4B族元素(すなわち周期律表4族の主族元素)であることが当業者に自明であるから、本件補正発明における「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアA」に相当する。
また、引用発明における「少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの反応性官能基を有するシランカップリング剤の残基」は、例えばシランカップリング剤がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであれば、その残基が本件補正発明における「式-(B)_(w)-X」(基BがSi-C_(3)H_(6)-(すなわち、Me=Si、R=C_(3)H_(6)、w=1、x=0、y1=0、y2=1である。)であり、基XがOCOC(CH_(3))=CH_(2)である。)に該当することは当業者に自明であるから、本件補正発明における「少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基」及び「該式-(B)_(w)-X中、・・(中略)・・Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり」に相当する。
そして、引用発明における「コアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した」及び「コアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合している」は、上記(イ-1)でも説示したとおり、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成されることを意味するのであるから、本件補正発明における「該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した」及び「コアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは・・固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」に相当する。
なお、本件補正発明における「(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)」は、請求人の平成25年1月16日付け回答書における主張からみて、3-メタクリロイル(オキシ)プロピルトリメトキシシラン(MEMO)などを使用した場合についての記載であるものと認められるが、そもそもMEMOであるならば、技術常識からみてx=0であり、Meの自由原子価は、それぞれ、未加水分解によるメトキシ基などのアルコキシ基又は加水分解により形成される水酸基あるいはその水酸基が他の水酸基と脱水縮合したMe-O-Meの酸素原子などの1価の基で封鎖されているか、コアAの異なる酸素原子へ結合しているものであって、さらに、引用発明における「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は、本件補正発明における「3-メタクリロイル(オキシ)プロピルトリメトキシシラン(MEMO)」と同一の化合物であるから、引用発明においても、上記条件を満たすものと認められる。
してみると、本件補正発明と引用発明とは、
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する金属酸化物粒子であって、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)-(R)_(y2)または-R(O)_(z)-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y1,y2およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)。」
の点で一致し、下記の4点でのみ相違する。

相違点1:本件補正発明では、粒子が「耐高温性重合可能な」ものであるのに対して、引用発明では、粒子が「耐高温性重合」の可否につき特定されていない点
相違点2:本件補正発明では、「金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し」ているのに対して、引用発明では、粒子のホモポリマーのガラス転移温度につき特定されていない点
相違点3:本件補正発明では、「基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され」るのに対して、引用発明では、シランカップリング剤の残基の(結合)量につき特定されていない点
相違点4:本件補正発明では、「基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」のに対して、引用発明では、コア粒子とシランカップリング剤との反応を強酸の存在下に行うのか否かにつき特定されていない点

(b)各相違点に係る検討

(b-1)相違点1及び2について
上記相違点1及び2につき併せて検討するにあたり、前提として、本件補正発明における「耐高温性重合可能な」とは、「重合することにより耐高温性の重合体を形成することが可能な」ということを意味するものと認められるから、以下当該前提において検討する。
引用発明における「シランカップリング剤の残基」は、(メタ)アクリロイル基などの反応性官能基を有するものであり、当該反応性官能基を有するものであれば、当該反応性官能基を有するもの(粒子)同士又は他のモノマーとの間で重合可能であることは当業者に自明である。
そして、引用発明において、1個のコア粒子に対して複数の上記「シランカップリング剤の残基」が結合した場合(この点については下記(b-2)の説示も参照のこと。)、当該粒子は、重合における多官能性のモノマーとしての挙動を示し、重合により三次元架橋構造を有する重合生成物を形成することも当業者に自明である。
してみると、上記の三次元架橋構造を有する重合生成物が形成される場合、当該重合生成物は、例えばTgが100℃以上であるような耐熱性(「耐高温性」と同義と認められる。)を有するものであることも当業者に自明であるから、引用発明の粒子についても、「耐高温性重合可能な」ものであり、さらに当該粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有する蓋然性が極めて高いものということができる。
したがって、上記相違点1及び2は、いずれも、実質的な相違点ではないか、相違点であったとしても、引用発明に基づき、「耐高温性重合可能な」と表現すること及びホモポリマーのガラス転移温度の下限を100℃以上と規定することは、いずれも当業者が適宜なし得ることというほかはない。

(b-2)相違点3について
上記相違点3につき検討すると、引用発明においても、「コア粒子に対し、通常0.1?500重量%」のシランカップリング剤を反応させるものであり(摘示(ア-5)参照)、具体的には、例えばシリカ粒子50gに対してγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン21.5gを反応させるのである(摘示(ア-6)参照)から、引用発明の粒子につき、シランカップリング剤の残基は、粒子全体の重量に対して約0.1?83重量%、具体的には約30重量%存在するものと計算されるものである。
なお、例えば30重量%のシランカップリング剤の残基が存在するのであれば、コア粒子1個あたり2個以上のシランカップリング剤の残基が結合・存在しているものと理解するのが自然である。
してみると、上記相違点3は、実質的な相違点であるとはいえない。

(b-3)相違点4について
上記相違点4につき検討すると、引用発明においても、「シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され、かつコア粒子表面に反応性官能基が導入される」(摘示(ア-5)参照)ものであり、具体的には、シリカ粒子の分散体に対してアルカリ水溶液であるアンモニア水を添加した後にシランカップリング剤を添加して表面処理を行っているのである(摘示(ア-6)参照)から、強酸化合物の存否にかかわらず、加水分解により形成されたシラノール基がコア粒子の表面と反応して化学結合(すなわち「(コア粒子表面)-O-Si」なる結合)を生成しているものと認められる。
してみると、引用発明の粒子は、強酸化合物の存否にかかわらず、本件補正発明と同一の構造を有するものと認められる。
したがって、上記相違点4は、実質的な相違点であるとはいえない。

(c)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果につき、本願補正明細書の発明の詳細な説明の記載(【0004】?【0008】、【表4】など)に基づき検討すると、本件補正発明が解決すべき課題が、重合可能な金属酸化物粒子であって、当該金属酸化物粒子が重合可能であることにより、耐高温性(耐熱性)、スクラッチ抵抗性などに優れた硬質の硬化物(コーティング膜など)を形成することができる粒子の提供にあるものと認められるから、本件補正発明の効果は、重合可能な金属酸化物粒子の提供であるものと認められる。
しかしながら、上記(b-1)でも説示したとおり、引用発明の粒子についても、重合可能な反応性官能基を有するものであるから、引用発明と本件補正発明との間に効果上の有意な差異が存するものとは認められない。
したがって、本件補正発明が、引用発明の効果に比して、格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

(d)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明と同一であるか、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

(ウ)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年1月16日付け回答書において、「3.1.1」ないし「3.1.3」の各欄の事項に基づき、
「3.1.4 結論として、請求項1に係る本願発明は、少なくとも特定事項イ、ロ、ハを含んでいる点において引用発明と相違し、新規性を有する。仮にもし引用発明のコアが参考文献4の実施例2で製造したもののような表面が水酸基に富む球状SiO_(2)粒子であったとしても、酸触媒の不存在下ではシランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)と反応して共有結合を形成することはない。」
及び
「3.1.5 本発明においてコアAへその酸素原子を介して基B,-B-Xおよび/またはXの結合反応を生起させるためには強酸の存在が必要なことは、段落[0053]および[0054]に記載され、実施例においてはメタンスルホン酸か、またはマレイン酸もしくは無水マレイン酸が必ず用いられている。
請求項1に係る発明において、「そしてコアAの表面は基-(B)_(W)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」との条件は、引用発明には存在しない条件である。参考文献4の追試実験についてこれまで詳しく説明したように、この条件が満たされない限り、例えばシリカ粒子へシランカップリング剤を共有結合によって導入することはできない。従ってこの条件は、請求項1に係る本願発明が引用文献1に記載された発明ではないとする相違点であるともに、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでないとする相違点でもある。何故ならば、例えば表面に水酸基を持っているシリカ粒子にシランカップリング剤を反応させ、反応性官能基を共有結合によって導入するには、強酸の存在下反応させることが必要であることは、本願出願前に知られていなかったからである。」
なる主張をもって、本件補正発明が、引用発明に対して、新規性及び進歩性を有する旨主張している。
しかるに、シリカなどの金属酸化物粒子が湿分及び酸素を含有する空気中に放置された場合、特段の場合(例えば疎水化表面処理が行われている場合等)を除き、粒子表面への湿分(水分)の吸着又は粒子表面の酸素原子又は金属原子が酸化・加水分解されることにより、粒子表面に水酸基が存在するものとなっていることは、当業者に自明である(この点につき必要ならば、上記参考文献1及び下記参考文献3並びに4などを参照されたい。)。
また、アルコキシシラン化合物の加水分解(脱アルコール反応)は、当業者の技術常識からみて、湿分等の水分が存在する場合、常温無触媒であっても経時的に進行するものであるから、強酸化合物触媒が存在しなくても、アルコキシシラン化合物の加水分解が進行するであろうことは、当業者に自明である。
なお、請求人が提示した「参考文献4」に係る追試結果については、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどのトリアルコキシシラン化合物の加水分解時における自己脱水縮合物の金属酸化物粒子への結合(上記参考文献2の「図3.2」及び「図3.4」参照)を無視するものであり、さらに「一歯構造」、「二歯構造」及び「三歯構造」のいずれをもコア粒子の表面に対して共有結合しているものであるから、上記追試結果は技術的に当を得ないものであって採用することができない。
したがって、請求人の上記回答書における主張は、いずれも技術的根拠を欠くものであるから、採用する余地がなく、上記(イ)の検討結果を左右するものではない。

参考文献3:柳田博明監修「微粒子工学大系 第I巻 基本技術」2001年10月31日(初版第1刷発行日)、株式会社フジ・テクノシステム発行、第152?153頁(「5.微粒子表面の官能基」の欄)
参考文献4:伊藤征司郎総編集「顔料の事典」2000年9月25日、株式会社朝倉書店発行、第83?86頁

(エ)理由1)についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないか、又は、上記引用発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。

イ.上記理由2)について

引用出願:特願平9-118255号(特開平10-306229号公報)
(原審における「引用出願2」。以下「先願」といい、その願書に最初に添付された明細書を「先願明細書」という。)

(ア)先願明細書に記載された事項
先願明細書には、以下の事項が記載されている。

(a-1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 球状粒子からなるコア粒子と、その表面を被覆する、光重合性プレポリマーと380?450nmの波長の光でラジカルを発生する光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂層とを有しており、コア粒子と、光硬化性樹脂層を構成する光重合性プレポリマーとがシランカップリング剤を介して結合されていることを特徴とする光硬化性樹脂被覆粒子。
【請求項2】 球状粒子からなるコア粒子と、その表面を被覆する、光重合性プレポリマーと380?450nmの波長の光でラジカルを発生する光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂層とを有しており、コア粒子と、光硬化性樹脂層を構成する光重合性プレポリマーとがシランカップリング剤を介して結合されるとともに、光硬化性樹脂層の表面に光重合性プレポリマーに結合しているシランカップリング剤に由来するシロキサン結合を有することを特徴とする光硬化性樹脂被覆粒子。
【請求項3】 コア粒子がシリカ微粒子である請求項1または2に記載の光硬化性樹脂被覆粒子。
・・(中略)・・
【請求項5】 (工程A)球状粒子からなるコア粒子を疎水性基を有するシランカップリング剤で表面処理してなる表面処理コア粒子を、光重合性プレポリマーおよび380?450nmの波長の光でラジカルを発生する光重合開始剤を含有する有機溶媒溶液中に分散させ、光重合性プレポリマーと光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂をコア粒子表面に析出させるための処理を行ったのち、溶媒を除去して、コア粒子表面に上記光硬化性樹脂が析出した乾燥粉体を得る工程、および
(工程B)工程Aで得られた乾燥粉体を衝撃力または剪断力付与処理に付し、光重合性プレポリマーと光重合開始剤とを含む光硬化性樹脂層をコア粒子表面に被覆させる工程を順次施すことを特徴とする請求項1に記載の光硬化性樹脂被覆粒子の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項8】 コア粒子がシリカ微粒子であり、工程Aにおける疎水性基を有するシランカップリング剤での表面処理時にシリコンアルコキシドを添加する請求項5または6に記載の光硬化性樹脂被覆粒子の製造方法。
・・(後略)」

(a-2)
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光硬化性樹脂被覆粒子、その製造方法および該粒子からなるスペーサーに関し、さらに詳しくは液晶表示装置用面内スペーサーとして用いた場合、高い移動防止能を有するとともに、低温でかつ380?450nmの波長の光で硬化させるので基板フィルム、特にポリイミド配向膜に悪影響を及ぼすことが少なく、かつ硬化時の収縮が少ないので、所定の間隙を精密に保持しうる光硬化性樹脂被覆粒子、このものを効率よく製造する方法、および該光硬化性樹脂被覆粒子からなる液晶表示装置用面内スペーサーに関するものである。」

(a-3)
「【0015】本発明においてコア粒子として用いることができる球状粒子の材質としては、実質的に真球状の粒子であって、シランカップリング剤の親水性官能基と反応して、化学結合を形成できる無機材料、有機材料または有機・無機複合材料が挙げられる。その材質の具体例としてはシリカ;WO_(3)、SnO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)等の金属酸化物;ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、ゲルマン酸塩ガラス、タングステン酸塩ガラス、モリブデン酸塩ガラス、テルル酸塩ガラス等のガラス;WO96/15986号公報に開示されている発明の黒色粒子および絶縁膜付き黒色粒子;オルガノシラン等の有機無機複合粒子;有機高分子粒子等が挙げられ、目的とする光硬化性樹脂被覆粒子の用途等に応じて適宜選択可能である。コア粒子の好ましいものとしては、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの金属酸化膜粒子、ポリオルガノセスキシロキサンなどの有機無機複合粒子、アクリル系モノマーの重合物やスチレン系モノマーの重合物などの高分子粒子などが挙げられる。
【0016】上記の球状粒子からなるコア粒子の粒径は、目的とする光硬化性樹脂被覆粒子の用途等に応じて適宜選択可能である。例えば、本発明の光硬化性樹脂被覆粒子を液晶表示パネル(液晶セル)用のスペーサーとして用いる場合、前記のコア粒子は粒径が0.4?29μmのシリカ粒子であることが特に好ましい。また、その粒度分布の変動係数(以下、CV値という)は、5%以下、特に2%以下であるのが有利である。」

(a-4)
「【0024】本発明の被覆粒子Iは、コア粒子と光硬化性樹脂層を構成する光重合性プレポリマー及び所望により用いられる光重合性モノマーとがシランカップリング剤を介して結合されていることを特徴とする。
【0025】シランカップリング剤は親水性置換基と疎水性基とを有しており、その一方の親水性置換基が、コア粒子を構成する材質との間で化学結合を形成し、他方の疎水性基が光重合性プレポリマーや光重合性モノマーと化学的又は物理的結合を形成している。このように、コア粒子と光重合性プレポリマーや光重合性モノマーとがシランカップリング剤を介して結合されていることによって、コア粒子と光硬化性樹脂層とが強固に接合されているため、超音波処理等による光硬化性樹脂層の剥がれが無く、高い接着力が得られる。これにより、例えば液晶表示装置用固着型面内スペーサーとして用いた場合、液晶セル膜との強固な接着が達成できる。
【0026】上記シランカップリング剤は、置換基として疎水性基を1つまたは2つ有し、かつ親水性置換基がアルコキシ基であるものであればよく、特に制限はない。このようなものとしては、例えばフェニルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、さらにはアルキルトリエトキシシラン類、アルキルトリメトキシシラン類、ジアルキルジエトキシシラン類、ジアルキルジメトキシシラン類などが挙げられる。これらの中で、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどが好ましい。これらのシランカップリング剤は単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】なお、コア粒子の材質が無機材料である場合、上記の疎水性基を有するシランカップリング剤と共に、テトラアルコキシシラン(例えばテトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン等)を反応させてもよい。加水分解速度の速いシリコンアルコキシドをシランカップリング剤と同時に反応させることにより、コア粒子表面がより疎水化され、光硬化性樹脂による被覆およびコア粒子と光硬化性樹脂層との結合性がより良好となる。」

(a-5)
「【0041】次に本発明の被覆粒子Iの製造方法について説明する。
【0042】この被覆粒子Iの製造方法は、
工程A:シランカップリング剤により表面処理されたコア粒子表面への光重合性プレポリマーと光重合開始剤の析出処理、および
工程B:衝撃力または剪断力付与処理からなるものであり、以下、工程毎に詳述する。
【0043】工程A:工程Aでは、球状粒子からなるコア粒子を疎水性基を有するシランカップリング剤で表面処理してなる、表面処理コア粒子を出発原料として用いる。この表面処理コア粒子は次のようにして調製するのが好ましい。すなわち、まず、超音波振動等を利用して、コア粒子をアルコール系溶媒などの溶媒中に分散させる。この分散液に、好ましくはアンモニア水を添加し、次いで疎水性基を有するシランカップリング剤を添加して撹拌することにより、シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で結合が形成され、かつコア粒子表面に疎水性基が導入される。
【0044】用いられるアルコール系溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール等が挙げられる。このときに用いる溶媒は1種類のアルコールでもよいし、複数種のアルコールからなる混合物であってもよい。アルコール系溶媒の使用量は、コア粒子の重量の5?30倍が好適である。
【0045】疎水性基を有するシランカップリング剤の使用量は、コア粒子に対し、通常0.1?500重量%、好ましくは0.5?200重量%、特に好ましくは1?100重量%の範囲である。シランカップリング剤の使用量が0.1重量%未満の場合、充分な光重合性プレポリマーや光重合性モノマーとの結合を提供できるだけの疎水性基を導入することができない。また、500重量%を超えるとシランカップリング剤の加水分解物が凝集し、これが粒子表面に付着して粒子の単分散性が損なわれ、不都合である。
【0046】シランカップリング剤の親水性置換基を加水分解するためのアンモニア水の添加量は、シランカップリング剤のモル数に対して2?300倍が好適である。
【0047】加水分解時の反応温度は、通常20?80℃であり、反応時間は、通常1?24時間である。
【0048】前述したように、コア粒子の材質が無機材料である場合には、疎水性基を有するシランカップリング剤でのコア粒子の表面処理時に、必要に応じて加水分解速度の速いシリコンアルコキシドを共存させることにより、コア粒子表面により均一な光硬化性樹脂層を形成するのに十分な量の疎水性基を導入することができる。」

(a-6)
「【0083】
【実施例】次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0084】実施例1
(1)被覆粒子IIの製造
(i)シランカップリング剤表面処理シルカ粒子の調製
内容量1リットルのフラスコに、粒径分布が単分散のシリカ粒子(平均粒径:6.68μm、CV値:0.9%、個々の粒子は実質的に真球)50gを入れ、ここに2-プロパノール315gを加え、超音波振動によりシリカ粒子を均一に分散させた。この分散液に、メタノール315gを添加し、40℃で15分間撹拌した後、25wt%のアンモニア水125gを添加し、同温度で15分間撹拌した。得られた溶液にγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン21.5gとテトラエトキシシラン2.8gの混合液を10分間かけて滴下した。滴下終了後、60℃に昇温し、同温度で10時間撹拌した。撹拌終了後、反応溶液を静置してシリカ粒子を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去した。残留シリカ粒子にメタノールを加えて撹拌し、静置してシリカ粒子を沈降させ、デカンテーションにより上澄み液を除去することを繰り返し、未反応のシランカップリング剤を除去した。最後にメタノールを除去した後、得られた表面処理シリカ粒子を150℃のオーブン中で1時間乾燥した。
【0085】得られた表面処理シリカ粒子の平均粒径は6.70μmであり、CV値は0.9%、個々の粒子は実質的に真球であった。シリカ粒子表面にはγ-メタクリロキシプロピル基が導入されており、撥水性を示した。また、赤外線吸収スペクトルにて、ビニル基およびエステル基の吸収が認められた。」

(イ)理由2)に係る検討

(イ-1)先願明細書に記載された発明
上記先願明細書には、「球状粒子からなるコア粒子を疎水性基を有するシランカップリング剤で表面処理してなる表面処理コア粒子」が記載され(摘示(a-1)【請求項5】参照)、その「コア粒子がシリカ微粒子であり、工程Aにおける疎水性基を有するシランカップリング剤での表面処理時にシリコンアルコキシドを添加する」ことも記載されている(摘示(a-1)【請求項8】参照)。
そして、上記先願明細書には、上記「コア粒子」として、シリカ微粒子とともに、「WO_(3)、SnO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Al_(2)O_(3)等の金属酸化物」が挙げられ(摘示(a-3)参照)、上記「シランカップリング剤」として、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが好適に使用できることも記載されている(摘示(a-4)参照)。
また、上記先願明細書には、上記「球状粒子からなるコア粒子を疎水性基を有するシランカップリング剤で表面処理してなる」工程につき、「疎水性基を有するシランカップリング剤を添加して撹拌することにより、シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で結合が形成され、かつコア粒子表面に疎水性基が導入される」ことが記載され、その「疎水性基を有するシランカップリング剤の使用量」が、「コア粒子に対し、通常0.1?500重量%」であることも記載されている(摘示(a-5)参照)。
なお、技術常識(必要ならば上記参考文献1及び2等参照)からみて、上記「シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解されて、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され」ることは、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが、脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成するものであることが当業者に自明である。
してみると、上記先願明細書には、上記(a-1)ないし(a-6)の記載事項からみて、本件補正発明に倣い表現すると、
「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアと、そしてコアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの疎水性基を有するシランカップリング剤の残基を有する金属酸化物粒子であって、そしてコアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤の残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子」
に係る発明(以下「先願発明」という。)が記載されているものと認められる。

(イ-2)対比・検討

(a)対比
本件補正発明と先願発明とを対比すると、先願発明における「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコア」は、シリカを構成する珪素が4B族元素(すなわち周期律表4族の主族元素)であることが当業者に自明であるから、本件補正発明における「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアA」に相当する。
また、先願発明における「少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの疎水性基を有するシランカップリング剤の残基」は、例えばシランカップリング剤がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであれば、その残基が本件補正発明における「式-(B)_(w)-X」に該当し、「X」の部分がメタクリロキシ基なる反応性官能基であることは当業者に自明であるから、本件補正発明における「少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基」及び「該式-(B)_(w)-X中、・・(中略)・・Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり」に相当する。
そして、先願発明における「コアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した」及び「コアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合している」は、上記ア.(イ)(イ-1)でも説示したとおり、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成されることを意味するのであるから、本件補正発明における「該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した」及び「コアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは・・固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」に相当する。
なお、本件補正発明における「(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)」は、上記ア.(イ)(イ-1)でも説示したとおり、そもそも技術的な誤記が含まれており、さらに、先願発明における「γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン」は、本件補正発明における「3-メタクリロイル(オキシ)プロピルトリメトキシシラン(MEMO)」と同一の化合物であるから、先願発明においても、上記条件を満たすものと認められる。
してみると、本件補正発明と先願発明とは、
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する金属酸化物粒子であって、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)-(R)_(y2)または-R(O)_(z)-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y1,y2およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子(ただし、基-B-Xが式:-(MeO)_(x)Me(O)_(y1)(CH_(2))_(n)OCOCR^(4)=CH_(2)であり、ここでMe=Si,x=1,y1=0,n=3,R^(4)=HまたはCH_(3)である場合のMeの自由原子価は、アルコキシ基によって満たされているかおよび/または同じ若しくは異なるコアAの酸素原子へ結合していることを条件とする)。」
の点で一致し、下記の4点でのみ相違するかに見える。

相違点1’:本件補正発明では、粒子が「耐高温性重合可能な」ものであるのに対して、先願発明では、粒子が「耐高温性重合」の可否につき特定されていない点
相違点2’:本件補正発明では、「金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し」ているのに対して、先願発明では、粒子のホモポリマーのガラス転移温度につき特定されていない点
相違点3’:本件補正発明では、「基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され」るのに対して、先願発明では、シランカップリング剤の残基の(結合)量につき特定されていない点
相違点4’:本件補正発明では、「基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」のに対して、先願発明では、コア粒子とシランカップリング剤との反応を強酸の存在下に行うのか否かにつき特定されていない点

(b)各相違点に係る検討

(b-1)相違点1’及び2’について
上記相違点1’及び2’につき併せて検討すると、上記相違点1’及び2’は、いずれも上記ア.(イ)(イ-2)(a)で指摘した相違点1及び2とそれぞれ同一の事項であるから、上記ア.(イ)(イ-2)(b)(b-1)で説示した理由と同一の理由により、いずれも、実質的な相違点ではない。

(b-2)相違点3’について
上記相違点3’につき検討すると、上記相違点3’は、上記ア.(イ)(イ-2)(a)で指摘した相違点3と同一の事項であるから、上記ア.(イ)(イ-2)(b)(b-2)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であるとはいえない。

(b-3)相違点4’について
上記相違点4’につき検討すると、上記相違点4’は、上記ア.(イ)(イ-2)(a)で指摘した相違点4と同一の事項であるから、上記ア.(イ)(イ-2)(b)(b-3)で説示した理由と同一の理由により、実質的な相違点であるとはいえない。

(c)小括
以上のとおりであるから、本件補正発明は、先願発明と実質的に同一であるものと認められる。

(ウ)審判請求人の主張について
審判請求人は、平成25年1月16日付け回答書において、
「先願明細書には、引用文献1に記載されているのと同じ工程Aが記載されている。段落[0043]?[0047]および[0084]?[0085]参照。請求項1に係る本願発明と対比すべき先願発明は、先願明細書のこれらの部分に記載された発明である。
ところが先願発明では、例えばシリカ粒子であるコア粒子が表面に水酸基を有することも、例えばMEMOであるシランカップリング剤を強酸の存在下コア粒子と反応させることも特定要件としていないので、引用発明について論じた同じ理由により、請求項1に係る本願発明は先願明細書に記載された発明ではない。」
と主張している(回答書「4.理由(3)について」の欄)。
しかるに、上記ア.(ウ)でも説示したとおり、請求人の上記回答書における引用発明について論じた主張については、いずれも技術的根拠を欠くものであって、採用する余地がないものであるから、上記先願発明についての主張についても採用することができず、上記(イ)の検討結果を左右するものではない。

(エ)理由2)についてのまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、上記先願発明と実質的に同一であり、しかも、本願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

ウ.独立特許要件に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件補正発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法同条第2項の規定又は同法第29条の2の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。
よって、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

III.補正の却下の決定のまとめ
以上のとおり、上記手続補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項で準用する同法第126条第5項に違反する補正事項を含むものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願について

1.本願に係る発明
平成24年7月30日付け手続補正は上記第2のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成23年3月3日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は再掲すると以下のとおりのものである。
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する、耐高温性重合可能な金属酸化物粒子であって、該重合可能な金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)xMe(O)y^(1)-(R)y^(2)または-R(O)z-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y^(1),y^(2)およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、

基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され、そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子。」
(以下、「本願発明」という。)

2.原審の拒絶査定の内容
原審において、平成22年9月6日付け拒絶理由通知書で以下の内容を含む拒絶理由が通知され、当該拒絶理由が解消されていない点をもって下記の拒絶査定がなされた。

<拒絶理由通知>
「 理 由
・・(中略)・・
3.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
4.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1?11、14、16?20
・引用文献1
・備考
・・(中略)・・

5.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1?11、14、16?20
・先願 2
・備考
・・(中略)・・
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平10-054990号公報
(特に、〔請求項1〕段落〔0013〕?〔0014〕〔0017〕〔0064〕〔0068〕?〔0078〕〔0098〕参照)
2.特願平9-118255号(特開平10-306229号)
(特に、〔請求項1〕段落〔0015〕〔0020〕〔0026〕〔0072〕〔0084〕?〔0091〕〔0099〕参照)」

<拒絶査定>
「この出願については、平成22年 9月 6日付け拒絶理由通知書に記載した理由3?5によって、拒絶をすべきものです。
なお、意見書及び手続補正書の内容を検討しましたが、拒絶理由を覆すに足りる根拠が見いだせません。

備考

出願人は意見書において、
(1)引用文献1には、「シランカップリング剤の一方の親水性置換基が、コア粒子を形成する材質との間で化学結合を形成しており」「シランカップリング剤の親水性置換基(アルコキシ基)が加水分解され、コア粒子を構成する物質との間で化学結合が形成され」と記載されているがその証拠はない。むしろ加水分解されたシランカップリング剤、実施例1ではMEMOの加水分解によって生成したγ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシランがシリカ粒子と反応して化学結合を形成することは理論上不可能である。したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではない。
(2)先願2記載のシランカップリング剤がシリカ粒子へ共有結合することは理論的に不可能であるから、シランカップリング剤の加水分解物のオリゴマーが物理的にコアのシリカ粒子を被覆しているに過ぎない。したがって、本願請求項1に係る発明は、先願2記載の発明と同一ではない。
(3)本願請求項2?18に係る発明は、引用文献1に記載された発明ではなく、引用文献1記載の発明及びこれらの組み合わせから当業者が容易に想到し得ない。また、先願2記載の発明と同一ではない。
以上の(1)?(3)を主張している。

上記(1)の主張について検討するに、引用文献1には、「MEMO(γ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシラン)の加水分解によって生成したγ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシランがシリカ粒子と反応する」とは一切記載されておらず、γ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシラン自体がシリカ粒子と反応することが記載されている。したがって、γ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシランの加水分解性シランとシリカ粒子表面のSiOHが反応して化学結合を形成することは当然である。そして、シリカ粒子と熱接着性層を構成するエポキシ樹脂とがシランカップリング剤を介して化学結合されているので、当該粒子は、重合可能な金属酸化物粒子となる。さらに、その硬化物は、150℃で2時間加熱硬化しているので、ガラス転移温度は100℃以上になるものと認められる。したがって、本願請求項1に係る発明と引用文献1記載の発明は発明特定事項に差異がない。
よって、上記(1)の出願人の主張は認めることができない。

上記(2)の主張について検討するに、前述と同様に、先願2では、γ-メタクリロキシプロピルトリヒドロキシシランの加水分解性シランとシリカ粒子表面のSiOHが反応して化学結合を形成している。
したがって、上記(2)の出願人の主張は認めることができない。

上記(3)の主張について検討するに、前述したように、請求項1に係る発明は、引用文献1記載の発明と発明特定事項に差異がないか、仮にあったとしても、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になしうるものであり、また、先願2記載の発明と実質的に同一である。そして、請求項2?18に係る発明は、平成22年9月6日付け拒絶理由通知書で述べたとおり、引用文献1記載の発明と発明特定事項に差異がないか、仮にあったとしても、引用文献1記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易になしうるものであり、また、先願2記載の発明と実質的に同一である。
したがって、上記(3)の出願人の主張は認めることができない。」

3.当審の判断
当審は、本願は、上記拒絶査定の「理由3」、「理由4」及び「理由5」とそれぞれ同一の理由により、拒絶すべきものと判断する。
以下、「理由3」及び「理由4」、「理由5」の順で詳述する。

(1)「理由3」及び「理由4」について
引用文献:特開平10-054990号公報(上記第2で引用した「引用例」である。引き続き「引用例」という。)

ア.引用例に記載された事項及び発明
上記引用例には、上記第2の2.(2)ア.(ア)の(ア-1)ないし(ア-6)として摘示した事項が記載されており、上記第2の2.(2)ア.(イ)の(イ-1)で示した「引用発明」が記載されている。

イ.対比・検討

(ア)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコア」は、シリカを構成する珪素が4B族元素(すなわち周期律表4族の主族元素)であることが当業者に自明であるから、本願発明における「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアA」に相当する。
また、引用発明における「少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの反応性官能基を有するシランカップリング剤の残基」は、例えばシランカップリング剤がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであれば、その残基が本願発明における「式-(B)_(w)-X」に該当することは当業者に自明であるから、本願発明における「少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基」及び「該式-(B)_(w)-X中、・・(中略)・・Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり」に相当する。
そして、引用発明における「コアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した」及び「コアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合している」は、上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-1)でも説示したとおり、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成されることを意味するのであるから、本願発明における「該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した」及び「コアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは・・固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」に相当する。
してみると、本願発明と引用発明とは、
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する金属酸化物粒子であって、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)xMe(O)y^(1)-(R)y^(2)または-R(O)z-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y^(1),y^(2)およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子。」
の点で一致し、下記の4点でのみ相違する。

相違点1’’:本願発明では、粒子が「耐高温性重合可能な」ものであるのに対して、引用発明では、粒子が「耐高温性重合」の可否につき特定されていない点
相違点2’’:本願発明では、「金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し」ているのに対して、引用発明では、粒子のホモポリマーのガラス転移温度につき特定されていない点
相違点3’’:本願発明では、「基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され」るのに対して、引用発明では、シランカップリング剤の残基の(結合)量につき特定されていない点
相違点4’’:本願発明では、「基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」のに対して、引用発明では、コア粒子とシランカップリング剤との反応を強酸の存在下に行うのか否かにつき特定されていない点

(イ)各相違点に係る検討
上記相違点1’’ないし4’’は、いずれも上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-2)(a)で示した相違点1ないし4とそれぞれ同一の事項である。
してみると、上記相違点1’’ないし4’’は、いずれも上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-2)(b)の(b-1)ないし(b-3)で説示した相違点1ないし4に係る理由と同一の理由により、実質的な相違点でないか、当業者が適宜なし得ることである。

(ウ)本願発明の効果について
本願発明の効果につき、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(【0004】?【0008】、【表4】など)に基づき検討すると、本願発明が解決すべき課題が、重合可能な金属酸化物粒子であって、当該金属酸化物粒子が重合可能であることにより、耐高温性(耐熱性)、スクラッチ抵抗性などに優れた硬質の硬化物(コーティング膜など)を形成することができる粒子の提供にあるものと認められるから、本願発明の効果は、重合可能な金属酸化物粒子の提供であるものと認められる。
しかしながら、上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-2)(b)(b-1)でも説示したとおり、引用発明の粒子についても、重合可能な反応性官能基を有するものであるから、引用発明と本願発明との間に効果上の有意な差異が存するものとは認められない。
したがって、本願発明が、引用発明の効果に比して、格別顕著な効果を奏するものと認めることはできない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明であるか、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

ウ.「理由3」及び「理由4」についてのまとめ
よって、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないか、又は、引用発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではない。

(2)「理由5」について

引用出願:特願平9-118255号(特開平10-306229号公報)
(上記第2で引用した「先願」である。以下においても「先願」といい、その願書に最初に添付された明細書を「先願明細書」という。)

ア.先願明細書に記載された事項及び発明
上記先願明細書には、上記第2の2.(2)イ.(ア)の(a-1)ないし(a-6)として摘示した事項が記載されており、上記第2の2.(2)イ.(イ)の(イ-1)で示した「先願発明」が記載されている。

イ.対比・検討

(ア)対比
本願発明と先願発明とを対比すると、先願発明における「シリカなどの金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコア」は、シリカを構成する珪素が4B族元素(すなわち周期律表4族の主族元素)であることが当業者に自明であるから、本願発明における「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアA」に相当する。
また、先願発明における「少なくとも一つのγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランなどの疎水性基を有するシランカップリング剤の残基」は、例えばシランカップリング剤がγ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランであれば、その残基が本願発明における「式-(B)_(w)-X」に該当し、「X」の部分がメタクリロキシ基なる反応性官能基であることは当業者に自明であるから、本願発明における「少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基」及び「該式-(B)_(w)-X中、・・(中略)・・Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり」に相当する。
そして、先願発明における「コアの表面に-O-Siという化学結合によって該コアに共有結合した」及び「コアの表面はシランカップリング剤残基が結合する水酸基を持っており、シランカップリング剤残基は固体の形で存在するコアの表面の水酸基との反応を介して共有結合している」は、上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-1)でも説示したとおり、コア粒子の表面に存在する水酸基とシランカップリング剤のアルコキシシリル基が加水分解されたシラノール基とが脱水縮合して「(コア粒子表面)-O-Si」という化学結合(共有結合)を形成されることを意味するのであるから、本願発明における「該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した」及び「コアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは・・固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」に相当する。
してみると、本願発明と先願発明とは、
「周期律表3族ないし6族の主族元素の、または1族ないし8族の遷移元素の、またはランタノイド元素の金属もしくは半金属の少なくとも1種の酸化物よりなるコアAと、そして該酸化物の1個以上の酸素原子によって該コアAに共有結合した少なくとも一つの式-(B)_(W)-Xの基を有する金属酸化物粒子であって、該式-(B)_(w)-X中、
wは0または1であり、
Bは式-(MeO)xMe(O)y^(1)-(R)y^(2)または-R(O)z-の基であり、該式中xは0ないし100であり、y^(1),y^(2)およびzは独立に0または1であり、Meは周期律表3族ないし6族の主族元素の、または3族ないし8族の遷移元素の金属もしくは半金属であり、Meの自由原子価はコアAの他の酸素原子への結合手および/または他の基B中のMeへの酸素原子を介する結合手および/または他のコアAの酸素原子への結合手および/またはHか有機基かおよび/またはトリアルキルシリルオキシ基で満たされていることを表わし、
Rは2価のアルキル、シクロアルキル、アリール、アリールアルキル、アルキルアリール、アルコキシ、アシル、アシルオキシ、または少なくとも2個のフェノール性ヒドロキシル基を有するフェノール化合物から2個のフェノール性水素原子を除去した残基であり、Rは場合によりヒドロキシ、アルコキシまたはハロゲンから、そしてアリールまたはシクロアルキルの場合アルキルからも独立に選ばれた1ないし3個の基によって置換されているかおよび/または炭素鎖が1または2個の酸素原子によって中断されていることができ、
Xは反応性官能基または反応性官能基を含んでいる基であって、Xは結合手Zを介してBへ結合することもでき、この場合ZはOかNR^(2)であって、R^(2)はHかC_(1)-C_(4)アルキル、OCO,COO,NHCOまたはCONHであり、
そしてコアAの表面は基-(B)_(w)-Xが結合する水酸基を持っており、基B,B-Xおよび/またはXは固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合していることを特徴とする前記粒子。」
の点で一致し、下記の4点でのみ相違するかに見える。

相違点1’’’:本願発明では、粒子が「耐高温性重合可能な」ものであるのに対して、先願発明では、粒子が「耐高温性重合」の可否につき特定されていない点
相違点2’’’:本願発明では、「金属酸化物粒子のホモポリマーはガラス転移温度≧100℃を有し」ているのに対して、先願発明では、粒子のホモポリマーのガラス転移温度につき特定されていない点
相違点3’’’:本願発明では、「基-B-Xは粒子全体の重量を基準にして少なくとも10重量%と計算され」るのに対して、先願発明では、シランカップリング剤の残基の(結合)量につき特定されていない点
相違点4’’’:本願発明では、「基B,B-Xおよび/またはXは強酸の存在下固体の形で存在するコアAへその表面の水酸基との反応を介して共有結合している」のに対して、先願発明では、コア粒子とシランカップリング剤との反応を強酸の存在下に行うのか否かにつき特定されていない点

(b)各相違点に係る検討
上記相違点1’’’ないし4’’’は、いずれも上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-2)(a)で示した相違点1ないし4とそれぞれ同一の事項である。
してみると、上記相違点1’’’ないし4’’’は、いずれも上記第2の2.(2)ア.(イ)(イ-2)(b)の(b-1)ないし(b-3)で説示した相違点1ないし4に係る理由と同一の理由により、実質的な相違点であるとはいえない。

(c)小括
したがって、本願発明は、先願発明と実質的に同一であるものと認められる。

ウ.「理由5」についてのまとめ
以上のとおり、本願発明は、上記先願発明と実質的に同一であり、しかも、本願の発明者が先願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が先願の出願人と同一でもないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができるものではない。

(3)当審の判断のまとめ
以上を総合すると、本願発明は、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するか、同法第29条第2項又は同法第29条の2の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条の規定又は同法第29条の2の規定により、特許を受けることができるものではないから、その余につき検討するまでもなく、本願は、同法第49条第2号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-03-05 
審決日 2013-03-18 
出願番号 特願2000-575949(P2000-575949)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (C09C)
P 1 8・ 121- Z (C09C)
P 1 8・ 161- Z (C09C)
P 1 8・ 575- Z (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
発明の名称 耐高温性重合可能な金属酸化物粒子  
代理人 赤岡 迪夫  
代理人 赤岡 迪夫  
代理人 赤岡 迪夫  

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