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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1277650
審判番号 不服2012-14002  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-23 
確定日 2013-08-08 
事件の表示 特願2007-529204「窒素酸化物センサ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日国際公開、WO2007/015366〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年(2006年)7月18日(優先権主張 平成17年8月2日)を国際出願日とする国際出願(特願2007-529204号)であって、平成22年10月28日付けで拒絶理由が通知され、平成23年1月7日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、同年7月29日付けで拒絶理由(最後)が通知され、同年9月28日付けで意見書が提出され、平成24年4月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願の請求項1に係る発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年1月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおり次のように特定されるものである。

「固体電解質層に対して、雰囲気中の酸素濃度差に基づくところの起電力を測定するための一対の電極を少なくとも設けてなるセンサ層と;発熱部を有するヒータエレメントと該ヒータエレメントを取り囲むように設けた電気絶縁層とを含み、該ヒータエレメントへの通電によってパルス電圧を印加せしめ、前記少なくとも一対の電極が設けられた部位を加熱し得るようにしたヒータ層とを有し、それらセンサ層とヒータ層とが積層、一体化されていると共に、前記センサ層内に、外部の被測定ガスがガス導入口から第一の拡散律速通路を通じて導入される第一の空所と、該第一の空所内の雰囲気が第二の拡散律速通路を通じて導入される第二の空所とが設けられている一方、更に、基準酸素濃度の基準ガスが存在せしめられる基準ガス空所が設けられてなる構造のガスセンサ素子を用いて、外部の被測定ガス中の窒素酸化物成分の量を測定するように構成した窒素酸化物センサにして、
前記電気絶縁層に、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属酸化物を含有せしめたことを特徴とする窒素酸化物センサ。」

第3 引用例
1 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2002-267633号公報(以下「引用例1」という。)には図面とともに、次の事項が記載されている。

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミックスの基体にヒータが埋設されたガスセンサの加熱方法及びガスセンサに関し、例えば、車両の排気ガスや大気中に含まれるNO、NO_(2)、SO_(2)、CO_(2)、H_(2)O等の酸化物や、CO、CnHm等の可燃ガスを測定するガスセンサの加熱方法及びガスセンサに関する。」

「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明に係るガスセンサの加熱方法及びガスセンサを、例えば、車両の排気ガスや大気中に含まれるNO、NO_(2)、SO_(2)、CO_(2)、H_(2)O等の酸化物や、CO、CnHm等の可燃ガスを測定するガスセンサに適用した実施の形態例を図1?図16を参照しながら説明する。
【0019】本実施の形態に係るガスセンサ10は、図1に示すように、ZrO_(2)等の酸素イオン導伝性固体電解質を用いたセラミックスからなる例えば6枚の固体電解質層12a?12fが積層されて構成された基体200を有する。この基体200を構成する6枚の固体電解質層12a?12fは、下から1層目及び2層目が第1及び第2の基板層12a及び12bとされ、下から3層目及び5層目が第1及び第2のスペーサ層12c及び12eとされ、下から4層目及び6層目が第1及び第2の固体電解質層12d及び12fとされている。
【0020】具体的には、第2の基板層12b上に第1のスペーサ層12cが積層され、更に、この第1のスペーサ層12c上に第1の固体電解質層12d、第2のスペーサ層12e及び第2の固体電解質層12fが順次積層されている。
【0021】第2の基板層12bと第1の固体電解質層12dとの間には、酸化物測定の基準となる基準ガス、例えば大気が導入される空間(基準ガス導入空間14)が、第1の固体電解質層12dの下面、第2の基板層12bの上面及び第1のスペーサ層12cの側面によって区画、形成されている。
【0022】また、第1及び第2の固体電解質層12d及び12f間に第2のスペーサ層12eが挟設されると共に、第1及び第2の拡散律速部16及び18が挟設されている。
【0023】そして、第2の固体電解質層12fの下面、第1及び第2の拡散律速部16及び18の側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための第1室20が区画、形成され、第2の固体電解質層12fの下面、第2の拡散律速部18の側面、第2のスペーサ層12eの側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を微調整し、更に被測定ガス中の酸化物、例えば窒素酸化物(NOx)を測定するための第2室22が区画、形成される。
【0024】外部空間と前記第1室20は、第1の拡散律速部16を介して連通され、第1室20と第2室22は、前記第2の拡散律速部18を介して連通されている。
【0025】ここで、前記第1及び第2の拡散律速部16及び18は、第1室20及び第2室22にそれぞれ導入される被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与するものであり、例えば、被測定ガスを導入することができる多孔質材料(例えばZrO_(2)等からなる多孔質体)又は所定の断面積を有した小孔からなる通路として形成することができる。また、印刷による多孔質層もしくは空隙層にて構成してもよい。なお、第1及び第2の拡散律速部16及び18における各拡散抵抗の大小関係は、ここでは問わないが、第2の拡散律速部18の拡散抵抗が第1の拡散律速部16より大きい方が好ましい。
【0026】そして、前記第2の拡散律速部18を通じて、第1室20内の雰囲気が所定の拡散抵抗の下に第2室22内に導入される。
【0027】また、前記第2の固体電解質層12fの下面のうち、前記第1室20を形づくる下面全面に、平面ほぼ矩形状の多孔質サーメット電極からなる内側ポンプ電極24が形成され、前記第2の固体電解質層12fの上面のうち、前記内側ポンプ電極24に対応する部分に、外側ポンプ電極26が形成されており、これら内側ポンプ電極24、外側ポンプ電極26並びにこれら両電極24及び26間に挟まれた第2の固体電解質層12fにて電気化学的なポンプセル、即ち、主ポンプセル28が構成されている。
【0028】そして、前記主ポンプセル28における内側ポンプ電極24と外側ポンプ電極26間に、外部の可変電源30を通じて所望の制御電圧(ポンプ電圧)Vp0を印加して、外側ポンプ電極26と内側ポンプ電極24間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、前記第1室20内における雰囲気中の酸素を外部の外部空間に汲み出し、あるいは外部空間の酸素を第1室20内に汲み入れることができるようになっている。
【0029】また、前記第1の固体電解質層12dの下面のうち、基準ガス導入空間14に露呈する部分に基準電極32が形成されており、前記内側ポンプ電極24及び基準電極32並びに第2の固体電解質層12f、第2のスペーサ層12e及び第1の固体電解質層12dによって、電気化学的なセンサセル、即ち、制御用酸素分圧検出セル34が構成されている。
【0030】この制御用酸素分圧検出セル34は、第1室20内の雰囲気と基準ガス導入空間14内の基準ガス(大気)との間の酸素濃度差に基づいて、内側ポンプ電極24と基準電極32との間に発生する起電力(電圧)V0を通じて、前記第1室20内の雰囲気の酸素分圧が検出できるようになっている。」

「【0049】更に、この実施の形態に係るガスセンサ10は、第1及び第2の基板層12a及び12bにて上下から挟まれた形態において、外部からの給電によって発熱するヒータ64が埋設されている。
【0050】このヒータ64は、酸素イオンの導伝性を高めるために設けられるもので、該ヒータ64の上下面には、基板層12a及び12bとの電気的絶縁を得るために、アルミナ等のセラミック層66が形成されている。
【0051】前記ヒータ64は、図1に示すように、第1室20から第2室22の全体にわたって配設されており、これによって、第1室20及び第2室22がそれぞれ所定の温度に加熱され、併せて主ポンプセル28、制御用酸素分圧検出セル34、補助ポンプセル52、測定用ポンプセル58、測定用酸素分圧検出セル170及び補助用酸素分圧測定セル202も所定の温度に加熱、保持されるようになっている。」

「【0055】そして、この実施の形態に係るガスセンサ10は、基体200の温度に基づいてヒータ64への通電を制御するヒータ制御系310を有する。基体200の温度は、ヒータ発熱部300の温度と等価とみることができ、更に、このヒータ発熱部300の温度は、該ヒータ発熱部300の抵抗値と比例関係にある。
【0056】そこで、本実施の形態に係るガスセンサ10におけるヒータ制御系310は、ヒータ発熱部300の抵抗値を検出する抵抗検出回路312と、該抵抗検出回路312にて検出された抵抗値に基づいて前記ヒータ64への通電を制御するヒータ制御回路314とを具備する。
【0057】抵抗検出回路312は、図2に示すように、ヒータ発熱部300の両端に接続され、それぞれ基体200の外部まで導出された2本の電圧検出用リード316A及び316Bと、これら2本の電圧検出用リード316A及び316B間に挿入接続された電位差計318と、該電位差計318にて計測された電圧とヒータ64に通電される電流の値に基づいてヒータ発熱部300の抵抗値Drを求める抵抗値演算部320とを有して構成されている。即ち、この抵抗検出回路312は4端子法を採用している。
【0058】なお、2本の電圧検出用リード316A及び316Bには、実質的にはヒータ電流が流れないために、これら2本の電圧検出用リード316A及び316Bの抵抗による誤差は生じない。また、電圧検出用リードを1本のみとした場合は、2本の電流リード302A及び302Bの各電位降下が全く同じものとして計測すればよい。
【0059】ヒータ制御回路314は、図3に示すように、抵抗検出回路312からの抵抗値Drに基づいてヒータ64に対する制御方式を切り換えると共に、前記抵抗値Drに基づき、かつ、選択された制御方式に応じて演算された電圧信号(出力信号)Viを出力する制御切換回路330と、pnpタイプのパワートランジスタ332と、パワートランジスタ332のベースを駆動する信号(以下、単にベース駆動信号Spと記す)のパルス幅を変調するパルス幅変調回路334を有して構成されている。
【0060】パルス幅変調回路334は、例えば底辺レベルが-5V、頂点レベルが+5Vの所定の三角波Stを生成して出力する三角波生成回路340と、該三角波生成回路340からの三角波Stと前記制御切換回路330からの出力信号Viとを比較するコンパレータ342を有して構成されている。なお、図3では、コンパレータ342の反転入力端子に制御切換回路330からの出力信号Viが入力され、非反転入力端子に三角波生成回路340からの三角波Stが入力されるように配線接続されている例を示す。」

「【図1】



2 引用例1に記載された発明の認定
上記記載(図面の記載も含む)を総合すれば、引用例1には、
「ZrO_(2)等の酸素イオン導伝性固体電解質を用いたセラミックスからなる例えば6枚の固体電解質層12a?12fが積層されて構成された基体200を有し、この基体200を構成する6枚の固体電解質層12a?12fは、下から1層目及び2層目が第1及び第2の基板層12a及び12bとされ、下から3層目及び5層目が第1及び第2のスペーサ層12c及び12eとされ、下から4層目及び6層目が第1及び第2の固体電解質層12d及び12fとされ、
第2の基板層12bと第1の固体電解質層12dとの間には、基準ガス導入空間14が、第1の固体電解質層12dの下面、第2の基板層12bの上面及び第1のスペーサ層12cの側面によって区画、形成され、
また、第1及び第2の固体電解質層12d及び12f間に第2のスペーサ層12eが挟設されると共に、第1及び第2の拡散律速部16及び18が挟設され、
第2の固体電解質層12fの下面、第1及び第2の拡散律速部16及び18の側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための第1室20が区画、形成され、第2の固体電解質層12fの下面、第2の拡散律速部18の側面、第2のスペーサ層12eの側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を微調整し、更に被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)を測定するための第2室22が区画、形成され、
外部空間と前記第1室20は、第1の拡散律速部16を介して連通され、第1室20と第2室22は、前記第2の拡散律速部18を介して連通され、
前記第2の拡散律速部18を通じて、第1室20内の雰囲気が所定の拡散抵抗の下に第2室22内に導入され、
また、前記第2の固体電解質層12fの下面のうち、前記第1室20を形づくる下面全面に、内側ポンプ電極24が形成され、前記第2の固体電解質層12fの上面のうち、前記内側ポンプ電極24に対応する部分に、外側ポンプ電極26が形成されており、これら内側ポンプ電極24、外側ポンプ電極26並びにこれら両電極24及び26間に挟まれた第2の固体電解質層12fにて主ポンプセル28が構成され、
また、前記第1の固体電解質層12dの下面のうち、基準ガス導入空間14に露呈する部分に基準電極32が形成されており、前記内側ポンプ電極24及び基準電極32並びに第2の固体電解質層12f、第2のスペーサ層12e及び第1の固体電解質層12dによって、制御用酸素分圧検出セル34が構成され、
この制御用酸素分圧検出セル34は、第1室20内の雰囲気と基準ガス導入空間14内の基準ガスとの間の酸素濃度差に基づいて、内側ポンプ電極24と基準電極32との間に発生する起電力(電圧)V0を通じて、前記第1室20内の雰囲気の酸素分圧が検出でき、
第1及び第2の基板層12a及び12bにて上下から挟まれた形態において、外部からの給電によって発熱するヒータ64が埋設され、このヒータ64は、酸素イオンの導伝性を高めるために設けられるもので、該ヒータ64の上下面には、基板層12a及び12bとの電気的絶縁を得るために、アルミナ等のセラミック層66が形成され、
基体200の温度に基づいてヒータ64への通電を制御するヒータ制御系310を有し、
ヒータ制御系310は、ヒータ発熱部300の抵抗値を検出する抵抗検出回路312と、該抵抗検出回路312にて検出された抵抗値に基づいて前記ヒータ64への通電を制御するヒータ制御回路314とを具備し、
ヒータ制御回路314は、pnpタイプのパワートランジスタと、パワートランジスタのベースを駆動する信号のパルス幅を変調するパルス幅変調回路を有するガスセンサ10。」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

3 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-292175号公報(以下「引用例2」という。)には図面とともに、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。)

「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、セラミックスおよび電気化学素子に関し、さらに詳しくは、特に高温域において優れた絶縁性を有すると共に、ヒーターの形成を容易に行うことができる絶縁層を形成するのに好適なセラミックスおよびこのような絶縁層を有する電気化学素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、セラミック抵抗体として、「アルミナを主成分とし、他にシリカ、カルシア、マグネシアよりなり、さらに導電材としてのカーボンを3?10重量%含有する焼結体により形成される抵抗部材と、この抵抗部材の外周面に被覆され、アルミナを主成分とし、他にシリカ、カルシア、マグネシアを含む焼結体より形成される絶縁層とからなることを特徴とするセラミック抵抗体」が知られている(特許文献1、特許請求の範囲参照)。」

「【0012】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、このような従来の問題を解消し、特に高温域において優れた絶縁性を有すると共に、ヒーターを容易に形成することができる絶縁層を形成するのに好適なセラミックスおよびこのような絶縁層を有する電気化学素子を提供することをその課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するために、酸化アルミニウムと酸化カルシウムとを含有するセラミックスについて検討したところ、前記特許文献2に記載された含有量よりも遥かに多い量である3質量%を超える酸化カルシウムの含有量であっても、焼結が可能であり、しかも電気化学素子を形成する絶縁層として、かつ表面にヒーターを容易に形成することができる絶縁層と成り得るセラミックスを見出して、この発明を完成するに到った。
【0014】
すなわち、この発明の前記課題を解決するための第1の手段は、
(1) 酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3?
30質量%の酸化カルシウムとを含有し、面粗度が大きくとも1.0μmである
ことを特徴とするセラミックスである。
【0015】
この発明の前記課題を解決するための第2の手段は、
(2) 固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有する電気化学素子であって、前記絶縁層が、前記(1)のセラミックスにより形成されて成ることを特徴とする電気化学素子である。
【0016】
この第2の手段における好ましい態様としては、前記絶縁層が、前記固体電解質基板と前記ヒーターとの間に形成されている電気化学素子および前記電気化学素子が、ガスセンサー用素子である電気化学素子を挙げることができる。さらにまた、好適な態様として、この電気化学素子におけるガスが酸素である電気化学素子を挙げることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
(1) セラミックス
この発明のセラミックスは、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3?30質量%の酸化カルシウムとを含有することを一つの特徴とする有形の焼結体である。
【0018】
この発明のセラミックスを構成する酸化アルミニウムは、Al2O3で表され、アルミナと称される化合物であり、α-アルミナであっても、γ-アルミナであってもよく、両者の混合物であってもよい。また、この発明のセラミックスを構成する酸化カルシウムは、CaOで表される化合物である。
【0019】
この発明のセラミックスは、酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3?30質量%、好ましくは6?9質量%という比較的多量の酸化カルシウムとを含有していることを要する。この酸化カルシウムの含有量が3質量%未満では、高温域において十分な絶縁効果が期待できず、30質量%を超えると、他の材料、例えば、固体電解質基板との接合性に劣り、反りを生じることがあり、また、セラミックスの表面が過大に粗くなることもある。」

「【0030】
(2) 電気化学素子
この発明の電気化学素子は、固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有する電気化学素子であって、前記絶縁層が、前記(1)のセラミックスにより形成されていることを特徴とする。
【0031】
図1に示すこの発明の電気化学素子1の一例は、緻密な固体電解質から成る基板である固体電解質基板2と、この固体電界質基板2の一方の片側平面に設置された絶縁層4と、絶縁層4を介して設置されたヒーター3と、他方の片側平面上に並んで設置された陽極5および陰極6とを備えて形成されている。しかし、この発明の電気化学素子はこの形態には制限されない。
【0032】
この発明の電気化学素子1は、まず固体電解質基板2を形成するための固体電解質グリーンシートを作製し、この固体電解質グリーンシートの片側平面に絶縁層4を形成する絶縁ペーストを印刷し、さらに、ヒーター3を形成するヒーターペーストを印刷により積層し、その後、固体電解質グリーンシートの反対面に陽極5および陰極6を形成する電極ペーストを印刷し、続いて、所定の大きさに切断して、250?350℃にて脱脂し、1300?1600℃にて焼成して得られる。
【0033】
また、固体電解質基板2を形成する固体電解質グリーンシートを所定の大きさに切断し、固体電解質グリーンシートのみを脱脂し焼成することにより、固体電解質基板2を作製し、その後、絶縁ペースト、ヒーター用ペースト、電極用ペーストを個々に印刷した後、焼き付けすることによっても得られる。
【0034】
ここでいう印刷には、スクリーン印刷、グラビア印刷、転写法、凸版印刷、凹版印刷、メタルマスク法等の印刷があり、好ましくはスクリーン印刷である。スクリーン印刷は、前記ペーストを、スクリーン版を通過させて塗布する方法であり、適度な凹凸により密着性に優れた絶縁層を形成することができ、この発明に好適な印刷方法である。
【0035】
絶縁層4は、前記(1)のセラミックスと同じ組成で形成されている。絶縁層4を形成する絶縁ペーストを製作し、固体電解質グリーンシートに印刷することにより、絶縁層4を電気化学素子内に設置することができる。」

「【0049】
この発明の電気化学素子は、ガスセンサー用素子のポンピングセル、特に平面型限界電流式のガスセンサー用素子のポンピングセルとして有用である。
【0050】
この発明の電気化学素子の一例であるガスセンサー用素子は、固体電解質基板、絶縁層およびヒーターを有するガスセンサー用素子であって、前記絶縁層が、前記(1)の絶縁体により形成されていることを特徴とする。」

「【図1】



第4 本願発明と引用発明の対比
1 ここで、本願発明と引用発明を対比する。

(1)引用発明の「第2の固体電解質層12f」が、本願発明の「固体電解質層」に相当する。
また、引用発明の「第2の固体電解質層12fの下面のうち、前記第1室20を形づくる下面全面に」形成された「内側ポンプ電極24」及び「第2の固体電解質層12fの上面のうち、前記内側ポンプ電極24に対応する部分に」形成された「外側ポンプ電極26」が、本願発明の「固体電解質層に対して」設けてなる「一対の電極」に相当する。
よって、引用発明の「内側ポンプ電極24及び基準電極32並びに第2の固体電解質層12f、第2のスペーサ層12e及び第1の固体電解質層12dによって」構成され「第1室20内の雰囲気と基準ガス導入空間14内の基準ガスとの間の酸素濃度差に基づいて、内側ポンプ電極24と基準電極32との間に発生する起電力(電圧)V0を通じて、前記第1室20内の雰囲気の酸素分圧」を「検出」できる「制御用酸素分圧検出セル34」が、本願発明の「固体電解質層に対して、雰囲気中の酸素濃度差に基づくところの起電力を測定するための一対の電極を少なくとも設けてなるセンサ層」に相当する。

(2)引用発明の「外部からの給電によって発熱するヒータ64」が、本願発明の「発熱部を有するヒータエレメント」に相当し、引用発明の「該ヒータ64の上下面に」「基板層12a及び12bとの電気的絶縁を得るために」形成された「アルミナ等のセラミック層66」が、本願発明の「該ヒータエレメントを取り囲むように設けた電気絶縁層」に相当し、また、引用発明の「ヒータ64への通電を制御するヒータ制御系310」の「ヒータ制御回路314」において「パワートランジスタのベースを駆動する信号のパルス幅を変調するパルス幅変調回路」を有することが、本願発明の「該ヒータエレメントへの通電によってパルス電圧を印加せしめ」ることに相当する。
よって、引用発明の「外部からの給電によって発熱するヒータ64が埋設され、このヒータ64は、酸素イオンの導伝性を高めるために設けられるもので、該ヒータ64の上下面には、基板層12a及び12bとの電気的絶縁を得るために、アルミナ等のセラミック層66が形成され、基体200の温度に基づいてヒータ64への通電を制御するヒータ制御系310を有し、ヒータ制御系310は、ヒータ発熱部300の抵抗値を検出する抵抗検出回路312と、該抵抗検出回路312にて検出された抵抗値に基づいて前記ヒータ64への通電を制御するヒータ制御回路314とを具備し、ヒータ制御回路314は、pnpタイプのパワートランジスタと、パワートランジスタのベースを駆動する信号のパルス幅を変調するパルス幅変調回路を有する」ことが、本願発明の「発熱部を有するヒータエレメントと該ヒータエレメントを取り囲むように設けた電気絶縁層とを含み、該ヒータエレメントへの通電によってパルス電圧を印加せしめ、前記少なくとも一対の電極が設けられた部位を加熱し得るようにしたヒータ層とを有」することに相当する。

(3)引用発明の「6枚の固体電解質層12a?12fが積層されて構成された基体200を有し」、「内側ポンプ電極24及び基準電極32並びに第2の固体電解質層12f、第2のスペーサ層12e及び第1の固体電解質層12dによって、制御用酸素分圧検出セル34が構成され」、「第1及び第2の基板層12a及び12bにて上下から挟まれた形態において、外部からの給電によって発熱するヒータ64が埋設され、このヒータ64は、酸素イオンの導伝性を高めるために設けられるもので、該ヒータ64の上下面には、基板層12a及び12bとの電気的絶縁を得るために、アルミナ等のセラミック層66が形成され」ることが、本願発明の「それらセンサ層とヒータ層とが積層、一体化されている」ことに相当する。

(4)引用発明の「第1の拡散律速部16」、「第1室20」、「第2の拡散律速部18」、「第2室22」及び「基準ガス導入空間14」が、それぞれ、本願発明の「第一の拡散律速通路」、「第一の空所」、「第二の拡散律速通路」、「第二の空所」及び「基準ガス空所」に相当する。
よって、引用発明の「第2の基板層12bと第1の固体電解質層12dとの間には、基準ガス導入空間14が、第1の固体電解質層12dの下面、第2の基板層12bの上面及び第1のスペーサ層12cの側面によって区画、形成され、また、第1及び第2の固体電解質層12d及び12f間に第2のスペーサ層12eが挟設されると共に、第1及び第2の拡散律速部16及び18が挟設され、第2の固体電解質層12fの下面、第1及び第2の拡散律速部16及び18の側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を調整するための第1室20が区画、形成され、第2の固体電解質層12fの下面、第2の拡散律速部18の側面、第2のスペーサ層12eの側面並びに第1の固体電解質層12dの上面によって、被測定ガス中の酸素分圧を微調整し、更に被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)を測定するための第2室22が区画、形成され」た素子が、本願発明の「センサ層内に、外部の被測定ガスがガス導入口から第一の拡散律速通路を通じて導入される第一の空所と、該第一の空所内の雰囲気が第二の拡散律速通路を通じて導入される第二の空所とが設けられている一方、更に、基準酸素濃度の基準ガスが存在せしめられる基準ガス空所が設けられてなる構造のガスセンサ素子」に相当する。

(5)引用発明の「外部空間と前記第1室20は、第1の拡散律速部16を介して連通され、第1室20と第2室22は、前記第2の拡散律速部18を介して連通され、前記第2の拡散律速部18を通じて、第1室20内の雰囲気が所定の拡散抵抗の下に第2室22内に導入され、また、前記第2の固体電解質層12fの下面のうち、前記第1室20を形づくる下面全面に、内側ポンプ電極24が形成され、前記第2の固体電解質層12fの上面のうち、前記内側ポンプ電極24に対応する部分に、外側ポンプ電極26が形成されており、これら内側ポンプ電極24、外側ポンプ電極26並びにこれら両電極24及び26間に挟まれた第2の固体電解質層12fにて主ポンプセル28が構成され、また、前記第1の固体電解質層12dの下面のうち、基準ガス導入空間14に露呈する部分に基準電極32が形成されており、前記内側ポンプ電極24及び基準電極32並びに第2の固体電解質層12f、第2のスペーサ層12e及び第1の固体電解質層12dによって、制御用酸素分圧検出セル34が構成され、この制御用酸素分圧検出セル34は、第1室20内の雰囲気と基準ガス導入空間14内の基準ガスとの間の酸素濃度差に基づいて、内側ポンプ電極24と基準電極32との間に発生する起電力(電圧)V0を通じて、前記第1室20内の雰囲気の酸素分圧が検出でき」ることが、本願発明の「ガスセンサ素子を用いて、外部の被測定ガス中の窒素酸化物成分の量を測定するように構成した」ことに相当する。

(6)引用発明の「被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)を測定するための第2室22が区画、形成され」た「ガスセンサ10」が、本願発明の「窒素酸化物センサ」に相当する。

2 一致点
したがって、本願発明と引用発明とは、
「固体電解質層に対して、雰囲気中の酸素濃度差に基づくところの起電力を測定するための一対の電極を少なくとも設けてなるセンサ層と;発熱部を有するヒータエレメントと該ヒータエレメントを取り囲むように設けた電気絶縁層とを含み、該ヒータエレメントへの通電によってパルス電圧を印加せしめ、前記少なくとも一対の電極が設けられた部位を加熱し得るようにしたヒータ層とを有し、それらセンサ層とヒータ層とが積層、一体化されていると共に、前記センサ層内に、外部の被測定ガスがガス導入口から第一の拡散律速通路を通じて導入される第一の空所と、該第一の空所内の雰囲気が第二の拡散律速通路を通じて導入される第二の空所とが設けられている一方、更に、基準酸素濃度の基準ガスが存在せしめられる基準ガス空所が設けられてなる構造のガスセンサ素子を用いて、外部の被測定ガス中の窒素酸化物成分の量を測定するように構成した窒素酸化物センサ。」の発明である点で一致し、次の点で相違する。

3 相違点
本願発明は「電気絶縁層に、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物からなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の金属酸化物を含有せしめた」ものであるのに対し、引用発明は上記の特定事項を有しない点。

第5 当審の判断
1 相違点の検討
(1)引用例2には、「ヒーターを有するガスセンサー用素子」(【0049】)において、「固体電解質基板2」と「ヒーター3」の間に設置された「絶縁層4」(【0035】、【図1】)を「酸化アルミニウムと、前記酸化アルミニウムに対して酸化物換算で3?30質量%の酸化カルシウムとを含有する」「セラミックス」で形成した(【0017】、【0030】)ことが記載されている。そして、引用例2の「この酸化カルシウムの含有量が3質量%未満では、高温域において十分な絶縁効果が期待できず」(【0019】)の記載から、上記酸化カルシウムは、高温域における絶縁効果を高めるために含有させたものであるといえる。
すなわち、引用例2には、ヒーターを有するガスセンサー用素子における固体電解質基板とヒーターの間に設けられた絶縁層(セラミックス)に、高温域における絶縁効果を高めるためにアルカリ希土類であるカルシウムの酸化物を含有させることが記載されている。

(2)一方で、ヒータを備えたガスセンサにおいて、ヒータからセンサ電極に漏れる電流が問題であり、ヒータの絶縁を高める必要があることは周知の技術課題であるといえる。
(この点、例えば、特表2001-508880号公報の第3ページ第11?17行に、電気ヒータを備えたガスセンサに関して
「ヒータは、たいていの場合に、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))からなる絶縁層内に埋め込まれている。しかしながら、とくに温度が高い場合、ヒータからセンサ電極に至る漏れ抵抗が数メガオームのオーダーとなるので、ヒータの絶縁が問題となる。この場合、ヒータから逃げた漏れ電流が本来の測定電流に重ね合わされ、かつこのようなガスセンサにおける測定電流は数マイクロアンペアにすぎないので、この漏れ電流が比較的大きなエラーの原因となる。」
と記載されている点を参照。)

(3)すると、引用発明においても、上記の周知の技術課題を内在していることは自明であるから、上記の周知の技術課題を解決するために、引用例2に記載された技術を適用し、ヒータの上下面に配設されたセラミック層(絶縁層)において、高温域における絶縁効果を高めるためにアルカリ希土類であるカルシウムの酸化物を含有させ、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項を得ることは当業者が容易に想到し得たことである。

2 そして、本願発明によってもたらされる効果は、引用発明及び引用例2に記載された発明から当業者が予測し得る程度のものである。

3 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 結言
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用例2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-05-29 
結審通知日 2013-06-04 
審決日 2013-06-25 
出願番号 特願2007-529204(P2007-529204)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 柏木 一浩  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 信田 昌男
岡田 孝博
発明の名称 窒素酸化物センサ  
代理人 中島 正博  
代理人 中島 三千雄  

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