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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1277663
審判番号 不服2012-21833  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-05 
確定日 2013-08-08 
事件の表示 特願2010-197830「医療用投与器具」拒絶査定不服審判事件〔平成23年1月13日出願公開、特開2011-5279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月5日に出願した特願2004-62740号の一部を平成21年10月9日に新たな特許出願とした特願2009-235388号の一部を、さらに平成22年9月3日に新たな特許出願としたものであって、平成24年5月9日付けで通知された拒絶理由に対して、同年7月3日に手続補正がなされたものの、平成24年8月9日付けで拒絶査定がなされたものである。
本件は、前記拒絶査定を不服として、平成24年11月5日に請求された拒絶査定不服審判事件であって、当該請求と同時に手続補正がなされている。

第2 平成24年11月5日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成24年11月5日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
平成24年11月5日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前(平成24年7月3日付け手続補正によって補正。以下同様。)の特許請求の範囲の請求項1に、
「その一端がプランジャで塞がれ、その内部に薬剤を収容した薬剤カートリッジと、
該薬剤カートリッジを収納するカートリッジホルダーと、
前記薬剤カートリッジ内のプランジャを押圧して移動させるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記薬剤カートリッジの他端から排出された薬剤を投与するための針アセンブリと、を備え、
投与前に、前記ピストンロッドの移動によりエアー抜き動作を行うとともに、このエアー抜き動作時は、前記ピストンロッドが、前記投与時の速度よりも低速で動作する構成とした、
ことを特徴とする医療用投与器具。」とあったものを、
「その一端がプランジャで塞がれ、その内部に薬剤を収容した薬剤カートリッジと、
該薬剤カートリッジを収納するカートリッジホルダーと、
前記薬剤カートリッジ内のプランジャを押圧して移動させるピストンロッドと、
このピストンロッドを移動させる注入モーターと、
この注入モーターを駆動させる制御部と、
前記ピストンロッドの移動によって前記薬剤カートリッジの他端から排出された薬剤を投与するための針アセンブリと、を備え、
前記制御部は、前記薬剤の投与前に、前記ピストンロッドの移動によりエアー抜き動作を行うとともに、このエアー抜き動作時は、前記ピストンロッドが、前記薬剤投与時の速度よりも低速で動作させる構成とした、
ことを特徴とする医療用投与器具。」(当審注:下線は補正箇所を示す。)とする補正を含むものである。

2 補正の目的
上記補正は、補正前の請求項1に記載された発明の「ピストンロッドを移動させる」構成について、「このピストンロッドを移動させる注入モーターと、この注入モーターを駆動させる制御部と、」を備える、という特定事項を付加することにより減縮する補正を含むものであるから、本件補正のうち請求項1に係る補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2(以下、単に「特許法第17条の2」という。)第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件
そこで、上記した本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しないか、すなわち、本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。
(1)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した、本願のもとの出願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第04/4809号(以下「引用例」という。)には、次の事項が記載ないし図示されている。
(1a)明細書第3頁第24行?第4頁第16行
「発明の開示
本発明に係る医療用自動投与器具は、注射針を自動で皮膚に刺針する手段と、注射針を自動で皮膚から抜く手段とを備え、投与器具の本体の一部を、投与すべき体の部位に当接させた状態で注射の動作を行うようにしたものである。これにより、刺針や抜針を行う角度、深さ、スピードをコントロールできるようになり、投与が、その熟練度や、日々の体調、また体型などの個人差に左右される可能性を低減させることができる。
また、本発明に係る医療用自動投与器具は、注射針を自動で皮膚に刺針する速度や、自動で皮膚から抜くときの速度を可変にしたり、また薬液投与の際、投与中の単位時間あたりの薬液注入量を自由に設定できるようにしたり、さらには、注射針が刺針するまで外部から見えない構造としたものである。これにより、薬液を投与する患者に対して刺針時、投与中、そして、抜針時の痛みが少なく、恐怖心が軽減され、安定した形で投与でき、肉体的にも精神的にも負担を少なくすることができる。
また、本発明に係る医療用自動投与器具は、複数の薬液を混合あるいは、薬剤と薬液を溶解混合させて使用する投与器具の場合、混合あるいは溶解の動作を自動でおこなう構成とし、さらには混合あるいは溶解終了後に、投与器具本体内でシリンジを自動で振動させる構成としたものである。これにより、患者側が混合あるいは溶解動作の煩わしさから解放されるだけでなく、薬液をより確実に混合できるため、薬液そのものを適切な状態で使用できる。更に、エアー抜き等も自動で行う構成としたことにより、エアー抜きを確認しなくてもよいため、エアー抜き操作の煩わしさを軽減できる。」
(1b)明細書第5頁第6?17行
「先ず、第1図、第2図及び第4図を用い、自動刺針及び自動抜針の可能な医療用投与器具の構成及びその動作について説明する。
第1図において、18は、医療用自動投与器具本体であり、17は、注射針の刺針、抜針の動作をさせるためのスイッチであり、21は、注射針の部分をカバーする本体キャップであり、20は体の投与すべき部位に上記投与器具本体18が押圧されたことを検知する皮膚当てスイッチである。
第2図において、本体18の中には、薬液5を充填したシリンジ8を取り付けた内ケース10がセットされている。内ケース10の先端には注射針1がセットされている。また、注射針1は、本体キャップ21内に収められており外側からは見えない状態にある。但し、第2図は、刺針時の位置を示しているため注射針1が見えている。また、本体キャップ21内には、電池2及び表示用の液晶3も収められている。」
(1c)明細書第6頁第13?23行
「なお、上記構成において、薬液の注入時の動作は、以下の要領で行われる。
図2において、本体18を手に持ち、皮膚当てスイッチ20を投与すべき部位に当て、スイッチ17を押す。すると、注射針1が皮膚に刺針される。刺針後、0.5秒位後に、モーター13が回転を始め、その回転がシャフトスクリュー12に伝わる。また、薬液押し出しピストン9の内側は、シャフトスクリュー12の表面に設けられたスクリューネジ部と嵌合され、該シャフトスクリュー12が回転した場合に、シリンジ8の中を前後に動くことが可能な構造となっているため、シャフトスクリュー12が回転すると薬液押し出しピストン9が前方に押される。そして、薬液押し出しピストン9が前方に動くことにより、ゴム24及びゴム7を押し、更には薬液5を注射針1の先端から押し出すことにより、皮膚に投与されることとなる。」
(1d)明細書第7頁第14行?第8頁第10行
「次に、図3及び図4において、自動溶解及び自動混合(シェイキング)、自動でのエアー抜き、自動投与の動作について説明する。
シリンジ8の中はゴム7とゴム24とで2つの室に仕切られ、各々の室には薬液22と粉末製剤23とが充填されている。また、シリンジ8の先端には注射針1が予め取り付けられているものとする。
いま、本体18を手に持ち、注射針1を上に向け溶解スイッチ121を押すと、モーター13が回転し、モーター13の軸に直結されたシャフトスクリュー12が回転する。シャフトスクリュー12の表面には、薬液押し出しピストン9の内側に切られたネジと係合するようにスクリューネジが設けられており、更に薬液押し出しピストン9の先端は、ゴム24とネジで嵌合固定されている。
従って、シャフトスクリュー12が回転すると、薬液押し出しピストン9と一体となっているゴム24が注射針の先端方向に向かって動き始める。つまり、モーター13の軸が回転することにより、シャフトスクリュー12が回転しその回転が薬液押し出しピストン9により、シリンジ8内でゴム24を注射針1の方向に可動させる推力に変換される。
次に、ゴム24が押されると薬液22が圧縮されゴム7を前方に押し出す。そして、ゴム7がシリンジ凸部25を少し過ぎたところで薬液22がシリンジ凸部25の箇所で形成される空間を通り、更にはゴム7の上を通過し、粉末製剤23のある室に流れ込む。このときゴム7は、薬液22が粉末製剤23の室に全て流れ込むまで、ゴム24が注射針1の方向に押されてもその位置から動かない。
更に、ゴム24が注射針方向に押され、薬液22が粉末製剤23の室に全て流れ込んだ後、ゴム24とゴム7とは接触した形になる。一方、粉末製剤23の室に流れ込んだ薬液22は、粉末製剤23の室に流れ込んだ時点から粉末製剤23を徐々に溶解し始める。そして、モーター13が回転し始めてから、薬液22が粉末製剤23の室に全て流れ込むまでの時間を、図4のマイクロプロセッサ100が全て監視している。ここまでが自動溶解の動作である。」
(1e)明細書第9頁第15行?第10頁第10行
「次に、自動でのエアー抜き及び自動投与について説明する。
先ず、自動でのエアー抜きについてであるが、これは自動混合(シェイキング)に引き続き行うようマイクロプロセッサ100にプログラムとして組み込まれている。
エアー抜き時の姿勢は、溶解、混合(シェイキング)に引き続き注射針1を上に向けた姿勢とする。エアー抜き時には、注射針1が本体キャップ21より外に出た状態で行われる。
混合(シェイキング)後に、マイクロプロセッサ100はモーター16を正転させる指示を出す。すると前述したように、可動スクリュー15が回転し、内キャップ14が内ケース10を注射針1の方向に移動させようとし、結果的に注射針1を本体キャップ21から押し出す。このエアー抜き時には、マイクロプロセッサ100は、内ケース10の一部に設けられた板状突起19が本体18の内側に設けられたフォトカプラ11を通過しても、そのときの信号を受け付けないようになっている。
そして、注射針1が本体キャップ21より外に出た時点で、マイクロプロセッサ100は、モーター16の回転を止め、今度はモーター13を正転させる指示を出す。自動溶解のところで述べたように、モーター13が正転すると、その動作は、シャフトスクリュー12を回転させ、薬液押し出しピストン9を注射針1の方向に移動させていく。
混合(シェイキング)までの動作が終了しているため、ゴム7とゴム24とは接触した形で注射針1の方向に移動し、シリンジ8内の薬液を押し出し、更には、シリンジ8内のエアーを押し出す。このときのエアー押し出し量は、薬液押し出しピストン9の動作量、つまり、これはモーター13の回転数によって決まるため予めマイクロプロセッサ100にモーター13の回転数をプログラムとして組み込んでいる。」
(1f)明細書第10頁第11?20行
「次に、自動投与について説明する。…(中略)…
自動刺針後、マイクロプロセッサ100は、モーター13を正回転させる指示を出す。すると、シャフトスクリュー12が回転し、薬液押し出しピストン9がゴム24とゴム7とを押し、更には薬液を押し出す。薬液は、注射針1の中を通過し皮膚に投与される。このときの薬液投与スピードは、設定用スイッチ26で可変に設定でき、また、モーター13をマイクロプロセッサ100が定速度コントロールしているため単位時間あたりの薬液抽出量を一定にすることが可能である。」
(1g)特許請求の範囲の欄(第13頁?第15頁)
「1.シリンジ内に充填された薬液を注射するための投与器具であって、前記投与器具本体の外装の一部を、投与すべき部位に当接させて、前記本体に設けたスイッチ手段を操作することにより、前記本体内に収納された注射針を前記本体から突出するよう駆動する第1の駆動手段を動作させることにより、投与すべき部位への刺針を行い、その後、前記シリンジを駆動する第2の駆動手段を動作させることにより前記薬液を投与するようにしたことを特徴とする医療用自動投与器具。
…(中略)…
4.前記第2の駆動手段による、薬液を投与する速度を可変できるようにしたことを特徴とする請求の範囲第1項または請求の範囲第2項に記載の医療用自動投与器具。
…(中略)…
12.複数種の薬液、あるいは薬剤と薬液とが、シリンジ内において隔壁により隔てられた状態で別途収納されており、投与時にこれらを投与器具本体内で、混合あるいは溶解させて注射する医療用投与器具において、
前記隔壁を変位させる駆動手段と、この駆動手段を動作させるスイッチ手段とを備え、前記スイッチ手段の操作により、前記隔壁を変位させる動作を行うことにより、前記混合あるいは溶解を自動的に行うようにしたことを特徴とする医療用自動投与器具。
…(中略)…
14.薬液の投与に先立って、エアー抜きの動作が自動的に行われるよう、シリンジの駆動手段を駆動するようにしたことを特徴とする請求の範囲第12項または請求の範囲第13項に記載の医療用自動投与器具。」



(1h)第2図、第3図


上記記載事項及び図示内容を総合すると、引用例には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「本体18の中にセットされた内ケース10に取り付けられた、先端に注射針1が予め取り付けられているシリンジ8内に、
薬液22と粉末製剤23が、ゴム7と、薬液押し出しピストン9と一体となっているゴム24とで仕切られた2つの室に充填され、
マイクロプロセッサの指示によってモーター13の軸が回転することにより、前記薬液押し出しピストン9がゴム24を注射針1の方向に可動させる駆動手段によって、前記シリンジ8内の薬液を前記注射針1の先端から押し出して皮膚に投与する医療用自動投与器具であって、
前記投与に先立って、エアー抜きの動作が自動的に行われるよう、前記マイクロプロセッサに組み込まれたプログラムによって前記駆動手段を駆動する、医療用自動投与器具。」

(2)対比
本件補正発明と引用発明を対比すると、当業者の技術常識からして、引用発明の「内ケース10」、「注射針1」、「シリンジ8」、「薬液22と粉末製剤23」、「薬液押し出しピストン9」、「ゴム24」、「マイクロプロセッサ」、「モーター13」、及び、「医療用自動投与器具」は、それぞれ、本件補正発明の「カートリッジホルダー」、「針アセンブリ」、「薬剤カートリッジ」、「薬剤」、「ピストンロッド」、「プランジャ」、「制御部」、「注入モーター」、及び、「医療用投与器具」に相当するといえる。
そうすると、本件補正発明と引用発明は、
「その一端がプランジャで塞がれ、その内部に薬剤を収容した薬剤カートリッジと、
該薬剤カートリッジを収納するカートリッジホルダーと、
前記薬剤カートリッジ内のプランジャを押圧して移動させるピストンロッドと、
このピストンロッドを移動させる注入モーターと、
この注入モーターを駆動させる制御部と、
前記ピストンロッドの移動によって前記薬剤カートリッジの他端から排出された薬剤を投与するための針アセンブリと、を備え、
前記制御部は、前記薬剤の投与前に、前記ピストンロッドの移動によりエアー抜き動作を行う、医療用投与器具。」の点で一致し、以下の点で相違する。
〈相違点〉
エアー抜き動作について、本件補正発明は、「エアー抜き動作時は、前記ピストンロッドが、前記薬剤投与時の速度よりも低速で動作させる構成とした」のに対し、引用発明は、その動作速度が明らかでない点。

(3)相違点についての検討・判断
ア 注射器等、針を用いて体内に薬剤を投与する装置において、薬剤の投与前に行う注射器のエアー抜きは「空打ち」とも称され、注射針あるいは注射器内の空気を抜いて体内に空気を導入しないようにするとともに、注射針が正常に装着されていて注射針に詰まりがないことの確認などを目的として、大気圧下で、針先が開放された状態で行われることは、当業者に周知の事項である。
そうすると、エアー抜きを行う際、薬剤を押し出すプランジャの移動速度が大きい場合には、単位時間内のプランジャの移動量が大きくなって、上記目的達成のために必要とされる以上の薬剤が注射器外に放出される可能性が高まるとともに、注射器内の空気が排出された後に薬剤が勢いよく注射器外に出射されて、注射器周辺を汚染する可能性が高くなることは明らかである。
イ 一方、注射器を用いて体内へ薬剤を投与する際には、挿入された針先からの薬剤の導入は体組織内で抵抗を受けるとともに、皮下注射の場合には、針先から注射器に血液などが逆流する可能性があることも明らかであり、そのような抵抗に逆らい、あるいは血液の逆流を避けるためには、薬剤を投与する際の圧力を体内の圧力より高める必要があるといえる。
そうすると、体内に薬剤を投与するに際しては、注射器内の圧力を所定値以上に保つために、所定の速度以上の投与速度が求められる、すなわち、薬剤を押し出すプランジャを、所定の速度以上で移動させる必要があるといえる。
ウ 上記ア、イの事項を勘案すれば、エアー抜き動作時および生体への薬剤投与時のピストンロッドの動作速度について、必要以上に薬剤が注射器外に放出されることなく、また、薬剤が勢いよく注射器外に出射されることがないよう、エアー抜き動作時の動作速度を必要以上としないように構成すること、その速度の基準を薬剤投与時の速度に定めて、当該速度よりも低速とするよう構成する程度のことは、当業者が格別の困難なく想到し得る事項にすぎない。
エ そして、引用例には「また、本発明に係る医療用自動投与器具は、注射針を自動で皮膚に刺針する速度や、自動で皮膚から抜くときの速度を可変にしたり、また薬液投与の際、投与中の単位時間あたりの薬液注入量を自由に設定できるようにしたり、さらには、注射針が刺針するまで外部から見えない構造としたものである。」(上記(1)(1a)参照)、あるいは、「4.前記第2の駆動手段による、薬液を投与する速度を可変できるようにしたことを特徴とする請求の範囲第1項または請求の範囲第2項に記載の医療用自動投与器具。」(上記(1)(1g)参照)と記載されているとおり、引用発明において、マイクロプロセッサの指示を用いることにより、薬液押し出しピストン9の移動速度を可変にできることは明らかである。
オ してみると、引用発明のエアー抜き動作時の薬液押し出しピストン9の移動速度について、薬剤投与時の速度よりも低速とする程度のことは、当業者が格別の困難なくなし得る事項である。
カ また、そのように構成することによってもたらされる効果は、上記のとおり当業者が予測可能な範囲のものであって、その他に格別の作用効果を見出すこともできない。
なお、請求人は、本件補正発明は、上記相違点を具備することによる格別の作用効果として「エアー抜きを目視確認した際に、注射針等に付着した薬剤が飛散る危険性の低減や動作そのものによる精神的苦痛を低減することができる」旨主張する。しかしながら、「注射針等に付着した薬剤が飛散る危険性の低減」については、上記「ウ」で述べたとおり、ピストンロッドの移動速度を低速とすることによって得られる効果として首肯し得るものの、薬剤投与時の速度とどのように関連するのか、本願明細書の記載からは明らかでない。また「動作そのものによる精神的苦痛の低減」は、エアー抜き動作時のピストンロッドの動作速度が薬剤投与時の速度よりも低速であることによってもたらされる効果であるとは考えられない上、薬剤投与時の速度とどのように関連するのか、本願明細書の記載からは明らかでないことは同様である。そして、エアー抜き動作が自動的に行われることによる安心感、という意味において、「精神的苦痛の低減」という作用効果が認められるとしても、当該安心感は、引用発明においても得られているものである。
したがって、請求人の当該主張を採用することはできない。
キ よって、本件補正発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(4)小括
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし7に係る発明は、平成24年7月3日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載されたとおりの発明と認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「その一端がプランジャで塞がれ、その内部に薬剤を収容した薬剤カートリッジと、
該薬剤カートリッジを収納するカートリッジホルダーと、
前記薬剤カートリッジ内のプランジャを押圧して移動させるピストンロッドと、
前記ピストンロッドの移動によって前記薬剤カートリッジの他端から排出された薬剤を投与するための針アセンブリと、を備え、
投与前に、前記ピストンロッドの移動によりエアー抜き動作を行うとともに、このエアー抜き動作時は、前記ピストンロッドが、前記投与時の速度よりも低速で動作する構成とした、
ことを特徴とする医療用投与器具。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用した引用例、及びその記載事項、図示内容、引用発明は、上記第2の3(1)に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明は、上記第2の2で検討したとおり、少なくとも、本件補正発明から、「ピストンロッドを移動させる」構成について、「このピストンロッドを移動させる注入モーターと、この注入モーターを駆動させる制御部と、」を備える、という特定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に上記の「ピストンロッドを移動させる」構成についての特定事項を有する本件補正発明が、上記第2の3(2),(3)に記載したとおり、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
したがって、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-13 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-06-25 
出願番号 特願2010-197830(P2010-197830)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武内 大志倉橋 紀夫  
特許庁審判長 村田 尚英
特許庁審判官 蓮井 雅之
松下 聡
発明の名称 医療用投与器具  
代理人 内藤 浩樹  
代理人 寺内 伊久郎  
代理人 藤井 兼太郎  

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