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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06Q
管理番号 1277669
審判番号 不服2011-9285  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-02 
確定日 2013-08-28 
事件の表示 特願2005-352786「購入用QRコード」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 6月21日出願公開、特開2007-156934〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1.手続の経緯
本願の手続の概要は,以下のとおりである。

平成17年12月 7日 出願
平成22年10月15日付け 拒絶理由通知
平成23年 1月 5日 意見書
平成23年 1月 9日 意見書
平成23年 1月19日付け 拒絶査定
平成23年 5月 2日 審判請求


2.本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,出願時の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「 個人が携帯電話機等でコンテンツサーバへの接続可能な機器を用いて、数字選択式宝くじ、スポーツ振興くじ及び各公営競技において購入したい内容をコンテンツから割り当てる第1の割り当て手段と、第1の割り当て手段から入力された情報を受け取る第2の送信手段と、第2の送信手段から受け取った情報をQRコード化する第3の変換手段と、第3の変換手段からQRコード化した情報を返送する第4の手段と、第4の手段から受け取ったQRコードをQRコードスキャナに読み取らせ、購入したい内容のデータに変換し、発券機より各くじのチケット及び各公営競技の投票券が購入可能となる第5の手段を備えることを特徴とする情報処理装置。」

なお,「QRコード」は,株式会社デンソーウェーブの登録商標である。


3.原査定の拒絶の理由について

原査定の拒絶理由の概要は,以下のとおりである。
「理由A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

・請求項:1
・引用文献等:1
・備考
引用文献1には、携帯端末とアプリケーション・サーバーと投票券発行機とを備える投票システムが開示されており、
(1)携帯端末からアプリケーション・サーバーにアクセスして、投票内容を送信すること
(2)アプリケーション・サーバーが受信した投票内容をバーコードへ変換して、携帯端末に送信すること
(3)投票券発行機が携帯端末に表示したバーコードを読み取って投票券を発行することが記載されています(特に、段落【0031】-【0034】,【図9】,【図10】を参照してください)。
上記バーコードとして周知のQRコードを採用することは、当業者が適宜設計し得たことであると認められます。

(途中略)
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2003-077023号公報
(後略)」


4.当審の判断

4-1.引用例について

原査定の拒絶理由で引用した「特開2003-077023号公報」(以下,「引用例」という。)には,図面とともに以下のことが記載されている(下線は,当審で付加したものである。)。

ア 背景技術
「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は公営競技等における投票システムに関する。
【0002】【従来の技術】競馬,競艇,競輪等の公営競技において投票券を購入するにあたっては、通常、レースごとに発売窓口において賭式,レース番号,組番および金額等の投票内容を窓口の従事員に告げて購入手続を依頼するか、あるいは上記の投票内容をマークカードに記入して窓口の従業員に手渡し、従業員がマークカードを自動販売機に挿入するようにしている。
【0003】しかし、投票者にとっては、投票用紙としてのマークカードを書くことそのものが煩瑣であり、また、単勝,複勝といった賭式ごとにマークカードを分けて投票券を購入する必要があり、不便をきたしている。これとともに発売窓口や自動販売機が混雑するなどの問題がある。
【0004】この種の投票を効率的に処理するするための従来技術として、特開2000-149081に記載されている「サッカーくじ発券装置およびサッカーくじ照合装置」を挙げることができる。この装置は、投票者が特定したサッカーくじの投票内容を入力するための入力装置と、サッカーくじの投票券を発券するための出力装置とを備える。入力装置は、サッカーくじの投票用紙に付された投票内容に対応するバーコードを読み取ることができるバーコード読み取り手段を有する。出力装置は、バーコードで読み取った投票内容に基づきサッカーくじの投票券を発券する。これにより、投票用紙への書き損じや投票用紙の汚れ等により、投票者の意図に反する投票内容の投票券が発行されること予防できる。」

イ 発明の課題
「【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来技術では、投票内容に対応するバーコードが予め印刷されているサッカーくじ投票用紙をバーコードリーダでPOSターミナル等に読み込ませた上でサッカーくじ発券処理を行うため、投票用紙が介在するので、やはり手続が煩瑣であるという問題点がある。
【0006】この発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、投票者(ファン)の手間を省き、効率的に投票できるとともに発売窓口や自動販売機における混雑を緩和でき、しかも投票用紙の介在を排除した手軽な投票システムを提供することを目的とする。」

ウ 発明の実施の形態
「【0014】【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【0015】図1は本発明の投票システムを示す図であり、馬券の発売に関わり、アプリケーション・サーバー1と、自動投票券発売機2と、ファンが携帯する携帯電話3とで構成される。
【0016】アプリケーション・サーバー1は、マークカードに代わる投票用紙のテンプレートと、それを使って投票する内容とをバーコードに変換するためのソフトウェアを携帯電話3のインターネット接続サービスを通じて携帯電話3にダウンロードする機能を持つ装置である。バーコード変換ソフトウェアは、投票内容のバーコード変換の他、ファンが投票用テンプレートへ投票内容を記入していくための画面の切替や記入内容の処理をも行う。また、投票内容のバーコードへの変換に必要なバーコードデータも内蔵している。
【0017】携帯電話3は、インターネット接続サービスを通じてアプリケーション・サーバー1にアクセスし、本サービスに必要な投票用紙のテンプレートと、バーコード変換ソフトウェアをダウンロードできる。変換されバーコードは携帯電話3が元々備えている記憶機能により記憶される。ファンは、自動投票券発売機2の設置されている場所へ携帯し、携帯電話3を記憶されたバーコードを携帯電話3の画面に表示させ、照らすことによって自動投票券発売機2に読み取らせることができる。なお、このような機能を備えた携帯端末であれば携帯電話3に限定されることはない。
【0018】自動投票券発売機2は、競走場や競争場外投票所に設置されており、ファンから照らされた携帯電話3の画面上のバーコードを読み取り、相当する投票金額を計算して表示する機能を持つ。そして、その金額が投入されると、計算した金額と一致するかを検証の上、バーコードで示された投票内容を反映した投票券を発券する。」

エ 上記実施の態様の動作
「【0031】次に、本発明の他の実施例について説明する。上述の実施例では、投票内容のバーコードへの変換は携帯電話3で行われたが、この実施例ではアプリケーション・サーバー1で行う。
【0032】本実施例の手順を示す図9において、携帯電話3からダウンロード要求があると(図9の(1))、アプリケーション・サーバー1は、投票用テンプレートとそれへの投票内容の記入に必要なソフトウェア(バーコード変換ソフトウェアの一部)とをダウンロードする(図9の(2))。ファンは投票内容を記入し(図9の(3))、そのデータをアプリケーション・サーバー1に送信する(図9の(4))。投票内容のバーコードへの変換はアプリケーション・サーバー1で行い(図9の(5))、携帯電話に送信する(図9の(5))。この後の携帯電話3における処理は、図2における?と同じであるため、図9では図示を省略している。
【0033】図10は、この実施例において、投票内容をバーコードに変換するためのバーコード変換ソフトウェアのフローチャートを示す。
【0034】図3?図6に示したような投票用画面においてファンによって投票内容が携帯電話3に入力されると(図10のステップT1)、そのデータをアプリケーション・サーバー1へ送信する(図10のステップT2)。アプリケーション・サーバー1では、それをバーコードデータに変換して(図10のステップT3)、携帯電話3に配信する(図10のステップT4)。バーコードデータは、ファンによって入力された開催場,レース番号,賭け式,組番および購入金額の各データで定まる。最後に、バーコードパターンを携帯電話3の画面に表示する(図10のステップT5)。
・・・(中略)・・・
【0036】また、上述した投票方法の一部を携帯端末とアプリケーション・サーバーで実行されるプログラムによって行うこともできる。そのプログラムは、携帯端末を制御して、投票用テンプレートを画面表示する機能と、投票用テンプレートを使って入力された投票内容をアプリケーション・サーバーへ送信する機能と、アプリケーション・サーバーから返信されてきたバーコードを記憶する機能と、記憶されたバーコードを画面に表示する機能とを実行させ、アプリケーション・サーバーを制御して、携帯端末から送信されてきた投票内容をバーコードに変換する機能と、変換されたバーコードを携帯端末へ返信する機能とを実行させる。」
なお,丸の中に1?5が入った記号は,それぞれ「(1)」?「(5)」に置き換えた。

オ 発明の効果
「【0037】【発明の効果】本発明によれば、投票内容の記入と、それに対応する投票券の発売とを携帯端末で行うため投票用紙が不要となるので、ファンの手間を省き、効率的に投票できるとともに発売窓口や自動販売機における混雑を緩和し、ファンの利便を図ることができるという効果が得られる。
【0038】また、公営競技の主催者側にとっても、上述のような効果の結果、ファンの回転率が上がるため売上高が増大することを期待できる。」

また,【図9】によれば,投票券の購入手順は,次の通りである。
(1)携帯電話3からAPサーバ1へダウンロード要求
(2)APサーバ1から携帯電話3へ投票用テンプレートをダウンロード
(3)携帯電話3で投票内容を記入
(4)携帯電話3からAPサーバ1へ投票内容を送信
(5)APサーバ1でバーコードに変換
(6)APサーバ1から携帯電話3へバーコードデータを送信

上記ア?オの摘記事項,及び関連する図の記載から,引用例には,

「投票者(ファン)が,インターネット接続サービスを通じてアプリケーション・サーバにアクセスできる携帯電話3で,競馬,競艇,競輪等の公営競技において投票券を購入するにあたって,ダウンロードした投票用テンプレートと投票内容の記入に必要なソフトウェアで投票内容を記入する構成と,
そのデータをアプリケーション・サーバ1に送信する構成と,
アプリケーション・サーバ1では,投票内容のデータを,開催場,レース番号,賭け式,組番および購入金額の各データで定まるバーコードデータへ変換する構成と,
バーコードデータを携帯電話3に送信する構成と,
自動投票券販売機2は,携帯電話3の画面上のバーコードを読み取り,相当する投票金額が投入されると,バーコードで示された投票内容を反映した投票券を発券する構成とを備え,
投票用紙を不要とし,投票者(ファン)の手間を省き,効率的に投票できる,
プログラムによって実行される公営競技等における投票システム。」(以下「引用発明」という。)

が記載されているといえる。


4-2.対比

ア 引用発明の「投票者(ファン)」,「携帯電話3」,「アプリケーション・サーバ」,「インターネット接続サービスを通じて・・・アクセスできる」,「競馬,競艇,競輪等の公営競技」,「ダウンロードした投票用テンプレート」,「投票内容を記入する構成」は,それぞれ本願発明の「個人」,「携帯電話機等」,「コンテンツサーバ」,「接続可能」,「各公営競技」,「コンテンツ」,「第1の割り当て手段」に相当する。
そうすると,本願発明と,引用発明とは,「個人が携帯電話機等でコンテンツサーバへの接続可能な機器を用いて,各公営競技において購入したい内容をコンテンツから割り当てる第1の割り当て手段」を備える点において共通する。

イ 引用発明の「そのデータをアプリケーション・サーバ1に送信する構成」は,本願発明の「第1の割り当て手段から入力された情報を受け取る第2の送信手段」に相当する。

ウ 引用発明の「アプリケーション・サーバ1では,投票内容のデータを,開催場,レース番号,賭け式,組番および購入金額の各データで定まるバーコードデータへ変換する構成」と,本願発明の「第2の送信手段から受け取った情報をQRコード化する第3の変換手段」とは,「第2の送信手段から受け取った情報を識別コード化する第3の変換手段」である点において共通する。
そして,本願発明は「QRコード化」するものであるのに対し,引用発明は「バーコードデータへ変換」するものであり,「QRコード化」との明確な特定がない点において相違している。

エ 引用発明の「バーコードデータを携帯電話3に送信する構成」と,本願発明の「第3の変換手段からQRコード化した情報を返送する第4の手段」とは,「第3の変換手段から識別コード化した情報を返送する第4の手段」である点において共通する。
そして,返送する内容が,本願発明では「QRコード化した情報」であるのに対し,引用発明は(開催場,レース番号,賭け式,組番および購入金額の各データが変換された)「バーコードデータ」であり,「QRコード化」との明確な特定がない点において相違している。

オ 引用発明の「自動投票券販売機2」は,本願発明の「発券機」に相当する。
また,引用発明は,「携帯電話3の画面上のバーコードを読み取」るものであるから,「コードスキャナ」に相当する構成を有していることは明らかである。
また,引用発明は,「携帯電話3の画面上のバーコードを読み取り」「バーコードで示された投票内容を反映した投票券を発券する」ものであるから,読み取ったバーコードから,その情報が示す,発券する投票券の投票内容へ変換していることは明らかである。
また,引用発明の「相当する投票金額が投入されると,バーコードで示された投票内容を反映した投票券を発券する」は,本願発明の「各公営競技の投票券が購入可能となる」に相当する。
そうすると,本願発明と,引用発明とは,「第4の手段から受け取った識別コードをコードスキャナに読み取らせ、購入したい内容のデータに変換し、発券機より各公営競技の投票券が購入可能となる第5の手段」を備える点において共通する。
そして,識別コードの読み取りが,本願発明では「QRコードをQRコードスキャナにより読み取らせ」るものであるのに対し,引用発明は,「バーコード」を読み取るものであるが,「QRコードをQRコードスキャナにより」読み取るとの明確な特定がない点において相違している。

カ 引用発明の「プログラムによって実行される公営競技等における投票システム」は,本願発明の「情報処理装置」に相当する。

以上のとおりであることから,本願発明と引用発明とは,

「 個人が携帯電話機等でコンテンツサーバへの接続可能な機器を用いて,各公営競技において購入したい内容をコンテンツから割り当てる第1の割り当て手段と,
第1の割り当て手段から入力された情報を受け取る第2の送信手段と,
第2の送信手段から受け取った情報を識別コード化する第3の変換手段と,
第3の変換手段から識別コード化した情報を返送する第4の手段と,
第4の手段から受け取った識別コードをコードスキャナに読み取らせ、購入したい内容のデータに変換し、発券機より各公営競技の投票券が購入可能となる第5の手段とを備える
情報処理装置。」

である点で一致し,次の点で,相違する。

(相違点1)
本願発明は,識別コードの種類が「QRコード」であり,「QRコード化」する第3の変換手段と,「QRコード化」した情報を返送する第4の手段と,「QRコードをQRコードスキャナに読み取らせ」る第5の手段を備えるものであるのに対し,引用発明は,識別コードの種類が「バーコード」であり,各構成において「QRコード」を処理することが明確に特定されていない点。

(相違点2)
本願発明では,取り扱う対象が,「数字選択式宝くじ、スポーツ振興くじ及び各公営競技において購入したい内容」であり,発券機により「各くじのチケット及び各公営競技の投票券」を購入可能であるのに対し,引用発明では,取り扱う対象が「競馬,競艇,競輪等の公営競技」の「投票券」であり,発券機により「公営競技等」の「投票券」が購入可能であるものの「数字選択式宝くじ、スポーツ振興くじ」の「チケット」に関して購入可能であるかどうかに関して,明確に特定されていない点。

4-3.判断

(1)相違点1について
原査定で拒絶査定時に例示された,特開2003-242287号公報(公開日:平成15年8月29日)には,次の記載がある(下線は,当審で付加したものである。)。
「【0022】また、14は前記利用者が所持する携帯端末である。ここで、該携帯端末14は、例えば、携帯電話機又はPHS(Personal Handy-Phone System)電話機であるが・・・(中略)・・・
【0023】ここで、前記チケットサーバ13は、携帯電話網等の図示されない通信ネットワークを介して、前記携帯端末14と通信可能に接続されている。そして、前記チケットサーバ13は、チケットが購入されたことを前記現金自動入出金機11から受信すると、前記チケットを識別する識別コードを電子データに変換して携帯端末14に送信するようになっている・・・(中略)・・・ そして、利用者は、・・・(中略)・・・商品を購入する時、レンタルショップ、貸本屋等においてビデオ、DVD、本等を借りる時等に、前記携帯端末14を操作して、前記識別コードを前記携帯端末14の表示手段に表示させる。
【0024】すると、・・・(中略)・・・バーコードリーダのようなコード認識装置を使用して、前記携帯端末14の表示手段に表示された識別コードを読み取るようになっている。なお、前記コード認識装置は、図示されない通信ネットワークを介して、前記チケットサーバ13に通信可能に接続されている。そして、読み取られた前記識別コードに記録されたデータが、前記チケットサーバ13に送信されて、データの照合が行われる。そして、前記データが適正に発券されたチケットの内容に対応するものであることが、前記チケットサーバ13からコード認識装置に返信されると、前記担当者は適切なチケットが提示されたものとして取り扱うようになっている。
【0025】この場合、前記識別コードは、例えば、図2に示されるように、JANコード等の1次元のバーコードである。・・・(中略)・・・前記識別コードにチケットの内容に対応するデータを記録しておく・・・(中略)・・・
【0026】なお、図2に示されるような1次元のバーコードでは、記録することができるデータ量が制限されてしまうので、より多くのデータ量を扱うために、近年、前記1次元のバーコードに代えて、各種の2次元コードが提案されている。そして、該2次元コードの中でも、図3に示されるようなQR(Quick Response)コードが、同一面積で比較するとバーコードの20?100倍程度の情報を記録することができるために、広く採用されている。本実施の形態においても、図3に示されるようなQRコードを識別コードとして採用することが望ましい。
【0027】ここで、QRコードは構造が複雑なので、バーコード用のコード認識装置よりも精密な認識処理を実行するコード認識装置が必要とされる。すなわち、前記QRコードは、多数の微小なセル、すなわち、シンボルを2次元的に配列させて組み合わせた構造を有し、前記セルの明(白)又は暗(黒)によって情報を表すようになっている。そのため、QRコード用のコード認識装置は、2次元的に配列させて組み合わされた前記シンボルのそれぞれの明暗(白黒)を正確に判定しなければならない。」

また,特開2001-344545号公報(公開日:平成13年12月14日)には,次の記載がある(下線は,当審で付加したものである。)。
「【0013】また、本発明にかかる処理システムでは、データ管理用サーバで、顧客を識別する識別コードと登録情報を関連付けて格納するとともに、識別コードを表すマークのデータを顧客の通信端末に送信することもできる。ここで、識別コードを表すマークとしては、バーコード等があるが、もちろん他のマークでも良い。ところで、顧客の通信端末として用いられるであろう携帯型電話端末や携帯型情報端末(PDA:Personal Digital Assistants)で画像を表示する表示画面には、現状では液晶パネルが用いられている。このような表示画面に、従来の、太線と細線、黒線と白線の組み合わせからなるいわゆる1次元バーコードを表示すると、バーコードリーダで読み取ろうとしても、液晶表示画面の表示解像度と、バーコードリーダの読み取り能力の問題から、実用できるレベルで読み取りが行なえるものではなかった。この点について本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、マークとして2次元バーコードを用いれば、表示画面に表示させた状態でバーコードリーダによる読み取りが可能となることがわかった。このようなマークのデータは、処理実行用端末における処理が完了した後に無効とするのが、セキュリティの面で好ましい。
・・・(中略)・・・
【0041】・・・(中略)・・・・本実施の形態では、携帯型通信端末10で出力する識別コードとして、バーコード、特に2次元バーコードを携帯型通信端末10の表示部12に表示させる点が、上記第一の実施の形態と異なる。
・・・(中略)・・・
【0044】認証処理の完了後、対顧客処理部31では、顧客が店舗20側に提示する支払い情報として、顧客の携帯型通信端末10の電話番号と、利用する(選択した)クレジットカードの種類とからなるデータ(文字列データ)を生成し、さらに、このデータを基に、2次元バーコードのデータを画像データの形式で生成する(ステップS204)。ここで、使用する2次元バーコードとしては、図8(a)に示すように、携帯型通信端末10の表示部12に表示したときに、液晶パネルからなる表示部12の表示解像度と、バーコードリーダ22の読み取り能力との関係から、確実に読み取ることの可能な、マトリクス方式のQRコード(図8(b)参照)あるいはデータコードが好適である。このとき、データのコピーによる悪用を防止するため、2次元バーコードのデータに電子透かしを埋め込むのが好ましい。
【0045】このようにして生成された2次元バーコードのデータは、支払い情報として、対顧客通信部34を介して顧客の携帯型通信端末10に転送される(ステップS205:図6の)。携帯型通信端末10では、支払い情報として、この2次元バーコードのデータを受信すると(ステップS206)、図示しない表示制御手段により、このデータに基づいた2次元バーコードが表示部12に自動的に表示されるようになっている(ステップS207)。これを確認した顧客は、表示部12に表示された2次元バーコードを、店舗20側に提示する。
【0046】図8(a)に示したように、店舗20側では、顧客から提示された、携帯型通信端末10の表示部12に表示されている2次元バーコードをバーコードリーダ22で読み取る。」

例えば特開2003-242287号公報,及び特開2001-344545号公報にあるように,物品の受け取りのためのQRコードをサーバ側で生成し,QRコードを利用者の携帯電話に送信し,携帯電話でQRコードを表示し,それを読み取らせることによって,物品の受け取りを可能とする場合に,店で提示する携帯電話用識別コードとしてQRコードを採用すること自体は,本願の出願日前には周知の技術事項であったと認められる。

特開2003-242287号公報,及び特開2001-344545号公報に例示される携帯電話QRコード技術は,本願発明のような「各くじのチケット及び各公営競技の投票券」を購入するためのものではないが,サーバーで生成したQRコードを携帯電話に送信し,これを表示することによって,物品を受け取る技術が開示されていることに変わりなく,QRコードが,バーコード等で表現できる情報一般に適用できることは,当業者に明らかである。

そうすると,引用発明において,上記周知の技術事項を考慮することにより,開催場,レース番号,賭け式,組番および購入金額の各データを変換して携帯電話で表示するバーコードからなる識別コードとして,「二次元」のバーコード,すなわちQRコードを採用することは,当業者であれば容易になし得たことである。

よって,引用発明において,携帯電話で表示する識別コードとして二次元のバーコードであるQRコードを採用し,アプリケーション・サーバ1ではQRコードに変換し,変換したQRコードを携帯電話3に送信し,自動投票券販売機2がQRコードスキャナによりQRコードを読み取るように構成し,本願発明の相違点1に係る構成とすることは,当業者であれば容易になし得たことである。

(2)相違点2について
通信によって利用者端末から「数字選択式宝くじ」,「スポーツ振興くじ」を購入すること自体は,本願の出願日前に周知の技術事項であったと認められる(例:特開2003-50891号公報(段落【0002】,【0070】),特開2003-288436号公報(段落【0016】,【0017】))。

引用発明の投票システムは,利用者による数字の指定により当たり外れが確定する公営競技等を対象としているから,同様に利用者による数字の指定により当たり外れが確定する「数字選択式宝くじ」,「スポーツ振興くじ」を扱うように構成し,本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が適宜設計し得たことに過ぎない。

(3)以上に検討したとおり,本願発明の相違点1,2に係る構成は,引用発明及び周知の技術事項から,当業者が容易になし得たものと判断される。そして,本願発明の効果も,引用発明及び周知の技術事項から十分に予測できる範囲内のものである。

したがって,本願発明は,引用発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.審判請求書の主張について

請求人は,審判請求書において,引用文献1に記載された発明とを対比し,困難性を主張しているので,それに関して考察する。

(1)請求人は,審判請求書において『(a)本願の請求項1に係る発明と引用文献1に記載の発明とは、マークカードを携帯端末に置き換えるという点で一致し、マークカードを置き換える手段が、本願の請求項1に係る発明ではQRコードであるのに対して、引用文献1に記載の発明ではバーコードである点で相違している。そして、そのコードへの変換方法も、本願の請求項1に係る発明では、コンテンツサーバにコンテンツを用意し、携帯端末がそこにアクセスし、内容を入力し、送信することで、コンテンツサーバがQRコードに変換して、携帯端末に結果を送信することに対し、引用文献1では、まず、携帯端末がアプリケーション・サーバーにアクセスし、バーコード変換ソフトウェアを携帯端末にダウンロードした後、携帯端末が、そのバーコード変換ソフトウェアを起動し、内容を入力することで、携帯端末にダウンロードしたソフトウェアがバーコードに変換するか、アプリケーション・サーバーに変換させるかの機能となっていることから、引用文献1とは携帯端末の操作手順から異なっている。よって、拒絶理由通知書に記載されている内容については、バーコード変換ソフトウェアをダウンロードしてそれを起動させる手順が漏れていることから、システム構成の概要に判断の誤りがある。』と主張している。
しかしながら,「QRコード」と「バーコード」の相違に関しては,本審決の「4-3.(1)」において検討した通りである。
また,コード変換方法についても,特に「コンテンツ」に関する処理の流れに着目すると,本願明細書を見ても,「携帯電話機等のコンテンツの閲覧が可能な機器」(段落【0007】),「本発明の購入用QRコードは・・・(中略)・・・それに対応するコンテンツ作成のみにて即時の対応が図れるという利点がある。」(段落【0008】),「個人がコンテンツを利用して入力した内容を通信によりQRコードを返信する」(段落【0010】),「個人は携帯電話機等からS1 購入用QRコード変換コンテンツへアクセスし、S2 コンテンツを受け取り、S3 購入したい内容を入力しコンテンツサーバへ送信し」(段落【0011】)と記載されているだけで,具体的などのような形態で「コンテンツ」を使用して情報の入力や伝達を行っているのか,この記載からは明らかではない。
サーバが用意したコンテンツを携帯電話に送り,携帯電話がコンテンツを受け取り,内容を入力し,購入したい情報を携帯からサーバへ返すということであれば,引用発明でも,サーバーから投票用テンプレートを携帯電話に送り,携帯電話で記憶し,投票内容を記入し,投票内容を携帯からサーバへ送信しているので,結局,同じことである。
さらに,「引用文献1では・・・携帯端末にダウンロードしたソフトウェアがバーコードに変換するか、アプリケーション・サーバーに変換させるかの機能となっていることから、引用文献1とは携帯端末の操作手順から異なっている」については,原査定の拒絶理由時に示された段落【0031】乃至【0034】,【図9】,【図10】の実施例においては,「アプリケーション・サーバー」が変換を行うものであることは明らかであり,「携帯端末にダウンロードしたソフトウェア」がバーコードに変換するのは,上記実施例とは異なる実施例に関する説明である。よって,本願発明と,引用発明との間で,格別の操作手順の違いがあるとは認められない。

(2)請求人は,審判請求書において『(b)また、バーコードでの発明があれば、当業者であれば、QRコードの発明も容易であることについては、拒絶査定中、QRコードを周知のものである例として、特開2003-242287号公報、特開2002-149887号公報を挙げているが、これらは、いずれも拒絶査定に何ら関係のない先行技術文献の記録であるので、これを引用してQRコードが周知のものであったとの判断は、失当である。そして、拒絶査定には、「データ量が限られた1次元バーコードに代えて2次元コードを採用しようとすることは(2次元コード用の装置が必要であるとしても)」と引用文献1に記載されていない条件を付加していることや、特開2003-242287号公報の段落[0027]に、「ここで、QRコードは構造が複雑なので、バーコード用のコード認識装置よりも精密な認識処理を実行するコード認識装置が必要とされる。」ことが先行技術であることから、その発明が容易でないことを示しているのである。何より、引用文献1においては、情報をバーコードに変換することに限定しているのである。』と主張している。
しかしながら,本審決の「4-3.(1)」において検討した通り,周知の携帯電話QRコード技術を,引用発明の携帯電話を使った投票システムに適用することは,当業者が適宜設計し得たことに過ぎないと認められる。
仮に,特開2003-242287号公報,及び特開2001-344545号公報に例示される携帯電話QRコード技術と,引用発明の携帯電話投票システムとの技術分野が異なるものであったとしても,技術の転用の容易性は,ある技術分野に関する当業者が技術開発を行うに当たり,技術的観点からみて類似する他の技術分野に属する技術を転用することを容易に着想することができるか否かの観点から判断されるべきところ,この観点からは,周知の技術事項である,店で提示する携帯電話用識別コードとしてのQRコードを,携帯電話で識別コードを表示させる投票システムの技術に転用することは,容易に着想できることと認められる。
さらに,QRコードを採用すると,バーコードと比較して,2次元コード用の装置が必要になる(例えば「精密な認識処理を実行する認識処理装置が」必要になる)が,QRコードはバーコードにない多数の利点があることは明らかであり,2次元コード用の装置を備えることは,それらの利点を得るために必要なものにすぎない。よって,引用発明に携帯電話QRコード技術を転用するにあたり,2次元コード用の装置が必要になるにしても,そのことから直ちに本願発明が当業者にとって推考の困難なものということはできない。

(3)請求人は,審判請求書において『(c)そして、QRコードを購入に結び付ける発明においては、特開2002-149887号公報の段落[0019]に、「こうして2次元コードのデータが確認されると(ステップ28)、チェックイン端末4と連動するゲート5にゲートを開く旨の命令情報が送られ、ユーザに入場を許可する(ステップ29)。(中略)そして、同様に正当性が確認されたとき、発券印刷部に、チケットを印刷する命令が指示され、チケットの発行を行う(ステップ31)。」とあることを挙げているが、これは、QRコードを許可証の代わりとしているだけのものであるから、購入に結びついているものではない。』と主張している。
しかしながら,本審決の「4-3.(1)」及び「5.(2)」において検討した通りである。技術の転用の容易性は,ある技術分野に関する当業者が技術開発を行うに当たり,技術的観点からみて類似する他の技術分野に属する技術を転用することを容易に着想することができるか否かの観点から判断されるべきところ,この観点からは,周知の技術事項である,店で提示する携帯電話用識別コードとしてのQRコードを,携帯電話で識別コードを表示させる投票システムの技術に転用することは,容易に着想できることと認められる。

(4)請求人は,審判請求書において『(d)QRコードは、平成6年に現デンソーウエーブ社が発明したものであるから、引用文献1の当業者の出願は平成13年であるから、引用文献1においてもバーコードを用いるのではなく最初からQRコードを用いての発明は可能であったことは明らかである。・・・(中略)・・・また、現在においてもPOSシステムにQRコードリーダーが普及していない事実等から、QRコードが商品の購入手段としてなりうるとの発明は、当業者が容易に発明をすることができたものではないことは、一義的に明白である。』と主張している。
しかしながら,新たに提案された識別コードであるQRコードを採用した製品が商品として販売されるか否かは,製品の経済性,販売方法,経済状況の変動等様々の要因に基づいて決まるものであるから,仮にPOSシステムにQRコードリーダーが普及していない事実が認められたとしても,そのことから直ちに本願発明が当業者にとって推考の困難なものということはできない。

(5)請求人は,審判請求書において『(d)・・・(中略)・・・引用文献1の当業者も、その間においてQRコードに関する公報がなされているのであるから、これを基にQRコードでの発明もできたのであるから、これにより出願されていたなら、QRコードでの発明も容易であることに異論はないが、本願がされる平成17年まで、引用文献1は、何の出願も補正もされていないことは、QRコードが周知であるといっても、それを用いた発明は容易ではないことは、明らかである。・・・(中略)・・・』と主張している。
まず,明細書,特許請求の範囲および図面(明細書等)の補正は,特許出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲および図面(当初明細書等)に記載した事項の範囲内においてしなければならないから,引用文献1に「QRコード」を加える補正は認められない。また,「4-3.(1)」で検討したように,引用文献1に記載された発明において,「一次元」バーコードに代えて,「二次元」バーコードである「QRコード」を採用することは当業者であれば容易になし得たことであり,そもそも,引用文献1の出願人が,「一次元」バーコードを対象としたものを出願するか,「二次元」バーコードである「QRコード」を対象としたものを出願するかは,扱う情報量や価格などを考慮して決めるべき事項にすぎないものである。
そうすると,引用文献1の当業者によるQRコードに関する補正や出願がない事実が認められたとしても,そのことから直ちに本願発明が当業者にとって推考の困難なものということはできない。

したがって,審判請求書における出願人の主張は採用できない。


6.むすび

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知の技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって,結論の通り審決する。
 
審理終結日 2012-07-09 
結審通知日 2012-07-31 
審決日 2012-08-13 
出願番号 特願2005-352786(P2005-352786)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06Q)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 宮地 匡人  
特許庁審判長 吉村 和彦
特許庁審判官 松尾 俊介
井上 信一
発明の名称 購入用QRコード  

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