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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07D
管理番号 1277682
審判番号 不服2010-24463  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-10-29 
確定日 2013-08-07 
事件の表示 特願2006-516038「ムスカリン性M3受容体のリガンドとしてのピペリジニウムおよびピロリジニウム誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 1月 6日国際公開、WO2005/000815、平成20年 8月 7日国内公表、特表2008-529965〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願(以下「本願」という。)は、2004年 6月23日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2003年 6月24日及び同年11月26日 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国 (GB))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成18年 2月23日 手続補正書
平成21年 9月11日付け 拒絶理由通知書
平成21年12月24日 意見書・手続補正書
平成22年 6月21日付け 拒絶査定
平成22年10月29日 審判請求書
平成23年12月 5日 上申書
平成24年10月25日付け 審尋
なお、平成24年10月25日付けの審尋に対して、指定期間を経過しても請求人から回答書は提出されなかった。

第2 本願発明
平成21年12月24日付の手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、本願において特許を受けようとする発明は、その請求項1ないし13に記載された事項により特定されるものと認められ、その請求項1の記載は以下のとおりである。
「 塩形または双性イオン形の、式I
【化1】

〔式中、R^(1)およびR^(3)は、各々独立してC_(3)-C_(15)-炭素環式基または窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基であり;
R^(2)は水素、ヒドロキシ、または所望によりヒドロキシで置換されているC_(1)-C_(4)-アルキルであり;
JはC_(1)-C_(2)-アルキレンであり;
R^(4)はC_(1)-C_(4)-アルキルであり;
R^(5)は-SO-R^(6)、-S(=O)_(2)-R^(6)、-CO-R^(6)、-CO-O-R^(6)、-CO-NH-R^(6)または-R^(7)で置換されているC1-アルキルであるか、またはR^(5)は-O-R^(6)、-S-R^(6)、-SO-R^(6)、-S(=O)_(2)-R^(6)、-CO-R^(6)、-O-CO-R^(6)、-CO-O-R^(6)、-NH-CO-R^(6)、-CO-NH-R^(6)、-R^(7)または-R^(8)で置換されているC_(2)-C_(10)-アルキルであるか、またはR^(5)は所望により-R^(7)または-R^(8)で置換されているC_(2)-C_(10)-アルケニルまたはC_(2)-C_(10)-アルキニルであり;
R^(6)はC_(3)-C_(15)-炭素環式基または窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基であるか、またはR^(6)は所望によりC_(1)-C_(10)-アルコキシ、-O-R^(7)、C_(3)-C_(15)-炭素環式基または窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基で置換されているC_(1)-C_(10)-アルキルであり;
R^(7)は窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基であり;そして
R^(8)はC_(3)-C_(15)-炭素環式基である。〕の化合物。」(以下、これを「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由
平成22年 6月21日付けの拒絶査定には「この出願については、平成21年 9月11日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」と記載されている。
平成21年 9月11日付けの拒絶理由通知書には「この出願は、次の理由によって拒絶をすべきものです。」と記載され、「理 由」の欄に「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」と記載されている。そして、平成21年 9月11日付けの拒絶理由通知書の「記」の項目の下には「[2]請求項1-13/理由2/引用文献1-21・・・引用文献1には、所定の基を有する化合物が・・・開示されている。・・・各引用文献に記載された発明において、一般式の定義を参照に置換基等を採用すること、類似の構造と共通する作用を有する化合物において、互いに置換基等を交換し、その作用を確認してみることも、それぞれ、当業者が容易になし得る事項である。」と記載されている。
上記拒絶理由通知の対象となった請求項1は、拒絶査定時の特許請求の範囲である平成21年12月24日付の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1であるので、本願発明に対応するものであるから、原査定の拒絶の理由は、「本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基いてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものであると認められる。

第4 当審の判断
当審は、原査定の拒絶の理由のとおり、本願発明は、その出願(優先日)前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)がその出願(優先日)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。その理由は、以下のとおりである。

1 刊行物及びその記載
原査定において引用された引用文献1は、本願の優先日前に頒布されたものであることが明らかな刊行物であると認められる(以下、これを「刊行物1」という。)。
刊行物1 英国特許出願公開明細書第833820号
刊行物1には、以下の記載がある(注 刊行物1は外国語の文献であるので、当審の仮訳により示す。)。

1A「本発明は、塩基性エステルとその四級化合物を得る方法に関する。
・・・

・・・
Rは炭素原子1から4を有するアルキル基またはアリル基・・・
一般式Iの化合物は、鎮痙剤として有用な作用を示す四級化合物を製造するための中間体として有用なものである。
本発明は、したがって、上で定義された式Iで表される化合物を一般式R_(1)Zで表されるエステルと反応させて以下の一般式で表される四級化合物を調製する方法にも関する:

ここで、Rは炭素原子1から4を有するアルキル基またはアリル基;R_(1)はアルキル基(特に炭素原子数が4を超えない)、またはアラルキル基(たとえば、ベンジル基);Zはハロゲン、アルキル硫酸又はアリールスルフォネート基である。
適切なエステルの例は、ジメチル硫酸、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、臭化メチル及び臭化エチルである。」(1頁左欄12行?2頁左欄48行)

1B「実施例2
この実施例は(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート メトアイオダイドの調製を説明する。
実施例1で得た(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート(12.2g)を乾燥ベンゼン(50mL)に溶解した溶液に、ヨウ化メチル(7.5ml)を添加した。混濁した反応混合液を室温で20時間放置した後、上澄みを除去し、残った粘稠物を乾燥エーテルで洗浄し、乾燥エタノールで析出させ、0℃で一晩放置した。このようにして得た粗メトアイオダイド(17g 97%)は酢酸メチル-メタノール/エーテルから再結晶して、無色微小プリズム状物となった。m.p.192℃」(3頁左欄14-30行)

1C「実施例3
この実施例は(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート エトアイオダイドの調製を説明する。
ベンゼン(10ml)中の(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート(2g)(実施例1参照)に、実施例2の手法を用いて、酢酸メチル-メタノール/エーテルからの再結晶後、無色針状物となった。m.p.146-148℃」(3頁左欄33-43行)

1D「実施例9
この実施例は(1-イソプロピルピロリジル)-メチルベンジレート メチル メトサルフェートの調製を説明する。
実施例1と同様の方法で製造した(1-イソプロピルピロリジル)-メチルベンジレートを実施例1と同様の方法で油状の遊離塩基とし、これ(10g)を実施例4と同様の方法でメチル メトサルフェート(7.5g 55%)に変換した。m.p.165-167℃」(4頁左欄48-58行)

1E「先行する何れか一つのクレームに記載された方法であって、一般式Iの化合物と一般式R_(1)Zのエステルを反応させて一般式

ここで、Rは炭素原子数1から4のアルキル基又はアリル基、R_(1)はアルキル基又はアラルキル基であり、Zはハロゲン、アルキル硫酸又はアリルスルフォネート基から選ばれる。」(5頁クレーム6)

2 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、一般式IV

で表される化合物の製造方法が記載されており(1A及び1E)、上記一般式中の基について「Rは炭素原子1から4を有するアルキル基またはアリル基;R_(1)はアルキル基(特に炭素原子数が4を超えない)、またはアラルキル基(たとえば、ベンジル基);Zはハロゲン、アルキルスルフェート又はアリールスルフォネート基」(1A)、「Rは炭素原子数1から4のアルキル基又はアリル基、R_(1)はアルキル基又はアラルキル基であり、Zはハロゲン、アルキルスルホネート又はアリルスルホネート基から選ばれる。」(1E)と記載されている。刊行物1には、一般式IVで表される化合物の具体例として、「(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート メチオダイド」(1B)、「(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート エチオダイド」(1C)、「(1-イソプロピルピロリジル)-メチルベンジレート メチルメタンスルフォネート」(1D)を含む実施例が記載されている。
ここで、刊行物1の実施例2の記載(1B)によれば、「(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレート メチオダイド」は、(1-メチルピロリジル)-メチルベンジレートにヨウ化メチルを反応させることによって製造されるものである。そして、刊行物1の記載(1A)によれば、一般式Iの化合物と一般式R_(1)Zの化合物を反応させて一般式IVの化合物が得られるというのであるから、実施例2は、一般式IにおけるRがメチル基である化合物と、一般式R_(1)ZにおけるR_(1)がメチル基であり、Zがヨウ素である化合物を反応させ、一般式IVにおけるRとR_(1)がメチル基であり、Zがヨウ素である化合物を製造したものと理解できる。
同様に、実施例3は、一般式IにおけるRがメチル基である化合物と、一般式R_(1)ZにおけるR_(1)がエチル基であり、Zがヨウ素である化合物を反応させ、一般式IVにおけるRとR_(1)がメチル基であり、Zがヨウ素である化合物を製造したものであると理解でき、実施例9は、一般式IにおけるRがイソプロピル基である化合物と、一般式R_(1)ZにおけるR_(1)がメチル基であり、Zがメトサルフェート基である化合物を反応させたものと理解できる。
刊行物1の上記実施例2、3、9の目的生成物は、クレーム6(1E)における一般式IVにおけるR及びR_(1)が炭素原子数1から4のアルキル基であり、Zがハロゲン又はアルキル硫酸である場合に該当する化合物であるから、刊行物1には、
「一般式IV

で表される化合物であって、R及びR_(1)がアルキル基であり、Zがハロゲン又はアルキル硫酸である化合物」
の発明が記載されているということができる(以下、これを「引用発明」という。)。

3 対比
引用発明と本願発明とを対比する。
引用発明を表現する一般式IVの基本骨格は、本願発明における式IのR^(1)およびR^(3)がPhであり、R^(2)がヒドロキシ、LがJがCH_(2)であるものに対応し、Zのハロゲン又はアルキル硫酸は、四級化されたピロリジンのN原子の+電荷を中和して塩を形成する基であるので、引用発明を式Iの基本骨格で表現し直すと、以下の式(あ)となる。
「式(あ)

式中、R^(1)およびR^(3)がPhであり、R^(2)がヒドロキシ、JがCH_(2)、R^(4)が炭素原子数1から4のアルキル基及びR^(5)がアルキル基を表す]化合物のハロゲン化物塩又はアルキル硫酸塩である化合物」
上記式(あ)におけるR^(1)およびR^(3)であるPhは、本願発明における式IのR^(1)およびR^(3)のC_(3)-C_(15)-炭素環式基に該当し、上記式(あ)におけるR^(2)のヒドロキシは、本願発明における式IのR^(2)のヒドロキシに該当し、上記式(あ)におけるJであるCH_(2)は、本願発明における式IのJのC_(1)-C_(2)-アルキレンに該当し、上記式(あ)におけるR^(4)の炭素原子数1から4のアルキル基は、本願発明における式IのC_(1)-C_(4)-アルキルに該当する。したがって、本願発明と引用発明は、以下の式(い)で表される部分構造を有する点で一致するといえる。
「式(い)

R^(1)およびR^(3)はC_(3)-C_(15)-炭素環式基であり、R^(2)はヒドロキシ、JはC_(1)-C_(2)-アルキレン、R^(4)はC_(1)-C_(4)-アルキルを表す。」
一方、本願発明と引用発明は、以下の点で相違する。
<相違点>
「本願発明においては、R^(5)は-SO-R^(6)、-S(=O)_(2)-R^(6)、-CO-R^(6)、-CO-O-R^(6)、-CO-NH-R^(6)または-R^(7)で置換されているC_(1)-アルキルであるか、またはR^(5)は-O-R^(6)、-S-R^(6)、-SO-R^(6)、-S(=O)_(2)-R^(6)、-CO-R^(6)、-O-CO-R^(6)、-CO-O-R^(6)、-NH-CO-R^(6)、-CO-NH-R^(6)、-R^(7)または-R^(8)で置換されているC_(2)-C_(10)-アルキルであるか、またはR^(5)は所望により-R^(7)または-R^(8)で置換されているC_(2)-C_(10)-アルケニルまたはC_(2)-C_(10)-アルキニルであり; R^(6)はC_(3)-C_(15)-炭素環式基または窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基であるか、またはR^(6)は所望によりC_(1)-C_(10)-アルコキシ、-O-R^(7)、C_(3)-C_(15)-炭素環式基または窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基で置換されているC_(1)-C_(10)-アルキルであり; R^(7)は窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を有する5-から12-員ヘテロ環式基であり;そして R^(8)はC_(3)-C_(15)-炭素環式基であると特定されているのに対し、引用発明においては、式IにおけるR^(5)はC_(1)-C_(4)-アルキルである点」

4 相違点についての判断
刊行物1には、「一般式Iの化合物は、鎮痙剤として有用な作用を示す四級化合物を製造するための中間体として有用なものである。 本発明は、したがって、上で定義された式Iで表される化合物を一般式R_(1)Zで表されるエステルと反応させて以下の一般式で表される四級化合物を調製する方法にも関する」と記載されている(1A)ことから、刊行物1において一般式Iの化合物を四級化して製造される一般式IVの化合物は、本願発明の化合物と同様、鎮痙剤としての有用性を持つ化合物として同刊行物に記載されていると理解される。
刊行物1の1A及びクレーム6(1E)には、一般式IVの化合物について、「R_(1)はアルキル基又はアラルキル基であり」と記載され、R_(1)として引用発明におけるアルキル基だけでなく、アラルキル基が示唆されている。アラルキルとは、アリール基が置換したアルキル基を表す用語であり、アルキル部分の炭素数が2以上のものも含まれるから、鎮痙剤等としての有用性が期待される、さらなる新規な化合物を得ようとする当業者であれば、刊行物1の上記示唆に従い、引用発明において、その一般式IVにおけるR_(1)として、アルキル基に替えて、アルキル部分の炭素数が2以上のものを含め、アラルキル基を有する化合物を製造してみることに格別の創意を要しない。

5 本願発明の効果について
明細書[0053]及び審判請求書において、M3受容体に対するK_(i)値が記載された化合物のうち、化合物6及び13は、ピロリジン環のNの置換基、すなわち、式IにおけるR^(5)に対応する基としてフェニルエチル基を有し、化合物7及び14は、同基としてフェニルプロピル基を有するから、これらはいずれも、上記4で引用発明から当業者が格別の創意を要さずに想到し得たものである旨を指摘した範囲内の化合物である。化合物6及び13と化合物7及び14のそれぞれは、同じ置換基を持ち、置換基の立体配置のみが異なる化合物の組である。化合物13のK_(i)値について、明細書[0053]には、0.39と記載され、審判請求書には、0.388と記載されており、化合物13について審判請求書に記載されたK_(i)値は、M3受容体に対するK_(i)値の中では最も小さい値であると認められる。一方、化合物13と同じ置換基を持つ化合物である化合物6について、審判請求書には、M3受容体に対するK_(i)値が、9.378と記載されているから、置換基が同じであっても、立体配置の違いによって活性に30倍もの開きがあることになる。このような状況において、明細書及び審判請求書に記載されたK_(i)値は、引用発明の化合物と比較した試験結果として記載されていないため、提示された試験結果のみからは、本願発明の化合物が、上記相違点によって引用発明の化合物と比較して抗ムスカリン作用の点で格別顕著な効果を奏するものであるということはできない。
また、平成24年10月25日付けの審尋において、本願発明の化合物の抗ムスカリン活性が、刊行物1の一般式IVに該当する化学構造を有し、抗ムスカリン活性作用を有することが本願の優先日時点で周知の化合物であるポルジンとの比較ではどの程度のものであるのかについて、請求人に説明を求めたが、回答がなかった。
以上のことから、本願発明が、上記相違点によって引用発明及び技術常識から当業者が予測し得る範囲を超える格別顕著な効果を奏するとはいえない。

6 請求人の主張について
請求人は、本願発明と刊行物1との関係について、審判請求書において、概略以下の主張をしている。

(1)「引用文献16は、ピロリジルエステルとそこから得られる第4級化合物を開示する、非常に古い特許文献(1960年公告)である。そして、原審の審査官殿は、本願発明化合物が当該文献に具体的に記載された化合物とは、ピロリジン1位の置換基が所定の基で置換されたアルキルである点で相違していると認定される一方、特表2003-506405号公報(以下、参考文献1という)請求項7等を引用して、当該参考文献に記載された化合物はポルジンとして周知のムスカリン受容体拮抗作用に基づく鎮痙剤であると述べられている。
しかしながら、引用文献16自体には、実施例2の化合物を含め、いかなる化合物についても鎮痙作用を有することを支持する何らのデータも記載されていない。・・・
そして、引用文献16には、式(IV)の化合物のアニオンZを、ハロゲン、アルキルスルフェートまたはアリールスルホネートラジカルから、通常許容される他のアニオンに置換してもよいことが記載されているものの(2欄31?58行)、ピロリジン1位に存在するアルキル基(本願発明化合物におけるR^(5)に相当する基)を本願発明で規定するような特定の基でさらに置換してもよいことは、何ら示唆されていない(仮に引用文献16から何らかの示唆が得られるとすれば、当該文献に記載された化合物の1位の置換基が一様であることから、この置換基のサイズを大きくしないほうが好ましいという程度のことであろう)。そして、上記R^(5)の点で明確に異なる本願発明化合物がムスカリンアンタゴニスト活性を有することを、引用文献16から予測できるとする合理的根拠も当該文献には存在しない。
したがって、本願発明化合物が強力なムスカリン受容体拮抗作用に基づく鎮痙剤として有用な化合物であることを引用文献16から想到することは困難である。」(審判請求書3頁7段落?4頁2段落)

(2)「本願明細書段落[0053]には、本願発明化合物の代表的なもの数種について、抗ムスカリン活性を示すIC_(50)値を記載しているが、他の化合物も一般的に同様の抗ムスカリン活性を有することを明らかにするため、実施例に記載された化合物について得られているIC_(50)値を以下に報告する。なお、このIC_(50)値は、本願明細書段落[0051]?[0052]に記載の試験法により得られた値である。
・・・
以上、本願発明化合物の構造的特徴もそれによってもたらされる格別の効果も引用文献1?21から容易に想到できるものではなく、本願発明が進歩性を有することは明らかであると思料する。」(審判請求書4頁最終段落?5頁下から2行)

上記請求人の主張について、以下検討する。

請求人の主張する(1)の点について
上記(1)の請求人の主張は、引用文献16(刊行物1)自体には、化合物の鎮痙作用を支持する何らのデータも記載されていないこと、同刊行物には、ピロリジン1位に存在するアルキル基(本願発明の化合物におけるR^(5)に相当する基)を本願発明で規定するような特定の基でさらに置換してもよいことは、何ら示唆されていないこと及び上記R^(5)の点で明確に異なる本願発明の化合物がムスカリンアンタゴニスト活性を有することを、同刊行物から予測できるとする合理的根拠も存在しないから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものであると認められる。
しかし、引用発明は、一般式IVにおいて、R及びR_(1)がメチルである場合の化合物であるポルジンを包含するものであるから、刊行物1に接した本願優先日時点の当業者は、ポルジンとその類縁体である引用発明の化合物が実際に抗アセチルコリン作用によって、鎮痙作用を示す化合物であることを理解するといえる。
そして、既に上記4で指摘したように、刊行物1の1A及びクレーム6(1E)には、一般式IVの化合物について「R_(1)はアルキル基又はアラルキル基であり」と記載され、R_(1)として引用発明におけるアルキル基だけでなく、アラルキル基が示唆されているから、鎮痙剤等としての有用性を持つさらなる新規な化合物を得ようとする当業者であれば、刊行物1の上記示唆に従い、引用発明において、その一般式IVにおけるR_(1)として、アルキル基に替えて、アルキル部分の炭素数が2以上のものを含め、アラルキル基を有する化合物を製造してみることに格別の創意を要しない。したがって、請求人の(1)の点の主張は採用することができない。

請求人の主張する(2)の点について
上記(2)の請求人の主張は、明細書[0053]及び審判請求書に示した抗ムスカリン活性の値によれば、本願発明の化合物は、実際に抗ムスカリン活性を示す点で、顕著な効果を奏するものであるから、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない、というものであると認められる。
しかし、上記5において検討したとおり、明細書及び審判請求書に示した抗ムスカリン活性の値によっても、上記相違点によって引用発明及び技術常識から当業者が予測し得る範囲を超える格別顕著な効果を奏するとはいえないから、請求人の主張する(2)の点の主張は、採用することができない。

7 小括
よって、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である刊行物1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その余の点を検討するまでもなく、本願は、特許法第49条第2号に該当し、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-05 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-25 
出願番号 特願2006-516038(P2006-516038)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 安藤 倫世  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 齋藤 恵
東 裕子
発明の名称 ムスカリン性M3受容体のリガンドとしてのピペリジニウムおよびピロリジニウム誘導体  
代理人 落合 康  
代理人 松谷 道子  
代理人 山田 卓二  
代理人 岩崎 光隆  
代理人 青山 葆  

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