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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1277683
審判番号 不服2010-28013  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-10 
確定日 2013-08-07 
事件の表示 特願2000-568870「プロサポシン受容体活性を刺激する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成12年 3月16日国際公開、WO00/14113、平成14年 8月 6日国内公表、特表2002-524468〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、1999年9月9日(パリ条約による優先権主張 1998年9月9日、米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成22年7月30日付けで拒絶査定がなされたのに対し、平成22年12月10日に拒絶査定不服審判が請求され、同日付けで手続補正書が出された。その後、平成24年1月25日付けで審尋が出されたのに対し、平成24年7月26日付けで回答書が提出された。
そして、本願の請求項1?11に係る発明は、平成22年12月10日付け手続補正書における特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】 神経変性障害または髄鞘形成障害の処置のための医薬組成物であって、プロサポシン、サポシンC 、サポシンC のアミノ酸18?29のペプチド、および配列番号3に示すアミノ酸配列からなる群より選択される1つを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子を含む医薬組成物。」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例

原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である特表平9-503999号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(1a)「12.神経組織における神経またはミエリン脱落疾患の治療のための薬学的調製物であって、薬学的に受容可能な賦形剤とともにプロサポシン、その神経栄養フラグメント、または請求項26に記載のペプチドを含む、調製物。」(請求項12)

(1b)「70キロダルトンの糖タンパク質であるプロサポシンは、リソソーム加水分解酵素によるスフィンゴ糖脂質の加水分解に必要である一群の4つの小さな熱安定性糖タンパク質の前駆体である(Kishimotoら、(1992) J.Lipid Res.,33;1255-1267)。・・・スフィンゴ糖脂質は、ミエリン鞘の重要な成分であり、神経繊維を保護および隔離する構造である。ミエリン脱落(髄鞘脱落)は、多くの中枢神経系疾患に共通する欠損であり、多発性硬化症(MS)が最も一般的である。」(第6頁第7?24行)

(1c)「実施例2
マウス小脳の外植片における神経突起伸長に対するプロサポシンおよびその活性フラグメントの影響
新生マウス小脳の外植片を、Satomi(Zool.Sci.9,127-137(1992))に従って調製した。神経突起伸長およびミエリン形成が培養において22日間観察され、その期間の間に新生マウス小脳は正常にニューロン分化を経験しそしてミエリン形成が始まる。プロサポシン(5μg/ml)ならびにサポシンA、BおよびC(10μg/ml)を、外植片調製後第2日目に添加し(3つのコントロールおよび3つの処理外植片)、そして神経突起の伸長およびミエリン形成をビデオカメラを備えた明視野顕微鏡下で評価した。・・・これらの結果は、プロサポシンおよびサポシンCの分化している小脳、すなわちエクスビボで増加するミエリン形成を誘導する能力をさらに示す。」(第24頁第25行?第25頁第15行)

原査定の拒絶の理由において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である「RAFI,M.A. et al, Correction of sulfatide metabolism after transfer of prosaposin cDNA to cultured cells from a patient with SAP-1 deficiency, Am J Hum Genet, 1992, Vol.50, No.6, p.1252-8」(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英文のため日本語訳で記載する。また、下線は当審で付加した。

(2a)「SAP-1欠損患者由来の培養細胞にプロサポシンcDNAを移植した後のスルファチド代謝の修正」(タイトル)

(2b)「リソソームによるスルファチドからの硫酸塩部分の除去には、2つのタンパク質、アリルスルファターゼAとスフィンゴ脂質活性化タンパク質-1(SAP-1)が必要である。近年、“プロサポシン”とも称されるSAP-1をコードする遺伝子の変異を特徴とする、変異型の異染色性ロイコジストロフィーの患者が判明している。・・・我々は、完全長プロサポシンcDNAを、モロニーマウス白血病ウイルス由来のレトロウイルスベクターであるpLJに挿入し、そして、SAP-1欠損であると新規に診断され分子的に特徴づけられた患者由来の培養された皮膚繊維芽細胞に感染させたことを報告する。プロサポシンcDNA構築物に感染した培養細胞は、成熟したSAP-1の正常レベルの産生、及び細胞内に取り込まれた[^(14)C]-スルファチドの完全に正常な代謝を示す。これらの研究は、ウイルス性移植されたプロサポシンcDNAが正常に処理されて、スルファチドとアリルスルファターゼAとが相互作用するために必要であるリソソームに局在化されたことを証明する。」(第1252頁の要旨 第1?12行)

(2c)「ドメイン2(SAP-1)が変異している患者は、スルファチドを代謝できないことに関連する症状を持っている・・・これらの患者は、ロイコジストロフィーを示唆する神経性疾患の初期徴候、未分解スルファチドの排出、事実上異染色性に分類される異物、正常なアリルスルファターゼA、培養された皮膚繊維芽細胞に取り込まれた放射ラベルされたスルファチドを代謝する能力の低下、及び、白血球及び繊維芽細胞からの抽出物のウエスタンブロッティングにより決定される成熟したSAP-1量の減少により特徴づけられる。」(第1252頁右欄第12行?第1253頁左欄第6行)

(2d)「皮膚繊維芽細胞は、少なくとも4年間の衰えた精神能力を伴う末梢神経障害及び虚弱を根拠として、異染色性ロイコジストロフィーを持つと思われたメキシコ系の10歳の子から培養された。」(第1253頁左欄第27?31行)

(2e)「完全長プロサポシンcDNAの生成 ヒト皮膚線維芽細胞のmRNA由来である、ラムダgt11cDNAライブラリーが、プロサポシンcDNAの5´及び3´末端の900及び700塩基プローブを用いて保護された。poly-A末尾への開始コドンの前にある6つのヌクレオチドから始まる完全長プロサポシンcDNAが、pBluescript SK +/-(Stratagene, LaJolla,CA)にサブクローン化され、そして配列された。」(第1253頁右欄第7?14行)

(2f)「プラスミド構築物 SalI制限部位を備えた全長プロサポシンcDNAは、SalIでダイジェストされ、モロニーマウス白血病ウイルス由来のレトロウイルスベクターであるpLJ(Korman et al.1987)の特異的なSalI部位に連結された(図1)。」(第1253頁右欄第28?33行)

(2g)「患者由来の培養された皮膚繊維芽細胞の感染、及び挿入の確認 軽度にコンフルエントした患者由来繊維芽細胞を、ポリブレン(8μg/ml)が存在する濾過された培地中で12?16時間感染させた。・・・加えて、患者の細胞において、変異した配列のみならず正常なDNA配列(レトロウイルス構築物により与えられた)の存在についても、・・・を用いた特定のポリメラーゼ反応増幅により検討した。」(第1254頁左欄第5行?右欄第9行)」

(2h)「我々は独自に、ヒト皮膚線維芽細胞ライブラリーから完全長プロサポシンcDNAクローンを単離した。」(第1254右欄第17?18行)

(2i)「初期の研究は、患者の細胞において、感染前には検出されなかった成熟したSAP-1を検出するために行われた。・・・我々の抗体により染色された領域は、推定分子量8000?9000で移行している、完全に処理されたSAP-1に相当する。」(第1255頁左欄第4?15行)

(2j)「この論文において、我々は(a)末端にSalIクローニング部位を有するプロサポシンを転写する完全長cDNAの単離、(b)モロニーマウス白血病ウイルス由来のレトロウイルスベクターであるpLJの、SalI部位への挿入、及び(c)この患者由来の培養された皮膚繊維芽細胞への感染について説明した。cDNAをヒト細胞に移植するためのレトロウイルスベクターの使用は、他の方法よりも幾つかの長所を有する。これらの長所は、感染による高速度でのDNA取り込み、宿主細胞感染の選択的マーカーの存在、レトロウイルスを介した遺伝子転写の臨床試験への適用を実演している最近の実験の裏付け、を含んでいる。」(第1256頁右欄第11行?第1257頁左欄第13行)

(2k)「プロサポシン遺伝子の変異がスルファチドの蓄積を引き起こすこと、そして、これはレトロウイルスベクター中の正常なcDNAを細胞に供給することによって回避できることが、明らかになった。」(第1257頁左欄第40?43行)

3.対比・判断

摘記(1a)の記載からみて、引用例1には「神経組織における神経またはミエリン脱落疾患の治療のための薬学的調製物であって、薬学的に受容可能な賦形剤とともにプロサポシンを含む、調製物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されており、引用発明の「薬学的調製物」は、本願発明の「医薬組成物」に相当する。
そして、「ミエリン脱落」は「髄鞘脱落」を意味する記載であるので(摘記(1b))、引用発明の「神経組織におけるミエリン脱落疾患の治療」は本願発明の「髄鞘形成障害の処置」に相当する。
また、引用発明の「プロサポシンを含む」も、本願発明の「プロサポシンを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子を含む」も、プロサポシンを有効成分として使用するための手段であることに変わりはない。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は「髄鞘形成障害の処置のための医薬組成物であって、プロサポシンを有効成分として使用する医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
プロサポシンが、本願発明では「プロサポシンを有効な形でコードする単離されたDNA またはRNA 分子」の形態で含まれるものであるに対し、引用発明では「プロサポシン」というタンパク質そのものの形態で含まれるものである点。

上記相違点について、以下に検討する。
健常人が有するタンパク質(例えば成長因子、酵素、ホルモン)の欠損に起因する疾患を有する患者を治療する手段として、欠損しているタンパク質そのものを患者に補充する治療にとどまらず、当該タンパク質をコードするDNAを患者に導入する、いわゆる遺伝子治療も行うことは、本願優先日前から広く知られている技術事項である(必要ならば、例えば「桜川宣男、“神経疾患の遺伝子治療”、実験医学、1994年、第12巻第15号(増刊)、第102?107頁(特に第105頁左欄第4?21行)」、「大橋十也、“リソソーム蓄積症の遺伝子治療”、実験医学、1994年、第12巻第15号(増刊)、第88?95頁(特に第88頁右欄第左欄第5?10行及び第94頁右欄第10?17行)」、「Eliav Barr et al, “Systemic Delivery of Recombinant Proteins by Genetically Modified Myoblasts”, American Association for the Advancement of Science, 1991年, Vol.254, p1507-1509(特にp1507の要旨及び同頁の左欄第1?39行)」を参照。)。
そこに加えて、引用例2は、SAP-1欠損患者由来の培養細胞にプロサポシンcDNAを移植した後のスルファチド代謝の修正に関する文献である。そして、引用例2には、SAP-1(すなわちプロサポシン)をコードする遺伝子の変異により異染色性ロイコジストロフィーを持つ患者由来の培養された皮膚線維芽細胞(摘記(2c)及び(2d))を、プロサポシンをコードする単離された完全長cDNA(摘記(2e)及び(2h))をレトロウイルスベクターに挿入して得られた構築物に感染させ(摘記(2f)及び(2g))、その結果、患者の細胞において感染前には検出されなかった成熟したプロサポシンが検出されたこと(摘記(2b)及び(2i))が記載されている。
ここで、引用例2の「異染色性ロイコジストロフィー」(metachromatic Leukodystrophy)はロイコジストロフィーの一つであり、ロイコジストロフィーは、先天性障害のため中枢神経系の髄鞘が広範囲に脱落する慢性進行性疾患の総称であって、髄鞘が形成されないか不完全である状態を生じる疾患である(必要ならば、例えば「中村晴臣、“ロイコジストロフィーの病理”、脳と発達、1987年、第19巻第2号、第97?105頁(特に第97頁の「はじめに」及び「表1 Leukodystrophy(LD)の分類」)」を参照。)から、上記「異染色性ロイコジストロフィー」は「髄鞘形成障害」を有する疾患に相当するものである。また、引用例2の「プロサポシンをコードする単離された完全長cDNA」は、本願発明の「プロサポシンを有効な形でコードする単離されたDNA 分子」に相当するものである。
さらに、引用例2には、レトロウイルスベクター中の正常なcDNAを細胞に供給することにより、プロサポシン遺伝子の変異によるスルファチドの蓄積を回避できること、cDNAをヒト細胞に移植するためのレトロウイルスベクターの使用は、感染によって細胞が高速度でDNAを取り込めるという長所を有すること、及び、レトロウイルスを介した遺伝子転写は臨床試験に適用し得るという示唆が実験結果による裏付けと共に記載されている(摘記(2b)、(2j)、(2k))。
そうすると、引用例2には、プロサポシンをコードする単離された完全長cDNAを使用した遺伝子転写によって、SAP-1欠損患者由来の培養細胞にプロサポシンを産生させた、すなわちプロサポシンを供給できたこと、このことにより、当該遺伝子転写を、髄鞘形成障害の処置において臨床適用することに対する示唆が記載されているといえる。
してみれば、引用例1及び引用例2に接した当業者であれば、プロサポシンを髄鞘形成障害の処置に使用する形態として、引用発明における「タンパク質」の形態にかえて、引用例2に記載の上記ベクター、すなわち「プロサポシンを有効な形でコードする単離されたDNA 分子」を含む形態を使用して本願発明の医薬組成物とすることに、格別の創意を要したものとはいえない。
また、本願明細書の記載を検討しても、本願発明の医薬組成物とすることによって、引用例1及び引用例2の記載から当業者が予測し得る範囲を超えるほどの格別顕著な効果が得られるとは認められない。

なお、請求人は、引用文献3(本審決における引用例1)の記載では、わざわざDNA分子を組み込んだベクターなどを用いて、細胞をトランスフェクトし、それによって治療に用いるという必要性は全く考えられていない旨を主張しているが(平成22年12月10日付け審判請求書等)、当業者は創作能力を有するのであるから、技術の進歩を常に念頭において技術文献に接しているものというべきであり、引用例1において上記必要性が考えられていないことをもって上記判断を覆すのは相当でなく、請求人の上記主張は認められない。

したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載されている発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび

以上のように、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-15 
審決日 2013-03-28 
出願番号 特願2000-568870(P2000-568870)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平林 由利子福井 悟  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 前田 佳与子
平井 裕彰
発明の名称 プロサポシン受容体活性を刺激する方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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