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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 (159条1項、163条1項、174条1項で準用) 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 特17 条の2 、4 項補正目的 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1277713
審判番号 不服2012-8905  
総通号数 165 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-15 
確定日 2013-08-07 
事件の表示 特願2006-541257「レーザによりポリシリコン薄膜をアニールする光学系」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 6月16日国際公開,WO2005/054949,平成19年 5月17日国内公表,特表2007-512708〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2004年11月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2003年11月26日,2004年2月18日,2004年7月1日,アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって,平成23年9月6日に手続補正がされ,同年12月28日付けで拒絶査定がされ,それに対して平成24年5月15日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに,同日付けで手続補正がされ,その後同年8月22日付けで審尋がされ,それに対する回答はなされなかったものである。

第2 補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成24年5月15日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成24年5月15日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前の特許請求の範囲の請求項1?9を,補正後の特許請求の範囲の請求項1?9と補正するものであって,補正前後の特許請求の範囲の請求項1は,以下のとおりである。
(補正前)
「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置であって:
パルス間ドーズ制御を用いて高パワー及び高繰り返しレートにおいてレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA;及び
前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系であって,前記細いパルス化作用ビームは短軸線幅を有し,前記光学系は,複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有する短軸ホモジナイザを有する,光学系;
を有するガス放電レーザ結晶化装置。」

(補正後)
「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置であって:
パルス間ドーズ制御を用いて高パワー及び高繰り返しレートにおいてレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA;及び
前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系であって,前記細いパルス化作用ビームは短軸線幅を有し,前記光学系は,複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有する短軸ホモジナイザを有する,光学系;
を有するガス放電レーザ結晶化装置であり,
短軸視野光学系の出力に位置付けられた低パワーの交差シリンドリカルレンズの対を用いて,ラインボウ効果の不所望な影響を低減する;
ガス放電レーザ結晶化装置。」

2 補正事項の整理
本件補正のうち,特許請求の範囲についての補正事項を整理すると,以下のとおりである。

(補正事項1)
補正前の請求項1の「ガス放電レーザ結晶化装置。」を,補正後の請求項1の「ガス放電レーザ結晶化装置であり, 短軸視野光学系の出力に位置付けられた低パワーの交差シリンドリカルレンズの対を用いて,ラインボウ効果の不所望な影響を低減する; ガス放電レーザ結晶化装置。」と補正すること。

3 新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否について
(1)新規事項の追加の有無について
ア 補正事項1は,補正後の請求項1の「短軸視野光学系の出力に位置付けられた低パワーの交差シリンドリカルレンズの対を用いて,ラインボウ効果の不所望な影響を低減する」ことは,本願の願書に最初に添付した明細書(平成18年5月25日付け特許法第184条の5第1項の規定による国内書面(以下「国内書面」という)。以下,願書に最初に添付した明細書,願書に最初に添付した図面を,各々「当初明細書」,「当初図面」といい,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面を「当初明細書等」という。)の段落【0042】に「短軸視野光学系の出力に位置付けられた弱い(低パワーの)交差シリンドリカルレンズの対を用いて,長軸の中心からの距離に従って差動回折する合成“ポテトチップ”レンズを用いることによりラインボウ効果の不所望な影響を低減することを提案している。」と記載されているから,本件補正は当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。

イ したがって,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであるから,特許法第17条の2第3項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項をいう。以下同じ。)に規定する要件を満たすものである。

(2)補正の目的の適否について
ア 補正事項1についての補正は,「低パワーの交差シリンドリカルレンズ」を既存の「短軸視野光学系の出力に」設けるという,発明を特定するために必要な事項を新たに付加するものである。そして,当該発明を特定するために必要な事項の付加は,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項をいう。以下同じ。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しない。また,当該発明を特定するために必要な事項の付加が,特許法第17条の2第4項のその余のいずれの号に掲げる事項を目的とするものにも該当しないことは明らかである。

イ したがって,本件補正は,特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさないものである。

(3)小括
以上検討したとおりであるから,本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たさないものである。

4 独立特許要件について
(1)検討の前提
上記3(2)において検討したとおり,本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていないが,仮に,本件補正がこれらの要件を満たすものであり,かつ,本件補正のうちの請求項1についての補正が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとみなした場合において,補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,本件補正がいわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かにつき,予備的に検討する。

(2)補正発明
本件補正による補正後の請求項1?9に係る発明は,本件補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定されるものであり,再掲すると以下のとおりのものである。
「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置であって:
パルス間ドーズ制御を用いて高パワー及び高繰り返しレートにおいてレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA;及び
前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系であって,前記細いパルス化作用ビームは短軸線幅を有し,前記光学系は,複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有する短軸ホモジナイザを有する,光学系;
を有するガス放電レーザ結晶化装置であり,
短軸視野光学系の出力に位置付けられた低パワーの交差シリンドリカルレンズの対を用いて,ラインボウ効果の不所望な影響を低減する;
ガス放電レーザ結晶化装置。」

(3)引用例1?2の記載及び引用発明
ア 引用例1の記載
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開平6-124913号公報(以下「引用例1」という。)には,「レーザ処理方法」(発明の名称)に関して,図1,5とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

(ア)「【請求項1】 絶縁基板上に,形成されたIV族元素を主成分とし,高エネルギーの不純物イオンを照射された被膜に波長400nm以下,パルス幅50nsec以下のパルス状レーザー光を照射することによって半導体を活性化せしめるレーザーアニール方法において,該被膜上には厚さ3?300nmの酸化珪素を主たる成分とする被膜が形成されていることと,照射されるレーザーのエネルギー密度E〔mJ/cm^(2) 〕と照射パルス数Nの間に,log_(10)N≦-0.02(E-350)の関係を有することを特徴とするレーザー処理方法。
【請求項2】 請求項1において,使用されるレーザー光は,KrF,ArF,XeClもしくはXeFのいずれかのエキシマーレーザーであることを特徴とするレーザー処理方法。」

(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,信頼性および量産性に優れ,ばらつきが小さく,歩留りの高いレーザーアニール方法に関する。特に,本発明は,イオン照射,イオン注入,イオンドーピング等によってダメージを受け,結晶性が著しく損なわれた被膜のレーザーアニール方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年,半導体素子プロセスの低温化に関して盛んに研究が進められている。その理由の1つは,ガラス等の絶縁基板上に半導体素子を形成する必要が生じたからである。レーザーアニール技術は究極の低温プロセスと注目されている。」

(ウ)「【0010】
【実施例】本実施例では,IV族元素からなる膜(半導体膜)中に不純物を導入してN型とP型の一方を付与し,さらにマスクを用いて前記膜の一部に不純物を導入してその部分にN型とP型の他方を付与する。図1には本実施例で使用したレーザーアニール装置の概念図を示す。レーザー光は発振器2で発振され,全反射ミラー5,6を経由して増幅器3で増幅され,さらに全反射ミラー7,8を経由して光学系4に導入される。それまでのレーザー光のビームは3×2cm^(2) 程度の長方形であるが,この光学系4によって長さ10?30cm,幅0.1?1cm程度の細長いビームに加工される。この光学系を経たレーザー光のエネルギーは最大で1000mJ/ショットであった。
【0011】光学系4の内部の光路は5のように示される。光学系4に入射したレーザー光は,シリンドリカル凹レンズA,シリンドリカル凸レンズB,横方向のフライアイレンズC,縦方向のフライアイレンズDを通過する。これらフライアイレンズC,Dを通過することによってレーザー光はそれまでのガウス分布型から矩形分布に変化する。さらに,シリンドリカル凸レンズE,Fを通過してミラーG(図1ではミラー9)を介して,シリンドリカルレンズHによって集束され,試料に照射される。
【0012】本実施例では,図5の距離X_(1) ,X_(2) を固定し,仮想焦点I(これはフライアイレンズの曲面の違いによって生ずるようになっている)とミラーGとの距離X_(3) ,と距離X_(4) ,X_(5) とを調節して,倍率M,焦点距離Fを調整した。すなわち,これらの間には,
M=(X_(3) +X_(4) )/X_(5) ,
1/F=1/(X_(3) +X_(4) )+1/X_(5) ,
という関係がある。なお,本実施例では光路全長X_(6) は約1.3mであった。」

引用発明の認定
以上を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 結晶性が著しく損なわれた被膜をレーザーアニールするレーザーアニール装置であって,
パルス状レーザー光は発振器2で発振され,全反射ミラー5,6を経由して増幅器3で増幅されるXeFエキシマレーザであり,
光学系4によって細長いビームに加工され,
光学系4の内部には,シリンドリカル凹レンズA,シリンドリカル凸レンズB,横方向のフライアイレンズC,縦方向のフライアイレンズDを有する,
レーザーアニール装置」

ウ 引用例2の記載
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特開2002-353545号公報(以下「引用例2」という。)には,「注入同期式又はMOPA方式のレーザ装置」(発明の名称)に関して,図1とともに以下の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,注入同期式又はMOPA方式のレーザ装置,或いはガスレーザ装置に関し,より詳細には注入同期式又はMOPA方式のレーザ装置において,オシレータと増幅器とを同期させるための技術に関する。」

(イ)「【0003】又,エキシマレーザ装置をリソグラフィ用光源として用いる場合には,周囲の気圧などに応じて,出射レーザ光の中心波長を変えなければならない場合がある。これには,シードレーザ光の中心波長を変える必要があるが,オシレータがチタンサファイアレーザ装置である場合には,これが困難である。さらには,フッ素分子レーザ装置を注入同期式で構成しようとする場合には,中心波長がArFエキシマレーザ装置よりもさらに短い(157nm)ため,オシレータとして適切なレーザ装置を見つけることが困難である。そのため,リソグラフィ用の光源としては,増幅器と同じ放電励起式のエキシマレーザ装置又はフッ素分子レーザ装置をオシレータとした,注入同期式のレーザ装置が用いられている。
【0004】図18に,従来技術に係る,放電励起式フッ素分子レーザ装置をオシレータとして用いた注入同期式フッ素分子レーザ装置の構成を示す。図18において,オシレータ11Aは,フッ素及びネオン(Ne)を含むレーザガスを封入するオシレータチャンバ12Aを備えている。オシレータチャンバ12Aの所定位置には,一対のオシレータ電極14A,15Aが対向して配置されている。オシレータ11Aは,オシレータ電圧VAを出力するオシレータ充電器42Aを備えている。また,このオシレータ電圧VAをパルス圧縮してオシレータ電極14A,15A間に転送し,パルス放電を起こすオシレータ放電回路43Aを備えている。また,増幅器11Bは,内部に一対の増幅電極14B,15Bを対向して配置し,レーザガスを封入した増幅チャンバ12Bを備えている。さらに,増幅電圧VBを出力する増幅充電器42Bと,この増幅電圧VBをパルス圧縮して増幅電極14B,15B間に転送し,パルス放電を起こす増幅放電回路43Bとを備えている。オシレータ電圧VA及び増幅電圧VBを総称して,充電電圧VA,VBと言う。
【0005】ステッパ等の露光機25から,レーザコントローラにトリガ信号Gが出力されると,オシレータ電極14A,15A間に放電が起きてレーザガスが励起され,パルス状のシードレーザ光21Aが発生する。シードレーザ光21Aは,狭帯域化ユニット30により,波長を狭帯域化された状態で発振する。増幅器11Bは遅延回路44によってトリガ信号Gを所定遅延時間だけ遅延させてトリガ信号G3を出力し,増幅電極14B,15B間に増幅放電を起こす。これにより,シードレーザ光21Aは,不安定共振器36,37間を往復する間に,中心波長λc及びスペクトル幅Δλ(以下,これらを波長特性と呼ぶ)を保った状態で増幅され,出射レーザ光21Bとなって出射する。」

(ウ)「【0022】狭帯域化ユニット30内で狭帯域化されたシードレーザ光21Aは,中心波長λcを有するシードレーザ光21Aとして,前方(図1中紙面の右方)へ出射する。シードレーザ光21Aの一部は,ビームスプリッタ22Aで取り出され,レーザモニタ34Aに入射する。レーザモニタ34Aは,シードレーザ光21Aの出力,中心波長λc,及びスペクトル幅Δλ(以下,これらをレーザパラメータと呼ぶ)をモニタリングして,レーザコントローラ29に出力している。レーザコントローラ29は,モニタリングした中心波長λcに基づき,前記駆動機構に指令信号を出力してグレーティング33を回転させ,シードレーザ光21Aの中心波長λcを所望の目標波長λ0に制御している。これを,波長制御と言う。また,レーザコントローラ29は,モニタリングしたパルス出力に基づき,オシレータ充電器42Aに指令信号を出力してオシレータ電圧VAを変化させ,シードレーザ光21Aのパルス出力が所望の出力となるように制御している。これを,エネルギー一定制御と言う。エネルギー一定制御は,増幅器に対しても同様に,出射レーザ光21Bのパルス出力が所望の出力となるように行なっている。
【0023】オシレータ11Aを出射したシードレーザ光21Aは,増幅器11Bに入射する。増幅器11Bは,前後部にフロントウィンドウ17B及びリアウィンドウ19Bをそれぞれ固定し,内部にフッ素及びネオンを封入した増幅チャンバ12Bを備えている。増幅チャンバ12Bの内部には,一対の増幅電極14B,15Bが,図1中紙面に垂直方向に対向して設置されている。リアウィンドウ19Bの後方には,注入孔45を有する有孔凹面鏡36が,フロントウィンドウ17Bの前方には,注入孔45に対向して凸面鏡37がそれぞれ設けられており,不安定共振器を構成している。図1において,オシレータ11Aから発振したシードレーザ光21Aは,有孔凹面鏡36の注入孔45からリアウィンドウ19を透過し,増幅器11Bに入射する。増幅充電器42Bは,増幅放電回路43Bに増幅電圧VBを印加する。増幅電圧VBは,補正回路31及び遅延回路44によって補正されたトリガ信号G3に基づき,増幅放電回路43Bでパルス圧縮されて,増幅電極14B,15B間にパルス状に印加される。これにより,シードレーザ光21Aと同期して増幅放電が起き,シードレーザ光21Aは,有孔凹面鏡36と凸面鏡37との間で反射される間に増幅される。その結果,シードレーザ光21Aは,波長特性を保ったままパルス出力を増幅され,出射レーザ光21Bとして,凸面鏡37の周囲から出射する。」

(4)対比
以下に,補正発明と引用発明とを対比する。
ア まず,「XeF」等の「エキシマレーザ」は,XeF等のガスの放電によりパルスのレーザ発振するものであることは,当該技術分野において周知である。
そして,薄膜に対してレーザーアニールすることにより,結晶成長が図られることも当業者にとって明らかであるから,引用発明の「XeFエキシマレーザ」を用いて「結晶性が著しく損なわれた被膜をレーザーアニールするレーザーアニール装置」は,補正発明の「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置」に相当する。

イ 引用発明の「パルス状レーザー光は発振器2で発振され」「増幅器3で増幅されるXeFエキシマレーザ」は,補正発明の「レーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA」と,レーザ発振器とそのレーザ光を増幅する増幅器を有するレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムという点で共通する。

ウ 引用発明は「パルス状レーザー光」が「光学系4によって細長いビームに加工され」ていることから,引用発明の「光学系4」は,補正発明の「前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系」に相当する。

エ 引用発明の「光学系4の内部には,シリンドリカル凹レンズA,シリンドリカル凸レンズB,横方向のフライアイレンズC,縦方向のフライアイレンズDを有」しており,図5の側面図を参照すると,「横方向のフライアイレンズC」が短軸方向に複数のシリンドリカルレンズを並べたものであることが分かる。また,「フライアイレンズ」が複数の光源の像を造り光源の均一化を図る機能を有していることは周知の事項であり,光源の均一化を図る「ホモジナイザ」と同じ機能を有しているものである。
そうすると,引用発明の「横方向のフライアイレンズC」は,補正発明の「短軸ホモジナイザ」の「複数のシリンドリカルレンズの第1列」に相当する。

(一致点)
「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置であって:
レーザ発振器とそれを増幅する増幅器を有する,レーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステム;及び
前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系であって,前記光学系は,複数のシリンドリカルレンズの第1列を有する短軸ホモジナイザを有する,光学系;
を有するガス放電レーザ結晶化装置。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
補正発明は,「パルス間ドーズ制御を用いて高パワー及び高繰り返しレートにおいてレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA」であるのに対し,引用発明は,この点が特定されていない点。

(相違点2)
補正発明は,光学系の「短軸ホモジナイザ」が「複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有」しているのに対して,引用発明は,「複数のシリンドリカルレンズの第1列」は有しているものの,それ以外の構成について特定されていない点。

(相違点3)
補正発明は,「短軸視野光学系の出力に位置付けられた低パワーの交差シリンドリカルレンズの対を用いて,ラインボウ効果の不所望な影響を低減する」構成を備えているのに対し,引用発明は,そのような構成を備えていない点。

(5)判断
ア 相違点1について
(ア) 引用例2には,オシレータと増幅器の光パルスの出力をモニターして出力制御を行っているMOPA方式のエキシマレーザ装置が記載されている。また,そのパワー(出力),光パルスの繰り返しレートは,アニールに必要とされるパワーから当業者が適宜設定しうるものといえる。
(イ) 引用発明も,引用例2に記載の発明もどちらも半導体製造装置におけるエキシマレーザという分野が関連し,レーザ発振器とその光パルスを増幅器で増幅する機能も共通するから,引用発明におけるレーザシステムにおいて,引用例2に記載の光パルスの出力制御を行っているMOPA方式のエキシマレーザ装置を適用し,そのパワー,繰り返しレートを必要とされる高パワー,高繰り返しレートとすることは当業者ならば容易になし得たことである。

イ 相違点2について
(ア) 一般に,「複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有」した「短軸ホモジナイザ」は,例えば,以下の周知例1に「半導体製造工程におけるアニール工程で用いられるレーザ装置の光学系において,所定の間隔で離間して配置された一対の短軸用シリンドリカルレンズアレイ10,第1の短軸用結像レンズ12を有し,短軸方向の光強度分布がほぼ均一化する短軸用ホモジナイザ11」等と記載されているように周知の技術である。

(イ) したがって,引用発明において,光強度分布を均一化する短軸ホモジナイザとして,複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を設けることは,当業者が容易になし得たことである。

(ウ) 周知例1の記載
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開平11-283933号公報(以下「周知例1」という。)には,「レーザ照射装置,非単結晶半導体膜の製造方法及び液晶表示装置の製造方法」(発明の名称)に関して,図1とともに以下の記載がある。

a「【0035】テレスコープ6から出射したレーザ光Lは長軸用ホモジナイザ7で長軸方向の光強度分布がほぼ均一化されたのち,この長軸用ホモジナイザ7を構成する長軸用結像レンズ8で長軸方向が結像されるようになっている。長軸用ホモジナイザ7は一対の長軸用シリンドリカルレンズアレイ9を所定の間隔で離間させて配置してなる。
【0036】長軸用結像レンズ8から出射したレーザ光Lは,一対の短軸用シリンドリカルレンズアレイ10が所定の間隔で離間して配置された短軸用ホモジナイザ11で短軸方向の光強度分布がほぼ均一化されてから,この短軸用ホモジナイザ11を構成する第1の短軸用結像レンズ12で短軸方向が結像されて短軸用フィールドレンズ13に入射する。
【0037】つまり,レーザ発振器1から出力されたレーザ光Lは,長軸用ホモジナイザ7と短軸用ホモジナイザ11との長軸用結像レンズ8およびで第1の短軸用結像レンズ12で図3(a)に示すようにビーム形状が長部と短部をもつ矩形状に成形されるとともに,光強度分布は同図(b)に示すようにビーム形状における長手方向の両端部を除く部分がエネルギーAで示す光強度へとほぼ均一化される。
【0038】短軸用結像フィールドレンズ13から出射するレーザ光Lは第3の反射ミラー14で反射して第2の短軸用結像レンズ15で結像されながら成形手段を構成する第1のスリット16で所定形状,この実施の形態では上述した細長い矩形状のビーム形状の一部として長手方向の両端部分が除去されてアニールなどを行う処理室17に入射する。具体的には,図3(b)にEで示す光強度分布がなだらかに減少する両端部分,つまり光強度分布が均一化されたエネルギーAの部分をわずかに含む両端部のEの部分(エッジ部)が第1のスリット16によって除去されて処理室17に入射する。このEの部分は,被処理物(ガラス基板)19への照射には用いられない。すなわちアニール処理には用いられない。」

ウ 相違点3について
(ア) 半導体製造工程におけるアニール工程で用いられるレーザ装置の光学系において,短軸視野光学系の出力側に交差シリンドリカルレンズの対を設けることにより結像が向上させることは,例えば以下の周知例2に記載されているように周知の技術である。

(イ) そして,結像が向上することは,ラインボウ効果の不所望な影響等が低減されるということは当業者にとって明らかである。

(ウ) また,品質の良い半導体装置を製造するために,レーザ照射系のアニール装置のおいて,光学系の結像を良くしようとすることは,当業者にとって周知の課題である。

(エ) 以上から,引用発明において,周知の結像を向上させるという周知の課題を解決するために,上記周知の技術を勘案し,交差シリンドリカルレンズを設けることは,当業者が容易になし得たことである。

(オ) また,そのレンズの曲率,すなわちパワーについては当業者が適宜設定し得たものである。

(カ) 周知例2の記載
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された特開2001-75043号公報(以下「周知例2」という。)には,「精密可変型長尺ビーム光学系」(発明の名称)に関して,図1とともに以下の記載がある。

a 「【0002】
【従来の技術】ビームホモジナイザーは,アモルファスシリコンのレーザアニーリングに代表される用途に用いられるが,基板の大型化と高スループット化の要求に伴い,よりレーザビームの長尺化が要求されている。また,長尺方向と直行するビーム幅方向に関しては,これまでと同様のエネルギー密度を確保するため,ビーム長が大きくなる分だけ,より線幅の小さなビームが要求されている。すなわち,長尺方向はより長尺化,ビーム幅方向はより細線化という極端なビーム形状が要求されるわけであるが,実用化のためには,ビーム幅方向のエッジの急峻性と,全長尺範囲にわたる均一性という条件が満たされる必要がある。」

b 「【0013】
【発明の実施の形態】〔第1実施形態〕図1は,本発明に係る第1実施形態のビーム整形光学系の構造を説明する図である。図1(a)は,線条ビームの長軸方向(すなわち長尺方向)に関する図であり,図1(b)は,線条ビームの短軸方向(すなわち幅方向)に関する図である。」

c 「【0017】長軸側コンデンサレンズ系30は,長軸方向の断面に曲率を有し光源側に凸のシリンドリカルレンズからなる第1群レンズ31と,長軸方向の断面に曲率を有し像側に凸のシリンドリカルレンズからなる第2群レンズ32とから構成される。長軸側コンデンサレンズ系30は,長軸側シリンダアレイ群10によって形成される複数の2次光源を被照射面IS上で重ね合わせる働きを有する。ここで,長軸側コンデンサレンズ系30を第1群レンズ31と第2群レンズ32とに分けて,第1群レンズ31の射出瞳位置に第2群レンズ32の前側焦点位置を一致させることにより,長軸側では,被照射面IS側にテレセントリックとなる。これにより,イメージングレンズ50を通過する主光線を光軸OAに平行にすることができる。
【0018】短軸側コンデンサレンズ系40は,短軸方向の断面に曲率を有し光源側に凸のシリンドリカルレンズからなる。この短軸側コンデンサレンズ系40は,短軸側シリンダアレイ群20によって形成された複数の2次光源を短軸マスク60上で重ね合わせる働きを有する。
【0019】イメージングレンズ50は,短軸方向の断面に曲率を有するシリンドリカルレンズからなる。このイメージングレンズ50は,短軸側コンデンサレンズ系40によって短軸マスク60上に重ね合わされた光源像を被照射面IS上に縮小投影する働きを有する。」

d 「【0021】以下,図1のビームホモジナイザによる結像について説明する。この線条ビームホモジナイザに入射した光ビームは,まず長軸側シリンダアレイ群10により長軸断面で分割される。分割された光ビームは,第1群レンズ31に入射し,その後に配置されている第2群レンズ32とセットで被照射面IS上に重ね合わせられ,ここに均一ビームを形成する。第1群レンズ31を通った光ビームは,短軸側シリンダアレイ群20に入射し,短軸断面で分割される。短軸側シリンダアレイ群20を経た光ビームは,短軸コンデンサレンズ系40に入射し,短軸マスク60のマスク面上で短軸断面に関してのみ均一ビームを形成する。すなわちマスク面が短軸断面における2次光源の重ね合わせ面となり,ここに均一ビームが形成される。なお,このマスク面は,長軸断面における重ね合わせ面となっていないため,長軸方向については均一ビームが形成されていない。短軸マスク60は,均一である範囲のみ透過し,裾野部分の均一ではない部分を遮光して短軸マスク60の像側にビームが届くのを防止する。短軸マスク60を通った光ビームは,第2群レンズ32に入射し,長軸断面の主光線が光軸に対し平行となって出射する。第2群レンズ32から出射した光ビームは,その後イメージングレンズ50を通過して被照射面IS上で均一ビームを形成する。この際,長軸断面で2次光源が完全に重ね合わされるだけでなく,短軸断面でも,イメージングレンズ50によって短軸マスク60の縮小投影像が形成される。ここで,イメージングレンズ50はシリンドリカルレンズであり,このシリンドリカルレンズを通過する光ビームの長軸断面はテレセントリックとなっている。よって,既に説明したように,イメージングレンズ50を通過する主光線を光軸OAに平行にすることができ,長軸方向に沿った短軸断面の結像について像面湾曲が発生しない。また,デフォーカスが生じてもビーム長は変化しない。
【0022】図2は,参考のための図であり,図1のビームホモジナイザから第2群レンズ32を除いた場合に発生する像面湾曲を説明する図である。図からも明らかなように,シリンドリカルレンズであるイメージングレンズ50の母線断面において,光軸OAに対して角θを有する斜入射光L’が入射する場合,見かけ上のパワーが光軸OAに平行な直入射光Lよりも大きくなり,ガウス像面上の結像位置FLよりも手前側の位置FL’で短軸断面の光が集光してピントずれをおこす。このようなピントずれによって像面湾曲が発生し,斜入射光L’の入射する角θが大きくなる程,像面湾曲の量も増加する。
【0023】しかしながら,上記実施形態のビームホモジナイザでは,長軸断面で像側テレセントリックとなっており,イメージングレンズ50を通過する主光線が光軸OAに平行となっているので,短軸断面の結像については像面湾曲が発生しない。」

e 図1を参照すると,長軸方向の断面に曲率を有し凸のシリンドリカルレンズ32と短軸方向の断面に曲率を有するシリンドリカルレンズであるイメージングレンズ50が被照射面ISに最も近いところに形成されていることが見てとれる。また,それぞれのシリンドリカルレンズの曲率を有する断面が交差していることも分かる。

f 図2を参照すると,シリンドリカルレンズ32を設けることにより,結像が良くなっていることが分かる。

エ 判断についてのまとめ
以上検討したとおり,補正発明は,引用例1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

(6)独立特許要件についてのまとめ
本件補正は,補正後の特許請求の範囲により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,特許法第17条の2第5項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項をいう。以下同じ。)において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。

5 補正の却下の決定についてのむすび
上記3において検討したとおり,本件補正は特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしていない。
また,仮に,本件補正がこれらの要件を満たすものであり,かつ,本件補正のうちの請求項1についての補正が特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとみなしたとしても,上記4において検討したとおり,本件補正は,補正後の特許請求の範囲により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから,特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合しないものである。
以上のとおり,本件補正は,特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,平成23年9月6日付けの手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲1?9に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,請求項1に記載されている事項により特定されるのものであり,再掲すると以下のとおりのものである。

「被加工物の薄膜における配向又は結晶成長の変換を実行するガス放電レーザ結晶化装置であって:
パルス間ドーズ制御を用いて高パワー及び高繰り返しレートにおいてレーザ出力光パルスビームを生成するXeFレーザシステムを構成するMOPA又はPOPA;及び
前記レーザ出力光パルスビームから伸長された細いパルス化作用ビームを生成する光学系であって,前記細いパルス化作用ビームは短軸線幅を有し,前記光学系は,複数のシリンドリカルレンズの第1列,複数のシリンドリカルレンズの第2列及びフォーカシング光学系を有する短軸ホモジナイザを有する,光学系;
を有するガス放電レーザ結晶化装置。」

第4 引用例に記載された発明

引用例1には,上記第2,4(3)イに記載したとおりの発明が記載されており,引用例2には第2,4(3)ウの記載がある。

第5 対比・判断

本願発明と,引用発明とを対比すると,第2,4(4)(一致点)に記載した点で一致し,第2,4(4)(相違点1),(相違点2)の点で相違する。
しかしながら,(相違点1)(相違点2)の点は,それぞれ第2,4(5)ア,イで検討したとおり,引用例2に記載の発明及び周知の技術を勘案し,当業者が容易になし得た範囲に含まれるものである。
以上から,本願発明は,周知の技術を勘案し,引用発明及び引用例2に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第6 むすび

以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-06 
結審通知日 2013-03-12 
審決日 2013-03-28 
出願番号 特願2006-541257(P2006-541257)
審決分類 P 1 8・ 57- Z (H01L)
P 1 8・ 56- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 北島 健次
特許庁審判官 早川 朋一
西脇 博志
発明の名称 レーザによりポリシリコン薄膜をアニールする光学系  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  

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