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審決分類 審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  A61N
審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61N
審判 全部無効 判示事項別分類コード:857  A61N
審判 全部無効 2項進歩性  A61N
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61N
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61N
審判 全部無効 4項(134条6項)独立特許用件  A61N
管理番号 1278003
審判番号 無効2012-800122  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-08-10 
確定日 2013-07-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4944626号発明「磁気治療器具および磁気治療器具製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 I 手続の経緯

特許第4944626号(以下、「本件特許」という。)は、平成19年1月25日(優先権主張平成18年12月18日)に出願された特願2007-14472号の特許出願に係り、平成24年3月9日に、請求項1?5に係る発明について設定登録されたものである。
本件無効審判は、本件特許について、平成24年8月9日に無効審判請求人 都祭 正則(以下「請求人」という。)により、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1?請求項5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」として請求がなされたものであって、被請求人 ピップ株式会社、株式会社アイリス(以下「被請求人」という。)は、平成24年10月30日付けで、答弁書及び訂正請求書を提出している。
その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 1月 9日付け 弁駁書
平成25年 3月21日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成25年 4月 4日 口頭審理
平成25年 4月18日付け 上申書(請求人)
平成25年 4月18日付け 上申書(被請求人)

II 訂正について

1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成24年10月30日に提出した訂正請求書により被請求人が求める訂正は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり請求項ごと又は一群の請求項ごとに訂正しようとするものであって、その内容は次のとおりである。

(1)請求項1?5からなる一群の請求項に係る訂正
(1-1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の記載
「【請求項1】
ネックレス等に用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部とを備えたことを特徴とする磁気治療器具。」を、
「【請求項1】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可携性を有する被覆部と
を備えたことを特徴とする磁気治療器具。」
に訂正する(請求項1の記載を直接的に又は他の請求項を介して間接的に引用する請求項2?5も同様に訂正する)(下線部は訂正個所。以下同様。)。

(1-2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2の記載
「【請求項2】
請求項1に記載の磁気治療器具において、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性紛との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとの多色押出しにより形成されることを特徴とする磁気治療器具。」を、
「【請求項2】
請求項1に記載の磁気治療器具において、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとを多色押出した後、熱を加えて加硫することで形成されることを特徴とする磁気治療器具。」
に訂正する(請求項2の記載を直接的に又は他の請求項を介して間接的に引用する請求項3?5も同様に訂正する)。

(1-3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4の記載
「【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の磁気治療器具において、
前記被覆部の一端にシリコーンゴムにより形成される係止部と、
前記被覆部の他端にシリコーンゴムにより形成されるとともに、前記係止部と着脱可能に係止される被係止部とを有し、
当該被係止部が前記係止部に係止されることで、前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となることを特徴とする磁気治療器具。」を、
「【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の磁気治療器具において、
前記被覆部の一端にシリコーンゴムにより形成される係止部と、
前記係止部に設けられる係止突起と、 前記抜覆部の他端にシリコーンゴムにより形成されるとともに、前記係止部に設けられた係止突起と着脱可能に係止される被係止孔が設けられた被係止部とを有し、
当該被係止部が前記係止部に設けられた係止突起に係止されることで、前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となることを特徴とする磁気治療器具。」
に訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する)。

(1-4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5の記載
「【請求項5】
請求項2?4のいずれかに記載の磁気治療器具を製造する方法であって、
前記磁石部を形成する前記シリコーンゴムと前記磁性紛と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程とを含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。」のうち、請求項3及び4を引用する部分を、
「【請求項5】
請求項3又は4に記載の磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、 前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性紛と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性紛と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。」
に訂正する。

(2)請求項6に係る請求項ごとの訂正
(2-1)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5の記載
「【請求項5】
請求項2?4のいずれかに記載の磁気治療器具を製造する方法であって、
前記磁石部を形成する前記シリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程とを含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。」のうち、請求項2を引用する部分を、
「【請求項6】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、 所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、 シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部とを備えたことを特徴とする磁気治療器具であって、 当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとの多色押出しにより形成されることを特徴とする磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、 前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。」
に訂正する。

2 訂正の可否に対する判断

(1)請求項1?5からなる一群の請求項に係る訂正について
(1-1)訂正事項1(請求項1に係る訂正)について
(ア)訂正の目的について
訂正事項1は、「ネックレス等」を「ネックレスやブレスレット」と限定し、さらに、「リング状の」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書に「【0014】
・・・前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となるのが好ましい・・・」
「【0015】
・・・この磁気治療器具をネックレスやブレスレット等として利用することが可能となるので利便性が向上する。・・・」と記載されているから、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正である。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項1による訂正は、「ネックレス等」を「ネックレスやブレスレット」と具体的に限定するものであり、また、その形状について特定していなかったものを、「リング状」と限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-2)訂正事項2(請求項2に係る訂正)について
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は、請求項2の「磁気治療器具」について、「多色押出しにより形成される」を、「多色押出した後、熱を加えて加硫することで形成される」とさらに限定事項を付加することにより、磁気治療器具の構成を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書に「【0016】
前記のような磁気治療器具を製造する方法としては、・・・前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程とを含む方法を用いるのが好ましい(請求項5)。」と記載されているから、訂正事項2による訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正である。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項2による訂正は、磁気治療器具について、「多色押出しにより形成される」を、「多色押出した後、熱を加えて加硫することで形成される」とさらに限定事項を付加することにより、磁気治療器具の構成を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-3)訂正事項3(請求項4に係る訂正)について
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は、(a)請求項4の「係止部」について、「前記係止部に設けられる係止突起」を有することを付加して係止部の構成を限定し、(b)請求項4の「前記係止部と着脱可能に係止される被係止部」を「前記係止部に設けられた係止突起と着脱可能に係止される被係止孔が設けられた被係止部」と訂正して「被係止部」が「係止突起と着脱可能に係止される被係止孔」を有することを付加して被係止部の構成を限定し、(c)請求項4の「被係止部が前記係止部に係止される」を「被係止部が前記係止部に設けられた係止突起に係止される」と訂正して「被係止部」と「係止部」との係合が「係止突起」と「被係止孔」との係合でなされることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書に「【0025】
前記係止部22とは、後述する被係止部26を係止するためのものである。この係止部22は、前記被覆部20の一端にシリコーンゴムにより形成されている。また、この係止部22には、被覆部20側から外側に突出する係止突起24が設けられており、この係止突起24と後述する被係止部26に設けられた被係止孔28とが係合することで前記被係止部26がこの係止部22に係止されるようになっている。
【0026】
前記被係止部26とは、前記係止部22に係止されるものであり、前記被覆部20のうち前記係止部22と反対側の端部に設けられている。そして、この被係止部26には、前記係止突起24と着脱可能に係合する被係止孔28が形成されており、この被係止孔28と前記係止突起24とが係合することで被覆部20がリング状になる。」と記載されているから、訂正事項3による訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正である。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項3による上記(a)?(c)の訂正は、請求項4の係止部が、係止突起を有することを付加して係止部の構成を限定し、被係止部が被係止孔が設けられたとその構成を限定し、係止部と被係止部との係合が係止突起と被係止孔との係合でなされることを限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-4)訂正事項4(請求項5に係る訂正)について
(ア)訂正の目的について
訂正事項4は、(a)請求項5が引用する請求項について「請求項2?4のいずれかに記載の」を「請求項3又は4に記載の」と訂正し、引用する請求項を一部削除し、(b)請求項5の「磁気治療器具を製造する方法」において、「ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程」を付加し、(c)請求項5において、第一混練機及び第二混練機で混練される「シリコーンゴム」を「可塑化されたシリコーンゴム」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
本件特許の明細書に「【0030】
1)素練り工程
この工程は、前記磁石部10および前記被覆部20を形成するミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する工程である。この工程では、前記ミラブル型シリコーンゴムの生ゴムが、前記第一混練機31および第二混練機32にてローラにより繰り返し練られることで可塑化していく。
【0031】
2)混練工程
この工程は、前記可塑化されたミラブル型シリコーンゴムに他の材料を混練する工程である。この工程では、第一混練機31に前記ミラブル型シリコーンゴムと、前記希土類磁石の粉末と、前記フェライト磁石の粉末と、加硫剤である有機過酸化物等とが投入され、これらが均一になるように混ぜ合わされる。また、第二混練機32には、前記ミラブル型シリコーンゴムと、加硫剤である有機過酸化物等とが投入され、これらが均一になるように混ぜ合わされる。」と記載されているから、訂正事項4による訂正は、本件特許の明細書に記載した事項の範囲内においてされた訂正である。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
訂正事項4による上記(a)?(c)の訂正は、請求項5が引用する請求項を一部削除し、請求項5の「磁気治療器具を製造する方法」において、「ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程」を付加し、請求項5の「シリコーンゴム」を「可塑化されたシリコーンゴム」と限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-5)一群の請求項についての訂正の可否
上記訂正事項1?4に係る訂正後の請求項1?5は、訂正事項1を含む請求項1の記載を、請求項2?5がそれぞれ引用しているものであるから、当該訂正後の請求項1?5は、特許法施行規則第46条の2第2号に規定する関係を有する一群の請求項である。
そして、上記(1-1)から(1-4)で述べたとおり、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされ、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、請求項1?5からなる一群の請求項に係る上記訂正事項1?訂正事項4の訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであり、当該訂正は適法なものであるからこれを認める。

(2)請求項6に係る請求項ごとの訂正(訂正事項5)について
(ア)訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項5が、請求項2?4を引用するものであったところ、上記訂正事項4による訂正後の請求項5が引用する請求項3、4を除いた請求項2を引用する請求項5の発明を、請求項間の引用関係を解消して、請求項2及び請求項2が引用する請求項1を引用しないものとした独立形式の請求項へ改めるとともに、上記訂正事項1、4と同じく、以下の事項を付加したものである。
(a)訂正前の「ネックレス等」を「ネックレスやブレスレット」と限定すること、
(b)「ネックレスやブレスレット」が、「リング状の」ものであると限定すること、
(c)「磁気治療器具を製造する方法」において、「ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程」を付加して限定すること
(d)第一混練機及び第二混練機で混練される「シリコーンゴム」を「可塑化されたシリコーンゴム」に限定すること。
かかる訂正は、他の請求項を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするとともに、訂正前の請求項が引用する請求項を一部削除し、上記(a)?(d)の限定事項を付加することにより、磁気治療器具の製造方法を限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

(イ)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であること
上記(ア)で述べたとおり、訂正事項5は、訂正前の請求項5の一部を独立形式の請求項へ改めるとともに、訂正事項1、4と同様の事項を付加するものである。
そして、上記(1-1)(イ)、(1-4)(イ)で述べたとおり、訂正事項5に係る限定事項は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内のものであることは明らかである。

(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記の通り、訂正事項5に係る限定事項は、本件特許発明5の発明特定事項を減縮するものである。また、当該訂正事項5に係る訂正により、新たな請求項6が生じ本件特許は請求項が増加するが、これは、請求項2?4を引用していた請求項5について、請求項3又は4を引用する請求項5と、請求項2を引用する新たな請求項6とに分けたことによるものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正後の請求項6の無効審判請求について
訂正事項5に係る訂正により、本件特許は新たな請求項6が生ずるが、当該請求項6は、上述のとおり、訂正前の請求項5のうち請求項2を引用するものを分けたものである。そして、訂正前の請求項2?4を引用する訂正前の請求項5に対して無効審判が請求されているのであるから、訂正前の請求項2を引用する訂正前の請求項5を分けたことにより生じた訂正後の請求項6も、無効審判が請求されている請求項である。

(オ)請求項6に係る請求項ごとの訂正である訂正事項5についての訂正の可否
上記(ア)?(ウ)で述べたとおり、請求項5に係る訂正事項5についての訂正は、特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を、当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とし、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされ、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、上記(エ)で述べたとおり、訂正後の請求項6は無効審判が請求されている請求項である。
したがって、請求項6に係る請求項ごとの訂正である訂正事項5についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであり、当該訂正は適法なものであるからこれを認める。

III 本件発明
本件特許請求の範囲は上記訂正によって訂正されたので、その請求項1?6に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「請求項1?6に係る発明」を「本件発明1?6」という。)。

「【請求項1】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可携性を有する被覆部と
を備えたことを特徴とする磁気治療器具。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気治療器具において、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとを多色押出した後、熱を加えて加硫することで形成されることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気治療器具において、
前記磁性粉が希土類磁石の粉末であることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の磁気治療器具において、
前記被覆部の一端にシリコーンゴムにより形成される係上部と、
前記係止部に設けられる係止突起と、
前記被覆部の他端にシリコーンゴムにより形成されるとともに、前記係止部に設けられた係止突起と着脱可能に係止される被係止孔が設けられた被係止部とを有し、
当該被係止部が前記係止部に設けられた係止突起に係止されることで、前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、
前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性紛と
加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。
【請求項6】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部と
を備えたことを特徴とする磁気治療器具であって、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとの多色押出しにより形成されることを、特徴とする磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、
前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。」

IV 請求人及び被請求人の主張の概略

1 請求人の主張

請求人の主張は、以下のとおりである。

無効理由1
訂正後の本件発明1?6は、甲第2?16号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

無効理由2
訂正後の本件発明1?6について、本件特許の明細書及び図面の記載と特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び同項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特許第4944626号公報
甲第2号証:特開平11-111515号公報
甲第3号証:特開2000-88153号公報
甲第4号証:特開平5-38368号公報
甲第5号証:実開平5-88314号公報
甲第6号証:特開2005-328907号公報
甲第7号証:特開2000-82611号公報
甲第8号証:特開2005-280202号公報
甲第9号証:特許庁ウェブサイト(技術分野別特許マップ、化学6 プラスチック押出成形、第4章 技術の概要、4.4.4 ダイ)のプリントアウト
甲第10号証:特開2001-9049号公報
甲第11号証:特開2004-147859号公報
甲第12号証:特開平6-298986号公報
甲第13号証:改訂新版 プラスチックハンドブック、第604?607頁 昭和51年2月10日 7版 株式会社朝倉書店発行
甲第14号証:特開平10-34729号公報
甲第15号証:特開2005-342027号公報
甲第16号証:ゴム工業便覧<新版>、第146?151頁 昭和54年4月1日 第2版 社団法人日本ゴム協会発行

2 被請求人の主張

訂正後の本件発明1?6はいずれも甲第2?16号証に記載された発明から容易に発明をすることができたものでもない。また、訂正後の本件発明1?6はいずれも当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に記載され、訂正後の本件発明1?6はいずれも発明の詳細な説明に記載されているものであり、本件の特許請求の範囲には、訂正後の本件発明1?6が明確に記載されている。したがって、本件特許は特許法第123条第1項第2号及び第4号に該当せず、無効とされるべきものではない。

V 当審の判断

A 無効審判が請求されている請求項について
本件特許請求の範囲は上記訂正によって訂正され、新たに請求項6が生じたが、上記「II2(2)(オ)」で述べたとおり、請求項6についても、上記無効理由1、無効理由2の審理対象とする。この点については、両当事者とも争っていない。

B 無効理由1について

1 刊行物
(1)甲第2号証
(1-1)「【請求項1】 合成樹脂材に磁性粉を混入しこれを長尺なコード状に形成して着磁してなる可撓性を有する磁石体の外周に、熱可塑性樹脂エラストマーからなる外装被覆体を被覆成形したことを特徴とするマグネットコード。」

(1-2)「【0003】
また、この磁石シートとほぼ同様の材料を用いて、各種形状に成形することが検討され、この磁石体の特性である可撓性を充分に発揮し得る形状として長尺なひも状に形成することが案出された。この長尺なひも状の磁石体の用途としては健康器具の磁気ネックレスや、モーター駆動等に用いるプーリーベルトや、磁性体面であればどこにでも着脱自在に磁着させることができる利便性からディスプレイ材料に用いる等、多数の用途が考えられる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このひも状の磁石体をそのまま磁気ネックレスとして用いた場合には、可撓性に優れていても繰り返して折り曲げたり強く引張ることにより磁石体が切断する虞れがあり、また肌に磁石体が直接触れると、磁石体に汗や皮脂による汚れが含浸してしまう問題もあった。また、ひも状磁石体をプーリーベルトとして用いるには引張り強度が不足し、さらにディスプレイ材料として用いるには従来の磁石体が黒、焦茶等の暗色だけで色彩不足であった。そこで、本発明にあっては所要の磁着性を備えてなることは勿論のこと優れた可撓特性を損なうことなく折り曲げ強度や引張り強度を向上させることができ、さらに汚れを含浸させることもなく、かつ各種の彩色可能な従来皆無のマグネットコードを提供することを目的とするものである。」

(1-3)「【0010】
【発明の実施の形態】図1は、本発明のマグネットコード1を示し、2は合成樹脂材に磁性粉を混入しこれを断面が円形のひも状に形成し直径方向にN極とS極を着磁してなる直径2?4mmの長尺な磁石体、3は磁石体2の外周を被覆形成する厚さが5?200μmの熱可塑性樹脂エラストマー、例えばウレタン樹脂、塩化ビニルエラストマー、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー等からなる外装被覆体である。
【0011】磁石体2は、無機質とのなじみのよい熱可塑性の合成樹脂材に磁性粉、例えばフェライト粉を重量比で80%以上混入したものを加熱軟化し、これを押出し成形機により長尺なひも状に形成し、これを着磁したものである。
【0012】外装被覆体3は、一例としては被覆電線の製造等に用いられるクロスヘッド押出し成形機を用い、前記磁石体2を挿通させながらその外周に加熱軟化させたウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂エラストマーを押し出すことで、外装被覆体3を磁石体2の外周に被覆形成する。このクロスヘッド押出し成形を用いることで、熱可塑性樹脂エラストマーの被覆の厚さを自在に制御でき、これにより外装被覆体3の厚さを均一で好適な値に設定することが可能となる。また、クロスヘッド押出し成形以外にも、デッピングや他の押出し成形等の手段を用いてもよいものである。」

(1-4)「【0015】このようにして形成された本発明のマグネットコード1は、接着剤がなくとも磁石体2と外装被覆体3とが密着性よく一体成形されることから、磁石体2と外装被覆体3とが分離する虞れがなくなることから、マグネットコード1をかなりの長尺に形成したり、また撓曲したりテンションをかけて使用することが可能となる。」

(1-5)「【0016】そして、外装被覆体3を形成する際に、予め熱可塑性樹脂エラストマーに適宜な顔料を混入することで、彩色豊かなマグネットコード1が可能となり、これにより従来の可撓性を有する磁石体が黒、焦茶等の暗色であるのに対し、装飾性に富んだ今までにない色彩のマグネットコード1が得られる。さらに、磁石体2と外装被覆体3におけるそれぞれの寸法における弾性率(ヤング率)を近似させることで、磁石体2と外装被覆体3とが一体化に伸張し得ることから、折り曲げ強度や引張り強度が増大する。」

(1-6)「【0017】このマグネットコード1の使われ方としては、健康器具の磁気ネックレス、モーター駆動等におけるプーリーベルト、ディスプレイ材料、洋装用ベルト等の広い用途が考えられ、これらに用いた場合には折り曲げ強度や引張り強度の増大による長寿命化は勿論のこと、磁気ネックレスに用いた場合には、マグネットコード1に汗や皮脂が付着しても外装被覆体3が磁石体2に含浸することを防ぎ、拭き取り容易で清潔に保つことができ、またプーリーベルトに用いた場合には、プーリーを鉄等の磁性体とすることでベルトがプーリーに磁着して外れ難くなるという効果を奏するものである。このプーリーベルトの形状としては、丸ベルトのみならず、平ベルト、Vベルト等であってもよいものである。」

以上から、甲第2号証には、次の発明が記載されている(以下、「甲第2号証発明」という。)。

「健康器具の磁気ネックレスに用いられるマグネットコードにおいて、
所定の方向に延びて、合成樹脂材と磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石体と、
熱可塑性エラストマーにより形成されるとともに前記磁石体の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する外層被覆体とを備えたことを特徴とするマグネットコード。」

(2)甲第3号証
(2-1)「【請求項1】 透明なシリコーンゴムをマトリックスとして所定量の抗菌剤を添加した内層と、
透明なシリコーンゴムで構成され、前記内層を覆うように形成された外層と、
を備えていることを特徴とするシリコーンゴムチューブ。」

(2-2)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チューブ内面における細菌や汚れなどの発生を極力、抑えることが要求されるような環境で用いられるチューブに関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種のチューブとして、例えば、飲食物の搬送系で用いられる食品用チューブが知られている。食品用チューブでは、配管の自由度や清掃の際の作業性などを高めるために可撓性が要求されるとともに、人体に対する安全性の点からチューブ内面における細菌や汚れなどの発生を極力、抑えられるという特性(以下「非汚染性」という)が要求される。これらの条件をある程度、満たすものとして、熱可塑性エラストマーで構成した外層と、ポリテトラフルオロエチレンまたはポリエチレンで構成した内層とを備えた2層構造チューブや、抗菌剤を添加した透明なシリコーンゴムで単層構造に構成されたシリコーンゴムチューブがある。」

(2-3)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記2層構造チューブの場合には、内層と外層を構成する材質の物性が互いに異なっていることにより、曲げが加えられたときに、チューブ内面にしわや屈曲部を生じやすい。したがって、これらのしわや屈曲部に汚れが付着しやすく、非汚染性が低下するという問題点がある。」

(2-4)「【0006】これに対して、単層構造である上記シリコーンゴムチューブでは、上記2層構造チューブのようなしわや屈曲部をほとんど生じることがなく、汚れが付着しにくい。また、シリコーンゴムでは、混練ロールを用いてシリコーンゴム内に抗菌剤を練り込むことにより、抗菌剤をその内部に均一に分散させることができるので、抗菌剤の濃度分布のばらつきを生じることがない。それゆえ、抗菌剤の配合割合を高めれば、抗菌性を向上させ、優れた非汚染性を得ることが可能である。しかし、シリコーンゴムチューブでは、抗菌剤の配合割合を高めると、透明性が低下することによって、上述したメンテナンス性などが失われてしまうとともに、抗菌剤が高価であることによって、製造コストの上昇を招いてしまう。このため、従来のシリコーンゴムチューブでは、透明性と製造コストの点から、抗菌剤を低い配合割合、例えば、0.5?0.7wt%でしか添加することができず、十分な抗菌性すなわち非汚染性を確保できていない。」

(2-5)「【0007】本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、製造コストを上昇させることなく、優れた非汚染性と透明性を両立させることができるシリコーンゴムチューブを提供することを目的とする。」

(2-6)「【0009】このシリコーンゴムチューブによれば、内層に抗菌剤が添加されていることによって、チューブ内面における抗菌性を確保できるとともに、内層と外層がともにシリコーンゴムで構成されていることにより、可撓性を確保できる。また、内層および外層がともにシリコーンゴムで構成されることによって、製造時に2層を高いレベルの密着度で密着させることができるので、単層構造のシリコーンゴムチューブと同様に、曲げが加えられたときでもチューブ内面にしわや屈曲部を生じにくく、汚れが付着しにくい。さらに、2層構造の内層にのみ抗菌剤を添加しているので、内層における抗菌剤の配合割合を従来よりも高く設定して、より高い抗菌性を発揮させることができるとともに、チューブ全体として透明性を確保することができ、さらに、抗菌剤の全使用量の増加を抑制することができる。したがって、製造コストを上昇させることなく、優れた非汚染性と透明性を両立させることができる。」

(2-7)「【0019】▼4▲そして、HAVを用いて、加硫を施しながら外層2および内層3のチューブ原料を共押出成形することにより、2層構造のチューブを形成する。さらに、このチューブに加熱を施すことによって、チューブ1の製造工程を終了する。」(「▼4▲」は丸付き数字4)

以上の記載から、甲第3号証には、
優れた非汚染性と透明性を両立させることができるシリコーンゴムチューブを提供することを目的として、シリコーンゴムチューブにおいて、透明なシリコーンゴムに所定量の抗菌剤を添加した内層と、透明なシリコーンゴムで構成され、内層を覆うように形成された外層を備えたシリコーンゴムチューブの発明が記載されているとともに、当該発明は、内層と外層がともにシリコーンゴムで構成されていることにより、可撓性を確保でき、製造時に2層を高いレベルの密着度で密着させることができるので、曲げが加えられたときでもチューブ内面にしわや屈曲部を生じにくく、汚れが付着しにくく、さらに、2層構造の内層にのみ抗菌剤を添加しているので、チューブ全体として透明性を確保することができ、製造コストを上昇させることなく、優れた非汚染性と透明性を両立させることができるという効果を奏することが記載されている。

(3)甲第4号証
(3-1)「【要約】
【目的】剥離等のおそれが無く、径年変化のほとんど無い、しかも金属アレルギー等を起こすおそれのない、保磁力の高い磁気治療器を提供することを目的とする。
【構成】皮膚への接着が可能なように接着剤を付けた所定大きさの貼付シール5の略中心位置に、皮膚に接触可能な全面をシリコン材料1で被覆した厚さ方向に着磁された磁石3を貼着して、磁石3が直接皮膚に触れないように構成する。
【効果】表面をシリコンゴム1で覆うため、表面が平滑になり、見た目がよくなる。さらに、直接磁石3が皮膚に触れないため、金属アレルギーを起こすこともなく、任意の磁性材料を用いることができる。また、経年変化も少ない、安全性と商品性の向上した保磁力の高い磁気治療器が提供できる。」

以上の記載から、甲第4号証には、磁気治療器において、皮膚に接触可能な面をシリコン材料で被覆した構成が記載されている。

(4)甲第5号証
(4-1)「【要約】
【目的】 直接皮膚に接触してもアレルギー反応を起こす心配のない時計バンドを提供すること。
【構成】 皮膚接触面4にシリコンゴム薄層3を設ける。」

以上の記載から、甲第5号証には、時計バンドにおいて、皮膚接触面にシリコンゴム薄層を設ける構成が記載されている。

(5)甲第6号証
(5-1)「要約】
【課題】かゆみ・かぶれ・蒸れが無く、磁石の取替えをすることなく繰返し使用できる磁気治療器を提供する。
【解決手段】シリコン製の貼付パッド1に磁石4を埋設しており、貼付パッド1の一面が人体に貼付する治療面3であり、非治療面は人工皮膚膜2で被覆されている。治療面3には離形紙5が貼付されている。シリコンを成分とした素材を用いることで、衛生的かつ安全であり、かゆみ・かぶれ・蒸れが解消し、貼付パッド1を水または中性洗剤でもみ洗いすることで何度も使用できる。」

以上の記載から、甲第6号証には、磁気治療器において、人体に貼付する治療面を有する貼付パッドがシリコン製である構成が記載されている。

(6)甲第7号証
(6-1)「【請求項1】 サマリウムと鉄と窒素とからなるサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を合成ゴム又は熱可塑性合成樹脂に混入しこれを押出し成形した可撓性を有するものに対して着磁してなることを特徴とするサマリウム-鉄-窒素系の磁性粒子を用いた押出し成形磁石体。」

(6-2)「【0002】
【従来の技術】永久磁石用素材としては、前述した残留磁束(Br)、保磁力(Hc)、最大エネルギー積((BH)max)が大きい特性の安定したものが好適であり、それにはバリウム-フェライト(BaO・6Fe2O3)やストロンチウム-フェライト(SrO・6Fe2O3)などのフェライト磁石、サマリウム-コバルト(Sm2Co17)やネオジウム-鉄-ボロン(Nd2Fe14B)などの希土類系磁石が多く用いられている。」

(6-3)「【0012】この磁気異方性粒子を混入する合成ゴム又は熱可塑性合成樹脂のうち、まず合成ゴムとしては、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、ブタジエンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどがあり、また熱可塑性合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブデン、塩素化ポリエチレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン系樹脂、塩化ビニル、ポリ酢酸ビニルなどのビニル樹脂、スチレン系樹脂、その他にポリエステル、ナイロン、ポリウレタン、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA),EVA-塩化ビニルグラフト共重合体などがある。この中でも特に、磁性粉等の無機質を含有し易い熱可塑性樹脂としては、塩素化ポリエチレン、EVA、NBR、ポリオレフィン系樹脂、合成ゴムなどがあり、これらを適宜に混ぜて使用することも可能である。本実施例にあっては一例としてポリオレフィン系樹脂を用いる。このポリオレフィン系樹脂に前記磁気異方性粒子を混入・混練し、加熱溶融させて混練した材料を押出し成形機に投入する。」

以上の記載から、甲第7号証には、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(ニトリルゴム)、ブタジエンゴム、シリコンゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどの合成ゴムに磁性粒子を混入して押出し成形した、押出し成形磁石体が記載されている。また、永久磁石用素材として、サマリウム-コバルトやネオジウム-鉄-ボロンなどの希土類系磁石が多く用いられていることが記載されている。

(7)甲第8号証
(7-1)「【請求項1】
加硫ゴム層と未加硫ゴム層とを有する複層防水シートであって、
前記加硫ゴム層と前記未加硫ゴム層とは直接積層されており、前記未加硫ゴム層は、加硫剤を含有し、加硫促進剤を含有しないことを特徴とする複層防水シート。」

(7-2)「【0008】
・・・加硫ゴム層と未加硫ゴム層のゴム材料の組成は異なっていてもよいが、同一ゴム材料であることが、より層間接着力が高くなり、好ましい。・・・」

以上の記載から、甲第8号証には、加硫ゴム層と未加硫ゴム層とを積層して構成する複層防水シートにおいて、同一ゴム材料であると、より層間接着力が高くなることが記載されている。

(8)甲第9号証
甲第9号証には、プラスチック押出成形において、多色成形と多層成形とが同義であることが記載されている。

(9)甲第10号証
甲第10号証には、ネックレスとブレスレットが例示される磁気治療器に、サマリウム-鉄-窒素系の異方性磁性粉末と合成ゴム又は熱可塑性樹脂を混入し加熱軟化させ、成型機により成形したサマリウム鉄系ボンド磁石を使用することが記載されている。

(10)甲第11号証
甲第11号証には、身体に巻き掛けられるバンドを有する磁気治療具において、バンドは、両端に互いに係脱可能な一対の雄止め具と雌止め具とを備え、雄止め具は、先端に玉状の突起を有し、雌止め具は、先端側に突起を回転自在に挟持する凹陥部44を有している構成が記載されている。

(11)甲第12号証
甲第12号証には、樹脂押出機と、これに対して直交状に配置されたクロスヘッドダイとを用いて多層構造体を押出成形する技術が記載されている。

(12)甲第13号証
甲第13号証には、シリコーンゴムからなる成形体の成形方法において、コンパウンドから成形する場合、まず、素練りを行い、その後、押出成形を行うこと、また、コンパウンド製造において、生ゴムに充填剤と加硫剤を加えよく分散させてコンパウンドとすることが記載されている。

(13)甲第14号証
甲第14号証には、シリコーンゴム組成物を、押出し機で押出し、加熱・硬化してシリコーンゴム組成物押出し成形品を製造する際、必要に応じて、二次加硫することが記載されている。

(14)甲第15号証
甲第15号証には、軟質エラストマー部材の表面に、開口部を有する穴であって、該穴の深さ方向中間部に該穴の開口部より小さい直径の狭小部分が形成された受け部と、保持部材と該保持部材表面から突き出た硬質エラストマーの軸であって、該軸の先端に、該軸断面の直径より大きい直径を有する略半球状の係合部が、前記保持部材表面から前記略半球状の係合部までの長さが前記受け部の狭小部分の深さ以上となるように、形成される挿入体とが、前記長尺体の両端にそれぞれ形成された磁気装身具が記載されている。

(15)甲第16号証
甲第16号証には、シリコーンゴムの加工において、加工前に素練りを行うことが記載されている。

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲第2号証発明とを対比する。
甲第2号証発明の「磁性粉」は、その構造または機能から見て、本件発明1の「磁性粉」に相当し、以下同様に、「磁石体」は「磁石部」に、「外層被覆体」は「被覆部」に、それぞれ相当する。
また、「健康器具の磁気ネックレスに用いられるマグネットコード」は、ネックレスとして使用する場合はリング状にすることは技術常識である。さらに、「健康器具の磁気ネックレス」は、身体に磁気による血行促進作用を及ぼして治療効果を得られるということが広く一般に認識されていることであるから、甲第2号証発明の「健康器具の磁気ネックレスに用いられるマグネットコード」は、本件発明1の「リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具」に相当するものといえる。
さらに、シリコーンゴムは、シリコーン樹脂からなるものであり合成樹脂の一種といえるから、本件発明1の磁石部の「シリコーンゴム」と、甲第2号証発明の磁石体の「合成樹脂材」とは、「合成樹脂材」という限りで一致する。また、シリコーンゴムは、ゴムのような弾性を有するものであるから、本件発明1の被覆部の「シリコーンゴム」と、甲第2号証発明の外層被覆体の「熱可塑性エラストマー」とは、「エラストマー」という限りで一致する。

以上から、両者は、
「リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、合成樹脂材と磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
エラストマーにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部とを備えたことを特徴とする磁気治療器具。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点)
磁石部及び被覆部の材料が、本件発明1では、両者ともシリコーンゴムと特定されているのに対し、甲第2号証発明では、磁石部が合成樹脂材とされ、被覆部が熱可塑性エラストマーとされている点。

(2)判断
甲第2号証発明では、磁石体と外層被覆体との2層構造とする目的は、磁気ネックレス等のマグネットコードにおいて、優れた可撓特性を損なうことなく折り曲げ強度や引張り強度を向上させることができ、さらに汗や皮脂等の汚れを含浸させることなく、かつ各種の彩色可能なマグネットコードを提供するものであり(段落【0003】、【0004】)、その密着性の効果は、磁石体と外装被覆体とが分離する虞れがなくなることから、マグネットコードをかなりの長尺に形成したり、また撓曲したりテンションをかけて使用することが可能となることである(段落【0015】)。そして、その密着性について、甲第2号証発明では、クロスヘッド押出し成形機を用い、磁石体を挿通させながらその外周に加熱軟化させた熱可塑性樹脂エラストマーを押し出すことで、外装被覆体を磁石体の外周に被覆形成することで磁石体と外層被覆体との密着性よく一体成形することで達成されることが開示されている(甲第2号証、段落【0012】、【0015】)。
これに対し、甲第3号証に記載された発明は、飲食物の搬送系で用いられる食品用チューブなど、抗菌性と透明性とが要求されるシリコーンゴムチューブの技術分野において、透明なシリコーンゴムに抗菌材を添加した内層と透明なシリコーンゴムからなる外層とを備えることで、その密着性を確保することができる発明であるが、当該発明は、シリコーンゴムの透明性という性質を確保しつつ、抗菌材添加による透明性の低下も防止するため、透明なシリコーンゴムに抗菌材を添加した内層と透明なシリコーンゴムからなる外層とを備えるという構成を採用するものであり、また、内層および外層ともに共通の材料であるシリコーンゴムで構成する目的は、製造時に2層を高いレベルの密着度で密着させ、曲げが加えられたときでもチューブ内面にしわや屈曲部を生じにくくし、汚れが付着しにくいようにするためである(段落【0009】)。そして、材料としてシリコーンゴムを採用する目的も、その可撓性と透明性のためのものである。
してみると、甲第2号証発明と、甲第3号証に記載された発明とでは、技術分野も、2層構造とする目的、その2層の密着性を高める目的も全く異なるし、両者の得られる効果も全く相違すると言わざるを得ない。
また、甲第2号証発明においては、上記したように、クロスヘッド押出し成形機を用い、磁石体を挿通させながらその外周に加熱軟化させた熱可塑性樹脂エラストマーを押し出すことで、外装被覆体を磁石体の外周に被覆形成することで磁石体と外層被覆体との密着性よく一体成形することで達成されているのであるから、甲第2号証に接した当業者が、それ以上の密着性を求めるべく、他の技術事項や構成をさらに採用するという動機付けもない。
したがって、甲第2号証発明に、技術分野も、2層構造とする目的も、その2層構造の密着性を高める目的も異なる甲第3号証に記載された発明を適用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
また、甲第4?6号証に記載されているように、人の皮膚に接触させて使用する器具において、皮膚接触部分にシリコーンゴムを採用することが周知の事項であるとしても、それは、甲第2号証発明の外層被覆体にシリコーンゴムを採用するという構成が想到されるにとどまり、そこから更に、磁石体の合成樹脂にまでシリコーンゴムを採用して外層被覆体と共通の材料として、磁石体と外層被覆体との密着性を高めるということが、当業者にとって容易に想到し得たことであると認められる理由はない。
さらに、甲第7?16号証を検討しても、上記相違点に係る本件発明1の構成が、当業者が容易に想到し得ると認められる理由はない。
したがって、上記相違点に係る、本件発明1の構成は、甲第2号証発明、及び、甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第4?16号証に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
また、本件発明1の上記相違点に係る構成により、本件発明1は明細書記載の効果を奏すると認められ、本件発明1の奏する効果は、甲第2?16号証に記載された発明が奏する効果以上のものである。

請求人は、甲第2号証と甲第3号証とは、2層構造を有する長尺体において、「十分な可撓性の確保」、「内層と外層との十分な密着性」という共通な課題を有することを理由に適用の容易性を主張するが(審判請求書第19頁第23行?第21頁第12行、弁駁書第9頁第12?26行)と主張するが、両者において、十分な可撓性の確保と、内層と外層との十分な密着性とから解決する課題も、その可撓性や密着性の奏する効果も上記のとおり全く異なるものであるから、上記請求人の主張は理由がない。
また、請求人は、甲第8号証を提示し、同一ゴム材料のものを積層することで層間接着力が向上することは周知の事項であることを理由に、上記相違点に係る本件発明1の構成の容易想到性を主張するが、上記したように、甲第2号証発明において、更なる密着性を必要とする動機付けは存在せず、甲第8号証記載の周知の事項を根拠とする請求人の主張は理由がない。
さらに、請求人は、甲第4?6号証と、甲第7号証を提示し、外層被覆体と磁石体とにシリコーンゴムを採用することの容易性も主張するが、甲第4?6号証に記載された、人の皮膚に接触させて使用する器具において、皮膚接触部分にシリコーンゴムを採用することが周知の事項であるとしても、それは、外層被覆体にシリコーンゴムを採用するという構成が想到されるにとどまり、そこから更に、磁石体の合成樹脂として、甲第7号証に多数例示される合成ゴムのなかから、シリコーンゴムを選択して、磁石体と外層被覆体との密着性を高めるということまで、当業者にとって容易に想到し得たことであると認められず、請求人の主張は理由がない。
以上のとおり、上記請求人の主張はいずれも理由がない。

(3)小括
よって、本件発明1は、甲第2号証発明、及び、甲第3号証に記載された発明、並びに、甲第4?16号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3 本件発明2?6について
本件発明2?5は、本件発明1の発明特定事項をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件特許請求の範囲の請求項6は、直接請求項1を引用していないものの、その構成には、請求項1と同一の構成が含まれているから、本件発明6も本件発明1の発明特定事項をその構成の一部とするものであるから、上記と同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

C 無効理由2について

1 特許法第36条第4項第1号違反について
(1)請求人の主張
請求人は、本件発明の解決しようとする課題は、より均一に身体に磁気を作用させることのできる磁気治療器具の提供を目的とするものであるところ、本件特許明細書には、本件発明の構成とすることで所望の作用効果を発揮することが当業者によって確認できる程度に明確かつ十分に記載されていない本件特許の明細書の記載は、訂正後の本件発明1?6のすべてについて、特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件を満たしていないと主張している(審判請求書第30頁第18行?第33頁第14行、弁駁書第24頁第15行?第26頁第18行、平成25年4月18日付け上申書第2頁第4行?第3頁第20行)。

(2)本件発明の明細書の記載
本件特許の明細書には次のとおり記載されている。
(ア)「【0002】
従来、磁気を身体に作用させると血行が促進されて健康上良好な効果が得られるといわれており、この効果を得るための種々の健康器具が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、前記磁気を発生する磁石が混入された磁気ネックレス等に用いられる長尺な磁性体であって、合成樹脂材にフェライト粉を80%以上混入したものを加熱軟化させて押出機でひも状に形成した磁石部と、押出成形機を用いて前記磁石体の外周に加熱軟化させた熱可塑性樹脂エラストマーを押出すことで形成した被覆部とを有するものが開示されている。
【0004】
このような構成によれば、所定の磁力を有するとともに、前記フェライト粉等が外部に露出して肌に直接付着するのを抑制することのできる磁気ネックレスを構築することができる。
【特許文献1】特開平11-111515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の磁性体では、前記磁石部と前記被覆部とが異なる材料で形成されているため、前記磁石部と前記被覆部とが十分に密着せず、磁石部から外部に発せられる磁力の管理が困難になるとともに、磁石部からの磁気を身体に均一に作用させることができない場合がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、より均一に身体に磁気を作用させることのできる磁気治療器具の提供を目的とする。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明は、ネックレス等に用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部とを備えたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、前記磁石部をシリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成するとともに、この磁石部を覆う前記被覆部をシリコーンゴムにより形成しているので、この磁石部と被覆部とを十分になじませることができ、磁石部から外部に発せられる磁気を容易に均一化することができる。すなわち、前記磁石部からの磁気を身体に均一に作用することができるので、この磁気による血行促進作用を効果的に身体に及ぼすことが可能になる。また、本発明では、前記のように被覆部を生理的に安定しているシリコーンゴムにより形成しているので、この磁気治療器具を直接肌に接触させた場合でも、この被覆部が皮膚に与える悪影響をより確実に抑制することが可能になる。」

(ウ)「【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、磁気作用を身体に均一に作用させることができるとともに皮膚への悪影響をより確実に抑制することのできる磁気治療器具を提供することができる。」

以上の記載事項から、本件発明は、従来技術のものより、より均一に身体に磁気を作用させることのできる磁気治療器具の提供を目的とし、そのため、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで、従来技術のものより、磁石部と被覆部との密着性をより高め、このことにより磁気作用を身体に均一に作用させることできることが把握される。

(3)判断
本件発明は上記のとおり、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで従来技術に比べてより高い密着性を得られるものであり、このことは、明細書の記載から十分把握できるものである。そして、その効果も、従来技術の磁石部と被覆部とが異なる材料で構成される場合に比べ、その密着度、特に、使用中において、磁気治療器具が屈曲されるような状況においても、磁石部と被覆部とが共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成されることから、より一層の密着性が得られ、隙間が生じたり、剥離することが防止されるということは当業者であれば、明細書の記載から十分把握できることである。そして、磁石部と被覆部との高い密着性により、磁石部と被覆部との距離が一定に保持され、被覆部に接する使用者の皮膚と、磁石部との距離が一定に保たれることから、均一に身体に磁気を作用させることができるという本件特許の明細書記載の効果が得られると認められる。
上記の効果は、被覆部と磁石部との材料が共通のシリコーンゴムを有するように構成することでその密着性が確保できるのであるから、明細書の記載から当業者がその実施をすることができるものである。また、その得られる磁力等については特許請求の範囲で特に限定されているものではなく、発明の詳細な説明に実験データ等が記載されていなくとも、その実施は可能である。
請求人は、磁石部と被覆部との密着性の低下で隙間が生じたとしても、隙間を構成する空気と、磁石部と被覆部とを構成するシリコーンゴムとはいずれも非磁性体であり、その比透磁率は、両者ともその値はほぼ1であり、大きな差はなく、隙間の存在によって、磁石部からの磁気が身体に均一に作用できなくなることはない旨主張する(平成25年4月18日付け上申書第2頁第4行?第3頁第5行)。しかしながら、上記したように、磁石部と被覆部との密着性が低くて、両者に隙間が生じると、皮膚に接する被覆部と、磁石部とに距離差が生じて、身体に作用する磁力にばらつきが生じることは明らかであり、本件発明の構成により、この密着性向上が図れることは明細書に記載されているのであるから、本件発明が明細書記載の効果を奏するか否か不明とは言えない。
以上のとおりであるから、上記請求人の主張は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号違反について
(1)請求人の主張
(1-1)本件請求項1?6に係る発明について、磁性粉とシリコーンゴムとの混合比が記載されておらず、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することになる(審判請求書第34頁第1行?第35頁第20行、弁駁書第26頁第19行?第27頁第9行)。

(1-2)本件請求項1?3、5に係る発明について、ネックレス等として使用するための必須の構成が記載されておらず、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することになる(審判請求書第35頁第21行?第36頁第10行)。

(1-3)本件請求項1?4に係る発明について、「より均一に身体に磁気を作用させる」ことが本件発明の課題であるところ、そのためには、「磁石部および被覆部をともにシリコーンゴムで形成する」という構成だけでなく、磁石部および被覆部の混合ばらつきを混練工程等の実施によって初めて抑制されるのであるが、本件発明1?4は、この「ばらつきを抑制」できるようにするための必須の構成が記載されておらず、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することになる(審判請求書第36頁第11?28行、弁駁書第27頁第18行?第28頁第10行)。

(2)判断
(2-1)請求人の主張(1-1)について
本件特許の発明の詳細な説明には、上記したように、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで、従来技術のものより、磁石部と被覆部との密着性をより高め、このことにより磁気作用を身体に均一に作用させることできることが記載されており、発明の課題解決には、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで足りるものである。そして、特許請求の範囲の請求項1?6は、いずれも「シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可携性を有する被覆部とを備えた」点が記載されており、本件請求項1?6に係る発明が発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものとは認められない。
請求人が主張する、「磁性粉とシリコーンゴムとの混合比」は、上記本件特許発明の解決する課題解決に必要な特定事項とは認められず、その構成が特許請求の範囲に記載されていないことをもって、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することになるとは認められない。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

(2-2)請求人の主張(1-2)について
本件発明1?3、5の「リング状のネックレスまたはブレスレットとに用いられる磁気治療器」という構成について、本件特許の明細書の段落【0019】?【0027】、【図1】、【図2】には、本件発明をネックレスとして用いる実施の形態が記載されており、本件発明1?3、5は発明の詳細な説明に記載されたものである。また、本件特許の発明の課題解決のため、本件発明1?3、5は「リング状のネックレスまたはブレスレット」とその形状が特定されており、本件請求項1?3、5に係る発明が発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものとは認められない。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

(2-3)請求人の主張(1-3)について
本件特許の発明の詳細な説明には、上記したように、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで、従来技術のものより、磁石部と被覆部との密着性をより高め、このことにより磁気作用を身体に均一に作用させることできることが記載されており、発明の課題解決には、磁石部と被覆部とを共通の材料であるシリコーンゴムを有するように構成することで足りるものである。
そして、特許請求の範囲の請求項1?4は、いずれも「シリコーンゴムと磁性紛との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可携性を有する被覆部とを備えた」点が記載されており、本件請求項1?4に係る発明が発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているものとは認められない。
請求人が必須の構成と主張する、「磁石部および被覆部の混練工程等」は、本件特許発明の解決する課題解決に必要な特定事項とは認められず、その構成が特許請求の範囲に記載されていないことをもって、明細書に記載した範囲を超えて特許を請求することになるとは認められない。
したがって、上記請求人の主張は理由がない。

以上のとおりであるから、請求人の主張は、いずれも理由がない。

3 特許法第36条第6項第2号違反について
(1)請求人の主張
請求項1の「ネックレス等」という記載は、訂正請求により「ネックレスやブレスレット」と訂正されたが、「ネックレスやブレスレット」という記載は、「ネックレスまたはブレスレット」を意味するのか、「ネックレスおよびブレスレット」を意味するのか依然として不明確である(弁駁書第27頁第12?17行)。

(2)判断
「ネックレスやブレスレット」との記載は、「ネックレス又はブレスレット」を意味することは明らかであり、請求項1の記載は明瞭であるから、請求人の主張は理由がない。

4 小括
上記1?3で述べたように、請求人が主張する、特許請求の範囲及び明細書の記載不備を理由とする無効理由は、いずれも理由がない。

VI むすび

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1?6に係る特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気治療器具及び磁気治療器具製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、血行促進作用等を有する磁気治療器具およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気を身体に作用させると血行が促進されて健康上良好な効果が得られるといわれており、この効果を得るための種々の健康器具が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、前記磁気を発生する磁石が混入された磁気ネックレス等に用いられる長尺な磁性体であって、合成樹脂材にフェライト粉を80%以上混入したものを加熱軟化させて押出機でひも状に形成した磁石部と、押出成形機を用いて前記磁石体の外周に加熱軟化させた熱可塑性樹脂エラストマーを押出すことで形成した被覆部とを有するものが開示されている。
【0004】
このような構成によれば、所定の磁力を有するとともに、前記フェライト粉等が外部に露出して肌に直接付着するのを抑制することのできる磁気ネックレスを構築することができる。
【特許文献1】特開平11-111515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の磁性体では、前記磁石部と前記被覆部とが異なる材料で形成されているため、前記磁石部と前記被覆部とが十分に密着せず、磁石部から外部に発せられる磁力の管理が困難になるとともに、磁石部からの磁気を身体に均一に作用させることができない場合がある。
【0006】
本発明は、かかる事情に鑑み、より均一に身体に磁気を作用させることのできる磁気治療器具の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明は、ネックレス等に用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部とを備えたことを特徴とするものである(請求項1)。
【0008】
本発明によれば、前記磁石部をシリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成するとともに、この磁石部を覆う前記被覆部をシリコーンゴムにより形成しているので、この磁石部と被覆部とを十分になじませることができ、磁石部から外部に発せられる磁気を容易に均一化することができる。すなわち、前記磁石部からの磁気を身体に均一に作用することができるので、この磁気による血行促進作用を効果的に身体に及ぼすことが可能になる。また、本発明では、前記のように被覆部を生理的に安定しているシリコーンゴムにより形成しているので、この磁気治療器具を直接肌に接触させた場合でも、この被覆部が皮膚に与える悪影響をより確実に抑制することが可能になる。
【0009】
また本発明において、当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとの多色押出しにより形成されるのが好ましい(請求項2)。
【0010】
このようにすれば、前記被覆部により前記磁石部の外周を容易に被覆させることができるとともに、押出し時に磁石部と被覆部とをより確実に密着させることが可能となる。
【0011】
また本発明において、前記磁性粉が希土類磁石の粉末であるのが好ましい(請求項3)。
【0012】
このように、前記磁性粉として、従来のフェライト磁石等よりも磁性の強い希土類磁石を用いるようにすれば、前記磁石体を構成する磁性粉の分量を少なくしても同様の磁気効果を得ることが可能となる。従って、磁気効果を確保しつつ器具全体の大きさを小型化することができる。
【0013】
また、前記のように同様の磁気効果を確保しつつ磁性粉の分量を少なくすることができれば、磁気治療器具の磁気効果および大きさを従来と同等に保ちつつ前記磁石体のシリコーンゴムの割合を増加させることが可能となるため、磁石体の弾性を高めることが可能となり、器具全体としての可撓性を向上させることができる。
【0014】
また本発明において、前記被覆部の一端にシリコーンゴムにより形成される係止部と、前記被覆部の他端にシリコーンゴムにより形成されるとともに、前記係止部と着脱可能に係止される被係止部とを有し、当該被係止部が前記係止部に係止されることで、前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となるのが好ましい(請求項4)。
【0015】
このようにすれば、この磁気治療器具をネックレスやブレスレット等として利用することが可能となるので利便性が向上する。特に、前記被覆部に形成される係止部と被係止部とを被覆部と同様にシリコーンゴムで形成すれば、被覆部とこれら係止部および被係止部とを融合させることが可能となるので、係止部および被係止部を被覆部に容易に形成することができるとともに、これら係止部および被係止部が被覆部から脱落等してしまうのを抑制することが可能になる。
【0016】
前記のような磁気治療器具を製造する方法としては、前記磁石部を形成する前記シリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程とを含む方法を用いるのが好ましい(請求項5)。
【0017】
このような方法によれば、前記混練工程にて各混合物を十分に練り合わせることができるので、前記磁石部および被覆部の混合ばらつきを抑制して、前記磁性粉による磁気効果を身体等に均一に作用させることが可能となる。また、前記方法では、前記収納工程にて各混合物をそれぞれ第一押出機および第二押出機に収納し、前記押出し工程にて前記磁石部側混合物を押出すと同時にその周囲に前記被覆部側混合物を押出しており、前記被覆部側混合物により前記磁石部側混合物を容易に被覆することができる。さらに、前記加硫工程にて、押出された両混合物を同時に加硫しているので、前記磁石部側混合物中のシリコーンゴムと前記被覆部側混合物中のシリコーンゴムとを融合させることができ、これらの混合物により形成される磁石部と被覆部とを容易に一体化することができる。特に、本器具では、磁石部側混合物と被覆部側混合物とがいずれも同じシリコーンゴムを含んでいるため、各混合物をそれぞれ異なる条件で加硫することなく同時に加硫することができるの
で、作業の手間を削減することができるとともに設備を簡素化することが可能になる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、磁気作用を身体に均一に作用させることができるとともに皮膚への悪影響をより確実に抑制することのできる磁気治療器具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは、本発明に係る磁気治療器具を磁気ネックレスとして利用した場合について説明する。
【0020】
図1は本発明に係る磁気治療器具すなわち磁気ネックレスの正面図であり、図2はこの磁気ネックレスの断面図である。
【0021】
図1および図2に示すように、本磁気ネックレス1は、磁石部10と、被覆部20と、係止部22と被係止部26とを有している。
【0022】
前記磁石部10とは、身体に磁気を作用させるためものであり、直径が約3mmの長尺な部材である。この磁石部10は、シリコーンゴムと磁性粉との混合物の押出し成形により形成されており、シリコーンゴムの有する弾性により全体として可撓性を有している。前記磁性粉としては、比較的磁気の強い希土類磁石とフェライト磁石の混合磁石の磁性粉が用いられており、本磁石部10では、前記磁性粉と前記シリコーンゴムとの混合比がおおよそ7:3となるように構成されている。また、この磁石部10は着磁されており、図2に示すように、両磁極がそれぞれ外側に現れるように構成されている。
【0023】
前記被覆部20とは、前記磁石部10の外周をその全域にわたって覆い、この磁石部10に含まれる前記磁性粉が外部に漏洩しないようにするためのものである。この被覆部20は、約0.3mmの厚さを有する部材であり、シリコーンゴムの押出し成形により形成されている。そして、この被覆部20は、図1に示すように磁石部10を内部に包括した状態で容易に変形できるよう、十分な可撓性を有している。
【0024】
ここで、前記シリコーンゴムは、他の合成樹脂等に比べて生理的に安定しており、身体への悪影響が比較的小さいと言われている。そのため、前記のように被覆部20で磁石部10を覆うとともにこの被覆部20をシリコーンゴムで形成すれば、この磁気ネックレス1を肌に直接接触させる場合に、前記磁性粉が肌に付着するのを抑制することができるとともに肌への悪影響をより確実に抑制することができる。
【0025】
前記係止部22とは、後述する被係止部26を係止するためのものである。この係止部22は、前記被覆部20の一端にシリコーンゴムにより形成されている。また、この係止部22には、被覆部20側から外側に突出する係止突起24が設けられており、この係止突起24と後述する被係止部26に設けられた被係止孔28とが係合することで前記被係止部26がこの係止部22に係止されるようになっている。
【0026】
前記被係止部26とは、前記係止部22に係止されるものであり、前記被覆部20のうち前記係止部22と反対側の端部に設けられている。そして、この被係止部26には、前記係止突起24と着脱可能に係合する被係止孔28が形成されており、この被係止孔28と前記係止突起24とが係合することで被覆部20がリング状になる。
【0027】
以上のように構成された磁気ネックレス1は、前記係止突起24と被係止孔28との係合により身体の首周りに固定され、前記被覆部20が前記磁石部10を被覆した状態で撓
むことで、前記首周りの肌に密着する。そして、前記磁石部10からの磁気が身体に作用し、身体の血行促進等を行う。ここで、本磁気ネックレス1では、この磁石部10による磁力が50mT程度となるように構成されている。
【0028】
次に、本磁気ネックレス1の製造方法について図面を参照して説明する。図3はこの磁気ネックレスを押出し成形するための押出し成形装置の概略正面図であり、図4は図3の概略上面図であり、図5はこの押出し成形装置に用いられるダイスの概略断面図である。前記押出し成形装置には、第一混練機31と第二混練機32と、第一押出機41と第二押出機42と、加硫機50と、引取機60,61と、巻取機70とが設けられている。
【0029】
この押出し成形装置を用いた前記磁気ネックレス1の製造方法は以下の工程を含む。
【0030】
1)素練り工程
この工程は、前記磁石部10および前記被覆部20を形成するミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する工程である。この工程では、前記ミラブル型シリコーンゴムの生ゴムが、前記第一混練機31および第二混練機32にてローラにより繰り返し練られることで可塑化していく。
【0031】
2)混練工程
この工程は、前記可塑化されたミラブル型シリコーンゴムに他の材料を混練する工程である。この工程では、第一混練機31に前記ミラブル型シリコーンゴムと、前記希土類磁石の粉末と、前記フェライト磁石の粉末と、加硫剤である有機過酸化物等とが投入され、これらが均一になるように混ぜ合わされる。また、第二混練機32には、前記ミラブル型シリコーンゴムと、加硫剤である有機過酸化物等とが投入され、これらが均一になるように混ぜ合わされる。
【0032】
3)収納工程
この工程は、前記混練工程にて混練された各混合物をそれぞれ第一押出機41と第二押出機42とに収納する工程である。この工程では、前記第一混練機31で混練された磁石部側混合物が第一押出機41に収納され、前記第二混練機32で混練された被覆部側混合物が第二押出機42に収納される。
【0033】
4)押出工程
この工程は、前記第一押出機41および第二押出機42から各混合物を押出す工程である。ここで、この第一押出機41と第二押出機42とは、加硫機50の上方に設けられた連結部43にそれぞれ連結されており、この連結部43には、図5に示すようなダイス43aが設けられている。また、このダイス43aには、薄肉の板状部材で形成された鉛直に延びる筒状の内枠45と外枠44とが設けられており、この内枠45に前記第一押出機41の出口が連結され、この内枠45と外枠44とで囲まれた部分に前記第二押出機42の出口が連結されている。
【0034】
そして、この工程では、第一押出機41によりこの第一押出機41に収納された前記磁石部側混合物が前記内枠45の内側から下方に向けて押出され、これと同時に、第二押出機42によりこの第二押出機42に収納された前記被覆部側混合物が前記内枠45と外枠44とで囲まれた部分から下方に向けて押出される。このようにして、各混合物は、磁石部側混合物が被覆部側混合物に被覆された状態で加硫機50側に連続して押出される。
【0035】
5)加硫工程
この工程は、各押出機41,42から押出された混合物を加硫機50にて加硫する工程である。この工程では、前記被覆部側混合物により被覆された磁石部側混合物の周囲に大気圧下で約200℃程度の熱風を供給し、各混合物に含まれる前記ミラブル型シリコーンゴムを加硫して硬化させる。このとき、前記磁石部側混合物のシリコーンゴムと前記被覆部側混合物のシリコーンゴムとは互いに密着した状態で加硫されるため、磁石部10と被覆部20とは一体化された状態で硬化されることになる。このようにして、この加硫工程では、被覆部20と、この被覆部20により被覆された磁石部10とが一体となったひも状の磁性体1aが形成される。
【0036】
6)巻取り工程
この工程は、前記加硫機50から排出される前記磁石部10および被覆部20からなるひも状の磁性体1aを巻き取る工程である。この工程では、この磁性体1aが、ローラ部を有する引取機60,61により引っ張られるとともに、巻取機70により順次巻き取られていく。
【0037】
7)裁断工程
この工程は、前記巻取機70で巻き取られたひも状の磁性体1aを所定の長さに裁断する工程である。
【0038】
8)係止部分溶着工程
この工程は、前記所定の長さに裁断された磁性体1aの被覆部20に前記係止部22および被係止部26を溶着する工程である。この工程では、まず、被覆部20の一端が図6に示す被係止部側金型80に装着される。この被係止部側金型80は、図6に示すように、被係止部26の形状をかたどった凹部80aを有するものである。そして、別途成形されたミラブル型シリコーンゴムのシートがこの金型80に挟み込まれる。その後、この金型80に所定の圧力が加えられることで、このシートが被係止部26の形状に成形されるとともに、前記被覆部20の一端にシートが溶着される。前記係止部22も同様にして被覆部20の他端に形成され、これにより本磁気ネックレス1の外形が形成される。
【0039】
9)着磁工程
この工程では、前記被覆部20により被覆された磁石部10に高磁気を放射することで、前記磁石部10が着磁される。
【0040】
このようにして、磁石部10はその長手方向に沿って磁極が配列された磁石となり、この磁石部10により磁気が均一に身体に作用する磁気ネックレス1が形成される。
【0041】
以上のように、本磁気ネックレス1によれば、磁性粉が混合された磁石部10をシリコーンゴムにより形成された被覆部20により被覆しているので、前記磁性粉が肌等に付着したり皮膚を傷つけたりしてしまうのを抑制することができる。また、前記磁石部10をシリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成するとともに、前記被覆部20を同じシリコーンゴムにより形成しており、この磁石部10と被覆部20とを十分になじませることができるので、磁石部10から外部に発せられる磁気を容易に均一化することができ、磁気の管理が容易になるとともに、この磁気による血行促進作用を効果的に身体に作用させることができる。また、シリコーンゴムは生理的に安定している物質であるため、皮膚に与える悪影響をより確実に抑制することが可能となる。
【0042】
また、前記のように、磁石部10を形成する磁性粉として磁性の強い希土類磁石の粉末を用いれば、磁気効果を確保しつつ磁石部10中のシリコーンゴムの割合を増加させることが可能になり、磁気ネックレス1の可撓性を向上させることができる。その結果、肌に、より密着可能な磁気ネックレス1を構築することができる。また、前記シリコーンゴムの割合を増加させない場合では、所定の可撓性を確保しつつ磁気ネックレス1を小型化することが可能になる。
【0043】
また、前記のように、被覆部20にこの被覆部20と同様のシリコーンゴムにより形成される係止部22と、この係止部22に着脱可能に係止されるとともに前記シリコーンゴムにより形成される被係止部26とを設ければ、被覆部20とこれら係止部22および被係止部26とを融合させることが可能となり、これら係止部22等を被覆部20に容易に形成することができる。さらに、これら係止部22等が被覆部20から外れてしまうのを抑制することができる。
【0044】
また、前記磁気ネックレス1を製造する方法として、前記のような方法を用いれば、前記押出し工程にて前記磁石部側混合物が押出されると同時にその周囲に前記被覆部側混合物が押出されるため、前記被覆部20によって前記磁石部10を容易に被覆することができる。そして、前記加硫工程では、この押出された被覆部側混合物と磁石部側混合物とを同時に加硫しているので、前記磁石部側混合物中のシリコーンゴムと前記被覆部側混合物中のシリコーンゴムとを融合させることができ、これらの混合物により形成される前記磁石部10と被覆部20とを容易に一体化することができる。特に、この加硫工程では、磁石部側混合物と被覆部側混合物とに含まれるシリコーンゴムを加硫するだけで各混合物を硬化させることができる。すなわち、各混合物をそれぞれ異なる条件で加硫することなく同時に加硫することができるので、作業の手間を削減することができるとともに設備を簡素化することが可能になる。
【0045】
ここで、前記実施形態では、前記磁石部10を形成する磁性粉として、希土類磁石とフェライト磁石の混合磁石の磁性粉を用いた場合について示したが、これに限らず、例えばサマリウム鉄窒素系磁石等の磁性粉を用いてもよい。
【0046】
また、前記実施形態では、前記磁性粉とシリコーンゴムとの混合比を7:3とした場合について示したが、この比率に限らない。ただし、可撓性と磁力との兼ね合いから、この磁性粉とシリコーンゴムとの混合比は、5:5?9:1くらいとするのがよい。
【0047】
また、前記磁石部10の径および被覆部20の厚みは適宜変更可能である。
【0048】
また、本発明に係る磁気治療器具は、磁気ネックレス以外にも適宜利用可能である。
【0049】
また、前記被覆部20には塗料等を混入してもよい。
【0050】
また、前記実施形態では、被覆部20を一種類の混合物により形成した場合について示したが、色の異なる複数種類の混合物により形成してもよい。例えば、図7に示すように、内枠105と外枠104とに囲まれた部分に複数の仕切り板104aを設けたダイス103aを用いるとともに、前記第二押出機42にさらに複数の押出機を設けて、前記仕切り板104aで区切られた領域にそれぞれ異なる色の混合物を押出すようにしてもよい。この場合には、図8に示すように、被覆部20に色の異なる複数の被覆部20a,20bが形成されるような磁気ネックレス100を構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係る磁気ネックレス(磁気治療器具)の正面図である。
【図2】図1に示す磁気ネックレスの断面図である。
【図3】図1に示す磁気ネックレスを製造するための押出し成形装置の概略正面図である。
【図4】図3に示す押出し成形装置の概略上面図である。
【図5】図3に示す押出し成形装置に用いられるダイスの概略断面図である。
【図6】図1に示す磁気ネックレスに被係止部を形成する際の金型の概略断面図である。
【図7】図3に示す押出し成形装置に用いられるダイスの別の実施形態を示す概略断面図である。
【図8】図1に示す磁気ネックレスの他の実施形態を示す部分側面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 磁気ネックレス(磁気治療器具)
10 磁石部
20 被覆部
22 係止部
24 係止突起
26 被係止部
28 被係止孔
31 第一混練機
32 第二混練機
41 第一押出機
42 第二押出機
50 加硫機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部と
を備えたことを特徴とする磁気治療器具。
【請求項2】
請求項1に記載の磁気治療器具において、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとを多色押出した後、熱を加えて加硫することで形成されることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項3】
請求項1または2に記載の磁気治療器具において、
前記磁性粉が希土類磁石の粉末であることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載の磁気治療器具において、
前記被覆部の一端にシリコーンゴムにより形成される係止部と、
前記係止部に設けられる係止突起と、
前記被覆部の他端にシリコーンゴムにより形成されるとともに、前記係止部に設けられた係止突起と着脱可能に係止される被係止孔が設けられた被係止部とを有し、
当該被係止部が前記係止部に設けられた係止突起に係止されることで、前記被覆部が前記磁石体を被覆した状態でリング状となることを特徴とする磁気治療器具。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、
前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。
【請求項6】
リング状のネックレスやブレスレットに用いられて身体に血行促進作用を及ぼす磁気治療器具において、
所定の方向に延びて、シリコーンゴムと磁性粉との混合物により形成されるとともに着磁された可撓性を有する長尺な磁石部と、
シリコーンゴムにより形成されるとともに前記磁石部の外周をその全域にわたって被覆する可撓性を有する被覆部と
を備えたことを特徴とする磁気治療器具であって、
当該磁気治療器具が、前記磁石部を形成するシリコーンゴムと磁性粉との混合物と、前記被覆部を形成するシリコーンゴムとの多色押出しにより形成されることを特徴とする磁気治療器具を製造する方法であって、
ミラブル型シリコーンゴムを素練りして可塑化する素練り工程と、
前記磁石部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと前記磁性粉と加硫剤とを第一混練機にて混練するとともに、前記被覆部を形成する前記可塑化されたシリコーンゴムと加硫剤とを第二混練機にて混練する混練工程と、
前記混練されたシリコーンゴムと磁性粉と加硫剤との磁石部側混合物を第一押出機に収納するとともに、前記被覆部を形成する前記シリコーンゴムと加硫剤との被覆部側混合物を第二押出機に収納する収納工程と、
前記第一押出機から前記磁石部側混合物を押出すと同時に、前記第二押出機から前記被覆部側混合物を前記磁石部側混合物の周囲に押出す押出し工程と、
この押出された各混合物に熱を加えることで、これら混合物を加硫する加硫工程と
を含むことを特徴とする磁気治療器具製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-05-17 
結審通知日 2013-05-21 
審決日 2013-06-03 
出願番号 特願2007-14472(P2007-14472)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (A61N)
P 1 113・ 857- YAA (A61N)
P 1 113・ 856- YAA (A61N)
P 1 113・ 536- YAA (A61N)
P 1 113・ 121- YAA (A61N)
P 1 113・ 832- YAA (A61N)
P 1 113・ 851- YAA (A61N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮 寛之  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 松下 聡
横林 秀治郎
登録日 2012-03-09 
登録番号 特許第4944626号(P4944626)
発明の名称 磁気治療器具および磁気治療器具製造方法  
代理人 立花 顕治  
代理人 山田 威一郎  
代理人 山田 威一郎  
代理人 立花 顕治  
代理人 山田 威一郎  
代理人 八田国際特許業務法人  
代理人 立花 顕治  

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