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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1278014
審判番号 不服2010-17506  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-08-05 
確定日 2013-08-13 
事件の表示 特願2006-525094「血管性頭痛の予防のためのテルミサルタンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月17日国際公開、WO2005/023250、平成19年 3月 1日国内公表、特表2007-504193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年9月1日(パリ条約による優先権主張2003年9月5日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月9日付けで手続補正書が提出されたところ、同年3月31日付けで拒絶査定がなされ、同年8月5日に拒絶査定不服審判が請求された。
上記手続補正書により補正された本願に係る発明に対し、当審が平成24年11月16日付けで拒絶理由を通知したところ、平成25年2月19日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願請求項1?4に係る発明は、平成25年2月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「【請求項1】
治療上有効量のテルミサルタンを含む、偏頭痛の予防のための医薬組成物。」

第3 当審の判断
平成24年11月16日付け拒絶理由通知書に示した拒絶理由1(請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない)は、以下のとおり、解消していない。

1 刊行物の記載
上記拒絶理由1において引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、以下の引用例1及び2には、それぞれ次の事項が記載されている。
なお、引用例1及び2はいずれも英文であるため、訳文を示すとともに、下線を当審で付した。

(1) 引用例1(Erling Tronvik, et al., JAMA, 2003, 289(1), pp.65-69)
ア 「アンギオテンシンII受容体阻害剤による偏頭痛の予防のための処置 無作為化比較試験」(題名)

イ 「背景 偏頭痛の予防に使用できる効果的で耐容性良好な薬剤が不足している。
目的 アンギオテンシンII受容体阻害剤カンデサルタンによる処置が、偏頭痛予防のための薬剤として効果的であるかを決定するため。
計画及び状況 無作為化、二重盲検、プラシーボ対照による交差研究が、ノルウェーの外来患者向けの診療所で2001年1月から2002年2月に行われた。
患者 一月に2?6回の偏頭痛発作がある18歳から65歳までの60名の患者が、主に新聞広告により募集された。
治療介入 4週間のプラシーボ導入期間に続き、4週間のプラシーボ洗い出し期間で区切られた、2回の12週処置期間があった。30名の患者は無作為に,毎日1錠の16mgのカンデサルタンシレキセチルが与えられる第一の処置期間、それに続く毎日1錠のプラシーボ錠剤が与えられる第二の処置期間が割り当てられた。残る30名の患者はプラシーボ、続いてカンデサルタンが与えられた。
主な結果判定法 主要エンドポイントは頭痛を伴う日数であった。二次的なエンドポイントは、短い形式の36のアンケートによる、頭痛を伴う時間、偏頭痛を伴う日数、偏頭痛を伴う時間、頭痛の深刻度指数、障害のレベル、トリプタンの投与、鎮痛剤の投与、処置の需要性、病気休暇の日数、及び生活の質の変化を含む。
結果 intention-to-treat分析(n=57)で、12週の期間の平均頭痛日数は、プラシーボの場合が18.5日、対するカンデサルタンの場合が13.6日(P=.001)であった。頭痛を伴う時間(139対95;P<.001)、偏頭痛を伴う日数(12.6対9.0;P<.001)、偏頭痛を伴う時間(92.2対59.4;P<.001)、頭痛の深刻度指数(293対191;P<.001)、障害のレベル(20.6対14.1;P<.001)、及び病気休暇の日数(3.9対1.4;P=.01)を含む、いくつかの二次的なエンドポイントもカンデサルタンを支持したが、健康関連の生活の質では有意差が無かった。カンデサルタン応答者(プラシーボと比べて50%以上低減する)の数は、頭痛を伴う日数では57名中の18名(31.6%)、偏頭痛を伴う日数では57名中の23名(40.4%)であった。有害事象は2つの期間で類似していた。
結論 この研究で、アンギオテンシンII受容体阻害剤カンデサルタンが効果的な偏頭痛の予防を、プラシーボの場合と比較して耐容性のプロファイルとともにもたらした。」(65頁右上欄)

ウ 「アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤リシノプリルは頻発する偏頭痛発作の予防のための処置に有用であることが知られていた^(4)。アンギオテンシンII受容体阻害剤は、受容体においてアンギオテンシンIIを直接阻害することにより、ACE及び非ACE経路の両方で産生されるアンギオテンシンIIの作用を阻害し、レニン-アンギオテンシン系を特異的に阻害する。アンギオテンシンII受容体阻害剤はブラジキニン、サブスタンスP、又はタキキニンの代謝を妨げないので、ACE阻害剤に関連する、せき^(5)、血管神経性浮腫^(6)のような、よくある潜在的な有害事象は大きく減少する。
カンデサルタンは長時間作用型のアンギオテンシンIIタイプ1(AT_(1))受容体阻害剤で、AT_(1)受容体と高い親和性を有する。臨床研究において、この物質はプラシーボにおける場合と類似した有害作用プロファイルを有する^(7)。ACE阻害剤リシノプリルの偏頭痛予防効果がアンギオテンシンIIのレベル低下能力と関連するのであれば、アンギオテンシンII受容体阻害剤は理論的には偏頭痛に対して同等またはより優れた効果を有し得る。他の条件で処置されたが頭痛が記録される12000名の患者が参加した、最近発行されたメタ分析は、プラシーボを服用する患者と比較して、アンギオテンシンII阻害剤を服用する患者では頭痛のリスクが1/3低いことを示していた^(8)。しかし、特定の頭痛条件を有する患者における無作為試験は効果を証明するために必要とされる。
本研究の目的は、無作為、二重盲験、プラシーボ対照による交差研究を用いた、偏頭痛予防物質としてのカンデサルタンの使用の調査であった。」(65頁左欄下から4行?66頁中欄12行)

(2) 引用例2(Mahyar Etminan, et al., Am. J. Med., 2002, 112, pp.642-646)
ア 「これらの27の研究がメタ分析に含まれ(……)(図)、カンデサルタン(n=1508)、エプロサルタン(n=695)、イルベサルタン(n=2843)、ロサルタン(n=1429)、タソサルタン(n=2090)、テルミサルタン(n=522)、又はバルサルタン(n=3023)で処置された12110名の患者が評価された(表)。プラシーボを服用する患者と比較して、アンギオテンシンII阻害剤を服用する患者では、頭痛のリスクは及び1/3低い(……)。ロサルタンの単位投与ごとでの頭痛を有する可能性の程度は0.81であった(……)。」(643頁左欄下から12行?最下行)

イ 表(「アンギオテンシンII受容体阻害剤の無作為比較試験の研究の特徴」と題するもので、研究の名称、事例数、薬物、研究期間(週)、及び頭痛防止のための相対リスク(95%信頼区間)が一覧表でまとめられている。薬物として、カンデサルタン、エプロサルタン、ロサルタン、イルベサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、およびタソサルタンが記載される。)(644頁上欄)

ウ 「結論として、メタ分析の結果は、アンギオテンシンII受容体阻害剤は頭痛の頻度を低下させること、そして、その他の心臓血管薬は偏頭痛の予防に効果があることを示す。それでもなお、偏頭痛を伴う患者における、アンギオテンシンII受容体阻害剤の無作為化プラシーボ対照試験が必要とされる。」(644頁右欄1?6行)

2 引用例1発明の認定、対比
引用例1の上記1(1)、特に摘示事項ア及びイの記載によれば、カンデサルタンは偏頭痛の予防に効果を有する化合物であって、錠剤、すなわち医薬組成物の形態で投与されたことが認められるから、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「カンデサルタンを含む、偏頭痛の予防のための医薬組成物。」

そして、引用発明において、偏頭痛の予防のための処置に用いられたカンデサルタンは、治療上有効量で医薬組成物の形態により用いられたものといえる。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両発明は、
「治療上有効量の化合物を含む、偏頭痛の予防のための医薬組成物。」
である点で一致するが、以下の点で相違する。
<相違点>
本願発明では、化合物がテルミサルタンであるのに対し、引用発明では、化合物がカンデサルタンである点。

3 相違点についての判断
上記相違点について、以下、検討する。
(1) 上記1(1)の摘示事項ウによれば、アンギオテンシンII阻害剤であるカンデサルタンは、具体的には長時間作用型のアンギオテンシンIIタイプ1(AT_(1))受容体阻害剤であって、AT_(1)受容体と高い親和性を有するものであることが認められる。また、摘示事項イ及びウによれば、偏頭痛予防効果が知られていたACE阻害剤リシノプリルの効果がアンギオテンシンIIのレベル低下に関連するのであれば、アンギオテンシンII受容体阻害剤は理論的には偏頭痛に対して同等又はより優れた効果を奏するとの仮説のもと、偏頭痛予防物質としてカンデサルタンの使用について調査したところ、カンデサルタンが偏頭痛予防効果をもたらしたことが確認されたものと認められるから、引用例1には、アンギオテンシンII受容体の阻害による偏頭痛予防が示唆されているといえる。

(2) 上記1(2)の摘示事項ア及びイによれば、カンデサルタン及びテルミサルタンを含むアンギオテンシンII受容体阻害剤について分析が行われ、プラシーボを服用する患者と比較して、アンギオテンシンII阻害剤を服用する患者では頭痛のリスクが1/3低かったことが認められ、また、摘示事項ウによれば、アンギオテンシンII受容体阻害剤が頭痛の頻度を低下させたと結論づけられたことが認められる。

(3) テルミサルタンがカンデサルタンと同様、長時間作用型のアンギオテンシンIIタイプ1(AT_(1))受容体阻害剤で、AT_(1)受容体と高い親和性を有することは、本願優先日において当業者に周知の事項であったといえる(例えば、桑島巌,日病薬誌,2003,39(8),pp.1021-1025、野口盛一ら,Bio Clinica,2003,18(5),pp.433-437、Wolfgang Wienen, et al., Cardiovascular Drug Reviews, 2000, , pp.127-154を参照。)。

(4) そうすると、引用例1にはカンデサルタンを用いた試験結果に基づき、アンギオテンシンII受容体の阻害による偏頭痛予防が示唆されているといえ、また、引用例2には、テルミサルタンがカンデサルタンと並んでアンギオテンシンII受容体阻害剤であり、アンギオテンシンII受容体阻害剤が頭痛の頻度を低下させたと結論づけられており、さらに、テルミサルタンとカンデサルタンとは、ともに長時間作用型のAT_(1)受容体阻害剤であることが当業者に周知の事項といえるから、偏頭痛予防効果を期待して、引用発明のカンデサルタンにかえて、テルミサルタンを治療上有効量で偏頭痛の予防のための医薬組成物に含ませることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、発明の詳細な説明には、本願発明に効果に関する具体的な記載は一切なく、上記相違点を有することにより、本願発明が引用発明からみて格別優れた作用を奏するとも認められない。
なお、平成25年2月19日付け意見書において、請求人は上記拒絶理由1とは別の拒絶理由に対する反論として、平成22年2月9日付け意見書に添付した参考資料1(HD Diener, et al., Cephalalgia, 2009, 29, pp.921-927)によりテルミサルタンが偏頭痛の予防効果を奏することが実験的に裏付けられていると主張している。
しかし、参考資料1は、その題名からみてテルミサルタンによる偏頭痛の予防に関する、無作為化プラシーボ比較試験に関するものであるところ、結論として、テルミサルタンは12週の処置期間において、統計的に有意な偏頭痛の日数の減少という結果をもたらさなかったと記載されている(925頁左欄下から8行?下から4行)のであって、この結果は、引用例1及び2の記載に基づいて当業者が予測しうる程度のものである。

4 請求人の主張について
(1) 請求人は、平成25年2月19日付け意見書において、当審が示した上記拒絶理由1について、
(i)引用例2は、テルミサルタンについては2つの試験で触れているだけであるが、これらの結果は、「頭痛の相対リスク」があるとされており、本発明と矛盾し、また、
(ii)2つの試験に動員された患者の数は、引用例2で挙げられた他のアンギオテンシンII受容体阻害剤の場合と比べて少ないから、
引用例2はカンデサルタンに代えてテルミサルタンを使用することを示唆するものではないことは明白である旨を主張する。

(2) しかしながら、引用例2には、「頭痛の相対リスク」について、研究の名称が「Neutel(36)」であるものでは、テルミサルタンの「頭痛の相対リスク」が「0.08(0.01-0.91)」と顕著に低くなっており(引用例2の表)、テルミサルタンが頭痛の防止に効果を奏する場合のあることが示されているから、本願発明と矛盾するわけではない。
また、テルミサルタンを用いた試験に動員された患者の数が他のアンギオテンシンII受容体阻害剤に比べて少ないとしても、示された試験結果は数百人という多数の患者から得られた結果に基づくものであり、そのような試験を統計的に排除すべき事情が示されているわけでもない。
そうすると、請求人の上記主張(i)及び(ii)は、いずれも採用することができない。

5 小括
したがって、本願発明は、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用例1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-18 
審決日 2013-03-29 
出願番号 特願2006-525094(P2006-525094)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 熊谷 祥平  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 荒木 英則
大久保 元浩
発明の名称 血管性頭痛の予防のためのテルミサルタンの使用  
代理人 浅井 賢治  
代理人 小川 信夫  
代理人 箱田 篤  
代理人 熊倉 禎男  

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