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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278094
審判番号 不服2012-9445  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-22 
確定日 2013-08-14 
事件の表示 特願2004-235910「半導体装置のキャパシタおよびそれを備えるメモリ装置」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 3月10日出願公開、特開2005- 64522〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成16年8月13日(パリ条約による優先権主張2003年8月13日、大韓民国)の出願であって、平成23年1月7日付けの拒絶理由通知に対して、同年6月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年1月19日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月22日に拒絶査定を不服とする審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年7月24日付けの審尋に対して、同年10月30日に回答書が提出されたものである。


第2.補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年5月22日に提出された手続補正書によりなされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、その内容は以下のとおりである。

〈補正事項1〉
本件補正前の請求項1の「これら第1?第3バンドギャップは互いに異なる大きさである」との発明特定事項を、「これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」と補正する。

〈補正事項2〉
本件補正前の請求項10の「これら第1?第3バンドギャップは互いに異なる大きさである」との発明特定事項を、「これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」と補正する。

2.新規事項の有無
補正事項1及び2は、本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0024】の「この時、前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップおよび前記第3バンドギャップより小さいことが望ましい。」との記載、及び、同段落【0042】の「前記説明で多くの事項が具体的に記載されているが、それらは発明の範囲を限定するものというよりは望ましい実施形態の例示として解釈されねばならない。例えば、本発明が属する技術分野の当業者ならば、第1誘電膜42および第3誘電膜46を、バンドギャップが第2誘電膜44のバンドギャップよりは大きいが、相異なるバンドギャップを持つ誘電膜に代替可能であることが理解できる。」との記載に基づいていると認められるから、補正事項1及び2は本願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
したがって、本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

3.補正目的の適否
特許請求の範囲についてする補正である補正事項1?5の補正目的について検討する。
(1)補正事項1について
補正事項1は、本件補正前の「これら第1?第3バンドギャップは互いに異なる大きさである」との発明特定事項を、「これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」ことに限定するものである。
したがって、補正事項1は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2)補正事項2について
補正事項1と同じ理由により、補正事項2は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(3)補正目的の適否のまとめ
以上から、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たす。

4.独立特許要件
以上のとおり、本件補正は、前記特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで、次に、本件補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものかどうかを、その請求項1に係る発明について検討する。

(1)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、平成24年5月22日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、次のとおりのものである。

「下部電極と、
前記下部電極の上に形成された複数のバンドギャップを持つ誘電膜と、
前記誘電膜の上に形成された上部電極と、を含み、
前記誘電膜は、
前記下部電極の上に形成された、第1バンドギャップを持つ第1誘電膜と、
前記第1誘電膜の上に形成された、第2バンドギャップを持つ第2誘電膜と、
前記第2誘電膜の上に形成された、第3バンドギャップを持つ第3誘電膜と、を含み、
これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される、ことを特徴とする半導体装置のキャパシタ。」

(2)引用例の記載と引用発明
(2-1)引用例1の記載
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に国内で頒布された刊行物である、特開平05-013706号公報(以下「引用例1」という。)には、「半導体装置」(発明の名称)に関して、図1?4とともに、次の記載がある(下線は、参考のため、当審において付したもの。以下、他の刊行物についても同様である。)。

ア 産業上の利用分野
a.「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、半導体装置に係り、特にDRAM等におけるキャパシタ構造に関する。」

イ 発明の背景
b.「【0002】
【従来の技術】半導体装置の1つに、キャパシタとトランジスタとを組み合わせて情報の記憶動作を行うDRAM(Dynamic Random Access read write Memory )がある。
……(中略)……
【0004】しかしながら、今後のより一層のキャパシタ占有面積の微細化に伴うキャパシタの大容量化に対応するにはさらに誘電率の大きい材料を用いる必要がある。このような要請から、誘電率が酸化シリコン膜に比べて約7倍程度も大きい材料である酸化タンタル膜を絶縁膜として用いることが検討されている。
……(中略)……
【0006】例えば、酸化タンタルのバンドギャップは約4.7eVと小さいため、リーク電流が大きいことが問題となっており、このようなリーク電流を抑制するために、例えば下地シリコンと酸化タンタルとの界面に、よりバンドギャップの大きい酸化シリコン膜や窒化シリコン膜を設ける方法が提案されている。
【0007】しかしながら、膜厚の制限があるなかで、誘電率の小さい酸化シリコンや窒化シリコンを介在させるということは、その分、キャパシタ容量の低下を招くことになってしまう。
【0008】このように、十分なキャパシタ容量を確保しつつリーク電流の抑制をはかることは極めて困難な問題となっている。」

c.「【0010】本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、占有面積の縮小化にもかかわらず、十分なキャパシタ容量を確保することができ、信頼性の高いキャパシタを提供することを目的とする。」

ウ 課題を解決するための手段
d.「【0011】
【課題を解決するための手段】そこで本発明は、第1の電極と、2の電極と、これらの電極間に挟持されたキャパシタ絶縁膜とを備えたキャパシタを具備した半導体装置において、前記キャパシタ絶縁膜が、異なる禁制帯幅を有する2種類以上の金属酸化膜の積層体で構成されていることを特徴とする半導体装置を提供する。
【0012】また、本発明は、第1の電極と、2の電極と、これらの電極間に挟持されたキャパシタ絶縁膜とを備えたキャパシタを具備した半導体装置において、前記キャパシタ絶縁膜が、第1の金属酸化膜とこの第1の金属酸化膜の両側に形成された第2の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きいことを特徴とする半導体装置を提供する。」

e.「【0013】
【作用】上記構成によれば、金属酸化膜をキャパシタ絶縁膜として用いたキャパシタにおいて、リーク電流を抑制することが可能となる。
……(中略)……
【0015】これは、以下に示すような作用による。
【0016】一般に、高い誘電率を有する物質ほど禁制帯幅は小さくなる。そして禁制帯幅が小さくなるほど、電圧印加時に大きなリーク電流が流れ、絶縁体としての性能が低下することになる。
【0017】これは、電極すなわち導電体と絶縁膜との間のエネルギ-障壁高さが小さくなることによる。
【0018】しかしながら、電荷を保持することを目的としたキャパシタの場合には、絶縁性に優れると同時に高容量である必要がある。従って絶縁膜の材質としては誘電率の高い材料を用い、しかも膜厚はできるだけ薄くするのが望ましい。
【0019】このような要請を満たすためには、導電体と絶縁膜との間のエネルギ-障壁高さを大きくとりながら膜全体としては誘電率が大きいという相矛盾した要請を満たす必要がある。
【0020】このような要請に基づいて、酸化タンタル膜と酸化チタン膜の場合について考えてみる。
【0021】酸化タンタル膜と酸化チタン膜の禁制帯幅はそれぞれ約4.6eV,3eVである。一方、誘電率(比誘電率)はそれぞれ約28,80である。
【0022】このように酸化タンタル膜に比べて酸化チタン膜は、禁制帯幅は小さいものの誘電率ははるかに大きい。従って、キャパシタ絶縁膜をこれら酸化タンタル膜と酸化チタン膜との積層構造にして、電極側、特に電荷が注入される側に禁制帯幅の大きい酸化タンタル膜を配することによってリーク電流を抑制する一方、誘電率の大きい酸化チタンを積層することによって膜全体としての平均的な誘電率を高めることができる。」

f.「【0023】望ましくは、禁制帯幅の小さい金属酸化物膜の両側を禁制帯幅の大きい金属酸化物膜で挟むようにすれば、リーク電流を抑制する一方、誘電率の大きい金属酸化物膜を積層することによって膜全体としての平均的な誘電率を高めることができる。
【0024】このようにして、高いキャパシタ容量を有しかつ、電荷保持能力の高いキャパシタを得ることができる。」

エ 実施例
g.「【0029】こののち、図1 (c)に示すように、全面に膜厚80nmの第2のn+ 多結晶シリコン膜8を堆積した後、フォトリソ法および化学的ドライエッチング法(等方性エッチング)により、パターニングし、さらにこの上層にチタンシリサイド膜9を例えば20?30nm形成し、さらにその上にCVD法により選択的に膜厚100nmの第1のタングステン膜10からなるキャパシタ下部電極を形成する。この後、CVD法によりキャパシタ絶縁膜となる第1の酸化タンタル膜11を例えば5nmの膜厚で,酸化チタン膜12を例えば膜厚15nmで,第2の酸化タンタル膜13を例えば膜厚5nmで順次形成する。
【0030】そして最後に、図1(d) に示すように、キャパシタ上部電極として膜厚100nmの第2のタングステン膜14を全面に形成した後、通常の写真食刻法を用いてパターニングし、メモリセルを形成する。
……(中略)……
【0032】これらの比較からも、本発明実施例のDRAMはリークが大幅に低減されていることがわかる。
【0033】図3(a) および(b) は本発明実施例のキャパシタ絶縁膜と従来例のキャパシタ絶縁膜のバンド構造の比較図である。
【0034】このようにして形成されたDRAMによれば、キャパシタが、リーク電流が少なく、キャパシタ容量が大きく、電荷保持量の大きいもので構成されているため、誤動作が少なく信頼性の高いDRAMを得ることができる。」

h.「【0036】また、図4に示すように、前記実施例における多結晶シリコン膜8の上に直接、キャパシタ絶縁膜として酸化ジルコニウム(ZrO_(2) )膜21-酸化チタン膜22-酸化ジルコニウム膜23の3層構造膜を形成し、上部電極として多結晶シリコン膜24を用いるようにしてもよい。また、下部電極としては多結晶シリコンを用い、上部電極としてはタングステン膜等の金属膜を用いても良い。さらに酸化ジルコニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜、酸化ハフニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜、酸化ハフニウム膜-酸化チタン膜-酸化ジルコニウム膜の3層構造膜等も有効である。また、キャパシタの上部電極および下部電極としては、タングステン膜を用いたが、必ずしもこれらに限定されるものではなく、金属あるいは金属合金等、本発明の条件を満たす範囲内で適宜変更可能である。
【0037】さらにまた、前記実施例では、キャパシタ絶縁膜として酸化タンタル膜/酸化チタン膜/酸化タンタル膜の3層膜を用いたが、2層膜あるいは4層以上の積層膜を用いてもよい。さらに、キャパシタ絶縁膜の材料としても、酸化タンタルと酸化チタンとの組み合わせに限定されることなく、酸化タンタル膜(TaO_(2) )とチタン酸ストロンチウム膜(SrTiO_(3) ),イットリウム酸化膜(Y_(2) O_(3) )とチタン酸鉛(PbTiO_(3) )などの組み合わせ、など、適宜選択可能である。 加えてこれらの実施例では、積層キャパシタ構造のDRAMについて説明したが、トレンチ構造のDRAMに対しても適用可能であることはいうまでもない」

(2-2)引用発明
前記「(2-1)引用例1の記載」のa?hの記載を総合すれば、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「キャパシタ下部電極と、
キャパシタ上部電極と、
前記キャパシタ下部電極と前記キャパシタ上部電極との間に挟持され、異なる禁制帯幅を有する2種類以上の金属酸化膜の積層体で構成されているキャパシタ絶縁膜と、を備え、
前記キャパシタ絶縁膜は、
第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きくすることで、
リーク電流を抑制する一方で、前記キャパシタ絶縁膜全体としての平均的な誘電率を高めたことを特徴とするDRAMにおけるキャパシタ。」

(3)対比
(3-1)補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「キャパシタ下部電極」は、補正発明の「下部電極」に相当する。
引用発明においては、前記「キャパシタ下部電極」、「前記キャパシタ下部電極と前記キャパシタ上部電極との間に挟持され、異なる禁制帯幅を有する2種類以上の金属酸化膜の積層体で構成されているキャパシタ絶縁膜」及び「キャパシタ上部電極」の順番で積層されている。そして、引用発明の「禁制帯幅」が、補正発明の「バンドギャップ」に相当する。また、引用発明の「金属酸化膜」が誘電膜であることは、自明である。
したがって、引用発明の「前記キャパシタ下部電極と前記キャパシタ上部電極との間に挟持され、異なる禁制帯幅を有する2種類以上の金属酸化膜の積層体で構成されているキャパシタ絶縁膜」及び「キャパシタ上部電極」は、それぞれ、補正発明の「前記下部電極の上に形成された複数のバンドギャップを持つ誘電膜」及び「前記誘電膜の上に形成された上部電極」に相当する。

イ 引用発明の「前記キャパシタ絶縁膜」は、「第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体から」なり、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大き」いものである。
してみれば、引用発明の「前記キャパシタ絶縁膜」は、「第2の金属酸化膜」、「第1の金属酸化膜」、「第3の金属酸化膜」の順番で「積層」されていると解されるとともに、前記「第2の金属酸化膜」、前記「第1の金属酸化膜」、前記「第3の金属酸化膜」は、それぞれ、所定の「禁制帯幅」を有していると認められる。そして、引用発明の「禁制帯幅」が、補正発明の「バンドギャップ」に相当することは、技術常識である。
そうすると、引用発明の「第2の金属酸化膜」は、「キャパシタ下部電極」の上に「積層」されているから、補正発明の「前記下部電極の上に形成された、第1バンドギャップを持つ第1誘電膜」に相当する。
また、引用発明の「第1の金属酸化膜」は、補正発明の「前記第1誘電膜の上に形成された、第2バンドギャップを持つ第2誘電膜」に相当する。
そして、引用発明の「第3の金属酸化膜」は、補正発明の「前記第2誘電膜の上に形成された、第3バンドギャップを持つ第3誘電膜」に相当する。

ウ 引用発明の「キャパシタ」は「リーク電流を抑制」しているが、この「リーク電流」は、引用発明の「キャパシタ絶縁膜」の「リーク電流」を指すことは、「(2-1)引用例1の記載」における「ウ 課題を解決するための手段」の「e」で摘記した「キャパシタ絶縁膜をこれら酸化タンタル膜と酸化チタン膜との積層構造にして、電極側、特に電荷が注入される側に禁制帯幅の大きい酸化タンタル膜を配することによってリーク電流を抑制する」との記載から明らかである。
そして、引用発明は、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きくする」ことで「リーク電流を抑制する一方で、前記キャパシタ絶縁膜全体としての平均的な誘電率を高め」ている。すなわち、引用発明が、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅」を「前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きく」したのは、前記「キャパシタ絶縁膜」の「リーク電流を抑制」するとともに、「前記キャパシタ絶縁膜全体としての平均的な誘電率を高め」るためである。
したがって、引用発明において、前記「第2の金属酸化膜」、「第1の金属酸化膜」、「第3の金属酸化膜」それぞれの前記所定の「禁制帯幅」を、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きくする」ことで「リーク電流を抑制する」ことと、補正発明の「これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」こととは、これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される点で共通する。

エ そして、引用発明の「DRAM」は、補正発明の「半導体装置」に相当する。

(3-2)一致点及び相違点
そうすると、補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「下部電極と、
前記下部電極の上に形成された複数のバンドギャップを持つ誘電膜と、
前記誘電膜の上に形成された上部電極と、を含み、
前記誘電膜は、
前記下部電極の上に形成された、第1バンドギャップを持つ第1誘電膜と、
前記第1誘電膜の上に形成された、第2バンドギャップを持つ第2誘電膜と、
前記第2誘電膜の上に形成された、第3バンドギャップを持つ第3誘電膜と、を含み、
これら第1?第3バンドギャップは、前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される、ことを特徴とする半導体装置のキャパシタ。」

《相違点》
補正発明の「第1?第3バンドギャップ」が「互いに異なる大きさである」のに対して、引用発明は、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大き」いものの、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅」が異なる大きさであるかどうかは不明である点。

(4)相違点についての判断
ア 引用例1には、「(2-1)引用例1の記載」における「エ 実施例」の「g」で摘記したように、「第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きく」した「キャパシタ絶縁膜」として、「第1の酸化タンタル膜11」、「酸化チタン膜12」及び「第2の酸化タンタル膜13」を積層したものが、最初の「実施例」として示されている。
しかしながら、引用例1には、前記「エ 実施例」の「h」で摘記したように、キャパシタ絶縁膜として「酸化ジルコニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜、酸化ハフニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜、酸化ハフニウム膜-酸化チタン膜-酸化ジルコニウム膜の3層構造膜等も有効である。」とも記載されている。

イ してみれば、引用発明の「第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きく」した「キャパシタ絶縁膜」として、前記のように「有効である」と記載されたものの中から、前記「酸化ジルコニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜」ないし「酸化ハフニウム膜-酸化チタン膜-酸化ジルコニウム膜の3層構造膜」を選択することは、引用例1に接した者であれば、当然、適宜になし得たものと認められる。

ウ ここで、「第1の金属酸化膜」である前記「酸化チタン膜」が、3eVのバンドギャップを持つ膜であることは、前記「(2-1)引用例1の記載」における「ウ 課題を解決するための手段」の「e」で、「酸化タンタル膜と酸化チタン膜の禁制帯幅はそれぞれ約4.6eV,3eVである。」と摘記したとおりである。
一方、「第2」ないし「第3」の「金属酸化膜」である前記「酸化ハフニウム膜」が、5.68eVのバンドギャップを持つ膜であることは、以下の周知例1に記載されるように、周知の事項である。
また、「第2」ないし「第3」の「金属酸化膜」である前記「酸化ジルコニウム膜」が、実験データから決定される値では、5.78?7.09eVのバンドギャップを持つ膜であることも、以下の周知例2に記載されるように、周知の事項である。

エ してみれば、引用発明の「第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きく」した「キャパシタ絶縁膜」において、「第1の金属酸化膜」として「酸化チタン膜」を選択し、「第2及び第3の金属酸化膜」の一方に「酸化ハフニウム膜」を選択し、他方に「酸化ジルコニウム膜」を選択することで、「前記第2及び第3の金属酸化膜」及び「第1の金属酸化膜」の「禁制帯幅」を互いに異なるものとすることは、引用例1に接した当業者であれば、適宜になし得たものと認められる。

オ 周知例1:B.H.Lee et al.,“Thermal stability and electrical characteristics of ultrathin hafnium oxide gate dielectric reoxidized with rapid thermal annealing”,Applied Physics Letters,American Institute of Physics,2000.04.03,Vol.76,No.14,pp.1926?1928

a.“Thus, HfO_(2) and ZrO_(2) are attractive since they are thermodynamically stable in contact with Si. HfO_(2), especially,has many desirable properties such as high dielectric constant (?30), high heat of formation ( 271 kcal/mol)^(3) and relatively large band gap (5.68 eV).^(4)”(第1926頁左欄第18?22行、訳:したがって、HfO_(2) やZrO_(2) は、シリコンとのコンタクトが熱力学的に安定であるため、魅力的である。特に、HfO_(2) は、高誘電率(?30)、高モル熱量(271 kcal/mol)、比較的に大きいバンドギャップ(5.68 eV)という、多くの望ましい性質を有している。)

カ 周知例2:R.H.French et al.,“Experimental and theoretical determination of the electronic structure and optical properties of three phases of ZrO_(2)”,Physical Review B,The American Physical Society,1994.02.15,Vol.49,No.8,pp.5133?5142

a.“TABLE III. Direct band-gap energy (eV) of ZrO_(2) determined from experimental and theoretical data.”(第5136頁右欄のTABLE IIIの表題、訳:表3 実験データ及び理論上のデータから決定されるZrO_(2)のバンドギャップ値)

b.TABLE IIIの、2行目には実験データから決定されるバンドギャップの値として、6.1、5.78、5.83の値が記載され、3行目には実験データから決定されるバンドギャップの値として、7.08、6.62、7.09の値が記載されている、

(5)回答書の主張について
ア なお、審判請求人は、平成24年10月30日に提出した回答書において、
a.「当該引用文献1には、本願発明に示される『第1?第3バンドギャップは、誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、第2バンドギャップが第1及び第3バンドギャップより小さく設定される』との考え方は特に示されていない、と思量致します。」、
b.「(偶然に)本願発明に一致する構成があるかも知れませんが、この引用文献1には上記以外に種々の積層体が例示されています。」、
c.「数ある積層体の中から、誘電膜の漏れ電流を抑制するという目的のために、特に、『第1?第3バンドギャップは、互いに異なる大きさであるとともに、第2バンドギャップが第1及び第3バンドギャップより小さく設定される』という構成条件を見い出し、かつ特定したものが本願発明であります。」、
と主張している。

イ 前記aの主張のとおり、引用例1には、前記「第1?第3バンドギャップは、誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、第2バンドギャップが第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」との考え方を示す、明示の記載はない。
しかしながら、引用例1に接した当業者であれば、前記「第1?第3バンドギャップは、誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、第2バンドギャップが第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」ことを、適宜なし得たことは、前記「(4)相違点についての判断」で指摘したとおりである。
したがって、前記a、bの主張は、当を得ていない。

ウ ところで、本願明細書には、段落【0024】には「第1誘電膜42は第1バンドギャップを持ち、第2誘電膜44は第2バンドギャップを持ち、第3誘電膜46は第3バンドギャップを持つ。この時、前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップおよび前記第3バンドギャップより小さいことが望ましい。そして、前記第1および第3バンドギャップは、同一であることが望ましい。」と記載され、段落【0042】に「前記説明で多くの事項が具体的に記載されているが、それらは発明の範囲を限定するものというよりは望ましい実施形態の例示として解釈されねばならない。例えば、本発明が属する技術分野の当業者ならば、第1誘電膜42および第3誘電膜46を、バンドギャップが第2誘電膜44のバンドギャップよりは大きいが、相異なるバンドギャップを持つ誘電膜に代替可能であることが理解できる。」と記載されている。
すなわち、「前記第2バンドギャップは、前記第1バンドギャップおよび前記第3バンドギャップより小さい」という条件を満たすことが、先ず「望ましい」のであって、その条件の中では、「前記第1および第3バンドギャップは、同一であることが望ましい」ことが本願明細書には記載されている。しかし、後者の「望ましい」条件である「前記第1および第3バンドギャップは、同一であること」が何故「望ましい」のかは、本願明細書には記載されていない。
そして、それぞれ「前記第1および第3バンドギャップ」を持つ「第1誘電膜42および第3誘電膜46」は、上記のように「前記第1および第3バンドギャップは、同一であることが望ましい」ものの、「バンドギャップが第2誘電膜44のバンドギャップよりは大きいが、相異なるバンドギャップを持つ誘電膜に代替可能である」ことが、本願明細書には記載されている。

エ したがって、「数ある積層体の中から、誘電膜の漏れ電流を抑制するという目的のために、特に、「第1?第3バンドギャップは、互いに異なる大きさであるとともに、第2バンドギャップが第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」という構成条件を見い出し、かつ特定したものが本願発明であるという、前記cの主張は、本願明細書の記載に基づくものでなく、当を得ていない。

オ なお、引用例1には、前記「(4)相違点についての判断」の「ア」で指摘したとおり、「第1の金属酸化膜と、この第1の金属酸化膜の両側に形成された第2及び第3の金属酸化膜とを有する積層体からなり、前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅が前記第1の金属酸化膜の禁制帯幅よりも大きく」した「キャパシタ絶縁膜」として、「前記第2及び第3の金属酸化膜の禁制帯幅」が同一である「第1の酸化タンタル膜11」、「酸化チタン膜12」及び「第2の酸化タンタル膜13」を積層した「キャパシタ絶縁膜」が最初の「実施例」として示されるとともに、「酸化ジルコニウム膜-酸化チタン膜-酸化ハフニウム膜の3層構造膜」等も「有効である」という、本願明細書の前記ウの記載と同趣旨の記載が存在している。

(6)独立特許要件の検討のまとめ
以上のとおり、前記相違点は、周知の事項を参酌すれば、引用例1に記載の発明から当業者が容易に想到し得た範囲に含まれる程度のものである。
したがって、補正発明は、周知の事項を参酌すれば、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.小括
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正(平成24年5月22日に提出された手続補正書による手続補正)は却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、平成23年6月2日に提出された手続補正書によって補正された明細書、特許請求の範囲又は図面の記載からみて、その請求項1?18に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「下部電極と、
前記下部電極の上に形成された複数のバンドギャップを持つ誘電膜と、
前記誘電膜の上に形成された上部電極と、を含み、
前記誘電膜は、
前記下部電極の上に形成された、第1バンドギャップを持つ第1誘電膜と、
前記第1誘電膜の上に形成された、第2バンドギャップを持つ第2誘電膜と、
前記第2誘電膜の上に形成された、第3バンドギャップを持つ第3誘電膜と、を含み、
これら第1?第3バンドギャップは互いに異なる大きさであることを特徴とする半導体装置のキャパシタ。」

2.引用例の記載と引用発明
引用例1の記載については、前記「第2.補正却下の決定」の「4.独立特許要件」の「(2)引用例の記載と引用発明」において、それぞれ、「(2-1)引用例1の記載」で摘記したとおりであり、引用発明については、同「(2-2)引用発明」において認定したとおりである。

3.対比・判断
前記「第2.補正却下の決定」の「3.補正目的の適否」における「(1)補正事項1について」で検討したように、本件補正後の請求項1に係る発明(すなわち、補正発明)は、本件補正前の請求項1に係る発明(すなわち、本願発明)に対し、「これら第1?第3バンドギャップ」は、単に「互いに異なる大きさである」のではなく、「前記誘電膜の漏れ電流を抑制するために、互いに異なる大きさであるとともに、前記第2バンドギャップが前記第1及び第3バンドギャップより小さく設定される」ものであることを限定したものである。
逆に言えば、本願発明は、補正発明から、上記の限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである補正発明が、前記「第2.補正却下の決定」の「4.独立特許要件」において検討したとおり、周知の事項を参酌すれば、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、周知の事項を参酌すれば、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4.結言
以上のとおり、本願発明は、周知の事項を参酌すれば、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-14 
結審通知日 2013-03-19 
審決日 2013-04-01 
出願番号 特願2004-235910(P2004-235910)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 西脇 博志
近藤 幸浩
発明の名称 半導体装置のキャパシタおよびそれを備えるメモリ装置  
代理人 実広 信哉  
代理人 渡邊 隆  

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