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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278155
審判番号 不服2012-14209  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-24 
確定日 2013-08-15 
事件の表示 特願2007-323856「発光ダイオードを用いた紫外線照射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 7月 2日出願公開、特開2009-147169〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年12月14日の特許出願であって、拒絶理由の通知に応答して平成24年1月16日に手続補正がされたが、同年4月18日付けで拒絶査定がされ、これに対して同年7月24日に拒絶査定不服審判が請求がされるとともに、これと同時に手続補正がされたものである。

第2 平成24年7月24日の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月24日の手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正による請求項1についての補正について
本件補正による請求項1についての補正は次のとおりのものである。
本件補正前に
「紫外領域の発光波長を有する発光ダイオードを光源に用いて紫外線硬化材料に紫外線を照射する照射装置であって、発光ダイオードへの通電電流および通電時間を制御する点灯制御回路と、発光ダイオードの温度を検出する温度センサとを有し、点灯制御回路は、温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以下に保たれる範囲で、発光ダイオードの定格電流よりも大きい電流を流す強発光期間と発光ダイオードに通電する電流を相対的に小さくするインターバル期間とを交互に設け、温度センサで検出される温度が規定温度を超えると、インターバル期間を延長するか、強発光期間に通電する電流のピーク値を引き下げるように制御することを特徴とする発光ダイオードを用いた紫外線照射装置。」(平成24年1月16日の手続補正書参照。)
とあったものを、
「紫外領域の発光波長を有する発光ダイオードを光源に用いて紫外線硬化材料に紫外線を照射する照射装置であって、発光ダイオードへの通電電流および通電時間を制御する点灯制御回路と、発光ダイオードの温度を検出する温度センサとを有し、点灯制御回路は、温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以下に保たれる範囲で、発光ダイオードの定格電流よりも大きい電流を流す強発光期間を所定時間ずつ間欠的に設けるとともに、前記強発光期間と発光ダイオードに通電する電流を相対的に小さくするインターバル期間とを交互に設け、前記インターバル期間は、前記強発光期間において生成されたラジカルによる重合反応が停止反応により停止するよりも短い時間とし、温度センサで検出される温度が規定温度を超えると、インターバル期間を延長するか、強発光期間に通電する電流のピーク値を引き下げるように制御することを特徴とする発光ダイオードを用いた紫外線照射装置。」
とする。

該補正は、発明を特定するために必要な事項である「強発光期間」について、「所定時間ずつ間欠的に設ける」点を限定し、同じく「インターバル期間」について、「強発光期間において生成されたラジカルによる重合反応が停止反応により停止するよりも短い時間」とする点を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としたものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)を以下に検討する。

2 独立特許要件について
(1) 本願補正発明の認定
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。) は、本件補正後の請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。

(2) 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された刊行物である特開2006-142187号公報(以下「引用例」という。)には、以下のアないしウの記載がある。
ア 「【請求項1】
紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射するための紫外線LEDと、
前記紫外線LEDに供給する電流を供給するための電源と、
前記電源から前記紫外線LEDに供給する電流の量を調整するための供給電流量調整手段と、
を備えることを特徴とする紫外線照射装置。
【請求項2】
前記供給電流量調整手段は、可変定電流回路であることを特徴とする特徴とする請求項1に記載の紫外線照射装置。
【請求項3】
前記可変定電流回路には、供給する電流の大きさ、周波数又はデューティー比の少なくとも一つを変化させることができるパルス回路が備えられていることを特徴とする請求項2に記載の紫外線照射装置。」

イ 「【0020】
請求項3に記載の発明によれば、可変定電流回路にパルス回路を備えることによりパルス発光を行うことが可能になるため大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射することを可能としながら紫外線LEDの発熱を抑えることができるので、装置の劣化を防止するとともに紫外線硬化型接着剤に効果的に紫外線を照射することができる。
紫外線硬化性性接着剤はその種類によって、空気に触れる表層やワークに触れた深層では積算光量だけではなく、一定以上の照度の紫外線を照射した時に効果的に硬化が促進されるものがあるため、このような特性をもつ紫外線硬化性接着剤を硬化させるのに有効である。」

ウ 「【0026】
[第一の実施形態]
【0027】
以下において、図面を参照しながら本発明にかかる紫外線照射装置の第一の実施形態について説明する。ただし、発明の範囲は図示例に限定されない。
【0028】
図1は紫外線照射装置1の要部の概略断面図であり、図2は紫外線照射装置1の回路図の一例である。
【0029】
図1に示すように紫外線照射装置1には光源である紫外線LED2が支持部材3に支持されて備えられている。支持部材3にはレンズ用支持部材4に支持された集光レンズ5が備えられていて、集光された紫外線が接着剤塗布部分に照射されるようになっている。
【0030】
図2に示すように紫外線LED2には電源6及び可変定電流回路9が接続されている。
【0031】
可変定電流回路9は、紫外線照射装置1に備えられた図示しない操作手段を操作することにより、電源6から紫外線LED2に流す電流の大きさを定めることができる。
【0032】
また、可変定電流回路9は、紫外線LED2が照射対象である紫外線硬化型接着剤を硬化させるのに必要な最小限の照度が得られる値の電流から紫外線LED2に流すことが許容される最も大きい値の電流の間で流す電流の大きさを調整できるようになっている。
【0033】
また、可変定電流回路9には、パルス回路を内蔵させることとしてもよい。パルス回路は電源6から紫外線LED2に流す電流の大きさ、周波数又はデューティー比のいずれか一つを変化させてパルス発光を行わせることができるようになっている。」

(3) 引用発明の認定
ア 上記「(2) ア」における、請求項1を引用する請求項2を引用する請求項3を、先行する請求項を引用しない独立の形式で記載すれば、次のとおりである。
「紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射するための紫外線LEDと、
前記紫外線LEDに供給する電流を供給するための電源と、
前記電源から前記紫外線LEDに供給する電流の量を調整するための供給電流量調整手段と、
を備える紫外線照射装置であって、
前記供給電流量調整手段は、可変定電流回路であり、
前記可変定電流回路には、供給する電流の大きさ、周波数又はデューティー比の少なくとも一つを変化させることができるパルス回路が備えられている、
紫外線照射装置。」

上記「(2) イ」によれば、上記の紫外線照射装置は、可変定電流回路にパルス回路を備えることにより、大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射することを可能としながら紫外線LEDの発熱を抑えることができ、積算光量だけではなく、一定以上の照度の紫外線を照射した時に効果的に硬化が促進される特性をもつ紫外線硬化性接着剤を硬化させるのに有効である。

イ 上記「(2) ウ」に記載された、第一の実施形態の紫外線照射装置のうち、上記「(2) ウ」の【0033】にいう、可変定電流回路9にパルス回路を内蔵させたものは、上記アの紫外線照射装置に対応している。
該「可変定電流回路9」は、上記「(2) ウ」の【0031】及び【0032】の記載によれば、操作手段により、電源から紫外線LEDに流す電流の大きさを定めることができ、紫外線LEDが紫外線硬化型接着剤を硬化させるのに必要な最小限の照度が得られる値の電流から紫外線LEDに流すことが許容される最も大きい値の電流の間で流す電流の大きさを調整できる。
該「パルス回路」は、上記「(2) ウ」の【0033】の記載によれば、紫外線LED2にパルス発光を行わせるものである。

ウ 上記ア及びイによれば、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射するための紫外線LEDと、
前記紫外線LEDに供給する電流を供給するための電源と、
前記電源から前記紫外線LEDに供給する電流の量を調整するための可変定電流回路を備える紫外線照射装置であって、
前記可変定電流回路は、操作手段により、前記紫外線LEDに流す電流の大きさを定めることができ、前記紫外線LEDが前記紫外線硬化型接着剤を硬化させるのに必要な最小限の照度が得られる値の電流から、前記紫外線LEDに流すことが許容される最も大きい値の電流の間で、流す電流の大きさを調整でき、
前記可変定電流回路に、供給する電流の大きさ、周波数又はデューティー比の少なくとも一つを変化させることができ、前記紫外線LEDにパルス発光を行わせるパルス回路を備えることにより、
大電流を前記紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射することを可能としながら前記紫外線LEDの発熱を抑えることができ、積算光量だけではなく、一定以上の照度の紫外線を照射した時に効果的に硬化が促進される特性をもつ紫外線硬化性接着剤を硬化させるのに有効である、
紫外線照射装置。」

(4) 周知例の記載事項
ア 原査定の備考で引用された特開2001-312249号公報(以下「周知例1」という。)には、次の記載がある。
「【0004】
【課題を解決するための手段】請求項1に記載の発明は、LED素子と、前記LED素子の近くに配置され、当該LED素子の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段で検出された温度に基づいて、前記LED素子の輝度を制御する輝度制御手段と、を備えているものである。これによれば、LED素子の近くに温度検出手段を配置して、LED素子の温度を検出し、輝度制御手段により温度検出手段で検出した温度に基づいてLED素子の輝度を制御するようにしたため、LED素子の周囲温度が上がり過ぎて寿命が短くならないようにすると共に、寿命に悪影響を与えない温度では、通常の輝度に戻して視認性を良好にすることができる。請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のLED輝度制御装置において、前記輝度制御手段は、前記温度検出手段が第1の基準温度を越える温度を検出した場合に、前記LED素子の輝度を一定の割合で低減させるように制御するものである。」(下線は審決にて付した。以下同様。)

イ 原査定の備考で引用された特開2006-147373号公報(以下「周知例2」という。)には、次の記載がある。
「【0003】
ところで、バックライトの光源に発光ダイオードを用いた場合、一つのバックライトに対して大量の発光ダイオードが必要となる。そのため、全体として熱が高くなり易く、発光ダイオード一つ一つの特性が劣化したり、最悪の場合故障してしまう可能性も考えられる。
【0004】
また、発光ダイオードは、温度が高くなると発光効率が悪くなる。また、各色の発光効率の温度特性は異なるので、色度一定化する制御システムを導入しているバックライトでは、設定された所定の消費電力を超えてしまうことがある。例えば、色度一定化する制御システムを導入しているバックライトでは、赤色の発光ダイオードの温度が高くなると、他の色(緑、青)の発光ダイオードよりも発光効率が悪くなるので、PWMのデューティを高くして電流量を多く流さなければならない。このため、消費電力が増大し、上述の設定された所定の消費電力を超えてしまうおそれがある。
【0005】
上記の2つの理由により、バックライトの光源に発光ダイオードを用いた場合、温度上昇をさせないような制御システムが必要になる。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、光源に発光ダイオードを用いた場合であっても、発光ダイオードの一つ一つの特性劣化や故障を軽減し、設定された消費電力内において動作をさせることができるバックライト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るバックライト装置は、表示装置の背面側に設けられるバックライト装置において、複数の発光ダイオードを有する光源と、上記複数の発光ダイオードを駆動する駆動制御部と、上記複数の発光ダイオードの温度を検出する温度センサとを備え、上記駆動制御部は、上記発光ダイオードの最大定格温度以下の温度の第1の上限設定温度と、当該第1の上限設定温度より低い温度の第2の上限設定温度とを設定しておき、上記温度センサの検出温度が上記第1の上限設定温度以上の場合には、上記発光ダイオードに供給する電流量を減少させ、上記温度センサの検出温度が上記第1の上限設定温度より低く第2の上限設定値より高い場合には、上記発光ダイオードに供給する電流量を現在の値の状態で固定し、上記発光ダイオードに供給する電流量が所定の設定値よりも小さい場合であって、且つ、上記温度センサの検出温度が上記第2の上限設定温度以下の場合には、上記発光ダイオードに供給する電流量を上昇させることを特徴とする。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用された特表2007-521622号公報(以下「周知例3」という。)には、次の記載がある。
「【0067】
LEDダイまたは他の放射線発生源の集中された出力は、歪み緩和ハウジング630内に配置された導波路アレイによって集め案内し、放射線硬化性材料または配合物650に送出することができる。放射線硬化性材料としては、例えば、適切な光開始剤またはブレンドを伴う、アクリレートまたはエポキシモノマーおよび/またはオリゴマーを挙げることができる。」
「【0096】
硬化装置のLEDのパルス駆動は、定常状態(steady-state)LEDからの放射線の付与と比較すると、多くの利点を有する。より高い瞬間放射照度を、LEDをパルス駆動することによって達成することができ、これは、空気中でのアクリレートの硬化を考慮し、より厚いコーティングの硬化をもたらす。さらに、LEDをパルス駆動することは、コーティング中に発生する総発熱を少なくしつつ、コーティング中の局所ピーク温度を増加させる。より高い放射照度を達成するために、電流はパルス期間中、増加される。LEDへの損傷を防止するために、電流は、パルス間にオフとされ冷却される。パルス駆動LED硬化による利点としては、増大された硬化深さ、増大された反応速度、加えられた酸素の消耗、および重合反応を開始するためのフリーラジカルの増大された拡散が挙げられる。また、暗硬化(dark cure)への利点があり、硬化される材料が、パルス間の間光に曝されず、ラジカル-ラジカル消滅が最小にされる。具体的には、LEDダイがUV放射線を発出する場合、LEDをパルス駆動することはこれらの利点をもたらし、これらは、より高い分子量の製品の製造をもたらす。」

エ 前置報告書で引用された特開2006-235617号公報(以下「周知例4」という。)には、次の(ア)ないし(ウ)の記載がある。
(ア) 「【0094】
(F)照射手段20のパルス点灯(図10)
紫外光照射装置10は、照射手段20の発光ダイオード21Aを、図10に示す如く、パルス点灯させる。即ち、発光ダイオード21Aのオンにより紫外光が照射されると、シール剤2を構成する樹脂内に励起状態の物質が生成される。シール剤2の樹脂内に励起状態の物質が生成されると、樹脂内で励起状態の物質とそうでない物質が反応を起こし、樹脂の硬化が開始される。物質の励起エネルギが十分になる時間で発光ダイオード21Aをオフすると、励起エネルギが減衰するため樹脂の硬化反応が停止に向かうが、既に励起状態とされた物質の励起エネルギが消失するまで硬化反応は進む。次に硬化反応が停止しないうちに発光ダイオード21Aを再オンさせる。これにより、硬化反応が停止する前に励起状態の物質が再生成され、硬化反応は止まることなく進行する。」

(イ) 「【0097】
従って、紫外光照射装置10によれば以下の作用効果を奏する。
照射手段20の発光ダイオード21Aに間欠的に給電し発光ダイオード21Aをパルス点灯させることにより、シール剤2の樹脂内に硬化反応を進行させるに十分な励起状態の物質を起こすに必要なだけのエネルギをもつ紫外光を短時間だけシール剤2に照射し、励起状態の物質と他の物質との反応により硬化反応を進行させ、その後励起状態の物質がなくなる前に再度、励起状態の物質を起こすに必要なだけのエネルギをもつ紫外光を短時間だけシール剤2に照射することを繰り返す。照射手段20を常時点灯させることがないから、エネルギを有効に利用でき、かつシール剤2を十分に硬化させることができる。」

(ウ) 「【0098】発光ダイオード21Aは、瞬間的には大きな電流を流すことができるため、パルス点灯により常時点灯を上回る照度を得ることができる。このため、励起状態の物質をより多く生成することができ、結果としてシール剤2の硬化速度は早くなる。」

(5) 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「紫外線硬化型接着剤」は、本願補正発明の「紫外線硬化材料」に相当する。

イ 引用発明の「紫外線LED」は、本願補正発明の「紫外領域の発光波長を有する発光ダイオード」に相当する。

ウ 引用発明の「電源から紫外線LEDに供給する電流の量を調整するための可変定電流回路」は、本願補正発明の「発光ダイオードへの通電電流および通電時間を制御する点灯制御回路」に相当する。

エ 一般に、パルス回路の出力は、所定時間続く値の大きい期間と、所定時間続く値の小さい期間が交互に現れるものであり、この現れる頻度が周波数であり、値の大きい期間が続く時間と値の小さい期間が続く時間との比がデューティー比である。
一方、引用発明は、「可変定電流回路に、供給する電流の大きさ、周波数又はデューティー比の少なくとも一つを変化させることができ、紫外線LEDにパルス発光を行わせるパルス回路を備えることにより、大電流を前記紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射することを可能としながら前記紫外線LEDの発熱を抑えることができ」るものである。
してみると、引用発明の「点灯制御回路」(可変定電流回路)が、「大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間」と、「大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間と比べて、紫外線LEDに通電する電流を相対的に小さくした、紫外線LEDの発熱を抑えることができる期間」とを交互に設けたものであることは明らかである。
この両期間のうち、前者は、本願補正発明の「強発光期間」に相当し、後者は、本願補正発明の「発光ダイオードに通電する電流を相対的に小さくするインターバル期間」に相当する。
また、引用発明の「強発光期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間)は、パルスの周期毎に出現するから、所定時間ずつ間欠的に設けられたものといえる。

オ 上記アないしエによれば、本願補正発明と引用発明とは、以下の<一致点>で一致し、以下の<相違点1>及び<相違点2>で相違する。
<一致点>
「紫外領域の発光波長を有する発光ダイオードを光源に用いて紫外線硬化材料に紫外線を照射する照射装置であって、
前記発光ダイオードへの通電電流および通電時間を制御する点灯制御回路を有し、
前記点灯制御回路は、発光ダイオードに大きい電流を流す強発光期間を所定時間ずつ間欠的に設けるとともに、前記強発光期間と前記発光ダイオードに通電する電流を相対的に小さくするインターバル期間とを交互に設けた、
紫外線照射装置。」

<相違点1>
本願補正発明は、「発光ダイオードの温度を検出する温度センサ」を有し、「強発光期間」において「温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以下に保たれる範囲で、発光ダイオードの定格電流よりも大きい電流を流」し、「温度センサで検出される温度が規定温度を超えると、インターバル期間を延長するか、強発光期間に通電する電流のピーク値を引き下げるように制御する」のに対して、引用発明は、「発光ダイオードの温度を検出する温度センサ」を有するものではない点。

<相違点2>
本願補正発明は、「インターバル期間」が「強発光期間において生成されたラジカルによる重合反応が停止反応により停止するよりも短い時間」であるのに対して、引用発明は、「インターバル期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間と比べて、紫外線LEDに通電する電流を相対的に小さくした、紫外線LEDの発熱を抑えることができる期間)が「強発光期間において生成されたラジカルによる重合反応が停止反応により停止するよりも短い時間」であるか否か不明である点。

(6) 判断
<相違点1>及び<相違点2>について検討する。
ア <相違点1>について
(ア) 温度センサが検出する発光ダイオードの温度を規定温度以下に保つ範囲内の電流を流す点について
上記(4)のア及びイによれば、発光ダイオードの温度が高くなり過ぎると、発光効率が低下したり寿命が短くなったりして望ましくないので、温度センサにより発光ダイオードの温度を検出し、温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以上になると、発光ダイオードに流す電流を小さくすることは、本願出願時点の周知技術と認められる。
よって、引用発明において、「発光ダイオード(紫外線LED)の温度を検出する温度センサ」を備えるとともに、「強発光期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間)において、「温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以下に保たれる範囲の電流を流」し、かつ「温度センサで検出される温度が規定温度を超えると、強発光期間に通電する電流のピーク値を引き下げるように制御する」ことは、当業者が、周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。

(イ) 発光ダイオードの定格電流よりも大きい電流を流す点について
上記「(4) ウ」(特に「【0096】・・・より高い瞬間放射照度を、LEDをパルス駆動することによって達成する」との記載)及び「(4)エ (ウ)」によれば、紫外線LEDをパルス駆動して樹脂を硬化させる紫外線を照射する装置において、紫外線LEDに、一定電流で駆動する場合よりも大きい電流を瞬間的に流し、硬化速度向上等の好ましい効果を得ることは、本願出願時点の周知技術と認められる。
よって、引用発明において、「発光ダイオード(紫外線LED)の温度を検出する温度センサ」を備えるとともに、「強発光期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間)において、「発光ダイオードに、一定電流で駆動する場合よりも大きい電流を瞬間的に流す」ことは、当業者が、周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
そして、上記の「大きい電流」を、どの程度のものとするかは、当業者が設計上適宜定め得るところ、これを定格電流よりも大きいものとすることに、格別の困難があるとは認められない。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明において、「発光ダイオード(紫外線LED)の温度を検出する温度センサ」を備えるとともに、「強発光期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間)において、「温度センサにより検出される発光ダイオードの温度が規定温度以下に保たれる範囲で、発光ダイオードの定格電流よりも大きい電流を流」し、「温度センサで検出される温度が規定温度を超えると、強発光期間に通電する電流のピーク値を引き下げるように制御する」こと、すなわち、本願補正発明の<相違点1>に係る構成を備えることは、当業者が、周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。

イ <相違点2>について
(ア) 引用発明は、「積算光量だけではなく、一定以上の照度の紫外線を照射した時に効果的に硬化が促進される特性をもつ紫外線硬化性接着剤を硬化させるのに有効である、紫外線照射装置」であるから、引用発明において、硬化促進は望ましいことであるとともに、積算光量(強発光期間の照度×時間とインターバル期間の照度×時間の和)や照度は、紫外線硬化性接着剤の種類毎に異なる特性に応じて定めるべき設計事項と認められる。
引用例の次の記載は、上記の判断を裏付けるものといえる。
「【0071】
照度検出回路34は、図示しない操作手段の制御信号に応じて予め所定の照度が記憶されており、受光センサ32において検出した照度が前記所定の照度を中心に幅を持たせた所定の範囲内にない場合には電流制御回路33を制御して紫外線LED2から照射される紫外線の照度が所定の値になるように調整するようになっている。
【0072】
なお、紫外線の照度の所定の値とは、紫外線硬化型接着剤を硬化させるのに適当な値であり、紫外線の照度の所定の値は紫外線照射装置30に備えられた図示しない操作手段を作業者が操作して設定するようになっている。
【0073】
また、照度検出回路34には、例えばスピーカやランプなどの警報手段22が接続されており、照度検出回路34において検出した紫外線の照度が所定の範囲にない場合には、警報手段22により作業者に異常を知らせるようになっている。
【0074】
なお、電流制御回路33に紫外線LED2からワークに照射される紫外線の積算光量が所定の値になるように照射時間、電流の大きさ及びデューティー比を調整させることとしてもよい。
【0075】
即ち、図示しない操作手段を操作して電流制御回路33に紫外線硬化型接着剤の種類毎に受光センサ32から照度検出回路に送信される信号と紫外線硬化型接着剤を硬化させるのに最適な照度の関係を記憶させられるようになっている。この場合、図示しない操作手段においては、紫外線硬化型接着剤の種類毎に最適な紫外線の積算光量を選択できるようになっているとともに、照射時間、流す電流の大きさ及びデューティー比をそれぞれ調整することができる例えばダイヤルなどの操作手段が設けられている。
【0076】
電流制御回路33においては、照射時間、流す電流の大きさ及びデューティー比のいずれか一つの項目を調整して所定の値に設定されると先に入力された積算光量の紫外線が紫外線硬化型接着剤に照射されるように他の二つの項目を調整して、その調整した内容に応じて紫外線LED2から紫外線硬化型接着剤に先に入力した積算光量で紫外線を紫外線硬化型接着剤に照射するようになっている。
【0077】
このように積算光量が所定の値になるようにパルス回路の周波数、電流及びデューティー比を自動調整することで、接着剤の主な硬化条件である積算光量が設定することができる便利な装置を提供することができる。また、積算光量の測定や計算が不要となり作業が簡易化される。」

該記載によれば、紫外線硬化型接着剤に照射する紫外線の積算光量、照度及び照射時間は、紫外線硬化型接着剤の種類毎に最適化することが望ましいものと認められる。

(イ) 上記「(4) エ」の(ア)及び(イ)の記載は、紫外線硬化樹脂の種類によっては、硬化反応が、紫外線照射を停止した後も進み、その後停止することを示すものと認められる。
また、周知例3の「【0096】・・・暗硬化(dark cure)への利点があり、硬化される材料が、パルス間の間光に曝されず、ラジカル-ラジカル消滅が最小にされる。」との記載(上記「(4) ウ」参照、)は、パルス発光が停止されて暗くなった後も硬化反応が進み、その後励起状態が消滅することを指すと解される。
してみると、紫外線硬化樹脂の種類によっては、硬化反応が、紫外線照射を停止した後も進み、その後停止することは、本願出願時点の周知の技術事項と認められる。
そして、硬化反応が、紫外線照射を停止した後も進み、その後停止した後も紫外線を照射しない、つまり「インターバル期間」を継続することは、硬化反応促進の観点からは無駄である。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明において、「インターバル期間」(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間と比べて、紫外線LEDに通電する電流を相対的に小さくした、紫外線LEDの発熱を抑えることができる期間)を「強発光期間(大電流を紫外線LEDに流して照度の高い紫外線を照射する期間)において生成されたラジカルによる重合反応が停止反応により停止するよりも短い時間」とすること、すなわち、本願補正発明の<相違点2>に係る構成を備えることは、当業者が、紫外線硬化樹脂の特性を考慮して、適宜なし得たことと認められる。

ウ まとめ
上記ア及びイによれば、引用発明において、本願補正発明の<相違点1>及び<相違点2>に係る構成を備えることは、当業者が、周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
また、かかる構成を採用することによる効果は、当業者が予測し得る程度のものと認められる。
したがって、本願補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
上記「2 独立特許要件について」において検討したとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明の認定
平成24年7月24日の手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、同年1月16日に補正された請求項1に記載された事項によって特定されるとおりのものと認める。(以下「本願発明」という。)

2 引用例の記載事項及び引用発明の認定
原査定の拒絶の理由に引用された引用例及び引用例の記載事項は、上記「第2 [理由] 2 独立特許要件について (2) 引用例の記載事項」に記載したとおりであり、引用発明の認定は、上記「第2 [理由] 2 独立特許要件について (3) 引用発明の認定」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2 [理由] 2 独立特許要件について」で検討したとおり、本願補正発明の発明を特定するために必要な事項である「強発光期間」及び「インターバル期間」についての限定を省いたものに相当する。
よって、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 [理由] 2 独立特許要件について」で検討したとおり、当業者が、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、当業者が、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が、引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-11 
結審通知日 2013-06-18 
審決日 2013-07-01 
出願番号 特願2007-323856(P2007-323856)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 秀樹中澤 真吾  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 畑井 順一
松川 直樹
発明の名称 発光ダイオードを用いた紫外線照射装置  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  
代理人 西川 惠清  
代理人 水尻 勝久  

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