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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1278160 |
審判番号 | 不服2012-16298 |
総通号数 | 166 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-08-22 |
確定日 | 2013-08-15 |
事件の表示 | 特願2007-264083「太陽電池モジュール用裏面充填材シート」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日出願公開、特開2009- 94320〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年10月10日の出願であって、平成23年9月12日に手続補正がなされ、平成24年5月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年8月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。 なお、請求人は、当審における平成25年3月13日付け審尋に対して同年5月20日付けで回答書を提出している。 第2 平成24年8月22日付け手続補正についての補正却下の決定 〔補正却下の決定の結論〕 平成24年8月22日付け手続補正を却下する。 〔理由〕 1 本件補正の内容 (1)平成24年8月22日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、本件補正前の請求項1に、 「白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層と、 前記白色層を挟持する接着層用透明樹脂を有する接着層とを有する太陽電池モジュール用裏面充填材シートであって、 前記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂であり、 前記白色顔料が酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムであることを特徴とする太陽電池モジュール用裏面充填材シート。」とあったものを、 「白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層と、 前記白色層を挟持する接着層用透明樹脂を有する接着層とを有する太陽電池モジュール用裏面充填材シートであって、 前記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂であり、 前記白色顔料が酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムであり、 前記白色層と前記接着層との厚みの比が2?8の範囲内であり、 前記接着層が、シラノール縮合触媒を実質的に含まないものであることを特徴とする太陽電池モジュール用裏面充填材シート。」とするものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。 (2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「白色層」と「接着層」との厚みの比が「2?8の範囲内であ」ると限定するとともに、前記「接着層」が「シラノール縮合触媒を実質的に含まないものである」と限定するものである。 2 本件補正の目的 上記1(1)の補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。 3 引用例 本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-235048号公報(以下「引用例1」という。)には、図とともに以下の事項が記載されている。 (1)「【請求項1】 少なくとも0.01質量%以上のアルコキシシランを共重合成分として含有し、融点が80℃以上120℃以下であり、かつ、80℃における剪断弾性率が3×10^(5)Pa以上である変性エチレン系樹脂からなることを特徴とする接着性シート。」 (2)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、耐久性に優れた接着性シートに関し、特に太陽電池モジュールにおけるセルの固定や裏面シートとの接合に使われる太陽電池用充填材に適した接着性シート及びそれを用いた太陽電池に関する。」 (3)「【0031】本発明において使用する変性エチレン系樹脂シートの厚さは、特に限定するものではないが、太陽電池用充填材として使用する場合は、セルの凹凸に追従しての当該シートの固定の確保、受光ガラス・裏面シートのうねりへの追従などを考慮して、単層系としては、通常50?1000μm、好適には100?600μm程度である。また積層系の場合には、総厚さは通常50?1000μm、好適には100?600μm程度であり、そのうちアルコキシシランがグラフトされたエチレン系樹脂シートの厚さは、0.1?100μm、好適には1?30μm程度である。」 (4)「【0034】 【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。 ・・・(略)・・・ 【0043】(実施例3) (1)融点112℃、80℃における剪断弾性率1.3×10^(7)Paの低密度ポリエチレンを芯側とし、また実施例1で使用した融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものをこの芯の両表面側とし、180℃で共押出し法により2種3層の積層系のシート3を成型した。このシート3の表面側の厚みは各25μm、芯側300μm、総厚さ350μmであった。 (2)この接着性シート3について、実施例1と同様に太陽電池モジュール相当の評価用サンプルを作成し、同様にして耐久性試験を行い評価した。この結果、接着性シート3を充填材として使用した場合の評価は○であった。」 (5)上記(1)ないし(4)から、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。 「耐久性に優れ、太陽電池モジュールにおけるセルの固定や裏面シートとの接合に使われ、接着剤としての機能と、外部からの衝撃から光起電力素子(セル)を保護する機能を奏することが要求される太陽電池用充填材に適した接着性シートであって、 少なくとも0.01質量%以上のアルコキシシランを共重合成分として含有し、融点が80℃以上120℃以下であり、かつ、80℃における剪断弾性率が3×10^(5)Pa以上である変性エチレン系樹脂からなり、 セルの凹凸に追従しての当該シートの固定の確保、受光ガラス・裏面シートのうねりへの追従などを考慮して、総厚さは50?1000μmとし、そのうちアルコキシシランがグラフトされたエチレン系樹脂シートの厚さは0.1?100μmとした、太陽電池用充填材として使用する積層系の接着性シートにおいて、 融点112℃、80℃における剪断弾性率1.3×10^(7)Paの低密度ポリエチレンを芯側とし、融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものをこの芯の両表面側とし、180℃で共押出し法により、表面側の厚み各25μm、芯側の厚み300μm、総厚さ350μmの2種3層の積層系のシート3として成型した、接着性シート。」(以下「引用発明1」という。) 4 対比 本願補正発明と引用発明1を対比する。 (1)引用発明1の「『太陽電池モジュールにおけるセル』の『裏面シートとの接合に使われ』る『太陽電池用充填材に適した接着性シート』」及び「シラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体」は、それぞれ、本願補正発明の「太陽電池モジュール用裏面充填材シート」及び「シラン変性透明樹脂」に相当する。 (2)引用発明1の「太陽電池モジュール用裏面充填材シート(接着性シート)」は、太陽電池モジュールにおけるセルの固定や裏面シートとの接合に使われ、接着剤としての機能を奏することが要求されるものであり、かつ、融点112℃、80℃における剪断弾性率1.3×10^(7)Paの低密度ポリエチレンを芯側とし、融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされた「シラン変性透明樹脂(シラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体)」にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものをこの芯の両表面側とし、180℃で共押出し法により、表面側の厚み各25μm、芯側の厚み300μm、総厚さ350μmの2種3層の積層系のシート3として成型したものであるから、引用発明1の「融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性透明樹脂にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものを180℃で共押出し法により成型した厚み25μmの両表面側の層」は本願補正発明の「接着層」に相当し、引用発明1の「融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体」は本願補正発明の「接着層用透明樹脂」に相当し、引用発明1の「接着層用透明樹脂(融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体)」と本願補正発明の「接着層用透明樹脂」とは「シラン変性透明樹脂」である点で一致し、引用発明1の「『融点112℃、80℃における剪断弾性率1.3×10^(7)Paの低密度ポリエチレンを芯側とし』、『180℃で共押出し法により』成型した『芯側の厚み300μm』の層」と本願補正発明の「『接着層』により『挟持』され、『白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層』」とは「接着層により挟持され、透明樹脂を有する層」である点で一致し、引用発明1の「低密度ポリエチレン」と本願補正発明の「白色層用透明樹脂」とは「接着層により挟持される層用透明樹脂」の点で一致する。 (3) ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願補正発明の「接着層」が「シラノール縮合触媒を実質的に含まないものである」ことに関して、次の記載がある。 「【0065】 また、本発明に用いられる接着層は、シラノール縮合触媒を実質的に含まないものであることが好ましい。上記シラノール縮合触媒は、上記シラノール基間の縮合反応を促進するものであるため、上記接着層の接着性が短期間で低下する恐れがあるからである。 なお、上記シラノール縮合触媒を実質的に含まないとは、具体的には、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレートといったシラノール縮合触媒が、上記接着層を構成する全樹脂100重量部に対して、0.05重量部以下である場合をいい、より好ましくは0.02重量部以下の範囲内であることが好ましく、なかでも0重量部であることが好ましい。」 イ 引用発明1の「接着層」は、融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性透明樹脂にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものを芯側の樹脂とともに180℃で共押出し法により押し出して形成された層であるから、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクテート、ジオクチル錫ジラウレートといったシラノール縮合触媒を含まないといえる。 してみると、引用発明1の「接着層」と本願補正発明の「接着層」とは「シラノール縮合触媒を実質的に含まないものである」点で一致する。 (4)上記(1)ないし(3)から、本願補正発明と引用発明1とは、 「接着層用透明樹脂を有する接着層と、 接着層により挟持され、接着層により挟持される層用透明樹脂を有する層とを有する太陽電池モジュール用裏面充填材シートであって、 前記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂であり、 前記接着層が、シラノール縮合触媒を実質的に含まないものである、太陽電池モジュール用裏面充填材シート。」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点1: 前記「接着層により挟持される層」が、本願補正発明では、「酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムである白色顔料を有する白色層」であるのに対し、引用発明1では、白色顔料を有しておらず白色層ではない点。 相違点2: 前記「接着層により挟持される層」と前記「接着層」との厚みの比が、本願補正発明では、「2?8」の範囲内であるのに対し、引用発明1では、具体的には、12(=300/25)であって「2?8」の範囲内にはなっていない点。 5 判断 (1)相違点1について ア 裏面シートと太陽電池素子との間に充填材を配設した太陽電池モジュールにおいて、該充填材に酸化チタンのような白色系無機顔料を配合したものは本願の出願前に周知である(以下「周知技術」という。例.原査定に引用された特開2005-101381号公報(【0012】、【0062】参照。)、本願明細書の【0009】で引用された特開2006-36874号公報(【0003】、【0004】、【0006】、【0014】参照。))。そして、周知技術によって発電効率が高まることは当業者に自明である(上記特開2006-36874号公報の【0004】参照。)。 イ 引用発明1において、前記「接着層により挟持される層」に酸化チタンのような白色系無機顔料を配合し発電効率を高めることは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことであり、そのようにした前記「接着層により挟持される層」は「酸化チタンである白色顔料を有する白色層」といえるから、引用発明1において、前記「接着層により挟持される層」を「酸化チタンである白色顔料を有する白色層」となすこと、すなわち、引用発明1において上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである。 (2)相違点2について ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、白色層と接着層との厚みの比を本願補正発明で2?8の範囲内としていることに関して、次の(ア)ないし(エ)の記載がある。 (ア)「【0071】 また、本発明において、上記白色層と、上記接着層との厚みの比(白色層/接着層)は、1?10の範囲内であることが好ましく、なかでも1.2?5の範囲内であることが好ましく、特に1.5?3の範囲内であることが好ましい。上記範囲より小さいと十分に光を反射することができない恐れがあるからであり、上記範囲より大きいと、上記接着層を均一に形成することが困難になる可能性があるからである。 なお、上記接着層の厚みとは、白色層の両面に積層された接着層の厚みを合計したものではなく、上記接着層1層当たりの厚みをいう。」 (イ)「【0097】 [実施例1] (1)シラン変性透明樹脂の調製 密度が0.898g/cm^(3)であり、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)が2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(以下、M-LLDPEと称する)98重量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2重量部、およびラジカル開始剤としてジクミルパーオキサイド0.1重量部を混合し、200℃で加熱溶融攪拌し、シラン変性透明樹脂を得た。 ・・・(略)・・・ 【0103】 次いで、上記フィルム成型機を用いて、押し出し温度230℃、引き取り速度3m/minで厚さ400μmのシートを、第1、第3層の厚みがそれぞれ100μm、第2層の厚みが200μmとなるように製膜することにより、第2層が白色層用透明樹脂および白色顔料を含む白色層であり、上記白色層を挟持する第1層および第3層が接着層用透明樹脂を有する接着層である太陽電池モジュール用裏面充填材シートを得た。なお、上記の製膜化は、支障なく実施することができた。」 (ウ)「【0107】 [実施例5] 第1、第3層の厚みがそれぞれ50μm、第2層の厚みが400μmとなるように製膜した他は、実施例1と同様に太陽電池モジュール用裏面充填材シートを作製した。」 (エ)「【0108】 [実施例6] 第1、第3層の厚みがそれぞれ150μm、第2層の厚みが300μmとなるように製膜した他は、実施例1と同様に太陽電池モジュール用裏面充填材シートを作製した。」 (オ)「【0110】 (評価) 実施例1、比較例1で得た太陽電池モジュール用裏面充填材シートを、40℃、RH90%の環境下に保存し、保存前、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、1年経過後に、太陽電池モジュール製造用の真空ラミネーターにて、厚み3mmのガラス板と150℃で、15分間圧着し、JIS Z1707に従い15mm幅での剥離強度(単位:N/10mm)を測定した。測定結果を表1に示す。 ・・・(略)・・・ 【0112】 表1に示すように、実施例1?6では、時間経過による剥離強度の低下がほとんど見られないが、比較例1では、経時的に剥離強度が低下することが確認された。」 イ 上記ア(ア)ないし(オ)の記載から、白色層と接着層との厚みの比は白色層を分子とし接着層を分母とする比であること、該比が1より小さいと十分に光を反射することができない恐れがあること、該比が10より大きいと接着層を均一に形成することが困難になる可能性があることが把握できるが、十分に光を反射することができるかどうかは本質的には白色層と接着層との厚みの比というよりも白色層の厚みに関わる事項であり、接着層を均一に形成することが困難になるかどうかは本質的には白色層と接着層との厚みの比というよりも接着層の厚みに関わる事項であることは当業者に自明である。 しかるところ、上記各実施例における白色層の厚みは200μm、300μm、400μmであり、各実施例における接着層の厚みは50μm、100μm、150μmであるから、引用発明1における「接着層」の厚みは25μmで上記各実施例のものよりも薄いが、引用発明1における「接着層により挟持される層」の厚みは300μmで上記実施例6のものと一致している。 ウ 引用発明1の「裏面充填材シート(接着性シート)」は、総厚さは50?1000μmとし、そのうちアルコキシシランがグラフトされたエチレン系樹脂シートの厚さは0.1?100μmとしたものであるから、融点84℃、アルコキシシラン0.8質量%がグラフトされたシラン変性エチレン-エチルアクリレート共重合体にヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を加えたものを両表面側とし、180℃で共押出し法により成型した表面側の層の各厚みを上記規定の0.1?100μmの範囲内の50μm程度とすることは、当業者が適宜なし得た程度のことである。 引用発明1において、表面側の層の各厚みを50μm程度とすると、前記「接着層により挟持される層」と前記「接着層」との厚みの比は6(=300μm÷50μm)程度となるから、引用発明1において、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が適宜なし得た程度のことである。 (3)本願補正発明の奏する効果は、当業者が引用発明1の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。 (4)上記(1)ないし(3)より、本願補正発明は、当業者が引用発明1及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 6 小括 以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成23年9月12日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成23年9月12日付けで補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。 2 引用例 原査定の拒絶の理由に引用された「本願の出願前に頒布された刊行物である特開2003-138034号公報(以下「引用例2」という。)には、次の事項が図とともに記載されている。 (1)「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はガラス板や金属板等の板材との貼り合わせに用いられる軟質樹脂シートで長期にわたり接着性が変わることなく安定維持し、よって高温高湿下や温度変化の大きい環境で使用可能な軟質樹脂シート並びにそれを貼り合わせた積層体に関する。さらにより具体的なところとしては同じ機能の樹脂シートである太陽電池用充填材・裏面保護シート及びそれを用い貼り合わせてできた積層体の太陽電池に関する。 (2)「【0022】 【実施例】以下に実施例を掲げて本発明を具体的に説明する。 ・・・(略)・・・ 【0023】 ・・・(略)・・・ (実施例3)融点60℃、MI30g/10分(190℃2.16kg)のエチレンオクテン共重合体90質量部と融点118℃、MI1g/10分のエチレンブテン共重合体10質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を芯層、融点100℃、MI10g/10分のトリメチルシラン変性エチレンαオレフィン共重合体を表層とした2種3層構成材を150℃で押出法により厚さ400μmのシートに熱溶融成形後冷却前にエンボスロール間で加圧転写して表面に微少の凹凸の付いたシートとした。芯層は380μmで表層は各10μmであった。このシートの(σc-σh)は6.0×10^(3)Paであった。このシートを太陽電池用充填材とした。 【0024】一方密度0.952g/cm^(3)、MI1g/10分(190℃2.16kg)のポリエチレン100質量部に平均粒径10μmマイカを40質量部、カーボンブラック1.5質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を配合し200℃で押出法により厚さ100μmのシートに熱溶融成形した。このシートの(σc-σh)は4.1×10^(4)Paであった。このシートを太陽電池用裏面保護シートとした。 【0025】なお太陽電池用充填材と太陽電池用裏面保護シートの積層樹脂シートの(σc-σh)は1.4×10^(4)Paであった。 【0026】これら樹脂シートを3mm厚さのフロートガラス板、同フロートガラス板に真空蒸着したアルミ層(=セル相当材)、太陽電池用充填材、太陽電池用裏面保護シートの順にセッティングし実施例1同様に130℃で20分間加熱・加圧加工して、太陽電池モジュール相当の積層体サンプルを作製し、実施例1同様の耐久性試験・評価を行った。結果、各耐久性試験イ)?ハ)の順に○、○、○だった。ちなみにコストも低く抑えられた。さらに発電性の低下と深く関わる金属接触部位の腐食の状態を以下の方法で評価した。」 (3)上記(1)及び(2)から、引用例2には次の発明が記載されているものと認められる。 「ガラス板や金属板等の板材との貼り合わせに用いられる軟質樹脂シートで長期にわたり接着性が変わることなく安定維持し、よって高温高湿下や温度変化の大きい環境で使用可能な軟質樹脂シートである、太陽電池セルと太陽電池用裏面保護シートとの間で用いられる太陽電池用充填材であって、 融点60℃、MI(メルトインデックス)30g/10分(190℃2.16kg)のエチレンオクテン共重合体90質量部と融点118℃、MI1g/10分のエチレンブテン共重合体10質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を芯層、融点100℃、MI10g/10分のトリメチルシラン変性エチレンαオレフィン共重合体を表層とした2種3層構成材を150℃で押出法により厚さ400μmのシートに熱溶融成形後、冷却前にエンボスロール間で加圧転写して表面に微少の凹凸を付けて軟質樹脂シートとした、太陽電池用充填材。」(以下「引用発明2」という。) 3 対比 本願発明と引用発明2とを対比する。 (1)引用発明2の「軟質樹脂シートである、太陽電池セルと太陽電池用裏面保護シートとの間で用いられる太陽電池用充填材」及び「トリメチルシラン変性エチレンαオレフィン共重合体」は、それぞれ、本願発明の「太陽電池モジュール用裏面充填材シート」及び「シラン変性透明樹脂」に相当する。 (2)引用発明2の「太陽電池モジュール用裏面充填材シート(太陽電池用充填材)」は、融点60℃、MI(メルトインデックス)30g/10分(190℃2.16kg)のエチレンオクテン共重合体90質量部と融点118℃、MI1g/10分のエチレンブテン共重合体10質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部を芯層、融点100℃、MI10g/10分の「シラン変性透明樹脂(トリメチルシラン変性エチレンαオレフィン共重合体)」を表層とした2種3層構成材を150℃で押出法により厚さ400μmのシートに熱溶融成形後、冷却前にエンボスロール間で加圧転写して表面に微少の凹凸を付けて軟質樹脂シートとしたものであるから、引用発明2の、融点100℃、MI10g/10分の「シラン変性透明樹脂」を150℃で押出法により熱溶融成形後、冷却前にエンボスロール間で加圧転写して表面に微少の凹凸を付けた表層は、本願発明の「接着層用透明樹脂を有する接着層」に相当し、引用発明2の「接着層用透明樹脂」と本願発明の「接着層用透明樹脂」とは「シラン変性透明樹脂」である点で一致し、引用発明2の「『表層』とともに『2種3層構成材』として『150℃で押出法により厚さ400μmのシートに熱溶融成形後、冷却前にエンボスロール間で加圧転写して表面に微少の凹凸を付け』た軟質樹脂シートの『融点60℃、MI(メルトインデックス)30g/10分(190℃2.16kg)のエチレンオクテン共重合体90質量部と融点118℃、MI1g/10分のエチレンブテン共重合体10質量部、ヒンダードアミン系光安定剤0.5質量部、フェノール系酸化防止剤0.1質量部』からなる『芯層』」は、本願発明の「『接着層』に『挟持』され、『白色層用透明樹脂および白色顔料を有する白色層』」と、「接着層に挟持され、接着層に挟持される層用透明樹脂を有する層」の点で一致する。 (3)上記(1)及び(2)からみて、本願発明と引用発明2とは、 「接着層用透明樹脂を有する接着層と、 前記接着層に挟持され、接着層に挟持される層用透明樹脂を有する層とを有する太陽電池モジュール用裏面充填材シートであって、 前記接着層用透明樹脂が、シラン変性透明樹脂である太陽電池モジュール用裏面充填材シート。」の点で一致し、次の点で相違する。 相違点3: 前記「接着層に挟持される層」が、 本願発明では、「酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸カルシウムである白色顔料を有する白色層」であるのに対し、 引用発明2では、白色顔料を有しておらず白色層ではない点。 4 判断 (1)相違点3について 引用発明2において、前記「接着層により挟持される層」に酸化チタンのような白色系無機顔料を配合し発電効率を高めることは、上記「第2〔理由〕5(1)」と同様の理由で当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことであり、そのようにした前記「接着層により挟持される層」は「酸化チタンである白色顔料を有する白色層」といえるから、引用発明2において、前記「接着層により挟持される層」を「酸化チタンである白色顔料を有する白色層」となすこと、すなわち、引用発明2において上記相違点3に係る本願発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得た程度のことである。 (2)本願発明の奏する効果は、当業者が引用発明2の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。 (3)したがって、本願発明は、当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 5 むすび 本願発明は、上記4のとおり、当業者が引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-17 |
結審通知日 | 2013-06-18 |
審決日 | 2013-07-02 |
出願番号 | 特願2007-264083(P2007-264083) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡田 吉美、加藤 昌伸 |
特許庁審判長 |
西村 仁志 |
特許庁審判官 |
小牧 修 清水 康司 |
発明の名称 | 太陽電池モジュール用裏面充填材シート |
代理人 | 山下 昭彦 |