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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278198
審判番号 不服2012-8191  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-07 
確定日 2013-08-16 
事件の表示 特願2005- 12660「磁気トンネル接合型メモリセルおよびその製造方法、磁気トンネル接合型メモリセルアレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 8月 4日出願公開、特開2005-210126〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年1月20日(パリ条約による優先権主張2004年1月20日、米国)の出願であって、平成22年11月15日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年5月18日に意見書が提出されたが、平成24年1月17日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年5月7日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出されたものである。


第2 平成24年5月7日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲及び明細書を補正しようとするものであり、そのうち、特許請求の範囲の請求項15の補正の内容については、以下のとおりである。

〈補正事項〉
出願当初の願書に添付した特許請求の範囲(以下「補正前」という。)の請求項15の「磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合した上部反強磁性層」を、補正後の請求項15の「厚さの一様な磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」と補正する。

2 補正の目的の適否
上記補正事項は、出願当初明細書の図1の記載に基づいて、補正前の請求項15の「磁化自由層」及び「上部反強磁性層」を、共に「厚さの一様な」(2箇所)と限定的に減縮しようとするものであり、当該構成を技術的に否定しうる記載が出願当初明細書に記載されておらず、また一般的な技術概念と異なるものでもないから、上記補正事項は、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲においてなされたものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。

したがって、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第3項及び第4項第2号に規定する要件を満たす。

そこで、以下、本件補正後の特許請求の範囲に記載された発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定を満たすか)どうかを、請求項15に係る発明について検討する。

3 独立特許要件を満たすかどうかの検討
(1)本願補正発明
本件補正後の請求項15に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項15】
基体と、円形の水平断面を有するように前記基体上に設けられた磁気トンネル接合素子とを含み、
前記磁気トンネル接合素子が、
前記基体の側から、シード層と、下部反強磁性層と、シンセティック反強磁性被固定層と、トンネルバリア層と、厚さの一様な磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層と、保護層とが順に積層されたものであり、
前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている
ことを特徴とする磁気トンネル接合型メモリセル。」

(2)原査定で引用された引用文献の表示
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1?7のうち、引用文献1、引用文献4及び引用文献5は、以下のとおり。
引用文献1:特表2002-520873号公報
引用文献4:特開2003-67904号公報
引用文献5:特開2003-110164号公報

(3)引用刊行物の記載事項
ア 引用刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特表2002-520873号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、「低切替磁界磁性トンネル接合」(発明の名称)に関して、図1、図10とともに、次の記載がある。

(ア) 特許請求の範囲
・ 「【請求項1】 第1(17)および第2(18)抗磁層を備え、第1非磁性導電層(19)を前記第1および第2抗磁層の間に平行並置する第1反強磁性結合多層構造(15)であって、前記第1抗磁層が第1磁気ベクトル(20)を、前記第2抗磁層が第2磁気ベクトル(21)を有し、前記第1および第2磁気ベクトルが磁界が印加されない場合は逆平行になり、前記第1抗磁層は前記第2抗磁層の前記第2磁気ベクトルとは異なる磁界強度において前記第1磁気ベクトルの方向を切り替えるよう構築される第1反強磁性結合多層構造(15);
前記第1反強磁性結合多層構造の前記第1および第2磁気ベクトルの一方と平行な磁気ベクトル(28)を有する少なくとも1つの抗磁層(26)を備える第2構造(12);および
前記第1および第2構造の間に平行並置されて抗磁性トンネル接合部を形成する絶縁材料(13);
によって構成されることを特徴とする低切替磁界磁性トンネル接合メモリ・セル(10)。
【請求項2】 平坦な表面を有する基板(11);および
前記基板の前記平坦面上に支持されメモリ・アレイを構築するよう相互接続される、複数の相互接続された低切替磁界抗磁性トンネル接合メモリ・セル(10)であって、前記複数のセルのうち各セルが5未満のアスペクト比と、円形,ひし形または楕円形のいずれかの上面とを有し、各セルが:
第1(17)および第2(18)抗磁層を備え、第1非磁性導電層(19)を前記第1および第2抗磁層の間に平行並置する第1反強磁性結合多層構造(15)であって、前記第1抗磁層が第1磁気ベクトル(20)を、前記第2抗磁層が第2磁気ベクトル(21)を有し、前記第1および第2磁気ベクトルが磁界が印加されない場合は逆平行になり、前記第1抗磁層は前記第2抗磁層の前記第2磁気ベクトルとは異なる磁界強度において前記第1磁気ベクトルの方向を切り替えるよう構築される第1反強磁性結合多層構造(15);
前記第1反強磁性結合多層構造の前記第1および第2磁気ベクトルの一方と平行な磁気ベクトル(28)を有する少なくとも1つの抗磁層(26)を備える第2構造(12);および
前記第1反強磁性結合構造と第2構造との間に平行並置されて抗磁性トンネル接合部を形成する絶縁材料(13);
によって構成される低切替磁界磁性トンネル接合メモリ・セル(10);
によって構成されることを特徴とする低切替磁界磁性トンネル接合メモリ・セルの高密度アレイ。」

(イ) 発明の背景等
・ 「【発明の詳細な説明】
(技術分野)
本発明は、一般にメモリ・セルのための磁性トンネル接合部に関し、さらに詳しくは、きわめて高密度アレイのメモリ・セルのためのきわめて小型の磁性接合部に関する。
【0001】
(背景技術)
磁気ランダム・アクセス・メモリ(MRAM:magnetic random access memory)とは、大型抗磁性(GMR: giant magnetoresitive)材料または磁性トンネル接合部(MTJ: magnetic tunneling junction)構造,検知線およびワード線を基本的に具備する不揮発性メモリである。MRAMは、メモリ状態を格納するために磁気ベクトルを利用する。GMR材料またはMTJの1層または全層内の磁気ベクトルは、一定の閾値または強度を超えて磁界が磁気材料に印加されると、ある方向から他方向へときわめて迅速に切り替わる。GMR材料またはMTJ内の磁気ベクトルの方向に応じて状態が格納される。たとえば、一方向を論理「0」と定義し、他方向を論理「1」と定義することができる。GMR材料またはMTJは、磁界が印加されなくてもこれらの状態を維持する。GMR材料またはMTJ内に格納される状態は、2つの状態の抵抗の差により、検知線内のセルに検知電流を通過させることによって読み取ることができる。
【0002】
磁気メモリ・セルの非常に密度の高いアレイにおいては、アレイを現在の電子装置に利用できるだけ充分に小型に構築すると、個々のセルの寸法はきわめて小さくなる。個々のセルの寸法が小さくなるにつれて、アスペクト比(長さ/幅の比)が概して小さくなる。2層磁気メモリ・セルたとえば標準的なトンネル・セルにおいては、アスペクト比が5よりも小さくなると、セル内の磁気ベクトルは、非励起(ゼロ磁界)条件において逆平行になる。1996年9月25日に出願され同譲受人に譲渡された同時継続出願「Multi-Layer Magnetic Memory Cells with Improved Switching Characteristics」と題される第08/723,159号には、逆平行磁気ベクトルを伴うセルの読み取り方法が開示される。また1997年4月7日に出願され同譲受人に譲渡された同時継続出願「Magnetic Device Having Multi-Layers with Insulating and Conductive Layers」と題される第08/834,968号においては、2つの磁気層積層部にダミーの磁気層が追加されて2つの磁気層の一方に結合されて、他の磁気層が自由層になる。ダミーの磁気層を用いる方法の欠点は、2つの磁気層間の静磁気作用の打ち消しに依存し、この静磁気作用の強度はセルの幾何学的形状と層間の間隔とに依存することである。これらのパラメータは、臨界寸法が縮むと変わる。
【0003】
また、2層磁気メモリ・セル、たとえば標準的なトンネル・セルにおいては、アスペクト比が5よりも小さくなると、セルの状態を切り替えるために必要な磁界量が劇的に増大する。一般に、セルが小さくなると、セルの層はセルの状態を切り替えるために必要な磁界量を小さくするために、さらに薄くなるが、これは磁気モーメント(材料により決まる)に層の厚みを乗じた値が必要な切り替え磁界を決定するためである。磁気モーメントを小さくするためにより柔軟な磁気材料を用いることもできるが、超小型メモリ・セルについては、切り替え磁界の削減には限界がある。また、セルが小さくなると不安定になる。これは、たとえば、メモリ・セルの寸法が10nm以下の場合、セルの体積に比例する磁化のエネルギ・バリアが体積の減少に伴って減少し、熱変動エネルギすなわちKTに近づくためである。
【0004】
従って、より少ない磁界で書き込む(切替状態を格納する)ことができ、熱変動エネルギにより影響を受けない程の充分な体積を有する磁気ランダム・アクセス・メモリおよびメモリ・セルを提供することがきわめて望ましい。
【0005】
本発明の別の目的は、必要な切替磁界を削減するよう設計される強磁性結合磁気層を伴う新規の改善された多重状態多層磁気メモリ・セルを提供することである。
【0006】
本発明のさらに別の目的は、きわめて小型に、5未満のアスペクト比で作成することができる強磁性結合磁気層を伴う新規の改善された多重状態多層磁気メモリ・セルを提供することである。
【0007】
本発明のさらに別の目的は、磁化のエネルギ・バリアが増大された新規の改善された多重状態多層磁気メモリ・セルを提供することである。」

(ウ) 実施例
・ 「【0009】
基本的には、セル内の状態を切り替えるのに必要とされる磁界は、反強磁性結合多層構造内の2つの抗磁層間の差により表される。また第1および第2構造はそれぞれ、正味の磁気モーメントをほとんど持たず、あるいは持たないように構築することができるので、メモリ・セルの正味の磁気モーメントはほとんどなく、隣接するセルに影響を与えずに隣接セルのより近くに配置することができる。
(実施例)
図1を参照して、図1は本発明による低切替磁界磁性トンネル接合メモリ・セル10の拡大された簡略側面図を示す。磁性トンネル接合部10は、一般に支持基板11上に形成され、基板11上に指示される抗磁構造12と、構造12上に配置される絶縁材料層13と、絶縁材料層13上に、層13を抗磁構造12,15間に挟み込んでトンネル接合部を形成するよう配置される抗磁構造15とを備える。
【0010】
抗磁構造15は、抗磁層17,18の間に平行並置される非磁気導電層19を有する抗磁層17,18を備える反強磁性結合多層構造によって構成される。抗磁層17は、基板11の平面に平行な好適な磁気軸に沿う磁気ベクトル20を有し、抗磁層18は磁気ベクトル21を有する。磁気ベクトル20,21は、抗磁層17,18の間の反強磁性結合および/または約5未満のアスペクト比のために、磁性トンネル接合部10に磁界が印加されない場合に逆平行になる。一般に、約4未満の長さ/幅の比を有するセルにおいては、磁性材料の層(図1では層17,18)は反強磁性結合される。一般的に、この開示に関しては、「反強磁性結合」という用語は、逆平行状態(図1および図2に示される)のいずれか一方が安定であり、平行状態が不安定であって磁気ベクトルは常に逆平行状態に向かって移動する(反対方向を指す)ので、一定の磁界を必要とすることを意味する。抗磁構造15の構造,形状および寸法によっては、ベクトル20,21を形状または磁気結晶異方性により好適な磁気軸に沿うようにすることもできる。
【0011】
たとえば円形のセルの場合は、好適な磁化方向は、一軸結晶磁界異方性(または磁気結晶異方性)により決定することができる。この好適な磁化方向は、バイアス界または高温(たとえば摂氏200ないし300度)で高磁界(たとえば数kOe)において付着させた後で膜をアニーリングすることにより、膜付着中に設定される。正方形またはひし形の場合は、一軸結晶異方性は正方形の対角線方向に沿って設定することができる。楕円形または矩形のセルの場合は、一軸結晶異方性はセルの長軸に沿って設定することができる。ここで述べる好適な特徴は、狭いセル幅において必要な切替磁界を上げることに貢献する形状の影響を最小限に抑え、メモリ・セルが必要とする好適な磁化方向を設定するために磁気結晶異方性を利用することである。
【0012】
また、抗磁層17は、抗磁層18の磁気ベクトル21の切替とは異なる磁界強度において磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される。この特徴は、図1に示されるように層18よりも薄く(より少ない材料で)層17を形成したり、異なる磁化で層17を形成したり(たとえば層18よりも柔軟な磁性材料で層17を形成する)、あるいは寸法と磁化とを組み合わせるなど、いくつかの異なる方法で実現することができる。
【0013】
抗磁層17,18は、それぞれ、ニッケル,鉄,コバルトまたはその中にパラジウムまたはプラチナを有する合金を含むこれらの合金などの強磁性材料の単層とすることができる。あるいは、層17,18のいずれか一方を、1層のコバルト-鉄を覆うニッケル-鉄-コバルト層またはコバルト-鉄およびニッケル-鉄-コバルトや、隣接層との界面にコバルト-鉄を含むコバルト-鉄を含む3層構造などの複合強磁性層とすることができる。非磁性導電層19に適する材料には、銅などの大半の絶縁性導電材料が含まれる。
【0014】
好適な磁気軸に平行な磁気ベクトルを有する少なくとも1つの抗磁層を含む抗磁構造12が基板11上に配置され、絶縁材料層13が構造12,15の間に平行並置されて磁性トンネル接合部10を形成する。図1においては、抗磁構造12は構造15と同様に図示され、非磁性導電層27により隔てられる抗磁層25,26を備える。ここでは、絶縁材料層13に隣接する層17,26のみが磁性トンネル接合部10の磁気抵抗またはモード変化に貢献することに注目されたい。抗磁層26は、一般に磁性トンネル接合部10の動作において好適な磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する。このため、抗磁構造12は、絶縁材料層13に隣接する固定磁気ベクトルを有して磁性トンネル接合部を作成する抗磁層を含む実質的に任意の構造とすることができ、これは実質的にゼロの磁気モーメントを有して隣接セルに対する影響を最小限に抑える。
【0015】
トンネル接合型の磁気セルにおいては、層13は、バリアまたはトンネル層であり、反強磁性層17,26の間にそれがあるために、層17から層26に(またはその逆に)層13を垂直に電流が流れることを可能にするトンネル接合部を生成する。基本的には、磁性トンネル接合部10は、比較的高インピーダンス(ここでは抵抗R)と見えるが、このインピーダンスはセルの正方形の領域と一般的に数千オームたとえば10ないし1000kオームの誘電構造とに依存する。層17,26内の磁化ベクトルが図1に示されるように逆平行の場合は、磁性トンネル接合部10の抵抗は非常に高いままになる。層17,26内の磁化ベクトルが図2に示されるように平行の場合は、抗磁性トンネル接合部10の抵抗Rはかなり下がる。」
・ 「【0021】
次に図10を参照して、本発明による低切替磁界抗磁性トンネル接合メモリ・セル46の高密度アレイ45の簡単な上面図が図示される。アレイ45は、制御電子部と実用的な場合には他の周辺機器とを含む基板構造47上に形成される。また、反強磁性層などが構造12のピン・ベクトル28に対する基板構造47の一部として一定位置に含まれる場合は、層をブランケット層として形成し、各セル46と共働するようにすることもできる。たとえば共通の行にあるセル46は、隣接セルの下部磁気層に接続される上部磁気層を有して、共通の検知線48を形成する。さらに、破線で示されるワード線49が共通行内にあるセル46に結合されて、上記のようにセルに情報を書き込む。セル10の磁気モーメントがゼロあるいは基本的にゼロであるために、この種のセルはきわめて近接して配置することができ、これらのセルのアレイ密度を大幅に大きくすることができる。」

上記(ア)?(ウ)によれば、引用刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「支持基板11と、前記支持基板11上に形成された円形のセルからなる磁性トンネル接合部10とを含み、
前記磁性トンネル接合部10が、
前記支持基板11上に配置される、非磁性導電層27により隔てられる強磁性材料の抗磁層25と強磁性材料の抗磁層26からなり、前記抗磁層26が磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する抗磁構造12と、
前記抗磁構造12上に配置されるトンネル層からなる絶縁材料層13と、
前記絶縁材料層13上に配置される、強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18との間に平行並置される非磁気導電層19とからなり、前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される抗磁構造15とを備え、
前記円形のセルからなる前記抗磁構造15の好適な磁化方向は、一軸結晶磁界異方性により決定することができる
磁性トンネル接合メモリ・セル。」

イ 引用刊行物2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2003-67904号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、「磁気抵抗効果型磁気ヘッドおよびその製造方法」(発明の名称)に関して、図1、図2とともに、次の記載がある。

(ア) 発明の背景等
・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気記録媒体に記録された情報を再生する磁気抵抗効果型磁気ヘッドに関し、特に信号磁界を検出する強磁性層の新規な磁区制御法を用いた磁気抵抗効果型磁気ヘッドとその製造方法に関する。」
・ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】磁気記録再生装置の今後の面記録密度上昇を考えた場合、上述したように、ハードバイアス構造ではバルクハウゼンノイズの抑止と再生感度の確保の両立が、全面磁区制御構造では再生トラック幅の狭小化が実現困難となることが予想される。即ち、従来の磁区制御手段では、今後の高記録密度の磁気記録再生装置に対応可能な再生特性が得られず、新規な磁区制御手段の確立が重要な課題である。これは、現在のCIP(Current in the plane)-GMRヘッドに限らず、次世代ヘッドとして実用化が期待されているCPP(Current perpendicular to the plane)-GMRヘッド、TMR(Tunneling Magnetoresistive)ヘッド等にも共通の課題である。
【0007】従って、本発明の目的は、バルクハウゼンノイズの抑止と、高い再生感度と、実効再生トラック幅の狭小化の全てを満足する磁区制御手段を適用した磁気抵抗効果型磁気ヘッドとその製造方法を提供することにある。」

(イ) 発明の実施の形態
・ 「【0018】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1に、本発明の実施の形態の第一例である、磁気抵抗効果型磁気ヘッドの断面図を示す。ヘッド作製手順の概略を以下に説明する。基板100に、下部シールド110と下部ギャップ120を形成した後、磁気抵抗効果膜130を成膜し、フォトリソグラフィとイオンミリングを用いて所望の形状にパターニングする。次に、磁気抵抗効果膜130の両端部にリフトオフ法を用いて硬磁性膜140と電極150を形成する。更に、上部ギャップ160と上部シールド170を形成する。磁気抵抗効果膜130の詳細な膜構成は、下地層131/第一の反強磁性層132/第一の強磁性層133/非磁性導電層134/第二の強磁性層135/第二の反強磁性層136/保護層137である。第一の強磁性層133はいわゆる固定層に、第二の強磁性層135は自由層に相当する。また、第一の反強磁性層132は、第一の強磁性層133(固定層)の磁化方向を一方向に固着させるのに用いている。一方、第二の反強磁性層136は、第二の強磁性層135(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加しているに過ぎず、第二の強磁性層135の磁化方向は、外部磁界によって容易に回転する。従って、磁気記録媒体からの信号磁界によって、第一の強磁性層133と第二の強磁性層135の相対角度が異なり、これに対応して磁気抵抗効果膜130の電気抵抗が変化し、電磁変換した再生出力が得られる。この時、第二の反強磁性層136により第二の強磁性層135(自由層)に印加される縦バイアス磁界を適切な値にすることで、十分なバルクハウゼンノイズの抑止と高い再生感度を両立することができる。また、硬磁性膜140の配置によって、強磁性自由層端部での磁極の発生を防止し、バルクハウゼンノイズの抑制効果を補強することができる。更に、硬磁性膜140から与えられる静磁界の大きさを、第二の強磁性層135(自由層)の中心領域まで作用せず、第二の強磁性層135(自由層)端部に適切な不感帯を形成させる程度に留めておけば、再生感度を劣化させずに再生実効トラック幅を狭小化することができる。
【0019】ここでは、磁気抵抗効果膜130が、基板100に近い側に第一の強磁性層133を積層する構成を例に挙げたが、積層順を逆にして、下地層131/第二の反強磁性層136/第二の強磁性層135/非磁性導電層134/第一の強磁性層133/第一の反強磁性層132/保護層137としても差し支えない。また、磁気抵抗効果膜130の構成要素である第一の強磁性層133及び第二の強磁性層135は、例えばNiFeやCoFe等の単層膜以外に、CoFe/NiFe等の強磁性多層膜としても差し支えないし、あるいはCoFe/Ru/CoFeのような、いわゆる積層フェリ構成としても構わない。ここでは、CIP-GMRヘッドについて説明したが、以下にCPP-GMR、TMRヘッドの構成について説明する。
【0020】図2に、本発明の実施の形態の第二例である、磁気抵抗効果型磁気ヘッドの断面図を示す。ヘッド作製手順の概略を以下に説明する。基板200に、下部シールドを兼ねる下部電極210を形成した後、磁気抵抗効果膜220を成膜し、フォトリソグラフィとイオンミリングを用いて所望の形状にパターニングする。次に、磁気抵抗効果膜220の両端部にリフトオフ法を用いて第一の保護絶縁膜230/硬磁性膜240/第二の保護絶縁膜250を形成する。更に、上部シールドを兼ねる上部電極260を形成する。磁気抵抗効果膜220の詳細な膜構成は、(1)GMRヘッドの場合、下地層221/第一の反強磁性層222/第一の強磁性層223/非磁性導電層224/第二の強磁性層226/第二の反強磁性層227/保護層228であり、(2)TMRヘッドの場合、下地層221/第一の反強磁性層222/第一の強磁性層223/トンネルバリア層225/第二の強磁性層226/第二の反強磁性層227/保護層228である。第一の強磁性層223はいわゆる固定層に、第二の強磁性層226は自由層に相当する。また、第一の反強磁性層222は、第一の強磁性層223(固定層)の磁化方向を一方向に固着させるのに用いている。一方、第二の反強磁性層227は、第二の強磁性層226(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加しているに過ぎず、第二の強磁性層226の磁化方向は、外部磁界によって容易に回転する。従って、磁気記録媒体からの信号磁界によって、第一の強磁性層223と第二の強磁性層226の相対角度が異なり、これに対応して磁気抵抗効果膜220の電気抵抗が変化し、電磁変換した再生出力が得られる。この時、第二の反強磁性層227により第二の強磁性層226(自由層)に印加される縦バイアス磁界を適切な値にすることで、十分なバルクハウゼンノイズの抑止と高い再生感度を両立することができる。また、硬磁性膜240の配置によって、強磁性自由層端部での磁極の発生を防止し、バルクハウゼンノイズの抑止効果を補強することができる。更に、硬磁性膜240から与えられる静磁界の大きさを、第二の強磁性層226(自由層)の中心領域まで作用せず、第二の強磁性層226(自由層)端部に適切な不感帯を形成させる程度に留めておけば、再生感度を劣化させずに再生実効トラック幅を狭小化することができる。
【0021】ここで、硬磁性膜240の上下を第一の保護絶縁膜230及び第二の保護絶縁膜250で被覆したのは、下部シールドを兼ねる下部電極210と上部シールドを兼ねる上部電極260が短絡するのを防止する為である。従って、第二の保護絶縁膜250は形成しなくても良い。また、基板/下部シールド/下部ギャップ/下部電極/磁気抵抗効果膜のように、下部シールドと下部電極を別々に形成しても何ら差し支えは無く、上部シールド、上部電極についても同様である。また、磁気抵抗効果膜220については、基板200に近い側に第一の強磁性層223を積層する構成を例に挙げたが、積層順を逆にして、下地層221/第二の反強磁性層227/第二の強磁性層226/非磁性導電層224/第一の強磁性層223/第一の反強磁性層222/保護層228、または、下地層221/第二の反強磁性層227/第二の強磁性層226/トンネルバリア層225/第一の強磁性層223/第一の反強磁性層222/保護層228としても差し支えない。また、ここでも磁気抵抗効果膜220の構成要素である第一の強磁性層223及び第二の強磁性層225は、例えばNiFeやCoFe等の単層膜以外に、CoFe/NiFe等の強磁性多層膜としても差し支えないし、あるいはCoFe/Ru/CoFeのような、いわゆる積層フェリ構成としても構わない。」
・ 「【0028】磁気抵抗効果膜の膜構成の一例を以下に示す。()内数値は膜厚を示し、単位はnmである。GMR膜としては、Ta(1)/NiFe(2)/MnPt(12)/CoFe(1.5)/Ru(0.8)/CoFe(2)/Cu(2.1)/CoFe(1)/NiFe(2)/MnIr(8)/Ta(1)、TMR膜としては、Ta(1)/NiFe(2)/MnPt(12)/CoFe(1.5)/Ru(0.8)/CoFe(2)/Al(0.5)酸化/CoFe(1)/NiFe(2)/MnIr(8)/Ta(1)等が好ましい。これらは、制御性、量産効率の観点から、スパッタ法により作製するのが好ましい。強磁性層には、再生出力に大きく作用する磁気抵抗効果膜の抵抗変化率が大きくなるよう、フェルミエネルギーにおけるスピン分極率が高いFe、Co、Niを主成分とする材料を用いる。この組成や膜厚については、抵抗変化率の他に、低磁歪、低保磁力、反強磁性層から付与される大きな結合磁界、再生波形の対称性を確保する為に適宜調整することが望ましい。GMR膜における非磁性導電層には、Cu以外にAgやAuを用いても良い。TMR膜におけるトンネルバリア層は。ここではAl膜を成膜した後チャンバ内に酸素導入する、いわゆる自然酸化法を用いて形成した。他にも、Al、Si、Ta、Mg等を成膜して、酸化物や窒化物を形成しても、あるいは直接Al_(2)O_(3)やAlN、SiO_(2)、SiN、Ta_(2)O_(5)、MgO等を成膜しても差し支えない。
【0029】ここでは,第一の強磁性層(固定層)の磁化方向を一方向に固着させる第一の反強磁性層として、規則系合金MnPt膜を用いた。他にも、Mn-M_(1)で表せる規則系反強磁性膜を用いても良い。ここで、M_(1)はNi、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptのうち少なくとも1つ以上を含む元素から構成される。一方、第二の強磁性層(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加する第二の反強磁性層として、ここでは不規則系MnIr膜を用いた。他の候補としては、Mn-M_(2)で表される不規則系合金反強磁性膜からなり、M_(2)はCr、Fe、Ru、Rh、Pd、Ir、Ptの少なくとも1種類以上の元素により構成される材料を用いても良い。
【0030】良好な再生特性を得る為には、外部磁界が印加されていない状態で、第一の強磁性層(固定層)の磁化方向をABS面に対して垂直方向(以下、素子高さ方向と記す)に、第二の強磁性層(自由層)の磁化方向を磁気記録媒体のトラック方向に向けておく必要がある。これらは、それぞれ第一及び第二の反強磁性層との交換結合による一方向磁気異方性を付与されることによって実現される。これを実現する詳細な説明を、以下実験結果に基づいて行う。」

(ウ)発明の効果
・ 「【0042】
【発明の効果】上述したように、本発明によれば、トラック幅の狭小化が進んでも、高い再生感度と低ノイズを両立する磁気抵抗効果型磁気ヘッドが得られる。即ち、高い面記録密度を達成し、バルクハウゼンノイズがなく、信頼性の高い磁気抵抗効果型磁気ヘッドを提供することができる。」

ウ 引用刊行物3の記載
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2003-110164号公報(以下「引用刊行物3」という。)には、「磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッド」(発明の名称)に関して、図1、図2、図5、図6、図15とともに、次の記載がある。

(ア) 発明の背景等
・ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関し、より詳細には、強磁性トンネル接合型の構造を有し、素子サイズを微細化しても外部磁場に対して高感度を維持できる磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関する。」
・ 「【0015】しかしながら、高密度磁気記録システムや高集積化磁気メモリに用いられるような小さな磁気抵抗効果素子が有する微小な強磁性体においては、例えばその短軸の幅が数ミクロンからサブミクロン程度になると、磁化領域の端部においては「反磁場」の影響により、磁性体の中央部分の磁気的構造とは異なる磁気的構造が生じることが知られている。このような端部の磁気的構造は、「エッジドメイン」と呼ばれている(例えば、J. App. Phys., 81, p.5471 (1997) 参照)。
【0016】図15は、このようなエッジドメインを有する磁気構造を例示する模式図である。同図(a)及び(b)に表したいずれの磁気構造においても、磁化領域の中央部分においては磁気異方性にしたがった方向に磁化M1が生じるが、両端部においては、中央部分と異なる方向に磁化M2?M5が生じる。ここで、図15(a)に例示したような磁区構造を「S型構造」、図15(b)に例示したような磁区構造を「C型構造」と称する。
【0017】高密度磁気記録システムや高集積化磁気メモリのセルに用いられるような微小な磁性体においては、その端部に生ずるエッジドメインの影響が大きく、磁化反転における磁気的構造パターンの変化が複雑になる。その結果、保磁力が大きくなり、またスイッチング磁場が増大するという問題がある。」
・ 「【0019】本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、その目的は、あらたに構造を付加することなく、上述の如き微小な磁気検出素子や磁気メモリセルなどにおいて安定な磁気的構造をもつ磁気抵抗効果素子を提供することにより、磁場検出あるいはセルに情報を書き込む際に必要なスイッチング磁場を低減することができる磁気抵抗効果素子を提供することにある。
【0020】さらに本発明は、そのような磁気抵抗効果素子を用いたランダムアクセス可能な非破壊磁気メモリや磁気ヘッドを提供することも目的とする。」

(イ) 発明の実施の形態
・ 「【0035】図1は、本発明の第1の実施の形態にかかる磁気抵抗効果素子の要部断面構造を例示する模式図である。
【0036】すなわち、本発明の磁気抵抗効果素子は、磁性積層膜1と強磁性体膜3との間に絶縁膜2が挿入された強磁性トンネル接合構造を有する。磁性積層膜1は、それ全体として、強磁性的な特性を有し、従来の強磁性トンネル接合構造においては、単一の強磁性体膜として設けられていたものに対応する。つまり、絶縁膜2をトンネルして磁性積層膜1と強磁性体膜3との間を電流が流れ、接合抵抗値は、磁性積層膜1と強磁性体膜3の磁化の相対角度の余弦に比例して変化する。
【0037】後に詳述するように、例えば、磁気検出素子として用いる場合には、磁性積層膜1を「磁化自由層」、強磁性体膜3を「磁化固着層」とすることができる。また、磁気メモリ素子として用いる場合には、磁性積層膜1を「記憶層」、強磁性体膜3を「基準層」とすることができる。
【0038】さて、本発明の第1の実施形態においては、このような強磁性トンネル接合素子の磁性積層膜1を、強磁性体層1A/反強磁性体層1B/強磁性体層1Cという積層構造にする。但し、図1の積層構造は、上下を反転させたものでもよい。つまり、絶縁膜2の下側に磁性積層膜1を設け、上側に強磁性体膜3を設けてもよい。
【0039】図2は、磁性積層膜1の積層構造を拡大して表す模式図である。本発明者は、このような積層構造の磁気特性について詳細に検討し、独自の知見を得た。
【0040】まず、その強磁性体層1A、1Cの材料としてCo_(90)Fe_(10)を用い、それらの間に介在する反強磁性体層1BとしてIrMnを用いた。また,強磁性体層1A、1Cの厚さはそれぞれ2nmと3nmとし、反強磁性層1Bの厚さは1nmとした。また,この積層膜は、幅Wが0.1μm、長さLが0.3μmであり、アスペクト比1:3の長方形である。また、強磁性体層1A、1Cと反強磁性体層1Bとの間の交換結合として、30 Oe(エルステッド)の大きさを想定した。」
・ 「【0050】ところで、反強磁性体層1Bを介した交換結合については、保磁力が大きくならないようにするために、またヒステリシスの原点からのシフトが大きくなりすぎないように、大きさの範囲を限定する必要がある。
【0051】図5は、交換結合の大きさHexと保磁力Hcとの関係を表すグラフ図である。同図においては、図2に表した本発明の磁性積層膜1を実線で表し、比較例として単一の強磁性体層の場合を破線でそれぞれ表した。
【0052】同図から分かるように、単一の強磁性体層の場合(破線)は、保持力Hcが300 Oeで一定となる。これに対して、本発明の磁性積層膜においては、交換結合の大きさHexがゼロ近傍において保磁力Hcの最小値があり、Hexが300 Oe程度までは、保磁力Hcが十分小さい。そして、さらにHexが大きくなると保持力Hcは増加し、Hexがおよそ1kOeを超えると単一層(破線)よりも大きい値を示すようになる。
【0053】従って、磁気抵抗効果素子における磁性積層膜1の反転磁化、すなわちスイッチング磁場の低減をはかるには、交換結合の大きさとして1kOe以下であることが必要であり、望ましくは400 Oe以下、さらに望ましくは100 Oeとするとよい。
【0054】また、磁性積層膜1のスイッチング磁場の大きさは、2つの強磁性体層1A、1Cの厚さがそれぞれ 2.0nm、3.0nmの場合よりも1.0nmの場合の方が小さくなるので、強磁性体層1A、1Cの厚さは薄いことが望ましく、3nm以下が特に好適である。
【0055】本発明者は、本実施形態の磁性積層膜1について、強磁性体層1A、1Cにおける磁化のつくる磁気構造(磁区パターン)についても調べた。
【0056】図6(a)は、交換結合の大きさHexが30Oeの場合の強磁性体層1A、1Cにおける磁区パターンを表す模式図である。
【0057】同図から分かるように、強磁性体層1A、1Cの磁化は全体としてほぼ一方向を向いており、端部のエッジドメインはそれほど広い領域を占めていない。
【0058】一方、図6(b)は、比較例としての単一の強磁性体層における磁区パターンを表す模式図である。この場合には、中央部分と異なる磁化方向が端部にはっきりと見られ、明瞭な「エッジドメイン」が存在することが分かる。
【0059】一般的に、エッジドメインの存在によってTMR(トンネリング磁気抵抗)効果は低下するため、エッジドメインは小さいほうがよい。本発明によれば、単一の強磁性体層と比べて、エッジドメインのサイズを十分に小さくすることができる。」

(ウ) 発明の効果
・ 「【0112】
【発明の効果】以上詳述したように、本発明によれば、保磁力が小さく、したがってスイッチング磁場が小さい磁気抵抗効果素子を提供することができる。
【0113】すなわち、本発明によれば、磁性積層膜と、強磁性体膜と、前記磁性積層膜と前記強磁性体膜との間に設けられた絶縁膜と、を備え、前記絶縁膜をトンネルして前記磁性積層膜と前記強磁性体膜との間に電流が流れるトンネル接合型の磁気抵抗効果素子であって、前記磁性積層膜は、第1の強磁性体層と、第2の強磁性体層と、これら第1及び第2の強磁性体層の間に挿入された反強磁性体層と、を有することを特徴とする磁気抵抗効果素子を提供することにより、保磁力が小さく、したがってスイッチング磁場が小さい磁気抵抗効果素子を提供することができる。」
・ 「【0115】一方、本発明の磁気抵抗効果素子を磁気メモリのメモリセルに用いた場合、磁化反転に必要な磁場を生成するための書き込み電流を小さくすることができる。従って、本発明の素子をメモリセルとした磁気メモリは、消費電力が少なく、高集積化が可能であり、かつ、スイッチング速度をはやくすることが可能となる。
【0116】また、本発明の磁気抵抗効果素子を磁気記録システムにおける再生用の磁気検出素子として用いた場合には、記録密度の高密度化に対応して検出素子のサイズを微細化しても高い再生感度を確保でき、超記録密度の磁気記録システムを実現可能とすることができる。
【0117】すなわち、磁気抵抗効果素子を用いた高集積度の磁気メモリや、超高密度磁気記録システムを実現することができ、産業上のメリットは多大である。」

(4)対比
ア 本願補正発明と引用発明との対比
(ア) 引用発明の「支持基板11」は、本願補正発明の「基体」に相当する。
(イ) 引用発明の「前記支持基板11上に形成された円形のセルからなる磁性トンネル接合部10」において、引用発明の「円形のセル」は、その水平断面も「円形」であることは明らかである。そして、引用発明の「磁性トンネル接合部10」は、本願補正発明の「磁気トンネル接合素子」に対応するので、引用発明の「前記支持基板11上に形成された円形のセルからなる磁性トンネル接合部10」は、本願補正発明の「円形の水平断面を有するように前記基体上に設けられた磁気トンネル接合素子」に相当する。
(ウ) 引用発明の「非磁性導電層27により隔てられる強磁性材料の抗磁層25と強磁性材料の抗磁層26からなり、前記抗磁層26が磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する抗磁構造12」において、引用発明の「非磁性導電層27により隔てられる強磁性材料の抗磁層25と強磁性材料の抗磁層26からな」ることは、本願補正発明の「シンセティック反強磁性」「層」に対応し、引用発明の「前記抗磁層26が磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する」ことは、本願補正発明の「固定層」であることに対応するので、引用発明の「非磁性導電層27により隔てられる強磁性材料の抗磁層25と強磁性材料の抗磁層26からなり、前記抗磁層26が磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する抗磁構造12」は、本願補正発明の「シンセティック反強磁性被固定層」に相当する。
(エ) 引用発明の「トンネル層からなる絶縁材料層13」は、本願補正発明の「トンネルバリア層」に相当する。
(オ) 引用発明の「強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18との間に平行並置される非磁気導電層19とからなり、前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される抗磁構造15」において、引用発明の「前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される」ことは、本願補正発明の「磁化自由層」であることに対応し、引用発明の「強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18との間に平行並置される非磁気導電層19とからな」る層における各層の厚さは、引用刊行物1の図1の記載を参照すると、特段、各層の厚さを変えておらず、全体として厚さが一様であることは、明らかであり、また、引用刊行物1には、厚さを変化させる旨の記載も示唆もないので、引用発明の「強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18の間に平行並置される非磁気導電層19とからなり、前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される抗磁構造15」は、本願補正発明の「厚さの一様な磁化自由層」に相当する。
(カ) 上記(ア)?(オ)の記載をまとめると、引用発明の「前記磁性トンネル接合部10が、前記支持基板11上に配置される、非磁性導電層27により隔てられる強磁性材料の抗磁層25と強磁性材料の抗磁層26からなり、前記抗磁層26が磁気軸に沿う1方向に固定される磁気ベクトル28を有する抗磁構造12と、前記抗磁構造12上に配置されるトンネル層からなる絶縁材料層13と、前記絶縁材料層13上に配置される、強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18との間に平行並置される非磁気導電層19とからなり、前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される抗磁構造15とを備え」ることは、本願補正発明の「前記基体の側から、」「シンセティック反強磁性被固定層と、トンネルバリア層と、厚さの一様な磁化自由層と」「が順に積層されたものであ」ることに相当する。
(キ) 引用発明の「前記円形のセルからなる前記抗磁構造15の好適な磁化方向は、一軸結晶磁界異方性により決定することができること」において、引用発明の「一軸結晶磁界異方性」は、本願補正発明の「一軸磁気異方性」に対応するので、引用発明の「前記円形のセルからなる前記抗磁構造15の好適な磁化方向は、一軸結晶磁界異方性により決定することができる」は、本願補正発明の「前記磁化自由層が、」「一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことに相当する。
(ク) 引用発明の「磁性トンネル接合メモリ・セル」は、本願補正発明の「磁気トンネル接合型メモリセル」に相当する。

イ 一致点及び相違点
上記「ア(ア)」?「ア(ク)」から、本願補正発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

(ア) 一致点
「基体と、円形の水平断面を有するように前記基体上に設けられた磁気トンネル接合素子とを含み、
前記磁気トンネル接合素子が、
前記基体の側から、シンセティック反強磁性被固定層と、トンネルバリア層と、厚さの一様な磁化自由層とが順に積層されたものであり、
前記磁化自由層が、一軸磁気異方性を示すように構成されている
磁気トンネル接合型メモリセル。」

(イ) 相違点
a 相違点1
本願補正発明は、「シード層」を有するのに対して、引用発明は、「シード層」を有するのかどうか不明である点。
b 相違点2
本願補正発明は、「下部反強磁性層」を有するのに対して、引用発明は、「下部反強磁性層」を有するのかどうか不明である点。
c 相違点3
本願補正発明は、「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」を有するのに対して、引用発明は、このような構成を有していない点。
d 相違点4
本願補正発明は、「保護層」を有するのに対して、引用発明は、「保護層」を有するのかどうか不明である点。
e 相違点5
本願補正発明は、「前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」のに対して、引用発明は、本願補正発明の「前記磁化自由層が、」「一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことに対応する構成を有しているものの、引用発明の「一軸結晶磁界異方性」は、本願補正発明の「前記上部反強磁性層との交換結合によ」るものではない点。

(5) 相違点1?5についての判断
ア 相違点1、2、4について
(ア) 引用刊行物1には、「低切替磁界抗磁性トンネル接合メモリ・セル46の高密度アレイ45・・(略)・・は、制御電子部と実用的な場合には他の周辺機器とを含む基板構造47上に形成される。また、反強磁性層などが構造12のピン・ベクトル28に対する基板構造47の一部として一定位置に含まれる場合は、層をブランケット層として形成し、各セル46と共働するようにすることもできる。」(【0021】)との記載があり、「反強磁性層などが構造12のピン・ベクトル28に対する基板構造47の一部として一定位置に含」むことがあることを示している。そして、複数のトンネル接合メモリ・セル46を高密度アレイ45として形成する場合、「反強磁性層」を、引用発明の抗磁構造12の下部にブランケット層として配置することが説明されているものの、「反強磁性層」を、複数のメモリ・セルに共通するブランケット層として限定されるものではないことも明らかである。
したがって、上記引用刊行物1に記載の「反強磁性層」は、本願補正発明の「下部反強磁性層」に対応するものである。
(イ) また、引用刊行物2には、「(2)TMRヘッドの場合、下地層221/第一の反強磁性層222/第一の強磁性層223/トンネルバリア層225/第二の強磁性層226/第二の反強磁性層227/保護層228である。第一の強磁性層223はいわゆる固定層に、第二の強磁性層226は自由層に相当する。また、第一の反強磁性層222は、第一の強磁性層223(固定層)の磁化方向を一方向に固着させるのに用いている。一方、第二の反強磁性層227は、第二の強磁性層226(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加しているに過ぎず、第二の強磁性層226の磁化方向は、外部磁界によって容易に回転する。」(【0020】)、「磁気抵抗効果膜220の構成要素である第一の強磁性層223及び第二の強磁性層225は、例えばNiFeやCoFe等の単層膜以外に、CoFe/NiFe等の強磁性多層膜としても差し支えないし、あるいはCoFe/Ru/CoFeのような、いわゆる積層フェリ構成としても構わない。」(【0021】)、「磁気抵抗効果膜の膜構成の一例を以下に示す。()内数値は膜厚を示し、単位はnmである。・・・TMR膜としては、Ta(1)/NiFe(2)/MnPt(12)/CoFe(1.5)/Ru(0.8)/CoFe(2)/Al(0.5)酸化/CoFe(1)/NiFe(2)/MnIr(8)/Ta(1)等が好ましい。」(【0028】)ことが、記載されている。
(ウ) そして、上記(イ)の引用刊行物2に記載されている、「下地層221」(「Ta(1)/NiFe(2)」)、「第一の反強磁性層222」(「MnPt(12)」)、「第一の強磁性層223」(「CoFe(1.5)/Ru(0.8)/CoFe(2)」)、「トンネルバリア層225」(「Al(0.5)酸化」)、「第二の強磁性層226」(「CoFe(1)/NiFe(2)」)、「第二の反強磁性層227」(「MnIr(8)」)、「保護層228」(「Ta(1)」)は、それぞれ、本願補正発明の「シード層」、「下部反強磁性層」、「固定層」、「トンネルバリア層」、「厚さの一様な磁化自由層」、「厚さの一様な上部反強磁性層」、「保護層」に対応する。
(エ) ここで、上記(ウ)の引用刊行物2に記載されている、「下地層221」、「第一の反強磁性層222」、「保護層228」の各層、又は、上記(ア)の引用刊行物1に記載の「反強磁性層」は、いずれも、トンネルバリア層を有する磁気抵抗効果素子(本願補正発明の「磁気トンネル接合素子」に対応)において配置される層として、周知のものである。
(オ) また、引用刊行物3の「本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関し、より詳細には、強磁性トンネル接合型の構造を有し、素子サイズを微細化しても外部磁場に対して高感度を維持できる磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関する。」(【0001】)との記載にあるように、同一の強磁性トンネル接合素子からなる磁気抵抗効果素子を、磁気メモリ、及び、磁気ヘッドのいずれにも用いることは、周知の技術である。
(カ) したがって、引用発明の「磁性トンネル接合部10」において、上記(オ)の引用刊行物3に記載されている周知技術を加味し、引用刊行物2、又は、引用刊行物1に記載されているような周知技術である「下地層221」、「第一の反強磁性層222」又は「反強磁性層」、「保護層228」を採用して、本願補正発明の「シード層」と、「下部反強磁性層」と、「保護層」を設けるようになすことは、当業者が適宜設定できた程度のことと認められる。

イ 相違点3、5について
(ア) 引用刊行物2には、「(2)TMRヘッドの場合、下地層221/第一の反強磁性層222/第一の強磁性層223/トンネルバリア層225/第二の強磁性層226/第二の反強磁性層227/保護層228である。第一の強磁性層223はいわゆる固定層に、第二の強磁性層226は自由層に相当する。また、第一の反強磁性層222は、第一の強磁性層223(固定層)の磁化方向を一方向に固着させるのに用いている。一方、第二の反強磁性層227は、第二の強磁性層226(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加しているに過ぎず、第二の強磁性層226の磁化方向は、外部磁界によって容易に回転する。」(【0020】)、「磁気抵抗効果膜の膜構成の一例を以下に示す。()内数値は膜厚を示し、単位はnmである。」「TMR膜としては、Ta(1)/NiFe(2)/MnPt(12)/CoFe(1.5)/Ru(0.8)/CoFe(2)/Al(0.5)酸化/CoFe(1)/NiFe(2)/MnIr(8)/Ta(1)等が好ましい。」(【0028】)、「良好な再生特性を得る為には、外部磁界が印加されていない状態で、第一の強磁性層(固定層)の磁化方向をABS面に対して垂直方向(以下、素子高さ方向と記す)に、第二の強磁性層(自由層)の磁化方向を磁気記録媒体のトラック方向に向けておく必要がある。これらは、それぞれ第一及び第二の反強磁性層との交換結合による一方向磁気異方性を付与されることによって実現される。」(【0030】)ことが、記載されている。
(イ) 上記(ア)の引用刊行物2に記載されている、「第二の強磁性層(自由層)」(「第二の強磁性層226」)、(「第二の強磁性層(自由層)」に)「交換結合による一方向磁気異方性を付与」する「第二の反強磁性層227」は、それぞれ、本願補正発明の「厚さの一様な磁化自由層」、「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」に対応する。
また、引用刊行物2の「第二の反強磁性層227は、第二の強磁性層226(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加しているに過ぎず、第二の強磁性層226の磁化方向は、外部磁界によって容易に回転する」、「外部磁界が印加されていない状態で、」「第二の強磁性層(自由層)の磁化方向を磁気記録媒体のトラック方向に向けておく必要がある」、(第二の強磁性層(自由層)に)「第二の反強磁性層との交換結合による一方向磁気異方性を付与されることによって実現される」という記載において、「第二の反強磁性層227は、第二の強磁性層226(自由層)に比較的小さな縦バイアス磁界を印加」して、「第二の反強磁性層との交換結合による一方向磁気異方性を付与される」ことは、本願補正発明の「前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことに対応する。
(ウ) そして、引用刊行物3には、「磁気抵抗効果素子は、磁性積層膜1と強磁性体膜3との間に絶縁膜2が挿入された強磁性トンネル接合構造を有する。」(【0036】)、「磁気メモリ素子として用いる場合には、磁性積層膜1を「記憶層」、強磁性体膜3を「基準層」とすることができる。」(【0037】)、「強磁性トンネル接合素子の磁性積層膜1を、強磁性体層1A/反強磁性体層1B/強磁性体層1Cという積層構造にする。」(【0038】)、「強磁性体層1A、1Cと反強磁性体層1Bとの間の交換結合として、30 Oe(エルステッド)の大きさを想定した。」(【0040】)、「図6(a)は、交換結合の大きさHexが30Oeの場合の強磁性体層1A、1Cにおける磁区パターンを表す模式図である。」(【0056】)、「同図から分かるように、強磁性体層1A、1Cの磁化は全体としてほぼ一方向を向いており、端部のエッジドメインはそれほど広い領域を占めていない。」(【0057】)ことが、記載されている。
(エ) 引用刊行物3の上記(ウ)の記載において、「強磁性体層1C」と、「強磁性体層1A、1Cと反強磁性体層1Bとの間の交換結合」を行う「反強磁性体層1B」は、それぞれ、本願補正発明の「厚さの一様な磁化自由層」、「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」に対応する。
また、引用刊行物3の「強磁性体層1A、1Cと反強磁性体層1Bとの間の交換結合として、30 Oe(エルステッド)の大きさを想定した」、「図6(a)は、交換結合の大きさHexが30Oeの場合の強磁性体層1A、1Cにおける磁区パターンを表す模式図である」、「強磁性体層1A、1Cの磁化は全体としてほぼ一方向を向いて」いることは、本願補正発明の「前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことに対応する。
(オ) さらに、引用刊行物3に記載されている「本発明は、磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関し、より詳細には、強磁性トンネル接合型の構造を有し、素子サイズを微細化しても外部磁場に対して高感度を維持できる磁気抵抗効果素子、磁気メモリ及び磁気ヘッドに関する。」(【0001】)のように、強磁性トンネル接合素子からなる磁気抵抗効果素子を、磁気メモリにも、磁気ヘッドにも用いることができることは、周知の技術事項である。
(カ) したがって、上記の(イ)、(エ)に記載されているような、「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」と、「磁化自由層が、上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことは、いずれも、周知技術である。
なお、以下、「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」を第1の周知技術、「磁化自由層が、上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」ことを第2の周知技術という。
(キ) 引用発明の「強磁性材料の抗磁層17と強磁性材料の抗磁層18の間に平行並置される非磁気導電層19とからなり、前記抗磁層17が磁気ベクトル20の方向を切り替えるよう構築される抗磁構造15」は、「円形のセルからなる前記抗磁構造15の好適な磁化方向は、一軸結晶磁界異方性により決定する」ものであるから、上記(オ)で示した引用刊行物3の記載の周知技術を加味し、上記(カ)に記載の第1の周知技術を適用することにより、本願補正発明の「磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」を有するようになし、その際、引用発明の「前記抗磁構造15の好適な磁化方向」を、「一軸結晶磁界異方性により決定する」構成として、上記(カ)に記載の第2の周知技術を適用することにより、本願補正発明の「前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている」ようになすことは、当業者が適宜なし得たことと認められる。

したがって、引用発明の「磁性トンネル接合部10」において、周知技術である「下地層221」、「第一の反強磁性層222」又は「反強磁性層」、「保護層228」を採用する際に、引用刊行物2及び引用刊行物3の周知技術を加味し、引用刊行物2に記載の「下地層221/第一の反強磁性層222/第一の強磁性層223/トンネルバリア層225/第二の強磁性層226/第二の反強磁性層227/保護層228」のような周知の積層順を採用して、本願補正発明のような「前記基体の側から、シード層と、下部反強磁性層と、シンセティック反強磁性被固定層と、トンネルバリア層と、厚さの一様な磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層と、保護層とが順に積層されたもの」となすことも、当業者が適宜なし得たことと認められる。

(6) まとめ
以上のとおり、引用発明において、上記相違点1?5に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであり、本願補正発明は、引用刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の却下の決定の結論
よって、本件補正は、平成18年法律55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により、却下すべきものである。


第3 本願発明
1 上記「第2」補正の却下の決定での検討のとおり、平成24年5月7日に提出された手続補正書による本件補正は却下されたので、本願の請求項1?18に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?18に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項15に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項15】
基体と、円形の水平断面を有するように前記基体上に設けられた磁気トンネル接合素子とを含み、
前記磁気トンネル接合素子が、
前記基体の側から、シード層と、下部反強磁性層と、シンセティック反強磁性被固定層と、トンネルバリア層と、磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合した上部反強磁性層と、保護層とが順に積層されたものであり、
前記磁化自由層が、前記上部反強磁性層との交換結合によって一軸磁気異方性を示すように構成されている
ことを特徴とする磁気トンネル接合型メモリセル。」

2 引用刊行物の記載事項
引用刊行物1の記載事項及び引用発明、並びに引用刊行物2、3の記載事項については、前記「第2 3 (3)ア」?「第2 3 (3)ウ」のとおりである。

3 対比・判断
前記「第2 1〈補正事項〉」及び「第2 2」で検討したように、本願補正発明は、補正前の請求項15に係る発明の「磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合した上部反強磁性層」について、「厚さの一様な磁化自由層と、この磁化自由層と交換結合し、厚さの一様な上部反強磁性層」と限定したものであるから、補正前の請求項15に係る発明(本願発明)は、本願補正発明から、上記2箇所の「厚さの一様な」という限定をなくしたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、これをより限定したものである本願補正発明が、前記「第2 3」において検討したとおり、引用刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 結言
以上のとおり、本願発明は、引用刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する
 
審理終結日 2013-03-21 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-08 
出願番号 特願2005-12660(P2005-12660)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 正山 旭  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 早川 朋一
西脇 博志
発明の名称 磁気トンネル接合型メモリセルおよびその製造方法、磁気トンネル接合型メモリセルアレイ  
代理人 三反崎 泰司  

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