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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1278275
審判番号 不服2010-27453  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-03 
確定日 2013-07-10 
事件の表示 平成10年特許願第550494号「薬用エアゾール製品」拒絶査定不服審判事件〔平成10年11月26日国際公開、WO98/52542、平成13年12月18日国内公表、特表2001-526685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、1998年5月18日(パリ条約による優先権主張1997年5月21日及び1998年2月25日、いずれも英国)を国際出願日とする出願であって、平成22年7月22日付けで拒絶査定がなされ、同年12月3日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?10に係る発明は、平成21年12月22日付け手続補正書の特許請求の範囲1?10に記載された事項により特定されたものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。なお、手続補正書で付されている下線は省略した。
「1.溶解させたシクレソニド1?8mg/mlと、
1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンおよびこれらの混合物からなる群から選択される噴射剤と、
3?25重量%のエタノール
とを含むエアゾール製剤。」

第3 刊行物の記載
これに対し、原査定の拒絶の理由に引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である、特開平4-257599号公報、及び国際公開第96/29985号(以下、それぞれ「引用例1」及び「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、引用例2は英文であるため訳文を示し、引用例1及び2の下線は当審で付した。

1 引用例1
(1) 「【請求項5】 式、
【化4】

[式中、R_(1)は、
【化5】

からなる群から選択された1種であり、そしてR_(2)は
【化6】

からなる群から選択された1種である]の化合物。
……(略)……
【請求項12】 活性成分としてジアステレオアイソマー混合物の形態または(22R)-エピマーの形態または(22S)-エピマーの形態としての請求項1?8記載の化合物を含有することを特徴とする局所グルココルチコイド薬理学的活性を有する医薬組成物。」(特許請求の範囲)
(2) 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、薬理学的に活性な化合物およびその化合物を製造する方法およびその化合物の中間体を提供することを目的とするものである。本発明は、また、この化合物を含有する医薬組成物および炎症疾患の治療におけるこの化合物の使用に関するものである。さらに、本発明の目的は、適用部位における高い抗炎症活性と低い全身グルココルチコイド活性とを兼ね備えたグルココルチコイドを提供しようとするものである。」
(3) 「【0046】……(略)……活性物質は、溶液、連続分散相または微小固体として医薬組成物中に存在させることができる。……(略)……
【0047】
【実施例】本発明をさらに次の例により説明するが、これらの例は特定されない。……(略)……HPLC分析は、次の条件下で遂行した。
……(略)……
移 動 相:エタノール:水(1分当り0.5ml)
温 度:35℃
射 出:2mg/mlのエタノール溶液5μl
……(略)……」
(4) 「【0051】(22R、S)-および(22S)-誘導体の形成
例5
(22R、S)-16,17[[シクロヘキシルメチリジン]ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソ-プロポキシ(11β、16α)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオンの合成
……(略)……
(22R、S)-16,17-[(シクロヘキシルメチリジン)-ビス(オキシ)]-11-ヒドロキシ-21-(2-メチル-1-オキソ-プロポキシ)(11β、16α)-プレグナ-1,4-ジエン-3,20-ジオン8gを得る。
【0052】このエピマーの混合物は……(略)……移動相としてエタノール/水を使用した分取用HPLCによって分割しそして99%より大なる純度で実際に純粋な(22R)-エピマーおよび(22S)-エピマーを得ることができる。」
(5) 「【0059】……(略)……化合物の構造およびこれらの化合物のもっとも有意な分光性質は、表IIに示される通りである。
【0060】
【表II】



2 引用例2
(1) 「1.1,1,1,2-テトラフルオロエタンと1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンとそれらの混合物とからなる群から選択されるハイドロフルオロカーボンを含有する噴射剤系と、製剤中に溶解される量が治療上有効量であるブチクソコートプロピオネートとを含有する溶液エアゾール製剤。
……(略)……
7.エタノールをさらに含有する請求の範囲第1項に記載のエアゾール製剤。
15.気管支喘息に関連する炎症を抑制するのに十分な量の請求の範囲第1項に記載の製剤を、吸入を介して投与することを含む、気管支喘息を治療する方法。」(請求の範囲)
(2) 「本発明の溶液製剤は好適な安定性を示し、さらに粒子の大きさの増大に伴う問題点を排除するものである。本発明は、投与量の均一性に影響を与える、噴射剤からの薬剤の急速凝集沈殿、不可逆的粒子凝集および大量分離のような、懸濁エアゾール剤が直面する他の問題(クリーム分離または沈降)をも排除する。」(2頁22?26行)
(3) 「本発明の製剤中で使用される好ましい可溶化剤はエタノールである。しかしながら、エタノールは過剰量が使用される場合、薬剤の吸入可能な分画を減少させることがわかっている。本発明の製剤は、好ましくは、製剤中でブチクソコートプロピオネートをさらに溶解するのに効果的であるが、吸入可能な分画の減少を生じない量のエタノールを含有する。好ましくは、エタノールは重量で製剤の総重量の約3%?約30%を構成する。さらに好ましくは、エタノールは重量でエアゾール製剤の約8%?約16%を構成する。」(4頁9?16行)
(4) 「実施例1
ブチクソコートプロピオネート(50mg)とエタノール(1g)を10mLのアルミニウム製のエアゾールバイアル中に入れる。バイアルをドライアイス/トリクロロメタン浴中で約-78℃まで冷却し、次いで冷却したP134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン,8.95g)を充填した。この結果得られる製剤は、ブチクソコートプロピオネートを重量で0.5%、エタノールを重量で10%およびP134aを重量で89.5%含有した。……(略)……上記試験方法と略楕円形の流出口0.422mm(0.0166in)×0.478mm(0.0188in)を備える噴霧装置とを用いたとき、吸入され得る分画は42%であった。この製剤について、略楕円形の流出口0.22mm(0.0086in)×0.25mm(0.0098in)(型番M3756,3M社)を備える噴霧装置を用いて吸入され得る分画を試験した。吸入され得る分画は69%であった。
実施例2
ブチクソコートプロピオネート(50mg)とエタノール(1g)とを10mLのアルミニウム製のエアゾールバイアル中に入れた。バイアルを連続弁で密封してから、P227(1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン,8.95g)を充填した。この結果得られる製剤はブチクソコートプロピオネートを重量で0.5%、エタノールを重量で10%およびP227を重量で89.5%含有した。……(略)……上記の方法を用いて吸入され得る分画を測定したところ、45%であった。」(11頁3行?12頁9行)
(5) 「実施例3?10
エタノールを重量で10パーセントと、ブチクソコートプロピオネートを0.5パーセントと、(以下の表3に示すように)P134aまたはP227のいずれかとを含有する溶液製剤を調製し、以下の表3に示す種々のエアゾールバイアル中に入れた。盲口金を用いてバイアルを密封した。バイアルを40℃で、1ヶ月間保存してから、上記の方法に従って、分解不純物の割合および薬剤含量を分析した。結果を以下の表3に示すが、表中の各値は3個のバイアルの平均値である。」(12頁11?18行)
(6) 表3(13頁に、実施例3?10について、噴射剤の種類、バイアルの種類、及び薬剤含量とともに、最初と1ヶ月時点の不純物の割合が記載されている。)
(7) 「実施例11?50
表4に記載する溶液製剤を調製し、隔膜とニトリルゴム(……(略)……)のシールとを備えるエアゾールバイアル中に入れ、40℃で保存し、上記の方法に従って薬剤回収率を試験した。各記入値は3回の測定値の平均を表す“%w/w”の表示は、製剤の総重量に対する指定された化合物の重量による割合を示す。バイアルの種類は上記の表3に記載されるものである。」(14頁1?8行)
(8) 表4(14頁?16頁に、実施例11?50について、バイアルの種類、2種の噴射剤の重量%割合、エタノールの重量%、水の重量%、及びソルビタントリオレイン酸の重量%とともに、安定性の結果として10ヶ月時点の回収率が示されている。)

第4 引用発明の認定、対比
1 引用発明の認定
上記第3の摘示事項1(1)には、式(II)で表される構造を有する化合物を含有する医薬組成物が記載されており、また、摘示事項1(4)及び(5)において、具体的に製造された、上記式(II)で表される構造を有する化合物が記載されているところ、その置換基として、上記式(II)のR_(1)がシクロヘキシル、R_(2)が-CO-CH(CH_(3))_(2)であるものに相当する化合物が記載されている。そして、当該構造を有する化合物はシクレソニドにほかならない。
したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「シクレソニドを含む医薬組成物。」

2 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比すると、両者はシクレソニドを含む点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点>
相違点1 本願発明は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンおよびこれらの混合物からなる群から選択される噴射剤と、3?25重量%のエタノールとを含み、シクレソニドが溶解されたエアゾール製剤であるのに対し、引用発明は医薬組成物である点。
相違点2 本願発明はシクレソニドを1?8mg/ml含むのに対し、引用発明ではシクレソニドの含有量が限定されていない点。

第5 相違点についての判断
上記相違点について、以下、検討する。
1 相違点1について
(1) 上記第3の摘示事項1(1)及び(2)によれば、シクレソニドは適用部位における高い抗炎症活性と低い全身グルココルチコイド活性とを兼ね備えたものであって、局所グルココルチコイド活性を示すものと認められる。
また、喘息治療におけるグルココルチコイドに関して記載された総説にあたる、本願優先日前に頒布された刊行物である、James L Mobley, et al., Exp. Opin. Invest. Drugs, 1996, 5(7), pp.871-884(以下、「周知例」という。)に、薬物活性を最大化し副作用を最小化するため、喘息の治療に用いられるほとんどのグルココルチコイドは吸入で投与され、薬物が炎症部位に直接送達されること、エアゾールで送達される薬物は肝臓での初回通過効果を受けず、一般に用いられる多数のグルココルチコイドがエアゾールによる喘息の治療で効果があることがわかってきたこと、シクレソニドやブチクソコートプロピオネート等の新しいステロイドが喘息の治療に関して臨床試験や前臨床試験の段階にあることが記載されており(877頁右欄?879頁図3)、これらの事項は当業者に周知の事項であったと認められる。
そうすると、吸入により炎症部位に直接送達され薬物活性を最大化し副作用を最小化する、喘息の治療に用いられる他の多数のグルココルチコイドと同様、適用部位における高い抗炎症活性と低い全身グルココルチコイド活性とを兼ね備えた、局所グルココルチコイド活性を示すシクレソニドを、エアゾール製剤とすることは、当業者が当然行うことである。
(2) ところで、引用例2には、上記(1)で述べたとおり、シクレソニドと同じく喘息の治療に関して臨床試験や前臨床試験の段階にある新しいステロイドであることが技術常識となっていたブチクソコートプロピオネートのエアゾール製剤について記載されている。
具体的には、上記第3の摘示事項2(1)には、1,1,1,2-テトラフルオロエタンと1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンとそれらの混合物とからなる群から選択されるハイドロフルオロカーボンを含有する噴射剤系と、ブチクソコートプロピオネートとエタノールとを含有する溶液エアゾール製剤が記載されている。また、摘示事項1(3)及び(4)には引用発明の存在態様として液体の場合が記載されるとともに、エタノール中でシクレソニドが溶液として存在し得ることがわかる記載もある。
そうすると、シクレソニドを含む引用発明を、喘息の治療に用いられるステロイドである点で共通するブチクソコートプロピオネートの場合と同様に、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンおよびこれらの混合物とからなる群から選択される噴射剤と、エタノールを含むエアゾール製剤としてみること、その際、エタノールの量として3?25重量%の範囲を選択することは、当業者が容易になし得る程度の事項であるといえる。

2 相違点2について
医薬品製剤が所定の治療効果を示すためには、活性成分が製剤中でその用法に応じた治療上有効な濃度で存在することが必要であることは当業者にとって自明であるところ、上記第3の摘示事項2(4)には、10mLのエアゾールバイアル中に、50mgのブチクソコートプロピオネート、エタノール、及び噴射剤を入れて溶液エアゾール製剤を製造したことが記載され、シクレソニドと類似の構造を有する化合物であるブチクソコートプロピオネートの場合、5mg/ml前後の濃度で溶液エアゾール製剤とすることができたことがわかる。
そうすると、引用発明をエアゾール製剤とするに際し、シクレソニドを1?8mg/ml含有させることは、当業者にとり格別困難な事項とはいえない


3 効果について
上記第3の摘示事項2(2)には、引用例2の溶液エアゾール製剤が好適な安定性を示し、更に粒子の大きさの増大に伴う問題点を排除するものであることが記載されている。そして摘示事項2(3)には、製剤中のエタノールの量が、「ブチクソコートプロピオネートをさらに溶解するのに効果的であるが、吸入可能な分画の減少を生じない量」であって、好ましくは、重量で、製剤の総重量の約3%?約30%やエアゾール製剤の約8%?約16%であることが記載されるとともに、摘示事項(5)?(8)には、具体的に溶液エアゾール製剤の安定性が確認されたことが記載されている。
そうすると、本願発明が奏する効果は、引用例1及び2に基づき当業者が予測し得る範囲にあるものといえる。

4 請求人の主張について
請求人は審判請求理由(平成23年2月16日付け手続補正書(方式)参照。)において、引用例2にはビチクソコートプロピオネートの溶液製剤が開示されているが、すべてのステロイドが同様に挙動するわけではなく、ビチクソコートプロピオネートとシクレソニドはともに塩基性ステロイドコア構造を有しているが、その構造において多くの相違点があり、両化合物の溶解性及び化学的安定性が同様であるとは考えられない旨を主張している。
しかし、喘息の治療に有用なステロイド骨格を有する活性成分を、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンおよびこれらの混合物とからなる群から選択される噴射剤と、エタノールとを含有する溶液エアゾール製剤とすること、及び、そのような製剤において活性成分が安定に存在することは、ビチクソコートプロピオネート以外にも、ベクロメタゾン17,21ジプロピオネートやフルニゾリドについて本願優先日前に知られていた(例えば、特表平6-501710号公報、国際公開第95/17195号を参照。)。そして、周知例の878頁図2に記載された、ベクロメタゾンジプロピオネート及びフルニゾリドの構造上の類似性を考慮すると、ビチクソコートプロピオネートとシクレソニド程度の構造上の類似性を有していれば、類似の溶解性及び化学的安定性が期待できるものといえる。
したがって、上記請求人の主張は採用することができない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明、並びに周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
それ故、他の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-02-08 
結審通知日 2013-02-12 
審決日 2013-02-25 
出願番号 特願平10-550494
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐々木 秀次  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 大久保 元浩
荒木 英則
発明の名称 薬用エアゾール製品  
代理人 青木 篤  
代理人 出野 知  
代理人 出野 知  
代理人 永坂 友康  
代理人 青木 篤  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 永坂 友康  

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