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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1278328
審判番号 不服2011-11215  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-05-27 
確定日 2013-08-20 
事件の表示 特願2007-509768「ジョイント」拒絶査定不服審判事件〔平成19年7月12日国際公開、WO2007/077695〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成18年11月27日(優先権主張 平成17年12月28日)を国際出願日とする出願であって、その請求項1?4に係る発明は、平成19年8月30日付け、平成22年11月29日付け、及び平成24年7月27日付けの手続補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
複数の球体と、
前記各球体を受ける半球状の窪部が頭部の側面に形成されていて当該頭部に首部を介して円柱状の胴部が位置する部材と、
前記部材の頭部及び首部を収容する収容部と当該収容部と一体的に形成されていて前記各窪部で受けられた球体が収容される複数の長手溝とを有するハブと、
を備え、
前記各長手溝は、半筒状で直線的に延びる態様で形成されており、
前記首部は、前記部材と前記ハブとにそれぞれ連結されるシャフトの曲がりを許容する部分として機能するジョイント。」

2.本願の優先日前に日本国内において頒布され、当審において平成24年6月25日付けで通知した拒絶理由に引用された刊行物及びその記載事項
(1)刊行物1:特公昭33-7908号公報
(2)刊行物2:特開昭59-113322号公報
(3)刊行物3:特公昭48-17430号公報
(4)刊行物4:実願昭54-95908号(実開昭56-14224号)のマイクロフィルム

(刊行物1)
刊行物1には、「廻転自在接手」に関して、図面とともに、下記の技術的事項が記載されている。なお、拗音及び促音は小書きで表記した。
(a)「本発明は偏位自在なる廻転軸を接合自在となしたる廻転自在接手に係るものであって能動廻転軸1の端部に接合筺部2を設け該接合筺部2内の円形接合腔部3中に受動廻転軸4の球形接合頭部5を嵌入せしめる而して球形接合頭部5の全周面に渡って一定間隔毎に2列状に半球形凹部6の所要数組を穿設したるその各半球形凹部6中にそれぞれ鋼球7の下半部分を嵌入せしめた後該2列状の一組の半球形凹部6の各間隔に吻合する様に接合筺部2に放射に所要数個の透孔部8を穿設し之にそれぞれ嵌挿せしめた各接合杆9の先端部10を2列状の一組の半球形凹部6の各間隔毎に介入せしめてその先端部10の両側の曲面状部10,10’を以てそれぞれその両側部に相隣れる2列状の一組の半球形凹部6より上半部突出せる鋼球7のそれぞれの一側面宛を順次に抱合せしめるものであって第2図に示す如く鋼球7間の各間隔毎にその全周に渡って接合杆9の先端部10が介入して間断なき状態を形成せしめるものである次に各接合杆9の外側面には各透孔部8の螺孔部8’に調節螺子11を以て各接合杆9を調節自在に螺止せしめ更に接合筺部2の外周面には締環12を以て適宜焼嵌めを行ひ該締環12に穿設せしめた処の所要数個の螺孔部13はそれぞれ接合筺部2の透孔部8と相吻合する如くあらしめたものであるが故に該各螺孔部13中にそれぞれ止螺子14を螺合せしめることにより調節螺子11を螺止せしめ得るものとするのである、15はパッキングであって之を被板部16と止螺子17を以て取附けられているものである。
本発明に於ては能動廻転軸1の廻転は接合筺部2を介して之に接合せる接合杆9の先端部10の両側の曲面状部10,10’にそれぞれ相隣せる鋼球7の4個の上半部の突出せる部分を常時抱合せしめているものであるが故に之によって克くその廻転を受動廻転軸4に伝達せしめ得るのであって此の場合に於て受動廻転軸4の球形接合頭部5が第3図に示す如く偏位することがあっても2列状の一組の鋼球7の何れかの中或る組は第6図に示す如く完全に接合杆9によって抱合せられているものであるから球状接合頭部5が偏位することがあっても之が偏位せない場合と同様にその接合状態が継続保持せられているから受動廻転軸4は円滑に能動廻転軸1による廻転を常時伝達せしめ得られる点に於て特徴を有するものであって自動車その他受動廻転軸4の少許の偏位することを必要とする処の廻転自在接手としては大なる負荷を要する場合に於ても強力なる力を克く伝達せしめ得る処の効果を発揮し得るものである。」(第1頁左欄第8行?右欄第19行)
(b)第1?6図の記載からみて、球形接合頭部5に細径部を介して円板状のフランジ部が位置する受動回転軸4の構成が看取できる。
(c)第6図(下面図)の記載からみて、曲面状部10,10’は、下面視で長手方向に直線的に延びる態様で形成されていることが看取できる。
(d)第1及び3図(縦断面図)、並びに第5図(側面図)の記載からみて、曲面状部10,10’は、側面視で円弧状に延びる態様で形成されていることが看取できる。
したがって、刊行物1には、下記の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。
【引用発明】
複数の鋼球7と、
前記各鋼球7を受ける半球形凹部6が球形接合頭部5の側面に形成されていて当該球形接合頭部5に細径部を介して円板状のフランジ部が位置する受動回転軸4と、
前記受動回転軸4の球形接合頭部5及び細径部を収容する円形接合腔部3と当該円形接合腔部3と別体に形成されていて前記各凹部6で受けられた鋼球7が収容される複数の曲面状部10,10’とを有する接合筺部2と、
を備え、
前記各曲面状部10,10’は、下面視で長手方向に直線的に延びるとともに、側面視で円弧状に延びる態様で形成されている廻転自在接手。

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比すると、それぞれの有する機能からみて、引用発明の「鋼球7」は本願発明の「球体」に相当し、以下同様にして、「半球形凹部6」又は「凹部6」は「半球状の窪部」又は「窪部」に、「球形接合頭部5」は「頭部」に、「細径部」は「首部」に、「円板状のフランジ部」は「円柱状の胴部」に、「受動回転軸4」は「部材」に、「円形接合腔部3」は「収容部」に、「曲面状部10,10’」は「長手溝」に、「接合筺部2」は「ハブ」に、「廻転自在接手」は「ジョイント」に、それぞれ相当するので、両者は下記の一致点、及び相違点1?3を有する。
<一致点>
複数の球体と、
前記各球体を受ける半球状の窪部が頭部の側面に形成されていて当該頭部に首部を介して円柱状の胴部が位置する部材と、
前記部材の頭部及び首部を収容する収容部と前記各窪部で受けられた球体が収容される複数の長手溝とを有するハブと、
を備えているジョイント。
(相違点1)
本願発明は、前記複数の長手溝が「当該収容部と一体的に形成されてい」るのに対し、引用発明は、各曲面状部10,10’が「円形接合腔部3と別体に形成されている」点。
(相違点2)
本願発明は、前記各長手溝が「半筒状で直線的に延びる態様」で形成されているのに対し、引用発明は、各曲面状部10,10’が「下面視で長手方向に直線的に延びるとともに、側面視で円弧状に延びる態様で形成されている」点。
(相違点3)
本願発明は、前記首部が「前記部材と前記ハブとにそれぞれ連結されるシャフトの曲がりを許容する部分として機能する」のに対し、引用発明は、細径部がそのような機能を具備しているかどうか特定されていない点。
そこで、相違点1?3について検討をする。
(相違点1について)
ジョイントにおいて、ハブの収容部に複数の長手溝を一体的に形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2には、FIG.4及び5とともに、「軸20,21は、共に軸方向円筒形通路19の周囲に半径方向へ星形に配列された3つの平行通路10,11,12からなる雌型ハウジングを形成するためにくり抜かれており、軸方向横断面における完成アセンブリはクローバーの葉形を有している。」[第4頁右上欄第7?12行]と記載されている。刊行物3には、第1図とともに、「外輪1は第1図に示すように筒壁2と底壁3を有し、筒壁2の内周にはボール5が嵌合する数本の溝4が設けられる。」[第1頁第1欄第34?36行]と記載されている。刊行物4には、第2図とともに、「これら回転体(11),(12)間に亘って、前記軸心(X)から径方向に離れた位置において鋼球を用いた伝動子(13)・・が係合保持され」[第5頁第3?6行]と記載されている。)にすぎない。
してみれば、引用発明の接合筺部2に、上記従来周知の技術手段を適用することにより、各曲面状部10,10’を円形接合腔部3と一体的に形成し、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点2について)
ジョイントにおいて、偏角変位に加えて、軸方向変位を許容するために、各長手溝を半筒状で直線的に延びる態様で形成することは、従来周知の技術手段(例えば、刊行物2のFIG.4及び5から、軸21の内周面に形成された略半筒状で直線的に延びる各平行通路10、11、12とボール16の関係が看取できる。刊行物4の第2及び3図から、受動回転体12の内周面に形成された半筒状で直線的に延びる各長手溝と伝動子13の関係が看取できる。)にすぎない。
してみれば、引用発明の曲面状部10,10’と鋼球7による偏角変位を許容する関係に、様々な用途における必要性に応じて軸方向変位の機能を付加するために、偏角変位及び軸方向変位の許容を対象としたタイプのジョイントの長手溝と球体の関係を適用することにより、偏角変位及び軸方向変位の両方の機能を持たせ、各長手溝を半筒状で直線的に延びる態様で形成し、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
(相違点3について)
刊行物1には、「本発明は偏位自在なる廻転軸を接合自在となしたる廻転自在接手に係るもの」(第1頁左欄第8及び9行、上記摘記事項(a)参照)と記載されている。
上記記載から、引用発明は、能動回転軸1と受動回転軸4とにそれぞれ連結されるシャフトを備えるものであり、また、受動回転軸4の細径部は、曲げる角度を大きくすることができることは明らかであるから、能動回転軸1と受動回転軸4とにそれぞれ連結されるシャフトの曲がりを許容する部分として機能することは技術的に自明である。
したがって、相違点3は、実質的な相違点ではない。

本願発明が奏する効果についてみても、引用発明、及び従来周知の技術手段が奏するそれぞれの効果の総和以上の格別顕著な効果を奏するものとは認められない。
したがって、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

なお、審判請求人は、当審における拒絶理由に対する平成24年7月27日付けの意見書において、「ジョイントのミスアライメントとしては、偏角・軸方向変位・偏芯という3要素が挙げられる。ジョイントは、その用途に応じて、これらの要素のいずれかに重点が置かれている。
引用発明1(注:本審決の「引用発明」と対応する。以下同様。)は、偏角の許容のみを対象としたタイプのジョイントであり、一方で、引用発明2,3(注:本審決の「刊行物2に記載された発明」及び「刊行物3に記載された発明」という趣旨と思われる。以下同様。)は、偏角・軸方向変位の許容を対象としたタイプのジョイントである。そして、引用発明1,2等を対比すると、許容できる偏角の大きさは、引用発明1の方が、偏角の許容にのみ重点を置いていることから、引用発明2等よりも優れている。
すなわち、引用発明2等は、偏角・軸方向変位の双方が許容できるもの、双方ともに限定的な許容に留まる。一方、引用発明1は、偏角の許容のみを対象としていることから、それを大きく確保することができるのである。
そうすると、当業者であれば、偏角の許容のみを対象としたタイプのジョイントに係る引用発明1に対して、その許容される偏角を小さくしてまでも、軸方向変位が許容されるジョイントにするはずがない。
換言すると、引用発明1,2等に接した当業者は、これらのジョイントのタイプが異なることから、引用発明1における大きな偏角が得られるという特徴を失わせてまでも、引用発明1の鋼球を受ける部分の形状に代えて、引用発明2等のものを適用しようと考えるはずがない。
してみれば、引用発明1と刊行物2等(周知技術)との組合せには、阻害要因がある。」(「3.意見の内容」「拒絶理由Aについて」「(3)引用発明1と刊行物2等(周知技術)との組合せの阻害要因」の項を参照)と主張している。
しかしながら、偏角変位及び軸方向変位の許容を対象としたタイプのジョイントは、広く知られている従来周知の技術手段であるから、引用発明の曲面状部10,10’と鋼球7による偏角変位を許容する関係に、様々な用途における必要性に応じて軸方向変位の機能を付加するために、偏角変位及び軸方向変位の許容を対象としたタイプのジョイントの長手溝と球体に関する従来周知の技術手段を適用して、引用発明に、偏角変位及び軸方向変位の両方の機能を持たせることは、技術的に格別の困難性を有することなく当業者が容易に想到できるものであって、これを妨げる格別の事情は見出せない。
よって、上記(相違点1について)?(相違点3について)において述べたように、本願発明は、刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段から当業者が容易に想到し得たものであるところ、審判請求人が主張する本願発明が奏する作用効果は、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものにすぎず、本願発明の構成を備えることによって、本願発明が、従前知られていた構成が奏する作用効果を併せたものとは異なる、相乗的で予想外の作用効果を奏するものとは認められないので、審判請求人の主張は採用することができない。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明、及び従来周知の技術手段に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?4に係る発明について検討をするまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-08-21 
結審通知日 2012-08-22 
審決日 2012-11-20 
出願番号 特願2007-509768(P2007-509768)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小野 孝朗  
特許庁審判長 川本 真裕
特許庁審判官 冨岡 和人
常盤 務
発明の名称 ジョイント  
代理人 山内 博明  

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