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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1278343
審判番号 不服2011-14104  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-07-01 
確定日 2013-08-21 
事件の表示 特願2008-500099「管型反応装置内でエチレンコポリマーを調製する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 9月14日国際公開、WO2006/094723、平成20年 8月21日国内公表、特表2008-533223〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯


本願は、平成18年2月27日(パリ条約による優先権主張 2005年3月9日 欧州特許庁(EP))を国際出願日とする特許出願であって、平成22年10月29日付けで拒絶理由が通知され、平成23年1月24日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年2月22日付けで拒絶査定がなされ、同年7月1日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月16日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出されたものである。


第2.本願発明


本願の請求項1?14に係る発明は、平成23年1月24日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「エチレンおよびそれと共重合可能なコモノマーのコポリマーを調製する方法であって、その重合が管型反応装置内において290℃と350℃の間のピーク温度で行われ、前記コモノマーが、二官能性以上の(メタ)アクリレートであり、エチレンコポリマーの量に対して0.008モル%と0.200モル%の間の量で用いられことを特徴とする方法。」


第3.原査定の拒絶の理由の概要


原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

引用文献1:特開平06-041238号公報
引用文献2:特公昭43-027603号公報」

というものである。


第4.刊行物の記載事項
以下、引用文献1を「刊行物A」、引用文献2を「刊行物B」という。

1.刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。

A1「
【請求項1】重合開始剤及び連鎖移動剤の存在下、高温、高圧でラジカル重合反応によりエチレン系重合体を製造する方法において、共単量体としてジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステルの存在下にて反応を行わせしめることを特徴とする押出コ-ティング用エチレン重合体の製造方法。
【請求項2】請求項1記載の製造方法において、ジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステルを重合反応に供する原料混合物中のエチレンに対して0.0001モル%から20モル%添加することを特徴とする押出コ-ティング用エチレン重合体の製造方法。
【請求項3】請求項1又は2記載の製造方法において、エチレン、ジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステル、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する反応に供する原料混合物を500kg/cm^(2)以上4000kg/cm^(2)以下の圧力で反応器に導入し、100℃以上350℃以下の温度で反応させる、押出コ-ティング用エチレン重合体の製造方法。」

A2「
【0013】本発明において共単量体としてジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステルが用いられるが、これらは例えばジメタクリル酸エチレングリコ-ル、ジメタクリル酸1,3-ブチレングリコ-ル、ジアクリル酸ジエチレングリコ-ル、ジアクリル酸トリエチレングリコ-ル等が代表的な物質として挙げられる。
【0014】上記共単量体は、重合反応に供される原料混合物中のエチレンに対して好ましくは0.0001モル%以上20モル%以下で用いられ、更に0.0005モル%以上1モル%以下の添加で使用されることがより好ましい。」

A3「
【0015】本発明の製造方法においては、エチレン、共単量体、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する反応原料混合物を好ましくは500kg/cm^(2)以上4000kg/cm^(2)以下、更に好ましくは1000kg/cm^(2)以上3500kg/cm^(2)以下の圧力で反応器に導入し、100℃以上350℃以下、更に好ましくは150℃以上300℃以下の温度で反応させるもので、重合反応原料混合物中に前記共単量体を所定量添加する他は一般的に実施されている高温、高圧下でのラジカル重合方法となんら変わること無く実施することが可能である。」

2.刊行物Bの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物Bには、以下の事項が記載されている。

B1「
本発明はエチレンおよびエチレンと共重合し得る単量体を管状反応器内で連続的に共重合させてエチレンの共重合体を生成させることから成るエチレンの連続的共重合法に関する。」(第1頁左欄下から5行目?2行目)

B2「
本発明者は、重合性エチレン反応混合物を管状反応器内に2つまたはそれ以上の別々の流れの形で、すなわちその1つの流れを反応器の入り口端から導入しそしてその他の1つまたはそれ以上の流れを反応器の長さに沿った点から導入するときに改良された共重合体生成物が改良された変化率で得られることを知った。」(第1頁右欄22行目?28行目)

B3「
この重合反応は約15000?100000psig(1055?7031kg/cm^(2))またはそれ以上の圧力、好ましくは約20000?50000psig(1406?3515kg/cm^(2))の圧力そして約90?350℃、好ましくは約150?250℃(最適な温度範囲は約175?225℃である)で行われる。」(第1頁右欄28行目?34行目)

B4「
本発明方法で用いられる”エチレンと共重合しうる単量体”の例としては、ビニル末端基

・・・

メタアクリル酸クロロエチル、エチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、アクリロニトリル

・・・

が包含される。」(第3頁右欄22行目?第4頁左欄23行目)

B5「
この重合可能なエチレン式不飽和単量体は、反応器に供給されるエチレンの全量の0.1?95モル%望ましくは0.2?50モル%そして好ましくは0.5?10モル%にわたる濃度で前記の重合性エチレン反応混合物に導入することができる。」(第4頁左欄24行目?28行目)


第5.刊行物Aに記載された発明


摘示A1から、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。

重合開始剤及び連鎖移動剤の存在下、高温、高圧でラジカル重合反応によりエチレン系重合体を製造する方法において、
共単量体としてジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステルの存在下にて反応を行い、
ジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステルを重合反応に供する原料混合物中のエチレンに対して0.0001モル%から20モル%で添加し、
エチレン、ジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコ-ルエステル、重合開始剤及び連鎖移動剤を含有する反応に供する原料混合物を500kg/cm^(2)以上4000kg/cm^(2)以下の圧力で反応器に導入し、100℃以上350℃以下の温度で反応させる、
押出コ-ティング用エチレン重合体の製造方法。


第6.対比・判断


1.本願発明との対比
本願発明と刊行物A発明とを比較する。

刊行物A発明における「エチレン」「ジアクリル酸あるいはジメタクリル酸のグリコールエステル」「エチレン系重合体を製造する方法」「反応」「反応器」は、それぞれ本願発明における「エチレン」「二官能性以上の(メタ)アクリレート」「コポリマーを調整する方法」「重合」「反応装置」に相当する。

また、刊行物A発明における「100℃以上350℃以下」「0.0001モル%から20モル%」は、それぞれ本願発明における「290℃と350℃の間のピーク温度」「0.008と0.200モル%の間の量」と重複一致する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
エチレンおよびそれと共重合可能なコモノマーのコポリマーを調製する方法であって、その重合が反応装置内において290℃と350℃の間のピーク温度で行われ、前記コモノマーが、二官能性以上の(メタ)アクリレートであり、エチレンコポリマーの量に対して0.008モル%と0.200モル%の間の量で用いられことを特徴とする方法。

〔相違点1〕
本願発明において、反応装置を「管型」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。

2.相違点についての検討
刊行物Aには、特定温度、特定圧力のもと特定の重合反応原料混合物を所定量用いる他は一般的に実施されている高温、高圧下でのラジカル重合方法と何ら変わることなく実施することができる旨の記載(摘示A3参照。)がある。そして、刊行物Bには、重合圧力が1055?7031kg/cm^(2)であり、重合温度が90?350℃であり、共重合しうる単量体としてエチレングリコールジメタアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートが例示され、その供給量もエチレンの全量の0.1?95モル%とする旨の記載(摘示B3,B4,B5参照。)があり、これらは刊行物A発明が規定している重合温度、重合圧力、重合反応原料とその使用量の点で重複一致している。そうすると、ポリマーの製造において、収率の改善は当業者が常に検討している課題といえるところ、刊行物Aには、重合時に用いる反応器は従来用いられているものを任意に用いることが可能である旨の記載があり、刊行物Bには、刊行物A発明の重合条件と重複一致する条件で重合反応を行い、さらに、収率の改善が達成される手法が記載されていることからすると、刊行物A発明における重合反応器として、刊行物Bに記載の管型反応器を用いる手法を採用することは、当業者において容易になし得ることである。
そして、本願発明は「方法」に係る発明であるところ、本願発明が規定する「方法」としたことによる格段の効果が本願明細書から確認できない。


第7.請求人の主張について
請求人は、平成23年8月16日提出の手続補正書(方式)において、「引用文献1に記載される反応装置として管状反応装置を使用することは、当業者が全く想到し得ないものであります。引用文献1においては攪拌機が必須であることが記載されており、これはオートクレーブ反応装置に必須の要素であります。引用文献1には、押出コーティングは常にオートクレーブ工程により生じていたことが記載され、管状反応装置については全く記載も示唆もありません。」と主張している。
しかし、刊行物Aには、特定温度、特定圧力のもと特定の重合反応原料混合物を所定量用いる他は重合反応は一般的に実施されているラジカル重合方法を採用しうる旨の記載(摘示A3参照。)があるのみで、重合条件に関して、その他のいかなる制限も要求していないことからすると、重合において使用する反応容器に関してもなんら制限はないものと解することが適当であり、従来用いられている管型反応装置も除外されることなく、その技術的範囲に含み得ることは明らかである。そうすると、上記第6.に記載のとおり、刊行物A発明と刊行物Bを組み合わせることは、当業者において容易になし得ることである。また、刊行物Aには、攪はん機内蔵反応器を使用しなければならないとする記載も該記載に相当する表現も示唆もないことからすると、引用文献1においては攪拌機が必須であるとは認められない。よって、これらの点に関する請求人の主張を採用することはできない。


第8.まとめ


以上のとおり、本願発明は、その優先日前に日本国内において頒布された刊行物A、刊行物Bに記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-19 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-09 
出願番号 特願2008-500099(P2008-500099)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 牧野 晃久  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 加賀 直人
大島 祥吾
発明の名称 管型反応装置内でエチレンコポリマーを調製する方法  
代理人 佐久間 剛  
代理人 柳田 征史  

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