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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C10L
管理番号 1278398
審判番号 不服2011-4321  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-02-25 
確定日 2013-08-19 
事件の表示 特願2004-561516「ディーゼル燃料組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 7月 8日国際公開、WO2004/056948、平成18年 3月30日国内公表、特表2006-510778〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件審判請求に係る出願(以下「本願」という。)は、2003年12月19日(パリ条約に基づく優先権主張、2002年12月20日、欧州特許庁)を国際出願日とする特許出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりである。

平成17年 6月15日 翻訳文(条約34条補正を含む)提出
平成22年 4月23日付け 拒絶理由通知
平成22年 9月 9日 意見書
平成22年10月 1日付け 拒絶査定
平成23年 2月25日 本件審判請求
平成23年 3月 7日付け 方式補正指令
平成23年 4月20日 手続補正書(請求理由補充書)
平成24年12月 7日付け 拒絶理由通知
平成25年 3月 8日 意見書・手続補正書

第2 当審が通知した拒絶理由の概要
当審が平成24年12月7日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりのものである。

「第3 拒絶理由
しかるに、本願は以下の拒絶理由を有するものである。

理由1:本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
理由2:・・(中略)・・



・・(中略)・・
II.各拒絶理由に係る検討
上記I.で示した技術的前提を踏まえて、上記各拒絶理由につき、順次検討する。

1.理由1について

(1)本願請求項の明確性について
・・(中略)・・
(2)明細書のサポート要件について
・・(中略)・・
したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、本願の各請求項の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

(3)理由1に係るまとめ
以上の(1)及び(2)のとおりであるから、本願の各請求項の記載は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
・・(後略)」

第3 当審の判断
当審は、上記拒絶理由通知における理由1は、依然として成立するものであり、本願は拒絶されるべきものと判断する。以下詳述する。

1.本願の請求項に記載された事項
平成25年3月8日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
エンジンの加速により測定される、圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良するため、0.5?75%v/vのフィッシャー・トロプシュ誘導燃料を含む燃料組成物を当該燃料組成物が導入されるエンジンに使用する方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ誘導燃料が150?370℃の沸点範囲、0.76?0.79g/cm^(3)の密度、74?85を超えるセタン価(ASTM D613)、40℃で2.9?3.7mm^(2)の動粘度、および5ppmw以下の硫黄含有量を有する、
前記方法。
【請求項2】
前記圧縮点火エンジンが、ターボチャージ式直接噴射ディーゼルエンジンである請求項1に記載の使用法。
【請求項3】
前記燃料組成物が、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料を1?50%v/v含有する請求項1に記載の使用法。
【請求項4】
前記燃料組成物が、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料を1?25%v/v含有する請求項3に記載の使用法。
【請求項5】
圧縮点火エンジンの燃焼室に、0.5?75%v/vのフィッシャー・トロプシュ誘導燃料を含有する燃料組成物を導入することを特徴とする圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の、該エンジンの加速性により測定される、応答性を改良する方法であって、前記フィッシャー・トロプシュ誘導燃料が150?370℃の沸点範囲、0.76?0.79g/cm^(3)の密度、74?85を超えるセタン価(ASTM D613)、40℃で2.9?3.7mm^(2)の動粘度、および5ppmw以下の硫黄含有量を有する、前記方法。
【請求項6】
前記圧縮点火エンジンが、ターボチャージ式直接噴射ディーゼルエンジンである請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記燃料組成物が、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料を1?50%v/v含有する請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記燃料組成物が、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料を1?25%v/v含有する請求項7に記載の方法。」
(審決注:【請求項1】及び【請求項5】の「動粘度」に係る「2.9?3.7mm^(2)」なる記載は、技術常識からみて「2.9?3.7mm^(2)/s」の誤記と認められるから、以下「2.9?3.7mm^(2)/s」であるものとして判断する。)
(なお、以下、請求項1に記載された事項で特定される発明を「本願発明」という。)

2.検討
以下、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するか否か(いわゆる「明細書のサポート要件」)につき検討する。

(1)前提
特許法第36条第6項には、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、同条同項第1号には、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。
そして、特許請求の範囲の記載が、上記「第1号」に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下当該観点に基づいて検討する。

(2)本願発明の解決課題
本願発明の解決しようとする課題は、本願明細書の発明の詳細な説明の「フィッシャー・トロプシュ誘導燃料は、圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性改良に寄与できることが見い出された。したがって、このような成分を含む燃料組成物は、このようなエンジン又は自動車の性能、特に加速性改良を援助できる。」なる記載(【0002】)からみて、「圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良し、このようなエンジン又は自動車の性能、特に加速性を改良することを目的とする、圧縮点火エンジンに導入する燃料組成物にフィッシャー・トロプシュ誘導燃料(成分)を使用する方法」又は「フィッシャー・トロプシュ誘導燃料(成分)を含む燃料組成物を圧縮点火エンジンへ導入することによる圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良する方法」の提供にあるものと認められる。

(3)検討
本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するにあたり、実施例に関する部分以外の部分(【0001】?【0029】)及び実施例(比較例)に係る部分(【0030】?【0052】)に分けて以下検討する。

ア.実施例に関する部分以外の部分について
本願発明における「フィッシャートロプシュ誘導燃料」は、特定の物性(沸点範囲、密度(範囲)、セタン価(範囲)、動粘度(範囲)及び硫黄含有量)を有するものであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例に関する部分以外の部分においては、当該「フィッシャートロプシュ誘導燃料」の使用が、上記本願発明の解決課題に係る「圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良し、このようなエンジン又は自動車の性能、特に加速性を改良する」ことに対して、いかにして寄与するのかその作用機序につき、当業者が認識することができる記載又は示唆がない。
してみると、実施例に関する部分以外の本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討しても、請求項1記載の発明特定事項を具備することによって、上記本願発明の解決課題に対応する効果を奏するか否かについて当業者が認識することができるように記載されているものとはいえない。

イ.実施例(比較例)に係る部分について
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分(【0030】?【0052】)の記載につき実験結果に係る【図1】を参酌しつつ検討する。
まず、【実施例1】(比較例を含む)では、従来のディーゼル燃料F1、F2及びF1に74.8超なる高セタン価のフィッシャートロプシュ誘導燃料であるF3を15、30並びに50容量%(請求項における「v/v%」である。)をブレンドしてなるB1、B2並びにB3につき実験結果が提示されている。
しかるに、B1なるF1に対してF3を15容量%ブレンドしたものについては、F1を単独使用した場合に比して、加速時間が短縮されているが、B2及びB3なるF3を30容量%以上添加使用した場合、いずれの例のものであってもF1を単独使用した場合に比して、加速時間が延長されている。
なお、F2は、F1と同じく従来のディーゼル燃料であり、B1ないしB3のブレンド燃料組成物とは、基礎となるディーゼル燃料が異なるものであるから、本願発明との効果上の対比対象であるとは認められない。
次に、【実施例2】(比較例を含む)では、石油誘導ディーゼル燃料F4とそのF4に対してフィッシャートロプシュ誘導燃料であるF3を15容量%ブレンドしてなるB4につき実験結果が提示されている。
そして、B4の場合につき、F4を単独使用した場合に比して、(平均)加速時間が短縮されている。
そこで、本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、実施例(比較例)に係る部分の記載を総合すると、従来のディーゼル燃料に対して特定の高セタン価のフィッシャートロプシュ誘導燃料を特定量(例えば25容量%)以下の量で添加した場合に、圧縮点火エンジン又は該エンジンを動力とする自動車の加速性、すなわち応答性が改善されることは客観的に認識することができるが、特定量以上で用いる場合には、応答性が改善されると認識することができず、むしろ悪化することと認識するものと認められる。
してみると、上記実施例及び比較例の記載事項を対比しても、本願発明が、請求項1に記載の発明特定事項を具備することによって、上記本願発明の解決課題に対応する効果を奏するか否かについて当業者が認識することができるように記載されているものとはいえない。

ウ.検討のまとめ
以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明の実施例に関する部分以外の部分及び実施例(比較例)に係る部分をそれぞれ検討しても、請求項1に記載された事項を具備することにより、本願発明の解決課題に対応する効果を奏するか否かについて当業者が認識することができるように記載されているものとはいえず、それらの各部分の記載を組み合わせても同様である。
してみると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載では、本願発明に係る「圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良する目的で、圧縮点火エンジンに導入する燃料組成物にフィッシャー・トロプシュ誘導燃料を使用する方法」又は「圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良する方法」において、本願請求項1に記載された発明特定事項を具備するすべての場合につき、上記発明の解決課題に対応する効果を奏することを、たとえ当業者の技術常識に照らしたとしても、当業者において客観的に認識できるように記載したものということができない。
したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえない。
よって、本願請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではない。

3.審判請求人の主張について

(1)審判請求人の主張内容
審判請求人は、平成25年3月8日付け意見書において、参考資料を添付の上、
「本願発明は、特定のフィシャー・トロプシュ誘導燃料を0.5?75%v/v含む燃料ブレンド(燃料F3)が、その低い密度にもかかわらず、石油ディーゼル燃料より良好な性能を有するという、驚くべき発見に関する。この改良は、燃料の加速特性における改善を測定することにより容易に判断される。この測定は、いわゆる当業者にとって過重なものとなるものではない。
本願発明によるフィシャー・トロプシュ誘導燃料とのブレンドが、フィシャー・トロプシュ誘導燃料とブレンドされない燃料に比べて密度が低いものであっても、それらの密度に基づいて予測されるものより良好な加速特性(性能)を有するのである(本願明細書[0043]の記載)。一般的には、いわゆる当業者はより低い密度をもつ燃料はより悪い加速特性をもつものと予測するので、このことは驚くべき発見である(本願明細書[0043]第1文の記載。これが周知の特徴であるとする先行技術「Society of Automotive Engineers, Automotive Fuels Research Book, Second Edition (ISBN 1-56091-589-7) Keith Owen and Trevor Coley. Section 15.4.2 “Influence of density on engine performance,”page 406」を参考資料として添付する)。
図1において、ブレンドB1(石油誘導燃料F2とフィシャー・トロプシュ誘導燃料F3)がF1に比べてより良好な加速特性を有することが示されている。さらに、ブレンドB3(石油誘導燃料F2とフィシャー・トロプシュ誘導燃料F3)がF2に比べてより良好な加速特性を有している。ブレンドB1およびB3の両方の密度によれば、ブレンドB1およびB3の両方がより効果の低い加速特性を有するものと予測されるものである。
特性を比較する際には、フィシャー・トロプシュ誘導燃料とのブレンドの密度の観点から性能特性(加速時間)をみて、従来燃料の密度の観点から性能特性を比較すべきものと思料する。
以上、および本意見書と同日付けで提出した手続補正書により、理由1,2は解消したものと確信する。」
と主張している。(意見書「(3)理由1,2について」の欄)

(2)検討
まず、上記主張につき検討するにあたり、上記参考資料の記載を検討すると、燃料の密度が低下することにより、動力上昇(Power Increase)、すなわち動力性能が低下する傾向にあることが記載されており、当該傾向が本願優先日前の当業者の周知技術事項であったものと認めることはできる。
しかしながら、上記2.(3)イ.においても説示したとおり、【図1】に図示されたF1、B1、B2及びB3の各点において「0.0%」、「2.3%」、「-2.4%」及び「-7.5%」と記載されていることからみて、B1、B2及びB3の加速時間をF1の加速時間を基準にして増減比を算出しているものであるから、B1、B2及びB3は、従来のディーゼル燃料F1にフィッシャートロプシュ誘導燃料であるF3を15、30並びに50容量%をブレンドしてなるものと理解するのが自然であり(本願明細書【0031】に記載されてもいる。)、そもそも、請求人が上記意見書において主張する「F2にF3をブレンドしたもの」とは認められない。
そして、F2は、フィッシャートロプシュ誘導燃料であるF3の添加の有無及びその量比とは無関係であり、フィッシャートロプシュ誘導燃料の添加の有無及びその量比と加速特性、すなわち圧縮点火エンジンへ導入することによる圧縮点火エンジン及び/又は該エンジンを動力とする自動車の応答性を改良することとの因果関係を示す実験例であるとも認めることができない。(単に従来の別のディーゼル燃料であるF1と対比することにより、上記当業者の周知技術事項であった「燃料の密度が低下することにより、動力性能が低下する傾向にある」ことが示されるのみである。)
してみると、審判請求人の上記意見書における主張は、根拠を欠くものであるか、本願明細書の記載に基づかないものであり、当を得ないものであるから、採用することができず、当審の上記2.における検討結果を左右するものではない。

4.当審の判断のまとめ
以上を総合すると、本願は、請求項1の記載につき特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。

第4 まとめ
以上のとおり、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであるから、その余につき検討するまでもなく、同法第49条第4号の規定に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-26 
結審通知日 2013-03-27 
審決日 2013-04-09 
出願番号 特願2004-561516(P2004-561516)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 目代 博茂
橋本 栄和
発明の名称 ディーゼル燃料組成物  
代理人 野口 勝彦  
代理人 富田 博行  
代理人 田上 靖子  
代理人 小林 泰  
代理人 星野 修  
代理人 奥村 義道  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 寺地 拓己  

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