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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1278489 |
審判番号 | 不服2011-24514 |
総通号数 | 166 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-14 |
確定日 | 2013-08-21 |
事件の表示 | 特願2008-218252「冷凍された軟質植物質食材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 3月11日出願公開、特開2010- 51209〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成20年8月27日の出願であって,平成23年3月31日付けの拒絶理由通知に対して,同年6月8日に意見書が提出され,その後,同年8月5日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月14日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに,同日付けで手続補正がなされ,平成24年10月29日付けの審尋に対し,平成25年1月4日に回答書が提出されたものである。 第2 平成23年11月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定 1 補正の却下の決定の結論 平成23年11月14日付けの手続補正を却下する。 2 理由 (1)補正の内容 平成23年11月14日付けの手続補正(以下,「本件補正」という。)は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1である, 「冷凍した軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程, (2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程, (3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程, (4)分離した前記酵素処理植物質食材を,0?10℃において,8?24時間,低温処理を行い,低温処理植物質食材を調製する工程, (5)前記低温処理植物質食材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程,次いで (6)前記加熱処理植物質食材を,冷凍する工程, を有することを特徴とする方法。」 を, 「冷凍した軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程, (2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程, (3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程, (4)分離した前記酵素処理植物質食材を,10℃において,12?16時間,低温処理を行い,低温処理植物質食材を調製する工程, (5)前記低温処理植物質食材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程,次いで (6)前記加熱処理植物質食材を,冷凍する工程, を有することを特徴とする方法。」(下線は補正箇所を示す。) と補正することを含むものである。 (2)補正の適否 上記補正は,「0?10℃において,8?24時間」を「10℃において,12?16時間」と温度と時間の範囲を減縮するものであって,該補正は,願書に最初に添付した明細書の記載からみて新規事項を追加するものではなく,特許法第17条の2第3項の規定に適合するものであり,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから,第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか,平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成23年改正前」という。)の特許法第17条の2第6項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。 (3)独立特許要件の検討 ア 補正発明 「冷凍した軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程, (2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程, (3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程, (4)分離した前記酵素処理植物質食材を,10℃において,12?16時間,低温処理を行い,低温処理植物質食材を調製する工程, (5)前記低温処理植物質食材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程,次いで (6)前記加熱処理植物質食材を,冷凍する工程, を有することを特徴とする方法。」 イ 刊行物に記載された事項 (ア)刊行物1に記載された事項 原査定で引用文献1として引用され,本出願前に頒布された刊行物である「国際公開第2008/29783号」(以下,「刊行物1」という。)には,以下の事項が記載されている。 なお,下線は当審にて付与したものである。以下,同様である。 (刊1-1)「[0001] 本発明は,特に,高齢者用の食品を製造するのに適した,食品素材の形状が保持された軟質植物質素材を製造する方法に関する。」 (刊1-2)「[0006] 本発明者らは,上記のように酵素を使用して軟化した食材を,市場においても,所定の柔らかさで固定され,そのまま直ちに調理しても,食材としての形状や,色彩,歯ごたえが保持された高齢者の食事に適した食材を提供することを目的として,鋭意検討した結果,食材を一旦,凍結後解凍した後,又は,凍結後に解凍する際に,食材を酵素により軟化させた後,使用した酵素の活性を確実に停止させる加熱処理を行なうことにより,市場において,流通過程を経由し,更に,家庭における冷蔵庫に保存した後においても,設定された所定の硬度を保つ食材を調製できることを見出し,本発明に到達したものである。 即ち,本発明は,軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結し,解凍して,解凍素材を調製する工程, (2)前記解凍素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬する工程,次いで (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法に関するものである。 なお,上記の工程(1)の解凍処理は,工程(2)における減圧下の酵素処理の過程で行うこともできる。従って,本発明は,別の態様として,軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結して,凍結素材を調製する工程, (2)前記凍結素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬しながら解凍して,解凍素材を調製する工程, (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法に関するものである。」 (刊1-3)「[0007] 以下,本発明について詳細に説明する。 本発明で使用される植物質素材は,植物質の食材を意味する。 植物質素材としては,例えば,ニンジンや,大根,タマネギ,白菜などの野菜類,サツマイモや,ジャガイモなどのイモ類,米や,小麦などの穀類,大豆や,小豆などの豆類,みかんや,リンゴなどの果実類,更には,筍,クワイ,椎茸等の茸類等が好適に列挙できる。 生の又は未処理の植物質素材は,凍結される前に,土等の汚れを除去したり,水等により,洗浄しておくことが好適である。また,凍結される前の植物質素材は,生の食材に限られず,ブランチング等の加熱調理等の処理がされているものでもよい。」 (刊1-4)「[0011] 酵素分散液に使用される酵素としては,ペクチン分解酵素(ペクチナーゼ)又はセルロース分解酵素(セルラーゼ)が使用される。 ペクチン分解酵素としては,ペクチンを加水分解できる酵素であれば,特に由来する細菌等の種類は問われない。具体的には,ペクチン分解酵素の商品名としては,例えば,マセロチーム2A(ヤクルト薬品工業株式会社製,39%ペクチナーゼ配合)や,ペクトリアーゼ(10%ペプチナーゼ含有)等が好適に列挙できる。 セルロース分解酵素としては,セルロースを加水分解できる酵素であれば,特に細菌等の由来は問われない。具体的には,セルロース分解酵素の商品名としては,例えば,マセロチーム2A(ヤクルト薬品工業株式会社製,39%ペクチナーゼ配合)等が好適に列挙できる。 [0012] 酵素分散液の濃度は,特に限定されるものではないが,通常,0.1?4.0質量%,好ましくは,0.2?2.0質量%とすることが適当である。媒体は,通常,水であるが,酵素の最適pH範囲等を安定に保つため,緩衝剤(クエン酸塩やリン酸塩等)を配合してもよい。 浸漬温度は,一般に,10?50℃,好ましくは,25?40℃であることが適当である。浸漬時間は,浸漬温度により変動し得るが,例えば,10?80分程度,好ましくは,30?60分程度であることが適当である。 このようにして内部まで酵素が浸透した植物質素材を,後述する加熱失活処理により固定される柔らかさを達成できる程度になるまで,浸漬状態で放置するか,又は酵素分散液を分離してから放置する。」 (刊1-5)「[0013] 酵素浸透処理食材は,好ましくは,表面がより酵素処理を受けるのを防止するために,酵素含浸後,酵素分散液から分離して,所定時間,比較的低温,例えば,室温(25℃)で放置する。 植物質素材の柔らかさ(硬度)は,減圧下における酵素含浸処理時間や,その後の放置時間などによる。豆類や,野菜等のもともと比較的柔らかい植物質素材は,短時間の酵素含浸処理などでよいが,例えば,筍やニンジンのように比較的硬い植物質素材は,より長時間の酵素含浸処理等が好適である。 [0014] 通常,酵素処理時間は,例えば,5?40分程度,好ましくは,10?30分程度で十分である。必要な減圧処理時間は,所定の食材について,減圧処理時間と柔らかさとの関係について,予め検量線を作成しておけば,容易に,再現性よく決めることが可能である。 酵素浸透処理後の酵素作用又は放置は,一定の雰囲気下で作用してもよい。この酵素作用時間は,実施しようとする条件において,処理する食材に対して,予め所定濃度で酵素浸透処理した食材の硬さを検量線として求めておくことにより,再現性よく酵素作用時間を決定することができる。 [0015] 一定の雰囲気としては,例えば,湿度が,50?80%で,温度が,室温(通常,20℃?25℃)が好適である。なお,酵素作用を促進するために,例えば,酵素の悪影響を与えない範囲で,35℃?50℃,好ましくは,40?45℃の温度で酵素作用又は放置処理を行なってもよい。 次いで,酵素分散液中に浸漬されていた場合には,その酵素分散液を分離した後,酵素含浸処理した植物質素材の表面を水等により,洗浄する。又は,酵素処理食材は,酵素分散液から分離した後,直ちに,加熱容器に投入して,酵素の失活を行なってもよい。加熱容器としては,レトルト釜でも良いし,単に,加熱された湯を入れた容器又は釜などが使用できる。但し,レトルト釜は,便宜的に使用できることを意図するものであり,通常,非加圧状態で使用する。なお,加圧下でのレトルト釜での処理を全く排除する意味ではない。」 (刊1-6)「[0037] 実施例5(冷凍食品(ごぼうの煮)の製造) ごぼうの下茹で処理 生のごぼう(ごぼうの硬度2.7×10^(6)N(タケトモ製テクスチュロメーターで測定))の皮を剥き,高さ10mmに輪切りし,水洗いした。次いで95℃で5分間加熱,下茹でし,水で冷却した後水切りした。 下茹で処理後のごぼうの硬さ 下茹で処理後のごぼうに対して,タケトモ製テクスチュロメーターで硬度測定したところ,硬度は2.3×10^(6)N/m^(2)となっていた。 [0038] ごぼうの凍結処理 -19℃で一晩(約12時間)凍結,放置することにより,凍結食品を得た。 酵素分散液の調製 マセロチーム2A(ヤクルト薬品工業株式会社製,39%ペクチナーゼ配合)を水に混合し,分散させることにより,酵素濃度0.3%の酵素分散液を得た。 減圧下における酵素処理 凍結食品は,減圧装置(三島食品製減圧装置)内にセットした容器に入れた酵素分散液に浸漬し,減圧を開始し,93hPa(70mmHg)以下の減圧を,20?25℃で20分行った。この間に,酵素の浸透と解凍処理を平行して行った。得られた解凍食品を,減圧装置内から取り出し,水温45℃にて約1時間放置し,さらに水温を室温にて1時間放置し,酵素含浸処理ごぼう食品を得た。 [0039] 酵素含浸処理後のごぼうの硬さ 酵素含浸処理後のごぼうに対して,タケトモ製テクスチュロメーターで硬度測定したところ,硬度は2.5×10^(5)N/m^(2)となっていた。 加熱処理 得られた酵素含浸処理ごぼう食品を85℃?90℃で10分間加熱し,酵素を失活させた。 冷凍処理 酵素失活後,-19℃で一晩(約12時間)凍結,放置することにより,酵素処理凍結食品を得た。 解凍処理 得られた酵素処理凍結食品を10℃以下で一晩(約12時間)解凍した。 [0040] 解凍処理後のごぼうの硬さ 解凍処理後のごぼうに対して,タケトモ製テクスチュロメーターで硬度測定したところ,硬度は2.0×10^(5)N/m^(2)となっていた。 調味処理 得られた解凍食品を食塩濃度1.1%の食塩水に浸漬し,35分間加熱し調味した。 調味処理後のごぼうの硬度 調味処理後のごぼうに対して,タケトモ製テクスチュロメーターで硬度測定したところ,硬度は1.2×10^(5)N/m^(2)となっていた。 この調味されたごぼうは,その形態を保持しているが,口の中で舌で容易につぶせ,容易に嚥下することができた。」 (刊1-7)「請求の範囲 [1] 軟質植物質素材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結し,解凍して,解凍素材を調製する工程, (2)前記解凍素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬する工程,次いで (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法。 [2] 請求項1に記載の方法により得られる軟質植物質素材。 [3] 軟質植物質素材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結して,凍結素材を調製する工程, (2)前記凍結素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬しながら解凍して,解凍素材を調製する工程, (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法。 [4] 請求項3に記載の方法により得られる軟質植物質素材。」 (イ)刊行物2に記載された事項 原査定で引用文献2として引用され,本出願前に頒布された刊行物である「第14回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会プログラム・抄録集,p360,II-P4-15(2008年8月13日発行)」(以下,「刊行物2」という。)には,以下の事項が記載されている。 (刊2-1)「凍結含浸法を用いた介護食の硬さ制御」(360頁左欄3行) (刊2-2)「【目的】凍結含浸法は,食材を凍結,解凍することで植物組織崩壊酵素を内部にまで効率的に含浸する技術であり,食材の形状を保持したまま硬さを制御することができる。これまで含浸後の酵素反応を至適温度である50℃で行い,嚥下食レベルまで軟化する手法を報告してきた。この場合,酵素反応が速く,元の食材との中間的な硬さに制御するには熟練を要した。本演題では,中間的な硬さに制御しやすくするための,酵素濃度,酵素反応温度について検討したので報告する。」(同8?17行) (刊2-3)「【方法】凍結含浸にはゴボウ,レンコン,タケノコを用いた。酵素溶液は,食材ごとに通常濃度,低濃度の2種類を用いた。厚さ1cmの食材を酵素液に浸漬して解凍後,真空ポンプを用いて5分間減圧含浸後,酵素液から取り出して4℃または50℃で酵素反応させた。硬さはテンシプレッサー(タケトモ電機)を用いて経時的に測定を行った。なお,目標とする硬さの平均値を1×10,^(6)(N/m^(2))とした。【結果・考察】食材の硬さ測定の結果,平均値が同じ1×10,^(6)(N/m^(2))であっても,低濃度の酵素液を用いて4℃で長時間酵素反応した方が,通常濃度の酵素液を用いたものや50℃で短時間反応したものに比べて個体間や部位による硬さのばらつきが少なかった。硬さの経時変化を調べた結果,酵素濃度,酵素反応温度に関わらず,最終的には同程度の硬さに収束した。これらの結果,元の食材と最大限に軟化した食材の中間的な硬さに制御するには,酵素濃度および酵素反応温度を下げて反応速度を緩やかにする方法が示唆される。また,低温反応により長時間の酵素反応が可能になったことで,酵素の食材内での分布がより均一化され,個体間や部位による硬さのばらつきが少ない食材を作製することが可能となった。また,摂食試験においても良好な反応が得られた。」(同17?40行) ウ 刊行物1に記載された発明 (ア) 刊行物1の請求項1に記載の事項 刊行物1の「請求の範囲」の請求項1に(摘示(刊1-7)) 「軟質植物質素材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結し,解凍して,解凍素材を調製する工程, (2)前記解凍素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬する工程,次いで (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法。」 と記載されている。 (イ) 酵素分散液の分離について ここで,摘示(刊1-5)の段落[0015]に 「次いで,酵素分散液中に浸漬されていた場合には,その酵素分散液を分離した後,酵素含浸処理した植物質素材の表面を水等により,洗浄する。又は,酵素処理食材は,酵素分散液から分離した後,直ちに,加熱容器に投入して,酵素の失活を行なってもよい。加熱容器としては,レトルト釜でも良いし,単に,加熱された湯を入れた容器又は釜などが使用できる。」 と記載されているから,「酵素分散液中に浸漬されていた場合」(上記請求項1の「(2)」の工程に相当)と「加熱容器に投入して,酵素の失活を行な」う(上記請求項1の「(3)」の工程に相当)の間には,「その酵素分散液を分離した後,酵素含浸処理した植物質素材の表面を水等により,洗浄する。」工程があるものと理解される。 (ウ) 放置について また,刊行物1の摘示(刊1-5)には, 「酵素浸透処理食材は,好ましくは,表面がより酵素処理を受けるのを防止するために,酵素含浸後,酵素分散液から分離して,所定時間,比較的低温,例えば,室温(25℃)で放置する。」 と記載されており,表面がより酵素処理を受けるのを防止するため,酵素分散液から分離した後,所定時間,比較的低温で放置する工程を追加し得ることが記載されている。 そして,放置時の温度等の条件については,摘示(刊1-5)に, 「酵素浸透処理後の酵素作用又は放置は,一定の雰囲気下で作用してもよい。・・・(略)・・・ [0015] 一定の雰囲気としては,例えば,湿度が,50?80%で,温度が,室温(通常,20℃?25℃)が好適である。」 と記載されており,例示として湿度が,50?80%で,比較的低温(室温(通常,20℃?25℃))の一定の雰囲気で放置することが好適であるとされている。 (エ) 小括 以上の事項を整理すると,刊行物1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「軟質植物質素材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質素材を凍結し,解凍して,解凍素材を調製する工程, (2)前記解凍素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬する工程,次いで (2-A)その酵素分散液を分離した後,酵素含浸処理した植物質素材の表面を水等により,洗浄する工程, (2-B)表面がより酵素処理を受けるのを防止するため,酵素分散液から分離した後,所定時間,例えば湿度が,50?80%で,比較的低温(室温(通常,20℃?25℃))の一定の雰囲気で放置する工程, (3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程, を有することを特徴とする方法。」 エ 対比 (ア)冷凍した軟質植物質食材の製造方法について 引用発明の「軟質植物素材」は,摘示(刊1-1)に「本発明は,特に,高齢者用の食品を製造するのに適した,食品素材の形状が保持された軟質植物質素材を製造する方法に関する。」と記載されているから軟質植物からなる食品素材,すなわち,軟質植物食材である。 よって,引用発明の「軟質植物素材」は,補正発明の「軟質植物質食材」に相当する。 しかし,引用発明の「軟質植物質素材の製造方法」において,軟質植物素材は冷凍したものとされていない。 したがって,引用発明の「軟質植物質素材の製造方法」と,補正発明の「冷凍した軟質植物質食材の製造方法」とは,「軟質植物質食材の製造方法」という点で共通する。 (イ)補正発明の「(1)」の工程について 引用発明の「(1)植物質素材を凍結し,解凍して,解凍素材を調製する工程」は,補正発明の「(1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程」と一致する。 (ウ)補正発明の「(2)」の工程について 引用発明の「(2)前記解凍素材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬する工程」は,かかる工程により,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素で処理された解凍植物質素材が得られるから,補正発明の「(2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程」に相当することは明白である。 (エ)補正発明の「(3)」の工程について 引用発明の「(2-A)その酵素分散液を分離した後,酵素含浸処理した植物質素材の表面を水等により,洗浄する工程」は,補正発明の「(3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程」を包含する。 (オ)補正発明の「(4)」の工程について 引用発明の「(2-B)表面がより酵素処理を受けるのを防止するため,酵素分散液から分離した後,所定時間,例えば湿度が,50?80%で,比較的低温(室温(通常,20℃?25℃))の一定の雰囲気で放置する工程」は,時間は「所定時間」と特段特定されておらず,温度は「比較的低温」とされるものの20?25℃の室温が例示されているだけであり低温の概念が補正発明と異なっている。 そうすると,引用発明の「(2-B)表面がより酵素処理を受けるのを防止するため,酵素分散液から分離した後,所定時間,例えば湿度が,50?80%で,比較的低温(室温(通常,20℃?25℃))の一定の雰囲気で放置する工程」と,補正発明の「(4)分離した前記酵素処理植物質食材を,10℃において,12?16時間,低温処理を行い,低温処理植物質食材を調製する工程」とは,「(4)分離した前記酵素処理植物質食材を,所定温度において,所定時間,処理を行い,処理植物質食材を調製する工程」という点で共通する。 (カ)補正発明の「(5)」の工程について 引用発明の「(3)」の工程における「前記浸漬した解凍素材」は,「植物質素材」を出発材料として,引用発明の「(1)」の工程,「(2)」の工程及び「(2-A)」の工程を経たものである。 他方,補正発明の「(4)」の工程における「分離した前記酵素処理植物質食材」は,「植物質食材」を出発材料として,補正発明の「(1)」?「(3)」の工程を経たものである。 上記したように,引用発明の「(1)」の工程,「(2)」の工程及び「(2-A)」の工程は,それぞれ補正発明の「(1)」の工程,「(2)」の工程及び「(3)」の工程に相当する工程であるから,引用発明の「前記浸漬した解凍素材」と補正発明の「分離した前記酵素処理植物質食材」とは,「(1)?(3)工程を含む処理をした植物質食材」という点で共通する。 そうすると,引用発明の「(3)前記浸漬した解凍素材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程」と,補正発明の「(5)前記低温処理植物質食材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程」とは,「前記(1)?(3)の工程を含む処理をした植物質食材を前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程」という点で共通する。 (キ)補正発明の「(6)」の工程について 引用発明は,補正発明の「(6)」の工程を具備していない。 (ク)小括 以上のことから,両発明は,次の(一致点)並びに(相違点1)及び(相違点2)を有する。 (一致点) 「軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程, (2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程, (3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程, (4)分離した前記酵素処理植物質食材を,所定温度において,所定時間,処理を行い,処理植物質食材を調製する工程, (5)前記(1)?(3)工程を含む処理を含む植物質食材を前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程 を有することを特徴とする方法。」 (相違点1) 「(4)」の処理植物質食材を調製する工程における,所定温度が,補正発明では,「10℃」の「低温処理」であり,所定時間が「12?16時間」であるのに対して,引用発明では,比較的低温とされているものの例示されている温度は室温(20?25℃)であり補正発明でいう低温処理とはいえないし,また,所定時間も刊行物1に具体的に開示が無く不明な点。 (相違点2) 補正発明では,「(6)前記加熱処理植物質食材を,冷凍する工程」を具備するのに対して,引用発明では,かかる工程を具備しておらず,それにより, 製造方法の対象である軟質植物質食材が,補正発明では「冷凍した」ものであるのに対して,引用発明では,そのようになっていない点。 オ 判断 (ア)相違点1について A 補正発明における数値限定の意義について 本願明細書の段落【0016】に次のように記載されている。 「浸漬後,酵素の分散液を,植物質食材から分離する。これにより,内部からの軟化と比較して,急速に進行する外部軟化を避けることができ,植物質食材全体における均一な軟化を達成することができる。 このようにして内部まで酵素が浸透し,酵素の分散液から分離された植物質食材を,所定の柔らかさとなるまで,低温において,植物質食材全体として,徐々に均一に軟化をさせるために,一般に,0?15℃,好ましくは,4?10℃において,冷蔵庫などの恒温室で保存する。保存時間は,植物質食材の所定の柔らかさに至るまでの時間であり,一般に,8?24時間,好ましくは,10?16時間である。例えば,10℃においては,12?16時間程度である。」 この記載事項からすると,急速に進行する外部軟化,すなわち,急速に進行する表面の軟化を避けるために酵素液の分離が行われていることが理解される。そして,酵素液は,内部まで浸透し,補正発明の「(4)」の工程により,内部側の酵素処理が更に進行し,植物質食材全体における均一な軟化を達成することができることが理解される。そして,補正発明の「10℃」「12?16時間」という時間は,「保存時間は,植物質食材の所定の柔らかさに至るまでの時間」とあるように,植物質食材を所定の柔らかさにするのに要する時間の例示として示されたものであって,かかる数値に特段の臨界的な意義はないものと理解される。 B 刊行物1における酵素分散液から分離した後の放置時間及び放置温度について 他方,引用発明に係る刊行物1の摘示(刊1-5)には, 「酵素浸透処理食材は,好ましくは,表面がより酵素処理を受けるのを防止するために,酵素含浸後,酵素分散液から分離して,所定時間,比較的低温,例えば,室温(25℃)で放置する。 植物質素材の柔らかさ(硬度)は,減圧下における酵素含浸処理時間や,その後の放置時間などによる。豆類や,野菜等のもともと比較的柔らかい植物質素材は,短時間の酵素含浸処理などでよいが,例えば,筍やニンジンのように比較的硬い植物質素材は,より長時間の酵素含浸処理等が好適である。」 との記載があり, (i)酵素浸透処理食材は,好ましくは,表面がより酵素処理を受けるのを防止するために,酵素含浸後,酵素分散液から分離して,所定時間,比較的低温,例えば,室温(25℃)で放置すること。 (ii)植物質素材の柔らかさ(硬度)は,酵素分散液から分離した後の放置時間などにより変わること。 (iii)筍やニンジンのように比較的硬い植物質素材は,より長時間の酵素含浸処理等が好適であること。 が分かる。 C 刊行物1における浸漬温度について 浸漬温度,すなわち,引用発明の「(2)」の工程の温度についてであるが, 「浸漬温度は,一般に,10?50℃・・・(略)・・・が適当である。浸漬時間は,浸漬温度により変動し得るが,例えば,10?80分程度,好ましくは,30?60分程度であることが適当である。 このようにして内部まで酵素が浸透した植物質素材を,後述する加熱失活処理により固定される柔らかさを達成できる程度になるまで,浸漬状態で放置するか,又は酵素分散液を分離してから放置する。」(摘示(刊1-4)) と記載されているように,刊行物1には,浸漬温度,すなわち,酵素反応温度として10?50℃が提案されている。 D 刊行物2記載の事項について 刊行物2には,食物の形状を保持したまま硬さを制御できる手法(摘示(刊2-1))が記載されており,「【目的】凍結含浸法は,食材を凍結,解凍することで植物組織崩壊酵素を内部にまで効率的に含浸する技術であり,食材の形状を保持したまま硬さを制御することができる。これまで含浸後の酵素反応を至適温度である50℃で行い,嚥下食レベルまで軟化する手法を報告してきた。」(摘示(刊2-1))と,凍結含浸後の酵素反応により,食材を植物組織崩壊酵素の活性で嚥下食レベルまで軟化する手法がこれまで報告されてきたことを述べた上で,「本演題では,中間的な硬さに制御しやすくするための,酵素濃度,酵素反応温度について検討したので報告する。」(摘示(刊2-1))と述べられている。 また,刊行物2は,「植物組織崩壊酵素」と記載され,具体的な酵素の種類は明記されていないが,「凍結含浸にはゴボウ,レンコン,タケノコを用いた。」(摘示(刊2-3)との植物系素材が使用され,「これまで含浸後の酵素反応を至適温度である50℃で行い,嚥下食レベルまで軟化する手法を報告してきた。」(摘示(刊2-2))との記載事項からみて,嚥下食レベルまで植物系食材を軟化できる活性を有する酵素を使用することは明白であり,刊行物1及び2に接した当業者であれば,引用発明の「ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素」と刊行物2に記載の「植物組織崩壊酵素」とは共通する活性を有することに直ちに気付くものといえる。 さらに,刊行物2には,「凍結含浸にはゴボウ,レンコン,タケノコを用いた。酵素溶液は,食材ごとに通常濃度,低濃度の2種類を用いた。厚さ1cmの食材を酵素液に浸漬して解凍後,真空ポンプを用いて5分間減圧含浸後,酵素液から取り出して4℃または50℃で酵素反応」(摘示(刊2-3))させ,「低濃度の酵素液を用いて4℃で長時間酵素反応した方が,通常濃度の酵素液を用いたものや50℃で短時間反応したものに比べて個体間や部位による硬さのばらつきが少なかった。」(摘示(刊2-3))との結果が記載されている。このことから,凍結した食材を解凍後(引用発明の「(1)」の工程に相当。),5分間減圧含浸後酵素液から取り出して(酵素の種類が刊行物2でペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素であるか不明なことを除き,引用発明の「(2)」及び「(2-A)」の工程に相当。),4℃または50℃で酵素反応させ実験を行い,4℃で長時間酵素反応した方が,50℃で短時間酵素反応させるより,個体間や部位による硬さのばらつきが少なかったデータが得られていることが理解される。 さらに,「これらの結果,元の食材と最大限に軟化した食材の中間的な硬さに制御するには,酵素濃度および酵素反応温度を下げて反応速度を緩やかにする方法が示唆される。また,低温反応により長時間の酵素反応が可能になったことで,酵素の食材内での分布がより均一化され,個体間や部位による硬さのばらつきが少ない食材を作製することが可能となった。」(摘示(刊2-3))との刊行物2の著者の見解が記載されている。 E 小括 上記「B 刊行物1における酵素分散液から分離した後の放置時間及び放置温度について」で言及した刊行物1記載の (ii)植物質素材の柔らかさ(硬度)は,酵素分散液から分離した後の放置時間などにより変わること。 (iii)筍やニンジンのように比較的硬い植物質素材は,より長時間の酵素含浸処理等が好適であること。 等の記載事項から,植物質素材の硬さに応じて,放置時間や放置温度の最適化を図る必要があるところ,引用発明において,「例えば」と例示として示された室温(通常,20℃?25℃)の雰囲気に代えて,摘示(刊1-4)記載の浸漬温度である10?50℃を参考にしつつ,より低温の10℃という温度を選択することは当業者が容易になし得ることといえるし,温度が低下すれば必然的に長時間放置することが必要となることから,放置時間を12?16時間とする程度のことは,当業者が適宜決め得る設計的事項に過ぎず,相違点1に記載の補正発明のごとく構成することは当業者が容易に案出し得たものといえる。 別の理由として,刊行物2には,酵素の具体的種類は明記されていないが,上記「D 刊行物2記載の事項について」で言及したように,「植物組織崩壊酵素」と記載され,刊行物1及び2に接した当業者であれば,引用発明の「ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素」は,植物組織を構成するペクチンとセルロースを分解し,植物組織の軟化をもたらすから,刊行物2に記載の「植物組織崩壊酵素」と共通する活性の酵素であることに直ちに気付くものといえる。 そして,前記したように刊行物2には,酵素の種類が引用発明の「ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素」であるか不明であることを除けば,引用発明の「(1)」?「(2-A)」と共通の工程を有するものが記載されている。 さらに,引用発明も刊行物2記載のものも植物素材を軟化させるという点で共通する目的を有している。 これらの共通性から,引用発明において,刊行物2記載の技術的事項を適用して試してみようとする強い動機があるものといえる。 また,刊行物2には,「酵素液から取り出して4℃または50℃で酵素反応」(摘示(刊2-3))させる工程が記載されている。これは,引用発明の酵素分散液から分離する工程である「(2-A)」の後の工程に対応する工程であって,上記「D 刊行物2記載の事項について」で言及したように,4℃で長時間酵素反応した方が,50℃で短時間酵素反応させるより,個体間や部位による硬さのばらつきが少なかったデータが得られており,さらに,「これらの結果,元の食材と最大限に軟化した食材の中間的な硬さに制御するには,酵素濃度および酵素反応温度を下げて反応速度を緩やかにする方法が示唆される。また,低温反応により長時間の酵素反応が可能になったことで,酵素の食材内での分布がより均一化され,個体間や部位による硬さのばらつきが少ない食材を作製することが可能となった。」(摘示(刊2-3))との刊行物2の著者の見解が記載されている。 上記著者の見解は,「4℃で長時間酵素反応」と「50℃で短時間酵素反応」というたった2例の結果から導かれたものであるから,好ましい結果が得られた「4℃で長時間酵素反応」との条件を起点として,その前後の反応温度と反応時間を探索すれば,より最適な酵素反応温度と酵素反応時間が得られるであろうことは当業者であれば誰しも思い至ることといえる。 よって,引用発明において,刊行物2記載の技術的事項を適用し,より最適な酵素反応温度と酵素反応時間を探索した結果,補正発明のごとく「10℃において,12?16時間,低温処理」という条件を得る程度のことは,当業者が適宜決め得る単なる設計的事項ということができる。 以上の事項をまとめると,引用発明及び刊行物1記載の事項に基づいて,相違点1に記載の補正発明の特定事項のごとくすることは当業者が容易に案出できたものといえるし,また別の理由として,引用発明及び刊行物2記載の技術的事項に基づいて,相違点1に記載の補正発明の特定事項のごとくすることは当業者が容易に案出できたものともいえる。 (イ)相違点2について 調製した食材を保存のため冷凍処理することは,当技術分野では本願出願前から周知の技術的事項であるし,摘示(刊1-6)に 「[0038] ごぼうの凍結処理 -19℃で一晩(約12時間)凍結,放置することにより,凍結食品を得た。」 ことが記載され,そして,同じく摘示(刊1-6)の段落[0039]に 「冷凍処理 酵素失活後,-19℃で一晩(約12時間)凍結,放置することにより,酵素処理凍結食品を得た。」 と記載されているように,酵素失活,すなわち,引用発明の「(3)」の工程の後に,冷凍処理を行うことが記載されている。 よって,引用発明において,「(3)」の工程の後に冷凍処理工程を加わえることは,当業者が容易になし得たことといえ,かかる冷凍処理工程が加わることで,引用発明の「製造方法」の対象である「軟質植物質食材」を冷凍した軟質植物質食材とすることで,相違点2の補正発明の特定事項のごとく,構成することは当業者が容易になし得たことである。 (ウ)補正発明の効果について 補正発明に係る効果は,刊行物1記載の事項及び本出願前から周知の技術的事項から予測されるところを越えて優れているとはいえない。 また,刊行物1及び刊行物2に記載の事項並びに本出願前から周知の技術的事項から予測されるところを越えて優れているとはいえない カ まとめ 以上のとおり,補正発明は,刊行物1記載された発明及び周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるし,また,補正発明は,刊行物1及び刊行物2記載された発明並びに周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これらいずれかの理由により,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができるものではない。 以上のとおり,上記補正は,平成23年改正前特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,この補正を含む本件補正は,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 平成23年11月14日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので,本願請求項1?4に係る発明は,出願当初の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり,請求項1に係る発明(以下,同項記載の発明を「本願発明」という。)は,下記のとおりである。 「冷凍した軟質植物質食材の製造方法であって,以下の工程, (1)植物質食材を凍結し,解凍して,解凍食材を調製する工程, (2)前記解凍食材を,減圧下において,ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の分散液に浸漬し,酵素処理植物質食材を調製する工程, (3)前記酵素処理植物質食材を前記分散液から分離する工程, (4)分離した前記酵素処理植物質食材を,0?10℃において,8?24時間,低温処理を行い,低温処理植物質食材を調製する工程, (5)前記低温処理植物質食材を,前記ペクチン分解酵素又はセルロース分解酵素の活性を停止させる温度及び時間,加熱処理する工程,次いで (6)前記加熱処理植物質食材を,冷凍する工程, を有することを特徴とする方法。」 第4 原査定の理由 拒絶査定における拒絶理由(平成23年3月31日付けの「理由1」)の概要は,本願発明は,その出願前に頒布された引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 第5 引用刊行物の記載された事項及び記載された発明 上記拒絶理由で引用された上記刊行物1である「国際公開第2008/29783号」の記載された事項及び記載された発明は上記の「第2 2 (3) イ 刊行物に記載された事項」の「(ア)刊行物1に記載された事項」及び「ウ 刊行物1に記載された発明」に記載されたとおりである。 そして,同刊行物2である「第14回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会学術大会プログラム・抄録集,p360,II-P4-15(2008年8月13日発行)」の記載された事項は,上記「第2 2 (3) イ 刊行物に記載された事項」の「(イ)刊行物2に記載された事項」に記載されたとおりである。 第6 判断 本願発明は,補正発明の「10℃において,12?16時間」を「0?10℃において,8?24時間」と温度と時間の範囲を拡張したものである。 そうすると,本願発明の構成要件をすべて含む補正発明が,上記「第2 2 (3) オ 判断」に記すように,補正発明は,刊行物1記載された発明及び周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるし,また,補正発明は,刊行物1及び刊行物2記載された発明並びに周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 そうであるなら,本願発明も同様の理由により,本願発明は,刊行物1記載された発明及び周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるし,また,本願発明は,刊行物1及び刊行物2記載された発明並びに周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7 請求人の主張について 請求人は,平成25年1月4日付け回答書の「その3」「2.」において, 「出願人として,ここで,補正案として,本発明の構成要件に,酵素処理に使用する「通常濃度の酵素分散液」の酵素濃度として,具体的に「0.2?2.0質量%」(段落番号0015に開示)に規定することを提案します。これにより,本発明の技術的な特徴が,引用文献2との関係でより明瞭化するものと思料します。」と主張している。 しかし,刊行物1の摘示(刊1-4)には, 「[0011] 酵素分散液に使用される酵素としては,ペクチン分解酵素(ペクチナーゼ)又はセルロース分解酵素(セルラーゼ)が使用される。 ・・・ [0012] 酵素分散液の濃度は,特に限定されるものではないが,通常,0.1?4.0質量%,好ましくは,0.2?2.0質量%とすることが適当である。媒体は,通常,水であるが,酵素の最適pH範囲等を安定に保つため,緩衝剤(クエン酸塩やリン酸塩等)を配合してもよい。」との記載があり,「0.2?2.0質量%」で使用することは,普通のことである。 そうすると,審判請求人が提案するとおり,酵素処理に使用する「通常濃度の酵素分散液」の酵素濃度を,具体的に「0.2?2.0質量%」と規定しても,特許性を有するものとはならない。 第8 むすび 以上のとおり,本願発明は,刊行物1記載された発明及び周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるし,また,本願発明は,刊行物1及び刊行物2記載された発明並びに周知の技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これらいずれかの理由により,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることはできないので,本願は,その余の請求項に係る発明を検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-06-03 |
結審通知日 | 2013-06-10 |
審決日 | 2013-06-27 |
出願番号 | 特願2008-218252(P2008-218252) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
P 1 8・ 575- Z (A23L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 山本 匡子 |
特許庁審判長 |
郡山 順 |
特許庁審判官 |
安藤 倫世 関 美祝 |
発明の名称 | 冷凍された軟質植物質食材の製造方法 |
代理人 | 箱田 篤 |
代理人 | 浅井 賢治 |
代理人 | 熊倉 禎男 |