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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1278508
審判番号 不服2012-24291  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-07 
確定日 2013-08-21 
事件の表示 特願2009-516912号「レーザー手術用機器」拒絶査定不服審判事件〔平成20年1月3日国際公開、WO2008/000294、平成21年11月26日国内公表、特表2009-540973号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 I.手続の経緯
本願は、平成18年7月6日(パリ条約による優先権主張 2006年6月26日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、平成23年9月22日付けで拒絶理由が通知され、これに対して平成24年3月29日付けで意見書が提出されるとともに、同日付けで手続補正がなされ、平成24年8月1日付けで拒絶査定がなされたところ、平成24年12月7日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

II.本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成24年3月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、以下のとおりのものである。
「レーザーと、
該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる手段と、
を含んで構成される肺組織のレーザー手術用機器であって、
前記レーザーは固体レーザーであり、該固体レーザーはレーザー光を照射可能であり、
該レーザー光は最大強度において1200?1400nmの範囲の波長を有し、
前記レーザーは、複数のレーザー素子を含んで構成される半導体レーザーであり、少なくとも50Wの出力を有する肺組織のレーザー手術用機器。」
III.引用文献の記載事項
1.原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である特表2003-518395号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア:「【請求項1】 光伝送光ファイバーと、光の環状ビームを投射するために該ファイバーに結合された光学組立体と、該光学組立体から目標組織部位への環状光ビームのための伝送路に膨張を与えるため、該光学組立体を囲むバルーンとを備える光線療法装置。」(【特許請求の範囲】)

イ:「(発明の概要)
エネルギー源(例えば、(ファイバを経由した)レーザー)と標的にされた組織との直接的接触を必要とせずに、レーザー光又は他の放射が環状パターンで投影される光線療法のための方法及び装置が開示される。本発明は、心臓治療で(例えば、異常な波の伝達を除去するために肺静脈口又は冠状静脈洞口から定められた距離で中心に配置された)心房チャンバ出口内で環状の伝達ブロックを作り出すことにおいて特に有用である。
本発明は、(組織の切除及び/又は凝固を含む)組織内での光線療法プロセスを誘導するために特に有用である。一般に、光学装置は、近端部、遠端部、及び延長部材の内部で伸長する少なくとも1つの軸方向内腔を有する可撓延長部材を含むカテーテルの内部に収容される。可撓延長部材の遠端部は開けられるか、又は透明キャップ、センタリングバルーン、若しくはセンタリングコイルを含む。本発明の光学装置は、内腔内部の軸方向の動きを可能にする方法で離れた位置に固定されるか、又は第1の内腔の内部に配置されることが好ましい。光学装置は、光を貫通させて、又は可撓部材の遠端部から投影するために役立つ。光学装置は、光ファイバ及び他の光投影要素を含む。」(【0008】?【0009】)

ウ:「また、本発明の装置は、カテーテルにしっかりと取り付けられたバルーン部材を含む。溶液又はガスの注入がバルーンを膨張させ、それにより血液及び/又は他の体液を組織部位から引き出す。」(【0011】)

エ:「本発明の1つの実施例では、フォトアブレーション器具は、膨張すると直ぐに光学アセンブリを囲むように適合された膨張可能なバルーン部材を含む。溶液又はガスの注入がバルーンを膨張させ、それにより血液及び/又は他の体液を組織部位から離す。膨張したバルーンが光学アセンブリと組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供するように、バルーン部材は酸化ジュウテリウム又は重水素を含む水を用いて膨張させられることが好ましい。酸化ジュウテリウムは、伝達されたエネルギーから少量のエネルギーを吸収し、それによりバルーンが熱せられることを防ぐ長所を提供する。」(【0031】)

オ:「好ましいエネルギー源は、約200nanometers?10.5micrometersの範囲のレーザー光を含む。特に、吸水ピークに対応するか又は近い波長が多くの場合、好ましい。そのような波長は、約805nm?約1060nm、好ましくは約900nm?1000nm、最も好ましくは約940?980nmのものを含む。適当なレーザーは、エキシマレーザー、ガスレーザー、固体レーザー及びレーザーダイオードを含む。Tucson, アリゾナ, Optopower社製の特に好ましくい(当審注:「好ましくい」は誤記であって、正しくは「好ましい」と解される。)AlGaAsダイオードアレイは980nmの波長を発生させる。好ましいエネルギーは、約200nm?約2.4micrometers、好ましくは約400?約3,000nm、最も好ましくは約805?1060nmのコヒーレント光、例えばレーザー光である。一般的に、光学装置は約10?約25wattsのパワーを発し、心臓組織面に約0.5watts/cm^(2)?約3watts/cm^(2)のアブレーティブ放射のエネルギーフルエンスをもたらす。」(【0078】)

カ:「光伝送光ファイバーは、該光ファイバーと連通するエネルギー源からのエネルギーを伝送する。適当なエネルギー源は本分野において知られており、上述したタイプのエネルギーを発生させる。好ましいレーザー源はダイオードレーザーを含む。光ファイバーは、可撓性伸長部材によって形成された管腔内に配置される(既述)。光ファイバーは、可撓性伸長部材内の光ファイバーの位置付けが容易に達成されるように該管腔内で滑動的に制御され得る。好ましくは、光ファイバーは、膨張バルーン部材の近くに配置される。」(【0080】)

キ:「用語「組織」は本分野において十分に認識されており、例えば、腸間膜、肝臓、腎臓、心臓、肺臓、脳、腱、筋肉等の器官のような体外材料を含むことを企図する。」(【0085】)

ク:「用語「溶液」は、その後の有害作用を伴わずに本発明の装置を通じて対象に施され得る溶液、例えば水溶液を含むことを企図する。特に、該溶液は、光学装置から発せられたエネルギー、例えばレーザーエネルギーの強さ、特性又は波長を低下させるべきではない。一般に、該溶液は、薬学的に容認可能なキャリア又は伝達手段(媒体)と考えれらる。」(【0091】)

a:アの記載、イの「エネルギー源(例えば、(ファイバを経由した)レーザー)と標的にされた組織との直接的接触を必要とせずに、レーザー光又は他の放射が環状パターンで投影される光線療法のための方法及び装置が開示される。・・・本発明は、(組織の切除及び/又は凝固を含む)組織内での光線療法プロセスを誘導するために特に有用である。」との記載及びキの「用語「組織」は本分野において十分に認識されており、例えば、・・・肺臓、・・・を含むことを企図する。」との記載からして、引用文献には、
「レーザーと、
光伝送光ファイバーと、
光の環状ビームを投射するために該ファイバーに結合された光学組立体と、
該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるため、該光学組立体を囲むバルーンとを含んで構成され、
レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する光線療法装置。」
が記載されているといえる。

b:イの「エネルギー源(例えば、(ファイバを経由した)レーザー)」との記載及びカの「光伝送光ファイバーは、該光ファイバーと連通するエネルギー源からのエネルギーを伝送する。」との記載からして、引用文献には、aの「光伝送光ファイバー」が「レーザーと連通する」ものが記載されているといえる。

c:エの「膨張したバルーンが光学アセンブリと組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供する」との記載における「光学アセンブリ」は、aの「光線療法装置」における「光学組立体」を意味することは明らかだから、aの「光線療法装置」における「該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるため、該光学組立体を囲むバルーン」は、「該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるとともに、膨張して該光学組立体と肺組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供するため、該光学組立体を囲むバルーン」といえる。

d:オの「好ましいエネルギー源は、約200nanometers?10.5micrometersの範囲のレーザー光を含む。特に、吸水ピークに対応するか又は近い波長が多くの場合、好ましい。そのような波長は、約805nm?約1060nm・・・のものを含む。適当なレーザーは、・・・レーザーダイオードを含む。」との記載及びカの「好ましいレーザー源はダイオードレーザーを含む。」からして、引用文献には、aの「光線療法装置」における「レーザー」が「レーザーダイオード」であり、「レーザー光は吸水ピークに対応するか又は近い波長である約805nm?約1060nmの波長を有」するものが記載されているといえる。

e:オの「一般的に、光学装置は約10?約25wattsのパワーを発し、・・・アブレーティブ放射のエネルギーフルエンスをもたらす。」との記載からして、引用文献には、dの「レーザーダイオード」が「約10?25Wの出力を有する」ものが記載されているといえる。

これら記載事項及び図示内容を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「レーザーと、
前記レーザーと連通する光伝送光ファイバーと、
前記レーザーからのレーザー光の環状ビームを投射するために該ファイバーに結合された光学組立体と、
該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるとともに、膨張して該光学組立体と肺組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供するため、該光学組立体を囲むバルーンとを含んで構成され、
前記レーザーからのレーザー光を、前記レーザーと連通する光伝送光ファイバーにより伝送し、
前記レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する光線療法装置であって、
該レーザー光は吸水ピークに対応するか又は近い波長である約805nm?約1060nmの波長を有し、
前記レーザーは、レーザーダイオードであり、約10?25Wの出力を有する前記レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する光線療法装置。」

IV.対比
本願発明と引用発明とを対比する。

引用発明の「光伝送光ファイバー」は本願発明の「光ファイバー」に相当し、以下同様に、「前記レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセス」は「肺組織のレーザー手術」に、該「光線療法プロセスを誘導する光線療法装置」は「肺組織のレーザー手術用機器」に、それぞれ相当する。

引用発明の「レーザーダイオード」が、「固体レーザーであり、該固体レーザーはレーザー光を照射可能であり」、「半導体レーザーであ」ることは明らかである。

引用発明は「前記レーザーからのレーザー光を、前記レーザーと連通する光伝送光ファイバーにより伝送」するから、引用発明が「該レーザーのレーザー光を光伝送光ファイバへ結合させ」ているものであることは明らかである。

本願発明のレーザー光の最大強度における波長範囲について、本願明細書には、「一般に組織のレーザー手術のために、特に肺組織の手術のために、1100nmと1400nmとの間の波長が好ましいことが知られている。この波長範囲で、肺組織などの含水組織におけるレーザー照射の吸収が開始され、効率的な組織の切り離し又は切断を可能にすると同時に、多量の血液を供給された組織上で広範な凝固を発生させる。」(【0003】)との記載、「1150,1175,1200,1250,1275,1300,1303又は1310nmを上回る波長範囲は、特に好ましい。吸水は波長からの影響をあまり受けないため、この波長範囲においては、ある種の波長変動がレーザー照射による異なる手術動作に自動的につながるということはない。他方、レーザー照射は、1350,1330,1325,1300,1275,1250,1225又は1200nmの波長を下回るべきでもあるが、これは、上記の波長以上である場合、プラトー範囲が消失するためである。このプラトー範囲では、比較的高い水分含有量の組織(ひいては肺組織も)において、比較的好ましい吸収が行われ、分散に対する吸収の有利な比率となる。」(【0005】)との記載が存在する。
本願明細書の上記記載からして、本願発明のレーザー光の最大強度における「1200?1400nmの範囲の波長」は、レーザー光が比較的高い水分含有量の肺組織に良好に吸収される波長範囲を意味するといえる。
他方、引用発明は、「該レーザー光は吸水ピークに対応するか又は近い波長である約805nm?約1060nmの波長を有し、・・・前記レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する」ものであるから、引用発明において、レーザー光が肺組織に良好に吸収されることは明らかである。
そうすると、本願発明の「該レーザー光は最大強度において1200?1400nmの範囲の波長を有し」と引用発明の「該レーザー光は吸水ピークに対応するか又は近い波長である約805nm?約1060nmの波長を有し」とは、「該レーザー光は該レーザー光が比較的高い水分含有量の肺組織に良好に吸収される波長を有し」ている点で一致する。

本願発明の「肺組織のレーザー手術用機器」が有する「少なくとも50Wの出力」と引用発明の「前記レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する光線療法装置」が有する「約10?25Wの出力」とはともに、「レーザー手術が行える所定の出力」といえるから、本願発明の「少なくとも50Wの出力を有する肺組織のレーザー手術用機器」と引用発明の「約10?25Wの出力を有する(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する光線療法装置」とは、「レーザー手術が行える所定の出力を有する肺組織のレーザー手術用機器」である点で一致する。

本願発明の「肺組織のレーザー手術用機器」は、「レーザーと、該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる手段と、を含んで構成される」と規定されているから、本願発明に係る「肺組織のレーザー手術用機器」は、「レーザー」、「該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる手段」以外の他の構成を含む態様を排除するものではない。
そして、本願明細書の記載を検討しても、引用発明の「前記レーザーからのレーザー光の環状ビームを投射するために該ファイバーに結合された光学組立体と、該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるとともに、膨張して該光学組立体と肺組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供するため、該光学組立体を囲むバルーンとを含んで構成され」る態様が本願発明から排除されると解すべき根拠も見出せないから、本願発明は、引用発明の「・・・光学組立体と、・・・該光学組立体を囲むバルーンとを含んで構成され」る態様を含むといえる。

以上によれば、本願発明と引用発明とは次の点で一致する。
(一致点)
「レーザーと、
光ファイバと、
を含んで構成される肺組織のレーザー手術用機器であって、
前記レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させ、
前記レーザーは固体レーザーであり、該固体レーザーはレーザー光を照射可能であり、
該レーザー光は該レーザー光が比較的高い水分含有量の肺組織に良好に吸収される波長を有し、
前記レーザーは、半導体レーザーであり、レーザー手術が行える所定の出力を有する肺組織のレーザー手術用機器。」

そして、両発明は以下の点で相違する。
(相違点1)
「前記レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させ」ることにつき、
本願発明では、「該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる手段」を含むのに対して、
引用発明では、「前記レーザーからのレーザー光を、前記レーザーと連通する光伝送光ファイバーにより伝送」するものの、「該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる手段」を含むか否か不明である点。

(相違点2)
レーザーに係る発明特定事項(レーザー光の波長範囲(該レーザー光が比較的高い水分含有量の肺組織に良好に吸収される波長)、半導体レーザーの構成、半導体レーザーの出力範囲(レーザー手術が行える所定の出力))につき、
本願発明では、「該レーザー光は最大強度において1200?1400nmの範囲の波長を有し、
前記レーザーは、複数のレーザー素子を含んで構成される半導体レーザーであり、少なくとも50Wの出力を有する」のに対し、
引用発明では、「該レーザー光は吸水ピークに対応するか又は近い波長である約805nm?約1060nmの波長を有し、前記レーザーは、レーザーダイオードであり、約10?25Wの出力を有する」点。

V.判断
まず、相違点2について検討する。
(相違点2)
本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である特開平6-261910号公報の「蒸気バブルの形成は、レーザエネルギーの液状媒体への吸収に基づく。前述した液状媒体は主として水からなる。図1は、波長に対する水中でのレーザエネルギーの吸収係数(単位:cm-1) をプロットした対数グラフである。該グラフから分かるように、該吸収係数は1.5 μを大幅に越え、2.1 μと3 μの二つの吸収ピークが認められる。」(【0015】)との記載及び図1の図示内容、
【図1】

同じく特表2000-504234号公報の「水の層によって、ある波長の光照射が水を透過できないことは、一般的に良く知られたことである。スペクトルのこの領域は、「不透過性の窓」として知られ、以下の波長範囲、すなわち1.25?1.40μm,1.7?2.1μm,2.5?3.1μm,5.5?7.5μmである。これらの範囲では、光照射は、水と、最高90パーセントの水からなる生体組織とによって、強く吸収される。かかる吸収は、水の急速な加熱と、治療される生体組織の蒸発とにつながる。」(7頁13?18行)との記載からして、約1400nm近傍の波長領域に吸水ピークに対応するか又は近い波長が存在することは、本願の優先権主張日の前に周知であったといえる。

また、例えば、本願の優先権主張日(平成18年6月26日)の約22年10ヶ月前(昭和58年8月20日)に頒布された刊行物であって、当業者にとっての便覧というべき「電子通信ハンドブック」(社団法人電子通信学会ハンドブック委員会編、「電子通信ハンドブック」、第1版第4刷、株式会社オーム社、昭和58年8月20日、p.1483)の「1・4・7 InGaAsP-InPダブルへテロ接合レーザ」の項における「・・・この波長領域の半導体レーザーのうち、室温連続動作が可能で、かつ長寿命が期待できるものはInGaAsP-InPダブルへテロ接合レーザである。このレーザの活性層はInGaAsPでその組成を変えることにより、InP基板と格子整合を保ったまま、広い範囲(1.1?1.7μm)で発振波長を変えることができる。」との記載、本願の優先権主張日(平成18年6月26日)の約13年6ヶ月前(平成4年12月31日)に頒布された刊行物であって、当業者にとっての便覧というべき「コンパクト版 電気工学ポケットブック」(電気学会編、「コンパクト版 電気工学ポケット」、第1版第4刷、株式会社オーム社、平成4年12月31日、p.314)の「(d)半導体レーザ」の項における「・・・In_(1-x)Ga_(x)As_(y)P_(1-y)(0.8?3μm)・・・(固相比x,yを0?1に変えることにより波長を可変にすることができる。)・・・」との記載からして、半導体レーザにおいて1200?1400nmの範囲の波長のレーザー光を出力できることは、本願の優先権主張日の前に技術常識であったといえる。

そうすると、上記周知の事項や技術常識を考慮すれば、「吸水ピークに対応するか又は近い波長を有し・・・レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する」引用発明のレーザーダイオード(半導体レーザー)として、レーザー光の波長が上記周知の吸水ピークに対応するか又は近い波長である約1400nm近傍の波長のものを採用することに格別の困難性は見出せない。
しかも、レーザ手術用機器で使用するレーザーの波長や出力は、当業者であれば手術の内容に応じて適宜決定し得る事項にすぎず、本願明細書には、本願発明に係る「半導体レーザー」の波長範囲(1200?1400nm)について、「一般に組織のレーザー手術のために、特に肺組織の手術のために、1100nmと1400nmとの間の波長が好ましいことが知られている。この波長範囲で、肺組織などの含水組織におけるレーザー照射の吸収が開始され、効率的な組織の切り離し又は切断を可能にすると同時に、多量の血液を供給された組織上で広範な凝固を発生させる。肺組織においては、加えて非常に重要な効果が同時に実現される。」(【0003】)との記載、「1150,1175,1200,1250,1275,1300,1303又は1310nmを上回る波長範囲は、特に好ましい。吸水は波長からの影響をあまり受けないため、この波長範囲においては、ある種の波長変動がレーザー照射による異なる手術動作に自動的につながるということはない。他方、レーザー照射は、1350,1330,1325,1300,1275,1250,1225又は1200nmの波長を下回るべきでもあるが、これは、上記の波長以上である場合、プラトー範囲が消失するためである。このプラトー範囲では、比較的高い水分含有量の組織(ひいては肺組織も)において、比較的好ましい吸収が行われ、分散に対する吸収の有利な比率となる。」(【0005】)との記載が存在し、本願発明に係る「半導体レーザー」の出力範囲(少なくとも50W)について、「上記波長範囲のレーザー手術のためには、少なくとも25Wの出力を有するレーザーが好ましい。」(【0004】)との記載、「レーザーの出力は、好ましくは25Wを上回り、この場合、例えば少なくとも80Wの出力が好ましい。」(【0007】)との記載が存在するものの、本願発明において規定される「半導体レーザー」の波長及び出力の範囲に格別の臨界的意義を見出せないことからすれば、「吸水ピークに対応するか又は近い波長を有し・・・レーザー光による(肺組織の切除及び/又は凝固を含む)肺組織内での光線療法プロセスを誘導する」引用発明のレーザーダイオード(半導体レーザー)を、レーザー光の波長が上記周知の約1400nm近傍の波長といえる「1200?1400nmの範囲の波長を有」するとともに、「少なくとも50Wの出力を有する」ものとすることは、引用発明のレーザーダイオード(半導体レーザー)としてレーザー光の波長が上記周知の吸水ピークに対応するか又は近い波長である約1400nm近傍の波長のものを採用する際に当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項である。
加えて、上記の場合、レーザー光の「吸水ピークに対応するか又は近い波長」がレーザー光の最大強度におけるものであることが望ましいことやレーザーの出力を高めるためには半導体レーザーの数を増やせばよいことが明らかであるとともに、引用文献に「特に好ましいAlGaAsダイオードアレイ」(記載事項オ)との記載、すなわち、半導体レーザーを複数のレーザー素子を含んだもので構成することの示唆が存在することからすれば、相違点に係る本願発明の発明特定事項(半導体レーザーのレーザー光の波長範囲及び出力範囲並びにその構成)は、当業者が引用発明に基いて容易に想到し得るものであるといえる。
なお、引用発明のレーザーダイオード(半導体レーザー)のレーザー光の波長及び出力並びにその構成を相違点に係る本願発明の発明特定事項のものとした場合、引用発明において、「前記レーザーからのレーザー光の環状ビームを投射するために該ファイバーに結合された光学組立体と、該光学組立体から目標肺組織部位への環状レーザー光ビームのための伝送路に膨張を与えるとともに、膨張して該光学組立体と肺組織表面の間の放射ための低損失伝達経路を提供するため、該光学組立体を囲むバルーンと」を、相違点に係る本願発明の波長範囲に対応したものとすることは、当業者が当然考慮すべき程度の事項である。

次に相違点1について検討する。
(相違点1)
引用発明は、「前記レーザーからのレーザー光を、前記レーザーと連通する光伝送光ファイバーにより伝送」、すなわち「該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合」させるものといえるから、「該レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させる『手段』」を含む構成とすることは当業者が必要に応じて適宜なし得る設計事項であって、上記相違点2のように、「半導体レーザー」を「複数のレーザー素子を含んで構成される」ものとした場合、上記「結合させる手段」を「複数のレーザー素子を含んで構成される」「前記レーザーのレーザー光を光ファイバへ結合させ」るものとすることは、当業者が当然考慮すべき程度の事項である。

そして、本願発明の効果は、引用発明、上記周知の事項、技術常識から当業者が予測し得る範囲のものであって、格別顕著なものとはいえない。

VI.請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「引用文献1には、本願発明のような特性(出力及び波長)を有する複数のレーザー素子を備えた半導体レーザーについて何ら開示されていません。・・・周知例1,2は、本願発明のような特定の目的に適している特定の半導体レーザー材料を何も開示していません。・・・当業者が、たとえ引用文献1により半導体レーザーを使用することを示唆されたとしても、このような高出力の半導体レーザーは本願の出願前には利用できなかったので、高出力の半導体レーザーを使用することは明白ではなかったと考えます。」(「3.本願発明が特許されるべき理由 (c)本願発明と引用発明との対比」の項)と主張する。
しかしながら、上記周知の事項、技術常識、引用文献の示唆等を考慮すれば、相違点に係る本願発明の発明特定事項を当業者が引用発明に基いて容易に想到し得ることは、前記「V.判断」において説示したとおりであるから、上記請求人の主張を採用することはできない。

VII.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明(本願発明)が特許を受けることができないものである以上、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-03-21 
結審通知日 2013-03-26 
審決日 2013-04-09 
出願番号 特願2009-516912(P2009-516912)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小宮 寛之松永 謙一  
特許庁審判長 横林 秀治郎
特許庁審判官 松下 聡
高田 元樹
発明の名称 レーザー手術用機器  
代理人 笹島 富二雄  
代理人 小川 護晃  

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