• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1278580
審判番号 不服2012-17701  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-11 
確定日 2013-08-26 
事件の表示 特願2006-210765「固体電解質形燃料電池の運転方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月21日出願公開、特開2008- 41305〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は,平成18年8月2日の出願であって,平成24年2月13日付けで拒絶の理由が通知され,平成24年4月13日付けで意見書及び手続補正書が提出されたところ,平成24年6月7日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,平成24年9月11日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出されたものである。
一方,当審において,平成25年4月23日付けで拒絶理由を通知し,応答期間内である同年6月13日に意見書及び手続補正書が提出されたところである。
そして,この出願の請求項1,2に係る発明は,平成25年6月13日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
固体電解質形燃料電池の空気極に,加湿器を通して得られた水:0.5?10体積%含有する酸素ガスを酸化剤ガスとして供給し,温度:300?600℃で運転することを特徴とする固体酸化物形燃料電池の運転方法。」

2.刊行物
(1)当審において通知した拒絶の理由に引用された特開平5-283095号公報(以下,「刊行物1」という。)には,次の事項が図面とともに記載されている。

・「【特許請求の範囲】
【請求項1】 シート状の固体電解質の両面にそれぞれ燃料極及び空気極を備えると共に,該固体電解質とこれら燃料極及び空気極の間にイオン交換膜を備えた固体電解質型燃料電池において,上記イオン交換膜を,上記固体電解質と同材からなる母粒子の周囲にイオン交換樹脂からなる子粒子を付着させてなるカプセル粉体で形成したことを特徴とする固体電解質型燃料電池。
【請求項2】 上記燃料極及び空気極に供給するための燃料ガス及び空気に,予め水蒸気を混合して湿潤化したことを特徴とする請求項1記載の固体電解質型燃料電池。
・・・
【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで,この固体電解質型燃料電池の具体的利用分野の一つとして,小型電気自動車等の駆動源に用いることが考えられている。しかしながら,上述したように,従来の固体電解質型燃料電池は高温(800?1000℃)作動のため,小型電気自動車等の限られた設備やスペース内で使用することは困難なものであった。すなわち,従来の固体電解質型燃料電池を小型電気自動車等の駆動源に適用するためには,小型で発電効率が高く,しかも低温作動型の固体電解質型燃料電池必要となってくる。
【0009】そこで,本発明は上記の問題点を有効に解決するために案出されたものであり,その目的は低温作動型であって発電効率が高く,しかも,耐久性及び信頼性に優れた新規な固体電解質型燃料電池を提供することにある。
・・・
【0012】
【実施例】以下,本発明の好適一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
【0013】図1は本発明に固体電解質型燃料電池のなかで,特に酸素イオン伝導体型燃料電池の一実施例を示したものである。図中1はシート状の固体電解質であり,2は陽極となる多孔質の空気極,3は陰極となる多孔質の燃料極,4は外部回路を示したものであり,また,空気極2と燃料極3間にはイオン透過性の陰イオン交換膜5が形成されている。
【0014】この固体電解質1は化学的安定性の高いジルコニア(ZrO_(2) )に,酸化カルシウム(CaO)又は酸化イットリウム(Y_(2)O_(3))を10?15w%添加してなるものであり,その厚さは約100μm程度に成形されている。なお,この固体電解質1の材質としてはこれらの他に必要に応じて高イオン伝導性に富んだセリアや,低電子特性に富んだ酸化ビスマス,強度が高いトリア等を用いても良い。
【0015】空気極2はLaMnO_(2) ,LaCoO_(3) などの,化学的安定性,イオン導電性,電子伝導性等に優れたペロブスカイト型酸化物からなっており,その厚さは100?200μm程度に形成されている。また,燃料極3はNi,ZrO_(2) からなっており,その厚さは空気極2と略同様な100?200μm程度に形成されている。
【0016】また,陰イオン交換膜5は図2に示すように,複数のマイクロカプセル粉体6によって形成されている。このカプセル粉体6は固体電解質1と同材で形成された粒径が数μm?数十μm程度の母粒子7の周囲に,ポリフォスファゼン系等のイオン交換樹脂からなる粒径が数μm程度の子粒子8を付着させて形成したものであり,空気(O_(2))が直接,固体電解質1に接触して反応するの防止すると共に,イオン移動速度を速める働きを有している。
・・・
【0020】次に,本実施例の作用を説明する。
【0021】図1に示すように,燃料極3に燃料(H_(2))を流すと同時に,空気極2に水蒸気を含んで湿潤化した空気(O_(2))を流すと,O_(2)ガスが空気極2及び,図2に示すようにイオン交換膜5を構成するカプセル粉体6の子粒子8との接触界面で電子(e^(-))を受け取ってイオン化(O^(2-))し,この酸素イオン(O^(2-))が子粒子8中を移動して母粒子7もしくは直接固体電解質1中を移動する。そして,この酸素イオンが燃料極3に達すると,ここで電子を放出してH_(2) と反応してH_(2) Oとなり固体電解質1外へ出ていくことになる。この際,O_(2)ガスを湿潤化させることにより,多くのO_(2)イオンが空気極2及びイオン交換膜5の界面へ取り込まれることになる。また,カプセル粉体6の子粒子8の内部抵抗は,固体電解質1及び母粒子7に比較するとかなり低いため,酸素イオンの移動速度は速くなる。しかも,イオン交換膜5をカプセル粉体6で形成することによって,その界面表面積も増大するため,さらに,酸素イオンの吸着性が増すと共に,酸素イオンの移動速度も速くなり,発電効率が向上する。また,このイオン交換膜5によって固体電解質1とO_(2)ガス中の水分は直接接触することがなく,前記した固体電解質1の化学反応や消和といった不都合が未然に防止され,固体電解質1の向上する。
【0022】このように本発明はO_(2)ガスの吸着性及びその移動速度が速くなることによって,低温では作動しにくい固体電解質であってもイオンの移動が可能となり,十分な発電能力を発揮することになる。
・・・
【発明の効果】以上要するに本発明によれば,イオンの吸着性および移動速度が向上するため,低温での作動であっても発電効率が高くなって,低温で作動が可能となる。しかも,ガス中の水分と固体電解質が直接接触しないため,不必要な化学反応や消和が未然に防止され,耐久性及び信頼性が向上する,等といった優れた効果を有する。従って,本発明では燃料電池の小型化が達成され,小型電気自動車の駆動源等に適用することも可能となる。」

よって,上記記載事項及び図面によると,刊行物1には,次の発明が記載されていると認められる(以下,この発明を「刊行物1記載の発明」という。)。
「イオン交換膜5を備えた固体電解質形燃料電池の空気極2に,予め水蒸気を混合した空気(O_(2))を酸化剤ガスとして供給し,低温で作動させる固体酸化物形燃料電池の運転方法。」

(2)当審において通知した拒絶の理由に引用された特開2004-235060号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

・「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は,固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cells,以下SOFCと略記する)の新規な構成に係り,ガス通路孔部を基板の中心部に設ける構成によって,セル構成板と金属製ガスセパレータ板を極めて薄く形成して多数のセルを積層配置でき,基板中央の酸化剤ガス通路孔部で積層する際に該通路孔部の外周側に所要幅のリング状部を配置することで積層体の外周部と中心部間の温度差を低減しかつ半径方向の応力分布を均等化し,特に金属板の両面にエッチングでガス通路の形成をしたガスセパレータ板を用いることで,部品点数が少なく小型,軽量化が可能で安価に提供できる燃料電池に関する。
・・・
【0041】
また,ガスセパレータ板表面には,各種コーティング材を設けることが可能で,例えば,酸化剤ガス側に電気接触抵抗の低減とフェライト鋼からのCr蒸発防止のために,(La,Sr)CrO_(3)などの酸化剤側電極材料と同様材料等を用いることができる。
【0042】
なお,セル構成板1は,固体電解質基板2の両面にそれぞれ燃料側電極層又は酸化剤側電極層を成膜した構成とすることが可能であり,固体電解質並びに燃料側電極層,酸化剤側電極層の各材料には,公知のいずれの材料も採用できる。
例えば,固体電解質には,一般的な安定化ジルコニア,燃料側電極材料には,Ni/YSZサーメット,酸化剤側電極材料には,(La,Sr)MnO_(3)等,公知のいずれの材料も採用できる。また,この発明の特徴であるセル構成板1のリング状部分8は,電気絶縁性の材料であればよく,前記の各種材料と熱膨張係数が近似する公知のいずれの材料も採用できる。
・・・
【0057】
酸化剤ガスに空気(1?10wt%の水蒸気を含む),燃料ガスに水素を使用し,圧力500Ps,反応温度700?800℃で作動させて,発電効率を測定したところ,ガスの燃焼がそれぞれ一回であり効率としては不利なオープンガス流構成ではあるが,40%の発電効率が得られた。」

3.対比
本願発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,刊行物1記載の発明の「空気極2」は本願発明の「空気極」に相当し,前者の「予め水蒸気を混合した空気(O_(2))」と,後者の「加湿器を通して得られた水:0.5?10体積%含有する酸素ガス」とは,「水を含む酸素」との概念で共通し,同様に,前者の「低温で作動させる」という態様と,後者の「温度:300?600℃で運転する」態様とは,「低温で運転する」との概念で共通するものである。
また,本願発明の「固体電解質形燃料電池」は,その具体的構成については殊更の限定はないから,後者の「イオン交換膜5を備えた固体電解質形燃料電池」は,前者の「固体電解質形燃料電池」に含まれる。
してみると,両者は,
「固体電解質形燃料電池の空気極に,水を含む酸素を酸化剤ガスとして供給し,低温で運転する固体酸化物形燃料電池の運転方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
本願発明は,酸化剤ガスとして,加湿器を通して得られた水:0.5?10体積%含有する酸素ガスを供給するのに対して,刊行物1記載の発明は,予め水蒸気を混合した空気(O_(2))を供給する点。
[相違点2]
本願発明は,温度:300?600℃で運転するのに対し,刊行物1記載の発明は,低温で運転するものの,温度が具体的に特定されていない点。

4.当審の判断
上記[相違点1]について検討する。
そもそも,燃料電池に供給する酸化剤ガスを加湿器により加湿すること自体は,周知の技術といえるものであって(例えば,特開2005-317489号公報の【請求項1】【請求項5】,特開2000-306595号公報の【請求項1】の記載参照。),刊行物2には,固体電解質形燃料電池に,酸化剤ガスとして1?10wt%の水蒸気を含む空気を供給するという技術的事項が開示されている。
そして,供給する酸化剤ガスを空気とするか,酸素ガスとするかは,当業者が適宜選択できるものである(ちなみに,本願の出願当初の明細書では,段落【0009】に,酸化剤ガスとして空気または酸素に水分を0.5?10体積%含ませる,と記載されていた。)。
刊行物1記載の発明において,空気に水蒸気を混合するのは,O_(2)ガスの吸着性及び移動速度を向上させることにより発電効率を高めるためであり,もって,固体電解質形燃料電池の低温での作動を可能にするためである。
そうすると,刊行物1記載の発明において,供給する水の量は,燃料電池の反応効率等を考慮して適宜設定すべき事項であって,少なければ所望の作用が果たされず,逆に多ければ空気極での液体(水)が多くなり反応効率に悪影響があることは自明であるといえるところ,刊行物2記載の技術的事項を考慮すれば,本願発明のように酸素ガスに含有させる水の量を0.5?10体積%程度とすることは,当業者が格別の創作能力を要さずになし得た域を出ることではない。

上記[相違点2]について検討する。
本願明細書には,運転温度に関して,「また、この発明の固体酸化物形燃料電池の運転温度が800℃を越えると、空気極表面のOH基が不安定になるので十分な効果が得られなくなり、一方、運転温度を300℃未満にすると、加湿の効果は得られるが、空気極自体の触媒活性が不十分となって、効率の良い運転ができなくなるので好ましくない。したがって、この発明では、固体酸化物形燃料電池の運転温度を300?600℃に限定した。」(段落【0013】参照。)と説明されており,図4には,電気炉内を600℃,700℃および800℃とした場合の空気極の過電圧の測定値が示されている。
しかし,これからでは,本願明細書に,運転温度を300?600℃と限定するに至った根拠が十分具体的に説明されているとはいえず,上限および下限の数値を境にして運転効率等に急激な変化があったと確認することもできない。
よって,本願発明における運転温度の範囲に臨界的な意義があるとは認められない。
一方,刊行物1には,「従来の固体電解質型燃料電池は高温(800?1000℃)作動」(段落【0008】参照)であったことが記載されているから,刊行物1における低温とは,控えめに言っても800℃未満を指すものである。そして,固体電解質型燃料電池の低温作動といった場合,一般的には,800℃から離れた温度域を意味するものと解するのが相当であって,例えば,特開2004-327413号公報には「400℃から600℃という低温」(段落【0018】参照),特開2003-277024号公報には「500℃?700℃の中温度領域」(段落【0019】参照)と記載されている。
そうしてみると,刊行物1記載の発明における具体的な運転温度として300?600℃の範囲内の値を設定することには,当業者にとっての格別な創意工夫が見いだせるものではない。

しかも,本願発明の構成により,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術からみて格別顕著な効果が奏されるものともいえない。

5.むすび
以上のとおりであるから,本願発明は,刊行物1記載の発明,刊行物2記載の技術的事項及び周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,その余の請求項に係る発明において検討するまでもなく,本願は,拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-01 
結審通知日 2013-07-02 
審決日 2013-07-16 
出願番号 特願2006-210765(P2006-210765)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 賢一  
特許庁審判長 新海 岳
特許庁審判官 平城 俊雅
槙原 進
発明の名称 固体電解質形燃料電池の運転方法  
代理人 影山 秀一  
代理人 影山 秀一  
代理人 影山 秀一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ