ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F04C |
---|---|
管理番号 | 1278583 |
審判番号 | 不服2012-22858 |
総通号数 | 166 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2013-10-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-11-19 |
確定日 | 2013-08-28 |
事件の表示 | 特願2008-524573「真空ポンプ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 2月 8日国際公開、WO2007/015056、平成21年 1月29日国内公表、特表2009-503358〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯・本願発明 本願は、2006年7月18日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年8月2日、英国)を国際出願日とする出願であって、平成20年2月4日付けで特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成20年4月4日付けで特許法第184条の4第1項に規定する翻訳文が提出され、平成21年4月13日付けで手続補正書が提出され、平成23年7月7日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月11日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年7月5日付けで拒絶査定がなされ、平成24年11月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされたものであって、その請求項1ないし14に係る発明は、平成24年1月11日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲及び出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「 【請求項1】 少なくとも10:1の容積比を有する多段真空ポンプであって、 多段ロータ組立体を収容したステータを有し、 各段は、噛み合い形ルーツロータコンポーネントを含み、 前記ポンプの入口段における前記ロータコンポーネントの先端部半径は、前記ポンプの排出段における前記ロータコンポーネントの先端部半径よりも大きい、 ことを特徴とする真空ポンプ。」 2.引用文献 (1)引用文献の記載 原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開平5-312173号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、次のような記載がある。 (ア)「【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、真空産業機器や、その応用分野において広く利用されるドライ真空ポンプに関するものである。 【0002】 【従来の技術】図3及び図4に、ドライ真空ポンプの一種であるクロータイプの従来例を示す。このものは、所定軸間距離Dを隔てて互いに平行に配設される共通の駆動軸1および従動軸2と、これらの軸1、2の間欠的な軸心位置に一対のロータ3x 、4x (xは1から4までのポンプ段数に対応した添字。以下同じ。)を軸着しそれらのロータ3x 、4x をそれぞれステータ5x で囲繞してなる多段のポンプ機構6x とを具備してなる。 【0003】詳述すると、前記駆動軸1および従動軸2は複数のボディ9x を貫通して左右に対設した端板10、11にそれぞれベアリング1a、2aを介して軸支してある。ステータ5x は各ボディ9x にめがね状に開口しており、各一対のロータ3x 、4x は対応するステータ5x 内に固体接触を避けるべく所定のクリアランスを保って非接触下に収容されている。この場合、各ロータ3x 、4x の基準半径又は基礎内半径寸法Rは全て同一値(ほぼD/2)に設定され、それらのロータ3x 、4x の最半径寸法又は最外径に対する半径寸法rx 、すなわち、軸心m、nから歯先3ax 、4ax までの寸法も全て同一値に設定されている。なお、7x は各ポンプ機構6x において漸次歯3ax 、4ax 同士が離反する側に設けられた吸気ポートであり、8x は各ポンプ機構6x において漸次歯3ax 、4ax同士が迎合する側に設けられた排気ポートである。そして、前記駆動軸1および従動軸2の軸端部同士をタイミングギヤ1b、2bにより連結し、駆動軸1に図示しない駆動源から動力を入力することにより、両軸1、2が例えば図4に矢印で示す方向に同期逆回転し、各ポンプ機構6x において前段の排気ポート8x_(-1)から吸気ポート7x を介して吸い込んだガスを圧縮しつつ次段の吸気ポート7x_(+1) に圧送するというポンプ作用を営み得るようになっている。この場合、前段の排気ポートがない第1段ポンプ機構6_(1) は吸気口7からガスを吸い込み、次段の吸気ポートがない最終段ポンプ機構6_(4) は排気口8にガスを圧送することになる。」 (イ)「【0005】 【発明が解決しようとする課題】ところで、この種のポンプの排気速度は初段のポンプ機構6_(1)の容量でほぼ決定されるため、所定の排気速度を確保する目的からこの段の容量のみが他段のポンプ機構6_(2)?6_(4)の容量に比べて大きく設定されることがある。また、ポンプ全体を少しでも小形化するために、排気速度への影響が最も少ない最終段のポンプ機構6_(4)の容量のみが他段6_(1)?6_(3)の容量に比べて小さく設定されることがある。そして、このように特定段のポンプ機構6x の容量を他段のポンプ機構6x の容量に対して異ならせる場合、容量はロータ3x 、4x とステータ5x によって囲繞される閉じ込み部の平面積Sx ×ロータ歯幅dx で表されるため、ロータ3x 、4x の歯幅dx (軸心m、n方向の厚み寸法)を増減させることで対応している。その場合、容量は歯幅dx の調節率と同じ比率で変化することになり、図示例ではd_(1)>d_(2)=d_(3)>d_(4)であってそれに応じたポンプ容量となっている。 【0006】ポンプの大きさをあまり変えないでポンプの容量を少し大きくする場合、歯幅を増加させる方法をとると、初段ポンプ機構6_(1)のロータ3_(1)、4_(1)の歯幅d_(1)を大きくしたときにポンプ全体の軸方向の寸法増加を招き、ポンプが長く大きくなる。また、最終段のポンプ機構6_(4)にあってはガスが圧縮状態にあり初段のポンプ機構6_(1)のように稀薄ではないためこの段のロータ3_(4)、4_(4)の歯幅d_(4)を小さくしたときにリーク量が増大して排気効率の低下を招くという不都合を生じる。図示のものは、さほど極端な容量設定が要求されていないため叙述の不都合は比較的小さいが、ポンプの大きさをあまり変えないで容量を大きくする容量設定が極端になるにつれてポンプが長く大きくなる。 【0007】本発明は、このような不都合を低減化してポンプの大きさを変えないで容量を大きくするため、特定段のポンプ機構の容量を任意に設定できるようにしたドライ真空ポンプを提供することを目的としている。 【0008】 【課題を解決するための手段】本発明は、かかる目的を達成するために、共通の駆動軸および従動軸に複数対のロータを多段に軸着配列して構成されるドライ真空ポンプにおいて、駆動軸および従動軸の軸間距離を変えずに、特定段のポンプ機構のロータ最半径寸法を他段のポンプ機構のロータ最半径寸法に対して異ならせたことを特徴とする。 【0009】具体的には、初段のポンプ機構のロータ最半径寸法を2段目以降のポンプ機構のそれよりも大径にしたものや、最終段のポンプ機構のロータ最半径寸法を前段以前のポンプ機構のそれよりも小径にしたものが挙げられる。 【0010】 【作用】ポンプ機構の容量は、一対のロータとステータとによって囲繞される閉じ込み部の平面積×ロータの歯幅で表される。この容量は、歯幅を調節したときにはその調節率と同じ比率でしか変化しないが、ポンプ最半径寸法を調節したときにはその調節率に対して閉じ込み部の平面積が2次元的に拡縮し、当該容量がそれに伴って大きな比率で変化することになる。 【0011】 【実施例】以下、本発明の一実施例を、図1および図2を参照して説明する。なお、このポンプの基本的な構造は図3および図4に示したとほぼ同様であり、対応する部分には同一符号を付してある。 【0012】図1および図2に示す本実施例のドライ真空ポンプを、図3および図4に示す従来ポンプと比較すると、駆動軸1および従動軸2の軸間距離Dおよびロータ3x 、4x の基準半径寸法Rは同一値に設定されているが、初段のポンプ機構6_(1)のロータ最半径寸法r_(1) は従来ポンプのままである第2段ロータ最半径寸法r_(2)および第3段ロータ最半径寸法r_(3) に比べて例えば6%程度大きく設定してあり、また、最終段のポンプ機構6_(4) のロータ半径寸法r_(4 )は前記r_(2) およびr_(3) に比べて例えば6%程度小さく設定してある。このような設定をするために、初段のポンプ機構6_(1) においては先ずロータ3_(1) 、4_(1) の歯3a_(1) 、4a_(1) を所定の最半径寸法r_(1) となる位置まで突出させ、これに対応して所定クリアランスが保たれる位置までステータ5_(1) の内径を拡径する。また、前記ロータ3_(1) 、4_(1) が互いに同期逆回転したとき、一方の歯3a_(1) (4a_(1) )の軌跡に沿って相手形のロータ4_(1) (3_(1) )に凹欠部4b_(1) (3b_(1) )を設け両者の干渉を避ける。また、最終段のポンプ機構6_(4) においてもこれに準じた設計を行う。 【0013】しかして、このように構成される図示ドライ真空ポンプの各ポンプ機構6x における容量は、第2段および第3段が従来ポンプに等しく、初段が従来ポンプよりも大きく、最終段が従来ポンプよりも小さなものとなる。そして、このポンプはポンプ最半径寸法rx を調節することにより容量設定を行うようにしているため、寸法rx の変化率に対して閉じ込み部の平面積Sx が2次元的に拡縮し、当該容量に2次関数的な変化が生じることになる。具体的に本発明者が試作した例によると、ロータ最半径寸法r_(1) を6%増としたとき第1段ポンプ機構6_(1) に18%程度の容量増を得ることができ、ロータ最半径寸法r_(4) を6%減としたとき第4段ポンプ機構6_(4) に18%の容量減を得ることができた。 【0014】したがって、このポンプ構造を採用すると、歯幅を変化させるようにした従来のものに比べて、ポンプ軸心方向への寸法増加や排気効率の低下を有効に抑止することが可能になる。 【0015】なお、図示のものは従来ポンプをそのまま改良したため第1、第4段の歯幅d_(1) 、d_(4) も第2、第3段の歯幅d_(2) 、d_(3) と異なったものになっているが、本発明はd_(1) 、d_(4) の一方または双方がd_(2) 、d_(3) と同一であるものにも同様にして適用できるのは勿論であり、むしろその方が本発明の趣旨に沿うことになる。また、前記実施例ではクロータイプのポンプを例示したが、他のタイプのポンプにも同様に適用することもできる。さらに、容量の増減は上記以外のポンプ機構で行ってもよく、その他、ポンプ段数なども、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。」 (2)引用発明 上記(1)(ア)及び(イ)、並びに、図面の記載から、引用文献には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「 多段真空ポンプであって、 共通の駆動軸および従動軸に複数対のロータを多段に軸着配列した構成を収容したステータ5x を有し、 各段は、クロータイプのロータ3x、4xを含み、 前記ポンプの初段における前記ロータ3_(1)、4_(1)の最半径寸法又は最外径に対する半径寸法r_(1)は、前記ポンプの最終段における前記ロータ3_(4)、4_(4)の最半径寸法又は最外径に対する半径寸法r_(4)よりも大きい、 真空ポンプ。」 3.対比・判断 本願発明と引用発明とを比較すると、引用発明における「共通の駆動軸および従動軸に複数対のロータを多段に軸着配列した構成」は、その機能及び構成からみて、本願発明における「多段ロータ組立体」に相当し、以下同様に、「ステータ5x」は「ステータ」に、「ポンプの初段におけるロータ3_(1)、4_(1)の最半径寸法又は最外径に対する半径寸法r_(1)」は「ポンプの入口段におけるロータコンポーネントの先端部半径」に、「ポンプの最終段におけるロータ3_(4)、4_(4)の最半径寸法又は最外径に対する半径寸法r_(4)」は「ポンプの排出段におけるロータコンポーネントの先端部半径」に、それぞれ相当する。 また、後者の「クロータイプのロータ3x、4x」と、前者の「噛み合い形ルーツロータコンポーネント」とは、「噛み合い形ロータコンポーネント」との概念で共通する。 したがって、両者は、 「 多段真空ポンプであって、 多段ロータ組立体を収容したステータを有し、 各段は、噛み合い形ロータコンポーネントを含み、 前記ポンプの入口段における前記ロータコンポーネントの先端部半径は、前記ポンプの排出段における前記ロータコンポーネントの先端部半径よりも大きい、 真空ポンプ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 (相違点) (1)多段真空ポンプが、本願発明では、少なくとも10:1の容積比を有するのに対し、引用発明では、そのような特定がなされていない点(以下、相違点1という。)。 (2)噛み合い形ロータコンポーネントに関して、本願発明では、ルーツタイプであるのに対し、引用発明では、クロータイプである点(以下、相違点2という。)。 相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用文献の段落【0006】及び【0007】には、容量設定に際し、ポンプの大きさを変えないで容積を大きくする旨が記載されており、段落【0010】には、一対のロータとステータとによって囲繞される閉じ込み部の容量を大きな比率で変化させる旨が記載されており、且つ、本願発明の「少なくとも10:1の容積比」は、例えば、本願の優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2004/083643号の第15頁第3ないし10行に、多段真空ポンプの容積比を8?14とした旨が記載されるように、当業者にとって通常に採用し得る範囲であるので、引用発明において、大きな容量の比率として、少なくとも10:1の容積比という具体的な値を設定することは、真空ポンプの用途等を考慮して、当業者が容易に想到し得るものである。 (2)相違点2について 2軸式の容積型の多段真空ポンプにおいて、クロータイプのポンプやルーツタイプのポンプはよく知られており、且つ、引用文献の段落【0015】には、クロータイプ以外の他のタイプのポンプに適用できる旨が記載されているので、引用文献のクロータイプのロータコンポーネントをルーツタイプのロータコンポーネントとすることは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 また、本願発明を全体として検討しても、引用発明から予想される以上の格別の効果を奏するとも認められない。 以上から、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-03-19 |
結審通知日 | 2013-03-25 |
審決日 | 2013-04-15 |
出願番号 | 特願2008-524573(P2008-524573) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F04C)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 笹木 俊男 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
川口 真一 槙原 進 |
発明の名称 | 真空ポンプ |
代理人 | 熊倉 禎男 |
代理人 | 弟子丸 健 |
代理人 | 大塚 文昭 |
代理人 | 井野 砂里 |
代理人 | 吉野 亮平 |