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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1278660
審判番号 不服2012-24697  
総通号数 166 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2013-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-12-13 
確定日 2013-08-29 
事件の表示 特願2006-122146「トンネル磁気抵抗効果素子、それを用いた磁気メモリセル及びランダムアクセスメモリ」拒絶査定不服審判事件〔平成19年11月 8日出願公開、特開2007-294737〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成18年4月26日の出願であって,平成24年8月20日に手続補正がなされ,同年10月11日付けで拒絶査定がされ,これに対して同年12月13日に拒絶査定に対する審判請求がされるとともに,同日に手続補正がされ,その後平成25年2月12日付けで審尋がされ,それに対して同年4月5日に回答書が提出されたものである。

2 平成24年12月13日の手続補正について
平成24年12月13日の手続補正(以下「本件補正」という。)は,補正前段落【0019】の「ここで,t1<t2を前提とする。t1>t2の場合は,」を,補正後の段落【0019】の「ここで,t1>t2を前提とする。t1<t2の場合は,」と補正するものであって,これは,本願の願書に最初に添付した明細書の段落【0021】?【0028】及び図4?7において,t2/t1<1の範囲のものについて記載されていることから,本件補正は,当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであり,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
したがって,本件補正は適法になされたものである。
なお,本件補正は,明細書の誤記の訂正を目的としたものであり,特許請求の範囲については補正されていないものである。

3 本願発明
上記2に記載したとおり,平成24年12月13日の手続補正は,明細書の誤記の訂正を目的としたもののみであるから,本願の請求項1?10に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成24年8月20日の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりのものである。

「絶縁膜と,前記絶縁膜を挟んで設けられた強磁性自由層と強磁性固定層とを有し,
前記絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であり,
前記強磁性自由層は,非磁性導電層を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜からなり,前記第一の強磁性膜は前記絶縁膜に隣接し,前記第二の強磁性膜と第一の強磁性膜は反強磁性結合しており,
前記強磁性膜固定層はCoとFeとBを含有する体心立方構造の膜を有し,
前記第一の強磁性膜の厚さt1と前記第二の強磁性膜の厚さt2の比(t2/t1)が0.4から1.0の範囲にあることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。」

なお,「強磁性膜固定層」と「強磁性固定層」とは,同一の層を意味していることは明らかであるから,以下表記上の混乱を避けるため,「強磁性膜固定層」を「強磁性固定層」と読み替えた上で検討を進める。

4 引用例の記載及び引用発明
(1)引用例1の記載及び引用発明
本願の出願前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用されたJun HAYAKAWA et al., "Dependence of Giant Tunnel Magnetoresistance of Sputtered CoFeB/MgO/CoFeB Magnetic Tunnel Junctions on MgO Barrier Thickness and Annealing Temperature", Japanese Journal of Applied Physics, The Japan Society of Applied Physics, 2005年4月22日,Vol.44,No.19, p.L587-L589(以下「引用例1」という。)には,「トンネル磁気抵抗効果素子」に関して,Fig.1とともに以下の記載がある(なお,下線は当合議体にて付加したものである。)。

ア「A schematic diagram of the fabricated MTJ devices is shown in Fig.1(a). Multilayer films were deposited using rf magnetron sputtering with a base pressure of 10^(-9) Torr. The MTJ films with synthetic pin layers were formed on SiO_(2)/Si substrates. The order of the film layers was as follows, starting from the substrate side; Ta(5)/Ru(50)/Ta(5)/NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)/MgO/CoFeB(3)/Ta(5)/Ru(5). The numbers in parentheses indicate the thickness in nm of the layers, and the thickness of the MgO barrier was varied from 1.15 to 2.4 nm. We use CoFe to represent a Co_(90)Fe_(10) alloy and CoFeB to represent a Co_(40)Fe_(40)B_(20) alloy.」(L587ページ左欄下から3行-同ページ右欄9行)
(当審訳:作成されたトンネル磁気抵抗効果素子の概観図を図1(a)に示す。多層膜はベース圧力10^(-9) Torrのrfマグネトロンスパッタリングにより形成される。 人工ピン止め層を有するトンネル磁気抵抗効果接合層は,SiO_(2)/Si基板上に作成される。基板側から各層の順序は以下のとおりである。Ta(5)/Ru(50)/Ta(5)/NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)/MgO/CoFeB(3)/Ta(5)/Ru(5) 括弧内の数字は各層のnmの厚さを示しており,MgO障壁層は1.15? 2.4nmである。CoFeは,Co_(90)Fe_(10) 合金を,CoFeBは,Co_(40)Fe_(40)B_(20) 合金を示している。)

イ「An atomic force microscopy(AFM)image of the surface of a Ta/Ru/Ta underlayer(resistivity ρ=7.5μΩcm) is shown in Fig.1(b) and indicates that the surface is smooth with an average roughness (Ra) of 0.17 nm.」(L587ページ右欄15?18行)
(当審訳:原子間力顕微鏡による下地層Ta/Ru/Ta(抵抗率ρ=7.5μΩcm)の表面像を図1(b)に示すとともに,表面が平均両面荒さ(Ra)が0.17nmの平坦さをであることを示している。)

ウ「Second, the MgO barrier has NaCl structure that is highly (001) oriented and has been uniformly deposited on the amorphous CoFeB bottom ferromagnetic layer (Figs. 4(a) and 4(b)).」(L588ページ右欄25?28行)
(当審訳:2番目は,MgO障壁層は,001面に高配向のNaCl構造を有しており,下層のアモルファスCoFeB強磁性層上に均一に形成されている(図4(a)及び4(b))。)

エ 以上を総合すると,引用例1には,以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「SiO_(2)/Si基板上に基板側から順にTa(5)/Ru(50)/Ta(5)/NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)/MgO/CoFeB(3)/Ta(5)/Ru(5)と作成され,
MgO障壁層は,001面に高配向のNaCl構造を有するトンネル磁気抵抗効果素子。」

(2)引用例2の記載
本願の出願前に日本国内において頒布され,原査定の根拠となった拒絶の理由において引用された特表2005-539376号公報(以下「引用例2」という。)には,「磁気デバイス用アモルファス合金」(発明の名称)に関して,図2とともに以下の記載がある。

ア「【0023】
第2電極積層構造218は,強磁性自由層228及び保護コンタクト層230を含む。強磁性自由層228の磁気モーメントは交換結合によって固定または固着されることがないので,印加磁界の下で自由に回転することができる。本発明の最適な実施形態では,強磁性自由層228もまた,おおよその原子量%で71.2%のCo,8.8%のFe及び20%のBのコバルト(Co),鉄(Fe)及びボロン(B)から成る合金から形成される。この組成はボロン添加されたCoFe合金であり,(Co_(89)Fe_(11))_(80)B_(20)と表わすことができる。強磁性層228の場合,鉄含有率は約10.5%?13.5%の範囲とし,ボロン含有率は約15%?25%の範囲とすることができる。
【0024】
特に,2つのCoFeB層に挟まれるルテニウム(Ru)またはロジウム(Rh)のような遷移金属を含むSAF自由層は,2つの磁性層間の反強磁性結合を強めることができる。更に,CoFeB及びRuまたはRhの追加層ペアを含む多層積層構造は,種々の自由層に有用である。」

5 対比
以下に,本願発明と引用発明とを対比する。
(1) 引用発明のトンネル磁気抵抗効果素子の一部の「Ta(5)/Ru(50)/Ta(5)/NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)/MgO/CoFeB(3)/Ta(5)/Ru(5)」という積層構造において,「Ta(5)/Ru(50)/Ta(5)」が下地層であり,「NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)」が強磁性層/反強磁性層/強磁性層/非磁性層/強磁性層を積層して形成した人工ピン止め層であり,これが「強磁性固定層」に,「MgO」が「絶縁層」に,「CoFeB(3)」が「強磁性自由層」にそれぞれ対応していることは,当業者にとって明らかであるから,引用発明は,絶縁層を挟んで,強磁性自由層と強磁性固定層が設けられていることが分かる。
そうすると,「SiO_(2)/Si基板上に基板側からTa(5)/Ru(50)/Ta(5)/NiFe(5)/MnIr(10)/CoFe(2)/Ru(0.8)/CoFeB(3)/MgO/CoFeB(3)/Ta(5)/Ru(5)と作成され」る引用発明と,本願発明とは,「絶縁膜と,前記絶縁膜を挟んで設けられた強磁性自由層と強磁性固定層とを有」する構成を含んでいる点で一致する。

(2) 引用発明の「MgO」の「NaCl構造」は,本願発明の「岩塩構造」に相当する。そして,NaCl構造においては,その対称性から,001方向は,100方向と同じであることも明らかである。
そうすると,引用発明の「001面に高配向のNaCl構造を有する」「MgO障壁層」は,本願発明の「絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜」に相当する。

(3)引用発明の強磁性体「CoFeB」は,「Co_(40)Fe_(40)B_(20) 合金」であり,本願明細書中の段落【0015】の「CoFeBの組成比は,体心立方格子が安定となるCo組成が40?60atm%,B組成が10?30atm%の間とすることが望ましい。」なる記載を参酌すると,引用発明の強磁性体「CoFeB」はこの組成の範囲に入ることから,体心立方構造を有しているものであることは明らかである。

(4) したがって,本願発明と引用発明とは,

<一致点>
「絶縁膜と,前記絶縁膜を挟んで設けられた強磁性自由層と強磁性固定層とを有し,
前記絶縁膜は(100)配向した岩塩構造のMgO膜であり,
前記強磁性固定層はCoとFeとBを含有する体心立方構造の膜を有していることを特徴とするトンネル磁気抵抗効果素子。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

<相違点1>
本願発明は「強磁性自由層は,非磁性導電層を挟んで設けられた第一の強磁性膜と第二の強磁性膜からなり,前記第一の強磁性膜は前記絶縁膜に隣接し,前記第二の強磁性膜と第一の強磁性膜は反強磁性結合」されているのに対し,引用発明は強磁性自由層が単層である点。

<相違点2>
本願発明は「第一の強磁性膜の厚さt1と前記第二の強磁性膜の厚さt2の比(t2/t1)が0.4から1.0の範囲にある」を有しているのに対し,引用発明は強磁性自由層が単層であるためこの点が特定されていない点。

6 判断
(1)相違点1について
引用例2には,ルテニウム(Ru)またはロジウム(Rh)のような遷移金属を挟んで2層のCoFeBの強磁性層による複合反強磁性(SAF)自由層は,2つの磁性層間の反強磁性結合を強めるものであり,また種々の自由層に有用であることが示唆されている。また,強磁性自由層として,SAF自由層を用いることは,例えば以下の周知例1,2に記載されているように周知の技術事項である。
引用例2に記載の発明と引用発明とは,トンネル磁気抵抗効果素子という技術分野が共通し,また上記周知の技術事項も勘案すると,引用発明において,強磁性自由層を,引用例2に記載の非磁性層を挟んで強磁性膜が互いに反強磁性結合する強磁性自由層とすることは,当業者が容易になし得たことといえる。

ア 周知例1:特開2006-54458号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2006-54458号公報(以下「周知例1」という。)には,以下の記載がある。

・「【0024】
前記固定層パターン40′及び前記自由層パターン44′はそれぞれ単一強磁性層(a single ferromagnetic layer)または合成反強磁性層(synthetic anti-ferromagnetic layer;SAF layer)であっても良い。前記合成反強磁性層(SAF layer)は下部強磁性層、上部強磁性層及びこれらの間に介在された反強磁性カップリングスペーサ層(anti-ferromagnetic coupling spacer layer)を含む。前記反強磁性カップリングスペーサ層としてルテニウム層(Ruthenium layer)が広く用いられる。」

イ 周知例2:特開2001-156357号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2001-156357号公報(以下「周知例2」という。)には,以下の記載がある。

・「【0056】上記の強磁性二重トンネル接合素子を構成する反強磁性結合した磁気記録層は強磁性層と非磁性金属層とを交互に積層することによって容易に作製できる。反強磁性結合した磁気記録層は膜厚が薄い方が容易に微細加工できるため、強磁性層/非磁性金属層/強磁性層からなる三層膜であることが好ましい。また、反強磁性結合した強磁性層として強磁性層/ソフト磁性層/強磁性層からなる三層膜を用いてもよい。特に、強磁性層としてCo_(x)Fe_(1-x)(0.5≦x<1.0)を用いた場合、2つのCo_(x)Fe_(1-x)層の間に例えばNi-Fe合金からなる薄いソフト磁性層を挿入すれば、スイッチング磁界を格段に小さくすることができる。これは、Ni-Fe合金層がfcc(111)配向であり、その上のCo_(x)Fe_(1-x)層もfcc(111)配向となり、Co_(x)Fe_(1-x)自体のスイッチング磁界が低減すること、および強磁性層のトータルの磁化の値が小さくなることによる。
【0057】したがって、反強磁性結合した磁気記録層の例としては、(a)強磁性層/非磁性層/強磁性層、(b)(強磁性層/ソフト磁性層/強磁性層)/非磁性層/強磁性層、(c)(強磁性層/ソフト磁性層/強磁性層)/非磁性層/(強磁性層/ソフト磁性層/強磁性層)などが挙げられる。この場合、反強磁性結合の強さは0.5erg/cm^(2)以上とある程度大きいことが好ましい。磁化固着膜も、磁気記録層と同様な積層構造とし、反強磁性結合させてもよい。」

(2)相違点2について
強磁性自由層として,非磁性層を挟んだ2つの強磁性膜を用い,それぞれの強磁性膜の厚さの比の値として,1程度の値は,以下の周知例3,4等にも記載されているようにごく普通の値である。
また,本願の明細書の記載を見ても,第1の強磁性膜の厚さt1や,第一及び第二の強磁性膜の磁化の大きさ(M1,M2)によって,熱安定性を高め,反転電流を減少させるt2/t1の比の最適の値の範囲が大きく変化していることが分かる。そうすると,本願発明において,最適化のパラメータとして第一の強磁性膜の厚さt1と前記第二の強磁性膜の厚さt2の比(t2/t1)を0.4から1.0の範囲と限定したことのみにより,格別の効果を奏しているとは認められず,技術的な臨界的意義も認められない。
なお,強磁性膜の厚さを薄くすればするほど,磁化反転の電流が下がることは,例えば以下の周知例5?6等にも記載されているように一般的に知られている技術事項であり,また,強磁性膜の厚さを厚くすれば,熱安定性が増すことも,周知例5?7等に記載されているように一般的に知られている技術事項である。そうすると,磁化反転の電流を下げるためには強磁性膜を薄くすればよく,熱安定性を上げるためには強磁性膜を厚くすればよいことから,強磁性膜の厚さについて何らかの最適な範囲があることは,当業者にとって自明なことであり,強磁性膜の厚さの比の好適化を図ることは,当業者の通常の創作能力の範囲内であるといえる。
以上から,引用発明において,強磁性自由層を積層構造とし,その第一の強磁性膜の厚さt1と前記第二の強磁性膜の厚さt2の比(t2/t1)の最適な範囲として,0.4から1.0とすることは,当業者が適宜なし得たことといえ,相違点2に係る本願発明の構成は,当業者が適宜なし得た範囲に含まれるものである。

ア 周知例3:特開2006-108316号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2006-108316号公報(以下「周知例3」という。)には,図2とともに以下の記載がある。

・「【0072】
(実施例1)
厚さ0.575mmのシリコン基板上に,厚さ2μmの熱酸化膜を形成し,その上に図2に示した構成の記憶素子3を形成した。
具体的には,図2に示した構成の記憶素子3において,各層の材料及び膜厚を,下地膜11を膜厚3nmのTa膜,反強磁性層12,20を膜厚20nmのPtMn膜,第1の磁化固定層31を構成する強磁性層13を膜厚5nmのCoFe膜,トンネル絶縁層となる絶縁層14を膜厚0.5nmのAl膜を酸化した酸化アルミニウム膜,積層フェリ構造の記憶層32を構成する強磁性層15,17を膜厚2nmのCoFe膜,積層フェリ構造の記憶層32を構成する非磁性層16を膜厚3.6nmのRu膜,非磁性スペーサ層18を膜厚6nmのCu膜,第2の磁化固定層33を構成する強磁性層19を膜厚2.5nmのCoFe膜,キャップ層21を膜厚5nmのTa膜と選定し,また下地膜11と反強磁性層12との間に図示しない膜厚100nmのCu膜(後述するワード線となるもの)を設けて,各層を形成した。
上記膜構成で,PtMn膜の組成はPt50Mn50(原子%),CoFe膜の組成はCo90Fe10(原子%),NiFe膜の組成はNi80Fe20(原子%)とした。
酸化アルミニウム膜から成る絶縁層16以外の各層は,DCマグネトロンスパッタ法を用いて成膜した。
酸化アルミニウム(Al-O_(x))膜から成る絶縁層16は,まず金属Al膜をDCスパッタ法により0.5nm堆積させて,その後に酸素/アルゴンの流量比を1:1とし,チャンバーガス圧を10Torrとして,自然酸化法により金属Al層を酸化させた。酸化時間は10分とした。
さらに,記憶素子3の各層を成膜した後に,磁場中熱処理炉で,10kOe・270℃・4時間の熱処理を行い,反強磁性層12,20のPtMn膜の規則化熱処理を行った。」

イ 周知例4:特開2003-152239号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2003-152239号公報(以下「周知例4」という。)には,以下の記載がある。

・「【0046】
【実施例】…(中略)…
(実施例1)図5に示すように,本発明による第1実施例のボトム型スピンバルブ膜100を作成した。ここで,図5は,図3に示す構造に適用可能なスピンバルブ膜100の拡大断面図である。下部シールド兼下部電極層52上に,下層から上層に順に,厚さ5nmのTaと厚さ2nmのNiFeからなる下地層102,厚さ15nmのPdPtMnからなる交換結合層104,厚さ3nmのCoFeBからなるピン強磁性層106,厚さ4nmのCuからなる非磁性中間層108,厚さ5nmのフリー強磁性層120,厚さ1nmのCuと厚さ10nmのAuからなる電極110とを積層した。
【0047】フリー強磁性層120は,厚さ1.5nmのCoFeBからなる強磁性金属層としての第1のフリー強磁性層122,厚さ2nmのCuからなる非磁性金属層124,厚さ1.5nmのCoFeBからなる強磁性金属層としての第2のフリー強磁性層126とを有する。
(実施例2)…(後略)…」

ウ 周知例5:特開2005-150482号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2005-150482号公報(以下「周知例5」という。)には,以下の記載がある。

・「【0016】
また,記憶セルの厚みを低減すれば,反転電流と電流密度は共に減少するが,記憶層(磁化自由層)に隣接する上下の膜との界面反応等を考慮した実用上の下限厚み(2nm程度)まで減らしても,まだ不十分であり,しかも,膜厚をこれ以上に大幅に低減させることは困難である。
【0017】
以上のような記憶セルの面内サイズ又は膜厚の減少は,記憶セルの体積Vを減少させることとなり,従ってメモリセルの磁気異方性エネルギーK_(u)Vを低下させ,その結果,熱揺らぎ耐性(K_(U)V/k_(B)T)を低下させることとなるため,望ましくない。反転電流はメモリセル体積にほぼ比例するため,体積を一桁減らせば反転電流も一桁低減できる。しかし,熱揺らぎ耐性も一桁下がってしまい,磁気メモリとして必要とされているK_(U)V/k_(B)T300K>60を維持することが困難となる(K_(U):単位体積当たりの磁気異方性エネルギー,k_(B):ボルツマン定数,T:温度,一般には300K)。」

エ 周知例6:特開2006-80385号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2006-80385号公報(以下「周知例6」という。)には,以下の記載がある。

・「【0023】
スピン注入により記憶層の磁化の向きを反転させるために必要となる電流(反転電流)Icは,大まかには,記憶層の体積,飽和磁束密度,制動定数に比例し,分極率に反比例する。
一方,熱ゆらぎに対する情報保持特性は,記憶層の体積及び磁気異方性エネルギーが大きいほど良好になる。
従って,熱に対する情報保持特性を維持しながら記録電流を下げるには,飽和磁束密度と制動定数を下げ,磁気異方性エネルギーと分極率を上げればよい。」

オ 周知例7:特開2002-151758号公報
本願の出願前に日本国内において頒布された特開2002-151758号公報(以下「周知例7」という。)には,以下の記載がある。

・「【0014】磁気ディスク装置において,熱揺らぎに対して安定となる目安は,磁気記録媒体の結晶粒の体積をV,媒体材料の異方性エネルギー定数をKuとすると,
Ku ・V / k・T > 80 (1)
であると言われている。(1)式は磁気記録媒体だけではなく,記憶素子あるいは再生素子に用いられている強磁性体にも拡張することができる。強磁性トンネル磁気抵抗効果膜について考えてみると,固定層は保磁力の大きな材料を用いるか,あるいは反強磁性体との交換結合によってその磁化の方向が拘束されており,異方性エネルギー定数としては大きいので,熱揺らぎに対しては安定である。一方,自由層は,外部磁界によってその磁化が回転することが必要であるから,異方性エネルギーを大きくすると磁化が回転し難くなるため,適度な大きさに保つ必要がある。従って,(1)式を満足するためには,自由層の体積Vを大きくする必要がある。ところが,前述のように強磁性トンネル磁気抵抗効果膜は小サイズ化が必要であることから,自由層の面積 S は小さくなるので,ある体積 V を確保するためには膜厚 t を厚くする必要がある。しかし,膜厚 t を厚くすると,自由層の飽和磁化 M_(s) との積である磁化量 M_(s)・t が大きくなるので,磁界に対する感度が鈍くなるという問題が生じる。
【0015】熱揺らぎ安定性を確保しつつ,なおかつ磁界感度を向上させるためには,同じ体積 V で自由層の磁化量 M_(s)・t を小さく保つことが必要であり,これは,自由層が強磁性層と中間層の多層構造からなり,中間層を介して隣接する強磁性層の磁化を反強磁性的に配列させることにより実現できる。このとき,(1)式は,自由層の平均の異方性磁界を H_(k) ,平均の飽和磁化を M_(s),自由層を構成する各強磁性層の体積の和を V_(ferro) とすると,
H_(k)・M_(s)・V_(ferro) / 2 > 80・k・T (2)
ここで,k:ボルツマン定数,T:強磁性トンネル磁気抵抗効果素子の温度と書き換えることができる。」

(3)判断についてのまとめ
以上検討したとおり,本願発明は,当業者における周知の技術事項を勘案することにより,引用発明及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

7 むすび
以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-06-28 
結審通知日 2013-07-02 
審決日 2013-07-16 
出願番号 特願2006-122146(P2006-122146)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 羽鳥 友哉  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 西脇 博志
加藤 浩一
発明の名称 トンネル磁気抵抗効果素子、それを用いた磁気メモリセル及びランダムアクセスメモリ  
代理人 平木 祐輔  
代理人 渡辺 敏章  
代理人 渡辺 敏章  
代理人 関谷 三男  
代理人 平木 祐輔  
代理人 関谷 三男  

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